消化器各論(腹水、消化管穿孔、腹膜炎、ヘルニア)

消化器科

腹水

生理的腹水 ・役割:臓器や組織間の摩擦を防ぐ潤滑剤、通常30〜50mL
・通常CTでは見えないが、生殖可能年齢の女性ではダグラス窩に生理的腹水が認められ、その量は月経周期に合わせて増減する
病的腹水 ・腹膜を介した水バランスの障害(門脈圧亢進症など:漏出液)
・血管透過性の亢進(炎症など:滲出液)
・腹膜の破綻により出血や内容物が直接腹腔に漏れ出た状態
腹水貯留部位 右横隔膜下腔、ダグラス窩、脾腎境界付近?など

【腹水の性状の確認方法】

①CT値 0〜30HU:単純腹水、乳糜腹水、漏出胆汁
20〜40HU:血清腹水、炎症性腹水(蛋白濃度↑細胞成分↑)
30〜50HU:凝固していない血液
50〜70HU:凝血
②限局性貯留 ・腹水貯留の際に大網や腸間膜が腹水を被包化する場合(嚢胞性腫瘤となって周囲腸管や腹部臓器を圧排するようになると、腫瘤性病変と鑑別を要する)
③ガスの混在 ・液体内部にガス:消化管穿孔、術後感染(開腹術後5日間、腹腔鏡術後2日間は正常)、化膿性腹膜炎を疑う
④沈殿物 ・腹腔内出血では同時に腹水も滲出するため、腹水内で血球成分が沈澱することがある

消化管穿孔

  上部消化管穿孔 下部消化管穿孔
原因 ・十二指腸潰瘍(最多)
・胃潰瘍
・特発性食道破裂
・腫瘍(胃癌、悪性リンパ腫など)
・大腸癌(最多):S状や横行結腸に多い
・特発性:S状結腸に多い
・憩室炎
※上行/下行結腸、小腸穿孔は稀
Free air 上腹部のみにFree air 下腹部のみにFree air

腹部CTにおける消化管穿孔の読影

①Free airを探す 肝表、肝円策裂、尾状葉周囲、胆嚢周囲、モリソン窩、腸間膜間に多い
②穿孔部位を探す 発症から時間が経過し、上部下部両方にFree airを認める場合、Free airからでは穿孔部位はわからない
③穿孔部位の特徴 ・腸管壁の肥厚、造影効果増強、壁の欠損
・周囲脂肪織濃度上昇(dirty fat sign)
・消化管内容物の逸脱(特に結腸からの便塊)

消化性潰瘍穿孔

病態 潰瘍が深部まで及んで穿孔し、腹腔内に空気と内容物が漏出して急性腹膜炎をきたす病態。
(隣接臓器や大網に被覆され、内容物が腹腔内に流出しない場合は穿通という)
穿孔は十二指腸球部に好発する。
症状 突然の上腹部激痛
②急性腹膜炎症状:筋性防御(板状硬)、冷汗、炎症反応(発熱、WBC↑、CRP↑)
検査 【身体検査】
聴診:腸雑音低下
触診:筋性防御(板状硬)、Blumberg徴候(反跳痛)
【画像検査】
立位X線:肝臓と横隔膜の間にfree air(+)
腹部CT(ヨード造影剤):同様にfree air確認(バリウムを用いた消化管造影は禁忌
上部内視鏡検査:消化性潰瘍が疑われる場合は第一選択
治療 <軽症の場合>
保存的治療(絶飲食、輸液、抗菌薬、PPI投与、経鼻胃管挿入→胃液吸引
→胃内は細菌が少なく潰瘍底の穿孔部はピンホール状の小さな穴手術をしなくても治癒する場合があるため。
<汎発性腹膜炎を伴う場合>
緊急手術、穿孔後8時間以内がGolden period。

下部消化管穿孔(大腸穿孔) Large bowel perforation

病態 憩室穿孔、大腸癌、内視鏡操作などの医原性によって消化管が穿孔し、糞便が腹腔内に侵入することで重篤な腹膜炎となるため、敗血症性ショックを引き起こす緊急疾患である。
症状 突然の腹痛(激痛)
検査 胸腹部X線・CT(立位):Free air、穿孔部位を確認
※注腸造影は腸管内圧を上昇させて腸管内容物の腹腔内漏出を助長する可能性のため禁忌
治療 ①腹腔洗浄・ドレナージ:大腸は細菌数が多いため
②緊急手術:穿孔部位切除閉鎖術+人工肛門造設(Hartmann手術:肛門側の腸管は盲端となる )。腹膜炎が起こっている際に腸管を吻合ようとしても吻合できない。症状が落ち着いたら、吻合も検討する。

