- 神経変性疾患 Neurodegenerative disease
- ★Parkinson病 PD:Parkinson Disease
- Parkinson症候群 Parkinsonism
- 進行性核上性麻痺 PSP:Progressive supranuclear palsy
- 大脳皮質基底核変性症 CBD:Corticobasal Degeneration
- 脊髄小脳変性症 SCD:Spinocerebellar degeneration
- Huntington病
- ★筋萎縮性側索硬化症 ALS:Amyotrophic Lateral Sclerosis
- Werdnig-Hoffmann病
- 球脊髄性筋萎縮症 BSMA:Bulbospinal Muscular Atrophy
- CAGリピート病について(ポリグルタミン病)
- ドパミントランスポーターSPECT(商品名:ダットスキャン)について
- MIBG心筋シンチグラフィについて
- 認知症 Dementia
- 脱髄性疾患
- 末梢神経障害(ニューロパチー)
- ミオパチー(神経原性筋萎縮・筋原性筋萎縮)
- 神経筋接合部疾患
- 本態性振戦
- ★ミトコンドリア脳筋症
- 抗NMDA受容体脳炎
神経変性疾患 Neurodegenerative disease
αシヌクレイン蓄積 | Parkinson病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症 |
タウ蛋白蓄積 | 大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、pick病、アルツハイマー型認知症 |
CAGリピート | Machado-Joseph病(SCA-3)、ハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症 |
CTGリピート | 筋強直性ジストロフィ |
★Parkinson病 PD:Parkinson Disease
疫学 | 50〜60歳に好発 |
病態 | 大脳基底核の黒質緻密部の神経細胞が変性(Lewy小体出現)によりドパミン産生が低下し、線条体におけるドパミン欠乏によって錐体外路症状を来たす疾患。 大脳皮質からの運動に関する情報は黒質のドパミンによって調節され、スムーズな運動が可能になっている。しかし、ドパミンの減少により動作の切り替えが遅れるようになる。 |
症状 | 【錐体外路症状(初期は左右差あり)】 ①安静時振戦:安静時に振戦が起こり、動作を開始すると消失する。初発症状として重要。また、Parkinson症候群では見られにくい症状のため鑑別にも重要な所見。母指と人差し指をすり合わせる丸薬丸め運動がある。 ②動作緩慢・無動:動作の開始に時間がかかり、動作がゆっくりとしか行えない。特に指先の細かい動作はしにくく、小さな文字を書く傾向にある。顔面の無動により声が小さく、表情が乏しく瞬目が少なくなる(仮面様顔貌)。 ③筋固縮(筋強剛):収縮筋と拮抗筋が同時に収縮する。そのため患者の筋を他動的に動かすと屈曲時と伸展時ともに歯車を動かしているような強い抵抗がある(歯車現象/鉛管現象)。 ④姿勢保持障害・歩行障害:立位ではバランスを保てず膝を軽く曲げ前屈みとなる。安定性は悪く、わずかな外力で棒のように転倒する。最初に1歩が出ない・狭いところや方向転換の際に急に立ち止まる(すくみ足)が、いったん歩き始めると前屈みで床を擦るようにチョコチョコと小刻みに歩き(小刻み歩行)、歩き始めると止まれなくなり(加速歩行)、これらの歩行障害によって転倒する場合もある。 【自律神経障害】 便秘、嗅覚低下、蓄尿障害による頻尿や尿失禁、起立性低血圧、発汗異常(脂漏性皮膚) 【精神症状】 抑うつ、Lewy小体型認知症、REM睡眠行動障害など |
検査 | 【身体検査】 Myerson徴候:眉間を5秒以上軽く叩き続けても瞬きを続ける(全員に出るわけではない) 【画像検査】 MIBG心筋シンチ:心筋への取り込み低下。交感神経幹が変性しているParkinson病ではMIBG(ノルアドレナリン類似体)の取り込みが低下しており、Parkinson症候群、アルツハイマー病との鑑別に有用である。 ドパミントランスポーターSPECT(商品名:ダットスキャン):線条体に分布するドパミントランスポーターを可視化する核医学検査で、線条体での取り込みが低下 |
治療 | 【リハビリ】 歩行訓練(リズムを付けた歩行、良好な姿勢での歩行など)、すくみ足には床に歩幅間隔の目印として横線を引いて歩く、またはメトロノームを使ってリズムに合わせる。 【薬物療法】作用機序や副作用はParkinson病治療薬を参照。 ①レボドパ、②ドパ脱炭酸酵素阻害薬、 ②COMT阻害薬(エンタカポン)、④MAO-B阻害薬 ⑤ドパミン作動薬、⑥抗コリン薬(安静時振戦を改善) ⑦ノルアドレナリン前駆物質(ドロキシドパ:すくみ足と起立性低血圧) ※幻覚などの精神症状が出現した際は非定型抗精神病薬を使用すること(定型抗精神病薬はパーキンソン病を悪化させるため)。 【脳深部刺激療法(DBS)】 薬物療法を行なってもコントロール困難な場合に行う。淡蒼球内節または視床下核に電極を植え込み高頻度で刺激し続け、神経細胞が興奮できなくなった状態に陥らせる。 |
Parkinson症候群 Parkinsonism
パーキンソニズムでは4大症状が揃うことは稀でいくつか出現するだけ。パーキンソン病治療薬を投与しても効果が低いため、原疾患の治療や原因除去が重要となる。
