輸液の使い方・輸液製剤

薬理学

輸液の基礎

成人の体液の約60%は水で、そのうち40%が細胞内液、15%が組織間液、5%が血漿8:3:1やさいの法則)である。ただし、新生児は細胞液が多く(40%)、高齢者は細胞液が少ない(30%)ため両者とも脱水が起こりやすい

摂取・投与した水分は浸透圧差(低→高)によって血漿→組織間液→細胞内液の順に拡散していく。具体的には、血漿中にはアルブミンなどの高分子が存在し、組織間液⇔血漿の体液の移動を規定する(膠質浸透圧差)。また、細胞内外の電解質の違いにより、細胞内⇔組織間液の体液の移動を規定する(血漿浸透圧差)。

細胞膜は半透膜より少し穴が大きいため水だけでなく尿素も通す。よって細胞膜を介して水を移動させる力を張度(有効浸透圧)といい、血漿張度(mOsm/L)=2(Na+K)+Glu/18で表せる。

輸液の種類

輸液製剤の分類

晶質液(しょうしつえき):電解質や糖を含む輸液(血漿浸透圧を有する輸液)

膠質液(コロイドを含む液):電解質や糖に加えて高分子も含む輸液(膠質浸透圧を有する輸液)

①電解質輸液製剤
(晶質液)
①単一電解質輸液製剤(硫酸Mg補正液など)
複合電解質輸液製剤等張:生食、低張:1〜4号)
②栄養輸液製剤
(晶質液)
①単一製剤(糖、アミノ酸、脂肪)
②複合製剤(PPN、TPN)
③特殊輸液製剤
(膠質液)
血漿増量剤、アルブミン製剤 作用時間は2〜3時間のため、輸血までのつなぎとして使用する

代表的な複合電解質輸液製剤

  別名 Na K Cl 乳酸 Glu 適応
生理食塩水 細胞外液 154 0 154 0 0% 低・等張性脱水、ショック
喪失した血液量=細胞外液を補充
乳酸リンゲル 細胞外液 130 4 109 28 0% 低・等張性脱水、ショック
喪失した血液量=細胞外液を補充
1号液 開始液 90 0 70 20 2.6% 腎不全
①=生食:5%ブドウ糖=1:1
3号液 維持液 35 20 35 20 4.3% 1日に必要な水分&電解質を維持
③=生食:5%ブドウ糖=1:3(+K)
喪失した尿量=3号液を補充(1mL/kg/hr)
5%Glu液 自由水※ 0 0 0 0 5% 高Na血症、高張性脱水(細胞内脱水)

※自由水=細胞内外を自由に通過できる水、ブドウ糖は電離しないので%を使用

輸液投与時の水分分布

  細胞内分布 間質分布 細胞外液分布
生食(500mL) 3(375mL) 1(125mL)
5%グル(500mL) 8(333mL) 3(125mL) 1(42mL)
1号液(500mL) (約150mL) (約260mL) (約90mL)
3号液(500mL) (約215mL) (約215mL) (約70mL)

輸液の選択

①輸液の適応

投与目的 補充輸液 不足している水分や電解質を補う=崩れている体液バランスを是正する
  維持輸液 1日で失われる水分や電解質を補う=現在の体液バランスを保つ
  両方 体液評価+排液量を計算
禁忌 輸液禁忌 右室の拡大、左室収縮能低下、肺エコー両側多発Bラインがある場合

②補充輸液

①どこが不足しているか? 細胞内液 or 細胞外液
②何が不足しているのか? 水or電解質or糖
③どの程度不足している?  
血管内脱水 頻脈、血圧低下(起立性低血圧)、冷感(末梢循環不全)
細胞内脱水 高Na血症
循環血液量減少 ショック、熱傷、膵炎

③維持輸液(ストレスや侵襲なく単なる絶飲食)

