脳卒中 brain attack
病態 | 出血性のクモ膜下出血・脳出血、虚血性の脳梗塞によって急に卒倒する病態。 【クモ膜下出血】主に動脈瘤が破裂して脳実質外のクモ膜下腔に出血する。 【脳出血】主に高血圧により細い血管が破裂し脳実質内に出血する。 【脳梗塞】血栓塞栓により血管が閉塞し脳虚血が起こる。 |
症状 | 【①頭蓋内圧↑症状】 頭痛、悪心・嘔吐、意識障害(GCS8以下or経過中のGCS2点以上低下)、クッシング現象により血圧上昇・徐脈(代償反応) 【②局所神経症状】 片麻痺(顔の歪み)、構音障害(呂律が回らない)、嚥下障害、感覚障害、失語、視野障害(瞳孔不同)など クモ膜下出血は①のみ(脳実質外のため) 脳出血は①+② 脳梗塞は①+②(脳浮腫にはなるが頭痛は少ない) |
CPSS | 顔の歪み、閉眼して10秒間上肢挙上不能、きちんと話せないのうち1つでも当てはまれば脳卒中を疑い救急車を呼ぶ! |
検査 | 【画像検査】 まずCTで出血を確認。なければ梗塞を疑いMRIをする(特に拡散強調画像で超早期梗塞を確認)。 【心電図】 ST変化、T波変化を伴うQT延長が比較的多く認められる。 |
治療 | 出血性では降圧して140/90まで下げる。 梗塞性では基本的に降圧しないが、220/120を超える場合は降圧を開始する。 脳血管障害後にうつ病を発症する例は多い。 早期にリハビリテーションを開始し、廃用症候群による関節拘縮・筋力低下・深部静脈血栓症などを防ぐ。 |
脳梗塞 Cerebral infarction
病態 | ①〜③の原因によって脳動脈が閉塞し、脳虚血が生じて脳実質の壊死に至る疾患。割合はおおよそ心原性:アテローム血栓性:ラクナ梗塞=1:1:1である。 【①心原性】AF・AMI・弁膜症などによってできた凝固塊が太い血管を閉塞する。さらに閉塞血管が再開通すると脆弱化した血管が破綻して出血性梗塞を生じる。 【②アテローム血栓性】内頸A・中大脳A・椎骨Aなど太い血管が動脈硬化起因のプラークにより狭窄が起こり、そこに血栓が形成して血管が閉塞する。 【③ラクナ】高血圧によって細い血管の壁が変性し、細い穿通枝Aが閉塞する→白質部分で閉塞が起こる(皮質では起こり得ない!)。 |
症状 | 【頭蓋内圧↑症状】 意識障害:脳の広範囲が虚血になった場合に起こる 【虚血による局所神経症状】 もしくは心原性は突発的に、その他は緩徐・段階的に発症する。 前大脳A閉塞:対側下肢優位の片麻痺・感覚障害、前頭葉症状(意欲低下・社会的行動障害・原始反射など) 中大脳A閉塞:対側上肢優位の片麻痺・感覚障害、優位半球障害で失語、角回Aの閉塞でゲルストマン症候群(失算・失書・手指&左右失認)、劣位半球障害で対側の半側空間無視 後大脳A閉塞:黄斑回避の同名半盲、視床梗塞、Weber症候群、Benedikt症候群 脳底A分枝の閉塞:Millard-Gubler症候群 椎骨A+後下小脳A閉塞:ワレンベルグ症候群 |
検査 | 【画像検査】 CT:超急性期は正常かEarly CT sign(①MCAの高吸収、レンズ核輪郭の不鮮明化、皮髄境界・島皮質の不鮮明化といった浮腫性変化、②脳溝消失)、発症24時間頃から梗塞部分が低吸収域となる。ただし、出血性梗塞があると低・高吸収域がまだら状に混在する。 MRI:超急性期は拡散強調像で高信号、発症24時間〜1週間まで梗塞部分がT2で高信号となる。出血性脳梗塞はT2*強調像で低信号となる。 |
治療 | 【超急性期】 血栓溶解療法(4.5時間以内にtPA投与。ただし再開通率30%)を行いつつ、カテーテル血栓回収療法の準備をする。 ※wake up strokeの場合でもDWI/FLAIRミスマッチ陽性(DWI高信号/FLAIR低信号)であればtPA投与する可能性あり。 脳保護薬(壊死部から出るフリーラジカルをエダラボンで捕捉)静注+①&②は塞栓がこれ以上大きくならないように抗凝固薬(ヘパリン静注)を、②&③は血栓がこれ以上大きくならないように抗血小板薬(オザグレルNa静注)を投与する。 ※虚血が悪化するため降圧薬は投与しない!(収縮期圧220以上、拡張期130以上の場合は降圧する) バイタルが安定したら、早期リハビリテーション開始! 【慢性期】 高血圧などの危険因子の管理(降圧薬、抗不整脈薬など) ①は抗凝固薬を、②&③は抗血小板薬を投与する。 |
