先天性心疾患
心房中隔欠損症 ASD:Atrial Septal Defect
疫学 | 先天性心疾患の約10%を占める(2番目に多い)。女性に好発(男:女=1:2) |
病態 | 心房中隔の欠損孔を通じて拡張期に左→右シャントが生じ、右心系への容量負荷をきたす疾患。経過とともに肺血管抵抗が上昇すると右→左シャントとなり、酸素化されてない血液が駆出される(Eisenmeger症候群)。 ※左房→右房への血流の速度が速くないため感染性心内膜炎のリスクは低い |
症状 | 【小児期】 原則、無症状(心雑音のみ) 【思春期以降】 ①心不全症状:労作性呼吸困難 ②動悸:長期的な心房に対する負荷により心房細動を合併しやすい ③肺高血圧症:右心系の血流増加のため チアノーゼ・ばち指:Eisenmeger症候群のため(ただし、ここまで至るのは比較的稀) |
検査 | 【聴診】 ①Ⅱ音固定性分裂(2LSB):右室の仕事量が常に増加し、呼気時のⅡpも遅れる ②収縮期駆出生雑音(2LSB):右心系容量負荷で肺Aへの駆出量↑で、相対的PSになる ③拡張期ランブル(4LSB):さらに容量負荷でにT弁通過血流量↑で、相対的TSになる 【心電図】 ①右軸偏位(二次孔型) ②V1でrsR’型の不完全右脚ブロック(学校検診などで見つかる) ③高齢者でAFなどの上室性不整脈 【画像検査】 心エコー:右房・右室内腔の拡張、カラードプラで左房→右房へのシャントで確定診断、Mモードで心室中核の奇異性運動(右室前壁に向かう) 胸部X線:肺A拡大による左第2弓突出、右房拡大による右第2弓突出、右室拡大による右第4弓突出(心腰部の消失、CTR拡大)、肺血流増加による肺血管陰影の増強 心カテ:シャントによる右房内のO2 step upを認める |
治療 | 乳児期を除いて自然閉鎖が期待できないため、就学前に根治術を行うことが望ましい。 Qp(肺血流量)/Qs(体血流量)が1.5以上(=シャント率33%以上)の場合、手術適応。 欠損孔閉鎖術(心内修復術):欠損部を直接縫合 or パッチを用いて閉鎖 カテーテル下デバイス閉鎖術:小さな欠損孔のみ適応 |
心室中隔欠損症 VSD:Ventricular Septal Defect
疫学 | 先天性心疾患の約30%を占める(最多)。 |
病態 | 心室中隔の欠損孔を通じて収縮期に左→右シャントが生じ、肺血流量増加によって左心系への容量負荷をきたす疾患。経過とともに肺血管抵抗が上昇すると右→左シャントとなり、酸素化されてない血液が駆出される(Eisenmeger症候群)。 |
症状 | 【小欠損】 原則、無症状(多くは自然閉鎖する) 【中〜大欠損】 乳児期より、 心不全症状:呼吸困難・多呼吸→哺乳困難 チアノーゼ・ばち指:Eisenmeger症候群のため |
検査 | 【聴診】 Ⅱ音の病的分裂(2LSB):肺動脈血流量↑でP弁閉鎖に時間がかかる 全収縮期逆流性雑音(3LSB):欠損孔通過音(孔が小さいほど雑音大きい) 拡張期ランブル(心尖部):M弁通過する血液量↑による機能的MS=Carey Coombs雑音 Ⅱp亢進:肺高血圧によってP弁が強く閉じる→機能的PRとなる Graham-Steell雑音:肺高血圧に伴う機能的PRにより拡張期に逆流性雑音を生じる 【心電図】 シャント量が増加するにつれ左室肥大による左室高電位など 【画像検査】 心エコー:カラードプラで左室→右室へのシャントで確定診断 胸部X線:シャント量が増えるにつれ左第2・3・4弓突出 心カテ:シャントによって右房から右室おけるO2 step upを認める |
治療 | 【小〜中欠損】 経過観察。VSDの約70%は自然閉鎖し、主に2歳までに閉鎖する。 VSD残存した場合、感染性心内膜炎のリスクのため抜歯時などは抗菌薬の予防投与する。 【大欠損】 肺体血流量比(Qp/Qs)が1.5以上で手術適応。パッチを用いて外科的に閉鎖。 漏斗部欠損(A弁直下→右室)ではA弁変形によりARを生じるため早期手術する。 |
房室中隔欠損症 AVSD(別名:心内膜床欠損症)
病態 | 房室中隔の発育障害による疾患。不完全型と完全型に分類される。 不完全型:ASD+房室弁変形による閉鎖不全 完全型:不完全型+VSD(完全型の約40%はDown症候群に合併) |
症状 | ASD、VSDの症状 |
検査 | 【心電図】 不完全右脚ブロック、左軸偏位、第1度房室ブロック 【画像検査】 左室造影:goose neck sign(左室→左房→右房へ造影剤が流れるため) |
治療 | M弁修復+パッチで欠損部閉鎖 |
動脈管開存症 PDA:Patent Ductus Arteriosus
疫学 | 先天性心疾患の約10%を占めるがすぐに治療されて成人では約2%。 リスク因子:34週未満の早産児、先天性風疹症候群 |
病態 | 胎児期の動脈管が残存し、大動脈弓→肺Aへ左→右シャントとなり、肺循環へ負荷がかかり最終的に左心系の容量負荷をきたす疾患。経過とともに肺血管抵抗が上昇すると右→左シャントとなり、腕頭Aなど上半身を灌流する動脈を除いて、酸素化されてない血液が駆出される(Eisenmeger症候群)。 |
症状 | 左心不全症状:呼吸困難 下半身のみの遅発性チアノーゼ:Eisenmeger症候群のため |
検査 | 【血圧・脈圧】 速脈・大脈:動脈管開存が大きいとシャントにより拡張期圧↓から速脈=反跳脈となる Quincke脈:爪床で脈拍に合わせて色調変化 【身体検査(聴診)】 連続性雑音(2LSB):収縮期・拡張期ともに大動脈→肺Aへ血液が流入するため Ⅱp亢進:肺高血圧によってP弁が強く閉じる→機能的PRとなる Graham-Steell雑音:肺高血圧に伴う機能的PRにより拡張期に逆流性雑音を生じる 【心電図】 左室肥大所見 【画像検査】 心エコー:カラードプラで大動脈→肺Aへの流入像 胸部X線:肺A拡大で左第2弓突出、左室拡大で左第4弓突出、肺血流増加による肺血管陰影の増強 心カテ:右室から肺AにおけるO2 step upを認める |
治療 | 【未熟児】 インドメタシン静注:動脈管拡張作用のあるPGE1の合成を阻害 【上記以外】 動脈管の外科的切離・結紮、カテーテルによるコイル塞栓術 |
