心不全 HF:Heart failure

循環器

心不全の病態と分類

病態 心不全は前負荷・後負荷・心収縮力のいずれかの病態が原因で起こり、臓器に必要な血液量を供給できない状態。
また、心臓は前負荷・後負荷の増大を改善しようと、
・心筋が肥大して適応しようとする(心筋リモデリング)
・心房からANP、心室からBNPが分泌され、Na利尿+血管拡張しようとする
【左室駆出率(LVEF)による分類】
ヘフレフ(HFreducedEF):左室の収縮不全で起こる心不全(左室駆出率40%未満
ヘフペフ(HFpresevedEF):左室の拡張不全で起こる心不全(左室駆出率50%以上)
※after load mismatch:EFは正常に保たれたまま血圧が上昇して心不全が生じた状態
【進行速度による分類】
急性心不全、慢性心不全
【心拍出量による分類】
低拍出性心不全:虚血性心疾患、弁膜症、拡張型心筋症、肺高血圧症など
高拍出性心不全:重症貧血・甲状腺機能亢進症(酸素需要↑)、動静脈シャント・脚気心(末梢血管抵抗↑)
【障害部位による分類】
左心不全、右心不全
うっ血性心不全:心臓に戻れなくなった血液が臓器で溢れ返っている状態

低心拍出量症候群 LOS:low output syndrome

病態 心拍出量が減少する病態
診断 心臓手術後、急性心筋梗塞後、CPR後などに生じ、心係数2.2以下の場合LOSと診断

心不全の経過とステージ

厚生労働省.脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会. 脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について(H29年7月より )

心不全の多くは急性心不全として発症し、その後、代償化され慢性心不全に移行する。その後、急性増悪による非代償性急性心不全を反復し、最終的に難治化して死に至る。

AHA心不全ステージ分類
(American Heart Association)
病期をステージAからステージDまでの4期に分類し、適切な治療介入を行うことを目的とする心不全の病期の進行に関する分類
<無症候期>
①ステージA:器質的心疾患ないが、リスク因子あり
②ステージB:器質的心疾患もリスク因子もあり
<心不全症候出現>
③ステージC:器質的心疾患あり、心不全症候あり
④ステージD:治療抵抗性心不全
NYHA重症度分類
(New York Heart Association)
種々の身体労作により生じる自覚症状のみに基づいて判定される心不全の重症度分類
<ステージBと同等>
①NYHA Ⅰ度:心疾患はあるが、症状はなし
<ステージC以上>
②NYHA Ⅱ度:坂道や階段を歩いて登ると息切れが出る
③NYHA Ⅲ度:平地歩行をするだけでも息切れが出る
④NYHA Ⅳ度:安静にしていても息切れが出る

心不全の症状

循環
不全
症状
①全身:倦怠感(骨格筋の酸素不足で乳酸が蓄積)、四肢冷感、チアノーゼ、冷汗
②心:動悸
③脳:頭痛、意識障害
④腎:尿量減少(夜間尿、乏尿)
⑤肺:Cheyne-Stokes呼吸(LVEF低下を示唆、予後不良サイン)
左心
不全
症状
左心不全:肺うっ血(肺水腫)をきたした状態(緊急:低酸素血症)
※急性発症では前負荷の増加は認められないため、下腿浮腫はない
呼吸困難:肺水腫によって拡散障害が起こりPaO2低下により頻呼吸となる。特に夜間は臥位で静脈還流が増加するため、喘鳴を伴うこともある(心臓喘息)。
起坐呼吸:初期は労作時呼吸困難だが、進行すると安静時呼吸困難=起坐呼吸となる
ピンク色泡沫状喀痰増加:肺うっ血が高度になり毛細血管が破綻すると喀出され、咳を伴う。聴診で吸気時に水泡音が聴こえる。
④胸水:漏出性に生じる
【身体所見】
・腹部頸静脈逆流(AJR)
・心尖部でⅢ音・Ⅳ音→奔馬調律
・吸気時のcoarse crackles、進行して細気管支浮腫による呼気のwheezes聴取
右心
不全
症状
右心不全:体循環うっ血をきたした状態(準緊急)
下腿浮腫(pitting edema)
頸静脈怒張(JVD):右房圧上昇を直接反映し、ヘッドアップ45度以上にして呼気時の内頸静脈怒張で評価。内頸静脈拍動の最高点を胸骨角の高さを基準(JVH)として測定し、JVH+5cmH2O=推定中心静脈圧で計算される
※頸静脈怒張がはっきりしない場合は腹部頸静脈逆流を行う:頸部を左回旋させ、右季肋下の肝臓部分を手掌で1分間静かに圧迫して頸静脈を見る方法で、心不全では圧迫中に内頸静脈拍動が4cm以上上昇し続ける
③腹部膨満感:肝うっ血による肝腫大のため
体重増加:通常2〜3kg増加する。体液貯留の指標となる。
消化器症状:消化管粘膜のうっ血により食欲不振、悪心嘔吐、腹部膨満感、心窩部不快感などを呈する。
⑥腹水、胸水、心嚢液貯留:漏出性に生じる
【身体所見】
・内頸静脈拍動高(JVH)
・下腿浮腫
・腹水

