肩関節の診察
肩の解剖
肩関節は5つの骨(上腕骨、肩甲骨、鎖骨、胸骨、肋骨)から構成され、烏口肩峰靭帯が形成するアーチの下には腱板と肩峰下滑液包がある(肩関節の周囲は腱板が覆っている)。

(回旋筋)腱板:4つの筋(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の腱が集合したもの
二足歩行の人間は回旋筋腱板の負担が大きく、肩の痛みの原因は回旋筋腱板由来の問題が多い。

肩の痛みのred flag
| ①心筋梗塞 | 突発性、心電図異常 |
| ②緊急性の高い骨折脱臼 | Xpで骨折脱臼像、指先の感覚異常、動脈触知不能、開放創 |
| ③化膿性肩関節炎 | 関節穿刺歴や血流感染リスクのある患者、明らかな熱感 |
| ④腫瘍 | 体重減少、画像でPancoast腫瘍・骨腫瘍・骨転移 |
肩以外に由来する痛み
| 頚椎神経に関連する痛み | 肩関節可動域制限少ない、上肢のしびれあり、Spurling testなど陽性 |
| 内臓疾患の関連痛 | 心筋梗塞、横隔神経刺激(phrenic shoulder pain)![]() |
| 皮膚筋肉由来の痛み | 蜂窩織炎、帯状疱疹、横紋筋融解、筋炎など |
肩に由来する痛み
インピンジメント:肩を動かした際に肩関節の内部で組織同士がぶつかり合って衝突すること
| 肩関節 | 五十肩:除外診断、全方向で自動・他動いずれも可動域制限ある |
| 炎症(化膿性、関節リウマチ、結晶性):発熱 | |
| 変形性肩関節症:Xpで関節の隙間の狭さや骨の変形を確認 | |
| 腱板 | インピンジメント症候群→腱板断裂:他動的な可動域制限を認めない、筋力低下 |
| 石灰沈着性腱板炎:Xpで腱板の石灰化を確認 | |
| 肩峰下滑液包炎:? | |
| PMR:朝のこわばり、多関節炎 | |
| 腱 | 上腕二頭筋腱炎:腱の圧痛あり、Yergason test・Speed testが陽性 |
①肩関節のROM評価
| ①apley scratch test | 肩関節の可動域評価(=ROM) |
| 方法 | 背側から対側の肩甲骨を触るようにする![]() |
| 評価 | 外転・外旋、内転・内旋の制限(左右差確認)や疼痛誘発がある場合、インピンジメント症候群、腱板損傷、肩関節周囲炎などの可能性 |
②腱板の評価
| ①painful arc sign | 腱板の評価 |
| 方法 | 肩関節を自動→他動的に外転させ、60〜120度で疼痛が誘発されたら陽性。上腕骨骨頭と肩峰との間に腱板や肩峰下滑液包が挟み込まれて疼痛が生じる。![]() |
| 評価 | 腱板断裂や肩峰下滑液包炎の可能性 |
| ②外転筋力テスト | 棘上筋の評価 |
| 方法 | 患者の母指を地面に向けた状態で肩関節を外転させ、検者は地面に押さえつけるように力を加える![]() |
| ③外旋筋力テスト | 棘下筋と小円筋の評価 |
| 方法 | 患者の脇を締めた状態で、肘関節90度屈曲位で肩関節を外旋させる。検者はその動きに抵抗する方向へ力を加える![]() |
| 評価 | painful arc sign+筋力低下で腱板断裂の可能性 |
③上腕二頭筋腱の評価
| ①Yergason test | 上腕二頭筋腱や関節内インピンジメントの評価 |
| 方法 | 肘90度屈曲位(小さく前ならえ)で手掌を床に向ける。患者に前腕を回外させるよう指示し、検者は抵抗を加え疼痛が誘発されれば陽性![]() |
| ②Speed test | 上腕二頭筋腱や関節内インピンジメントの評価 |
| 方法 | 検者は上腕二頭筋結節間溝を押さえながら、肘を伸展位にし手掌を天井に向ける。前方に挙上させ疼痛が誘発されれば陽性![]() |