肺動脈狭窄症 PS:Pulmonary artery Stenosis
病態 | 先天的に主にP弁に狭窄があり、右心系に圧負荷をきたし右心肥大を生じる疾患。 |
症状 | 軽症は無症状 中等症以上で労作時呼吸困難など |
他覚 所見 |
【2LSB聴診】 収縮中期駆出性雑音:狭窄したP弁を通過する乱流音 Ⅱ音の病的分裂:P弁の閉鎖に時間がかかることでⅡpが遅れる |
検査 | 【心電図】 右軸変異、右房拡大(P波増高)+右室肥大所見 【画像検査】 心エコー:ドーム状に形成したP弁+主肺Aの狭窄後拡張 胸部X線:肺A狭窄後拡張による左第2弓突出 心カテ:収縮期に右室圧(圧↑)>肺A圧(圧正常)を認める |
治療 | 軽症は経過観察 中等症以上で経皮的バルーンP弁形成術(BPV)→稀に肺A穿孔の合併症あり |
Fallot四徴症 TOF:Tetralogy Of Fallot
疫学 | 先天性心疾患の約5%を占める(3番目に多い)。 |
病態 | 発生過程で円錐中隔が右前方に偏位するため、心室中隔が欠損する(右室圧=左室圧)。大動脈がその欠損部位に騎乗したようになり、相対的に肺A狭窄が狭窄する。その結果、右室流出路狭窄による右室の圧負荷が起こり右室肥大となる。さらに、肺血流が減少し、VSDを通して右→左シャントとなり、大動脈へ静脈血が流出してチアノーゼをきたす。 ①VSD→②大動脈騎乗→③肺A狭窄→④右室肥大 |
症状 | ①チアノーゼ:生後1〜6ヶ月の間にチアノーゼが出現+呼吸困難が初発となり(無酸素発作)、以後もチアノーゼが続き、ばち指が見られることもある。 ②発作時に蹲踞の姿勢(しゃがみ込んだ姿勢):体血流抵抗の増大によりVSDの右→左シャントを減少させ、肺血流量を増加により呼吸苦を改善させる。 【合併症】 脳膿瘍:右左シャントの存在する先天性心疾患のため |
検査 | 【聴診】 収縮期駆出性雑音(2LSB):右室流出路狭窄のため 単一Ⅱ音(2RSB):肺A狭窄によりⅡp音が減弱するため 【心電図】 右軸変異、右房拡大(P波増高)+右室肥大所見 【画像検査】 胸部X線:肺A低形成による左第2弓陥凹+右室肥大による左第4弓突出=木靴型心陰影 心エコー:右室収縮期圧=左室収縮期圧 心カテ:右室造影で肺A・大動脈・左室が同時に造影される |
治療 | 【無酸素発作時】 ①胸膝位+O2吸入(肺動脈閉鎖(極型Fallot)では動脈管依存のためにO2吸入は禁忌) ②モルヒネ or BZ系:鎮静 ③β遮断薬の静注:右室流出路狭窄改善 【手術】 ①心内修復術(VSD閉鎖+肺A狭窄解除 or 右室流出路形成):肺A発育を待って生後6ヶ月〜1歳に施行。 ②肺Aが閉鎖した重症TOFでは、まず、PGE1を持続点滴静注して動脈管を開存維持し、次に鎖骨下A→肺A吻合するB-Tシャント術(=動脈管開存みたいな状態)などの姑息手術を肺血流増加を目的に行い、最後に心内修復術を施行する。 |
大動脈縮窄症 CoA:Coarctation of the aorta
疫学 | 先天性心疾患の約5%、Turner症候群の約30%に合併 |
病態 | 大動脈遠位弓部狭窄をきたした先天性奇形。合併のない単純型大動脈縮窄、他の心奇形(VSD、PDA)を合併したものは大動脈縮窄複合に分類される。 |
症状 | 単純型:無症状が多い 複合型:PDAがあると右室→大動脈へと流れ下半身チアノーゼをきたす |
検査 | 【聴診】 左背部で収縮期あるいは連続性雑音 【血圧】 上肢血圧>下肢血圧(上半身へは左室から駆出される血液が灌流するが、下半身への血流は右室・肺動脈から開存した動脈管を経由して下行大動脈に供給されため、下半身のみに酸素飽和度の低い血液が送られてチアノーゼを認める) |
治療 | 単純型:上下肢血圧差20以上の場合は狭窄部切除端々吻合術 複合型:PGE1投与し、可及的速やかに手術(NSAIDs禁忌) |
エプスタイン奇形 Ebstein anomaly
T弁の一部が右室に落ち込み、T弁閉鎖不全と右房化右室となり、機能的に右室が狭小化する疾患。心房中隔の欠損孔や卵円孔を通して右→左シャントとなりチアノーゼを呈する。また、刺激伝導系にも異常がありWPW症候群を合併することが多い。
完全大血管転位症
疫学 | 男児に多い |
病態 | 肺Aと大動脈が入れ替わり、右室から大動脈、左室から肺Aが起始するチアノーゼ疾患。放置すれば1年以内に大多数が死亡する。体循環と肺循環が分離されているため、生命維持のためには両循環での体液の混合が必須となり、シャント量が多いほど生存に有利となる。 |
治療 | 出生直後にPGE1製剤投与 出生後早期にバルーン心房中隔裂開術(BAS)施行 |
弁膜症、心内膜疾患
リウマチ熱
グラム陽性球菌の溶連菌を参照。
僧帽弁狭窄症 MS:Mitral Stenosis
病態 | リウマチ熱感染後、10年以上経過して僧帽弁が石灰化する(リウマチ熱減少と共にMSも激減した)。その結果、拡張期に左房→左室への血液流入が障害され、左房圧上昇+心拍出量低下となり(左心不全状態)、AFや血流障害により左房内血栓が生じやすくなる。重症例では、肺水腫を抑制するため肺の毛細血管が収縮し肺高血圧→右室肥大となる。 |
症状 | ①心不全症状:肺うっ血による労作時呼吸困難など ②動悸・脈不整:左房負荷による刺激伝導系異常によりAFが生じる ③左房内血栓:心原性脳梗塞、心筋梗塞、急性腹症など |
他覚 所見 |
【心尖部聴診】 ①Ⅰ音亢進:弁石灰化により収縮期に閉鎖音が亢進 ②Opening Snap(僧帽弁解放音):Ⅱ音直後に石灰化した弁が開く高調音 ③拡張中期ランブル:狭窄した弁を血液が通るときのゴロゴロとした低調性雑音 ④前収縮期雑音:拡張末期に心房内の血液を絞り出す音だが、AF時は消失 【2LSB聴診】 ⑤Ⅱp音亢進:肺高血圧により肺A圧↑してⅡp音亢進。重症例で肺高血圧がある場合、P弁輪拡大で相対的PRでGraham Steell雑音が生じる。 |
