黄色ブドウ球菌

微生物学

黄色ブドウ球菌の特徴

皮膚や粘膜(鼻腔・腸管など)に存在する体表常在菌。細胞外マトリックスに結合するため、創傷によって結合して体内に侵入する。

コアグラーゼ陽性:血液凝固作用により、凝固した血漿で菌体が包まれた状態になり宿主側の免疫作用から逃れる。そのため病原性が高い。
カタラーゼ陽性:過酸化水素の分解能あり。

常在菌が体内に侵入して起こす疾患 産生毒素によって起こる疾患
【皮膚軟部組織感染症】
毛包炎、蜂窩織炎、慢性中耳炎、麦粒腫
【血管内皮】
感染性心内膜炎
【血液】
敗血症、菌血症、カテーテル感染症
【腸管毒:エンテロトキシン】
毒素型食中毒
【表皮剥離毒素:ET】
水疱性膿痂疹→SSSS
【毒素性ショック症候群毒素:TSST-1】
毒素性ショック症候群(TSS)

常在菌が体内に侵入して起こす疾患

皮膚 毛包炎(せつ、よう、面疔)、ひょう疽(爪周囲の皮下蜂巣炎)
蜂窩織炎(毛包炎が皮下組織に移行したもの)
麦粒腫(ものもらい・めばちこ)
菌血症 インスリン注射やカテーテル感染
菌血症を確認したら必ず心エコーを行い、感染性心内膜炎がないか確認する。
心臓 急性の感染性心内膜炎
市中肺炎(膿胸、膿瘍)
骨・筋 化膿性骨髄炎、化膿性関節炎、化膿性脊椎炎、筋膿瘍
検査 鼻咽頭拭い液を行いMRSAのスクリーニングを行う。
治療 第1世代セフェム系(セファゾリン)、βラクタマーゼ阻害配合ペニシリン(スルバクタム+アンピシリン)
MRSAの場合:バンコマイシン点滴

毛包炎(毛嚢炎、おでき)

病態 毛包周囲の炎症で、癤(せつ)、癰(よう)がある。
せつが多発、または反復する場合は、糖尿病や免疫機能低下などを考慮する。
【せつ】1個の毛包を中心とした化膿性炎症(顔面のせつ=面疔:めんちょう)
【よう】多数の毛包に及ぶ化膿性炎症(=隣接した癤が融合したもの)
症状 【せつ】毛包を中心とした有痛性紅色結節
発赤・腫脹→化膿して膿疱・膿栓→自潰して排膿→自然軽快
【よう】せつと同じ。悪寒、発熱も伴う。
検査
治療 抗菌薬内服、膿瘍化したものに対して切開排膿

蜂窩織炎

皮膚科を参照。

麦粒腫(ものもらい、めばちこ、めぼ、めいぼ等方言あり)

病態 ツァイス腺・モル腺(外麦粒腫)、マイボーム腺(内麦粒腫)に黄色ブドウ球菌が感染して発症する急性化膿性炎症。
症状 ①眼瞼縁の発赤・腫脹・疼痛
検査 【身体検査】
視診:外麦粒腫は皮膚側から確認、内麦粒腫は眼瞼をめくって結膜側から確認
治療 抗生剤軟膏・点眼・内服、重症例では切開排膿

匐行性角膜潰瘍・細菌性結膜炎

眼科を参照。

慢性中耳炎

耳鼻咽喉科を参照。

市中肺炎

呼吸器内科を参照。

病態 インフルエンザなどでダメージを受けた気道粘膜から侵入し、感染巣を形成する(二次性肺炎)。感染巣は周囲組織を破壊し、空洞を形成して肺膿瘍や膿胸をもたらす(肺化膿症)。
症状 肺炎症状
検査 【画像検査】
胸部X線:気管支透亮像を伴う浸潤影、空洞形成、膿胸
治療 第1世代セフェム系(セファゾリン)、βラクタマーゼ阻害配合ペニシリン(スルバクタム+アンピシリン)
MRSAにはバンコマイシン、リネゾリドを投与。

化膿性骨髄炎

疫学 骨成長期の小児に好発。成人の骨髄炎の起因菌で一番多い
病態 多くは血行性に骨髄に感染し、主に長管骨の骨幹部に急性骨髄炎を起こす。(開放骨折や手術などで直接感染することもある)
症状  
検査  
治療  