鑑別点 | |
Lewy小体型認知症 | 幻視、REM睡眠行動異常、動揺性の認知障害 |
進行性核上性麻痺 | 後屈姿勢、振戦ー |
大脳皮質基底核変性症 | 他人の手徴候 |
多系統萎縮症 | 小脳症状+自律神経症状 |
薬剤性パーキンソン症候群 | ドパミン受容体拮抗薬、スルピリド、メトクロプラミド服用 |
脳血管性パーキンソン症候群 | 黒質を含む大脳基底核の多発性小梗塞による虚血が原因。 振戦ー、小刻み歩行+、開脚歩行+ |
中毒性パーキンソン症候群 | CO中毒の後遺症、Mn中毒が原因 |
特発性正常圧水頭症 | 脳室の拡大 |
進行性核上性麻痺 PSP:Progressive supranuclear palsy
疫学 | 50〜60歳代に好発 |
病態 | タウ蛋白が過剰蓄積して大脳基底核〜橋の神経細胞が変性・脱落する疾患。 |
症状 | ①パーキンソニズム:小刻み歩行、後頸筋の筋固縮により上を向き、後屈姿勢となる。振戦は稀。 ②垂直眼球運動障害:下方への眼球運動制限により上を向くため、後方に転倒しやすい。 ③偽性球麻痺:構音障害や嚥下障害を生じる。 ④認知症:進行すると認知症症状(思考過程が緩慢)が出現する。 |
検査 | 【身体検査】 人形の目現象の消失:他動的に頭部を上下させると眼球もその方向を向く(脳幹障害) 後に引っ張ると棒のように後に倒れる。 拍手徴候:3回拍手をしてくださいというと何回も拍手してしまう 【画像検査】 CT・MRI:中脳&橋被蓋部が萎縮し、矢状断面でハチドリ上向きサイン(hummingbird sign)。初期は画像に異常がない場合もある。 ドパミントランスポーターSPECT・MIBG心筋シンチ:取り込み低下(左右差なし!) |
治療 | 治療法はなく、数年の経過で増悪し寝たきりとなり死亡する |
大脳皮質基底核変性症 CBD:Corticobasal Degeneration
疫学 | 50〜70歳代に好発 |
病態 | タウ蛋白が過剰蓄積して大脳皮質と基底核の神経細胞が変性・脱落する疾患。 変性部位に応じた症状が出るため多様性が著しく、また症状の著明な左右差が特徴! |
症状 | 【大脳皮質変性症状】 左右差のある肢節運動失行:片方の手動きがぎこちない 構成失行:「キツネ」の指位の真似ができない 他人の手徴候:一方の手が勝手に目的のない動きをする徴候 【基底核変性症状】 パーキンソニズム:筋強剛が強い(振戦はない) 認知症:認知機能低下 不随意運動:ミオクローヌス、ジストニア |
検査 | 【認知機能検査】 長谷川式・MMSE↓ 【画像検査】 CT・MRI:中心溝周囲(頭頂葉)に左右差のある大脳皮質の萎縮 ドパミントランスポーターSPECT:大脳皮質萎縮部位で血流低下 |
治療 | 治療法はなく、数年の経過で増悪し寝たきりとなり死亡する L-dopaは効かない |
脊髄小脳変性症 SCD:Spinocerebellar degeneration
小脳またはその連絡線維の変性によって運動失調を呈する疾患。
遺伝性 | 常染色体優性遺伝のSCA-3(Machado-Joseph病)が最多(約90%) |
非遺伝性 | 多系統萎縮症が最多 |
SCA3(Machado-Joseph病:MJD)
病態 | CAGリピートの異常伸長(triplet repeat病の一つ)によりグルタミンが増産され、それが何らかの誘因となり小脳や錐体路などを中心に広範囲の神経細胞が変性する疾患。常染色体優性遺伝で、世代を経るに従いリピート数が増加する傾向がある(表現促進現象)。 |
症状 | ①びっくり眼:眼瞼が後退するため ②小脳性失調歩行:緩徐進行性の歩行障害 ③錐体路障害:腱反射亢進、病的反射陽性 ※不随意運動を認めない:Huntington病や不随意運動を伴う小脳変性症は除外 |
検査 | 【画像検査】MRI:T1強調で小脳の萎縮 |
治療 | TRH誘導体のプロチレリン、タルチレリン(小脳の血流増加)。 10年くらいの経過で寝たきりとなり死亡する。 |
★多系統萎縮症 MSA:Multiple System Atrophy
病態 | ①パーキンソニズムが主体のMSA-P(旧 線条体黒質変性症)、 ②小脳失調症状が主体のMSA-C(旧 オリーブ橋小脳萎縮症)、 ③自律神経症状が主体のShy-Drager症候群に大別できる。 3つとも先行する症状が異なるだけで進行するとパーキンソニズム+小脳症状+自律神経障害を来し、萎縮が始まる部位も異なるが最終的には同じ部位が萎縮する疾患。 |
症状 | 【パーキンソニズム】(線条体も変性しているためL-dopa抵抗性) 筋強剛、仮面様顔貌、無動 【小脳失調症状】 小脳性失調歩行・企図振戦(Parkinson病では小刻み歩行・安静時振戦となり鑑別点となる)、眼振、平衡障害、構音障害、断綴性言語(発語が時に爆発的になったり、急に速度が落ちたりする) 【自律神経症状】(突然死のリスクが高い) 起立性低血圧(特に食後)、排尿・排便障害、発汗異常、Horner症候群 |
検査 | 【身体検査】 小脳障害:鼻指鼻試験・回内回外試験の異常 自律神経障害:仰臥位から起立時に移行すると血圧↓ 【画像検査】 MRI:T1強調で被殻・橋・小脳の低信号域(萎縮部分)、T2強調で橋底部に十字サイン+第4脳室拡大、被殻外側にスリット状の高信号域 |
治療 | 対象療法のみ 進行性で5〜10年の経過で寝たきりとなり死亡する。 |
Huntington病