検査 | 【画像検査】 ①心エコー:M弁輝度↑、拡張期に前尖ドーム状、左房拡大(左室拡大なし)、カラードプラで収縮期左房→左室へのモザイク、MモードでDDR低下(ゆっくり弁が閉じている) ②胸部X線:左房拡大所見、左第3弓突出(肺高血圧)、血管陰影増強(肺うっ血) ③心電図:左房負荷所見→進行すると右室負荷所見、AF所見 ④カテーテル検査:PAWP上昇、左房圧>左室圧(拡張期LA-LV圧較差) |
治療 | 【薬物療法】 ①洞調律に戻す or 洞調律を維持:ジソピラミド、プロカインアミド ②AFはそのままで心拍数を調整:ジギタリス、β遮断薬 ③AFに伴う血栓症・塞栓症を予防:ワルファリン、DOAC 【手術】 ①僧帽弁交連切開術=自己弁温存術(経皮的→PTMC/直視下→OMC) ②石灰化例は弁置換術(MVR) |
僧帽弁閉鎖不全症 MR:Mitral Regurgitation
病態 | ①一次性:腱索断裂、感染性心内膜炎、僧帽弁逸脱、リウマチ熱後遺症で弁尖破壊 ②二次性:心筋梗塞など虚血で乳頭筋機能不全、拡張型心筋症などで左室肥大し弁輪拡大 上記の原因により僧帽弁閉鎖不全が生じ、収取期に左室→左房に逆流がある。その結果、左室と左房に容量負荷がかかり左室肥大・左房拡大となる。また、左房負荷による刺激伝導系異常によりAFが生じる。 |
症状 | 長期間無症状。左室肥大・左房拡大だけでは代償できなくなると心不全症状。 |
他覚 所見 |
【心尖部聴診】 ①Ⅰ音減弱:収縮期にM弁が閉じきらないためⅠ音減弱 ②全収縮期雑音:左室→左房への高調性逆流音 ③Ⅲ音聴取:拡張期に左室容量負荷(心不全の早期徴候) ④拡張期ランブル:M弁を通過する血液量が多いと逆流が生じてM弁口が狭窄し(相対的MS)、Carey Coombs雑音が生じる。 【2RSB・2LSB聴診】 ⑤Ⅱ音の病的分裂:左房に逆流する分だけA弁の作業量は少なくなり、ⅡAが早く終わるのでⅡpとの間隔が広くなり吸気時・呼気時共に分裂する。 |
検査 | 【画像検査】 ①心エコー:カラードプラで収縮期に左室→左房に逆流モザイク、左房・左室拡大、進行するにつれLVEF↓(左室駆出率)・LVDs↑(左室収縮終期径) ②胸部X線:左房・左室拡大所見 ③心電図:左房負荷・左室肥大所見 |
治療 | 【薬物療法】 心不全に対してフロセミドなど、AFに対してジギタリスやワルファリンなど投与 【手術】 ①自己弁に問題なければ僧帽弁形成術、②形成できない場合は僧帽弁置換術(MVR)、③80歳以上で手術不可の場合は経皮的クリップ術 |
僧帽弁逸脱症候群 MVP:Mitral Valve Prolapse syndrome
疫学 | 細身の女性に多い、MRの1番の原因はMVP |
病態 | 一次性:Marfan症候群などで僧帽弁支持組織に変性があり、弁の制御ができない 二次性:リウマチ熱後遺症、虚血性心疾患などで弁や周囲組織が破壊されている 上記の原因により、収縮中期に僧帽弁(後尖)の一部が左房内にはみ出す状態。その結果、左室→左房へ血液が逆流する(MR)。 |
症状 | 逆流が軽度なら無症状。左室肥大・左房拡大だけでは代償できなくなると心不全症状。 |
検査 | 【身体検査】 心尖部聴診:収縮中期クリック→収縮後期逆流性雑音:M弁が帆を張ったときにクリック音が聴こえ、その後、左室から左房へ逆流する際に高調性の逆流音が聴こえる。 【画像検査】 ①心エコー:左室長軸像で僧帽弁が左房内にはみ出す像(収縮期異常上方運動)+収縮期に左室→左房に逆流(カラードプラ) |
治療 | 逆流が多くない場合:経過観察。抜歯や手術時には感染性心内膜炎予防に抗菌薬投与。 逆流が多い場合(心不全症状あり):僧帽弁形成術 |
大動脈弁狭窄症 AS:Aortic Stenosis
病態 | 先天性:二尖弁による石灰化 後天性:加齢による動脈硬化で石灰化、稀にリウマチ熱の後遺症による石灰化 上記の原因により、収縮期に左室→大動脈への駆出が障害され、左室に圧負荷が加わり求心性肥大する。その結果、左室の拡張期圧が上昇し、左心不全を生じる。 |
症状 | 代償期は無症状。代償できなくなると以下の症状が出て、突然死することもある。 ①狭心痛:左室肥大により心筋O2需要量↑+冠血流量↓、無治療で平均余命5年 ②失神:大動脈圧↓による脳血流量↓、無治療で平均余命3年 ③左心不全症状:肺うっ血・呼吸困難など、無治療で平均余命2年 |
他覚 所見 |
【血圧・脈拍】 脈圧低下:大動脈圧↓による収縮期血圧↓ 遅脈・小脈(Slow・Small:AS):大動脈圧↓のため 【2RSB・2LSB聴診】 ①収縮期駆出性雑音:A弁通過時の乱流音(2RSB・雑音が頸部に放散) ②Ⅱ音奇異性分裂:左室の駆出が遅れるためⅡaが遅れ、特に呼気時で分裂を聴取する。 ③Ⅱ音減弱:? 【心尖部聴診】 ④Ⅳ音:心肥大により、拡張期に左房も強く収縮するため |
検査 | 【画像検査】 ①心エコー:弁通過血流速度↑(4m/秒以上)、弁口面積↓(1.0cm2以下で症状出現=高度狭窄)、左室-大動脈圧較差↑(40mmHg以上)、収縮期A弁開放制限、左室壁肥厚、石灰化でA弁輝度↑、収縮期モザイクパターン ②胸部X線:左第1弓突出(A弁狭窄後拡張)、左第4弓拡大(左室肥大) ③心電図:左軸偏位+左室負荷所見、圧負荷↑と共にV5/V6でStrain pattern ④心カテ(左室-大動脈引き抜き圧曲線):A弁を通過後に圧が下がる |
治療 | 【手術】 有症状・LVEF<50%の場合、75歳以下は原則大動脈弁置換術(AVR)、手術に耐えらえない80歳以上の高齢者は経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)。突然死をきたしやすいためリハビリも行わない。 |
大動脈弁閉鎖不全症 AR:Aortic Regurgitation
病態 | 弁自体の異常:リウマチ熱後遺症、感染性心内膜炎、二尖弁、動脈硬化、高位VSD 弁支持組織の異常:上行大動脈解離、大動脈炎症候群、Marfan症候群によるA弁輪拡張症 上記の原因により、拡張期に大動脈→左室に逆流し、左室は容量負荷により遠心性肥大する。肥大で代償できなくなると左心不全になる。 |
