認知症 dementia

脳神経

認知症の概要

後天的に知能が低下し(特に記銘力低下・見当識障害・遂行機能障害)、生活に支障を来した状態を認知症という。物忘れがひどくて〜と認識がある場合はまだ認知症ではない!

認知症患者は自尊心や羞恥心などの感情は比較的保たれているため尊厳を持って接すること

【認知症の原因】

神経変性による認知症 血管性の認知症 治療可能な認知症
Alzheimer型認知症(最多)
Lewy小体型認知症
前頭側頭型認知症
Parkinson病
進行性核上性麻痺
大脳皮質基底核変性症
Huntington病
血管性認知症 正常圧水頭症(脳室拡大)
甲状腺機能低下症(T4↓)
神経梅毒(Argyll Robertson瞳孔+)
慢性硬膜下血腫
Wernicke脳症(VB1↓)
ビタミンB12不足
うつ病

【代表的な認知症の比較】

Alzheimer型 Lewy小体型 脳血管性
疫学 女性に多い 男性に多い 男性に多い
主な障害部位 側頭+頭頂葉 後頭葉 梗塞部位
特徴 アミロイドβ蓄積
タウ蛋白蓄積
Lewy小体(α-シヌクレイン蓄積) CTで脳梗塞巣や脳出血巣
中核症状
(必発)
記憶障害、見当識障害、遂行機能障害 幻視、パーキンソニズム、動揺性の認知障害 まだら認知症、情動失禁
BPSD 夕暮れ症候群(夕方から夜にかけて不穏になる状態)、物とられ妄想 REM睡眠行動異常、自律神経障害
脳血流SPECT 頭頂葉・側頭葉、後部帯状回の血流低下 後頭葉の血流低下 梗塞巣や出血巣の一致した血流低下

認知症へのアプローチ

①ADL・IADLの評価

認知機能の障害によりADLやIADLが障害されていること知ることが最初のステップ

ADL(DEATH) IADL(SHAFT)
・Dressing:着替え
・Eating:食事
・Ambulation:移動
・Toileting:排泄
・Hygiene:風呂や整容
・Shopping:買い物
・Housekeeping:清掃
・Account:お金の管理
・Food preparation:料理
・Transport:公共交通機関の利用

②MMSE or 改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)を評価

問診で具体的にどの高次脳機能が障害されているかを評価

前頭葉 側頭葉 頭頂葉 後頭葉
・自発性低下
・常同行動
・脱抑制
・記憶障害 ・半側空間無視
・失行
・視空間認知障害

ADはMMSEで桜・猫・電車の再生が不良になることが特徴(前向性健忘)

MMSE 30点満点中、23点以下で認知症判断の感度81%、特異度89%
HDS-R 30点満点中、20点以下で認知機能低下と判断
MoCA-J 25点以下でMCI(軽度認知障害)に関して感度93%、特異度87%

【MMSE】

【HDS-R】

③treatable dementiaの除外

正常圧水頭症
慢性硬膜下血腫
神経梅毒
HIV感染症
脳腫瘍
てんかん
甲状腺機能低下症
低血糖症
高アンモニア血症
高Ca血症
ビタミンV1欠乏
ビタミンV12・葉酸欠乏
うつ病 PHQ-2、高齢者抑うつ尺度(GDS15)

【確認事項】

①受診の契機 ●自ら、それとも家族から促されて?
自ら受診:正常老化、またはうつ病(物忘れを過大に訴える)
促されて:AD
②礼節と雰囲気 ●礼節が保たれているか?無愛想・明るい・暗いなど
AD:礼節が保たれており、明るい
③病識の有無
病識に乏しい:AD
④取り繕いの有無 ●言い訳や取り繕いが見られるか?
取り繕い・言い訳・振り返り徴候:AD
⑤幻覚の有無
寝室のドアや天井に人がいるなどの幻視:レビー小体
⑥妄想の有無
⑦感情障害の有無 怒りやすい、抑うつなど

【検査】

血液検査 TSH・T4、NH3、VB1、BV12、葉酸、梅毒、HIV
頭部CT 慢性硬膜下血腫、水頭症、大まかな萎縮の評価
頭部MRI
うつ病 うつ病スクリーニングを実施
髄液検査 髄膜炎や脳炎、多発性硬化症を違う場合

④認知症の精神症状・行動異常(BPSD)の評価

BPSDとは、中核症状によって引き起こされる二次的な症状のこと

認知症患者は現実世界に対応することができず、BPSDを呈している

中核症状 記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、失行、失語、失認など
精神症状 不安、抑うつ、妄想、幻覚、誤認
行動異常 徘徊、多動、不潔行為、収集癖、暴言暴力

⑤治療

treatableでない、変性疾患が原因の場合は周囲の理解や介護保険申請など社会的支援を行い、残された能力を十分に活用することで日常生活へ対応していくことを目標とする。

コリンエステラーゼ阻害薬は覚醒度の上昇を伴うため興奮や不穏になりやすい場合があり、また食欲低下や下痢、徐脈といった副作用もあるため、薬剤治療効果と副作用を天秤にかけて処方する。

