消化器各論(食道・胃十二指腸・憩室)

消化器科

食道疾患

アカラシア achalasia

疫学 1/10万人と稀、20〜40歳代に多い
病態 原因不明に食道下部のAuerbach神経叢が後天的に変性・消失することによって、食道の正常な蠕動運動の消失と嚥下時のLESの弛緩不全によって食道下部の機能的狭窄が起こる疾患。年単位でゆっくり慢性に進行していくが、予後は良好。
症状 【初期】
嚥下時の胸のつかえ感日によって変動あり、特に冷たい飲食物で悪化するため、温かい物を好む。また、ストレスでも悪化する。
【進行期】
嚥下困難仰臥位・就寝時に口内逆流(無胆汁性嘔吐)→誤嚥、咳嗽
体重減少:摂取できないため
胸痛:中部食道の異常な収縮のため
停留性食道炎:食道癌(扁平上皮癌)の罹患率が上昇
検査 【画像検査】
内視鏡:食道の拡張を確認、また食道癌などを除外するため必ず行う
食道X線造影:造影剤の通過遅延が見られ、食道下部に鳥のくちばし状の辺縁平滑な狭窄、食道中部は拡張していることを確認。
【食道内圧検査】
LES圧の上昇、蠕動運動波の消失、同期性収縮→LES弛緩不全を確認 
【誘発検査】
ガストリン負荷にてLES圧の上昇を確認 
治療 【軽症】
内視鏡的バルーンを用いた食道強制拡張術(第一選択)
②Ca拮抗薬・硝酸薬(一時的な補助薬)
【進行例】
①経口内視鏡的筋層切開術(POEM):内視鏡的に筋層切開を行う新しい治療
②Heller-Dor法:腹腔鏡下で食道下部筋層切開+噴門形成でLES圧をヘラーす!

胃食道逆流症 GERD:gastroesophageal reflux disease

病態 様々な誘因・原因によってLES圧が低下し、胃酸が食道へ逆流する病態の総称。GERDが長期化すると食道粘膜が円柱上皮に可逆的に置き換わり(Barret食道)、しばしば食道癌の発生母地となる。
小児の胃食道逆流症は器質的疾患で、脳性麻痺などで先天的に起きることが多い。
<誘因・原因>
誘因①高脂肪食:胆汁を多く出そうとCCKが多く分泌され、CCKがLESを弛緩させる
誘因②Ca拮抗薬・硝酸薬・抗コリン薬など:LESを弛緩させる
誘因③高い腹圧:肥満、妊娠、加齢骨粗鬆症による円背
誘因④胃酸過多:H・ピロリ菌の除菌、Zollinger-Ellison症候群、飲酒、喫煙による胃内酸性度↑で増悪
誘因⑤前屈位・臥位:胃酸が上がりやすい体位
原因疾患①食道裂孔ヘルニア:胃噴門部が横隔膜を越えて滑脱するとLES圧が低下
原因疾患②全身性強皮症:食道平滑筋の線維化によりLESの収縮・拡張能低下
原因疾患③胃全摘・噴門側胃切除後の合併症
原因疾患④糖尿病:食道運動の低下
症状 胸やけ呑酸(苦味を伴う酸っぱさ):特に食後、夜間、前屈時に出現
②慢性咳嗽:胃酸が気管に流入
③耳痛:胃酸が耳管に入ると起こる
④胸痛・心窩部痛:狭心症様の胸痛
⑤嗄声:胃酸で声帯に炎症
⑥胸のつかえ:下部食道が長期間炎症が起こると線維性狭窄をきたす
検査 【画像検査】
内視鏡:食道粘膜に発赤→びらん→潰瘍を確認すれば逆流性食道炎、粘膜に障害がなく、pHモニタリングで食道内pHが酸性であれば非びらん性胃食道逆流症(NERD)と診断。
【24時間食道内pHモニタリング(主に専門施設で実施)】
内視鏡所見が軽微であるにもかかわらず、症状が強くPPIによる症状改善が認められない場合に行う。 逆流内容物は長時間滞留傾向を示すため、食道の酸クリアランスが低下。 食道内pH4未満に低下した場合(計測時間の5%以上)は逆流ありと判断する。
治療 PPI(第一選択)、効果不十分の場合は追加で粘膜保護薬、消化管運動促進薬
薬物治療抵抗性の場合、Nissen手術を考慮
予防 肥満:減量
臥位:食後3時間以内は臥位にならない、就寝時は上半身挙上(Fowler体位)
腹圧:重いものを持ち上げる作業を控える
飲酒:LES圧を低下させるため禁酒する
禁煙:胃酸分泌亢進させるため

