精神科救急

精神科

救急外来で精神科疾患の患者に遭遇したらまず診察と問診

診察の手順

①挨拶と自己紹介 思いやりを持って優しく接する
②介入理由の説明 あなたを助けたいと思っていることを伝え、患者の治療意欲を後押しする
③意識清明か確認 JCS1程度の軽度意識障害を確認
・連続引き算「100から7を引いて、その答えからさらに7を引いて」
・説明内容の遅延再生(時間をおいて回答できる)
④バイタル確認
⑤処置実施前の実施理由の説明 「今調子が悪い原因を調べるために採血や画像検査を行なってもよいでしょうか?」
⑥簡易精神症状評価 ・自傷行為・自殺企図:「死にたい気持ちはありますか?」
・幻覚妄想:「何か見えたり聞こえたりしますか?」
⑦情報共有 把握した情報や治療方針をスタッフ間で共有

基本情報の聴取(精神科紹介に必要な情報)

ベックさん、DMになって救急搬送されNAdを打たれる。

B Background 氏名、年齢、居住地
E Economic status 就労の有無、生活保護受給の有無など
C Contact information 二等親以内の親族の連絡先
K Keyperson キーパーソンの特定
D Doctors 精神科かかりつけ医の有無
M Medical information 精神科診断名、通院間隔、最終受診日と処方薬・持続性注射剤
N Number of hospital visit 過去の救急受診歴と転帰(他院も含む)
A Alcohol use アルコール飲酒歴、最終飲酒日時と量(家族などからも聞く)
D Drug use 違法薬物使用歴の有無

診察の結果から6つにカテゴリー大別する

安定した精神科既往のある人の急病・外傷ケース(最多)
不安定な精神状態にある人の急病・外傷ケース
見逃すと致死的な転帰になり得る心身不安定ケース
軽度不安定な精神状態にある人で身体疾患と鑑別が難しい急病ケース
高度に不安定な精神状態に急病・外傷を伴うケース
トラブルケース(精神心理的な問題)

①安定した精神科既往のある人の急病・外傷ケース

背景 安定した精神疾患を併存している患者が身体疾患や外傷のため搬送
1st 身体疾患や外傷の検査処置
外来 ①精神運動興奮の有無
無:必要な処置後帰宅
有:処置前に鎮静薬を使用し、鎮静後に処置開始
例)ハロペリドール点滴
②自傷他害の有無
無:精神運動興奮はあるが自傷他害がなければ精神科入院先を確保
切迫:鎮静薬投与、身体拘束(実施前に付添人に必要性を口頭や書面で説明し記録)
切迫時は110番通報しても良い、警察が23条通報して精神科へ繋げられる
有:110番通報
③入院が必要な場合
自院に精神科がある場合、精神科医に介入依頼
自院に精神科がない場合、精神科病棟のある総合病院へ転院も検討?
入院後 ICU入院管理中、使用していた薬剤・投与量を確認後、向精神薬が投与できる場合
→使用していた向精神薬を1/3〜1/2量程度から経管投与し鎮静度見て漸増漸減調整
一般病棟入院管理中、身体的に中等症以下で安定的な意思疎通が図れる場合
→向精神薬は前医と同等の投与量を継続※
※65歳以上・誤嚥リスク・意識レベル不安定・せん妄の既往:BZ系漸減が望ましい

②不安定な精神状態にある人の急病・外傷ケース

背景 主に自傷行為・自殺企図のためOD、リスカ、飛び降りなどをして搬送された人
1st 検査や処置、バイタル安定化など身体治療
患者のそばにハサミや針、長いひもなど自傷の手段となるものを置かない
自傷行為を覚えていない場合
→解離性健忘、行為前の飲酒、BZ系など薬物服用による前向性健忘の可能性あり
外来 ①希死念慮の有無(答えてもらえない場合は他の優しそうな人に交代)
「気分が塞ぎ込んでつらい時死にたい気持ちになるのはよくある、あなたはどう?」
「今回は助かったけど、次は確実に自殺しようと考えている?」
答えてもらったら「つらかったですね」と受け止めること
無:必要な処置後、家族同伴のもと帰宅&後日精神科の受診(身元不明者は警察)
有:再度自殺企図のリスクが高い場合、精神科入院先を確保 or 単独受診は110番通報
※リスク高い:自殺の計画が具体的、死ぬ以外の方法の提案に全く反応なく死に固執
②入院が必要な場合(自殺企図は原則全例で入院を勧める)
自院に精神科がある場合、精神科医に介入依頼
自院に精神科がない場合、精神科入院先を確保し転院
家族には救急病棟入院中でも自殺企図は完全に防ぎ得ないことを説明する
入院後 まずは身体疾患の治療を行う
身体治療終了後、希死念慮・行為に対する後悔の念の有無
希死念慮(ー)後悔の念(+):退院後一両日中に精神科受診
希死念慮(+)後悔の念(ー):精神科に転科 or 入院先を確保し転院

