医療倫理
ジュネーブ宣言 | 1948年 | 現代版ヒポクラテスの誓いといわれ、人命尊重を基本理念とした医師の職業倫理に関する宣言。 |
ヘルシンキ宣言 | 1964年 | ニュルンベルク綱領をもとに、ヒトを対象とする医学研究の倫理を規定した宣言。IRB(治験審査委員会)、IC、プロトコルなど含む。ヘルシーな研究 |
リスボン宣言 | 1981年 | 患者の権利に関する宣言。良質の医療を受ける権利、選択の自由、自己決定の権利(幸福追求権)などを含む。患者のけんりすぼん |
インフォームドコンセント(IC)
ICの基礎
IC=十分な説明を受けたうえでの患者の自発的な承諾。医療法に基づき、医療従事者は十分な説明を行い、患者は理解・納得・同意・選択する必要がある。
説明すべき内容 | |
① | 病名、治療の目的・方法・予後・合併症など |
② | 検査や治療法などの医療行為の性質・危険性・利益 |
③ | 他の治療法があれば、その危険性と利益 |
④ | 何も治療しなかった場合の結果 |
ただし、例外として以下の場合は同意が不要。
① | 患者の同意を得る時間的余裕がないとき |
② | 患者が15歳未満の小児・精神障害者・認知症患者(代理人から同意を得る) |
③ | 医師に届出義務がある情報を届け出る場合 |
臨床上問題となりそうなIC
遺伝病 | FAPのような治療すれば改善されるような遺伝性疾患は、患者だけでなく血縁者全体の情報と捉えるべきであり、関係者に情報提供すべきである。 |
がん告知 | 検査の結果、がんが判明した場合、家族が患者に知らせないで欲しいと申し出があった。この場合、原則本人に告知する必要がある。ただし、告知によって過大な精神的打撃を与え、その後の治療の妨げになる場合(例:自殺未遂歴、うつ病)は他の医師と相談し慎重に判断する。患者を精神的に支える家族などには十分に説明を行う必要がある。 |
予測外の手術 | 手術中、偶然切除可能ながんを発見した場合、がん切除術を行ってもよいか? この場合、基本的には緊急性がない限り、ICをとってから再手術すべきである。 |
知的障害の患者 | 患者に判断能力がない場合、代諾者である家族の同意をとる必要がある(成年後見人は医療上の決定はできないことに注意)。家族がいない場合、倫理委員会で検討する必要がある。 |
エホバ患者の子供 | エホバの証人の子供(14歳以下)が輸血をしなければ生命の危機に陥る状況で、両親は輸血を拒否した。この場合、病院のガイドラインに従い、患者に輸血を行う。 |
同居人からの虐待 | 同居人からの虐待を診療で発見した場合、患者の同意を得て配偶者暴力相談センターもしくは警察に通報することができる。 |
高齢者虐待 | 本人は認めないが、虐待が疑われる所見を認めた。この場合、生命または身体に重大な危険が生じているならば市町村に通報しなければならない。 |
結核治療拒否 | 結核治療を拒否した場合、感染症法により強制的な入院措置をとることができる。医師は保健所に申し出て患者を強制入院させる必要がある。 |
不法滞在の結核患者 | 不法滞在の外国人患者が治療をして欲しいが通報はしないでくれと言われた場合、医師には守秘義務があり、保健所にも不法滞在とは言わず治療を進める方が良い。なぜなら、通報する制度があれば、結核患者が来院しなくなるためである。 |
HIV患者 | HIV陽性妊婦が配偶者にHIVのことを知らせないで欲しいと言った場合、母子感染のリスクもあり、配偶者の関与は不可欠であるため、患者にHIVに関するカウンセリングを行った上で配偶者に知らせるよう説得する。 |
高齢者の運転 | 75歳以上は免許更新時に認知症の検査を受けて、その疑いがある場合は診断書提出が義務付けられている。更新をクリアできても事故の多い高齢者には、運転を控えてもらい代替手段を探すべきである。 |
てんかん患者の運転 | てんかんと診断した場合、治療と同時に運転は禁止するよう指導すべきである。説得に応じず運転を続ける場合は公安委員会に報告することも考慮する。 |
リビング・ウィル | 延命を望まない患者が書面による事前指示を提出し、家族も同意している場合、その状況になったら患者を担当している医療者チームと相談し、方針を決定する。 |
薬害
薬害名 | 詳細 | 薬害が契機となった法律 | 年代 |
サリドマイド事件 | 睡眠薬の副作用で四肢奇形の新生児が産まれる。 | 1959〜64年 | |
クロロキン | 抗マラリヤ薬の副作用で網膜症 | 1969年頃 | |