| 評価 | 陽性で上腕二頭筋腱炎や肩峰下インピンジメント症候群の可能性 |
肩の痛み
肩関節周囲炎(五十肩/癒着性肩関節包炎/凍結肩)
| 疫学 | 40〜60歳代に好発 |
| 病態 | 五十肩は除外診断からなる症候群であり、肩関節包の肥厚と収縮による関節容積減少が病態の中心にあると推定されている。何らかの原因により生じる持続的な滑膜炎に伴って線維化促進因子(TGF-βなど)が発現し、関節包の線維化が生じ、疼痛による関節の過度の安静も加わって関節拘縮に至り可動域制限が起こると考えられている。![]() |
| 症状 | ①肩の疼痛:臥位の夜間痛、徐々に進行する肩全体のこわばりが特徴 ②可動域制限:発症3ヶ月以後に生じ、背中を掻く、髪の毛をとかす結ぶなどがしにくい ※頸部や肩甲骨周囲の疼痛を訴えることもあるが、肩関節機能障害による姿勢不良や代償による二次性の筋痛が原因であり肩関節由来ではない |
| 所見 | 触診:圧痛点なし、全方向で自動・他動いずれも可動域制限ある(左右差確認) ※インピンジメント症候群は特定の動作で疼痛や可動域制限がある ![]() |
| 検査 | Xp:異常なし(骨折脱臼、石灰性腱炎を除外) エコー:異常なし(腱板損傷を除外) MRI:関節包の肥厚と高輝度変化が特徴(腱板断裂がないことも確認) |
| 治療 | 介入しなくても発症から約2年で自然治癒するが、介入により短くできる可能性あり 薬物療法:鎮痛薬、温熱療法 運動療法:病期に合わせた対応、可能な範囲で適度な運動を行い拘縮予防に努める |
| 生活 | 着衣の順番は動きが悪い側から通して着る |
肩関節の腱板損傷・断裂
| 病態 | 腱板に亀裂が入る疾患。多くの場合は棘上筋腱から断裂が始まり、腹側や背側に伸長する。外傷による損傷よりも加齢に伴う退行性変化が圧倒的に多く、80歳代では50%に認める。腱板断裂すると腱が自然修復することはなく、手術による修復を行うほかない。 |
| 症状 | ※高齢者の約7割が無症状 ①肩の疼痛:挙上時痛や患側臥位による夜間痛(インピンジメントにより生じる) ②可動域制限:疼痛肢位回避によるものが多い(他動的には制限を認めない) ③筋力低下:進行すると関節不安定性により生じる |
| 所見 | 視診:進行すると棘上筋や棘下筋が萎縮(五十肩では見られない) 触診:棘上筋断裂部の触知、他動的な可動域制限を認めない |
| 検査 | 【画像検査】 エコー:断裂部を確認 MRI:T2強調像で断裂部が高信号となる ![]() |
| 治療 | 若年者:手術の可能性あり整形外科に紹介 高齢者:多くは保存加療、リハビリ |
石灰性腱炎
| 疫学 | 30〜50代の女性に好発 |
| 病態 | 腱板に石灰(リン酸Ca)が沈着することで局所が膨隆し、肩峰下インピンジメントによる運動時痛や運動制限が生じる病態。棘上筋腱と棘下筋腱の移行部に好発する。 |
| 症状 | 突然肩の激痛が生じ、ほとんど上肢を動かせない |
| 所見 | 視診:一般的に肩関節の発赤腫脹はない |
| 検査 | X線、エコー:腱板の石灰化を確認![]() |
| 治療 | 安静、鎮痛薬。症状は数ヶ月に及び日常生活に支障をきたすため整形外科に紹介 |
上腕二頭筋腱炎
| 病態 | 上腕二頭筋長頭腱はインピンジメントや結節間溝での慢性的、または反復する刺激により腱鞘炎や腱炎が生じる。具体的な刺激として上肢を使うスポーツ、台所作業、掃除機、床や窓拭きといった肘を曲げ伸ばしする動作を繰り返す後に発症する。 |
| 症状 | 肩前面に限局した疼痛 |
| 所見 | 触診:腱の圧痛 Yergason test・Speed test:陽性 |