脳出血 cerebral hemorrhage
疫学 | 特に日中活動時に好発する。 |
病態 | 高血圧など種々の原因により脳内の動脈が破綻し、脳実質内に出血をきたした疾患。高血圧性脳出血では、穿通枝が持続する高血圧により血管壊死し、同部に形成された小動脈瘤の破綻により生じる。 【原因】 ①高血圧(約80%) ②AVM、もやもや病などの脳血管異常 ③その他:外傷、抗凝固療法、血液疾患、脳腫瘍、アミロイドアンギオミオパチー 【分類】 ①被殻出血(約30%) ②視床出血(約25%) ③脳幹(橋)出血(約10%) ④小脳出血(約8%) ⑤皮質下出血(約20%):アミロイドアンギオミオパチーやAVMなどの非高血圧性が原因の頻度が比較的高い。 |
症状 | 【頭蓋内圧↑症状】 ①突然の激しい頭痛:髄膜圧迫されるため ②意識障害:橋出血は脳幹網様体を圧迫、被殻出血と視床出血は血腫が大脳皮質を圧迫 ③悪心・嘔吐:CTZが圧迫されるため 【血腫による圧迫で局所神経症状】 片麻痺:被殻出血と視床出血は内包後脚を圧迫し錐体路障害+→バレー徴候で確認 四肢麻痺:橋出血は左右の錐体路を圧迫する 感覚障害:視床出血と被殻出血と橋出血は感覚伝導路の視床、橋を圧迫する その他、構音障害、失語、視野障害(瞳孔不同)など |
検査 | 【身体検査】 上肢バレー徴候:掌を上に向けて前ならえをして、麻痺のある上肢が落下する。 下肢バレー徴候:腹臥位で膝関節を45°挙上させ、麻痺のある下肢が落下する。 【画像検査】 頭部単純CT:出血部位に高吸収域(HbがX線を吸収しやすいため)、慢性期になると血腫は吸収されて組織が瘢痕化するため低吸収域として写る。 血腫の容量(cc)=縦×横×高さ×1/2→被殻出血30cc以上なら手術 |
治療 | 【薬物療法】 降圧薬を静注し140以下に下げる。 頭蓋内圧亢進の場合、グリセロールなどの抗浮腫薬を静注(抗浮腫薬は基本使わない) 血圧が安定し意識清明になれば、早期リハビリテーション開始! 【手術】←切迫する脳ヘルニアがある場合 開頭血腫除去術:小脳出血・被殻出血・皮質下出血 脳室ドレナージ術:脳ヘルニア徴候を認める急性水頭症 |
【出血部位別の特徴】
被殻出血 | 視床出血 | 脳幹(橋)出血 | 小脳出血 | |
破綻血管 | レンズ核線条体A | 視床穿通Aなど | 橋A | 上小脳A |
眼球運動 | 病側への共同偏視(び→被) | 鼻先凝視 (視床→中心) |
正中位固定 著しい縮瞳 |
健側への共同偏視 |
意識障害 | + | + | 強い意識障害 | 初期はなし |
頭痛 | + | + | 意識障害のため無 | 激しい後頭部痛 |
悪心・嘔吐 | ± | ± | + | 反復性+ |
運動障害 | 対側の片麻痺 →内包後脚近い |
対側の片麻痺 →内包後脚近い |
四肢麻痺 →左右錐体路× |
麻痺なし 運動失調+ |
感覚障害 | 対側の感覚障害 | 対側の感覚障害 | 両側の感覚障害 | 感覚障害なし |
顔面神経麻痺 | 中枢性 | 中枢性 | 末梢性 | ー |
その他 | 失語症 | めまい→歩行障害 |
クモ膜下出血 SAH:Subarachnoid Hemorrhage
疫学 | SAH発症の1/3が死亡、1/3が後遺症、1/3が社会復帰できる。 |
病態 | 動脈瘤(約80%)、AVM(約10%)、もやもや病などにより血管が破裂してくも膜下腔に出血する疾患。その結果、脳ヘルニアとなり意識障害から死亡する可能性がある。 ①急性期:(再破裂による)出血→血腫→脳実質圧迫→脳ヘルニア ②亜急性期:脳血管攣縮→広範な脳梗塞(脳虚血)→脳浮腫→頭蓋内圧亢進→脳ヘルニア ③慢性期:髄液内出血→急性水頭症→脳ヘルニア また、交感神経↑により神経原性肺水腫→呼吸困難も引き起こす。 |