検査所見

心電図 ST変化(ACSの除外が必要)
胸部X線
(可能なら立位)
心胸郭比(CTR)増加、上肺野の血管陰影増強、肺水腫によるすりガラス陰影、葉間胸水によるカーリーB線・vanishing tumor、胸水貯留でCP角dull、重症では肺門部を中心としたbutterfly shadow
エコー 【救急での測定】
IVC径測定
・長軸でMモードにし、鼻すすりをやってもらい、呼吸性変動を確認
・短軸でもIVC径を確認
傍胸骨長軸像
・HErEFであればその原因(心筋梗塞、弁膜症、肺塞栓症、心筋症)を検索する。M弁尖が中隔に付く場合はHEpEFと考え
肺エコー
・B lineが全肺野にあれば心不全
血液検査 BNP 400pg/mL以上100未満は心不全除外) or NT-proBNP、トロポニン、Dダイマー、ビタミンB1、TSH・T4

【急性呼吸不全に対するBNP・NT-proBNPの評価】

年齢 心不全の可能性低 他疾患の除外必要 心不全の可能性高
BNP 全年齢 100pg/mL未満 100〜500 500以上
NT-proBNP 50歳未満 300pg/mL未満 300〜450 450以上
50〜74歳 同上 450〜900 900以上
75歳以上 同上 900〜1800 1800以上

心不全診断と3つの軸

診断 フラミンガム基準
大症状2つか、大症状1つと小症状2つ以上を心不全と診断する
●大症状
・発作性夜間呼吸困難 or 起坐呼吸:左心不全症状
・肺ラ音(crackles、wheezesなど)
・心拡大
・急性肺水腫:左心不全症状
・Ⅲ音
・静脈圧上昇(16cmH2O以上)
・循環時間延長(25秒以上)
・肝頸静脈逆流
●小症状
・下腿浮腫(10秒圧迫で40秒以上回復しない傾向):右心不全症状
・夜間咳嗽:左心不全症状
・労作時呼吸困難:左心不全症状
・肝腫大:右心不全症状
・胸水貯留
・肺活量減少(最大量の1/3)
・頻脈(120以上)
①原因検索 ①虚血性心疾患(ACS)
②高血圧緊急症
③弁膜症(MR、AR、AS)
④不整脈
その他:心筋症、心筋炎、肺塞栓症、高拍出性心不全、先天性心疾患など
②増悪因子 <FAILURE>
F(Forgot):怠薬
A(Arrhythmia & Anemia):AFなどの不整脈、貧血
I(Ischemia & Infection):感染症、狭心症・心筋梗塞など
L(Lifestyle):塩分過剰摂取、高血圧、アルコール、脱水、ストレスなど
U(Upregulators):甲状腺機能亢進症、脚気心、敗血症、妊娠
R(Rheumatic):リウマチ性のものを含めた弁膜症
E(Embolism):肺塞栓症
③血行動態 臨床所見から、末梢循環不全の有無(warm or cold)とうっ血所見の有無(dry or wet)を基準に4つに区切って分類する
●前負荷:頸静脈度超、浮腫、体重増加
●後負荷:血圧上昇
●心収縮力:末梢冷感、血圧低下、傾眠傾向

【血行動態】(Nohria -Stevemson分類による治療方針)

うっ血所見(wet) 水泡音、起座呼吸、呼吸困難、頸V怒張、肝腫大、浮腫、胸水・腹水
末梢循環不全所見(cold) 四肢冷感、傾眠傾向、冷汗、乏尿

※Forrester分類は侵襲的なSGカテーテル検査が必要なので近年行われない。末梢循環維持に必要な心係数2.2(縦軸)、肺うっ血の生じる圧である肺動脈楔入圧(PAWP)18mmHg(横軸)を基準に4つに区切って分類する。

血圧の評価に基づいた初期治療(初学者向け)

