整形外科総論

整形外科

骨の解剖生理

骨の構造

骨の機能は①体形の保持と臓器の保護、②造血、③CaとPの貯蔵である。骨は常に3~5%入れかわっているため、ビタミンD欠乏症では骨は脆くなる。

  分布 詳細
皮質骨 (緻密骨) 骨の表層 皮質骨は、骨膜より直接骨形成される骨(膜性骨化)で、密度が高い(多孔度低い)。 骨膜+中間層+骨内膜の3層から形成され、中間層には同心円状の層板骨配列(オステオン)が存在する。オステオンは破骨細胞と骨芽細胞のリモデリングによって作られた骨単位である。中間層には長軸に沿って走行するHavers管(Hの縦)、横に連結するVolkman管があり、管の中を血管・リンパ管・神経線維が走行している。
【代表的な皮質骨】
頭蓋骨、腸骨、肩甲骨、顎骨などの扁平骨 ②鎖骨
海綿骨 骨の内側 海綿骨は、軟骨が石灰化して骨形成される骨(軟骨内骨化)で、密度が低い(多孔度高い)。 スポンジ状構造(骨梁)をとっており、リモデリングが早いため骨粗鬆症では海綿骨から減少する。海綿骨の間腔は骨髄で満たされている。
長管骨 横径の成長は膜性骨化、長軸方向の成長は軟骨内骨化による。
長管骨は構造的に骨端、骨幹端、骨幹に分けられる。
骨幹端には成長軟骨板があり、思春期を過ぎると成長が停止して骨端線となる。
【血液循環】
①骨端骨幹端動脈:骨端、骨幹端を栄養
②栄養動脈:骨幹のVolkmann管・Havers管から骨髄内へ侵入
③骨膜動脈:骨膜を栄養
(骨端線閉鎖前は成長軟骨板があるため、骨端骨幹端Aと栄養Aは吻合がない)

脊椎(脊柱)の構造

  26個の椎骨 その他
頸椎 C1〜C7 前弯 第一頸椎:環椎、第二頸椎:軸椎、第七頸椎:隆椎
胸椎 T1〜T12 後弯 肋骨24本が左右に付着
腰椎 L1〜L5 前弯  
仙椎 S1〜S5+尾骨 後弯  

骨の構成成分

細胞成分 骨芽細胞 Ⅰ型コラーゲンなどの有機基質の合成分泌する。また、アルカリホスファターゼⅢを分泌し、無機質を細胞周囲に沈着させて石灰化を促進する。
  骨細胞 石灰化によって骨芽細胞が細胞外成分中にはまり込んだものを骨細胞といい、骨細管によって周囲の骨芽細胞と連絡している。
  破骨細胞 無機質を溶かす酸(炭酸脱水素酵素Ⅱ型によって産生)、有機基質を溶かす基質蛋白分解酵素(カテプシン・MMP・コラゲナーゼなど)を分泌して骨組織を吸収する。役割を終えると破骨細胞はアポトーシスする。
細胞外成分 有機基質 約90%は支持蛋白のⅠ型コラーゲン骨に弾性をもたらす。残り10%はコラーゲンの隙間に入り込んで水分の保持に関与するプロテオグリカンなどがある。
  無機質(骨塩) Ca+リン酸+水酸基=ヒドロキシアパタイトを形成し、骨に硬さをもたらす。

細胞の分化

【骨芽細胞・骨細胞・軟骨細胞への分化】

骨とホルモンの関係

副甲状腺ホルモン (PTH) PTHは骨芽細胞を介して破骨細胞の分化を促進させ、骨吸収を促進する。
PTHの分泌亢進により、骨髄が線維化し線維性骨炎を呈する。
カルシトニン カルシトニンは破骨細胞に作用し、骨吸収を抑制する。
成長ホルモン (GH) GHは肝細胞と骨芽細胞に作用しIGF-Ⅰの合成を促進する。
IGF-Ⅰの過剰分泌により、成長期では軟骨内骨化を促進して巨人症、成人では膜性骨化を促進して末端肥大症を引き起こす。
甲状腺ホルモン 甲状腺ホルモンはGHの発現を亢進させる。
甲状腺ホルモンの分泌過剰により、成人では骨粗鬆症を引き起こす。逆に分泌低下では、成長期では低身長となる(クレチン病)。
エストロゲン エストロゲンは骨芽細胞にエストロゲン受容体に結合し、IL-1,6,11の合成を抑制し、骨吸収を抑制する。
閉経後、エストロゲンの分泌が低下すると骨粗鬆症が生じやすくなる。ちなみに、エストロゲンは乳癌・心臓発作・脳卒中の発生率を増加させる。