③見逃すと致死的な転帰になり得る心身不安定ケース

背景 向精神薬を服用中の体調悪化、アルコール依存者の断酒後の体調悪化
1st 身体疾患の検査処置
外来 高熱、筋強剛、多量発汗、頻脈、CK高値などがある場合
→悪性症候群やセロトニン症候群を疑い入院加療とする
眼球上転、舌突出、痙性斜頸などがある場合
→急性ジストニアを疑いかかりつけ精神科医に処方を問い合わせる
処置:D2刺激薬やBZ系を主に筋注、軽快したら帰宅し、かかりつけ精神科に受診
アルコール依存者にせん妄状態、幻視、被害妄想などがある場合
→本人と家族から普段の飲酒量、通算飲酒期間、最終飲酒の日時を聴取
処置:VB1+補液+BZ系

④軽度不安定な精神状態にある人で身体疾患と鑑別が難しい急病ケース

背景 パニック発作による動悸・胸痛・呼吸苦、解離症や変換症の意識障害、麻痺、痙攣
1st バイタル確認、身体疾患の除外検査
外来 バイタルや検査などで問題ない場合、まず家族などに同じ症状の既往があったか確認
①意識障害の有無
無:過呼吸、手指硬直、動悸、かつ反復性で不安症状など典型的症状→パニック発作
処置:身体的には異常ないことを伝え帰宅、症状続く場合はBZ系頓服
有:自院に精神科がある場合、精神科医に介入依頼
自院に精神科がない場合、救急科や内科が入院後の治療を引き続く
入院後 解離性昏迷の場合
経過観察のみで大体は速やかに軽快する、精神科受診を促す
転換性痙攣(変換症)の場合
痙攣に準じた治療し、脳波確認後、精神科受診を促す
統合失調症性昏迷の場合
前医と同じ向精神薬を投与し、脳波確認後、すみやかに精神科に転院

⑤高度に不安定な精神状態に急病・外傷を伴うケース

背景 不安定な精神状態の患者が急病・外傷を伴い搬送され、自傷他害を起こした場合
1st 身体疾患や外傷の検査処置
外来 ①身体的な入院加療の必要性
無:自傷リスク高い、他害行為を行った場合は110番通報
有:自傷リスク高い、他害行為を行った場合は鎮静や拘束を行う
→自院に精神科がある場合、精神科医に介入依頼
→自院に精神科がない場合、精神科病棟のある総合病院へ転院

⑥トラブルケース(精神心理的な問題が背景にあり)

背景 敵意の背後にはその人なりの「つらさ」があり、そこを想像して対応する
外来 クレーマーや居座りが発生した場合
まず傾聴し、何を求めているか明らかにし、チームで対応し、経緯をカルテに残す
内容的に理不尽、滅裂、実現不可能の場合は業務妨害で警察対応になると予告
それでも変化ない場合は110番通報
暴力が発生した場合
暴力があったことを周囲のスタッフに知らせ、110番通報し、経緯をカルテに残す

薬物による鎮静

可能な限り静注を使用(筋注は体内への吸収が不安定なため)

救急医療における行動制限(抑制・拘束)

必要な場合 身体疾患や外傷などによる意識障害・せん妄、幻覚妄想など統合失調症の陽性症状、躁状態、希死念慮・自殺企図、BPSDなどによる医療行為への拒否
説明義務 患者や家族に行動制限の目的や理由を説明し、その記録を残さなければならない
行動制限 ①機械的拘束:マグネット式抑制帯
※拘束前にバイタル、意識レベル、外傷など身体の状況を記録する
※拘束中は15分毎に観察し、褥瘡予防のため2時間毎に体位変換する
②徒手的抑制:チームテクニクス

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