SMON事件 | 胃腸薬のキノホルムの副作用で歩行障害や視力低下が生じた | 医薬品副作用被害救済基金法 | 1955〜70年 |
薬害エイズ事件 | 血液製剤の汚染で血友病患者の約4割が感染 | 1982〜85年 | |
薬害C型肝炎 | 汚染フィブリノーゲン製剤の使用により感染 | 薬害肝炎救済法、 薬害肝炎救済特別措置法 |
1987年頃 |
MMRワクチン | おたふくかぜワクチンの副作用で無菌性髄膜炎 | 予防接種健康被害救済制度 | 1992年頃 |
ソリブジン事件 | 5-FUと帯状疱疹薬の併用で死亡事故 | 1993年 | |
クロイツフェルト・ヤコブ病 | 病原体に汚染されたヒト乾燥硬膜移植でプリオン感染 | 1997年頃 | |
B型肝炎ウイルス感染 | 予防接種時の注射針使い回しなどで感染 | 1948〜88年 | |
子宮頸癌ワクチン | 四肢麻痺、アナフィラキシーなどの副作用 | 2010年頃 |
新薬の研究開発
臨床研究の違い
臨床研究 (Clinical research) |
観察研究、疫学研究などを含むヒトを対象とするすべての研究 |
臨床試験 (Clinical trial) |
治療と並行して介入を伴う臨床研究 |
治験 | 新薬承認のための臨床試験。GCPを遵守して行なわなければならない。 【企業主導治験】治験にかかる費用を企業が負担して行う治験。 【医師主導治験】治験にかかる費用を医師が負担し、承認申請は企業にサポートしてもらう治験。主に企業が治験を積極的に行わない薬について治験をする。 |
治験(新薬開発)の流れ
創薬研究 | 標的分子同定 | 評価系を構築 |
スクリーニング | 候補化合物の探索と最適化 | |
前臨床試験 | 動物実験 | 薬効薬理試験、毒性試験、安全性試験を実施 |
臨床試験 | 第1相試験 (臨床薬理試験) |
少数の健常人を対象に安全な投与用量、薬物動態を確認する。 【SAD試験:単回投与用量漸増試験】治験薬を単回投与し、安全用量域の絞り込み、薬物動態を調べる。 【MAD試験:反復投与用量漸増試験】治験薬を反復投与し、SAD試験と同様に安全用量域の絞り込み、薬物動態を調べる。 |
第2相試験 (探索的試験) |
少数の患者を対象に安全性・有効性を確認し、用法を設定する。 【前期(P2a)】治験薬を初めて患者に投与し、有効性と安全性を確認し、開発に値するか評価する(POC)。 【後期(P2b)】薬物動態、適応症を明らかにする。また、用量を設定する。 |
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第3相試験 (検証的試験) |
多数の患者を対象にⅡ相で決定された用量をもとに安全性・有効性を最終確認する。 数百人の症例登録が必要なため、通常は国際共同試験を行う。承認された場合は海外でも使えるメリットがある。 |
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承認申請 | PMDAに申請 | ※PMDAは承認申請だけでなく、医薬品の安全対策や健康被害救済も行なっている。 |
市販後調査 (第4相試験) |
市販直後調査 | 販売後半年間、安全性・有効性をGVPに則り調査する(義務)。 |
使用成績調査 | 販売後3年間、安全性・有効性をGPSPに則り調査する。全例調査を義務的に行うため、患者の同意は必要ない。 | |
特定 使用成績調査 |
小児、高齢者、妊婦など特定の患者を対象に行う使用成績調査のこと。 | |
製造販売後 臨床試験 |
第Ⅳ相試験とも言われる。承認後の薬について、安全性情報などを集積するため、GCP+GPSPに則り実施する。この結果を踏まえて再審査が行われる。調査には患者の同意が必要である。 | |
安全性定期報告 | 承認後2年間は半年毎、その後は1年毎に安全性情報をPMDAに報告するもの。再審査・再評価のデータとして使用される。 |
【治験をサポートする人々】
病院側 | 製薬企業側 | |
団体 | SMO(CRC派遣会社) | CRO(CRA派遣会社) |
スタッフ | CRC(患者対応) | CRA(カルテやCRFで治験進行の確認) |
治験で使われる用語
有害事象 (AE:Adverse Event) |
薬を投与した患者に生じたあらゆる好ましくないもので、薬との因果関係は問わない。 |
副作用 (ADR:Adverse Drug Reaction) |
有害事象のうち、薬との因果関係が否定できないもの。 |
CTCAEグレード | 有害事象の医学的重症度を示すもので、Grade1〜5に分類される。 |