病態 | CAGリピートの異常伸長(triplet repeat病の一つ)によりグルタミンが増産され、それが何らかの誘因となり線条体、特に尾状核の神経細胞が変性して、進行に伴い大脳皮質が変性する疾患。常染色体優性遺伝で、世代を経るに従いリピート数が増加する傾向がある(表現促進現象)。 |
症状 | 舞踏運動:手足を中心とした素早い不随意運動→顔や全身のダンス 人格変化:前頭葉の萎縮により怒りっぽくなる 認知症:大脳皮質の障害 |
検査 | 【画像検査】 CT・MRI:尾状核の萎縮+代償的に側脳室拡大(butterfly appearance) |
治療 | 舞踏運動に対してハロペリドールなどのD2遮断薬。L-dopaで増悪する。 進行性の経過で寝たきりとなり、肺炎などの合併症で死亡する。 |
★筋萎縮性側索硬化症 ALS:Amyotrophic Lateral Sclerosis
疫学 | 50〜60歳代で発症、2/10万人と稀(指定難病2) |
病態 | 原因不明に上位・下位運動ニューロンが変性する疾患(感覚・自律神経は正常)。 |
症状 | 【脳幹の運動脳神経核(舌咽N・迷走N・舌下N)の変性】 球麻痺症状:嚥下障害、構音障害、舌萎縮、舌の線維束性収縮、下顎反射↑ 【上位運動N障害(側索の変性・運動野Betz細胞の変性)】 痙性麻痺、腱反射↑、Babinski徴候など病的反射(+) 【下位運動N障害(前角細胞の変性)】 筋力低下・筋萎縮(母指球など遠位筋優位)、線維束性収縮、腱反射↓・弛緩性麻痺(上位運動N障害が優位な場合には出ない)、進行すると横隔膜の筋力低下で呼吸筋麻痺となり人工呼吸器装着。 【四大陰性症状】 感覚神経正常:①他覚的感覚障害なし、②褥瘡なし 自律神経正常:③膀胱直腸障害なし その他:④外眼筋麻痺は認めない!(眼球運動に異常なし) |
検査 | 【針筋電図】 急性脱神経所見:安静時は脱神経電位を反映してfasciculation 慢性脱神経所見:弱い随意収縮時にgiant spike(高振幅電位) 【筋生検】 脊髄前角と側索の神経原性変化を示す。 |
治療 | 【薬物療法】 リルゾール内服、エダラボン静注で進行抑制 その他、リハビリ、胃瘻、呼吸管理を行う。 |
Werdnig-Hoffmann病
病態 | 脊髄性筋萎縮症〈SMA〉1型。常染色体劣性遺伝。乳児期早期発症。 脊髄前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病の一つで、出生直後から生後6ヵ月までにフロッピーインファントで発症する。 |
症状 | ①floppy infant:体幹・四肢近位部の筋力低下から始まり呼吸不全を早期にきたす ②知能は正常 |
検査 | 遺伝子検査 |
治療 | ? |
球脊髄性筋萎縮症 BSMA:Bulbospinal Muscular Atrophy
疫学 | 伴性劣性遺伝で、30〜60歳代で発症(球が付いてるから男性のみ) 2/10万人と稀(指定難病1) |
病態 | 別名、Kennedy-Alter-Sung症候群。 X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピートの異常伸長(triplet repeat病の一つ)によりグルタミンが増産され、それが何らかの誘因となり下位運動ニューロンが変性する疾患。 ※優性遺伝であるCAGリピート病が男性のみで発症するのは、異常アンドロゲン受容体がテストステロンの存在下で核内に入り作用を発現するから。明らかな表現促進現象を認めないことが多い。 |
症状 | 【下位運動N障害】 前角細胞の変性により筋力低下・筋萎縮(近位筋優位)、線維束性収縮、腱反射↓、発症から20年程度で車椅子生活となる。 運動脳神経核(舌咽N・迷走N・舌下N)の変性により球麻痺症状が出現する。嚥下障害、構音障害、舌萎縮、舌の線維束性収縮 【その他】 女性化乳房、勃起不全(球が萎縮して性機能障害→相対的におっぱい出てくる) 肝機能障害、糖尿病、高血圧、脂質異常症など |
検査 | 【針筋電図】ALSと同様の神経原性変化 【血液検査】CK↑(1000IU/L前後まで上昇する) 【遺伝子検査】CAGリピート数の異常伸長(確定診断) |
治療 | 抗アンドロゲン療法:リュープロレリン(テストステロン抑制作用によりテストステロンがなくなり、異常アンドロゲン受容体に入ることはないため) |
CAGリピート病について(ポリグルタミン病)
①Machado-Joseph病(SCA-3) | 常優 | びっくり眼 |
②SCA-6 | ||
③DRPLA | ||
④Huntington病 | 常優 | 素早い不随意運動 |
⑤球脊髄性筋萎縮症 | 伴性 | 女性化乳房 |
ドパミントランスポーターSPECT(商品名:ダットスキャン)について
取り込み低下あり | 取り込み低下なし |
・Parkinson病(PD) ・Lewy小体型認知症(DLB) ・多系統萎縮症(MSA) ・進行性核上性麻痺(PSP) ・大脳皮質基底核変性症(CBD) |
・本態性振戦(ET) ・薬剤性パーキンソニズム(DIP) ・脳血管性パーキンソニズム(VP) ・前頭側頭型認知症 ・Alzheimer型認知症(AD) |
MIBG心筋シンチグラフィについて
取り込み低下あり | 取り込み低下なし |
・Parkinson病(PD) ・Lewy小体型認知症(DLB) |
その他の疾患 |
認知症 Dementia
後天的に知能が低下し(特に記銘力低下・見当識障害・遂行機能障害)、生活に支障を来した状態を認知症という。物忘れがひどくて〜と認識がある場合はまだ認知症ではない!