軟骨の解剖生理

軟骨細胞(5%)+細胞外基質(95%)で構成され、クッションの役割を果たす。細胞外基質はⅡ型コラーゲンヒアルロン酸、プロテオグリカンを主成分とする。関節軟骨には血管・神経が存在しないため自然修復しない

  分布 その他
硝子軟骨(コリプル) 関節などさまざまな場所 石灰化しやすい、再生能力ない
弾性軟骨(コリコリ) 喉頭蓋など 石灰化しにくい
線維軟骨(サクサク) 椎間板など体重がかかる場所 主にⅠ型コラーゲンで構成

関節の解剖生理

関節は可動関節(滑膜関節)と不動関節に大別される。可動関節は内腔が滑膜に覆われた関節腔が存在するのが特徴である。滑液は関節の潤滑と関節軟骨の栄養を担っている。

関節可動域は自動運動より他動運動の方が大きい。

基本肢位 解剖学的肢位のことであり、手掌を前に向けた静止直立した時の各関節の肢位。
良肢位 関節の可動生が失われている状態でも、最も機能的に良好となる肢位。
ギプス固定の際の目安:肘関節90度など

代表的な可動関節(左膝関節)

可動関節の種類

可動関節の形状 代表的な関節
一軸性 車軸関節 橈尺関節、正中環軸関節
  蝶番関節 腕尺関節、指節間関節
二軸性 鞍関節 母指CM関節、胸鎖関節
  楕円関節 橈骨手根関節
多軸性 球関節 肩甲上腕関節、股関節
軸なし 平面関節 椎間関節、足根中足関節

関節運動と主な作用筋

屈曲・伸展:矢状面の運動、外転・内転:前額面の運動

関節 運動 作用筋
肩関節 屈曲 三角筋、大胸筋
(軸:肩峰) 伸展 三角筋、広背筋
  外転 三角筋(腋窩神経=C5+C6)、棘上筋(肩甲上神経)
  内転 大胸筋⇨猫背は大胸筋が拘縮して起こるため、大胸筋の付着部である上腕骨をほぐしてやると良い!
(軸:肘頭) 外旋 棘下筋(肩甲上神経)、小円筋(腋窩神経=C5+C6)
↑小サク前ナラエ 内旋 大胸筋、大円筋(肩甲下神経=C5〜C8)⇨腕組みをした時の状態
肘関節 屈曲 上腕二頭筋(筋皮神経=C5+C6)
  伸展 上腕三頭筋(橈骨神経=C5〜C8)⇨腕立て伏せの筋肉
前腕 回内 円回内筋、方形回内筋
  回外 回外筋、上腕二頭筋
手関節 掌屈 橈側手根屈筋正中神経+尺側手根屈筋尺骨神経
(軸:手関節) 背屈 長橈側+尺側手根伸筋橈骨神経=C5〜C8)⇨麻痺で下垂手
  橈屈 橈側手根屈筋(正中神経C6〜T1)⇨麻痺で猿手
  尺屈 尺側手根屈筋(尺骨神経C8〜T1)⇨麻痺で鷲手
股関節 屈曲 腸腰筋大腿神経←L2~L4)+大腿直筋大腿神経)
(軸:大転子) 伸展 大殿筋(下殿神経←L5~S2)+大腿二頭筋(坐骨神経)
(軸:上前 外転 中殿筋(上殿神経)
腸骨棘) 内転 長内転筋(閉鎖神経←L2〜L4)、大内転筋
(軸:膝蓋骨) 外旋 外旋筋群(下殿神経、仙骨神経叢)
  内旋 小殿筋+中殿筋(上殿神経)
膝関節 屈曲 大腿二頭筋(坐骨神経)+半膜様筋⇨2つ合わせてハムストリング
  伸展 大腿四頭筋(大腿直筋+外側・中間・内側広筋:大腿神経←L2〜L4)
足関節 背屈 骨筋+長趾伸筋(骨神経←L4〜S2)⇨かかと立ち。
脚を長時間組むと総腓骨神経麻痺となり下垂足となる。
(軸:足底) 底屈 下腿三頭筋脛骨神経←L5〜S3。末端はアキレス腱となり踵骨で停止)⇨つま先立ち

