免疫学・アレルギー

免疫学

免疫応答のあらまし

第一階層

物理的障壁

上皮細胞同士の密着結合、線毛運動、粘液分泌

化学的障壁

【抗菌ペプチド】

小腸パネート細胞・気道上皮細胞・好中球がディフェンシン、カテリシジンといった殺菌作用の持つペプチドを産生・分泌する。粘液中にはグラム陽性菌の細胞壁を破壊するリゾチーム、グラム陰性菌の細胞壁リン脂質を分解するホスホリパーゼ、細菌増殖に必要な遊離鉄を奪うトランスフェリン、ラクトフェリンが存在する。

【キニン系の活性化】

ブラジキニンを活性化し、血管拡張させることで免疫防御機構に働く物質を感染部位に集める。

【凝固系の活性化】

炎症性サイトカインは凝固系を活性化し、フィブリン網により細菌が封じ込められる。

【補体系】

補体とは肝臓で合成され、連鎖反応によってあらゆる細菌を排除する血漿タンパク質(C1~C9)のこと。補体の作用は、溶菌・オプソニン化・炎症促進である。

補体上昇 炎症(感染症、熱傷、悪性腫瘍、膠原病など)
補体低下 ①補体の消費亢進(多くはⅢ型アレルギーの急性期)
・膠原病:SLEクリオグロブリン血症悪性リウマチなど
・腎疾患:急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎
・血液疾患:DIC、血清病など
・遺伝性血管神経性浮腫
・コレステロール塞栓症
②補体の産生低下
・肝硬変
・先天性補体欠損症

微生物学的障壁

正常なマイクロビオーム(正常細菌叢)

第二階層(自然免疫)

病原体に対して先天的・遺伝的に決定された特性を持つ免疫。

NK細胞

NK細胞は通常血中に存在し、血中や組織に存在する細胞表面のMHCクラスⅠの発現低下を認識すると、細胞障害活性・INFγ産生によりウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃する。

細胞障害活性:パーフォリンによって細胞膜に穴を開ける。グランザイムもしくはFas/FasLによってカスパーゼを活性化する。これらの結果、ウイルス感染細胞やがん細胞にアポトーシスを誘導する。また、これらの細胞に抗体が結合している場合はADCCによりアポトーシスを誘導する。

INFγ産生:マクロファージを活性化し、細胞外ウイルスの貪食を促進させる。

インターフェロンの作用

インターフェロンは、サイトカインの一種で免疫系の情報伝達に用いるタンパク質である。

種類 産生細胞 IFNが受容体に結合した後の作用
1型IFN IFN-α、β α:樹状細胞
β:ウイルス感染細胞
①全ての細胞でウイルス複製阻害分子を誘導
②NK細胞を活性化③CTLを誘導
ウイルス排除に働く
2型IFN INF-γ Th1、NK細胞、CTL、MΦ MΦなどを活性化し、
細胞内寄生病原体の排除に働く

好中球・マクロファージ

好中球やマクロファージは、パターン認識受容体(PRR)やオプソニン化を認識する受容体に結合した異物を貪食し、細胞内のリソソームで分解する。ファゴソームから細胞質に抜け出した病原体はオートファジーで分解される。

異物がパターン認識受容体に結合するとシグナル伝達が起こり、IL-1・IL-6・IL-8(CXCL8)・LI-12・TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生が促進され、局所+全身反応が起こる。

パターン認識受容体

動物細胞には通常存在しない分子パターンを認識する受容体のこと。ただし、ウイルス由来のペプチドは認識できないことに注意!

