心臓の解剖
心臓の構造(弁・溝)
心臓は手拳大の大きさで、成人で約300gの管腔臓器である。
半月弁は拡張期に腱索に引っ張られ開口する。
右房(RA:Right Atrium) | 左房(LA:Left Atrium) |
三尖弁(T弁:Tricuspid valve)←腱索あり | 僧帽弁(M弁:Mitral valve)←腱索あり |
右室(RV:Right Ventricle) | 左室(LV:Left Ventricle) |
肺動脈弁(P弁:Pulmonary valve)←半月弁 | 大動脈弁(A弁:Aortic valve)←半月弁 |
心臓を出入りする血管
上大静脈・上行大動脈の後ろに右肺動脈が位置する。
→CTで「人」の左に上大静脈・上行大動脈が位置する。
刺激伝導系
心膜と心内膜
心膜=臓側心膜+壁側心膜+線維性心膜
血管の解剖
動脈・毛細血管・静脈
動脈 | 弾性型動脈 | 太い動脈で、中膜に弾性線維が豊富 | 大動脈、腕頭A、総頸A |
筋型動脈 | 中等度の動脈で、中膜に平滑筋が豊富 | 上腕A、橈骨A | |
細動脈 | 末梢血管抵抗の大部分を占めるため血圧を規定する血管となる。 | ||
毛細 血管 |
連続性 | 密着結合で強く結合し、孔はない | 脳(BBB) |
有窓性 | 小孔、細胞間隙を通って活発な物質移動がある | 内分泌器、小腸の絨毛、腎臓の糸球体 | |
非連続性 | 小孔、広い細胞間隙を通って活発な物質移動がある | 肝臓の類洞、骨髄の洞様血管、脾臓の脾洞、腺性下垂体、副腎皮質 | |
静脈 | 細静脈 | ||
大静脈 | 血液の65%を蓄えており、容量血管と呼ばれる | 上大静脈、下大静脈 |
心臓の血管(冠動脈)
冠動脈流入量は心拍出量5%で、冠動脈と冠静脈の酸素分圧差は他の臓器と比べて大きい。
冠動脈は最終的に冠静脈洞を介して右房に流入する。
生理
血管生理の用語
血圧 (≒動脈内圧) |
血圧=末梢血管抵抗 × 心拍出量 血圧は血流によって血管壁にかかるのこと圧力で、ポアズイユの法則に従う。 血圧=8ηLQ/πr4 (η:粘度、L:血管長、Q:循環血流量、r:血管の半径) 血圧は一般的に夜間睡眠時に最も低い。 |
末梢血管抵抗 | 平均血圧 / 心拍出量 大部分は細動脈が占める! |
心拍出量(CO) | 心拍出量=心拍数 × 1回拍出量 CO=70mL×72回/分=約5000mL=約5L/分(成人) 心拍出量の30%は肝、20%は腎、15%は脳、5%は心に使われる! (肝腎のこころ:肝、腎、脳、心) |
心係数(CI) | 体格によってCOは異なるため、体格差を補正するために行う。 心拍出量/体表面積(m2) 基準値:2.2以上(L/分/m2) |
平均血圧 | 平均血圧=拡張期血圧+1/3×脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧) 心拍動に伴い変化する動脈圧の1周期全体の平均 |
変時作用 | 心拍数を増減させる作用。 交感N↑で増加、副交感N↑で減少。 |
変力作用 | 1回拍出量(SV)を増減させる作用。交感N↑で増加、副交感N↑で減少。 陽性変力作用を持つβ刺激薬、PDE阻害薬、ジギタリス製剤を強心薬という。 |
前負荷 (=容量負荷) |
拡張期に左室へ流入する時に生じる負荷(静脈環流量+心房収縮力で規定) 持続した負荷がかかると心室が遠心性に肥大する。 |
後負荷 (=圧負荷) |
収縮期に左室が血液を駆出する時に生じる負荷(左心系は末梢血管抵抗で規定) 持続した負荷がかかると心室筋が必要なため求心性に肥大する。 |
Starlingの法則 | 拡張末期の心室内血液量(前負荷)が大きいほど、心室が引き伸ばされて心筋の長さが増すと、心室が強く収縮する現象 |
中心静脈圧 (CVP) |
上・下大静脈圧、右房圧のこと。中心静脈カテーテルやSGカテーテルで測定。 基準値は4〜8mmHgで、右心不全や過剰輸液で上昇、脱水で低下する。 |
心臓の細胞
心臓の興奮
心周期・心機図
検査
胸部X線検査
立位(P→A) | 胃に気泡が見られる 肩甲骨は肺野の外側にあって重ならない |