ヘルニア Hernia

病態 臓器が本来の位置から脱出した状態で、外ヘルニアと内ヘルニアに分類される。 また、圧迫してもヘルニアが元の位置に戻らなくなったものを嵌頓ヘルニアといい、血流障害が生じるため緊急手術の適応となる。外ヘルニアは嵌頓しやすい。
ヘルニア門:脱出する穴のこと
ヘルニア内容:ヘルニア門から脱出する臓器のこと
ヘルニア嚢:ヘルニア内容を覆う腹膜のこと
外ヘルニア 腹腔内臓器が腹腔に脱出し、体表から触知可能なもの(閉鎖孔ヘルニアを除く)
内ヘルニア 腹腔内臓器が腹腔内に脱出し、体表から触知不能なもの

【分類】

外ヘルニア 鼠径部ヘルニア 鼠径ヘルニア大腿ヘルニア
  骨盤ヘルニア 閉鎖孔ヘルニア
  腹壁ヘルニア 腹壁瘢痕ヘルニア、臍ヘルニア、臍帯ヘルニア
内ヘルニア 横隔膜ヘルニア 食道裂孔ヘルニア(横隔膜ヘルニアの約95%)
  その他 網嚢孔ヘルニア、腸間膜裂孔ヘルニアなど

【小】新生児先天性横隔膜ヘルニア

病態 横隔膜は胎生8~10週に胸腹裂孔膜により閉鎖されるが、この閉鎖不全により新生児横隔膜ヘルニアが発生する。通常肝臓のない側に多く(約90%)、胎生期に腹腔内臓器が胸腔内に入り込むため、患側肺や健側肺に肺低形成をきたす。また、消化管の通過障害による羊水吸収低下により羊水過多を引き起こす。
<分類>
胸膜裂孔ヘルニアBochdalek孔ヘルニア:ボホダレク孔ヘルニア) 新生児横隔膜ヘルニアの約90%を占め、左側例が90%、無囊性が80%である
②傍胸骨裂孔ヘルニア 右側:Morgagni孔ヘルニア、左側:Larrey孔ヘルニア
③食道裂孔ヘルニア
症状 生後24時間以内に、
①チアノーゼを伴う呼吸困難:肺低形成のため ②肺高血圧:肺低形成のため
検査 【身体検査】
聴診:患側肺で腸管ガス音(+)
【画像検査】
X線:患側胸腔内の消化管ガス像、患側横隔膜陰影の消失
治療 手術:脱出臓器の還納とヘルニア門の閉鎖
肺低形成:気管挿管し消化管内への空気流入防止(陽圧換気は気胸起こしやすい)

【小】臍帯ヘルニア

病態 胎生5~10週に臍帯に腸管がはまり込む生理的臍帯ヘルニアが、腹腔内に還納せず、腸管がはまり込んだまま出生するもの。染色体異常や重症合併奇形を伴うことが多い。
症状 腹壁欠損孔より内臓が皮膜に覆われることなく腹腔外に脱出
検査 胎児エコー:臍帯内に脱出臓器が見られる
治療 早期外科手術

食道裂孔ヘルニア esophageal hiatal hernia

病態 胃の一部が横隔膜を越えて縦隔内に飛び出した疾患で、多くは後天的に起こる。 滑脱型(大部分がこの型)、傍食道型、混合型に分類される。 原因は①高齢女性で横隔膜が萎縮、②妊娠や肥満者で腹圧が常時高い。
症状 多くは無症状 滑脱型ではGERDの合併により胸焼け・呑酸→Barrett食道・食道潰瘍
検査 【画像検査】
消化管造影:滑脱(胃の一部が縦隔へ脱出)を確認 内視鏡:胃粘膜の脱出を確認
治療 肥満者:腹圧を下げるよう減量し、経過観察。
GERD合併:PPI(抗コリン薬などLES圧↓させる薬は禁忌) 保存的治療抵抗性の場合は逆流防止手術(Nissen手術)や食道裂孔縫縮術を行う

