電解質異常

生理学

血中Na濃度の異常

RAA系
(血中Na濃度を上昇させる)
腎血漿量が減少するとRAA系が活性化され、最終的に腎からNa再吸収が促進され、血中Na濃度が上昇する。
ADH
(血中Na濃度を低下させる)
視床下部で血漿浸透圧上昇(280mOsm/L以上)を感知すると下垂体後葉からADHが分泌され、腎集合体で水を再吸収し、血漿浸透圧(血中Na濃度)が低下する。

低Na血症 hyponatremia

血漿浸透圧により高張性、等張性、低張性に分類されるため、まずは血漿浸透圧を計算する。低Na血症の多くは浸透圧低値に起因している。

病態 血清Na135mEq/L以下のものを低Na血症と定義する。臨床的には130mEq/L以下が問題となり、軽症:Na 130〜135、中等症:Na 125〜129、重症:Na125未満と分類される。48時間以内に生じたものを急性、以降のものを慢性とする。
低Na血症により血漿浸透圧が低下し、細胞内に水が入り込み、脳浮腫に至ることが1番問題となる。
【分類】
①希釈性低Na血症、②Na欠乏性低Na血症、③浮腫性低Na血症
①希釈性 Na量:不変、水:増加、細胞外液量:正常
【原因】
・水摂取過剰:心因性多飲症(水中毒)
・水排泄低下(ADH過剰分泌):SIADH、甲状腺機能低下症、副腎不全、有効循環血漿量減少によるADH分泌
・薬剤性:抗うつ薬、カルバマゼピン、バルプロ酸、ビンクリスチン、シクロホスファミド、アミオダロン
②Na欠乏性 Na量:減少、水:不変、細胞外液量:減少
【原因】
・Na摂取低下
・腎外性Na排泄過剰:消化管からの喪失、熱傷(third spaceへの体液移動)
・腎性Na排泄過剰:利尿薬使用、ミネラルコルチコイド欠乏(Addison病などの副腎不全、慢性腎不全)
・薬剤性:ST合剤のトリメトプリム
③浮腫性 Na量:増加、水:増加、細胞外液量:増加
(Na増加しているが、それ以上に水分が貯留して低Na血症になる)
【原因】
・循環血漿量低下:ネフローゼ症候群、肝硬変、うっ血性心不全
・腎水Na排泄低下:進行期腎不全
・薬剤性:チアジド系利尿薬、シスプラチン、カルボプラチン
症状 軽症 or 偽性低Na血症:無症状
中等症:頭痛、悪心、混乱、食欲不振
重症:嘔吐、心不全症状、呼吸不全症状、けいれん、昏迷・昏睡(GCS8以下)
検査 【血液検査】
血糖値、コルチゾール、ACTH、TSH、T4、脂質、総蛋白質、CK
【尿検査】
尿Na、尿K、尿Cre、尿UA、尿浸透圧
【画像検査】
胸部X線:心不全があれば評価
心エコー:体液量評価
診断 <診断前の確認事項>
・飲水量、食事量と内容、腎機能、精神疾患・認知症・アルコール多飲の有無
・輸液の下流で採血していないか確認
血漿浸透圧の計算(2Na+BUN/2.8+BS/18)
280mOsm/L以上は偽性低Na血症(高張性、等張性)の可能性あり。高血糖(補正Naを計算)、マンニトール使用、著名な高脂質症、高蛋白血症などが原因。280mOsm/L未満(低張性)は②へ
尿浸透圧の計算(尿比重の下2桁×20〜40)
尿浸透圧100mOsm/L未満:心因性多飲症、Beer potomania、Na摂取不足
尿浸透圧100mOsm/L以上:ADH分泌過剰 or ADH過剰作用→③へ
有効循環血漿量減少によるADH分泌増加(尿Na 20〜30mOsm/L未満)
→RAA系亢進によりNa再吸収増加により尿Na低下
細胞外液量減少:嘔吐、下痢、熱傷などでthird spaceへ体液移動
※浮腫などはなく四肢冷感など末梢循環不全がある場合は細胞外液量減少傾向
細胞外液量増加:心不全、肝硬変、腎不全、ネフローゼ症候群
浮腫や胸腹水がある場合は細胞外液量増加傾向
その他の原因によるADH分泌増加(尿Na 20〜30mOsm/L以上)
・SIADH:ADH分泌過剰による循環血漿量減少
・副腎不全、甲状腺機能低下症
・薬剤性:サイアザイド系により腎より尿Na排出促進
・生理的なADH分泌:疼痛刺激、精神的ストレス、嘔気嘔吐など
治療 血漿Na>尿Na+Kなら水制限(自然と改善)、血漿Na<尿Na+Kなら3%NaCl点滴(進行性)が必要と判断。
①水制限は800-1000mL/日から開始。これでNa上昇しない場合は②へ
②NaCl末 1-3g/日、直接でもいいが白ご飯にかけてもOK
【治療方法】
・偽性低Na血症:治療適応なし(浸透圧の補正不要=Na補正も不要)
・心因性多飲症(水中毒):水制限
・細胞外液量減少:生理食塩水点滴→意識改善後は塩分経口摂取
・細胞外液量増加:循環血漿量の是正、例えば心不全なら利尿薬や飲水制限
【補正適応】原因疾患治療とは別に緊急にNa補正が必要
・Na120未満+神経症状(けいれん、頭痛、意識障害)or Na110未満
【低Na血症の補正】
・0.5mEq/L/hr以下かつ6〜8mEq/L/日以下で補正
・1mL/kg/hrで開始すると、1時間で1mEq/Lの上昇が見込まれる。
・Na補正している間は1〜2時間ごとに血ガスで血中Na濃度、尿検査で尿電解質、尿量をフォローする(尿カテ挿入)
・Na過補正の場合:脱水の補正によりADHの急激な分泌低下が起こり、大量の希釈尿の排泄によりNaの急激な上昇をきたす。Na過補正を認める場合には5%ブドウ糖液を1時間かけて投与して体液を希釈するか、デスモプレシン点鼻2噴霧(5μg)により尿量を低下させる。
Na急速補正は禁忌(浸透圧性脱髄症候群ODS:脳細胞内の水が急に細胞外に出ることで不可逆的な神経障害を招く恐れがあるため)
3%NaClの
つくり方
Step1:生理食塩水500mLから120mL捨てる
Step2:10%NaCl(1A=20mL)を6A入れる