Alzheimer型認知症 AD:Alzheimer Disease

病態 海馬(少し前の話を忘れる)→後頭葉(日にちを忘れるなどの見当識障害、薬の過不足が出る)→頭頂葉(着衣の障害、道に迷う)→側頭葉(言語理解がわからない)→大脳全体の順に萎縮し(相対的に脳室拡大)、認知症状をきたす。見当識障害は時間→場所→人の順に障害されることが多い。
萎縮部位にはアミロイドβが蓄積した老人斑とタウ蛋白が蓄積した神経原線維変化を認める。
症状 【初期(1〜3年)】
記銘力低下:新しいことを覚えられない
時間の見当識障害:今日の日時を言えない
抑うつ症状(意欲低下)や人格変化(頑固さ・自己中心性↑)
遂行機能障害:物事を段取りよく進めることができない(前頭葉機能障害)
【中期(2〜10年)】
場所の見当識障害:空間認知ができず迷子になり、徘徊する
物盗られ妄想:近時記憶障害
失語・失認・失行・失算
喚語困難:物の名前が出てこなくなる
鏡像現象:視覚失認により鏡に映った自己を他人と認識して話しかける
症候性てんかん:側頭葉(海馬)の神経細胞の変性による複雑部分発作が多い
【末期(8〜12年)】
人物の見当識障害
着衣失行:衣服の着脱が困難
尿失禁・便失禁・弄便
異食(何でも口に入れる)
無言:意志の疎通困難
無動:寝たきり
【診察時の反応】
取り繕い反応:物忘れや実行機能障害のためにわからない、または失敗しているが、うまくごまかそうとする(前頭葉を使って言い訳を考える)
振り返り徴候:問診中にわからないことがあると、付き添いの家族の方に振り向いて代わりに答えさせようとする。
検査 【画像検査】
CT・MRI:脳室や脳溝の拡大、側頭葉(海馬)の萎縮
脳血流SPECT:後頭帯状回・楔前部・頭頂連合野の血流低下
髄液検査:Aβ42低下(脳Aβ沈着を反映)、リン酸化タウ蛋白増加
治療 【薬物療法】
中枢性ChE阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)
NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)

Lewy小体型認知症 DLB:Dementia with Lewy Body

病態 レビー小体が脳幹〜大脳皮質にかけてびまん性に出現する疾患(Parkinson病は脳幹のみにレビー小体を認める)。つまり、認知症+パーキンソンニズム。
注意・遂行機能・視空間認知障害が主体で初期は記憶障害がそこまで目立たず日内変動がある点がアルツハイマー型と異なる。
レビー小体型認知症は、レビー小体のみを認める純粋型、老人斑や神経原線維変化も認める通常型に大別できる。
症状 <通常型>
動揺性の認知障害:頭がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい
②パーキンソニズム:全く認めないこともあり診断に必須でない、パーキンソン病と比べて振戦を伴うことは少ない、レボドパ反応性は悪く幻視悪化しやすい
③自律神経障害:起立性低血圧、過活動膀胱など
幻視:壁の模様が人の顔に見えるなど、夕方〜夜にかけて多い(幻視に対して抗精神病薬を投与すると感受性が高く、少量でもパーキンソニズムが増悪する
REM睡眠行動異常・睡眠障害:本人は覚えていないが夜中声を出して暴れる
検査 【画像検査】
ドパミントランスポーターSPECT:基底核におけるドパミン集積低下
MIBG心筋シンチグラフィ:集積低下
脳血流SPECT:後頭葉の血流↓(Lewy小体型認知症に特異性の高い所見)
【睡眠ポリソムノグラフィ】
筋緊張低下を伴わないREM期睡眠
治療 ドネペジル、レボドパ
REM睡眠行動異常に対してはクロナゼパム0.5mg眠前
抗コリン薬と抗精神病薬は相対的禁忌!ベンゾジアゼピン系薬は投与注意。

前頭側頭型認知症 FTD(Pick病の前頭葉型)

疫学 90%以上が40〜60歳の中年期に発症(65歳以上の発症は極めて稀)
※よって高齢者の人格変化はFTDではなくアルツハイマー型のBPSDの場合が多い
病態 タウ蛋白の異常蓄積により前頭葉と側頭葉の神経細胞を変性させる疾患。
症状 記銘力障害:初中期は記憶障害が目立たない
人格変化:無関心・自発性低下、逆に脱抑制による反社会的行動
常同行動:毎日決まった時間に決まった行動をする
滞続言語:どんな場面でも同じセリフを繰り返す
遂行機能障害:目標を決めて計画を立て、段取りを踏んで実行することができない
検査 【画像検査】
CT・MRI:前頭葉・側頭葉の萎縮
SPECT:前頭葉・側頭葉の血流↓
治療 なし

血管性認知症 VaD:Vascular Dementia

病態 TIAや脳卒中による脳血管の出血や梗塞が起こり、神経細胞が障害されて突然認知症を発症し、新たな出血や梗塞が加わると段階的に認知症が悪化する疾患。血管性認知症では歩行障害や痙性などの運動と関係する神経所見を伴うことが多い
【タイプ】
①脳梗塞により高次脳機能障害を後遺症として残すタイプ
②多数の梗塞巣を呈するタイプ
③皮質下白質に虚血性変化を呈するタイプ
※高齢になるとアルツハイマー型との混合病理を呈するタイプも多い
症状 ①②の場合
まだら認知症:梗塞部位に応じて片麻痺、構音障害などの運動障害を生じる
段階的に悪化:梗塞部位が加わるたびに段階的に症状が悪化する
情動失禁:感情が不安定で些細なことで泣く、笑う、怒る。人格は末期まで保たれる
症状 ③の場合
緩徐進行性の認知症:皮質下の認知機能を保つネットワークが断線されて生じる
検査 【画像検査】
MRI・MRA:梗塞・出血病変
治療 脳血管障害の再発予防

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