MedDRA | 国際的に統一された有害事象名。 |
重篤な有害事象 (SAE:Serious Adverse Event) |
規制当局(PMDA)に報告が必要な有害事象のこと。医学的な重症度(Severity)とは異なる。 |
治験安全性最新報告(DSUR) | 治験中、1年ごとに治験薬の安全性情報をまとめてPMDAに報告するもの。 |
医薬品リスク管理計画 (RMP:Risk Management Plan) |
医薬品のリスクを最小限にするための取り組みを文書化したもの。PMDAに提出された後、公開される。 |
定期的ベネフィット・リスク評価報告 (PBPER) |
製造販売後、市販後調査によって収集された医薬品のベネフィット・リスクが評価され文書化されたもの。かつて、定期的安全性最新報告(PSUR)と呼ばれていた。 |
代表的な三次資料(医薬品情報)
発行者 | 名称 | 概要 |
製薬企業 | 添付文書 | 最も基本的な医薬品情報を記載した文書 |
インタビューフォーム | 添付文書を補完する資料 | |
イエローレター | 緊急安全性情報を記載した資料 | |
ブルーレター | 迅速に医療従事者に注意喚起を図る資料 | |
患者向医薬品ガイド | 患者向けのお薬ガイド | |
薬のしおり | シンプルな患者向けの薬ガイド | |
医薬品リスク管理計画 | 開発から市販後まで一貫したリスク管理を記載した資料 | |
厚生労働省 | オレンジブック | 溶出試験結果などの品質情報をまとめた資料 |
日本製薬団体連合 | 医薬品安全対策情報 (DSU) |
添付文書の「使用上の注意」の改訂情報を記載した資料 |
各学会 | 診療ガイドライン | エビデンスに基づいた標準的な治療法を記載した資料 |
米国企業 | UpToDate | 診断・治療・予防について記載された臨床支援ツール |
医療機器の分類
国際分類 | 医薬品医療機器法の分類 | 具体例 |
クラスⅠ | 一般医療機器 | メス・ピンセット |
クラスⅡ | 管理医療機器 | MRI装置、超音波装置、消化器用カテーテル |
クラスⅢ | 高度管理医療機器 | 透析器、人工骨、人工呼吸器 |
クラスⅣ | 同上 | ペースメーカー、人口心臓弁、ステントグラフト |
終末期医療
緩和ケア
緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族のQOLを向上させるアプローチのこと。患者の苦痛には全人的苦痛(身体的・精神的・社会的・スピリチュアルペイン)が深く関係しており、これを予防し和らげることでQOLを向上させる。
※スピリチュアルペイン:末期患者が自分の人生の意味や価値を見失い、死後の不安や罪悪感などで苦しむ痛みのこと。人生の終末期に凝縮されて心身の痛みと一体になって現れる。
緩和ケアを専門に行う病棟をホスピス(緩和ケア病棟)という。一般病院では緩和ケアチームがその業務を担う。
死の受容のプロセス(キューブラー=ロスモデル)(HITUJ:羊) | |
①H | 否認 |
②I | 怒り(なぜ私が…、周囲の人に怒りが向けられることが多い) |
③T | 取引(死を延期しようと、人や神と取引を試みる) |
④U | 抑うつ(自分の死を否認できなくなり何もできなくなる) |
⑤J | 受容(死に対して恐怖も絶望もなくなり、最期の時が訪れるのを静かに待つ) |
コードステータス(DNARなど)
コードステータスとは、心肺停止時の蘇生行為実施の有無のこと。
DNAR (DNR) |
終末期医療において、心停止になった場合に胸骨圧迫、挿管、電気的除細動などの心肺蘇生法を希望しないことを示すことをDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)と言う。 |
DNI | DNI(Do Not Intubate)電気ショックや薬物治療などの心蘇生はするが、挿管はしない |
Full code | 心肺蘇生実施を行うこと |
ACP・事前指示書・リビングウィル
ACP(人生会議) 事前指示 事前指示書 |
もしもの時に、どのような治療やケアを望むのか家族や医療者と話し合い共有するプロセスをアドバンスト・ケア・プランニング(ACP)と言う。ACPの結果、自分が行ってもらいたい医療内容を意思表示することを事前指示(アドバンス・ディレクティブ)と言いい、代理人の署名付きでその内容を書面で残したものを事前指示書という。 |
リビングウィル |
もしもの時に、自分が行ってもらいたい医療内容をあらかじめ書面で意思表示することをリビングウィルと言い、代理人の署名がないもの。 |