症状 | 代償期は無症状。代償できなくなると以下の症状が出る。 ①狭心痛:左室肥大により心筋O2需要量↑+拡張期圧↓により冠血流量↓ ※拡張期に大動脈から左室に向けて逆流が生じ、拡張期圧↓により相対的に冠血流も↓ ②心不全症状:呼吸困難など ③重症になるとQuincke脈(爪床で脈拍に合わせて色調変化)やMusset徴候(脈拍に合わせて頷く動き) |
他覚 所見 |
【血圧・脈拍】 脈圧増大:左収縮力↑による収縮期圧↑、逆流により大動脈圧↓し拡張期圧↓ 速脈・大脈(Rough・Rapid:AR):脈圧増大のため Hill徴候:膝窩動脈での収縮期血圧が上腕血圧より60mmHg以上高いこと 【2RSB聴診】 ①Ⅱa音亢進:逆流する血液がA弁を強く閉めるため 【3LSB聴診】 ②拡張期逆流性雑音:拡張期に大動脈から左室に逆流する音(前傾座位+強制的呼気) ③収縮期駆出性雑音:大動脈弁口を通過する血流量が増え、相対的ASとなる(往復雑音=to-and-fro murmur)。 【心尖部聴診】 ④Austin Flint雑音:拡張中期に逆流した血液がM弁前尖を押し上げ、機能的MSとなる。 ⑤Ⅲ音:拡張期に血液が急速に充満して左室壁が振動する音 |
検査 | 【画像検査】 ①心エコー:左室内腔・大動脈根部の拡大、カラードプラで大動脈から左室への逆流ジェット、MモードでM弁の拡張期Fluttering ②胸部X線:左第4弓突出(左室肥大)、左第1弓突出(大動脈拡大)、右第1弓突出(大動脈根部拡大) ③心電図:左軸偏位+左室負荷所見 ④心血管造影:大動脈造影でARの程度を確認、冠血管造影で冠動脈狭窄確認 |
治療 | 【手術】 有症状の場合、原則大動脈弁置換術(AVR)。 大動脈内バルーンパンピング(IABP)は禁忌! |
人工弁の選択
どちらも感染のリスクは同じ!感染症心内膜炎の高リスク群となるため、抜歯時は緑色レンサ球菌をカバーするペニシリン系抗菌薬を予防的に投与し、抜歯後にも短期間服用させる。
生体弁 | 機械弁 | |
特徴 | ワルファリン内服の必要がない 耐久性が低い(10〜20年で弁機能低下) |
耐久性が高い ワルファリン内服が必要(DOAC不可) |
適応 | 70歳以上、挙児希望 | 左記以外 |
その他の弁膜症
省略
感染性心内膜炎 IE:Infective Endocarditis
病態 | ①VSD、PDA、MR、AR、人工弁、HOCMなどの高速血流ジェットをきたす器質的基礎心疾患(NBTE)が素地となる。 ②高速血流ジェットにより心内膜が障害され、そこに形成された血栓に菌が定着して疣贅を形成する。菌は抜歯などの歯科治療、扁桃摘出術、カテーテル挿入、産婦人科・泌尿器科的処置などによって体内に侵入する。起因菌は亜急性の場合は緑色レンサ球菌(最多)や腸球菌、急性の場合は黄色ブドウ球菌(2番目)が多い。 ③疣贅から剥がれた血栓が詰まると塞栓症を起こす。また、弁破壊でAR、MR悪化する。 感染性心内膜炎は放置しておくと心不全などにて死に至る。 |
症状 | ①感染症症状:発熱、関節痛、筋肉痛、感染性脳動脈瘤(→脳出血) ②塞栓症症状:脳梗塞による片麻痺、脾梗塞による左季肋部痛、冠動脈閉塞による胸痛、腎梗塞による側腹部痛、腸管膜動脈閉塞による腹痛 ③心不全症状:弁膜破壊によるAR、MRの重症化による |
他覚 所見 |
【視診(塞栓+血管炎の症状)】そうか、ロスじゃお寿司ない膜炎! ①爪下(そうか)線状出血斑(splinter hemorrhage) ②Roth斑:網膜の円形白色斑(眼底の出血性梗塞で中心部が白色) ③Janeway病変:手掌と足底の無痛性小紅斑 ④Osler結節:指趾指頭の有痛性の赤紫色小結節、2~3日で消失する ⑤点状出血:疣贅中の血栓が剥がれ、皮膚・眼瞼結膜・頬粘膜などの微小血管を閉塞 【聴診】 逆流性心雑音 |
検査 | ①血液検査:赤沈↑CRP↑WBC↑γグロブリン↑フィブリノゲン↑ ②血液培養:24時間以上かけて3回の血液培養が望ましい ③心エコー:弁尖に付着した可動性腫瘤の確認(特に経食道心エコーが感度高い) |
治療 | ①速やかに抗菌薬治療を開始する(エンピリック治療) ②血液培養結果に基づき抗菌薬を経静脈的に4〜6週間投与 ③心不全や弁・腱索破壊がある場合は早期に手術(弁形成術、弁置換術) |
予防 | 処置の1時間前にAMPC単回投与 |
粘液腫 Myxoma
疫学 | 原発性心臓腫瘍の75%は良性で、良性腫瘍の約半分が粘液腫。 ただし原発性腫瘍<転移性腫瘍(白血病、悪性黒色腫、肺癌)。 |
病態 | 多くは有茎性で、約90%は左房内に生じる。粘液腫はゼリー状で壊れやすいため、塞栓症をきたしやすく、突然死をきたすこともある。 |
症状 | ①MS様症状:M弁に腫瘍が嵌頓し、呼吸困難などの左心不全症状、時に失神・突然死 ②塞栓症:左房内血栓が飛び脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞、網脈動脈塞栓症を起こす ③慢性炎症症状:IL-6産生で発熱、全身倦怠感、関節痛、体重減少 |
他覚 所見 |
【心尖部聴診】 体位変換により聴診所見変化:左側臥位で増強する拡張中期ランブル |
検査 | 【血液検査】 赤沈↑CRP↑WBC↑γグロブリン↑IL-6↑ 【画像検査】 心エコー:輝度の高い内部が不均一な腫瘤を確認、振り子様運動 造影CT: |
治療 | 手術により早期に茎を含めて摘出 |
心筋疾患
【心筋症の分類】
拡張型心筋症 | |
肥大型心筋症 | |
拘束型心筋症 | 稀。左室壁が硬いために拡張障害をきたす。 |
不整脈原性右室心筋症 | 常染色体優性遺伝。右室の心筋細胞が壊死し線維組織に置換される。 |
拡張型心筋症 DCM:Dilated Cardiomyopathy
疫学 | 約20%に家族歴があり、その多くは常染色体優性遺伝する。 |
病態 | 遺伝・ウイルス持続感染・自己免疫によって心筋が壊死して心室内腔が拡大し、収縮障害をきたす疾患。 |
症状 | ①心不全症状:労作時息切れ、交互脈 ②動悸:統一の取れた収縮が困難となりさまざまな不整脈を生じる ③塞栓症状:収縮力↓で血液うっ滞して血栓形成し、脳塞栓や肺塞栓を生じる |
他覚 症状 |