高Na血症 hypernatremia

病態 血清Na145mEq/L以上のものを高Na血症と定義する。臨床的には150mEq/L以上が問題となる(高齢者を除く)。48時間以内に生じたものを急性、以降のものを慢性とする。日本では高齢者が水分を十分とれず発症することが多い。
多くは高浸透圧に起因して細胞内脱水が起こる。150mEq/L以上で神経細胞内の脱水が生じ、中枢神経症状出現する。
【分類】
①水喪失型、②Na過剰型
①水喪失型 細胞外液量が減少して高Na血症になっている場合が多い
【原因】
・水摂取不足:口渇中枢障害、寝たきり、認知症、嚥下機能低下
・腎性水排泄過剰:尿崩症、利尿薬使用、高血糖
・腎外性水排泄過剰:下痢、嘔吐、不感蒸泄(熱傷、発熱、発汗)
【治療】
・ショックなど細胞外液量低下の場合:生食、乳酸リンゲル液
・160mEq/L以上の場合:5%ブドウ糖溶液による細胞内液補充
・それ以下の場合:1/2生食による細胞内液補充
②Na過剰型 高Na血症により細胞外液量が増加している場合が多い
【原因】
・Na摂取過剰:不適切投与(輸液)、塩分過剰摂取
・腎Na排泄低下:原発性Ald症、Cushing症候群
【治療】
・ループ利尿薬で水と塩分排泄+尿量分をブドウ糖溶液で補正
症状 初期:腱反射亢進、病的反射の出現などの易興奮性
進行期:口渇、筋緊張亢進、意識障害、けいれん、昏睡、脳波異常
検査 【身体所見】
口腔内乾燥、腋窩乾燥、皮膚ツルゴール低下、CRT延長
【尿検査】
尿中浸透圧800以上:ADH正常の水分摂取不足、Na摂取過剰
尿中浸透圧300未満:尿崩症
【血液検査】
BUN/Cre開大:血管内脱水による腎前性腎不全
初期治療 【けいれんしている場合】
抗けいれん薬を投与
【Na補正方法】
①不足水分量の評価
・水分不足量(L)=推定体内水分量(TBW)×((血清Na/目標補正Na)-1)
②Na補正速度の決定
急性の場合:血清Naの是正速度は1〜2mEq/L/hrで補正し、24時間以内に145mEq/L以内の正常化を目指す(補正が遅れると神経学的後遺症を残すため)。
慢性の場合:血清Naの是正速度は最大10〜12mEq/日で緩徐に補正する。慢性の場合は急速に是正すると細胞浮腫を招き、脳浮腫を起こすため禁忌!
③輸液速度の決定
水分不足量(L)/24hrを④で選んだ輸液で補正+便や不感蒸泄分の30〜40mL/hrを追加+尿量が多い場合はさらに輸液追加
④輸液組成の決定
分類に応じて選択
⑤Na値のフォローと輸液調整
急性期は2〜4時間ごとにNa値をフォローし、補正速度をNa値より調節する。また、5%ブドウ糖投与の場合は血糖の推移を確認し、必要に応じてインスリンによる血糖コントロールを行う。