④、⑤
の除外
<クリニカルシナリオ分類:まず④と⑤を除外して治療開始>
④CS4:急性冠症候群
→酸素投与、硝酸薬投与して循環器内科へコンサルト
⑤CS5:右心不全のみで全身性浮腫(肺塞栓症、原発性肺高血圧症など)
→sBP90未満なら強心薬、sBP90以上で体液貯留あれば利尿薬を検討
※④⑤の他に、心筋炎、AS、AR、MRなども除外すること
CS1 ①CS1:sBP140以上+主に後負荷急増による肺水腫(突然の呼吸困難感)
・まずは酸素投与(酸素化を保てない場合はNPPV導入):診断に自信があればリザーバー付きマスクで10〜15Lの高濃度酸素、NPPVの初期設定:CPAPを5〜6mmH2O程度で開始し、効果不十分なら2mmH2Oずつ増量。FiO2は100%から開始し、安定していたら徐々に下げていく。NPPV禁忌に該当しないか確認!
硝酸薬:ニトログリセリン(ミオコール®)1γから開始、数日以内に耐性が獲得されて効果が減弱するため、内服薬へ移行していく。
容量負荷あれば利尿薬:CS2を参照
CS2 ②CS2:sBP100〜140+主に体循環うっ血(全身性浮腫)=Wet&Warmの状態
酸素投与:CS1と同じ
硝酸薬:CS1と同じ(sBP120以下の時は低血圧の危険性あり慎重に投与)
利尿薬:フロセミド(ラシックス®)1回10〜20mg静注から開始
CS3 ③CS3:sBP100未満の低還流で末梢循環不全
輸液負荷(体液貯留がない場合)
・強心薬:ドブタミン、ドパミン、ミルリノン
・IABP:血行動態が不安定な重症心不全に使用

急性心不全の治療

基本ルールとして、非代償性心不全となっても、それまでに心不全に対して使用してきた薬剤は中止しない(特にHFrEFの薬剤)、中止せざるをえなかった場合は安定後に早期再開する。軽度の腎機能障害や無症候性の低血圧があっても心不全治療薬は中止しない。
投与前 利尿剤開始前に尿道バルーンを挿入して、初期尿量を見ておくこと(利尿剤投与後は30〜60分で反応尿があるか確認し、なければ増量する)
【後負荷の増加に対する治療】
低酸素によるストレスでさらに血圧が上昇する悪循環となるためNPPVやHFNCだけでも治療可能なことが多い
Ca拮抗薬や硝酸薬による降圧
※投与前に必ずASを除外する(禁忌)
・ニカルジピンを1μg/kg/分より開始、0.5-2μg/kg/分の範囲で調節
・ニトログリセリンを0.05-1μg/kg/分より開始、5-15分毎に0.1-0.2μg/kg/分増量
・硝酸イソソルビドを1.5-8mg/hrで持続投与、最大10mg/hrまで
【前負荷の増加に対する治療】
前負荷の増加による急性心不全では30日前より徐々に体重増加が認められているとする報告があり急性よりは亜急性で増加することが多い
利尿薬による除水(末期腎不全の場合は透析)
※高齢者では急激な利尿でAFや脱水を引き起こすことが多いため、症状が改善した時点で利尿薬のIVを終了し、エコー所見をみつつ内服で調整する
・初期投与量フロセミド20〜40mg IV、その後2時間後の尿中Na50〜70mEq/L、6時間後の尿量100〜150mL/hrを指標とする(低Na血症ある場合はトルバプタン併用考慮)
・上記を満たせば12時間毎に同量投与、満たさなければ倍量投与
・最大投与量でも達成困難な場合はトルバプタン併用
・CKDがあり、フロセミド投与でも反応性乏しい場合は早期にトルバプタン併用
・うっ血が解消されるまでマイナス1〜2L/日を目標に管理
硝酸薬(利尿薬による効果出現までのつなぎ、症状緩和作用のみ)
後負荷の増加に対する治療を参照
循環 【心機能低下症に対する治療】
急激な心機能低下症による急性心不全はACS、たこつぼ心筋症、全身疾患に伴う心抑制、心筋炎で多い
①強心薬、前負荷軽減薬で対応するが、薬剤コントロール困難な場合はIABPやPCPSが必要になる場合が多い
・ミルリノン
・ドブタミン
治療 【Forrester分類による治療(ICUで治療)】β遮断薬は禁忌!
①の場合:経口心不全薬の調整
②の場合:血管拡張薬+利尿薬(硝酸薬で静脈を拡張+フロセミドやhANPで静脈還流量を減らし前負荷を軽減し、PAWPを低下させる)
③の場合:sBP90が保てない場合、強心薬で心拍出量を増加させ②へ持っていき、その後②の治療。
④の場合:輸液+強心薬(体液貯留がないことを確認し、輸液を行い、強心薬を投与)
【補助循環(薬物投与で改善しない場合)】
①大動脈内バルーンパンピング(IABP):補助増加率約15%
カテーテルを大腿Aから挿入し、胸部下行大動脈で拡張期にバルーン膨張させる。その結果、拡張期血圧↑して冠動脈血流↑、収縮期血圧↓して心拍出量↑となる。
VA-ECMO、旧PCPS(経皮的心肺補助装置):補助増加率50〜80%
カニューレを大腿Vから挿入し、右房から脱血して膜型人工肺で酸素化した後、大腿Aに送血し、ポンプを使って全身に送る(開胸不要)。
③心室補助人工心臓(VAS)=人工心肺:補助増加率100%
開胸時、右房から脱血して膜型人工肺で酸素化した後、大Aに送血し、ポンプを使って全身に送る。