製剤 3号液(ソルデム3A®、ソリタT3®など)※ソルデム3と間違えないように
理由 人間が生きていくのに1日に必要な水分30kg/kg、Na 2mEq/kg、K 1mEq/kg、ブドウ糖100g(これ以下だと蛋白異化が進行し、ケトーシスが生じる)を含むよう設計されたのが3号液なのだ、が、長期絶食になるなら栄養輸液製剤を要検討
実際は? 実際は発熱、疼痛、手術侵襲によりストレス下におかれADH分泌が亢進し、自由水の再吸収が促進され、3号液のみだと相対的に水分過剰となり低Na血症をきたすことがある。よって、実際は細胞外液に近い輸液を行うことが多い
例)1000mL細胞外液+1000mL3号液+ビタメジンなど
点滴速度 80mL/hr(1滴/2秒)=500mLを約6時間かけて投与
終了時期 嚥下機能に問題ないことを評価して食事摂取を開始したら、食事摂取量に合わせて輸液量を漸減して終了する

④維持輸液+補充輸液

必要輸液量(InOutバランス)の詳細は栄養療法を参照〜

Step1 1日に必要な維持輸液の量は?

  1日に必要な維持輸液の量
①輸液量の公式 必要輸液量=(尿量+排便+不感蒸泄+その他)ー(食事飲水量+代謝水)
②絶飲食時輸液量 約30mL/kg/日≒(1000mL+200mL+700mL)ー(0mL+200mL)
高齢者の場合 加齢により腎機能が低下している場合があるため輸液量は減量することあり
③必要電解質量 Na 60〜100mEq/日(食塩約6g)、K 40〜60mEq/日(KCl 約3g)
  電解質、特にKは採血で評価しながら調節する

Step2 過去の喪失分より不足している水分量を評価して補正輸液を追加

  評価方法 補正方法
細胞内液欠乏量(L) (血清Na-140)/140×体重×0.6 3〜5日間かけて5%ブドウ糖で補正
細胞外液欠乏量(L) 血圧、脈拍、尿量で評価 細胞外液で補正

Step3 今後予想される喪失分を評価して補正輸液を追加

発熱 体温1℃上昇につき不感蒸泄が15%上昇する
嘔吐・下痢・多尿 喪失分を予測してあらかじめ輸液負荷を行う
ドレーンからの排液 胃液、胆汁、腸液など喪失分を予測してあらかじめ輸液負荷を行う

Step4 最終的な輸液選択

1日の輸液量 =「①1日に必要な維持輸液量」+「②過去の喪失分」+「③今後の喪失分」
実臨床の輸液量 =1日の輸液量×0.8程度
フォロー バイタルや採血結果を見て維持輸液が適切か評価

実際に輸液を使ってみよう!

予備知識

メインとは 通常500mLや1000mLの輸液製剤のことを指す
5%ブドウ糖液 ゴプロツッカー、ゴパグルと言われることが多い
輸液ポンプ使用 K補正、3%食塩水、GI療法、CV、化学療法のとき
シリンジポンプ使用 インスリン持続投与、NAd持続投与など正確に速度調整が必要なとき

留置針の選択

18G ショックなど大量輸液が必要な場合、造影剤を急速投与する造影CTの場合
20G 成人の輸液・輸血で使用、ショックの時も許容範囲
22G 成人の輸液で使用(輸血もギリギリ可能)
24G 小児のライン確保で使用

点滴速度

成人用:20滴/mL、小児用:60滴/mL

簡易計算式:{輸液総量(mL)/投与時間(hr)}÷3=?滴/分

ボーラス投与:だいたい500〜1300mL/hrくらいになる

45mL/h 15滴/分 2-3滴/10秒 1滴/4秒
90mL/h 30滴/分 5滴/10秒 1滴/2秒
180mL/h 60滴/分 10滴/10秒 1滴/秒
270mL/hr 90滴/分 15滴/10秒 3滴/2秒
360mL/hr 120滴/分 20滴/10秒 2滴/秒
540mL/hr 180滴/分 30滴/10秒 3滴/秒

