血液ガスを行う理由
動脈血 | ①緊急時・重症患者の評価 |
②PaO2・PaCO2・酸塩基平衡の正確な評価 | |
静脈血 | 電解質異常・Hb・血糖値の迅速検査やフォロー(mmHg=Torr) |
血液ガスを理解するための予備知識
PaO2とSpO2の関係(酸素解離曲線)
横軸:酸素分圧(PaO2)、縦軸:Hb酸素飽和度(SaO2)←低いと酸素を多く放出する!
Hbは4量体であり、酸素分圧の高い肺胞では1つのサブユニットに酸素分子が結合するとアロステリック効果によってHb立体構造が変化し、他のサブユニットにも酸素分子が結合しやすくなる。
左シフト | 右シフト | |
意義 | 酸素が解離しにくい状態 | 酸素が解離しやすい状態 |
事象 | HbF(胎児Hb)、CO中毒 | pH低下、CO2上昇、温度上昇、※2,3-DPG増加 |
※解糖系中間産物の2,3-DPGが増加するとATP産生が低下するため右シフトする。
SpO2(Hb酸素飽和度) | 97% | 90% | 75% | 50% |
PaO2(酸素分圧) | 90Torr | 60Torr | 40Torr | 25Torr |
緩衝系
血液pHは、7.40±0.05の範囲に調節され(酸塩基平衡)、pH変化があっても以下の緩衝系でpHを維持しようとする働きがある。酵素には至適pHがある。
①炭酸重炭酸塩緩衝系 | H2O+CO2⇔H2CO3⇔H+HCO3 |
②リン酸塩緩衝系 | H2PO4⇔H+HPO4 |
③蛋白緩衝系 | HProt⇔H+Prot |
④Hb緩衝系 | HHb⇔H+Hb |
アシデミア、アシドーシス、アルカレミア、アルカローシス
アシデミア | 酸血症のこと。血液pH7.35未満 |
アルカレミア | アルカリ血症のこと。血液pH7.46以上 |
アシドーシス | ●プロトンを増加させる病態や生理的反応 pH低下+PaCO2↑=呼吸性アシドーシス pH低下+HCO3↓=代謝性アシドーシス |
アルカローシス | ●プロトンを低下させる病態や生理的反応 pH上昇+PaCO2↓=呼吸性アルカローシス pH上昇+HCO3↑=代謝性アルカローシス |
動脈血液ガスの結果
基準値 | 詳細 | |
FiO2(吸入中酸素濃度) | 0.21(Room air) | Aガス提出時の投与O2濃度を入力 |
P/F値(PaO2/FiO2) | 約500(100/0.21) | ●高いFIO2が必要な場合の酸素化の指標 P/F=AガスのPaO2/吸入酸素濃度 健常人:400以上 軽症ARDS:300以下=ALI(急性肺障害) 中等症ARDS:200以下 重症ARDS:100以下 |
pH | 7.4±0.05 | |
PaO2(血中酸素分圧) | 80〜100 Torr | 60Torr(SpO2 90%)未満で呼吸不全 |
SaO2(動脈血酸素飽和度) | 95 %以上 | O2-Hbが占める割合、SpO2=SaO2 |
PaCO2 (血中二酸化炭素分圧) |
40±5 Torr | 46Torr以上で高CO2血症→肺以外の呼吸中枢、呼吸筋などに異常がある! PaCO2↑の場合、必ずPaO2↓となる。 |
HCO3- (血中重炭酸イオン濃度) |
24±2 mEq/L | 22以下で代謝性アシドーシス 26以上で代謝性アルカローシス |
AG (アニオンギャップ) |
12±2 mEq/L | ●AG=Na-(Cl+HCO3) ※但し、低Alb血症では補正AGで判断! AGとは血ガスでは測定できない陰イオンの集合体(乳酸・ケトン体・Albなど) ・AG14以上:pH正常でも必ず代謝性アシドーシスが存在する! ・AG正常代謝性アシドーシス:高Cl血症 |
補正AG | 12±2 mEq/L | ●補正AG=AG+2.5×(4-血中Alb) 低Alb血症の場合に用いるAGの式 |
補正HCO3 | 24±2 mEq/L | ●補正HCO3=HCO3+AGー12 AG増加型代謝性アシドーシスが原因で減少した分のHCO3を補充したもの→補正してもHCO3が以下の異常値の場合 |
BE (Base Excess:塩基過剰) |
±2 mEq/L | 過剰塩基をpH7.4にするのに必要な酸の量 -2未満で代謝性アシドーシス ※-10以下はショックの可能性 +2以上で代謝性アルカローシス |
