インフォームドコンセント(IC)
ICの基礎
IC=十分な説明を受けたうえでの患者の自発的な承諾。医療法に基づき、医療従事者は十分な説明を行い、患者は理解・納得・同意・選択する必要がある。
説明すべき内容 | |
① | 病名、治療の目的・方法・予後・合併症など |
② | 検査や治療法などの医療行為の性質・危険性・利益 |
③ | 他の治療法があれば、その危険性と利益 |
④ | 何も治療しなかった場合の結果 |
ただし、例外として以下の場合は同意が不要。
① | 患者の同意を得る時間的余裕がないとき |
② | 患者が15歳未満の小児・精神障害者・認知症患者(代理人から同意を得る) |
③ | 医師に届出義務がある情報を届け出る場合 |
臨床上問題となりそうなIC
遺伝病 | FAPのような治療すれば改善されるような遺伝性疾患は、患者だけでなく血縁者全体の情報と捉えるべきであり、関係者に情報提供すべきである。 |
がん告知 | 検査の結果、がんが判明した場合、家族が患者に知らせないで欲しいと申し出があった。この場合、原則本人に告知する必要がある。ただし、告知によって過大な精神的打撃を与え、その後の治療の妨げになる場合(例:自殺未遂歴、うつ病)は他の医師と相談し慎重に判断する。患者を精神的に支える家族などには十分に説明を行う必要がある。 |
予測外の手術 | 手術中、偶然切除可能ながんを発見した場合、がん切除術を行ってもよいか? この場合、基本的には緊急性がない限り、ICをとってから再手術すべきである。 |
知的障害の患者 | 患者に判断能力がない場合、代諾者である家族の同意をとる必要がある(成年後見人は医療上の決定はできないことに注意)。家族がいない場合、倫理委員会で検討する必要がある。 |
エホバ患者の子供 | エホバの証人の子供(14歳以下)が輸血をしなければ生命の危機に陥る状況で、両親は輸血を拒否した。この場合、病院のガイドラインに従い、患者に輸血を行う。 |
同居人からの虐待 | 同居人からの虐待を診療で発見した場合、患者の同意を得て配偶者暴力相談センターもしくは警察に通報することができる。 |
高齢者虐待 | 本人は認めないが、虐待が疑われる所見を認めた。この場合、生命または身体に重大な危険が生じているならば市町村に通報しなければならない。 |
結核治療拒否 | 結核治療を拒否した場合、感染症法により強制的な入院措置をとることができる。医師は保健所に申し出て患者を強制入院させる必要がある。 |
不法滞在の結核患者 | 不法滞在の外国人患者が治療をして欲しいが通報はしないでくれと言われた場合、医師には守秘義務があり、保健所にも不法滞在とは言わず治療を進める方が良い。なぜなら、通報する制度があれば、結核患者が来院しなくなるためである。 |
HIV患者 | HIV陽性妊婦が配偶者にHIVのことを知らせないで欲しいと言った場合、母子感染のリスクもあり、配偶者の関与は不可欠であるため、患者にHIVに関するカウンセリングを行った上で配偶者に知らせるよう説得する。 |
高齢者の運転 | 75歳以上は免許更新時に認知症の検査を受けて、その疑いがある場合は診断書提出が義務付けられている。更新をクリアできても事故の多い高齢者には、運転を控えてもらい代替手段を探すべきである。 |
てんかん患者の運転 | てんかんと診断した場合、治療と同時に運転は禁止するよう指導すべきである。説得に応じず運転を続ける場合は公安委員会に報告することも考慮する。 |
リビング・ウィル | 延命を望まない患者が書面による事前指示を提出し、家族も同意している場合、その状況になったら患者を担当している医療者チームと相談し、方針を決定する。 |
悪い情報を共有する(SPIKESモデル)
患者に対する悪い知らせ(bad news telling)の伝え方の方法の一つにSPIKESモデルがある。
S :Setting →シチュエーションを設定 |
プライバシーに配慮した適切な面談環境を設定する。 |
P :Perception →パーソナルな受け止め方を知る |
患者が自分の状態や、これからのことをどのように考え、理解しているのかを探る。 |
I :Invitation →いろいろ知りたい程度を把握 |