【認知症の原因】
神経変性による認知症 | 血管性の認知症 | 治療可能な認知症 |
Alzheimer型認知症(最多) Lewy小体型認知症 前頭側頭型認知症 Parkinson病 進行性核上性麻痺 大脳皮質基底核変性症 Huntington病 |
血管性認知症 | 正常圧水頭症(脳室拡大) 甲状腺機能低下症(T4↓) 神経梅毒(Argyll Robertson瞳孔+) 慢性硬膜下血腫 Wernicke脳症(VB1↓) ビタミンB12不足 うつ病 |
【認知症検査】
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) | MMSE(Mini-Mental State Examination) |
30点満点中、20点以下で認知機能低下と判断 | 30点満点中、23点以下で認知機能低下と判断 |
記憶メインの検査 | 計算、視覚、言語メインの検査 |
【代表的な認知症の比較】
Alzheimer型 | Lewy小体型 | 前頭側頭型 | 脳血管性 | |
疫学 | 女性に多い | 男性に多い | ー | 男性に多い |
主な障害部位 | 側頭+頭頂葉 | 後頭葉 | 前頭+側頭葉 | 梗塞部位 |
特徴 | 老人斑(アミロイドβ蓄積) 神経原線維変化(タウ蛋白蓄積) |
Lewy小体(α-シヌクレイン蓄積) | タウ蛋白蓄積 | 階段状に進行、症状動揺性、CTで脳梗塞巣や脳出血巣 |
中核症状 (必発) |
記憶障害、見当識障害、遂行機能障害 | 幻視、パーキンソニズム、動揺性の認知障害 | 人格変化、滞続言語、常同行動、遂行機能障害 | まだら認知症、情動失禁 |
BPSD (行動・心理症状) |
夕暮れ症候群(夕方から夜にかけて不穏になる状態)、物とられ妄想 | REM睡眠行動異常、自律神経障害 | ||
脳血流SPECT | 頭頂葉・側頭葉、後部帯状回の血流低下 | 後頭葉の血流低下 | 前頭葉・側頭葉の血流低下 | 梗塞巣や出血巣の一致した血流低下 |
★Alzheimer型認知症 AD:Alzheimer Disease
病態 | 海馬→側頭葉→頭頂葉→大脳全体の順に萎縮し(相対的に脳室拡大)、認知症状をきたす。萎縮部位にはアミロイドβが蓄積した老人斑とタウ蛋白が蓄積した神経原線維変化を認める。 |
症状 | 【初期(1〜3年)】 記銘力低下:新しいことを覚えられない 時間の見当識障害:今日の日時を言えない 抑うつ症状(意欲低下)や人格変化(頑固さ・自己中心性↑) 遂行機能障害:物事を段取りよく進めることができない(前頭葉機能障害) 【中期(2〜10年)】 場所の見当識障害:空間認知ができず迷子になり、徘徊する 物盗られ妄想:近時記憶障害 失語・失認・失行・失算 喚語困難:物の名前が出てこなくなる 鏡像現象:視覚失認により鏡に映った自己を他人と認識して話しかける 症候性てんかん:側頭葉(海馬)の神経細胞の変性による複雑部分発作が多い 【末期(8〜12年)】 人物の見当識障害 着衣失行:衣服の着脱が困難 尿失禁・便失禁・弄便 異食(何でも口に入れる) 無言:意志の疎通困難 無動:寝たきり 【診察時の反応】 取り繕い反応:物忘れや実行機能障害のためにわからない、または失敗しているが、うまくごまかそうとする(前頭葉を使って言い訳を考える) 振り返り徴候:問診中にわからないことがあると、付き添いの家族の方に振り向いて代わりに答えさせようとする。 |
検査 | 【認知症検査】 HDS-R、MMSE 【進行度・重症度評価スケール】 FAST 【画像検査】 CT・MRI:脳室や脳溝の拡大、側頭葉(海馬)の萎縮 SPECT・PET:頭頂葉→側頭葉の順に血流低下(早期診断に最も有用)、後頭葉の血流低下はない |
治療 | 【薬物療法】 中枢性ChE阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン) NMDA受容体拮抗薬(メマンチン) |
Lewy小体型認知症 DLB:Dementia with Lewy Body
病態 | レビー小体が脳幹〜大脳皮質にかけてびまん性に出現する疾患(Parkinson病は脳幹のみにレビー小体を認める)。つまり、認知症+パーキンソン症候群!! レビー小体型認知症は、レビー小体のみを認める純粋型、老人斑や神経原線維変化も認める通常型に大別できる。 |
症状 | <通常型> ①動揺性の認知障害:頭がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい ②パーキンソニズム:よく転ぶなど ③自律神経障害:起立性低血圧、過活動膀胱など ④幻視:壁の模様が人の顔に見えるなど(幻視に対して抗精神病薬を投与すると感受性が高く、少量でもパーキンソニズムが増悪する) ⑤REM睡眠行動異常: |
検査 | 【画像検査】 ドパミントランスポーターSPECT:基底核におけるドパミン集積低下 MIBG心筋シンチグラフィ:集積低下 脳血流SPECT:後頭葉の血流↓(Lewy小体型認知症に特異性の高い所見) 【睡眠ポリソムノグラフィ】 筋緊張低下を伴わないREM期睡眠 |