仰臥位(A→P) | 心臓が立位よりも大きく写る 肩甲骨が肺野に重なり、肩甲骨の内側の輪郭線がみられる |
【確認する点】
①CTR確認 | 心胸郭比(CTR=心横径/胸郭内径)が50%以上で心拡大あり |
②肺血管陰影確認 | 肺血管陰影が増強している、またはバタフライシャドウ+で肺うっ血あり |
③CP角確認 | CP角が鈍角、Vanishing tumor(葉間胸水)+で胸水あり |
【弓の変化】
左房拡大 | 後→上→右→左の順で拡大する | |
後方拡大 | 側面像などで確認 | |
上方拡大 | 左主気管支を挙上し、気管分岐角が開大する | |
右方拡大 | 右第2弓が二重に見える(二重陰影) | |
左房拡大 | 左第3弓の突出は最終ステージ(心腰部の陥凹消失) | |
右房拡大 | ー | 単独で拡大するケースはないが、右第二弓が突出する |
左室拡大 | ー | ①心腰部の陥凹:大動脈弓が拡大するため左第一弓が突出し、左室拡大で左第四弓も突出するため相対的に二・三弓が陥凹する。左室肥大により横隔膜側から見ると心臓が反時計回転する。 ②右第一弓の突出:上行大動脈が上大静脈を乗り越えて拡大する。 |
右室拡大 | ー | ①心腰部の消失:右室肥大により横隔膜側から見て心臓が時計回りし、右第二弓+左第四弓が突出して心腰部が消失する。 |
心電図 ECG:Electrocardiogram
細胞外に設置したセンサーで、心筋細胞全体の電気的変化の総和を記録したもの。
心筋細胞が次々に脱分極する=プラスの電気が移動する。この流れがセンサーに向かってくる場合は上向きの波として記録、遠ざかっていく場合は下向きの波として記録される。
Q波 | 最初の陰性波 |
R波 | 最初の陽性波 |
S波 | R波のあとの陰性波 |
胸部誘導の電極の付け方⇨あきみちゃん国試頑張って!で覚える。 | |
V1(赤) | 右第4肋間の胸骨付け根(鎖骨直下を第1肋骨とし、4つ下に電極をつける!) |
V2(黄) | 左第4肋間の胸骨付け根 |
V3(緑) | V2とV4の中間点 |
V4(茶) | 左鎖骨中線と第5肋間の交点 |
V5(黒) | 第5肋間と前腋窩線の交点 |
V6(紫) | 第5肋間と中腋窩線の交点 |
※aVL、Ⅲ、V1は心臓のベクトルの総和から外れるため様々な形をとる!!
①洞調律か? | Ⅱ or V1誘導で、P波とQRSが対応しており、P波が一貫して同じ形である。 |
②心拍数は? | RR間隔:太い目盛=5mm(0.2秒)にR波が1つなら心拍数は60÷0.2=300 同様に…2マス=150、3マス=100、4マス=75、5マス=60、6マス=50 正常は60〜100回/分(頻脈:101回/分以上、徐脈:60回/分未満) |
③電気軸は正常か? | ①四肢誘導で電気軸が正常範囲であることを確認 正常はQRS振幅和(R波高さーq波深さーs波深さ)がⅠ・Ⅱ誘導でともに0以上、かつ、QRS平均電気軸(ⅠとaVfのQRS振幅和からベクトルを描出)が−30°〜+90°の正常範囲にある(若年者では+90°以上も正常)。 <軸偏位が生じる理由は以下の3つ> ①刺激伝導系の一部がブロックされ、一方向にしか伝わっていない ②片側の心筋肥大により、肥大部位の興奮エネルギーが増大 ③心筋虚血などで一部の壊死があると、その部位は興奮しない |
④P波は正常か? | ①Ⅱ誘導で陽性P波を確認 正常は洞結節→心尖部に向かうためⅡ誘導で陽性P波。 Ⅱ誘導でP波増高は右房負荷、二峰性P波は左房負荷。 異所性心房調律・房室接合部調律の時、Ⅱ・Ⅲ・aVf誘導で陰性P波 |
⑤PQ時間は正常か? | 正常は3〜5mm。 5mm以上(1マス以上)あればPQ延長で房室ブロックを疑う。 |
⑥QRSは正常か? | ①Ⅲ・aVL・V1以外に異常Q波がないことを確認 異常Q波はR波の1/4以上の深さのあるもの。胸部誘導ではR波減高がなければ異常Qなし。ただし、Ⅲ・aVL・V1誘導は単独で異常Q波があっても問題ない。 ※q波は左脚から刺激により心室中隔が興奮する波! ②胸部誘導でR波の増高が正常 V1→V6の順にR波が増高する(R progression)。 ③narrow QRSか確認 Ⅱ誘導でQRS時間が2.5mm(0.5マス)未満であればnarrow QRSで正常。 |