好酸球性消化管障害

  好酸球性食道炎 好酸球性胃腸炎
病態 好酸球が消化管粘膜に浸潤し炎症と機能障害を生じる疾患。 左に同じ
症状 ①GERDと酷似
②嚥下障害・つかえ感
 
検査 血液検査:好酸球↑IgE↑
食道生検:好酸球の増加
内視鏡:食道に縦走溝と輪状の収縮輪
好酸球の増加
治療 PPI、無効の場合はステロイド投与 ステロイドが著効

Mallory-Weiss症候群(MWS)

病態 過度の飲酒(最多 ※アルコールはLESのバランスを崩す)、妊娠悪阻、抗癌薬治療、内視鏡検査などによって激しい嘔吐を繰り返し、急激に腹腔内圧が上昇することにより、食道胃接合部付近粘膜下層までの裂創が生じて吐血をきたす疾患。
症状 嘔吐の反復後に鮮紅色の吐血
※粘膜下層までの裂創のため胸痛・腹痛を伴わないことが多い
検査 【画像検査】
内視鏡:食道胃接合部付近(柵状血管を視認できる)に縦走する裂創を確認
治療 来院時止血している場合:安静・絶食で自然治癒を待つ
来院時に出血している場合:内視鏡的止血術(クリッピング)

特発性食道破裂 spontaneous rupture of the esophagus

病態 飲酒後などの嘔吐、排便、分娩、咳嗽などで繰り返し急激な腹腔内圧が上昇することにより、最も圧に弱い食道下部側壁に全層の裂創が生じて食道破裂をきたす疾患。
別名:Boerhaave症候群(ブールハーフェ症候群)
症状 上腹部・胸部の激痛:裂創が全層に及ぶため
②呼吸困難:全層が裂けるため、縦隔に血液が流出し、肺を圧迫。
③ショック症状:縦隔に出血するため(吐血は少ない)
検査 【画像検査】
胸部X線・造影CT:縦隔気腫、皮下気腫、胸水貯留
食道造影:水溶性造影剤が食道から縦隔に漏れる所見で確定診断(バリウムは禁忌
内視鏡は裂創から空気が逸脱するため施行しない方が良い!
治療 緊急手術:胸腔・縦隔ドレナージで血液を抜き、閉鎖術を行う

