睡眠の生理
概日リズム | 体内にある生物時計の周期をサーカディアンリズムといい、25時間周期である。この生物時計は視床下部の視交叉上核(SCN)に存在する。 暗闇ではSCNからノルアドレナリンが放出され、松果体でメラトニンが産生されて眠気が起こる。光刺激が網膜からSCNに入るとノルアドレナリンの分泌が抑制され、メラトニン産生が抑制されるため覚醒が起こる。 |
周波数 | BATDの順に周波数が遅くなっていき、脳の活動も低下する。 β波(活動)→α波(リラックス)→θ波→δ波(non-REM睡眠) |
睡眠段階 | 【REM睡眠】 新生児は50%→成人20%に変化する 頭は起きているが(眼球運動)、身体は寝ている状態 ①夢をみる、記憶を整理している。 ②骨格筋緊張低下(低下しないとREM睡眠障害発症)、金縛りが起こる。 ③呼吸・脈拍の不規則化、血圧の上昇など自律神経系が不安定になる 【non-REM睡眠=徐波睡眠】 高齢者は減少するため昼寝で補う♪ 身体は起きているが(寝返り)、頭は寝ている状態 寝返り等の体動が起こる(ベンゾジアゼピン系は徐波睡眠を減らすので、夜尿、夜驚症、夢遊病の治療薬となる) |
睡眠時間 | 平均睡眠時間は7~8時間で、睡眠により精神的疲労を回復している。 65歳以上の高齢者は睡眠が浅く睡眠時間の延長で補おうとするが、8時間以上寝ると逆に不眠を生じやすくなる。徐波睡眠を増やして質を上げることが重要。 |
【シンプルにまとめる】
脳 | 身体 | |
REM睡眠(眼球高速運動) | 活動(夢をみる) | 休 |
non-REM睡眠(深睡眠) | 休 | 活動(寝返り) |
不眠症
不眠症は睡眠の適切な機会があるにもかかわらず、日昼の活動に支障をきたす不眠が週に3回以上あり、3か月以上続く。日中は眠気、疲労感があり社会的機能障害を引き起こす。休日に平日よりも2時間以上遅く起きる人は睡眠負債がある。
①不眠を見たらまず5Pで原因を確認
入院患者ではせん妄を必ず除外する(見当識障害がないか確認)
Physical (身体的) |
発熱、疼痛、掻痒感、頻尿、呼吸困難、動悸、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害、更年期障害 |
Physiological (生理学的) |
時差ぼけ、環境の変化、交代勤務(夜勤がある)、騒音、光、不快な温度 |
Psychological (心理学的) |
精神生理性不眠、精神的ストレス、心配事、緊張、重篤な疾患による精神的ショック |
Psychiatric (精神疾患的) |
アルコール依存症、不安神経症、うつ病、統合失調症 |
Pharmacological (薬理学的) |
ステロイド、利尿薬、カフェイン、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬(前立腺肥大症の増悪) |
②不眠のタイプ
入眠障害 | 入眠に30分以上かかる |
中途覚醒 | 夜間覚醒2回以上 |
早朝覚醒 | 予定時刻より2時間以上早く起きてしまう(うつ病に注意) |
熟眠障害 | 睡眠が浅い、眠ったのに眠い |
③非薬物療法
【睡眠障害対処の12の指針】
https://www.mhlw.go.jp/content/001208251.pdf
【入院患者の対策】
環境 | 普段使っている寝具やパジャマを持ってきてもらう、概日リズムを保つ |
医療側 | バイタルサインのチェックを減らす、点滴時間を調節する、訪室を最低限にする |
【外来患者の対策】
生活改善 | 晩酌はOKだが、寝酒はNG。昼寝は10~20分以内。起床時間を固定し、日光を浴びる。寝る時間を調節する。湿度と睡眠の質は関係しており、夏眠れないときは温度を下げるより除湿するとよい。 |
非薬物療法 | 高照度光療法:5000ルクス(真夏の昼の太陽光)で1時間照射する。 |
④薬物療法
睡眠薬は副作用がある(筋弛緩作用で転倒リスク↑、呼吸抑制作用でCO2貯留)ため、不眠の原因や程度、患者希望を加味し、必要な時のみ処方する。最初は1剤から、効果不十分な場合は併用するが、BZ系は併用しないこと。
【高齢者、CO2貯留患者、せん妄リスク高い患者】→BZ系を避け、少量より開始
①レンボレキサント(デエビゴ®) | 1回5mg 1日1回眠前(10mgまで増量可) ・CYP3A4阻害薬併用時は2.5mgまで減量 ・肝障害は5mgまで ・悪夢を見る場合がある |
①ラメルテオン(ロゼレム®) | 1回8mg 1日1回眠前 ・即効性はなく、効果発現まで1週間程度必要 ・高度の肝障害では禁忌 |