化膿性脊椎炎

疫学 化膿性脊椎炎の原因菌で最も多い
病態  
症状  
検査  
治療  

化膿性関節炎

疫学 化膿性関節炎の原因菌で最も多い
病態 関節内への細菌感染により関節機能の障害や関節破壊をきたす疾患
症状 小児では股関節、成人では膝関節に好発する
検査 股関節穿刺
治療 切開排膿

(急性)感染性心内膜炎

循環器各論を参照。

MRSA腸炎 MRSA enteritis

病態 MRSAの感染が原因で発症する腸炎。胃切除後(MRSAは鼻粘膜や咽頭に常在するが通常胃酸で死滅するが、それが死滅せず小腸に移動)、第3世代セフェム系抗菌薬、PPI、H2ブロッカー投与後に発生しやすい。
症状 頻回のクリーム色がかった緑色水様便
検査 【画像検査】
内視鏡:主に小腸に発赤・浮腫を確認
【便培養】
コアグラーゼ陽性
治療 原因薬剤中止+バンコマイシン内服
①グリコぺプチド系薬:バンコマイシン、テイコプラニン
②アミノグリコシド系薬:アルベカシン
③オキサゾリジノン系薬:リネゾリド
④リポペプチド系薬:ダプトマイシン
マルシェにリゾットあるのが定番だってリド、アルベカシン、テイコプラニン、バンコマイシン、プトマイシン、ジゾリド

外毒素によって起こる疾患

水疱性膿痂疹(とびひ)→ ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)

疫学 乳幼児に好発、夏に多い
病態 水疱性膿痂疹
接触感染した黄色ブドウ球菌は表皮剥離毒素(ET)を産生し、ETはデスモグレイン1を切断し顆粒層と有棘層が分離し、
局所に弛緩性水泡を形成する。水疱は容易に破れて皮膚びらん→痂皮となる。水疱中には大量の黄色ブドウ球菌が存在するため、接触感染を繰り返すことで次々に拡大する(=飛び火)。
SSSS
血行性にETが
全身の皮膚に到達すると、まず、眼・口周囲や鼻入口部に弛緩性水疱を伴う紅斑が生じ、摩擦により容易に剝離してびらんを伴う紅斑となる。数日後に全身に広がり全身が火傷したように病変が広がる。
症状 ①発熱
②全身に拡大する皮疹紅斑弛緩性水疱びらん痂皮
③SSSSの場合、口・眼周囲の紅斑・放射状亀裂
皮疹が局所なら水疱性膿痂疹、全身ならSSSS
※デスモグレイン1のみ切断のため眼球結膜と口腔粘膜にびらん、出血などはない
検査 Nikolsky現象(+)
【水疱液培養】
水疱内に菌はいない(毒素が原因のため)
【皮膚生検】
水疱内に棘融解細胞(+)
治療 入院して第1世代セフェム系(セファゾリン)、βラクタマーゼ阻害配合ペニシリン(スルバクタム・アンピシリン)投与

毒素型食中毒

病態 調理人の手指や化膿巣に存在する黄色ブドウ球菌が付着した食品(おにぎり、仕出し弁当など)を摂取し、菌が産生する耐熱性のエンテロトキシンによって発症する。エンテロトキシンはスーパー抗原のため、血中に散布されると毒素性ショック症候群を起こすことがある。
症状 食後数時間後激しい嘔吐、腹痛、水様下痢(ただし発熱・血便は稀
検査
治療 対症療法で数日内に軽快する。毒素のため抗菌薬無効
予防 手指に傷のある人は調理をしない。エンテロトキシンは耐熱性毒素のため加熱無効

毒素性ショック症候群(TSS)

病態 ブドウ球菌のエンテロトキシンTSST-1スーパー抗原である。スーパー抗原とはT細胞を非特異的に活性化させ、多量のサイトカインを放出させる抗原である。これらの毒素が血中に散布され、突然に多彩な症状を伴いショックを呈する場合を毒素性ショック症候群(TSS)という。
【誘因】
月経時のタンポン使用に伴う黄色ブドウ球菌の子宮・腟への感染、手術創感染、外傷、皮膚軟部組織感染、インフルエンザ罹患後気管支炎・肺炎、分娩など
症状 突然に高熱、頭痛、全身性皮膚紅斑、低血圧を呈してショック状態
検査 【血液培養】
黄色ブドウ球菌を確認(検出率5%程度)
治療 抗菌薬投与、感染源の除去とコントロールなど

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