⑦STとT波は正常か? | ①PQ部分に一致し、STはプラトーが正常 ST=心筋活動電位第2相、T波=第3相に対応する。よって、ST-Tは心室筋再分極過程を表している。第2相の電位はプラトーなため通常STもプラトーになる。 STの判定は、QRSの立ち上がる直前のPQ部分を基準とする! ※例外※ V1〜V3は正常でも軽度ST上昇していることが多い。 早期再分極では前壁・下壁誘導で上方凹型のST上昇するが病的意義はない。 Ⅲ・aVL・aVF・V1など陰性T波があっても良い誘導は軽度ST低下が単独である。 ②T波はⅢ・aVL・aVF・V1以外は陽性 T波の高さは12mm未満かつR波の1/10以上が正常。若年成人では正常でもV2・V3に陰性T波見られる。 ※心筋に異常があればT波の異常が見られる(イオンチャネルの異常は除く)。 |
⑧QT時間は正常か? | ①T波の終点がRR間隔の1/2を超えていればQT延長 QT時間はQRSの始まりからT波の終わりまでを指し、心筋の収縮時間を意味する。aVL・Ⅰ誘導で観察しやすい。 |
⑨U波は正常か? | ①陰性U波・T波より高いU波があれば異常 U波はT波の後ろにあり、成因は不明。U波は陽性であり(V1〜V3は常に陽性なことが多い)、T波の半分以下の高さが正常。 陰性U波はLAD領域の心筋虚血、著名な左室肥大で、V4〜V6で出現することが多い。 |
【小児心電図の特徴】
右軸偏位・右室肥大 | 新生児期は右室優位なため。学童期になると成人と同じになる。 |
V1〜V3で陰性T波 | 生後7日以降〜15歳頃までみられる。生後7日以降のV1の陽性T波は右室肥大と考える。 |
【Holter心電図】
24時間記録できる心電図。健常者でも心室期外収縮(約50%)、上室期外収縮(約70%)みられる。
主な誘導 | 位置(ー→+) | 類似誘導 | 特徴 |
NASA | 胸骨柄→剣状突起 | V1、aVF | P波が明瞭に記録できる誘導 |
CM2 | 胸骨柄→V2 | V2、aVF | ST-T変化が確認しやすい |
CS2 | 左鎖骨中線→V2 | V2 | P波が明瞭に記録できる誘導 |
CM5 | 胸骨柄→V5 | V5 | ST-T変化が確認しやすい、QRS波形が大きい |
CC5 | V5R→V5 | V5 | V5との近似性に優れる |
心エコー
エコーの原理は放射線科を参照。
①断層心エコー法・Mモード心エコー法
Aモード | Amplitude mode | 距離の把握に適しており、もっぱら眼軸測定に使用 |
Bモード | Brightness mode | 対象物の画像を断層像として描出 |
Mモード | Motion mode | 弁や心室中隔など細かい運動の経時的な形態変化を観察 |
カラードプラ | 逆流やシャントなど、 心血管内の異常血流を検出する |
連続波ドプラ | ①心拍出量(CO):1回拍出量(SV)=拡張末期心室内容積(EDV)ー収縮末期心室内容積(ESV)を求めることができる。SVに心拍数をかけるとCOがわかる。 ②駆出率(EF):EF=(SV/EDV)×100から求められ、55〜70%が基準値となる。 ③圧較差:狭窄部の通過血流・逆流血流・短絡血流の最高血流速度を測定して、簡易ベルヌーイ式から圧較差を推定する |
パルスドプラ | 特定の領域での血流速度を測定する |
心臓カテーテル検査
右心 カテーテル法 (=スワン・ガンツ) |
右内頸V・大腿Vなどの末梢静脈からカテーテルを挿入し、主に右心系の機能を調べる方法。現在はほとんどSwan-Ganzカテーテルを利用している。 末梢静脈から挿入後、Swan-Ganzカテーテル先端の小さなバルーンを膨らませると血流に乗って心臓まで流れていく(透視不要かつ安全!)。中心静脈圧:CVP(上・下大静脈の圧)→右心房圧(=CVP)→右心室圧:RVP→肺動脈圧:PAP→肺動脈楔入圧:PAWP(=左房圧)の順に各部位の圧力・酸素飽和度と、熱希釈法によって心拍出量を測定できる。 ※PAWP:肺動脈の枝でバルーンを広げ、肺動脈分枝を完全に閉塞した時に得られる圧。PAWP基準値:2〜15mmHg(18以上は肺うっ血) |
