抗菌薬総論(検査→抗菌薬の使い方)

微生物学

抗菌薬の概要

抗菌薬は、PK/PD、感染臓器への移行性、副作用、MICなどを総合的に評価して選択する。
耐性菌についての対策はこちらを参照。

作用部位 抗菌薬
細胞壁合成阻害 βラクタム系、グリコペプチド系、ホスホマイシン
細胞質膜阻害 ダプトマイシン、ペプチド系、ポリエン系
蛋白合成阻害 アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系
DNA複製阻害 ニューキノロン系
RNA合成阻害 リファンピシン

抗菌薬の選択方法

感染症診断のおおかな流れ

【感染症トライアングル】

患者 どのような免疫状態の患者に(80歳男性、COPD)
感染部位 どの部位に(脊椎炎)
原因微生物 どのような微生物によるものか(黄色ブドウ球菌)
  上記を把握して抗菌薬を決定する!
抗菌薬 どの抗菌薬を、どれくらいの用量で、どのくらいの期間投与するか決める

①患者の把握

細胞性免疫不全 ・HIV:CD4低下
・ステロイド投与:MQ貪食能低下+CD4低下
液性免疫不全 ・腎臓病:免疫グロブリンの喪失
好中球低下 ・糖尿病:好中球の貪食能低下
・肝臓病:補体産生低下

感染症の診断

身体所見 発熱など
炎症反応 CRP、赤沈、プロカルシトニンなどの炎症性マーカー
画像所見 感染臓器の推定・確認
除外診断 悪性腫瘍、アレルギー疾患、膠原病、血液疾患、内分泌疾患など
病原体の検出 抗菌薬開始前に異なる部位から2セット以上採血し、血液培養などを実施

②病原体の検出

【病原体の確定】

常在菌が
混入しうる検体
喀痰、糞便、尿、開放的膿分泌液の場合、
検出菌=原因菌ではない。貪食されている菌、それがなければ検出菌量が多けれ菌が原因菌の可能性が高いと考える。
常在菌が
混入しない検体
胸水、腹水、血液、髄液、関節液、閉鎖的膿分泌液などの場合、
検出菌=原因菌となる。
穿刺部位 細菌検出率は動脈・静脈変わらないが、真菌検出率は動脈の方が高い。

【迅速検査】

咽頭ぬぐい液・喀痰 咽頭抗原検査(マイコプラズマ、COVID-19、インフルエンザウイルス)。
気管支肺胞洗浄(BAL)で採取。
すぐ検査しない場合は冷蔵庫(雑菌繁殖防止のため)。
尿 中間尿を採取し、すぐに抗原検査する(肺炎球菌、レジオネラ菌)。
検査をすぐ検査できない場合は冷蔵庫(雑菌繁殖防止のため)。
糞便 検体採取後、嫌気性菌は死滅するためすぐにグラム染色する(カンピロバクターなど)。
髄液(CSF) 髄液は保存できないため直ちに検査。

【培養検査】

血液培養 ①皮脂を取るためアル綿で拭く(皮脂があるとヨードが浸透しない)。
たっぷりのヨードで消毒し、2〜3分待つ!
2回採血(重症感染症は3回採血)必ず患者さんに事前に説明すること!
④採血した検体を好気性ボトルと嫌気性ボトルに半分ずつ入れて室温にて保存(冷蔵で細菌死ぬため)、培養検査室へ移送する。通常72時間後くらいに結果がわかる。
抗体測定 細胞外環境で発育しないウイルス、細胞内寄生菌に対して中和抗体の量を調べる。
【ペア血清】
病初期と回復期の血清を比較し、その抗体価が4倍以上の上昇を認めた場合、直近のウイルス感染があったと評価できる。
PCR 数日かかる。感度・特異度が高い。

③empiric therapy(初期治療)

病原体が確定する前に抗菌薬を用いる経験的治療のことをエンピリック治療といい、推定される原因菌に対する広域スペクトラムの抗菌薬を用いる。

グラム染色や抗原検査などの迅速検査で原因菌を予測できる場合は、より正確なエンピリック治療を行うことができる。

抗菌薬の選択は抗菌薬の特性、感染臓器への抗菌薬移行性、PK/PD、副作用を考慮して選択する。腎排泄型抗菌薬は腎機能障害がある場合でも、初回投与量は通常量投与しないと有効血中濃度に達しない点に注意!