治療 | ドネペジル、レボドパ 抗コリン薬と抗精神病薬は相対的禁忌!ベンゾジアゼピン系薬は投与注意。 |
前頭側頭型認知症 FTD(Pick病の前頭葉型)
疫学 | 90%以上が40〜60歳代に発症 |
病態 | タウ蛋白の異常蓄積により前頭葉と側頭葉の神経細胞を変性させる疾患。 |
症状 | 記銘力障害:初中期は記憶障害が目立たない! 人格変化:無関心・自発性低下、逆に脱抑制による反社会的行動 常同行動:毎日決まった時間に決まった行動をする 滞続言語:どんな場面でも同じセリフを繰り返す 遂行機能障害:目標を決めて計画を立て、段取りを踏んで実行することができない |
検査 | 【画像検査】 CT・MRI:前頭葉・側頭葉の萎縮 SPECT:前頭葉・側頭葉の血流↓ |
治療 | なし |
★血管性認知症 VD:Vascular Dementia
病態 | TIAや脳卒中による脳血管の出血や梗塞が起こり、神経細胞が障害されて突然認知症を発症し、新たな出血や梗塞が加わると段階的に認知症が悪化する疾患。TIAを繰り返して進行する場合と脳卒中の回復過程で生じる場合が多い。 |
症状 | まだら認知症:梗塞部位に応じて片麻痺、構音障害などの運動障害を生じる 段階的に悪化:梗塞部位が加わるたびに段階的に症状が悪化する 情動失禁:感情が不安定で些細なことで泣く、笑う、怒る。しかし、人格は末期まで保たれる。 |
検査 | 【画像検査】 MRI・MRA:梗塞・出血病変 |
治療 | 脳血管障害の再発予防 |
脱髄性疾患
【自己免疫性脱髄性疾患の比較】脱髄=髄鞘が破壊される現象
中枢性脱髄疾患 (髄鞘が存在する白質に不規則に生じる) |
末梢性脱髄疾患(末梢神経障害の一つ) (1つの神経の1分節のみが侵される) |
多発性硬化症(MS) | ギラン・バレー症候群 |
視神経脊髄炎(NMO) | Fisher症候群(ギラン・バレー症候群の亜型) |
急性散在性脳脊髄炎(ADEM) | 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP) |
多発性硬化症 MS:Multiple Sclerosis
疫学 | 30歳前後に発症、女性がやや多い(3:2)、高緯度地域の住民に好発 |
病態 | 中枢神経の髄鞘(例えば髄鞘構成成分のミエリン塩基性蛋白:MBPなど)を標的とした自己免疫反応が起こり、中枢神経の白質の至る所で炎症性の脱髄相が生じ(空間的多発)、多彩な症状が出現して増悪と寛解を繰り返す(時間的多発)疾患。 |
症状 | 【脳幹の障害】 ①急激な視力低下:球後視神経炎(視神経乳頭〜視覚野の脱髄)←初発症状に多い ②複視:動眼N・滑車N・外転Nの上位ニューロンの脱髄、両側性のMFL症候群 ③顔面の発作性の神経痛:三叉Nの上位ニューロンの脱髄 【小脳の障害】 ④Charcot三徴:運動時振戦・眼振・断綴性言語 ⑤運動失調 【脊髄の障害】 痙性麻痺・腱反射↑・病的反射+:上位運動ニューロンの脱髄による錐体路障害 運動失調:脊髄後索の脱髄 温痛覚の麻痺:脊髄側索の脱髄 排尿障害・頻尿:代表的な自律神経障害として神経因性膀胱を生じる 【精神症状】 抑うつ:機序不明 |
検査 | 【身体検査】 レルミット徴候:頸部前屈時、背部〜下肢に向かう電撃痛(頸髄後索の脱髄病変) 【画像検査】 MRI:T2・FLAIRで散在性の脱髄巣が高信号性斑状病変、側脳室周囲病変 【髄液検査】 γグロブリン↑、髄液の電気泳動でオリゴクローナルバンド+、中枢神経の細胞が破壊されている時に出現するミエリン塩基性蛋白(MBP)↑ 【電気生理学的検査】 視覚誘発電位(VEP):視神経の脱髄巣があると反応低下により潜時延長 体性感覚誘発電位: |
治療 | 急性増悪期:ステロイドパルス、無効な場合は血漿交換 再発予防:IFN-β筋注(MHCクラスⅡの発現を抑制し、T細胞の活性化を抑制する) 難治の場合:免疫抑制薬(フィンゴリモド内服、ナタリズマブ静注、グラチラマー皮下注、ジメチルフマル酸内服など) |
【MSとNMO(視神経脊髄炎)の鑑別】
MS | NMO | |
疫学 | 女性がやや多い(3:2) | 女性が多い(9:1) |
病態 | 細胞性免疫異常 標的はミエリン 側脳室周囲病変 |
液性免疫異常 標的はアストロサイト 脊髄と脳幹病変が多い |
脊髄MRI(T2) | 2椎体以下の高信号病変(卵形像) | 3椎体以上の高信号病変(横断性) |
髄液検査 血液検査 |
髄液オリゴクローナルバンド+ (↑NMOでは陰性) |
脳脊髄液の細胞数↑↑ 血清AQP4抗体+ |
再発予防 | IFN-β | ステロイド(IFN-β禁忌) |
ブラウン・セカール症候群(脊髄半切症候群)
病態 | 脊髄片側の障害により生じる症候群 <原因> ①脊髄炎:多発性硬化症など ②脊髄圧迫:腫瘍、椎間板ヘルニアなど |
症状 | 障害レベル:病変側の全感覚障害+弛緩性麻痺 障害レベル以下:病変側の痙性麻痺+深部感覚障害、反対側の温痛覚障害 |
