双極性障害(躁うつ病)
疫学 |
生涯有病率:Ⅰ型は約1%、Ⅱ型は約5%、男女比は1:1、遺伝的要因あり 10代後半〜20代後半に好発(うつ病と診断した後も注意が必要) 病前性格:循環気質(肥満体系で社交的な反面、一人になると寂しがる) |
病態 |
双極性Ⅰ型障害:うつ状態(必須ではない)+1回でも激しい躁状態があった場合 双極性Ⅱ型障害:うつ状態(必須)+1回でも軽い躁状態があった場合 Ⅰ型は5年間で90%以上が再発する。認知症に移行するリスクもある。 |
症状 |
【躁状態】 ①観念奔逸: ②気分高揚: ③誇大妄想: ④その他:食欲・性欲↑、衝動性↑、活動性↑、睡眠量↓、多弁が1週間以上持続 |
検査 |
Hamiltonうつ病評価尺度(HRS-D) Beckのうつ病自己評価尺度(BDI) |
治療 |
①気分安定薬の単剤投与 主に抗躁効果:炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン 主に抗うつ効果:ラモトリギン ※三環系抗うつ薬・SSRI単剤は躁転のリスクが増加するため禁忌! ②非定形抗精神病薬:躁状態が中程度以上の場合に①と併用 主に抗躁効果:オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール(保険外だがリスペリドン、アセナピン) ※オランザピン・クエチアピンは糖尿病に禁忌(オラオラ食え食え→過食) 【非薬物療法】 薬物療法が不十分な場合、修正型電気けいれん療法(mECT)を検討する。 |
うつ病 Major depressive disorders
うつ病の概要
疫学 |
日本での生涯有病率:約6%、女性に多い(2:1)、遺伝的要因はあり |
病態 |
原因不明。うつ病はストレスが誘因で発症することは多いが、ストレスを除去してもあまり良くならない特徴がある。 |
再発 |
半数弱が単一エピソード、残り半数強が反復性(再発) |
うつ病のスクリーニング(2項目問診法)
① |
ここ1ヵ月何をしても楽しくないと感じますか?(興味減退) |
② |
ここ1ヵ月気分が落ちこんだり,憂うつな気分になりましたか?(抑うつ気分) |
判定 |
1項目以上陽性になるようであればPHQ-9を評価すべき(感度97%、特異度67%) |
うつ病の診断
診断 |
【DSM-5-TRの診断基準】 以下の9つの症状のうち5つ以上が、ほとんど1日中、ほとんど毎日、2週間以上にわたって続く状態で、①抑うつ気分、②興味・喜びの喪失のいずれかを含み、軽躁状態・躁状態がないこと。 |
① |
抑うつ気分:悲しみや空虚感を強く感じている |
② |
興味・喜びの喪失:ほとんどすべての活動における興味や喜びの著しい減退 |
※③ |
体重・食欲の変化:著しい体重減少(または増加)または食欲の減退(または増加) |
※④ |
不眠または過眠:ほとんど毎日の不眠(または睡眠過多) |
⑤ |
精神運動性の焦燥または制止:落ち着きがない、のろくなった様子が他者から観察される |
⑥ |
易疲労感・気力の減退:ほとんど毎日の気力がない状態 |
※⑦ |
無価値感または過剰な罪責感:ほとんど毎日の無価値観や過剰・不適切な罪責感 |
⑧ |
集中力・思考力の減退:思考力や集中力の減退、または決断困難 |
⑨ |
自殺念慮・自殺企図:死についての反復思考、または自殺企図や具体的な計画 |
※ |
※③や※④で体重増加・過食・睡眠過多を認める場合は非定型うつ病を考慮 |
※ |
※⑦重症例では微小妄想(貧困妄想、罪業妄想:自分の失敗で皆に迷惑をかけてすまない、心気妄想:回復できないほど大きな病気に罹った)を認めることがある。 |
検査 |
Hamiltonうつ病評価尺度(HRS-D) 、Beckのうつ病自己評価尺度(BDI)、 老年期うつ病評価尺度(GDS15) |
非定型うつ病(旧 新型うつ病)
概要 |
楽しみに反応して一時的に気分が明るくなる気分反応性、過食・過眠、鉛様麻痺(鉛のように体が重い倦怠感)、拒絶に対する敏感さといった特徴がある。 |
鑑別 |
過食・過眠:双極症 |
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楽しみに反応して一時的に気分改善:適応障害 |
治療 |
患者にあった治療法を模索する |

うつ病と鑑別が必要な疾患(二次性うつ病)
①悪性腫瘍 |
体重減少の有無を確認 |
②内分泌疾患 |
甲状腺機能低下症、Cushing病、糖尿病 |
③薬剤性 |
①インターフェロン製剤 ②ステロイド ③レセルピン、経口避妊薬、抗ヒスタミン薬など |
④栄養 |
ビタミンB12、葉酸 |
⑤自己免疫疾患 |
SLEなど |
⑥脳血管疾患 |
脳卒中後うつ病 |
⑦中枢神経系疾患 |
多発性硬化症、髄膜炎・脳炎、Parkinson病、Huntington病 |
⑧中毒 |
アルコール依存、違法薬物 |
⑨別の精神疾患 |
①双極性障害:うつ病に潜む双極性障害を見つける手がかりとして、うつ病の発症年齢が若い、3回以上転職や離婚を繰り返す、発揚気分、循環気質、賦活化症候群がある。 |
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②適応障害:適応障害はストレスが原因で発症し、ストレスを除去すると速やかに回復する(うつ病はストレスを除去しても改善しない)。うつ病と適応障害を初診時に鑑別することは難しい。そのため内因性であるうつ病の治療を優先して行う。 |
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③統合失調症 |
非薬物療法(軽症)
【患者と約束する事】 ①重要な決定は保留する(離婚、転職、退職、財産の処分など) ②自殺しないよう約束すること→拒否する場合は医療保護入院を検討 ③
問題解決技法 |
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疾病教育 |
治る病気であり、心身の休養が必要なことを説明(励まし・気晴らしの誘いは逆効果) |
認知行動療法 |
熟練した治療者によって行われ、時間や費用がかかり施設が限られる |
抗うつ薬による薬物療法(中等症以上)
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薬物治療の留意点 |
① |
単剤治療で行うこと(SSRI、SNRIなどから1つ選択することが多い) |
② |
開始用量から漸増し、効果が得られない場合には最大用量まで増量する |
③ |
最大用量まで増量した後も6週間程度は経過観察すること |
④ |
効果の判断までには2〜4週間程度かかり、効果が出るまで増量する旨を伝えておくこと |
⑤ |
認知行動療法など精神療法を併用することが望ましい |
特殊な症状
妄想が顕著な場合 |
少量の抗精神病薬を併用(リスペリドンなど) |
不安や不眠がある場合 |
依存のリスクを考慮し、短期間だけ抗不安薬や睡眠薬を併用 |
難治性の場合 |
修正型電気けいれん療法が選択されることもある |
維持療法
原則 |
再発が高い疾患であるため、寛解後も抗うつ薬の用量を変更せずに維持する |
例1 |
単一エピソード(初発例):最低でも6ヶ月維持 |
例2 |
再発例:3年程度は維持 |
回復 |
不安感・焦燥感→抑うつ気分→意欲の順に症状が良くなることが多い |
終了 |
中断症候群の出現と予防するため、抗うつ薬の漸減・中止はゆっくり時間をかけて行う |
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