尊厳死と安楽死
尊厳死 | 尊厳死とは、本人の意思に基づいて延命措置を行わず死を迎えること。日本では尊厳死は法的に規定されていない。 ①消極的安楽死:延命治療を中止して死を早める ②間接的安楽死:苦痛緩和の措置(鎮静など)の結果死を早める |
安楽死 | 安楽死とは、患者の苦痛を免れさせるために患者を死に至らしめること。 積極的安楽死:KClや筋弛緩剤を静注して患者を死に至らしめる |
脳死と臓器移植
通常の死は心臓死である。心臓死は①心拍動の停止、②呼吸の停止、③瞳孔の散大(死の三徴)によって行われる。しかし、心臓死では心臓移植はできない。そのため、臓器移植法を制定し、移植を目的とする場合のみ脳死と言う死の概念を導入した。
臓器移植法
臓器摘出の要件のまとめ | |
① | ドナーの生前の書面による意思表示と遺族の拒否がないこと |
② | ドナーの意思が不明な場合は遺族の書面による承諾があること |
③ | 家族の承認があれば15歳未満の脳死臓器提供も可能 |
④ | 公平性確保のため日本臓器移植ネットワークが一元的に管理 (ただし、書面による意思表示がある場合は親族へ優先提供できる) |
【臓器移植の分類】
摘出から再灌流までの許容時間は、心臓:4時間、肺:8時間、肝臓:12時間、膵臓&腎臓:24時間である。
心臓 | 肺 | 肝臓 | 膵臓 | 腎臓 | 小腸 | 角膜 | 皮膚 | ||
脳死 | 阻血に脆弱な臓器も可能 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ||
心停止後 | 阻血時間に余裕ある臓器 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
生体移植 | 例えば父→息子など | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
法的脳死判定
脳死とは、脳幹を含む全脳の不可逆的機能停止である。
脳死除外項目(脳死と類似することがある項目) | |
① | 低体温(直腸温が成人で32℃未満) |
② | 急性薬物中毒、内分泌代謝疾患(肝性脳症、尿毒症性脳症など) |
③ | 収縮期血圧90未満(13歳以上) |
④ | 生後12週未満の者(在胎週数40週未満の場合は出産予定日から12週未満の者) |
⬇︎
脳死判定の基準 脳死の兵士の児童館:脳死/平坦脳波/深昏睡/自発呼吸消失/瞳孔散大/脳幹反射消失 |
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① | 深昏睡の確認(JCS300:顔面への痛み刺激に無反応) |
② | 瞳孔固定の確認(左右瞳孔径4mm以上の散大)→中脳・橋の廃絶 |
③ | 脳幹反射消失の確認(1対光反射、2角膜反射、3毛様脊髄反射、4眼球頭反射、5前庭反射、6咽頭反射、7咳反射)※毛様脊髄反射と脊髄反射は違うものなので注意! かくメモ前にのせた:角膜/眼球頭/毛様脊髄/前庭/咽頭/咳/対光 |
④ | 平坦脳波の確認→大脳の廃絶 |
⑤ | 自発呼吸消失の確認(無呼吸テスト)→延髄の廃絶 |
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判定間隔 | 6時間以上経過した後に2回目を実施(6歳未満は24時間以上経過した後) |
脳死の判定 | 移植医以外の2名以上の判定医の判断の一致で脳死と認定。 死亡時刻は2回目の脳死判定時刻を採用 |
再生医療
移植医療に代わる次世代の医療。
利点 | 欠点 | |
体性幹細胞 | 皮膚幹細胞、角膜幹細胞、造血幹細胞などは成人の組織中に存在して採取しやすい。自己細胞を用いれば拒絶反応もなく、腫瘍化しにくい。 | 分化できる組織の種類、培養の継続可能性が大幅に制限される。 |
ES細胞 | 分化能が高い、培養の無限性がある | 生殖補助医療で生じた余剰胚を用いる |
iPS細胞 | 入手しやすい 倫理的な問題が少ない |
遺伝子導入に伴うリスクやがん化しやすい可能性がある。 |
個人情報保護法
第15・16条 | 個人情報の利用目的の特定と目的外利用の制限 |
第19条 | データ内容の最新性、正確性の保持 |
第20条 | 安全管理と漏洩防止の義務 |
第23条 | 第三者への提供の制限 |
第52条 | 取り扱いに関する適切かつ迅速な苦情処理 |
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