治療 | 原因疾患の治療 |
★視神経脊髄炎(NMO:Neuromyelitis optica)
疫学 | 30歳~40歳台に好発、女性が多い(9:1) |
病態 | 特殊な視神経炎で、主に脊髄と視神経に重度の炎症を繰り返す疾患。視神経アストロサイトの足突起に発現しているAQAP4に対する自己抗体産生により、軸索そのものが壊死する。再発率高い。 |
症状 | ①急性の視力低下:視神経炎、初発症状 ②対麻痺:横断性脊髄炎により病変以下の脊髄機能が障害される ③難治性吃逆・嘔吐:延髄背側病変のため ④二次性ナルコレプシー・SIADH:間脳・視床下部病変のため 【合併症】 自己免疫疾患に高頻度に合併(SLE、シェーグレン症候群、橋本病など) |
検査 | 【画像検査】MRI:T2で3椎体以上の脊髄病変(NMOは3文字) 【血液検査】抗AQAP4抗体(+) 【髄液検査】脳脊髄液の細胞数↑↑ |
治療 | 急性増悪期:ステロイドパルス、無効な場合は血漿交換 再発予防:少量ステロイド維持量投与、免疫抑制薬投与 |
急性散在性脳脊髄炎(ADEM) vs 進行性多巣性白質脳症(PML)
ADEM | PML | |
病態 | 先行してウイルス感染やワクチン接種後(多くは小児)、交差免疫によって中枢神経の脱髄が生じる。小さい脱髄病変が一気に散在性に広がり、症状がピークに達すると徐々に改善する(時間的多発なし!)。 | JCウイルスは小児期にほぼ皆感染するが、免疫力低下によりオリゴデンドロイドに感染すると脱髄し、数ヶ月で死に至る。 詳細はポリオーマウイルスを参照! |
症状 | 急性脳炎様症状 | 多彩な中枢神経症状 |
検査 | MRI(T2WI):散在性の高信号 | MRI(T2WI):高信号 |
治療 | ステロイドパルス。予後比較的良好。 | 治療法なし |
ギラン・バレー症候群(GBS)
病態 | 約70%は急性上気道炎や急性胃腸炎の先行感染(カンピロバクターなど)があり、病原体に対する抗体が交差免疫を起こし髄鞘や軸索を攻撃して末梢神経が障害される(主に運動神経)。髄鞘型と軸索型のサブタイプがある(その割合は半々)。 発症から数週間後に多くは自然治癒するが、10〜20%は筋力低下などの後遺症を生じる。 |
症状 | 主に先行感染の後、 【運動N障害】 ①急激に両下肢遠位部から上行する筋力低下(弛緩性麻痺)→上肢筋や顔面筋に及ぶ ②腱反射↓(下位運動N障害) ③重症例では球麻痺や呼吸筋麻痺に至ることもある。 【感覚N・自律N障害】 ④しびれや痛み:神経根が刺激されるため 感覚障害は軽度で、自律神経障害を伴う場合もある。 |
検査 | 【末梢神経伝導速度】 脱髄型では運動Nの伝導速度低下、または伝導ブロック(M波高=振幅の低下) 【髄液検査】 発症から1〜2週間後に蛋白細胞解離(蛋白↑細胞数正常) 【血液検査】 抗ガングリオシド抗体+(抗GM1抗体、抗GD1a抗体) |
治療 | ①免疫グロブリン大量静注療法(IVIg療法):抗ガングリオシド抗体を抑制 ②血漿交換療法:抗ガングリオシド抗体を除去 ※ステロイドは無効 |
★Fisher症候群・CIDP
CIPD:Chronic Inflammatory Demyelinating Polyneuropathy
Fisher症候群(GBSの亜型) | CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎) | |
病態 | 先行感染後に抗GQ1b抗体が産生され、動眼・滑車・外転Nの髄鞘を攻撃する。 | 自己免疫性に脱髄と再髄鞘化を繰り返す疾患。先行感染を伴わず、慢性に進行する。 |
症状 | ①急性の外眼筋麻痺(複視) ②運動失調:小脳に抗体が作用? ③腱反射↓ |
①四肢筋力低下(GBS同様) ②手袋靴下型の感覚障害 ※自律N障害なし |
検査 | 【血液】抗GQ1b抗体(+) |
【血液】抗体(ー) |
治療 | GBSと同じ | 免疫グロブリン大量静注療法が著効 無効時はステロイド、血液浄化療法も有効 |
末梢神経障害(ニューロパチー)
単ニューロパチー | 多発性単ニューロパチー | 多発ニューロパチー |
顔面神経麻痺など支配領域のみの末梢神経障害。多くは外傷や絞扼などの局所的要因によって生じる。 | 複数の単ニューロパチーが左右非対称性に生じた末梢神経障害。虚血や肉芽種によって生じる。 | 左右対称性に生じた広範な末梢神経障害。軸索が長い四肢末端から障害され、①手袋靴下型の感覚障害、②遠位から始まる筋力低下が特徴。 |
【軸索障害】 顔面神経麻痺、坐骨神経麻痺 手根管症候群、肘部管症候群 Bell麻痺 Ramsay Hunt症候群 糖尿病性ニューロパチー |
【軸索障害】 全身の血管炎(RAなど) 膠原病(SLE、シェーグレン症候群など) サルコイドーシス 糖尿病性ニューロパチー |
【軸索障害】 糖尿病性ニューロパチー CMT、ビタミン欠乏性など 【髄鞘障害】 ギランバレー症候群、Fisher症候群、CIDP、CMT |
【代表的な症状】
運動神経障害 | 感覚神経障害 | 自律神経障害 |