関節可動域の異常

拘縮 関節包の関節構成体(筋、靱帯など)の病変によって関節可動域が減少した状態。
例えば、靭帯が癒着するなど。
強直 関節包の関節構成体の病変によって関節可動域が減少した状態。
例えば、関節軟骨が破壊され骨同士が癒合することなど。

手の構造

足の構造

脊髄神経と筋・反射・感覚(デルマトーム)の関係

  主な動作筋+障害による反射異常 感覚障害
C1~C3 胸鎖乳突筋
→頭部の前屈・回転
 
C4 呼吸
C4横隔神経横隔膜
 
C5 肘関節屈曲+回外:電動車イス、食事の自助具使用が可能
C5→筋皮神経→上腕二頭筋(反射異常:上腕二頭筋腱反射↓)
②肩関節外転+伸展+屈曲
C5→腋窩神経→三角筋
上腕外側
C6 手関節:※テノデーシスActionが可能→自己導尿、衣服着脱が可能
C6→橈骨神経→手根(反射異常:上腕二頭筋+腕橈骨筋腱反射↓)
※テノデーシスActionとは、手関節の背屈により手指の屈曲動作が起き、手関節の掌屈により手指の伸展動作が起きること⇨手指の弱いつまみ動作が可能!
②肩関節内転:車イス駆動可能
C6→胸筋神経→大胸筋
前腕橈側
母指、示指
C7 肘関節:プッシュアップによる移動可
C7→橈骨神経→上腕三頭筋反射異常:上腕三頭筋腱反射↓)
②手関節(屈曲)・指の伸展
C7→正中・尺骨神経→手根筋・指の伸展筋群
中指
C8~T1 指の屈曲筋群、手内筋
手の巧緻運動(指の屈曲・伸展):つまむ・書く
前腕尺側
環指、小指
T6 上部肋間筋、上部背筋
→上部体幹の安定性:松葉杖にて歩行可能
 
T12 腹筋、胸椎部背筋
→骨盤帯挙上:松葉杖にて歩行可能
 
L2 腸腰筋
L2→大腿神経→股関節屈曲
 
L4 膝関節展:松葉杖1本にて歩行可能
L4→大腿神経→大腿四頭筋(反射異常:膝蓋腱反射↓
下腿内側
L5 足関節:かかと立ち
L5→深腓骨神経前脛骨筋母指伸筋群
下腿外側
足背内側
S1 足関節:つま先立ち
S1→脛骨神経下腿三頭筋(S1反射異常:アキレス腱反射↓
下腿背面
足底

【デルマトーム】

親指→C6 親はろくでなし
小指→C8 子はパッパラパー
乳首→Th4 乳首立ってるよん(4) 
臍→Th10 臍はバツ→十
鼠径→L1 L1と書くと「ソ」に見える
大腿前面→L4前後 大腿頭筋はだいたいL4

検査

骨代謝マーカー

骨形成マーカー 血中骨型ALP(BAP) 骨芽細胞より分泌される。骨Paget病、くる病で上昇
  血中オステオカルシン 骨形成の際に骨芽細胞で形成される蛋白質。
  血中P1CP プロコラーゲンがトロポコラーゲンになる際に切断されるC末端断片。
  血中P1NP プロコラーゲンがトロポコラーゲンになる際に切断されるN末端断片。
骨吸収マーカー 血中酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRACP-5b) 破骨細胞から分泌される。
  尿中NTx コラーゲンが破骨細胞のカテプシンKで切断されるN末端断片。
  尿中CTx コラーゲンが破骨細胞のカテプシンKで切断されるC末端断片。
  尿中デオキシピリジノリン コラーゲンの分子間架橋物質で、架橋が切断される際に尿中に出現する。