慢性心不全の治療

病態 心機能が低下しているが、代償機構によって安静時はほぼ無症状な状態を指す。
症状 NYHA分類を参照
検査 【検査所見】
体重測定:体重増加で前負荷の増加の可能性
血液検査:BNPモニタリング(50 pg/mL以上で専門医紹介)
治療1 【ステージA】
心不全症状はないが、心不全のリスク因子に対して介入する
・高血圧:ACE阻害薬・ARBが第一選択
・脂質異常症:心血管イベントリスクに応じてスタチンを導入
・2型DM:SGLT2阻害薬使用で心不全による入院リスクを軽減
治療2 【ステージB】
心不全症状はないが、器質的心疾患・左室充満圧上昇・明らかな原因のないトロポニン上昇ある場合、ステージAの対応に加えて器質的心疾患に応じた治療などを行うことで心不全の増悪や死亡リスクの軽減ができる
・EF40%以下(HFrEF):ACE阻害薬・ARBを使用
・心筋梗塞や急性冠症候群の既往があるHFrEF:β遮断薬を使用
・心筋梗塞や急性冠症候群の既往:スタチンを使用
・心筋梗塞後40日以上経過かつEF30%以下の場合は突然死予防のためICD導入検討
治療3 【ステージC】
症候性の心不全でステージABの対応に加えてEFに応じた治療を行う
うっ血所見:ループ利尿薬、効果不十分ではサイアザイドやトルバプタン追加
・HFrEFに対して治療を行なってもNYHA1〜3、EF35%以下でかつ1年以上の余命があれば植え込み型除細動器(ICD)を考慮
・NYHA2〜3または一時的に4となる症例で、EF35%以下で洞調律、左脚ブロックが認められQRS150m秒以上であれば心臓再同期療法(CRT)を推奨
●EF40%以下(HFrEF):収縮障害による心不全(Fantastic4!
β遮断薬:心筋酸素消費量↓、心不全増悪や死亡リスクを低下させる(高用量ほど良いというわけではなく、心拍数低下が死亡リスク軽減と相関性がある)
・カルベジロール(アーチスト®)
・ビソプロロール(メインテート®)
ARNI/ACE阻害薬/ARB:血管拡張して後負荷↓+心腎リモデリング抑制(ARNIは加えてBNP分解抑制→Na利尿することで前負荷↓)
※ACE阻害薬からARNI切り替えは36時間以上あけて投与する
・サクビトリル-バルサルタン(エンレスト®)
MRA:Na再吸収抑制して前負荷↓(高K血症のリスクない場合に使用)、死亡リスクや入院リスクの改善効果がある
・スピロノラクトン(アルダクトン®)
・エプレレノン(セララ®):女性化乳房リスクなし
・エサキセレノン(ミネブロ®):中等度腎機能障害・Alb尿有するDMでも使用可
SGLT2阻害薬:糖尿病の有無に関わらず心血管死亡リスクを低下させる(低栄養やるいそうが強い患者、尿路感染症や陰部感染症繰り返す患者には慎重投与)
・ダパグリフロジン(フォシーガ®)
・エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
●EF50%以上(HFpEF):拡張障害による心不全
●EF40〜50%(HFmrEF):HFpEFとHFrEFの境界型
リスク因子への介入と対症療法が基本
・高度肥満を伴う場合:GLP-1作動薬
治療4 【ステージD】
難治性心不全で、ステージABCの治療に加えて心臓移植・補助人工治療・緩和ケア
その他 ●貧血:心不全増悪、死亡リスク因子となる
・鉄剤投与、EPO使用、Hb7-8g/dLで輸血考慮
生活 【食事療法】
塩分制限:RAA系↑してNa再吸収↑により体液過剰になるため、7g/日以上では急性心不全や脂肪のリスクが上昇する。5-6g/日を目安にする(基本水分制限不要)
②低K血症予防:野菜・果実摂取
【運動療法】
適度な運動:ADL低下+静脈血栓予防(運動禁忌の場合もあるので注意)

 

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