受容体 種類 存在部位 リガンド
TLR TLR1/6 細胞膜 細菌リポタンパク質
  TLR2 細胞膜 細菌ペプチドグリカン
  TLR4 細胞膜 細菌リポ多糖、真菌マンナン
  TLR5 細胞膜 細菌フラジェリン
  TLR3/7/8 エンドソーム膜 ウイルスRNA
  TLR9 エンドソーム膜 非メチル化CpGのDNA
RLR RIG-1/MDA5 細胞質 ウイルスRNA
NLR NOD1/2 細胞質 細菌ペプチドグリカン
CLR Dectin-1/2 細胞膜 真菌βグルカン・マンナン

炎症性サイトカイン

パターン認識受容体で異物を認識するとマクロファージなどは炎症性サイトカインを産生する。ちなみに、炎症サイトカインはTGF-βとIL-10やめてん、やめてん!)である。

炎症性サイトカイン 作用
IL-1 血管透過性亢進、体温上昇
TNF-α 血管透過性亢進、体温上昇
IL-6 体温上昇、CRP(急性相タンパク質)産生
IL-8 ケモカイン(好中球の遊走作用)
IL-12 NK細胞+樹状細胞活性化

第三階層(獲得免疫)

獲得免疫は、遺伝的に規定されず後天的に獲得される免疫で、抗原特異性・多様性・自己寛容・免疫記憶という特徴を持つ。

遺伝子再構成(遺伝子再編成)

遺伝子再構成とは、限られたコード領域から多様な免疫グロブリン(もしくはTCR)の可変領域遺伝子が作られることである。具体的には、H鎖の可変領域の遺伝子群はV/D/Jの3つ、L鎖の可変領域の遺伝子群はV/Jの2つのグループに分かれている。B細胞やT細胞では、分化する途中でRAGによる部位特異的組み換えが起こり、各グループからエクソンがランダムに1つずつ選ばれ結合し、可変領域の遺伝子が生成する。この選択の多様性によって多様なアミノ酸配列が生成する。

MHC(主要組織適合遺伝子複合体)

MHCはエピトープを提示する細胞表面タンパク質で、多様性に富んでいるため他人と一致することはほぼない。

  MHCクラスⅠ MHCクラスⅡ
機能 内在性の抗原を提示 外来性の抗原を提示
所在 赤血球を除く有核細胞+血小板 マクロファージ、樹状細胞、B細胞
構造 α1~3+β2ミクログロブリン α1~2+β1~2
HLAの種類 A、B、C DP、DQ、DR

B細胞

クローン選択説

クローン選択説とは、抗原に適した抗体を産生するB細胞のみが増殖するという説。

B細胞が分化し、液性免疫が発現するまでの流れ

液性免疫とは抗体が中心となる免疫反応のことである。

対立遺伝子排除 アレルの排除により結合活性の強い均一なB細胞受容体(Ig)が発現する。そのため、1種類のB細胞は1種類のIgしか作らない。
クラススイッチ AID(活性化誘導シチジンデアミナーゼ)によって定常領域の遺伝子に部位特異的相同組み換えが起こるとIgM→IgG・IgA・IgEに置き換わる。
体細胞高頻度変異
(体細胞超突然変異)
AIDによって可変領域の遺伝子に頻繁な点突然変異が起こること。その結果、エピトープとの親和性がさらに高いIgを発現するクローンが選択的に増殖する(クローン選択説)。

抗体の構造と作用

抗体の役割は中和・オプソニン化・補体活性化・NK細胞のADCC促進である。可変領域で抗原を認識するが、非常に似た構造にも認識する(交差反応)。

抗体そのものが持つエピトープ(例えば抗原結合部位など)のことをイディオトープといい、この部位に結合する抗体を抗イディオタイプ抗体という。

種類 作用
IgM 補体活性化。B細胞表面受容体。半減期5日程度。最近の感染を意味する。
IgD 好塩基球活性化。B細胞表面受容体。
IgG 中和、オプソニン化、補体活性化、NK細胞のADCC促進。
胎盤通過性あり。半減期1か月程度。感染の既往を意味する。
IgA 中和。上皮細胞を通過し粘液中に分泌される。母乳に含まれる。
IgE マスト細胞(肥満細胞)や好塩基球を活性化し、寄生虫防御に働く。半減期2日程度。

T細胞が分化し、細胞性免疫を発現するまでの流れ

細胞性免疫とはCTLやマクロファージが直接細胞を破壊する免疫反応である。Tリンパ球はCD3を持つ。胸腺は加齢とともに退縮するが、末梢で記憶T細胞が長期生存するため免疫には影響ない。