【聴診】 容量負荷によるⅢ音、収縮力↓を心房が代償しⅣ音、合わさり奔馬調律となる。 心室拡張に伴いM弁輪拡大するとMRのため全収縮期逆流性雑音を生じる。 |
検査 | 【画像検査】 胸部X線:心陰影拡大、肺うっ血により肺門部に白い陰影(Butterfly shadow) 心電図:左室拡大所見、異常Q波、非特異的ST-T変化 心エコー:左室内腔拡大+左室壁菲薄化、EF↓、Mモードで左室壁運動↓ 心カテ:左室拡張末期圧=PAWP↑、EF↓ |
治療 | 基本は慢性心不全と同じ薬物療法 根治は心臓移植 |
肥大型心筋症 HCM:Hypertrophic Cardiomyopathy
疫学 | 50%以上に家族歴があり、その多くは常染色体優性遺伝(遺伝性の約50%にサルコメア関連蛋白遺伝子変異)する。 |
病態 | Ca感受性亢進により低いCa濃度で心筋が収縮する変性疾患で、主に心室中隔の肥大に基づく左室の拡張障害をきたす疾患で、突然死の原因となる。 【閉塞型肥大型心筋症(HOCM)】 HCMの1/4は左室流出路が狭窄したHOCMであり、SAMによるMR合併がよく見られる。HOCMでは、静脈還流量が低下すると狭窄が高度になるため、期外収縮後の収縮(Brockenbrough現象)、Valsalva法呼吸、立位、運動によって悪化する。 |
症状 | 運動や脱水など交感神経亢進時に、 ①息切れ:左室拡張障害による肺うっ血のため ②動悸:拡張不全によるAFなどの不整脈 ③胸痛:肥大+拡張障害による心筋虚血 ④めまい・失神:心拍出量低下 |
他覚 | 【4LSB〜心尖部聴診】 拡張障害に伴いⅢ音+心房収縮力↑によりⅣ音(奔馬調律) HOCMでは収縮期駆出性雑音(A弁は正常なので頸部に放散しない)、期外収縮期後に増強する収縮期雑音 蹲踞で減弱する収縮期雑音:静脈還流量増加と末梢血管抵抗の増大(腹部大動脈と大腿動脈を圧迫することで体血管抵抗を増大)により、左室容積が増えて雑音が減弱する。 |
検査 | 【心電図】 ①ST-T変化(ストレイン型):V4〜V6でR波増高+ST低下 ②巨大陰性T波:左室肥大(特に心尖部)のためV3〜V5に巨大陰性T波 ③異常Q波:心室中隔の肥大のため ④左室高電位、Wide QRS:左室肥大のため 【画像検査】 胸部X線:心陰影拡大なし(求心性肥大のため) 心エコー:EFは正常、左室後壁と比較時に心室中隔の非対称性肥厚(ASH)、HOCMではカラードプラによる左室流出路狭窄のモザイク乱流やA弁の収縮中期半閉鎖、Mモードでは前尖を支える乳頭筋の偏位によりM弁前尖の収縮期前方運動(SAM)、DDR低下(僧帽弁前尖後退速度) 頸動脈圧波:二峰性脈 心カテ(左室-大動脈引き抜き圧曲線):閉塞部分を通過後に圧が下がる。左室流出路の狭窄部位前後で収縮期圧較差が30mmHg以上(左室内で圧較差) 【病理】 心筋生検で心筋細胞の肥大や錯綜配列、間質の線維化が見られる。 |
治療 | 【生活】激しい運動禁止 【薬物療法】左室内圧較差の是正! β遮断薬:陰性変時作用により運動時の心拍数増加も抑制し、労作時息切れや呼吸困難を改善。心筋酸素需要も減少するため心筋虚血による胸痛も改善。 Ca拮抗薬(ベラパミル or ジルチアゼム):陰性変力作用により左室内圧較差が減少し、めまいや失神発作などを改善。ジヒドロピリジン系は左室流出路圧較差を増大させるため不向き。 左室流出路閉塞を強めるβ刺激薬、ニトログリセリン、ジギタリス、利尿薬は禁忌! 【手術】 薬剤抵抗性HOCMはカテーテルによる中隔アルコール焼灼術(PTSMA)、突然死ハイリスク患者にはICD |
たこつぼ型心筋症 Takotsubo cardiomyopathy
疫学 | 高齢女性に多い |
病態 | たこつぼ心筋症の原因は詳細不明だが、ストレスを誘因に1つの冠動脈の支配領域を超えた左心室の壁運動異常を生じるが、冠動脈には有意狭窄を認めない疾患。 |
症状 | 心筋梗塞に似た胸痛 |
検査 | 【心電図】 ①広範囲な誘導でST上昇 ②経時的にST復帰+48時間以内に現れる陰性T波(特に下壁誘導)とQT延長(ときに巨大陰性T波を示す)+aVRで陽性T波 ※心電図のみでは診断できず、複数の臨床所見や臨床経過を総合して診断される。 【血液検査】 心筋梗塞を示す心筋逸脱酵素の血中上昇はない 【画像検査】 左室造影:心尖部を中心とした広範囲は収縮低下と代償性の心基部の過収縮、収縮終期の左室形態がたこつぼ様 |
治療 | 多くは数週以内に自然治癒 |
急性心筋炎 Acute myocarditis
病態 | ウイルス感染(エンテロウイルス属のコクサッキーB群など)による免疫応答、薬剤性などにより心筋が攻撃され心筋壊死や機能障害をきたす疾患。ほとんどが心膜炎を合併する。 |
症状 | 【先行症状】 感冒様症状、消化器症状 【先行症状の数日後】 息切れ:急激な左室機能低下による心不全症状 胸痛:心膜刺激 動悸:心ブロックなどの不整脈 |
検査 | 【血液検査】 赤沈↑CRP↑、逸脱による心筋トロポニン(TnT)↑LDH↑CK-MB↑AST↑ 【画像検査】 心電図:低電位、房室ブロック、非得意的ST-T変化 胸部X線:進行性心拡大 心エコー:炎症部位に一致した壁肥厚・壁運動低下、EF↓ |
治療 | 対症療法(左心不全には利尿薬・血管拡張薬、ショックにはIABP・PCPS) |
心膜疾患
急性心膜炎(心外膜炎) Acute Pericarditis
病態 | 特発性(最多)、ウイルス感染(主にコクサッキーB群)、膠原病(SLEなど)、結核、心筋梗塞などが原因で心膜の急性炎症を起こす疾患。心膜の炎症で心膜液が貯留し、心タンポナーデに至る場合もある。 心筋梗塞後の早期に起こる一過性心膜炎や、2〜6週間後に起こるアレルギー性心膜炎(Dressler症候群)に注意する。 |
症状 | (ウイルス感染を示唆する前駆症状が多い) ①胸痛:心膜刺激症状で30分以上持続し、吸気時・仰臥位で増強し、座位で軽減する。 ②発熱:炎症のため |
検査 | 【聴診】 ①心膜摩擦音:収縮期・拡張期に聴取する高調で皮革を擦り合わせた様な音 【心電図】 ①V1・aVRを除くほぼ全ての誘導で上に凹型のST上昇(対側性変化なし)。 ②aVRを除くほぼ全ての誘導でTPの基線と比較してPQ部分低下 ③心嚢液貯留が多い場合は低電位 【画像検査】 胸部X線:心膜液の貯留で心拡大 心エコー:心膜液の貯留でecho free spaceを認める。 |