患者が自分自身の健康状態をどのレベルまで知りたいかを把握する。悪い情報を聞きたいか確認する。 |
K :Knowledge →確立した情報を共有 |
(患者の知りたい度合いに合わせて)少しずつ、気を配りながら医学的な診療情報を伝える。 |
E :Empathy →エモーションに対応 |
患者の気持ちに共感しながら、一方で客観的に、患者の様子を観察、評価する。 |
S :Strategy & Summary →ストラテジーを立てサマリーする |
最後に話したことをまとめ、これからの方針を共有する。 |
終末期医療
緩和ケア
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族のQOLを向上させるアプローチのこと。患者の苦痛には全人的苦痛(身体的・精神的・社会的・スピリチュアルペイン)が深く関係しており、これを予防し和らげることでQOLを向上させる。
※スピリチュアルペイン:末期患者が自分の人生の意味や価値を見失い、死後の不安や罪悪感などで苦しむ痛みのこと。人生の終末期に凝縮されて心身の痛みと一体になって現れる。
緩和ケアを専門に行う病棟をホスピス(緩和ケア病棟)という。一般病院では緩和ケアチームがその業務を担う。
死の受容のプロセス(キューブラー=ロスモデル)(HITUJ:羊) | |
①H | 否認 |
②I | 怒り(なぜ私が…、周囲の人に怒りが向けられることが多い) |
③T | 取引(死を延期しようと、人や神と取引を試みる) |
④U | 抑うつ(自分の死を否認できなくなり何もできなくなる) |
⑤J | 受容(死に対して恐怖も絶望もなくなり、最期の時が訪れるのを静かに待つ) |
コードステータス(DNARなど)
コードステータスとは | 「心肺停止時の蘇生行為実施の有無」のこと。つまり、心肺停止時のみ適応されるため、酸素投与、栄養輸液、鎮痛鎮静薬、抗不整脈薬、昇圧薬、人工呼吸器、血液浄化法などの加療に影響されない。 |
コードステータスの根拠 | 厚生労働省のガイドラインを根拠とし、患者による自己決定(できない場合は家族による患者の推定意思)を尊重し、それが不可能な場合は患者の最善の利益を考慮して行われる。可能な限り、複数の医療者を含めて行うことが望ましい。 |
ACPとの関係 | コードステータスはACPにおける限定的かつ暫定的な内容のため、急性期を脱したらできるだけ早期にACPを行う。 |
【コード】
Full code | 心肺停止時、胸骨圧迫などの心肺蘇生処置を行う。 |
DNI | 心肺停止時、胸骨圧迫、電気的除細動などの心蘇生はするが、挿管はしない ※DNI:Do Not Intubate |
DNAR (DNR) |
心肺停止時、胸骨圧迫、挿管、電気的除細動などの心肺蘇生法をしない。 ※DNAR:Do Not Attempt Resuscitation |
その他 | 心肺停止時、してほしくないこと、してほしいこと。 例:心肺停止時、挿管はしないがNPPVは行う。 |
【急変時のコード】
ACP・事前指示書・リビングウィル
ACP(人生会議) 事前指示 事前指示書 |
もしもの時に、どのような治療やケアを望むのか家族や医療者と話し合い共有するプロセスをアドバンスト・ケア・プランニング(ACP)と言う。ACPの結果、自分が行ってもらいたい医療内容を意思表示することを事前指示(アドバンス・ディレクティブ)と言いい、代理人の署名付きでその内容を書面で残したものを事前指示書という。 |
リビングウィル |
もしもの時に、自分が行ってもらいたい医療内容をあらかじめ書面で意思表示することをリビングウィルと言い、代理人の署名がないもの。 |
尊厳死と安楽死
尊厳死 | 尊厳死とは、本人の意思に基づいて延命措置を行わず死を迎えること。日本では尊厳死は法的に規定されていない。 ①消極的安楽死:延命治療を中止して死を早める ②間接的安楽死:苦痛緩和の措置(鎮静など)の結果死を早める |
安楽死 | 安楽死とは、患者の苦痛を免れさせるために患者を死に至らしめること。 積極的安楽死:KClや筋弛緩剤を静注して患者を死に至らしめる |
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