筋萎縮・筋力低下 腱反射↓ |
手足のしびれ感・痛み 感覚鈍麻 |
膀胱直腸障害、下痢・便秘 起立性低血圧、勃起不全 |
糖尿病性ニューロパチー
代謝疾患の糖尿病を参照。
遺伝性ニューロパチー
運動性ニューロパチー | 運動感覚性ニューロパチー | 感覚自律性ニューロパチー |
運動神経のみが障害 | 運動・感覚神経が障害 | 感覚・自律神経が障害 |
・CMT | ・FAP |
Charcot-Marie-Tooth病(CMT)
疫学 | 10~30歳代に発症 |
病態 | シャルコー・マリー・トゥース病。 遺伝子異常によりミエリン蛋白の異常をきたし脱髄が生じる。慢性進行性で、下肢遠位筋の筋力低下から始まる。常染色体優性遺伝が多い(予後良好)。 |
症状 | ①逆シャンパンボトル型の下肢:下腿筋萎縮による ②歩行障害:前脛骨筋↓による背屈困難→下垂足で躓きやすい→代償的に鶏歩で歩く ③腱反射低下:特にアキレス腱反射↓ |
検査 | 【末梢神経伝導速度】脱髄型では低下 【腓腹神経生検】onion bulb(線維化のため) |
治療 | 関節可動域訓練、短下肢装具着用 |
家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)
病態 | 常染色体優性遺伝が多い(予後不良) 遺伝子異常により不溶性のアミロイド(トランスサイレチン:TTR)が末梢神経に沈着して軸索障害を起こす。長野・熊本に多い。 |
症状 | 自律N症状:繰り返す下痢と便秘、起立性低血圧、排尿障害 感覚N障害:下肢末梢から針で刺すようなジンジンする感覚がはじまり上行する アミロイド沈着:不整脈、心・腎不全→死 |
検査 | 【組織生検】Congo red染色+ 【腹壁脂肪生検】遺伝子検査よりTTR遺伝子変異 |
治療 | 肝移植(TTRは肝臓で合成されるため) |
Wernicke脳症
精神科総論を参照。
ミオパチー(神経原性筋萎縮・筋原性筋萎縮)
ミオパチー | 筋線維障害の総称 | ー |
神経原性筋萎縮 | 運動神経の障害に起因する筋萎縮 | 主に遠位筋が障害される |
筋原性筋萎縮 | 筋線維自体の障害に起因する筋萎縮 | 主に近位筋が障害される |
筋ジストロフィー MD:Muscular Dystrophy
MDは筋線維の変性・壊死を特徴とするミオパチーで、進行性の筋力低下を呈する遺伝性疾患の総称である。最も多いのがデュシェンヌ型、次いで筋強直性である。
ジストロフィンとは、細胞質タンパク質で筋膜を安定化させる物質である。
★★Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)
疫学 | 10歳までに発症、男児に好発(伴性劣性遺伝) |
病態 | 先天的にジストロフィン遺伝子に変異があり、ジストロフィンが合成できず、筋線維膜が脆弱化し、収縮と伸展により筋線維が崩壊する。その結果、近位筋から順に骨格筋が変性・壊死する。2/3は遺伝性、1/3は新生突然変異である。 |
症状 | 【小児期:3〜5歳】 ①動揺性歩行(Trendelenburg歩行):肢帯部の筋力低下により動揺性のアヒルの様に歩き、転びやすい ②登はん性起立(Gowers徴候):近位筋を使わない立ち方で、膝を手で押さえながら立つ ③腓腹筋の仮性肥大:萎縮した近位筋の筋線維が壊死に陥り、結合織に置き代わったものであり、硬く触れる 【小児期以降】 ④関節拘縮、歩行困難、脊椎の前弯・側弯。 ⑤末期には呼吸筋障害・心筋症→心不全 |
検査 | 【血液検査】筋線維壊死によりCK↑LDH↑AST↑アルドラーゼ↑ミオグロビン↑ 【尿検査】クレアチン/クレアチニン比↑(クレアチンが筋で代謝されず尿中排泄される) 【筋生検】ジストロフィン染色陰性 【心電図】異常Q波 |
治療 | 対症療法のみ。予後不良で多くは20歳前後で心不全や肺炎で死亡する。 |
筋強直性ジストロフィー(DM)
疫学 | 多くは15〜40歳に発症(成人型で最多) |
病態 | CTGリピートの異常伸長(triplet repeat病の一つ)によりそれが何らかの誘因となり正しい筋肉が作られず、収縮と伸展により遠位筋から順に骨格筋が変性・壊死する。常染色体優性遺伝で、世代を経るに従いリピート数が増加する傾向がある(表現促進現象)。 |
症状 | 【ミオトニア現象(筋緊張が持続)】 ①把握ミオトニア:握った手が容易に開かない ②舌の叩打ミオトニア:舌をハンマーで軽く叩くと強く収縮しクローバー状になる ③母指球の叩打ミオトニア:筋をハンマーで軽く叩くと強く収縮する 【進行性の筋力低下・筋萎縮】 ①四肢遠位筋・胸鎖乳突筋の萎縮、顔面筋や咬筋の萎縮(斧様顔貌=逆三角形顔貌) ②心臓伝導障害:房室ブロックなど ③平滑筋障害による嚥下障害・構音障害・消化器症状 【その他】 若年性白内障(必発)、糖尿病、前頭部禿頭、精神発達遅滞、易感染性、勃起不全・月経異常 強すぎてガチで逃亡、笑みはなし:顔面筋萎縮、知能低下、DM、前頭部禿頭、房室ブロック、遠位筋萎縮、ミオトニア、白内障、無精子症(性腺機能萎縮) |