治療 | 入院して安静+胸痛にNSAIDs、心タンポナーデがあれば心膜腔穿刺 (ウイルス性や特発性の心膜炎は2〜6週間で自然治癒する。発症2~3日後も症状が改善しなければ、結核、化膿性心膜炎を考慮し、心囊液より原因菌の同定を行う) |
心タンポナーデ Cardiac Tamponade
病態 | 悪性腫瘍の心膜転移(最多)、尿毒症、膠原病・結核・ウイルス感染→心膜炎、外傷・大動脈解離による出血、開心術・PCIの合併症、心筋梗塞の心破裂などの原因によって、心膜液が急激に貯留して心膜腔内圧が上昇し、心室拡張障害を来たす。その結果、右心への静脈環流量が減少+心拍出量が低下する疾患。 |
症状 | ①右心不全症状:右室拡張障害により下腿浮腫、肝腫大、頸静脈怒張 ②心拍出量↓:血圧↓、心音減弱、頻脈、呼吸困難 【Beckの三徴】 ベッキー、刑事と静かに決心(Beck・頸静脈怒張・静脈圧↑・血圧↓・心音↓) ①頸静脈怒張:心カテで中心静脈圧(CVP)↑・右房圧↑ ②血圧↓:代償性頻脈、吸気時に呼吸時よりも収縮期圧10以上低下する(奇脈) ③心音↓(Ⅰ音とⅡ音の減弱):心膜液により拍動が伝わりにくい |
検査 | 【心電図】 R波低電位、洞性頻脈、胸部誘導でQRS高が一拍ごとに変化する 【画像検査】 胸部X線:心陰影は左右対称に巾着状に拡大、胸水でCP角dull 心エコー:心膜液の貯留でecho free spaceを認める |
治療 | 心エコー下に心膜腔穿刺 血管拡張薬・利尿薬は禁忌、陽圧換気は静脈環流量↓のため禁忌 |
収縮性心膜炎 Constrictive Pericarditis
病態 | 50%以上が原因不明だが(特発性)、その他は結核など→急性心膜炎の回復過程で線維性肥厚を来し、壁側と臓側が癒着・石灰化して心膜腔が閉鎖されて拡張不全を生じる。その結果、右心への静脈環流量が減少する疾患。 |
症状 | ①右心不全症状:消化管うっ血のため蛋白漏出性胃腸炎→低Alb血症・下腿浮腫 ②Kussmaul徴候:吸気時に頸静脈怒張↑ ③肝静脈逆流:肝の圧迫により頸静脈怒張↑ |
他覚 | 【血圧・脈拍】 左室拡張不全による1回拍出量↓のため、収縮期血圧↓となり脈圧↓ 【心尖部聴診】 拡張早期過剰心音(高調性心膜ノック音):石灰化した心膜に拡張時の心筋が当たる音 |
検査 | 【画像検査】 胸部X線:心膜石灰化像、心拡大はなし 心エコー:心膜肥厚、石灰化で輝度↑ 心カテ:右心室圧曲線は右室拡張障害によりdip and plateau(√に似ている)、4腔の拡張末期圧差がほぼない |
治療 | 心膜切除術 |
動静脈疾患
大動脈瘤 Aortic aneurysm
病態 | 粥状硬化(最多、特に2/3がAAAとして発症)、炎症(感染、大動脈炎症候群など)、Marfan症候群、外傷により、大動脈壁の一部が全周性または局所性に拡大・突出した状態であり、破裂すると突然死する。瘤は病理学的に真性、仮性、解離性の3種類がある。 1/3が胸部大動脈瘤(TAA)、2/3が腹部大動脈瘤(AAA)である。AAAの95%が腎A分岐部以下に生じる。 |
症状 | 【未破裂】 基本、無症状。部位によって圧迫症状(左反回神経圧迫で嗄声、Horner症候群、食道圧迫で嚥下困難、気道圧迫で咳嗽・喘鳴・喀血)。 AAAは腫瘤の拍動を自覚することもある。 【破裂】 激痛、出血性ショック |
検査 | 【画像検査】 胸部X線:部位に応じた突出する陰影 エコー: 造影CT(3DCT):大動脈瘤の存在や腹腔内や後腹膜腔内への出血を確認 |
治療 | 【手術】 瘤短径がTAAで60mm、AAAで50mm以上で手術適応。他にも急速に拡大しているもの、破裂したもの、腹痛や腰痛があるものなども手術適応となる。手術は人工血管置換術、Stanford B型およびAAAの場合はステントグラフト内挿術(EVAR)を行う。上行大動脈基部まで瘤が拡大している場合はBentall手術となる。 【TAAの術後合併症】 横隔膜前後レベル(T8~L1)には前脊髄動脈に重要な血流を供給するAdamkiewicz動脈が存在する。胸腹部大動脈瘤の手術に伴いAdamkiewicz動脈が障害を受ければ、対麻痺(下肢運動障害、膀胱・直腸障害)を起こす可能性がある(前脊髄動脈症候群)。そのため、手術に際しては手術前日に脳脊髄液ドレナージの留置や術中運動性脊髄誘発電位(MEP)の使用により対麻痺発生の予防に努める必要がある。 |
大動脈解離 Dissection of aorta
疫学 | 50〜70歳男性に好発 |
病態 | 高血圧、動脈硬化、Marfan症候群、梅毒などの原因で、大動脈中膜の変性・嚢胞状中膜壊死が起こり、中膜が内外2層に解離し、その間の偽腔に血流または血腫が存在する病態。真腔→偽腔の流入部をentry、偽腔→真腔の流出部をreentryという。 【解離部位による分類】 Stanford A型:上行大動脈に解離あり、B型:上行大動脈に解離なし(最多) 【entryと解離による分類】 DeBakey Ⅰ型:上行大動脈にentryあり+解離が下行大動脈まで及ぶ DeBakey Ⅱ型:上行大動脈にentryあり+解離が上行大動脈に限局 DeBakey Ⅲ型:下行大動脈にentryあり+解離が胸部に限局Ⅲa / 腹部に至るⅢb |
症状 | 突然の胸背部の激痛(移動性のものが多い) <大動脈分枝の偽腔形成による閉塞症状> ①Valsalva洞圧迫:冠動脈閉塞(特にRCA閉塞多い)→狭心症・急性心筋梗塞、心嚢破裂で心タンポナーデ(血性心嚢液)、大動脈弁輪拡大でAR→急性左心不全 ②(右)鎖骨下A圧迫:血圧左右差・右上肢脈拍欠損 ③総頸A・腕頭A圧迫:脳梗塞・バレー徴候・視野障害・意識障害・片麻痺 ④肋間A圧迫:対麻痺・Horner症候群・嗄声 ⑤気管支A破裂:喀血 ⑥下行大動脈圧迫:上肢と下肢の血圧差、下肢虚血→痺れ・冷感・疼痛・下肢壊死 ⑦腎A圧迫:腎血管性高血圧→急性腎不全・尿量減少 ⑧腸管膜A圧迫:腹痛・麻痺性イレウス・腸管壊死 |