生化学などその他項目
動脈血のみで評価可能なものは赤字
注意点 | |
cCre | 測定できない施設もある |
cNa | 脂質異常症やM蛋白血症による偽性低Na血症でも正確なNa値がわかる |
cK | WBC・PLT増多による偽性高K血症でも正確なK値が得られやすい |
cCl | ー |
cCa | 実測値、単位がmEq/Lなので4倍する(mmol/Lの場合は8倍する) |
cCa(pH7.4) | pH7.4に補正された値、単位補正は同上 |
tHb | ー |
cHct | ー |
sO2 | 酸素飽和度=FO2Hbと脱酸素化ヘモグロビン(HHb)の比率 |
ctO2 | 定義:血液中の総酸素量(=血中溶存酸素濃度+Hb結合した酸素濃度) |
p50 | 定義:酸素解離曲線上の酸素飽和度50%の部位の酸素分圧 正常値:24~28 mmHg p50の上昇:Hbの酸素との親和性が低下=酸素解離曲線の右シフト p50の低下:Hbの酸素との親和性が上昇=酸素解離曲線の左シフト |
pO2(A-a.T) | =A-aDO2=(150-0.8/PaCO2)-PaO2 正常値:年齢×0.3以下 mmHg以下(条件:FiO2 0.21のroom air) 20以上:肺胞から肺血管への酸素拡散ができず、何か肺の異常がある! |
pO2(a/A.T) | =PaO2(動脈)/PAO2(肺胞)の比で、肺での酸素化能を評価する指標。一般的に、a/A比は高いほど酸素化能が高い |
FO2Hb | 正常値:90~95% Hb結合した酸素濃度で、主に潜在的な酸素運搬能力を反映する |
FCOHb | 正常値:0.5〜1.5%(喫煙者では1.5〜5.0%まで上昇する場合あり) COHbはHbにCOが結合した状態でCOHbにはO2が結合できない。火災や練炭自殺では増加していないか確認する |
FMetHb | 正常値:0〜1.5% MetHbはHbにFe3+が存在する状態でMetHbにはO2が結合できない。上昇する原因は薬剤性が多くが多い |
静脈血ガスの注意点
pH | 静脈血pH:動脈血pH-0.03 | 静脈血でも評価可 |
PaO2 | ー | 不正確で評価できない |
PaCO2 | 静脈血PvCO2:動脈血PaCO2+4.41 | PvCO2が45以下ならPaCO2は50以下 |
HCO3 | 静脈血HCO3:動脈血HCO3+1.03 | 静脈血でも評価可 |
Lac | 静脈血Lac:動脈血Lac+0.25 | 静脈血が基準値内なら動脈血も基準値内 |
乳酸値(Lactate)
正常:14mg/dL以下(駆血で静脈血のみ上昇する場合があるので注意)
循環不全、低酸素 (pCO2↑) |
全身性 | ショック、重篤な貧血、心停止、外傷、熱傷、CO中毒、シアン化物 |
局所性 | 四肢や腸管の虚血、限局した外傷や熱傷、コンパートメント症候群、壊死性軟部組織感染症、末梢血流不全 | |
労作性 | けいれん、呼吸仕事量増加、激しい運動 | |
循環不全なし | 基礎疾患 | 悪性腫瘍、敗血症、VB1欠乏、肝不全、腎不全、褐色細胞腫、DKA、アルコール性ケトアシドーシス |
薬剤性 | メトホルミン、アセトアミノフェン、β刺激薬、テオフィリン、アルコール、プロポフォール、シアン化物、COなど | |
先天性 | G6PD欠損症、先天性ミトコンドリア症など |
A:呼吸の評価
※静脈血ガスはPaCO2、PaO2の正確な評価ができない。
①呼吸不全(=低酸素血症)を分類
SpO2が90%以下(=PaO2が60mmHg以下)では呼吸不全があり、Aガスを採取
Aガスの結果 | |
PaCO2が46以上 | 肺以外の呼吸中枢、呼吸筋などに異常がある(Ⅱ型呼吸不全)。 ただし、AaDO2が開大している場合は肺も異常がある。 |
PaCO2が45以下 (AaDO2が開大) |
肺胞から肺血管への酸素拡散ができず、何か肺の異常がある(Ⅰ型呼吸不全)。労作時呼吸困難、過換気によるアルカローシスが特徴。 |
【呼吸不全の分類】
原因 | 詳細 | |
Ⅱ型呼吸不全 =高CO2血症伴う |
①肺胞低換気(気道閉塞、無呼吸、呼吸数低下、ALSなどの神経筋疾患) ②閉塞性肺疾患(COPD、喘息、DBP) |