食道癌 esophageal cancer

疫学 60歳以上の男性に好発(6:1)
リスク因子:喫煙、飲食、熱い食事、食道アカラシア、Barrett食道、頭頸部癌(重複癌) 、フラッシャー(お酒を飲むと顔が赤くなる人)
病態 約50%が胸部中部食道に発生する悪性腫瘍で、90%以上が扁平上皮癌であり、比較的早期から広範な領域にリンパ節転移をきたすため早期発見と早期治療が重要。腺癌は下部食道に多い。
【壁深達度分類】
早期癌粘膜筋板(MM)まで(リンパ節転移はほぼない)
表在癌粘膜下層(SM)まで ※胃癌・大腸癌とは違い、粘膜下層まで達するとリンパ節転移をきたし予後が悪くなるため早期癌と区別が必要!
進行癌:固有筋層に達したもの
【癌の進展】
リンパ節転移(最多):胸部、頸部、腹部のリンパ節へ転移
血行性転移:肺>胸膜>肝臓の順に転移
直接浸潤:食道は漿膜を欠くため周囲の臓器に浸潤しやすく、特に気管・気管支、下行大動脈、左心房(肺静脈)に浸潤しやすい(肺Aは気管支に防がれて浸潤しにくい)
症状 【早期】
ほぼ無症状、嚥下時にわずかにしみる程度
【進行】
嚥下困難(特に固形物)・狭窄感:腫瘍が食道を閉鎖
嗄声:反回神経に浸潤や圧迫
【合併症】
食道気管瘻:気管・気管支に浸潤して瘻孔を形成し、咳嗽・呼吸困難
大動脈穿孔:大動脈に浸潤して穿孔すると大出血
検査 【画像検査】
①色素内視鏡: ルゴール染色(ヨード)を行い、不染の部位を生検。
※正常食道上皮が分泌するグリコーゲン
とヨードが結合すると茶褐色に濃染。癌上皮はグリコーゲンを消費しているため染まらないトルイジンブルー染色を併用(二重染色)すると、正常上皮欠損部が青染する(→この部分から生検)。
②食道造影:進行癌では辺縁不整な陰影欠損・潰瘍狭窄像(食道気管瘻ではバリウム禁忌)
③超音波内視鏡・エコー:表在癌の壁深達度、リンパ節転移の有無を確認
④CT・MRI・PET・Gaシンチ:遠隔転移の有無を確認
治療 【早期癌】
内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic submucosal dissection)
【表在癌】
外科的に開胸を行い、病変切除+所属リンパ節郭清後、胃などを用いて食道再建
※術後に無気肺、肺炎、縫合不全、乳糜胸、反回N麻痺などが生じることがある
【進行癌】
ケモラジ。姑息的治療では中心静脈栄養、胃瘻造設、食道ステント留置を行う

食道・胃静脈瘤 esophagogastric varices

病態 肝硬変(90%)、Budd-Chiari症候群などに伴う門脈圧亢進により側副血行路が形成され、食道下部(最多)や胃噴門部(左胃静脈)や胃(短胃静脈)の静脈が拡張・怒張する疾患。食道静脈瘤が破裂すると大量出血し、致命的となる。他方、胃静脈瘤は破裂しにくい。
症状 未破裂の場合:無症状(ただし、黄疸など肝機能障害の症状あり)
破裂した場合:突然の新鮮血を吐血→出血性ショック、黒色便
検査 【画像検査】
①内視鏡:ボコボコして(連珠状静脈瘤)、色調が青や赤(Red Color sign、青色静脈瘤)だと危険で破裂の予兆、白は問題ない。生検は禁忌!
②食道造影:食道の輪郭は不整になり、陰影欠損像を認める
治療 <食道静脈瘤>
【破裂時】
①バイタルを安定させ、バソプレシン静注(血管収縮して門脈圧を低下させる作用)
②緊急内視鏡的止血(主にEVL)。この手技ができない場合は、SBチューブを経鼻的に挿入しバルーンによる圧迫止血を行う(12~24時間応急止血できる)。
【未破裂だが破裂の可能性高い時】
内視鏡的静脈瘤結紮EVL:Endoscopic variceal ligation) 静脈瘤をゴムバンドで結紮するだけなので侵襲性なし、噴門部静脈瘤にも有効。再発性はEISより高い。
②内視鏡的硬化剤注入療法(EIS:Endoscopic injection sclerotherapy) 硬化剤で静脈瘤を血栓化するため再出血率は低いが、高度の肝・腎機能障害あれば禁忌
硬化剤:オレイン酸モノエタノールアミン(EO)+エトキシスクレロール(AS)
<胃静脈瘤>
①基本は内視鏡的治療(EVLなど)
バルーン下逆行性経静脈的塞栓術BRTO:balloon occluded retrograde transvenous obliteration)胃-腎シャントを有する場合に使用。バルーン拡張で血流を遮断し、その後左腎Vから硬化剤を注入する(左腎V→胃-腎シャント→胃静脈瘤を遮断)。

【小】先天性食道閉鎖症

病態 胎生期の食道と気道の分離異常。
羊水過多による破水のため、早産となり低出生体重児が多い。
【Gross分類】
Gross C型(90%)気道食道瘻(+)胃・腸管ガス像(+)、肺炎
Gross A型(5%):気道食道瘻(ー)→胃・腸管ガス像(ー)
症状 出生直後より反復する泡沫状の唾液
②初回哺乳後の嘔吐:気道食道瘻(+)なら誤嚥により呼吸困難
検査 【画像検査】
単純X線:経鼻挿入したネラトンカテーテルが食道上部でcoil-up(確定診断)
治療 気道食道瘻の結紮・切離、食道-食道吻合術