検査 | 【血圧】 解離のみ:交感神経↑により血圧↑ 胸腔・腹腔内出血や心タンポナーデ:ショック状態で血圧↓や血胸・喀血 【心電図】 特異的所見なし 【画像診断】 心エコー:真腔と偽腔の間に高エコー域のフラップ確認、ARや心タンポナーデも確認 造影CT:濃く造影される真腔、半月状に薄く造影される偽腔 |
治療 | モルヒネなどで鎮痛+β遮断薬・Ca拮抗薬・硝酸薬で収縮期圧100〜120まで降圧 Stanford A型:人工血管置換術、必要に応じて大動脈弁置換術 Stanford B型:β遮断薬などで内科的治療 大動脈内バルーンパンピング(IABP)は禁忌! |
急性動脈閉塞症 Acute arterial occlusive disease
病態 | 塞栓や血栓によって突然動脈が閉塞し、その末梢に虚血症状を呈する疾患。 塞栓:AF(最多)、左房粘液腫、大動脈瘤、MSなどが原因 血栓:粥状硬化、外傷、凝固能亢進が原因 |
症状 | <5P> Pain 疼痛 Pallor 蒼白 Paresthesia 知覚異常 Paralysis 運動麻痺 Pulselessness 脈拍消失 |
検査 | 【画像診断】 造影CT:閉塞血管と部位を確認 |
治療 | 直ちに抗凝固療法(ヘパリン静注) 組織の変化が不可逆的になる6時間前に血行再建術(カテーテルによる塞栓除去) 【血流再開処置後の合併症】 ①MNMS:筋腎代謝症候群:広範囲塞栓や長時間経過例に対し血行再建を行った場合、壊死した筋組織から逸脱したミオグロビン、CK、乳酸、Kなどが全身に還流すると、高ミオグロビン血症、ミオグロビン尿症、高K血症、乳酸アシドーシスを生じて、心停止や急性腎不全となり致命的となる。 ②コンパートメント症候群:虚血再灌流時には毛細血管の透過性亢進により筋組織の浮腫(下腿の緊満・浮腫)を生じ、筋区画(コンパートメント)の内圧上昇が起こる。 |
慢性動脈閉塞症 ASO / TAO
閉塞性動脈硬化症 ASO:Arteriosclerosis Obliterans |
閉塞性血栓性血管炎 TAO:Thromboangiitis Obliterans |
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疫学 | 50歳以上の男性に好発 | 稀な疾患、20〜40歳の喫煙男性に好発 |
病態 | 動脈硬化によって膝より上の太いA(浅大腿Aに好発)が閉塞して末梢虚血となる。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙は危険因子となる。 | 別名、Buerger病。原因不明に動脈内膜が線維性肥厚して主に膝より下の比較的細いAが閉塞して末梢虚血となる。 |
症状 | ①足背A・後脛骨A拍動の減弱・消失 ②間欠性跛行(膝蓋腱反射は正常) ③下肢の冷感・痺れ・疼痛・筋力低下 ④進行すると安静時疼痛→潰瘍形成→壊死(重症虚血肢のため患肢切断考慮) |
①〜③は同じ ④指趾末端に難治性潰瘍 ⑤伴走するVに発赤・圧痛を伴う硬結がしばしば見られる(遊走性静脈炎) ⑥喫煙で増悪 |
検査 | 【血圧】 上肢と下肢の血圧測定:ABI 0.9以下で血流↓ 【画像検査】 造影CT:下肢Aの虫食い像、側副血行路 MRI:脊柱管狭窄症と鑑別 |
【画像検査】 造影CT:先細りするA閉塞像、コルクの栓抜き状(cork screw)の側副血行路 MRI:脊柱管狭窄症と鑑別 |
治療 | <Fontaine分類Ⅱ度(間欠性跛行)まで> ①禁煙+食生活改善+運動(1日2回30分歩行) ②スタチン+抗血小板薬+血管拡張薬 ※β遮断薬は動脈を収縮させるため禁忌! <Fontaine分類Ⅲ度(安静時疼痛)以上> 血行再建術(経皮的血管形成術:PTA療法→バルーン拡張+ステント挿入、バイパス術) |
禁煙+局所保温 【薬物療法】 抗血小板薬、血管拡張薬 【手術】 重症例では血行再建術、腰部交感神経節切除術(腰部交感神経節ブロック)→血管拡張 |
深部静脈血栓症 DVT:Deep Venous Thrombosis
病態 | 以下の機序で、下肢深部の静脈に血栓が生じ、静脈閉塞をきたす疾患。錐体と右総腸骨Aによる圧迫により左総腸骨Vに血栓ができやすい(腸骨静脈圧迫症候群)。また、静脈血栓が遊離して肺Aを閉塞し肺血栓塞栓症を合併することがある。 【Virchowの三徴=血栓症の要因】 ①血液うっ滞:長期臥床、長時間の座位、脱水、妊娠、肥満 ②血管内皮細胞損傷:CVカテーテル留置、手術操作、外傷 ③血液凝固能亢進:担癌状態、炎症、膠原病、抗リン脂質抗体症候群、ピル内服など |
症状 | ①突然、片側の下肢のびまん性腫脹・疼痛 ②側副血行路により表在静脈が怒張(下肢挙上にて消失しない=二次性静脈瘤) |
検査 | 【身体検査】 Homans(ホーマンズ)徴候:足関節背屈時にふくらはぎに痛み 【修正Wellsスコア】 4点以上なら肺塞栓症の可能性あり、Dダイマー検査と下肢エコー検査 【血液検査】 Dダイマー↑(陰性ならDVT除外、陽性ならエコー) 【画像診断】 下肢エコー:1cm毎に圧迫してつぶす、血栓があれば圧迫してもつぶれない。急性血栓では無〜低エコー、亜急性〜慢性血栓では高エコーになる傾向がある。 ①大腿V:鼠径靭帯でVANを確認し、そこから末梢へ行くと大伏在Vが分枝し、次に外側穿通枝が浅大腿Aと深大腿A挟まれるように分枝する。 ②膝窩V:股関節を外転+膝関節を屈曲させ、膝窩Vの直下に膝窩Aが見える。そこから末梢へ行き前脛骨V→後脛骨V・腓骨V3分枝領域まで確認。 【Padua予測スコア(入院患者のVTE静脈血栓塞栓症発症リスク)】 高リスクの場合は薬理学的予防法(出血のリスクが高い場合は機械的予防法) |
治療 | 【急性期】 ヘパリン、抗凝固薬(ワルファリン、DOAC)を用いた抗凝固療法。重症例ではウロキナーゼによる血栓溶解療法、または外科的orカテーテルによる血栓除去療法。限定的に、肺塞栓症の予防のため下大静脈フィルター留置を行う場合がある。 【慢性期】 弾性ストッキング着用+下肢挙上+抗凝固療法(ワルファリン、ヘパリン) |