症状 | 【髄膜刺激症状】 ①突然の激しい頭痛:血液が髄膜を刺激するため ②意識障害:低Na血症、脳ヘルニア ③悪心・嘔吐:BBBのないCTZを血液が刺激するため ④一側の散瞳や眼瞼下垂などの動眼神経麻痺(ICPC破裂時) ⑤髄膜刺激症状 ・項部硬直:仰臥位で他動的に頸部を前屈させると痛みを訴え下顎が前胸部につかない ・Brudzinski徴候:項部硬直時に患者が痛みを軽減するため、股関節や膝関節を屈曲させて下肢を胸に引き寄せる現象 ・Kernig徴候:仰臥位で股関節+膝関節を90°に屈曲させた状態で他動的に膝関節を上に伸展させると腰や大腿後面に痛みを訴える |
検査 | 【画像検査】 ①頭部単純CT:鞍上部周囲にヒトデ型の高吸収域 ②MRI:①ではっきりしない場合はFLAIRで出血を確認 ③腰椎穿刺:②で不明な場合は血性髄液(直後)・キサントクロミー(数日後)を確認 ④最終的には脳血管撮影・3D-CTA・MRAで動脈瘤の部位同定や評価を行う。 |
治療 | 【急性期(24時間以内)】←再破裂予防+頭蓋内圧亢進予防 24時間以内の再破裂を防ぐため降圧+鎮痛+鎮静する(この状態だと半日くらい放置しても問題ない)。血管攣縮前(72時間以内)であれば開頭→クリッピング術やカテーテル→コイル塞栓術を行う。 【亜急性期(72時間〜2週間)】←脳血管攣縮予防 出血した血液成分によって脳血管攣縮が起こり脳虚血が起こる(72時間〜2週間)。その予防のため血腫除去、トリプルH(輸液により循環改善・血圧上昇・血液希釈)を行う。 【慢性期(数週〜数ヶ月)】 出血により続発性の正常圧水頭症が起こり(数週〜数ヶ月)、認知症・尿失禁・歩行障害などで発症する。その際は水頭症に対する治療を行う。 |
脳動脈瘤 Cerebral aneurysm
病態 | 主に脳動脈分岐部にできる血管の瘤で、約20%は多発性で女性に多い。 先天的には動脈壁の中膜欠損、後天的には高血圧や動脈硬化などが原因となる。 <好発部位> うちの高校の前校長は中央大学出身 約30% 内頸A-後交通A分岐部:ICPC(易破裂) 約30% 前交通A(易破裂) 約20% 中大脳A分岐部 その他 脳底A先端部(易破裂) ※脳底Aを除き、脳動脈瘤はWillis動脈輪の前半部に発生する(約80%)。 |
症状 | 【未破裂】 基本的に無症状。ICPCの動脈瘤は動眼神経を圧迫し、先ず、外側の副交感N成分圧迫で散瞳を起こす。さらに運動N成分圧迫で眼瞼下垂・複視といった動眼神経麻痺を呈する。 【破裂】 くも膜下出血を参照 |
検査 | 【画像検査】MRAや3D-CTAでスクリーニングを行い、脳血管撮影で治療を前提とした血行動態の評価を行う。 |
治療 | 無症状の場合、経過観察+血圧コントロール。 神経圧迫症状がある場合、未破裂であれば救命できるため、開頭クリッピング術 or カテーテル→コイル塞栓術を行う(破裂した場合はクモ膜下出血を参照) |
一過性脳虚血発作(TIA:transient ischemic attack)=脳梗塞の前駆症状
病態 | アテローム血栓性病変や心臓からの微小塞栓により一過性に脳血管が閉塞する病態。 TIAを疑ったら緊急入院し、原因検索を行う。 【TIA重症度=ABCD2スコア】 Age(年齢):60歳以上 Blood pressure(血圧):収縮期140以上 or 拡張期90以上 Clinical features(臨床症状):片麻痺(2点)、麻痺を伴わない言語障害 Duration(症状の持続時間):60分以上(2点)、10〜59分 Diabetes(DM):糖尿病 |
症状 | 閉塞した支配領域に応じた反復する脳梗塞似の症状(通常数分〜1時間以内に消失)。 ①内頸A系の閉塞:一過性黒内障(片目)、片麻痺、失語(優位半球障害) ②椎骨・脳底A系の閉塞:構音・嚥下障害(脳幹虚血)、運動失調・動揺歩行(小脳虚血)、複視(外転N核の虚血)、四肢脱力(drop attack)など多彩な症状 |
検査 | ①アテローム血栓性の検索:頸動脈雑音の聴取、頸動脈エコー、MRA・3D-CTで頸動脈狭窄を確認 ②心原性塞栓子の検索:心エコー、Holter心電図などで確認 |