| 検査 | エコー:炎症による長頭腱の腫大や腱鞘内の水腫、カラードプラで血流の増加あり |
| 治療 | 安静、鎮痛薬で保存加療し、自然治癒を待つ |
外傷による肩の痛み

肩関節脱臼(=関節包靭帯断裂)
| 病態 | 直接肩をぶつける、または腕を引っ張られることで、上肢に伸展・外転・外旋が強制され肩が後に持っていかれるような動作の時に生じる。95%以上が前方脱臼で、周囲の靱帯が伸びるため一度脱臼すると反復性脱臼になりやすい(20歳未満の初回脱臼では約90%が反復性となる)。合併症として、肩関節脱臼では上腕骨頭が関節窩から擦れながらはずれ、互いに傷つき骨折することが多く、上腕骨頭に陥没ができるのがHill-sachs lesion、関節窩の縁に骨折を認めるのがBankart lesionという、しかし、緊急性は低い。また、中高年では腱板断裂を合併することも多い。 |
| 症状 | ①肩関節痛:自動的に動かすことができない、整復後は痛みが軽減/消失する ②関節脱臼感:肩がはずれた/抜けた感じ ③腋窩神経損傷(三角筋筋力低下、三角筋部の知覚低下):脱臼時に合併する場合あり |
| 検査 | 【身体所見】 apprehension test:肩関節90度外転+90度外旋位の状態で、上腕骨近位部を前方に押すと肩がはずれそうな不安感で陽性 【画像検査】 ①X線:左右の肩の画像を撮像、正常は上腕骨頭と関節窩が赤線のように適合している(右)が、脱臼すると適合が見られない(左) ②CT:Hill-sachs lesion、Bankart lesionの評価 ③MRI:関節唇や腱板などの軟部組織の損傷の評価、occult fractureの評価 |
| 整復 | 【徒手整復法】以下の順に整復トライ ①肩関節注射:20cc注射器にキシロカイン®を20cc吸引し、22Gで肩外側から正中に向けて15〜20cc注射する。 ②外旋法→Milch法:1人でも実施可能で、仰臥位で行う。 ③肩甲骨回旋+Stimson法:2人で実施する方法で、腹臥位で行う。筋肉質な人向け。 ④反対牽引法:静脈ルートを確保し、透視下で2人で実施する方法で、仰臥位で行う。⑤整復後はX線で確認する。 |
| 固定 | 【整復後は固定】 ①三角巾固定:3週間は外旋位に固定 ![]() |
| 転帰 | 整復後は紹介状と整復前後の写真を添付し、翌日または週明けの整形外科へ受診を指示。 R:1〜2週間安静にし、疼痛が軽減してきたら可動を開始する ①冷却:湿布は使用せず、タオルの上からじんわりと冷やす ②疼痛:アセトアミノフェン |
肩鎖関節脱臼
| 病態 | 肩鎖関節は3本の強固な靱帯で結合され可動性はないが、コンタクトスポーツなや転倒などでこれらの靭帯の損傷で肩鎖関節が動いてしまう病態で、Rockwood分類を行う(転位なしⅠ〜Ⅱ、転位ありⅢ〜Ⅳ)。![]() |
| 症状 | ①肩関節痛:肩の上が痛い ②肩の出っ張り感:鎖骨遠位部が僧帽筋により上方へ引き上げられる |
| 検査 | 【身体所見】 piano key sign:突出部を押すと整復され、離すと浮き上がる(Ⅲ以上) 【画像検査】 Xp:鎖骨2方向+肩2方向で左右撮像、鎖骨遠位端骨折や烏口突起骨折を併発することもあるため確認する、Xpだと靭帯は見えないため肩峰下端と鎖骨下端の距離で脱臼を判断するがⅠ〜Ⅱは転位なくXpでは判断できないため臨床所見と合わせて判断、転位がある場合はRockwood分類を行う(Ⅲ〜Ⅳは手術を考慮) CT:高エネルギー外傷の場合や腫脹や内出血の程度がひどい場合に追加 |
| 固定 | 【整復後は固定】 ①三角巾固定:Ⅰは約1週間、Ⅱは約3週間固定、Ⅲ以上は手術考慮 ![]() |