胃・十二指腸疾患

急性胃粘膜病変 AGML(急性胃炎・急性胃潰瘍)

病態 胃粘膜の血流障害が関与して、胃粘膜に多発性のびらん・潰瘍、浮腫、出血などを認める病変。胃粘膜の炎症でびらんのものを急性胃炎、潰瘍(粘膜下層以上)のものを急性胃潰瘍といい、両者を包括する概念がAGMLである。
原因はNSAIDs、ストレス、アルコール、喫煙、H.ピロリ菌感染、アニサキス感染など
症状 突発性の心窩部痛
②悪心嘔吐、コーヒー残渣様の吐血
③下血
検査 【画像検査】
内視鏡:多発性のびらん・潰瘍、浮腫、出血など
治療 原因の除去、PPIなどの胃酸分泌抑制薬投与
出血がある場合は内視鏡的止血術(クリッピング、エタノール局注など)

慢性胃炎(萎縮性胃炎、A型胃炎など)

病態 【内視鏡的分類】
表層性胃炎:胃粘膜の表面に炎症による赤い充血
萎縮性胃炎:胃粘膜が萎縮して薄くなり血管が透けて見え胃酸の分泌は低下
【萎縮性胃炎の分類】
A型胃炎自己免疫性の慢性胃炎→抗胃壁細胞抗体による内因子欠乏によりVB12吸収障害→悪性貧血
B型胃炎:自己免疫性でない慢性胃炎(原因の大部分はH.ピロリ菌の慢性的な持続感染で、胃癌の発生母地となりえる)
症状 胃痛など
検査 内視鏡:血管透見像、粘膜菲薄化など
治療 ピロリ菌除菌など

★機能性ディスペプシア FD:Functional dyspepsia(旧 神経性胃炎)

病態 症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に胃もたれや心窩部痛などの腹部症状をきたす機能性疾患。ストレスと関連があると言われている。
症状 数ヶ月以上前から辛いと感じる①もしくは②がある。
タイプ①(食後愁訴症候群):食後の胃もたれ、早期満腹感
タイプ②(心窩部痛症候群):食事にかかわらず心窩部痛、心窩部灼熱感
検査 内視鏡や血液検査で異常なし
治療 胃酸分泌抑制薬、消化管運動機能調節薬

胃・十二指腸潰瘍(消化性潰瘍)GDU:gastro-duodenal ulcer

病態 胃酸やピロリ菌によって胃・十二指腸の粘膜下層まで組織欠損を生じた疾患。
原因としてH.ピロリ菌、NSAIDs(2大原因)、ストレス、喫煙、ステロイド投与など
症状 ①心窩部痛:胃潰瘍は食後増悪、十二指腸潰瘍は食後軽快・空腹時増悪の傾向
②胸焼け、腹部膨満感
③消化管出血:コーヒー残渣様の吐血、タール便、慢性出血で貧血症状、大量で出血性ショック
【合併症】
消化管穿孔・穿通:十二指腸潰瘍に多い
検査 【画像検査】
内視鏡:白苔を伴う辺縁平滑な円形の粘膜欠損
消化管造影:ニッシェ(粘膜欠損部への造影剤貯留)、粘膜ヒダの集中像
【H.ピロリ菌検査】
迅速ウレアーゼ試験・尿素呼気試験などで確認
治療 <出血がある場合>
内視鏡的止血(クリッピング、高張食塩水+Ad局注、エタノール局注)、止血困難な場合はIVRによるコイル塞栓術などを行う
<出血なし・止血後>
NSAIDs服用中止、中止できない場合はPPIなどによる維持療法、H.ピロリ菌除菌、禁煙

【特徴】

  好発部位 年齢 胃酸 心窩部痛 特徴
胃潰瘍 胃角部 高齢 弱い 食後増悪 出血しやすい(特に高齢者)
高齢者では胃角より高位の潰瘍が多い
十二指腸潰瘍 球部前壁 若年 強い 空腹時増悪
食後軽快
穿孔多い、再発しやすい
吐血より下血が多い