徒手筋力テスト(6段階)MMT:manual muscle testing

100% normal(正常) 強い抵抗に打ち勝つ
75% good(優) 多少の抵抗に打ち勝つ
50% fair(良) 抵抗なければ動く、重力のみには打ち勝つ(次元の動き
25% poor(可) 重力を除けば完全に動く→水平面の運動次元の動き
10% trace(不可) 関節は動かないが、筋収縮のみ認める
0% zero 筋収縮なし

関節液検査

関節を穿刺して滑液を調べる検査。膝関節の場合、穿刺部位は神経や血管のない外側上部が適切。血性+脂肪滴の場合は、関節内骨折を疑う。

  正常 非炎症性 炎症性 化膿性 血性
透明〜淡黄色 透明〜淡黄色 半透明、黄色 不透明、膿性 赤色
WBC(/μL) 200以下 200〜2000 2000〜5万 5万以上
粘稠性 様々
疾患 ・変形性関節症
・神経病性関節症
・RA
・膠原病
・痛風
偽痛風
・細菌感染(化膿性関節炎など) ・外傷
・色素性絨毛性結節性滑膜炎
・血管腫

【偏光顕微鏡検査】

痛風 尿酸Na血症(針状結晶)
偽痛風 ピロリン酸Ca結晶

関節鏡検査・関節鏡下手術

MRIの発達により関節鏡検査は少なくなった。

関節鏡下手術は侵襲が少ないため、膝の半月板損傷や靭帯損傷、肩関節脱臼などに用いられる。

治療

人工関節置換術

手術適応 非感染性疾患(RA、変形性膝関節症、骨壊死など)、
疼痛・可動域制限が著しい、比較的高齢者
特徴 【利点】除痛効果に優れており、O脚の矯正も行える。
【欠点】正座ができなくなる。長期使用でゆるみ、摩耗、破損するため60歳以上にしか行えない。術後に深部静脈血栓症のリスクが上昇する。耐用年数は約10年。骨セメント硬化時、一時的に血圧が低下する
主な部位 股関節、膝関節(TKA:Total Knee Arthroplasty(人工膝関節置換手術)の略)
禁忌 感染性疾患(化膿性関節炎、結核性関節炎など)、神経病性関節症
合併症 早期:血管や神経の損傷、脱臼、感染、深部静脈血栓症、肺動脈塞栓症
晩期:緩み、感染(バイオフィルム形成)、脱臼、人工関節の摩耗、骨溶解など

骨移植

分類 ①自家骨移植:骨誘導によって骨形成が起こる(間葉系細胞が骨や軟骨に分化)。
②同種骨移植:骨誘導によって骨形成が起こる。血管付き移植の場合は感染しやすい。
③人口骨移植:骨伝導によって骨形成が起こる(新生血管が人工骨に入り込む)。
適応 ・外傷や腫瘍の切除によって生じた骨欠損の修復
・骨折の遷延癒合
・関節や脊椎の固定など

温熱療法

適応 骨萎縮、関節拘縮、筋緊張亢進など
禁忌 急性炎症、知覚障害、局所血流不全

牽引療法

徒手牽引 骨折、脱臼の整復
介達牽引 皮膚、軟部組織を介して牽引する方法
例:上腕骨顆上骨折、大腿骨骨折、頸椎骨折、骨盤骨折
直達牽引 骨を直接牽引して牽引力を働かせる方法
例:頸椎骨折、成人の骨折

リハビリテーション

リハビリは機能障害の回復・維持などのための訓練や環境整備であり、生活の場を想定してプログラムを立てる。リハビリによって長期臥床による廃用症候群の予防などが期待できる。

介護が必要になった原因は、脳血管疾患>認知症>高齢による衰弱>骨折・転倒>関節疾患の順である。

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