| 転帰 | 固定後、整形外科を予約し、当日もしくは帰宅して後日受診(上肢外傷のため、歩行可能であるため入院はしない)。 ①冷却:湿布は使用せず、タオルの上からじんわりと冷やす ②疼痛:アセトアミノフェン |
上腕の痛み
上腕骨近位部骨折
| 疫学 | 骨粗鬆症の高齢者に多い |
| 病態 | 高齢者の転倒などによる低エネルギー外傷により肩を打撲して生じる骨折(約90%)。成人や小児では高エネルギー外傷で生じる(約10%)。骨折片による神経障害が生じることがあり、腋窩神経障害、肩甲上神経障害の順に多い。 |
| 症状 | ①肩関節痛、肩関節周囲の発赤腫張 ②患側上肢の神経障害:肩の外側の知覚低下・外転筋力障害(腋窩神経障害) |
| 検査 | 【画像検査】 Xp:正面とスカプラY像の2方向で撮像し、骨頭・小結節・大結節・骨幹部の4部位に注目して骨折線や転移を探す CT:骨折があればCTを撮像しNeer分類を行う![]() |
| 固定 | 【診断したらまず固定】 ①三角巾固定:腕を吊るす固定だけで腕の重さで整復位となる ![]() |
| 手術 | Neer分類で2パート骨折以上の場合は手術を考慮 |
| 転帰 | 固定後、整形外科を予約し、当日もしくは帰宅して後日受診(上肢外傷のため、歩行可能であるため入院はしない)。基本的には保存加療となり、整形外科に通いながら骨の癒合を待つ。1〜2週間は固定して安静とし、その後リハビリを開始する。 ①冷却:湿布は使用せず、タオルの上からじんわりと冷やす ②疼痛:アセトアミノフェン |
鎖骨の痛み
鎖骨骨折
| 病態 | 約90%は肩ぶつけて介達外力によって生じ、残り約10%は直接鎖骨をぶつけて生じる。鎖骨は中央で折れることが多く、騎乗位変形などの変形治癒を起こすことが多いが、機能障害は少ない。稀に骨折片による腕神経叢損傷、血胸、気胸を生じることがある。 |
| 症状 | ①鎖骨の疼痛 ②患側上肢の神経障害:肩の外側の知覚低下・外転筋力障害(腋窩神経障害) |
| 検査 | 【身体所見】 鎖骨の圧痛 【画像検査】 X線:鎖骨前後像と斜位像の2方向で撮像 |
| 固定 | ①鎖骨バンド(クラビクルバンド、8の字バンド)固定 肩甲骨を正中方向に寄せて胸郭を開くことで、骨折部の整復と変形進行予防が期待されることから鎖骨バンドを用いる。1日数回バンドを締め直して矯正位を保つ。疼痛が強い受傷後1〜2週間は三角巾を併用することもある。 |
| 手術 | 転移が大きい場合やもともとのADLに合わせて整形外科で手術を検討 |
| 転帰 | 固定後、整形外科を予約し、当日もしくは帰宅して後日受診(上肢外傷のため、歩行可能であるため入院はしない)。基本的には保存加療となり、整形外科に通いながら骨の癒合を待つ。通常4〜6週間は固定して安静とする。 ①冷却:湿布は使用せず、タオルの上からじんわりと冷やす ②疼痛:アセトアミノフェン |











②CT:Hill-sachs lesion、Bankart lesionの評価
③MRI:関節唇や腱板などの軟部組織の損傷の評価、occult fractureの評価
②外旋法→Milch法:1人でも実施可能で、仰臥位で行う。
③肩甲骨回旋+Stimson法:2人で実施する方法で、腹臥位で行う。筋肉質な人向け。
④反対牽引法:静脈ルートを確保し、透視下で2人で実施する方法で、仰臥位で行う。

CT:高エネルギー外傷の場合や腫脹や内出血の程度がひどい場合に追加
CT:骨折があればCTを撮像しNeer分類を行う


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