食中毒総論
食品衛生法により、食中毒は確定診断に至らなくとも「疑い」の時点で直ちに最寄りの保健所(保健所長)に届け出る必要がある。
患者は直前に食べたものを主に回想して答えるため、「5日前まで遡って,食べたものを教えてください」と根気強く聞き返す必要がある。
食中毒の潜伏期
ぶどう売る、美貌のサルも、カエル大(の大きさってことかな)
当日 | ブドウ球菌、ウェルシュ菌 |
翌日 | ビブリオ、ボツリヌス、サルモネラ |
2日後 | カンピロ、エルシニア、大腸菌 |
細菌性食中毒
毒素型食中毒
特徴として、①毒素が腸管上皮細胞を刺激し、発症まで数時間と早い②発熱・血便なし③抗菌薬が無効が挙げられる。また、菌の検出は困難。
原因菌 | 潜伏期間 | 原因食品 | 毒素 | 症状 | 加熱による予防 | 治療 |
ボツリヌス菌 | 12〜36時間 | 真空包装商品、辛子蓮根、蜂蜜 | ボツリヌス毒素(神経毒) | 胃腸症状→眼症状、嚥下障害、四肢麻痺 | 有効 | 抗毒素血清 |
黄色ブドウ球菌 | 約3時間 | 弁当、おにぎり | エンテロトキシン(耐熱性) | 激しい嘔吐+下痢腹痛 | 無効 | 輸液 |
セレウス菌(嘔吐型) | 1〜6時間 | 焼き飯、ピラフ | 嘔吐毒(芽胞+) | 激しい嘔吐 | 無効 | 輸液 |
感染型(生体内毒素型)
特徴として、①増殖して腸管内で毒素を産生し腸管上皮細胞を刺激する②原則、発熱なし。
原因菌 | 潜伏期間 | 原因食品 | 毒素 | 症状 |
セレウス菌(下痢型) | 6〜16時間 | 肉類加工食品、プリン | エンテロトキシン | 腹痛+下痢。 夏〜秋に多い。 |
ウェルシュ菌 | 6〜18時間 | カレー、シチュー | エンテロトキシン | 腹痛+水様便 |
腸炎ビブリオ | 約12時間 | 生魚介類 | 耐熱性溶毒素など | 上腹部痛+水様便+発熱。 夏に多い。 |
コレラ菌 | 1〜3日 | 海産物、生水 | コレラ毒素 | 重症では米のとぎ汁様便 |
毒素原性大腸菌(ETEC) | 12〜72時間 | 生水 | エンテロトキシン | 水様便+腹痛+嘔吐 (旅行者下痢症の主な原因) |
腸管出血性大腸菌(EHEC) | 3〜5日 | ハンバーガー、ユッケ、生乳 | ベロ毒素 | 激しい水様便→血便+激しい腹痛。 時にHUSを併発し、死亡する。O157は致死率が高い。 |
感染型(感染侵入型)
特徴として、①増殖する必要があるため発症までの時間が長い②増殖した菌が腸管上皮細胞を直接障害し、それに対して好中球が戦うため発熱する③治療は輸液+必要に応じ抗菌薬。
原因菌 | 潜伏期間 | 原因食品 | 機序 | 症状 |
腸管病原性大腸菌(EPEC) | 12〜72時間 | 不詳 | 上皮細胞に付着 | 水様便+腹痛+発熱 |
腸管組織侵入性大腸菌(EIEC) | 12〜48時間 | 不詳 | 上皮細胞に侵入 | 水様便→血便+しぶり腹+発熱(赤痢様症状) |
サルモネラ属菌 | 6時間〜3日 | 鶏卵、生肉 | 上皮細胞に侵入 | 水様便(時に血便)+腹痛+発熱+嘔吐 |
細菌性赤痢 | 1〜3日 | 果物、生水 | 上皮細胞に侵入 | 水様便→血便+しぶり腹+発熱 |
カンピロバクター | 2〜7日 | 鶏の生肉 | 上皮細胞に侵入 | まず発熱→水様便(時に血便)+腹痛 |
腸チフス・パラチフス | 10〜14日 | 果物、生水 | 上皮細胞に侵入 | バラ疹・肝脾腫→水様便(時に血便) |
ウイルス性食中毒
原因ウイルス | 潜伏期間 | 原因食品 | 症状 | 治療 |
ノロウイルス | 1〜2日 | 二枚貝の生食 | 水様便+嘔吐。冬に多い。 | 輸液 |
E型肝炎ウイルス | 6週間 | ジビエ肉の生食 | 発熱+嘔吐+腹痛 | 休養 |
寄生虫食中毒
サバに寄生するアニサキス、ヒラメに寄生するクドア・セプテンプンクタータ、馬肉に寄生するサルコシスティス・フェアリーなどがある。
自然毒による食中毒
動物性自然毒
- ふぐ毒(テトロドトキシンTTX):フグの卵巣や肝臓に多く存在し、食後30分〜3時間で症状が表れる。加熱は無効。対症療法のみ、呼吸困難には人工呼吸。
- 麻痺性貝毒・下痢性貝毒:ムラサキガイやホタテガイの中腸腺を摂取し、麻痺性貝毒の場合は食後30分、下痢性貝毒の場合は食後30分〜4時間で症状が出る。
植物性自然毒
- 毒キノコ:ツキヨタケが過半数。
- ジャガイモの芽:ソラニンが原因。ChE阻害作用を持ち、副交感神経作用と中枢神経作用
- 真菌による食品媒介:カビ毒素(マイコトキシン)によって起こる。
化学物質による食中毒
アレルギー性食中毒(ヒスタミン中毒)
ヒスチジン含有の多いサンマ、アジ、イワシなどの魚介類加工物にモルガン菌などが繁殖し、ヒスチジンが脱炭酸されてヒスタミンとなり、それを摂取して中毒を起こす。食後2時間後に症状を起こし、抗ヒスタミン薬投与が有効である。
有機化学物質混入による食中毒
水俣病水銀中毒、森永ヒ素ミルク中毒、カドミウムによるイタイイタイ病、PCBによるカネミ油症、中国餃子にメタミドホス混入など
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