救急での患者のライン確保

製剤 細胞外液(生食、ラクテック®、ソルアセトF®など)
点滴速度 80mL/hr(1滴/2秒)
注意点 生食を大量投与すると、①Clの上昇によりRAA系低下により尿量が減少する可能性、②pH7.0なので高Cl性アシドーシス高K血症になる可能性がある

うっ血性心不全

製剤 うっ血性心不全と判明したら5%ブドウ糖液に切り替え
理由 心不全、腎不全、肝不全では容易に体内水分が増加し、うっ血性心不全だけでなく、浮腫の増悪、腹水・胸水の貯留が起こるため
点滴速度 20mL/hr(1滴/9〜10秒):バイタル安定していれば水分少なめに抑える

腎不全患者(eGFR15以下)のライン確保

製剤 1号液(ソルデム1®、デノサリン1®、ソリタT1®など)
理由 NaやKを投与したくないため(ただし、明らかに血管内脱水があれば外液を選択)
点滴速度 40mL/hr(1滴/4〜5秒)

高Na血症の患者の点滴

製剤 高Na血症が判明したら5%ブドウ糖液に切り替え
点滴速度 80mL/hr(1滴/2秒)

経口補水製剤

経口補水療法の適応:中等症までの脱水 経口補水液はスポーツドリンクや果汁と比較して、以下が特徴である。 ①Na濃度が高く(35〜75mEq/L) ②糖濃度は低い(1.35〜2.5%) ③浸透圧も低い(200〜250mOsm/L) ④Kは維持量程度(20mEq/L)含まれる

商品名 Na(mEq/L) K(mEq/L) Cl(mEq/L) 炭水化物(%) 浸透圧(mOsm/L)
OS-1 50 20 50 2.5 270
アクアライトORS 35 20 30 4 200

単一電解質輸液製剤(補正用電解質製剤)

Na製剤

一般名 先発名 特徴
塩化Na 塩化Na補正液 体内の水分・電解質の不足に応じて電解質補液に添加して使用

K製剤

【K製剤投与時のルール】

経口 60mEq/L/日以下で投与
静注 希釈して(40mEq/L以下の濃度)、ゆっくり投与し(20mEq/h以下)、大量に投与しない(100mEq/日以下)

一般名 先発名 特徴
塩化K KCL補正液 必ず希釈して40mEq/L以下にして使用
塩化K徐放剤 スローケー錠 徐放性により胃腸障害軽減
グルコン酸K グルコンサンK細粒/錠  
L-アスパラギン酸K アスパラカリウム散/錠/注/キット 組織移行性、体内利用性良好
K+Mg合剤 アスパラ配合錠 L-アスパラギン酸K+マグネシウム

Mg製剤

一般名 先発名 特徴
硫酸Mg 硫酸Mg補正液1mEq/mL  

Ca製剤

P製剤

一般名 先発名 特徴
リン酸二K  
リン酸水素Na リン酸Na補正液0.5mmol/mL  

Cl製剤

一般名 先発名 特徴
塩化アンモニウム  

アシドーシス補正用製剤

一般名 先発名 特徴
炭酸水素Na メイロン 8.4%は1mL中に1mEqのHCO3を含むため計算が容易
乳酸Na 乳酸Na補正液1mEq/mL  

複合電解質輸液製剤

等張電解質輸液(細胞外液補充液)