  産生サイトカイン サイトカインの機能
Th1細胞 IL-2 CD8ナイーブT細胞→CTLへ分化誘導。NK細胞活性化。
  IFN-γ MΦの活性化
Th2細胞 IL-4 IgG・IgEの産生。特にIL-4多量に産生されるとIgE↑
Treg IL-10 T細胞、MΦ、樹状細胞の機能抑制。

免疫寛容(自己抗原に対して免疫系が反応しない状態)

免疫寛容とは、自己抗原に対して免疫系が反応しない状態である。免疫寛容は破綻すると自己免疫疾患を引き起こす。自己免疫疾患の発症メカニズムはわかっていないものが多く、根本的治療がないのが現状である。

中枢性トレランス

胸腺で自己反応性T細胞が排除される。また、骨髄ではB細胞が分化成熟する際に、自己反応性B細胞が排除される。

末梢性トレランス

  ①~③によって末梢に存在する自己反応性リンパ球を不活性化する。
①Treg Tregは抑制性表面分子であるCTLA-4を発現し、B7とCD28の共刺激を阻害する。また、Tregは抑制性サイトカインであるIL-10やTGF-βを産生する。
②アナジー 共刺激を伴わず抗原提示を受けたT細胞は以後の刺激に反応しなくなる。
③Fas経路 FasLが活性化されたT細胞に発現し、Fasと結合しアポトーシスを誘導する。

アレルギー

アレルギーとは過度な免疫反応によって生体に不利に働くことである。

  Ⅰ型(液性免疫) Ⅱ型(液性免疫) Ⅲ型(液性免疫) Ⅳ型(細胞性免疫)
即時型
(30分以内)
細胞障害型
(数分~数時間)
免疫複合体型
(3~8時間)
遅延型
(1~3日)
機序 アレルゲンによってIgEが産生され、肥満細胞・好塩基球の脱顆粒によって炎症が引き起こされる。数時間後に好酸球が遊走。 細胞膜上の自己抗原にIgG・IgMや補体が結合し、それがマクロファージによって局所的に細胞が障害される。 抗原+抗体(IgG・IgM)+補体の複合体が全身の組織に沈着し、好中球によって全身の組織傷害が起こる。 抗原に感作されたT細胞(Th1)が抗原再暴露時に増殖・集積してマクロファージが組織を傷害する。
主な疾患 ・気管支喘息
・蕁麻疹の一部
・アトピー皮膚炎
・花粉症
・アレルギー性鼻炎
・AIHA
・ITP
・Goodpasture
・Rh不適合輸血
慢性甲状腺炎
・バセドウ病
・リウマチ熱
・SLE
・RA
・IgA血管炎
・過敏性肺炎
・クリオグロブリン血症
急性糸球体腎炎
・血清病
接触性皮膚炎
薬疹(SjSなど)

・GVHD
・ツベルクリン反応
・セリアック病
・過敏性肺炎(Ⅲ+Ⅳ)
検査 【In vivo】
スクラッチテスト
プリックテスト
誘発試験
【In vitro】
RIST
RAST
ヒスタミン遊離試験
【In vitro】
Coombs試験
抗体測定:ELISA
【In vivo】
Arthus反応
【In vitro】
免疫複合体測定
抗体測定:ELISA

【In vivo】
パッチテスト(無痛)
ツベルクリン皮内試験
【In vitro】

リンパ球刺激テスト

血清病

病態 Ⅲ型アレルギーが関与
症状 異種血清注射後7〜14日で発熱、皮膚症状(じんま疹様の発疹)、関節炎
検査
治療

食物アレルギー

病態 免疫学的機序の明らかな食物副反応。IgEが関与する場合が多い
小児では腸管の未成熟が病態に関与していると考えられており、成熟とともに改善することが多い。乳幼児期は鶏卵>牛乳>小麦、学童期以降は甲殻類や魚類の頻度も増えてくる
<7大食物アレルギー原因>
ホットケーキ:卵、牛乳、小麦
偉そうな蟹:エビ、落花生、そば、カニ
※卵アレルギーを有するものにインフルエンザワクチンを接種する場合は注意する!
症状 消化器症状、気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などを呈する
重篤な場合はアナフィラキシーショックとなる(喉頭浮腫による呼吸困難など)
検査 食物負荷試験(確定診断)
食物除去試験、特異的IgE抗体検査、プリックテスト
治療 抗アレルギー薬内服、アナフィラキシーショックの場合はアドレナリン筋注
予防 原因食物回避