治療 | 【心原性】 抗凝固療法を行う(PT-INRモニタリング)。 【非心原性】 頸動脈狭窄が軽度(狭窄度50%未満)の場合は内科的治療(抗血小板療法)、中等度以上(狭窄度50%以上で症状あり)の場合は①頸動脈内膜剥離術(CEA)、②頸動脈ステント留置術(CAS)を検討。 |
Wallenberg症候群=延髄背外側症候群(代表的な脳幹梗塞)
病態 | 椎骨Aおよび分枝の後下小脳A(PICA)の閉塞によって延髄背外側の一部が壊死し、突然下記の症状が出現する疾患。錐体路は障害されないため四肢麻痺はない。 |
症状 | ⑤:交代性の温痛覚障害:病側の顔面温痛覚障害(三叉N×:橋→延髄の経路で×)+頸部以下の対側の上下肢温痛覚障害。 ⑧:病側の前庭N核障害:めまい、悪心嘔吐、眼振(蝸牛N核は橋なので聴覚は正常) ⑨⑩:病側の球麻痺:舌咽+迷走N核障害により嗄声、吃逆、嚥下障害、カーテン徴候 H:病側のHorner症候群:交感神経節前ニューロンの障害により縮瞳、眼瞼狭小化など 小:病側の下小脳脚障害:小脳症状によって失調性歩行、断綴言語 我は極道の星(ワレ、は8、ご5、く9、どうの10、ほHorner、し小脳) |
検査 | 【眼球運動検査】 前庭神経核の障害による眼振を確認 【画像検査】 MRI:拡散強調像で延髄外側の高信号 |
治療 | 脳梗塞に準ずる |
その他の脳幹梗塞
病態 | 症状 | |
視床症候群 | 後大脳A分枝である視床膝状体Aの閉塞→視床の梗塞 | 対側:感覚障害、視床痛(異常な自発痛) |
Weber症候群 | 後大脳A分枝である視床穿通枝Aの閉塞→中脳腹側の梗塞 | 病側:動眼N麻痺 対側:片麻痺、中枢性顔面N麻痺 |
Benedikt症候群 | 後大脳A分枝である視床穿通枝Aの閉塞→中脳背側の梗塞 | Weber症候群と同じ +上下肢の不随意運動(×赤核) |
Millard-Gubler症候群 | 脳底Aの傍正中枝の閉塞→橋の梗塞(進行するとMLF症候群) | 病側:末梢性顔面N麻痺、外転N麻痺 対側:片麻痺 |
AVM・もやもや病(若年者の脳卒中)
脳動静脈奇形(AVM) | もやもや病(Willis動脈輪閉塞症) | |
疫学 | 20〜40歳代に好発、男性に多い(2:1) | 10歳以下、30〜40歳代に好発(二峰性) |
病態 | 毛細血管を通さず脳の動静脈がつながりnidus(異常な血管の塊)を形成する先天性奇形。 | 両側性の内頸A終末部の狭窄により前・中大脳Aの血流が低下。その結果、側副血行路(もやもや血管)が形成される疾患。 |
症状 | 【nidus未破綻】脳実質を圧迫し、痙攣発作、進行性の片麻痺、頭痛などを起こす。 【nidus破綻】脳出血やSAHを起こす。 |
【小児】過換気で誘発される脳虚血発作(一過性片麻痺、脱力、起床時頭痛など) 【成人】脳虚血・脳出血症状(1:1) |
検査 | 【画像検査】 CT:単純で高・低吸収域の混在、造影で不均一な高吸収域を確認 MRI:無信号域(flow void)として黒く抜けて写る。 脳血管撮影やMRA:nidusを確認 |
【画像検査】 MRI:基底核部にもやもや血管の断面が点状の無信号域(flow void)として確認 脳血管撮影やMRA:内頸A終末部狭窄ともやもや血管を確認 |
治療 | 開頭によるnidus全摘、ガンマナイフ AVM前処置で流入動脈塞栓術 |
血行再建のため外頸Aの浅側頭A→中大脳Aへ直接バイパスする(STA-MCA吻合術) |
内頸動脈海綿静脈洞瘻(硬膜動静脈瘻) CCF
病態 | 頭部外傷などで、海綿V洞の中を走行する内頸Aが破綻して瘻が生じた疾患。その結果、内頸A→海綿V洞に血流が流れ、眼Vへ逆流して眼Vがうっ血する。外傷から1ヶ月後に生じることもある。 |
症状 | 【3徴】 ①拍動性眼球突出 ②結膜充血&浮腫 ③眼窩部の拍動性雑音 ④その他:複視(動眼3N〜外転6Nが圧迫:海でさぶろう) |
検査 | 【画像検査】 内頸A造影:海綿V洞が早期に描出 |
治療 | 【手術】 海綿静脈洞塞栓術:眼Vの瘻孔閉鎖し、眼窩内圧を下げて充血・複視を改善させる |
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