胃・十二指腸潰瘍穿孔 GDU perforation

病態 潰瘍が深部まで及んで穿孔し、腹腔内に空気と内容物が漏出して急性腹膜炎をきたす病態。
(隣接臓器や大網に被覆され、内容物が腹腔内に流出しない場合は穿通という)
穿孔は十二指腸球部に好発する。
症状 突然の上腹部激痛
②急性腹膜炎症状:筋性防御(板状硬)、冷汗、炎症反応(発熱、WBC↑、CRP↑)
検査 【身体検査】
聴診:腸雑音低下
触診:筋性防御(板状硬)、Blumberg徴候(反跳痛)
【画像検査】
立位X線:肝臓と横隔膜の間にfree air(+)
腹部CT(ヨード造影剤):同様にfree air確認(バリウムを用いた消化管造影は禁忌
治療 <軽症の場合>
保存的治療(絶飲食、輸液、抗菌薬、PPI投与、経鼻胃管挿入→胃液吸引
→胃内は細菌が少なく潰瘍底の穿孔部はピンホール状の小さな穴手術をしなくても治癒する場合があるため。
<汎発性腹膜炎を伴う場合>
緊急手術、穿孔後8時間以内がGolden period。

胃癌 Gastric cancer

疫学 リスク因子:H.ピロリ菌、喫煙、高塩分食など
病態 胃粘膜に発生する悪性腫瘍で、90%以上が腺癌である。幽門前庭部に好発。
【壁深達度分類】※この分類ではリンパ節転移の有無は問わない
早期癌:粘膜下層SMまで(Stomach)。深達度により定義され、大きさは無関係。
進行癌:固有筋層に達したもの
【肉眼型分類】
枠外参照
【組織型分類】
局所生検を参照
症状 早期:無症状
進行期:体重減少、心窩部痛、嘔吐、黒色便、貧血症状、心窩部腫瘤
腹膜播種により癌性腹膜炎を生じる。また、高度進行胃癌はDICを合併することもある。
検査 【画像検査】
内視鏡:インジゴカルミン染色で凹凸を際立たせる。所見は肉眼的分類を参照。
消化管造影:バリウム内服で陰影をつける。スキルス胃癌を見つけやすい
拡大内視鏡:浸潤範囲の評価
超音波内視鏡:病変の深達度評価
胸腹部CT・MRI:転移の検索
【触診】
直腸指診:硬い索状物として触れ、ダグラス窩や直腸膀胱窩への転移確認
【血液検査】
CEA↑CA19-9↑(術後や化学療法時の経過観察に用いる、早期胃癌では陽性率低い)
【局所生検】
高分化型:腺管構造が保たれている。高齢男性に多くみられ、血行性に転移する。
未分化型:腺管構造がなく、印鑑細胞癌がみられるものもある。中年女性に多く見られ、リンパ行性・播種性に転移する。早期癌ではⅡc型、進行癌では4型に多い
治療 【遠隔転移なし(所属リンパ節までの転移)】
①内視鏡的治療(EMR、ESD):2cm以下潰瘍なし・深達度は粘膜まで高分化癌
②外科的治療(胃切除+所属リンパ節郭清+再建):胃切除して胃十二指腸吻合できる場合→BillrothⅠ法、胃十二指腸吻合できない場合→Roux-en-Y法で行う。
【遠隔転移あり】
化学療法、緩和療法、HER2陽性の場合はトラスツズマブ追加