適応 低・等張性脱水、腎前性AKD、ショックなど
乳酸は肝で代謝されHCO3を生じ、アシドーシスを是正する。
酢酸は筋肉など全身で代謝されHCO3を生じ、アシドーシスを是正する。
重炭酸はHCO3そのものを添加し、アシドーシスを是正する。
注意 輸液量の1/4までしか血管に留まらない(3/4は組織間に移行)ため、それ以上は膠質液投与を考慮する。
細胞外液を多く投与する場合、うっ血性心不全、胸水、腹水に注意
【生理食塩水】
pH7.0のため大量投与でアシドース、低K血症に注意
Na含有量が多いため浮腫、肺水腫、高血圧、心不全に注意
分類 商品名
生理食塩水 生理食塩水(各社)
リンゲル液 リンゲル液「オーツカ」など(生理食塩水+K・Ca)
乳酸リンゲル液 ラクテックなど(血液アルカリ化のため乳酸添加)
  ソルラクトS輸液など ソルビトール加!
  ソルラクトD輸液など ブドウ糖加!
  ポタコールR輸液など マルトース加!
酢酸リンゲル液 ヴィーンF輸液、ソルアセトFなど(血液アルカリ化のため酢酸添加)
  ヴィーンD輸液など ブドウ糖加!
  フィジオ140輸液 1%ブドウ糖加!
重炭酸リンゲル液 ビカーボン輸液(血液アルカリ化のためHCO3を直接添加):手術時
  ビカネイト輸液

低張電解質輸液

自由水:細胞外液(生食水)=○:1の割合で混合(○号液)

例)3号液を1L輸液すると、自由水750mLは均等に細胞内に500mL、細胞外に250mLに分布し、細胞外液はそのまま250mL分布する。結果、細胞内外に500mLずつ分布する。

分類 商品名
1号液 ソリタT1号輸液、【後】ソルデム1輸液、リプラス1号輸液
(開始液) KN1号輸液、【後】デノサリン1輸液
2号液 ソリタT2号輸液
(1号液+K) KN2号輸液
  【後】ソルデム2輸液
3号液 10%EL-3号液、【後】ソルデム3PG輸液
(維持液) ソリタT3号輸液、【後】ソルデム3A輸液など
  ソリタT3G号輸液、【後】ソルデム3AG輸液
  リプラス3号輸液
  KN3号輸液、【後】ソルデム3輸液
  フルクトラクト注
  フィジオゾール3号輸液、【後】アステマリン3号MG輸液
  クリニザルツ輸液
  EL-3号輸液
  アクチット輸液、【後】アクマルト輸液など
  アルトフェッド注射液
  ソリタックスH輸液
  トリフリード輸液
  KNMG3号輸液
  フィジオ35輸液、【後】グルアセト35注
  ヴィーン3G輸液、【後】アセテート維持液3G「HK」、アセトキープ3G注
4号液 KN4号輸液、【後】ソルデム6輸液
(3号液ーK) ソリタT4号輸液
低張液 フィジオ70輸液

内服用複合電解質

先発名 特徴
ソリタT配合顆粒2号 Na 60, K 20, Mg 3, Cl 50, PO4 10M,クエン酸 20
ソリタT配合顆粒3号 Na 35, K 20, Mg 3, Cl 30, PO4 5M,クエン酸 20

膠質液

血漿増量薬

一般名 先発名 特徴
デキストラン 低分子デキストランL  
ヒドロキシエチルデンプン70000 ヘスパンダー
サリンヘス
血圧保持、血液粘度低下作用あり
【利点】頭蓋内出血に使用可能
【欠点】敗血症時の血圧低下には原則禁忌
ヒドロキシエチルデンプン130000 ボルベン 【利点】分子量7万製剤に比べて効果の持続が期待できる
【欠点】乏尿、無尿、頭蓋内出血には禁忌、敗血症時の血圧低下には原則禁忌

アルブミン製剤

アルブミン製剤血管内浸透圧を上昇させ水分を保持する。5%と25%どちらを投与しても増加する血管内Volumeは同じになる。

5%製剤
(等張アルブミン)
血液と同じ濃度であり、投与量がそのまま全て血中にとどまる。大量出血で輸液が間に合わないときに使用する。
25%製剤
(高張アルブミン)
血管内浸透圧が上昇するため、間質から水分を引き込むことができる。浮腫や腹水などから血管内に水分を引き込みたいときに使用する。

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