②トラゾドン(レスリン®、デジレル®) | 1回50mg 1日1回眠前 ・セロトニン受容体阻害して鎮静作用を示す |
③ミアンセリン(テトラミド®) | 1回10mg 1日1回夕食後(30mgまで増量可) ・効果発現までに2時間かかり頓服には不適 ・MAO阻害薬は併用禁忌 |
④クエチアピン(セロクエル®) | ・せん妄リスク高い患者でより適応 |
【上記リスクのない場合】
軽症 | 入眠障害:レンボレキサント(デエビゴ®) どのタイプでも可:トラゾドン(レスリン®) |
中等症以上 | 入眠障害:ゾルピデム5〜10mg(マイスリー®) 中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害:ブロチゾラム0.25mg(レンドルミン®) どのタイプでも可:レンボレキサント5〜10mg+トラゾドン50〜100mg どのタイプでも可:ミアンセリン10mg(テトラミド®) |
ナルコレプシー
疫学 | 10代思春期で発症し生涯持続(運転免許証は取れない)、有病率:1/600 |
病態 | 視床下部のオレキシン産生低下により覚醒を維持できない→REM睡眠を抑制できないため下記4徴を生じる疾患。 |
症状 | 4徴全てREM関連症状。とにかく眠い!! ①情動脱力発作(カタプレキシー):情動が引き金となって起こる骨格筋の脱力 ②睡眠発作:日中に耐え難い眠気に襲われ数分〜20分居眠り→目覚めはさっぱり ③入眠時幻覚:入眠直後にREM睡眠期が出現し現実感の強い幻覚が出現 ④睡眠麻痺:入眠時に覚醒し金縛りに合う 金閣水上デート:金縛り、入眠時幻覚、睡眠発作、情動脱力発作、メチルフェニデート |
検査 | 【睡眠ポリソムノグラフィ検査】 反復睡眠潜時検査で、入眠時のREM睡眠出現(正常で徐波睡眠)が見られる。 【血液検査】 日本人ではほぼ全例HLA-DR2陽性 【髄液検査】 髄液中オレキシン濃度が測定値以下 |
治療 | 【薬物療法】 メチルフェニデート:情動脱力発作にも有効、依存性あり。 モダフィニル:情動脱力発作には無効、依存性なし。 REM睡眠関連症状には三環系抗うつ薬、SNRIを投与してREMを抑制する。 |
睡眠時無呼吸症候群(OSA)
呼吸器内科を参照。
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)
疫学 | 有病率:2~4%、約30%は家族性、高齢者に多い、女性に多い |
病態 | 本態性:原因不明、続発性:鉄欠乏性貧血、慢性腎不全など ドパミン神経伝達異常が原因と考えられている。 |
症状 | ①安静時、特に夜間に下肢の深部に耐えがたい異常感覚(虫が這う感じ)が起こり足関節と膝の屈曲、趾の背屈などの不随意運動を生じる ↑周期性四肢運動障害の症状であり、約90%に合併する ※アカシジアは眠気と関係なく日中でも座位や臥位などじっとしているとむずむずする! ②不眠:異常感覚は足を動かすと改善するため絶えず足を動かす |
検査 | |
治療 | ①中枢性ドパミン作動薬(プラミペキソール): ②抗けいれん薬(クロナゼパム) ③GABA誘導体(ガバペンチン) |
周期性四肢運動障害(PLMS)
病態 | |
症状 | 睡眠中に四肢の周期的な不随意運動が繰り返し起こり、中途覚醒が生じる。疲れているとき、カフェインを多くとったときに起こりやすい。 |
検査 | |
治療 | 治療はレストレスレッグス症候群と同じ。 |
睡眠時随伴症候群(パラソムニア)
睡眠時遊行症(夢遊病) | 睡眠時驚愕症(夜驚症) | REM睡眠行動障害 | |
疫学 | 若年者(男児)に好発 | 小児に好発 | 高齢男性に好発 |
病態 | non-REM睡眠障害 | non-REM睡眠障害 | REM睡眠障害 |
症状 | 入眠後3時間以内くらいに急に起き上がって徘徊した後、再び就寝する。刺激でも覚醒せず、ノンレム睡眠中なので覚えていない。 | 入眠後3時間以内くらいに急に大声で怯えて泣き喚くなどの恐怖様症状を示す。刺激でも覚醒せず、ノンレム睡眠中なので覚えていない。 | 多くは明け方に夢の内容に従った異常行動を示す。刺激で速やかに覚醒し、レム睡眠中なので夢の内容想起できる。 |
検査 | ・Lewy小体型認知症 ・Parkinson病 |
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治療 | 自然軽快 BZ系睡眠薬(ノンレム↓) | 自然軽快 BZ系睡眠薬(ノンレム↓) | クロナゼパムが著効(8~9割)+環境調整 |
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