【分類】

  発症時期 頻度の高い食物
乳児消化管アレルギー 新生児〜乳児 ミルク(IgE依存性)
多くは寛解する。
食物関連アトピー性皮膚炎 乳児 鶏卵、牛乳、小麦、大豆など
多くは寛解する。
即時型症状
→AF
乳児〜成人 乳幼児は鶏卵、牛乳、小麦など→寛解しやすい
学童期以降は甲殻類、魚類など
口腔アレルギー症候群(OAS) 幼児〜成人 果物、野菜など
寛解しにくい。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー 学童〜成人
(特に男性)
小麦甲殻類が多い(多くは摂取後2時間以内に起こる→予防のため食後2時間は運動禁止
寛解しにくい。

薬物アレルギー

皮膚科を参照。

自己免疫疾患

免疫不全患者に生ワクチン接種は禁忌である。

原発性免疫不全症

【主な原発性免疫不全症の分類】

  遺伝 血球× 特徴
DiGeorge症候群 常優 T細胞 22q11.2の欠失により、
胸腺欠損→細胞性免疫↓→ウイルス・真菌
②副甲状腺欠損→テタニー
③心血管奇形→Fallot四徴症
X連鎖無γグロブリン血症 X劣 B細胞 Btk遺伝子の変異によるB細胞分化障害により、
全ての免疫グロブリン↓
①抗体産生↓→化膿性菌感染
重症複合免疫不全症(SCID) X劣/
常劣
T・B細胞 主にADA欠損症(常劣)
①抗体産生↓→化膿性菌感染
②細胞性免疫↓→ウイルス・真菌・結核感染
Wiskott-Aldrich症候群
WAS
X劣 T・B細胞 細胞骨格形成などに関与するWASP蛋白の異常により、
①T・B細胞機能不全→易感染性→ウイルス・真菌・細菌感染
血小板↓→出血傾向・血便
難治性湿疹(アトピー様)
W:WBC↓、A:アトピー、S:出血(血小板↓)
毛細血管拡張性失調症 常劣 T・B細胞 ATM遺伝子異常(DNA修復遺伝子)により、
①T・B細胞機能不全→易感染性→ウイルス・真菌・細菌感染
②毛細血管拡張→結膜・皮膚
小脳失調→ふらつき
慢性肉芽腫症 X劣 好中球 好中球の活性酸素産生障害
①殺菌能↓→黄ブ・アスギルなどのカタラーゼ陽性菌感染
②活性酸素産生能↓→NTB色素還元能試験(ー)
チェディアック東症候群 常劣 好中球 好中球・メラニン細胞などの細胞内顆粒蛋白の輸送障害
①好中球遊走能↓→化膿性菌感染
②メラニン色素顆粒異常→部分的白子症
③顆粒球↓→巨大ペルオキシダーゼ陽性顆粒(青色)出現

続発性免疫不全症

AIDS、造血器腫瘍、ステロイド長期投与など

一つの臓器に限局した自己免疫疾患

神経・筋 ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、多発性硬化症
消化器 自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病
グッドパスチャー病
腎臓 急速進行性糸球体腎炎
血液 特発性血小板減少性紫斑病、巨赤芽球性貧血
内分泌・代謝 バセドウ病、橋本病、1型糖尿病
皮膚 乾癬、天疱瘡、類天疱瘡、円形脱毛症
原田病

他臓器に広がる全身性の自己免疫疾患

膠原病を参照。

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