左心 カテーテル法 (逆行性) |
右大腿Aや右橈骨Aなどの末梢動脈からガイドワイヤーを挿入し、血流に逆らいながら心臓に進めた後、カテーテルに置換して左心系の機能を調べる方法。 大動脈圧(=血圧)→左室圧の順に圧力・酸素飽和度と心拍出量を測定する。また、先端から造影剤を注入すれば心臓の造影が可能となり、正確な駆出率(EF)も求められる。侵襲性は右心カテーテルより高いが、直接治療(PCI)できるメリットがある。 |
【心血管内圧】
中心静脈圧 | 右房圧 | 左房圧 | 右室圧 | 左室圧 | 大動脈圧 | |
圧 | 5(平均) | 5(平均) | 10(平均) | 30/5 | 120/10 | 120/80 |
核医学検査(心筋イメージング)
心筋血流イメージング(MPI) | 201Tlや99Tcを静注すると冠動脈通過時に心筋細胞に取り込まれる。健常心は心筋全体に集積するが、虚血や梗塞があると負荷時の集積低下や欠損像を示す。 |
心筋代謝イメージング | 心筋は脂肪酸を主なエネルギー源としているため、脂肪酸類似構造の123I -BMIPPを静注すると心筋細胞に取り込まれる。健常心は心筋全体に集積するが、虚血や梗塞があると集積低下や欠損像を示す。 |
心筋交感神経イメージング | ノルアドレナリン類似構造の123I –MIBGを静注するとアドレナリン作動性ニューロンに取り込まれ交感神経終末の分泌下流に蓄えられる。健常心は心筋全体に集積するが、梗塞があると集積低下や欠損像を示す。 |
ピロリン酸イメージング | ピロリン酸は虚血壊死した心筋細胞に取り込まれるため、99Tcピロリン酸を静注すると、発症後1〜14日の梗塞部位に集積する。 |
植込み型ペースメーカ
【ペースメーカの種類】
以前の携帯電話は電波が強くペースメーカーに影響をおよぼす可能性があったが、現在では15cm離して使用すれば、ペースメーカー患者でも安全に携帯電話端末を使用できる。
適応 | ①完全房室ブロック(3度房室ブロック) ②MobitzⅡ型の2度房室ブロック ③洞不全症候群(SSS) ※①②③があり症状(めまい、失神)や心不全を伴うもの |
種類 | ①リード式ペースメーカ ペーシング部位:右房 or 右室先端 適応:SSS、房室ブロック ②リードレスペースメーカ ペーシング部位:右室のみ(カテーテルを用いて右室壁に埋め込む) 適応:徐脈性AF ③両室ペースメーカ(CRT) ペーシング部位:左室(回旋枝) 適応:重症心不全 |
センシング時の反応形式が抑制型(I)は自己心拍を感知した時にペーシングしない機能を持つもの、同期型(トリガー)は自己P波は感知した時に同期して心室ペーシングする機能持つものを指す。
モード | ペーシング部位 | センシング部位 | センシング時の反応形式 | 詳細 |
AAI | 心房(A) | 心房(A) | 抑制型(I) | 右房にリード留置。 右房でペーシングし、右房で自己P波を感知したらペーシングしない。 |
VVI | 心室(V) | 心室(V) | 抑制型(I) | 右室にリード留置。 右室でペーシングし、右室で自己QRSを感知したらペーシングしない。 |
VDD | 心室(V) | 心房+心室 | 抑制型+同期型 | 右室にリード留置。 右室でペーシングし、右房で自己P波または右室で自己QRSを感知したらペーシングしない。さらにトリガーも行う。 |
DDD | 心房+心室 | 心房+心室 | 抑制型+同期型 | 右房と右室にそれぞれリード留置。 AAI、VVI、VDDに切り替えも可能。 |
植込み式除細動器(ICD)
適応 | ①心室細動 ②器質的心疾患(陳旧性心筋梗塞、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心サルコイドーシスなど)に伴う持続性心室頻拍を有し、失神・血圧低下・脳虚血症状・胸痛や多形性心室頻拍を伴う場合 ③Brugada症候群、先天性QT延長症候群 |
種類 | 経静脈的ICD(TV-ICD) 完全皮下植込み型ICD(S-ICD) 直用型ICD(WCD) |
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