①②によってCO2も吐けない状態(高CO2血症) AaDO2は正常 |
Ⅰ型呼吸不全 =CO2蓄積なし |
③O2拡散障害(肺炎、肺水腫) ④換気血流不均衡(肺塞栓症) ⑤右→左シャント、肺動静脈瘻 Ⅰ型の症状は運動時の低酸素血症が特徴! また、低O2により過換気となり呼吸性アルカローシスを呈する。 |
③はO2を取り込めない、④⑤は取り込んだO2が流れない状態=AaDO2は開大する! ガス拡散能の高いCO2は蓄積しないが、O2は拡散しないためDLCOは低下する!(例外:COPDも低下) |
②AaDO2を確認
AaDO2 = PAO2-PaO2 = FiO2分圧-PaO2
=150-PaCO2/0.8-PaO2=(760-47)×FiO2-PaCO2/0.8-PaO2
吸入した肺胞O2分圧(FiO2分圧)と動脈血O2分圧の差が開大している場合(=AaDO2が0.3×年齢以上※)、肺胞→血液にO2が移動できない理由が肺にあると予測できる。
※FIO2を21%と仮定した場合なので、吸入酸素をしている場合はAaDO2が開大して正確に評価できない点に注意
AaDO2が開大する原因 | 代表疾患 |
①肺拡散能の障害 | 間質性肺炎、加齢 |
②換気血流比不均衡の拡大 | 肺気腫、肺水腫、重篤な肺炎、無気肺、肺塞栓 |
③右心系→左心系への非生理的シャント | ARDS、肺動静脈奇形、ASD、VSD、PFO |
③の場合はO2投与してもなかなかSpO2上がってこないのが特徴。
B:酸塩基平衡の評価
アシデミアを見る4Step
①pHの判断 | pH7.35以下でアシデミアの状態→アシドーシスの原因を検索 |
②呼吸性?代謝性? | まず、PaCO2で説明できるか確認、PaCO2 45以上:呼吸性アシドーシス PaCO2が正常の場合はHCO3を確認、HCO3 22以下:代謝性アシドーシス |
③AG開大型 | ①代謝性の場合はAGを計算 ・AG14以上:AG増加型代謝性アシドーシスと判断(pH正常でも同様) ②AG増加(AG14以上)の場合は補正HCO3を計算 ・補正HCO3が22以下:AG正常型代謝性アシドーシスを合併 ・補正HCO3が26以上:代謝性アルカローシスを合併 ③原因不明なAG開大の場合は血漿浸透圧ギャップを計算 血漿浸透圧ギャップがある場合は未知の浸透圧物質、つまりアルコール・メタノール・エチレングリコール・パラアルデヒドが存在する可能性がある |
③AG正常型 | ①AG正常の場合は尿アニオンギャップを計算(尿細管性アシドーシスの評価) ・尿AG−30程度:下痢など ・尿AG+20程度:尿細管性アシドーシス |
④代償は適切か? | 呼吸性の代償はすみやかだが代謝性の代償は数日かかるため、代謝性から計算 ●代謝性アシドーシスの代償:HCO3が1mEq/L低下するごとに、呼吸数増やしてPaCO2が1.2Torr(±2程度)低下していれば単純性、予測値よりPaCO2が低下している場合は呼吸性アルカローシスも併存している。 ●急性呼吸性アシドーシスの代償:PaCO2が10Torr上昇するごとに、HCO3が1mEq/L(±2程度)上昇していれば単純性、予測値よりHCO3が高い場合は代謝性アルカローシスも併存している。 ●慢性呼吸性アシドーシスの代償:PaCO2が10Torr上昇するごとに、HCO3が4mEq/L(±2程度)上昇していれば単純性、予測値よりHCO3が高い場合は代謝性アルカローシスも併存している。 |
アルカレミアを見る4Step
①pHの判断 | pH7.46以上でアルカレミアの状態→アルカローシスの原因を検索 |
②呼吸性? | まず、PaCO2で説明できるか確認、PaCO2 40以下:呼吸性アルカローシス |
②代謝性? | PaCO2が正常の場合はHCO3を確認、HCO3が26以上なら代謝性アルカローシス |
③代償は適切か? | 呼吸性の代償はすみやかだが代謝性の代償は数日かかるため、代謝性から計算 ●代謝性アルカローシスの代償:HCO3が1mEq/L上昇するごとに、PaCO2が0.7Torr(±2程度)上昇していれば単純性、予測値よりPaCO2が上昇している場合は呼吸性アシドーシスも併存している。 ●急性呼吸性アルカローシスの代償:PaCO2が10Torr低下するごとに、HCO3が2mEq/L(±2程度)低下していれば単純性、予測値よりHCO3が低い場合は代謝性アシドーシスも併存している。 ●慢性呼吸性アルカローシスの代償:PaCO2が10Torr低下するごとに、HCO3が4mEq/L(±2程度)低下していれば単純性、予測値よりHCO3が低い場合は代謝性アシドーシスも併存している。 |