下肢静脈瘤 Varicose vein(一次性静脈瘤)
疫学 | 女性(特に妊婦や肥満体)に好発、立位作業時間の長い人に好発 |
病態 | 表在静脈や交通枝に存在する弁機能不全により、静脈の逆流が起こり静脈の蛇行・拡張が生じる疾患。 |
症状 | 患肢のだるさ・つっぱり感・疼痛 表在静脈の怒張・蛇行、下肢挙上にて表在静脈は消失=一次性静脈瘤 静脈うっ滞による浮腫・点状出血・うっ滞性皮膚炎(色素沈着、湿疹) |
検査 | 【画像検査】 エコー:カラードプラで静脈血の逆流確認 |
治療 | 【手術】 静脈抜去術(stripping法)、静脈焼灼するレーザー療法、硬化剤を注入する硬化療法 |
予防 | 長時間の立位を避ける、臥床中は患肢挙上、弾性ストッキング着用、患肢清潔保持 |
上大静脈症候群(SVC症候群)
呼吸器外科を参照。
コレステロール塞栓症
病態 | 大動脈壁の粥腫の破綻により、コレステロール結晶が散布され全身の小動脈を閉塞することにより発症。血管内操作や心大血管手術、抗凝固療法を誘因として起こるものが多い。 |
症状 | 血管内操作などの数日〜数週間後に、 ①腎不全:BUN↑Cre↑ ②皮膚症状:網状皮斑、壊疽、チアノーゼ、潰瘍など ③BTS(blue toe syndrome):足趾動脈に塞栓、足底の疼痛 |
検査 | 【血液検査】 BUN↑Cre↑、好酸球↑、補体↓など 【生検】 皮膚生検:コレステロール結晶が真皮から皮下脂肪織内の小動脈の内腔に紡錘形または針状の裂隙(cholesterol cleft)として観察される(確定診断) |
治療 | 有効な治療法ない |
血圧異常
高血圧 HT:Hypertension
病態 | 診察室血圧が140/90以上、家庭血圧が135/85以上で(Ⅰ度)高血圧。 160/100以上でⅡ度高血圧、180/110以上でⅢ度高血圧(いっぱいいっぱい)。 高血圧が持続すると脳卒中、心肥大・心不全・AF・心筋梗塞、腎硬化症・腎不全、高血圧性網膜症などの臓器障害が生じる。 【本態性高血圧(90%)】 原因不明だが遺伝的要因+環境要因で発症する。環境要因5つを以下に示す。 ①食塩過剰摂取、②肥満、③アルコール多飲、④喫煙、⑤運動不足 高齢者の高血圧の特徴を以下に示す。 ①低レニン性、②収縮期血圧上昇、③拡張期血圧低下、④血圧変動が大きい(起立時、食後は↓) 【二次性高血圧(10%)】(赤色は低K血症を伴いやすい) ①腎性高血圧:腎実質性高血圧(二次性で最多)、腎血管性高血圧 ②内分泌性高血圧:原発性Ald症、偽Ald症、Liddle症候群、Cushing症候群(重症例のみ低K血症)、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症 ③血管性高血圧:大動脈炎症候群、大動脈狭窄症、AR ④その他:中枢神経系による高血圧、薬剤誘発性高血圧、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS) |
症状 | 無症状 |
他覚 所見 |
【聴診】 Ⅱ音亢進:大動脈圧↑のため |
検査 | 【血圧測定】 1日2回、朝食前(or起床して排尿後)と就寝前に測定。30分以上カフェイン摂取、喫煙を禁止した状態で1回に複数回測定し、安定した値の2回の血圧の平均を求める(診察室血圧より家庭血圧を優先して判断)。 【眼底検査】 乳頭浮腫など |
治療 | 原則、診察室血圧130/80未満に降圧 75歳以上、脳血管障害患者、蛋白尿陰性のCKD患者は140/90未満に降圧 二次性高血圧は原因除去 【薬物療法(予防を行なっても効果不十分な場合)】 ①Ca拮抗薬:左室肥大、頻脈、狭心症 ②ARB・ACE阻害薬:慢性心不全、CKD、心筋梗塞後、左室肥大 ③サイアザイド系利尿薬:慢性心不全、食塩過剰摂取 ④補助的にβ遮断薬やα1遮断薬を使う場合もある |
予防 | 減塩:1日6g未満 減量:カロリー制限してBMI25未満+運動(毎日30分以上の有酸素運動) 節酒:純アルコール20g/日以下 禁煙 |
★★高血圧緊急症 Hypertensive emergency
病態 | 血圧が180/120以上に上昇し、脳、心臓、腎臓、大血管などに急速に障害が生じる病態。 ①高血圧性脳症:脳血管の自動能を超える血圧上昇になると、脳浮腫を生じ様々症状を起こす。 ②加速型-悪性高血圧:拡張期圧130以上で、急速に腎機能障害が進行し、脳出血、急性心不全、高血圧性脳症、眼底出血、乳頭浮腫などを生じる最重症型の高血圧。 ③急性大動脈解離に合併した高血圧 ④肺水腫を伴う高血圧性左心不全 ⑤重症高血圧を伴う急性冠症候群(ACS) ⑥褐色細胞腫クリーゼ ⑦子癇や重症高血圧を伴う妊娠高血圧症候群 ⑧脳血管障害など |
症状 | 頭痛、悪心・嘔吐、視力障害、意識障害、痙攣など |
検査 | 【悪性高血圧の場合:眼底検査】 網膜出血、軟性白斑、乳頭浮腫 |
治療 | 緊急降圧:急速な降圧は重要臓器の虚血性障害を引き起こすため、最初の1時間以内は25%以上の降圧を行わず、次の数時間で160/100程度に降圧する。使用する薬剤はニトロプルシドやCa拮抗薬を静注 |
起立性調節障害 OD:Orthostatic Dysregulation
疫学 | 思春期に好発 |
病態 | 起立直後の交感神経が作動せず、静脈還流量が維持できないため血圧が低下し、脳や全身への血液循環が不足する疾患。貧血、心疾患、てんかんなどの器質的疾患は除外する。 |
症状 | 立ちくらみ、失神、朝起きられない、午前中は調子が悪い、立っていると気分が悪い、乗り物酔いしやすい |
検査 | 【起立負荷試験】10分間臥位→10分立位保持し、収縮期圧21以上低下、心拍数21回/分以上増加で陽性 |
治療 | 【自律神経鍛錬療法】時間をかけて起立する、運動で体を鍛える、塩分・水分を摂取するなどの生活改善を行う。成人すると症状は軽快することが多い。 【薬物療法】自律神経鍛錬療法で改善しない場合、ミドドリン、アメジニウム、ジヒドロエルゴタミンなどを投与する。 |
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