【肉眼型分類】

肉眼型分類   内視鏡で見た時の形
早期癌(表在型) 0-Ⅰ 隆起型 明かな隆起
  0-Ⅱa 表面隆起型 軽度の隆起
  0-Ⅱb 表面平坦型 平坦
  0-Ⅱc 表面陥凹型(最多) 浅い陥凹 印環細胞癌多い
内)陥凹部に向かって粘膜ひだの集中、先細り、癒合
  0-Ⅲ 陥凹型 潰瘍があり、辺縁の一部に限局して癌がある
進行癌 1型
腫瘤型
内)棍棒状の腫大や先端の融合を伴うひだ集中
Ba)隆起部の陰影欠損
1~2型は高分化癌 2型
潰瘍限局型
内)境界明瞭で周提を持つ
Ba)周堤部の陰影欠損とその中心の潰瘍部のBa貯留
  3型
潰瘍浸潤型
内)境界不明瞭で周提が崩壊 ※潰瘍周囲の粘膜は正常と異なる粘膜が観察される
Ba)陰影欠損、潰瘍部のBa貯留
3~5型は未分化癌 4型
びまん浸潤型
内)粘膜不整像および周囲の胃皺襞の発赤腫脹
Ba)胃壁が硬化し内腔の狭窄、Giantfoldを認める
※スキルス胃癌は硬く、腹膜播種転移しやすい
※印環細胞癌多い
  5型 分類不能

【胃癌の転移しやすい部位】

かーん 胃→門脈→肝臓(最多)→肺 行性転移
クラ) Krukenberg腫瘍卵巣転移) 播種性
ギ) Virchow転移は胃癌に特有(鎖骨窩へ転移) リンパ行性転移
ッ(シュ ダグラス窩への転移(Schnitzler転移 播種性(最多)

胃切除後症候群 Postgastrectomy syndrome

病態 胃の切除後に起こる様々な合併症。原因は胃機能喪失と術式別の合併症の2つがある。
  ダンピング症候群
摂取した食物が小腸内に急速に流入して生じる症候群
●早期ダンピング症候群(食後30分以内
血管運動症状:高張な食物の急速摂取により循環血漿量↓でめまい・動悸・冷汗など
腹部症状:食物が入り消化管ホルモンが分泌され蠕動運動↑で腹痛、悪心嘔吐
●後期ダンピング症候群(食後2~3時間後
低血糖症状:食後の一過性高血糖によるインスリン過剰分泌→反応性の低血糖→交感N↑
【治療】
1回の食事量減らし、食事回数を増やす(5〜6回/日)
高脂質・高蛋白とし、糖質を制限する
食事中の水分摂取を控える、低血糖症状には糖質投与
  胃切除後貧血
●術後数か月で鉄欠乏性貧血:胃酸分泌↓により、Fe還元できず吸収障害が起こる
●4~5年後に巨赤芽球性貧血:内因子欠乏による
消化吸収障害
胆石形成:胃切除リンパ節郭清の際に胆のうを支配する迷走神経を切断+胃と十二指腸の協調がなくなるため胆のう収縮能低下・胆汁排泄能が低下する。
下痢:腸管内浸透圧上昇のため
骨代謝障害:胆汁排泄能低下→脂肪吸収障害によるビタミンD吸収障害骨粗鬆症
逆流性食道炎:逆流防止機構の喪失
  <術式別の合併症>
輸入脚症候群:ビルロートⅡ法は切除した胃端と十二指腸側を吻合する(端側吻合)ため輸入脚が盲端となる。輸入脚にはファーター乳頭が開口するため胆汁・膵液が貯留し腹痛・胆汁性嘔吐を起こす。
対策:ビルロートⅠ法(胃端+十二指腸端の吻合)に変更
⑦吻合部潰瘍(小腸側)

胃ポリープ Gastric polyp

病態 胃内腔に突出した限局性の粘膜隆起性病変で、通常は良性である。
内視鏡所見で大きさと形態を確認し、病理所見でポリープの種類を判断する。
  ●胃過形成性ポリープ(最多)
ピロリ菌長期感染による萎縮性胃炎が背景にあり、内視鏡でみると乳頭状イチゴ状発赤なのが特徴。治療は経過観察、またはピロリ感染除菌。
  ●胃底腺ポリープ
PPIの長期内服が原因と考えられている。成人女性に好発。内視鏡でみると周囲粘膜と同調色なのが特徴。病理では腺管内腔拡張所見。治療は経過観察で、PPIは中止する。
  ●腺腫性ポリープ
腸上皮化成粘膜部に発生し、前癌病変と考えられており2cm以上で癌化のリスクが上昇する。また、ピロリ感染との関連も指摘されている。内視鏡でみると表面平滑な隆起性病変で、組織像は異型腺管の増殖が観察される。治療は増大傾向にあれば内視鏡的に切除することが多い。