④代償が不適切の場合 | 他の酸塩基平衡が混在してる可能性あり、PaCO2の予測値と比較する →予測値と実測値の差が±2以内は単純性、±2以上であれば混合性と判断 <代謝性アルカローシス> PaCO2=HCO3+15 <急性呼吸性アルカローシス> PaCO2が1mmHg低下する毎にHCO3が0.2mM減少 <慢性呼吸性アルカローシス> PaCO2が1mmHg低下する毎にHCO3が0.4mM減少 |
代謝性・呼吸性障害の原因
AG増加型 代謝性アシドーシス (KUSSMAL-Pで鑑別) |
Ketoacidosis(ケトアシドーシス):DKA、飢餓 Uremia(尿毒症):慢性腎不全 Salicylate(サリチル酸) Sepsis(敗血症) Methanol:メタノール中毒 Alcohol:アルコール中毒 Lactic acid(乳酸):乳酸アシドーシス※ Paraldehyde(パラアルデヒド):酢酸、クロロ酢酸など |
※乳酸アシドーシス | 循環障害/ショック、敗血症、心肺停止蘇生後、高度な低酸素血症、メトホルミンなどの薬剤、VB1欠乏、悪性腫瘍、肝不全など |
AG正常型 代謝性アシドーシス |
【低K血症を合併】 ・下痢 ・尿細管性アシドーシス(Ⅰ型、Ⅱ型) ・薬剤性(アセタゾラミド、アムホテリシンB) ・尿路変更術後 ・膵液瘻、腫瘻、胆汁瘻 【高K血症を合併】 ・尿細管性アシドーシス(Ⅳ型) ・Clイオンを多く含む輸液(生食)の大量投与 ・副腎不全 ・腎不全の初期 ・薬剤性(スピロノラクトン、ST合剤、ARB、NSAIDsなど) ・さまざまな腎疾患 |
代謝性アルカローシス | 【まず、発症因子を確認】 ①酸の喪失:腎性喪失(利尿薬、原発性Ald症などのミネラルコルチコイドの過剰)、腎外性(嘔吐、胃液ドレナージ)、細胞内シフト(低K血症) ②アルカリの増加:外因性(NaHCO3投与や大量輸血などアルカリの投与、ミルクアルカリ症候群)、内因性(乳酸アシドーシスや呼吸性アシドーシスの急激な改善、細胞外液量の低下=腎臓への循環血漿量の低下) 【次に、維持因子があれば代謝性アルカローシスと判断】 ※腎臓はHCO3を大量に排出することができるため、アルカローシスをすぐに改善する。つまり、維持因子(腎臓からHCO3排出を阻害する要素)がないと代謝性アルカローシスは成立しない ①有効循環血漿量の低下およびClの欠乏:HCO3濾過の減少、尿中HCO3分泌低下、遠位尿細管でのHやKの排出増加(①の場合は細胞外液量の減少、尿中Clが20mEq/L未満と減少があり、生食の良い適応となる) ②K欠乏:尿細管での尿中H分泌増加 ③ミネラルコルチコイド作用過剰や低Mg血症:遠位尿細管でのHやKの排出増加(生食を輸液しても改善しない) |
呼吸性アシドーシス | ・意識障害 ・低換気によるCO2蓄積(COPD、気道閉塞、神経疾患、過鎮静) ・高度な肥満 |
呼吸性アルカローシス | ・過換気によるCO2不足(パニック、疼痛、発熱、低酸素血症の初期、肝不全、心不全、甲状腺機能亢進症、妊娠) |
B’:血液ガスを使わずに酸塩基平衡の鑑別をする方法
AG=Na-Cl-HCO3を利用し、AGやHCO3に異常ない場合はNa-Cl=AG+HCO3=12+24=36前後となるはずである。よって、AG正常であればNa-Clが36以上ならHCO3の上昇と考えられ、反対に小さい時はHCO3の低下と考えられる。
例)CO2ナルコーシスの評価で、過去の検査でNa-Clが36以上なら呼吸性アシドーシス、つまりCO2貯留の可能性が考えられる。
Na-Cl<36以上(HCO3↓) | Na-Cl=36 | Na-Cl>36(HCO3↑) |
・AG正常型代謝性アシドーシス ・呼吸性アルカローシスの代償性変化 |
正常 | ・代謝性アルカローシス ・呼吸性アシドーシスの代償性変化 |
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