抗菌薬の特性

  殺菌的 静菌的
詳細 生体に寄生した病原菌を殺滅すること。重症患者や免疫不全者では第一選択薬。 生体に寄生した病原菌の発育増殖を抑制し、宿主の免疫系によって病原菌を排除すること。発育を抑制するだけなので、病原菌が排除される前に投与中止すると感染症が再発する場合がある。
薬物 βラクタム系
アミノグリコシド系
ニューキノロン系
リポペプチド系、ポリペプチド系
アミノグリコシド系以外の蛋白合成阻害薬
ホスホマイシン系
サルファ剤・ST合剤

抗菌薬の臓器移行性

  移行性が高い抗菌薬
マクロライド系ニューキノロン系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系
肝・胆汁 マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、ペニシリン系(ピペラシリン)、セフェム系(セフォペラゾン、セフブペラゾン、セフピラミド、セフトリアキソン)
腎・尿路 ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系、グリコペプチド系
前立腺 ニューキノロン系
髄液 クロラムフェニコール、ペニシリン系、カルバペネム系、ニューキノロン系、セフェム系(セフトリアキソン、セフォタキシム、セフタジジム、ラタモキセフ)
食細胞 マクロライド系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系

PK/PD理論からみた抗菌薬の分類

PK(薬物動態学:抗菌薬の血中濃度)とPD(薬力学:抗菌薬がそのものが持つ抗菌力=MIC)によって表される抗菌薬の効果を分類したもの。

パラメーター 説明 代表薬
①濃度依存性抗菌薬
(Cmax/MIC)
濃度依存的に効果が現れる抗菌薬で、副作用が出ないギリギリの血中最高濃度(Cmax)まで投与するのが一番治療効果的にも耐性菌出現予防にも良い。
MICより高い程度だと耐性菌が出現しやすいため、MPC(耐性菌出現阻止濃度)まで投与量を増やすことが肝要である。
アミノグリコシド系
ニューキノロン系
アムホテリシンB
②時間依存性抗菌薬
(Time above MIC)
時間依存的に効果が現れる抗菌薬で、細胞壁や細胞膜に作用する抗菌薬はこれに該当する。その理由として、この種の抗菌薬は細胞壁や膜の合成を阻害するだけで、DNA複製やタンパク合成は阻害しないため細菌は時間が経てば酵素を作って増殖が可能となる。そのためMICを超える量の抗菌薬を1日複数回投与することで時間依存的に効果が現れる。また、濃度を増加させても殺菌作用は変わらないのも特徴。 βラクタム系
ホスホマイシン系
葉酸合成阻害薬
フルシトシン
③PAEを持つ時間依存性抗菌薬
(AUC/MIC)
こちらも時間依存的に効果が現れる抗菌薬で、リボソーム機能を阻害する抗菌薬がこれに該当する。②と異なる点は、PAEを持つという点。後抗菌薬作用(PAE:Post Antibiotic Effect)とは、体内から薬物が消失した後も病原菌の増殖抑制効果を示すため、MIC以下の濃度でも菌を殺せる効果のこと。MIC以下でも菌を殺せる理由は、一度DNA複製やタンパク合成を阻害すれば、常に投与し続けなくても細菌の増殖を抑制することができるため。よって、この種の抗菌薬は投与回数が少なくても効果を発揮できる特徴がある。 マクロライド系
テトラサイクリン系
ストレプトグラミン
バンコマイシン
フルコナゾール

抗菌薬の多くは極性の高い化合物なので、主に腎臓から排泄される。そのため、腎機能低下している患者への投与には減量が必要。TDMは血中濃度と薬効・副作用の発現に相関がある場合に行われる。

副作用

各抗菌薬の副作用については各抗菌薬を参照。

④原因菌の薬剤感受性(抗菌スペクトラムとMIC)

希釈法 【最小発育阻止濃度(MIC)】
種々の濃度の薬物を含む培地で細菌を24時間培養し、当該菌の発育を阻止するために必要な最小の薬物濃度のこと。この値が小さいほど当該菌に対する抗菌力が強い。ただし、MICが1段階しか違わない場合は誤差の可能性がある。抗菌薬は臓器移行性良い、副作用が少ないものなどから選択する。
【抗菌スペクトル】
MICに基づいて、抗菌薬の病原菌に対する作用範囲を求めたもの。
ディスク法 培地上に抗菌薬を染み込ませたディスクを置き、その周囲にコロニーが形成されなければ薬剤感受性ありと判断できる。簡易的なのでMIC測定ができない中小の病院で行われる。

【MICとMBCの違い】

MIC(最小発育阻止濃度) この濃度以上では供試菌が発育しないが、その濃度細菌が死んでいるとは限らない
MBC(最小殺菌濃度) この濃度以上で細菌が死滅する最小限度濃度

⑤definitive therapy(最適化治療・標準治療)

菌名と感受性判定後に適正な抗菌薬に変更する。これによって、コストや耐性菌発現リスクの低減、患者予後の改善が得られる。培養結果を踏まえ、より狭いスペクトラムの抗菌薬に変更する治療法をDe-escalationという。

デエスカレーション治療:広域スペクトラム抗菌薬→可能なら標準治療に変更
エスカレーション治療(重症度が高くなく、耐性菌のリスクない場合):狭域スペクトラム抗菌薬→無効なら広域へ変更

菌種別推奨抗菌薬

グラム陽性球菌

  1st 2nd
黄色ブドウ球菌 第1世代セフェム VCM、TEIC
MRSA バンコマイシン ABK、LZD、TEIC
市中型MRSA バンコマイシンなど  
表皮ブドウ球菌 バンコマイシン RFP+ST
A群レンサ球菌 PCG 第1世代セフェム
腸球菌 PCG VCM

コメント

  1. […] PK-PDからみた抗菌薬の分類 […]

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