鼠径ヘルニア inguinal hernia

病態 鼠経靭帯上方から鼠径部に脱出するヘルニア。腹部ヘルニアの約90%を占める。 脱出部位により外鼠経ヘルニアと内鼠経ヘルニアに大別される。
  ●腹膜鞘状突起とは
胎生期に精巣が陰嚢に下行する際に腹膜も一緒に下行し、その後下行した腹膜は閉鎖する。この腹膜が開存したままの場合、腸管が侵入すると外鼠経ヘルニアに、腹水が侵入すると陰嚢水腫となる。
症状 <非嵌頓時>
自覚症状ほぼなし
<嵌頓時>
①腹痛
②腸閉塞症状(胆汁性嘔吐、腹部膨満感)
検査 【身体所見】
・鼠径部に膨隆立位で増大)
・小児ではslik sign(絹がすべる感じ)
【検査所見】
鼠径部エコー:腹腔内から連続する腫瘤
腹部CT:腸管や脂肪組織の脱出像、ヘルニア水(嵌頓が起こって静脈閉塞により浮腫が生じてヘルニア嚢に液体が貯留した状態)
治療 <嵌頓時>
まず、用手還納。できない場合は緊急手術。ただし、嵌頓して12時間以上経過し、ヘルニア内容物が硬いなど腸管絞扼が疑われる場合は、腸管壊死部の穿孔の恐れがあるため用手還納は禁忌
【手術】
メッシュを用いたヘルニア修復術(小児の場合はヘルニア嚢の高位結紮)
①開腹術:前方切開法
②腹腔鏡手術:TAPP法(腹膜内から手術)、TEP法(腹膜外から手術)
【姑息的処置】
ヘルニアバンド装着(個人差があり、結局出ることが多い)

【分類】

  鼠経ヘルニア(間接鼠経ヘルニア) 鼠経ヘルニア(直接鼠経ヘルニア)
疫学 鼠径ヘルニアの大部分 鼠径ヘルニアの約1%
病態 外側鼠経窩の内鼠経輪(ヘルニア門)から、鼠経管を通り、外鼠経輪へ脱出 内側鼠経窩のヘッセルバッハ三角(ヘルニア門)から腹膜を貫通して、外鼠経輪へ脱出
嵌頓 多い(ヘルニア門が小さいため)
位置 下腹壁動静脈の 下腹壁動静脈の

大腿ヘルニア・閉鎖孔ヘルニア

  大腿ヘルニア  femoral hernia 閉鎖孔ヘルニア  obturator hernia
疫学 中高年以降の経産婦に好発(分娩による大腿輪の脆弱化+骨盤底筋群の筋力低下) 中高年女性+痩せ型の人に好発(骨盤底筋群の筋力低下による)
病態 鼠経靭帯とクーパー靭帯の間を通り、鼠経靭帯直下大腿輪(ヘルニア門)から大腿三角部の大腿Vの内側に脱出。約80%が片側性で右に多い 閉鎖孔(ヘルニア門)から大腿付着部の内側に脱出 →体表からヘルニアを触知しにくい
症状 <非嵌頓時>
自覚症状ほぼなし
<嵌頓時>
①腹痛、大腿内側部の痛み
②腸閉塞症状(胆汁性嘔吐、腹部膨満感)
<非嵌頓時>
腸閉塞症状発現前に閉鎖神経圧迫による大腿内部~膝部への疼痛やしびれが約50%に見られる(Howship-Romberg徴候
<嵌頓時>
①腹痛、悪心嘔吐
②腸閉塞症状(胆汁性嘔吐、腹部膨満感)
検査 【身体所見】
・鼠径靭帯の下方に膨隆立位で増大)
【検査所見】
腹部CT:大腿Vが内側から圧排される像が多い(クレッセントサイン)
【身体所見】
・体表からヘルニアを触知しにくい
【検査所見】
腹部CT:閉鎖孔から脱出する腸管の像
治療 嵌頓しやすいため原則手術 (メッシュによる大腿輪の閉鎖) エコー先端で圧迫しながら整復
嵌頓しやすいため原則手術

腹壁瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア

  腹壁瘢痕ヘルニア 臍ヘルニア(出べそ)
病態 手術部位が脆弱化して脱出したもの。手術創の感染による二次的治癒瘢痕から発生が多い。肥満・腹圧上昇で起こることもある。ヘルニア門が大きいため嵌頓は稀。 臍輪から腸管や大網が脱出したもの。 成人では肥満、腹水貯留、妊娠などの腹腔内圧上昇因子に伴い、一度閉鎖した臍輪に後天的に脆弱化が生じることで起こる。
症状 無症状が多い、腹圧上昇時の膨隆 腹圧上昇時の臍部膨隆
検査 造影CT:筋膜欠損部から脱出した腸管
治療 経過観察
有症状や審美的問題なら腹壁修復術
2歳までに90%が自然治癒(経過観察)
成人は嵌頓しやすいため原則手術

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