検査 | 【血液検査】軽度CK↑、低IgG血症 【針筋電図】針刺時の急降下爆撃音(ミオトニア放電) |
治療 | 対症療法のみ(筋強直に抗てんかん薬)。緩徐に進行するため予後比較的良好。 |
神経筋接合部疾患
★★重症筋無力症 MG:Myasthenia Gravis
疫学 | 女性は20〜40歳代・男性は50歳以上に好発、女性がやや多い(2:1) |
病態 | 抗ACh受容体抗体が産生され、神経筋接合部のACh受容体が補体によって破壊され、これが繰り返されるとACh受容体数が減少し、骨格筋の脱分極が起こりにくくなる自己免疫疾患(筋萎縮は基本的にない)。本症の約70%で胸腺過形成、約15%で胸腺腫を認めるため、自己抗体産生関与していると考えられる。 【重症筋無力性クリーゼ(補助呼吸が必要な危機的状態)】 気道感染症などが誘因となり病状が悪化して呼吸筋麻痺になる状態 【コリン作動性クリーゼ】 CheE阻害薬の過剰投与によって急性に生じる呼吸困難。原因はムスカリン性ACh受容体のコリンエステラーゼも阻害することにより、平滑筋や分泌腺の活動が異常に亢進して、気道分泌過多や気管支攣縮などが起こり、呼吸困難に陥る。 |
症状 | 眼瞼下垂と複視が初発症状(外眼筋麻痺) 運動時や夕方に強くなる上肢近位筋優位の筋力低下と易疲労感(休息で改善) 咽頭筋の筋力低下で構音障害や嚥下困難、重症例では呼吸筋麻痺となる。 |
検査 | 【身体検査】 視診:舌の表面に3本の陥凹が縦走して見える 【血液検査】抗AChR抗体+(約80%)、陰性の場合は抗MuSK抗体+(約70%) 【画像検査】CTで前縦隔に胸腺腫を認める場合がある 【テンシロン試験】AChE阻害薬のエドロホニウム静注で症状改善 【アイスパック試験】冷凍したアイスパックを眼瞼に数分置くと症状改善 【誘発筋電図】反復刺激によってwaning(漸減) |
治療 | 【手術】胸腺腫がある場合は胸腺摘出術 【薬物療法】 ①抗AChE阻害薬 ②ステロイド(抗体産生抑制)→免疫抑制薬(長期的投与に伴う副作用回避のため) ③重症例では血漿交換療法、免疫グロブリン大量療法、ステロイドパルス ④上記が無効の場合は抗補体モノクローナル抗体(エクリズマブ) ※アミノグリコシド系抗菌薬は禁忌(神経筋シナプス伝達を阻害するため) ※非脱分極型筋弛緩薬は禁忌 【重症筋無力性クリーゼ】 直ちに気道確保して呼吸管理+血漿交換・γグロブリン大量療法+抗AChE阻害薬点滴静注 【コリン作動性クリーゼ】 抗AChE阻害薬を中止し、気道分泌液を除去し、アトロピンを筋注する |
Lambert-Eaton症候群(LEMS)
病態 | 主に肺小細胞癌に対する抗VGCC抗体(電位依存性Caチャネル)が産生され、その抗体が交差免疫によって神経筋接合部のシナプス前膜のVGCCに結合してAChの放出を抑制するため、骨格筋の脱分極が起こりにくくなる。 |
症状 | 下肢近位筋優位の筋力低下(外眼筋麻痺はまれ)、腱反射↓ 反復運動で筋力が一時的に回復(何度も刺激されACh放出が促進されるため) |
検査 | 【誘発筋電図】反復刺激によってwaxing(漸増)(ワックス付けてアゲアゲ!) |
治療 | ステロイド・免疫抑制薬(自己抗体産生抑制)、3.4-ジアミノピリジン(ACh放出促進) |
本態性振戦
病態 | 上肢を前方に伸ばした姿勢を取らせると手指に出現する姿勢時振戦の一つ。 増悪:精神的緊張 軽減:アルコール、鎮静薬 |
症状 | ①姿勢時振戦:甲状腺機能亢進症の可能性もあるため除外する |
検査 | |
治療 | 【薬物療法】 プロプラノロール、アロチノロール、ジアゼパムなど 【手術】定位脳手術 |
★ミトコンドリア脳筋症
病態 | ミトコンドリアDNAの変異によりエネルギー消費量の多い脳や筋が障害される疾患をミトコンドリア脳筋症という。 |
症状 | <ミトコンドリア脳筋症の共通症状> 脳症状:感音性難聴、知的機能の低下 筋症状:近位筋優位の筋力低下、易疲労性、心筋症 身体症状:低身長 <三大病型> ①慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO):眼瞼下垂、外眼筋麻痺、網膜色素変性症 ②MELAS:反復する脳卒中様発作:頭痛、嘔吐、けいれん、一過性半身麻痺など ③MERRF:ミオクローヌス、けいれんなど |
検査 | 【筋生検】赤色ぼろ線維 ragged-red fiber(ミトコンドリアが多く、筋線維がぼろぼろ) 【血液検査】発作中は乳酸↑、乳酸/ピルビン酸比↑ |
治療 | ビタミン剤などの対症療法 |
抗NMDA受容体脳炎
疫学 | 若年女性に多い |
病態 | 主に中枢神経系に分布しているNMDA受容体に対する自己抗体が生じて発症する脳炎 |
症状 | ①統合失調症様精神症状 ②痙攣発作 ③緊張病性昏迷状態 ④中枢性低換気 ⑤不随意運動 【合併症】 卵巣奇形腫が高率に合併 |
検査 | ? |
治療 | ? |
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