胃粘膜下腫瘍(主にGIST)

病態 胃粘膜より下層に発生する腫瘍で、GIST(消化管間質腫瘍)、胃カルチノイド、脂肪腫、迷入膵、悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)、平滑筋腫などがある。GISTが最多である。
※迷入膵は胃粘膜下に膵組織が迷入した良性腫瘍で、前庭部に好発する。
※MALTリンパ腫は血液内科を参照。
【GIST】
GISTはc-kit遺伝子異常によりKITが恒常的に活性化し、カハールの介在細胞(ICC)由来の細胞が増殖する。基本的に悪性。胃>小腸>大腸>食道の順に多い。
GISTは腹膜転移、肝転移が多い(リンパ節転移はない)。
症状 無症状で、検診で発見される。
検査 【血液検査】
GIST腫瘍マーカー:KIT(約95%陽性)、CD34(約75%陽性)
平滑筋腫マーカー:αSMA(平滑筋アクチン)
【画像検査】
①内視鏡・注腸造影:なだらかな隆起性病変(陰影欠損)で表面平滑、bridging fold(隆起部位上の棍棒状腫大で橋がかかった様にみえる)、delle(隆起頂部の潰瘍)
②超音波内視鏡(EUS):筋層と連続した低エコー腫瘤→穿刺吸引生検
③エコー、CT:肝転移の検索。ただし、リンパ節転移はまれ。
【生検】
GISTはHE染色で紡錘形細胞が束状に密に増殖、c-kit or CD34陽性細胞(+)
迷入膵は膵組織確認
治療 切除可能(転移なし):腹腔鏡下胃部分切除、5cm以上なら開腹手術
切除不能・再発例:ケモラジ、GISTはイマチニブ内服

【小】肥厚性幽門狭窄症

疫学 新生児の男児に多い(4:1)
病態 幽門部輪状筋の肥厚により幽門狭窄をきたす疾患。
症状 生後2〜3週間より、
非胆汁性の噴水状嘔吐:反復して経過が長くなると脱水や体重増加不良をきたす
検査 【身体検査】
視診:脱水があれば大泉門陥没
聴診:胃の蠕動運動亢進
触診:右上腹部にオリーブ様腫瘤を触知、脱水があればツルゴール↓
【画像検査】
腹部エコー:横断像でドーナッツサイン(肥厚した幽門)
X線:single bubble sign(胃泡の拡大)
上部消化管造影:string sign(狭小化幽門管の延長)、umbrella sign(肥厚した幽門筋による十二指腸底部圧迫像)
【血液検査】
低K血症低Cl性代謝性アルカローシス(反復する嘔吐により胃液:Na・Cl・K・Hが損失のため)
治療 【脱水・アルカローシスに対して】
初期輸液:生理食塩水:5%ブドウ糖=1:1(血清濃度以上のKを含まない輸液)
※アルカローシスのため乳酸を含む輸液は禁忌
利尿が得られたらK20 mEq/LとなるようK含んだ輸液を用いて補充する。
【手術】
粘膜外幽門筋切開術(Ramstedt法):肥厚した幽門筋を切開する

【小】胃軸捻転

病態 乳児期の胃の固定性が未熟なため、胃が捻転する病態。大部分が長軸型で慢性経過。
症状 ①ゲップが出しにくい、おならが多い
②腹部膨満、ミルクの嘔吐
検査 【画像検査】
X線・上部消化管造影:胃体部が腹側に位置
治療 体重増加が良好の場合:経過観察(1歳を過ぎると自然軽快)
症状がある際には、右側臥位にするとガス以外の胃内容物が幽門を通過しやすくなる
幼児期になっても症状が軽快しない場合:手術を考慮

消化管憩室 gastrointestinal diverticulum

病態 消化管壁が限局性に突出した状態で、真性憩室と仮性憩室に分類される。大腸憩室が最多。
分類 【真性憩室】
炎症などにより消化管壁が牽引され、全層が突出する(多くは先天性)。
真剣に迷路室はッケル憩室・憩室・キタンスキー憩室)と覚える
【仮性憩室】
消化管内圧の上昇により、筋層と筋層の間が圧出して形成されるため筋層を欠く

食道・胃・十二指腸憩室

憩室の分類  
Zenker憩室
(咽頭食道憩室)
咽頭と食道の移行部は筋層を欠いており、食道内圧の亢進により移行部が圧出されて仮性憩室となる。
横隔膜上憩室
(食道)
食道内圧の亢進によりLES圧が上昇し、横隔膜上の食道が圧出されて仮性憩室となる。
Rokitansky憩室
(中部食道憩室)
結核性リンパ節炎などの炎症によって気管分岐部のリンパ節が瘢痕化し、
それに牽引された食道が引っぱり出され真性憩室となる。
胃憩室 先天的・後天的に生じて、真性憩室となる。基本無症状で、経過観察となる。
十二指腸憩室
(傍乳頭憩室)
十二指腸下行脚内側に圧出性にできた仮性憩室。憩室によってVater乳頭が圧排され、閉塞性黄疸・膵炎の合併症をきたす場合をLemmel症候群といい、手術が必要となる。

メッケル憩室(回腸憩室) Meckel’s diverticulum

疫学 有病率約2%
病態 回盲部より数十センチ口側の小腸の腸間膜付着部の反対側に生じる、単発性の先天性の真性憩室。卵黄腸管靭帯が原因で、さらに胃粘膜の迷入(約60%)を認めることも多い。
●卵黄腸管靭帯:胎生期に腸管と卵黄嚢をつないでいる臍腸管が遺残したものであり、この靭帯が残った人はこの靭帯に牽引され憩室ができる。
症状 基本、無症状。ときに腹痛のない反復する多量の下血
合併症:憩室炎(盲端のため細菌感染しやすい)、腸重積・腸閉塞(憩室の内翻)、消化性潰瘍(異所性の胃粘膜迷入)
検査 99mTcO4シンチ(胃粘膜に集積する性質):胃、膀胱、憩室に集積。
治療 合併症がなければ経過観察
Meckel憩室炎の場合:抗菌薬投与、症状軽快後に切除検討

大腸憩室・憩室炎・憩室出血

疫学 40歳以上に好発。憩室の中で最多。
肉食・低食物繊維の人(低残渣食)※残渣=食物繊維、便秘傾向の人に多い。
病態 便秘や低繊維食によって腸管内圧が上昇し、圧出性の仮性憩室となる疾患。
上行結腸(約70%)に好発するが、高齢化や欧米食化のためS状結腸も増加中。
憩室内腔の細菌感染により炎症を生じたものを憩室炎、憩室内の血管が機械刺激により破綻したものを憩室出血という。憩室出血が下部消化管出血で最多。
症状 基本的に無症状
【合併症】
憩室出血血便・下血(多くは腹痛なし)
憩室炎腹痛、発熱、下痢(急性虫垂炎との鑑別が重要)。炎症を繰り返し、腸管狭窄を生じたり、穿孔により腹膜炎を生じたりすることもある。
検査 【画像検査】
注腸造影(炎症急性期は禁忌):結腸壁に多数の類円形の造影剤貯留像(tear drop)
内視鏡:管腔外に突出する多数の憩室を認める。憩室出血あれば確認
腹部CT:憩室周囲がモヤモヤした感じで炎症がある場合は憩室炎、活動性出血があれば造影CTで憩室が造影される、腹壁直下のfree airや腹水貯留があれば穿孔性腹膜炎
治療 合併症がなく無症状であれば経過観察(食物繊維食推奨、緩下薬投与)
憩室出血:安静・補液。大量出血の場合は内視鏡的クリップ止血、内視鏡的結紮術(EBL)、止血困難な場合は動脈塞栓術(TAE)。
憩室炎:絶食+補液+抗菌薬投与。穿孔による膿瘍形成は膿瘍ドレナージを行う。汎発性腹膜炎がある場合は緊急手術。

コメント

タイトルとURLをコピーしました