低K血症 hypokalemia

病態 血清K3.5mEq/L以下のものを低K血症と定義する。明かな臨床症状が出現するのは2.5mEq/L以下の場合が多い。慢性に経過している場合は症状が出にくい。
【分類】
①腎性K排泄亢進、②腎外性K排泄亢進、③細胞内へのK移動
①腎性 (低K血症にもかかわらず)尿K排泄増加
【原因】
・Ald作用の過剰:原発性Ald症、偽性Ald症、Cushing症候群など
・尿細管機能異常:尿細管性アシドーシス、Bartter症候群、Gitelman症候群、Liddle症候群
・薬剤性:利尿薬(サイアザイド、ループ利尿薬)、抗菌薬(ペニシリンG、あみのグリコシド系、アムホテリシンB)、甘草、副腎皮質ステロイド、シスプラチン
・低Mg血症
・嘔吐など胃液の喪失
②腎外性 尿K排泄減少
【原因】
・消化管からの喪失(下痢、下剤の長期乱用など)
・多量の発汗
③その他 細胞内へのK移動
【原因】
・インスリン、β刺激薬、α遮断薬、甲状腺ホルモンの投与
・代謝性アルカローシス
・低K血症性周期性四肢麻痺
④その他 Kの摂取不足
【原因】
・高度の飢餓
・神経性食欲不振症(体液量減少による二次性アルドステロン症も加わる)
神経・筋 軽症:疲労感、筋力低下
重症:脱力、呼吸筋麻痺、腸管運動低下、麻痺
※細胞外Kの低下により、静止膜電位が低下して脱分極しにくくなるため。
不整脈・期外収縮: 血清Kが低下すると細胞外にKが流出しやすくなり静止膜電位が深くなる。深い分、再分極が起こりにくくなるためT波の平坦化(重症の場合はT波陰転化)して、見えにくかったU波が出現する。T波が低下しU波が現れるためQT延長しているようにみえる。再分極が起こりにくいためAPDは延長するが、細胞内Ca濃度が上昇するため心室性頻拍などの重篤な不整脈が起こりやすくなる。
【心電図】
・T波の平坦化、U波出現
多尿→脱水:尿濃縮障害のため(腎性尿崩症)
治療 ・K製剤投与
・腎性K排泄亢進の場合はスピロノラクトン併用
K静注を行う場合は、原則20mEq/hr以下で投与(急速静注すると致死的不整脈、心停止を誘発するため)

高K血症

病態
原因 腎からのK排泄障害、K負荷、細胞内から細胞外へのKの移動、偽性高K血症
尿毒症、Addison病、代謝性アシドーシス、低Ald症、輸血、溶血
K:6〜7mEq/L テント状T
K:7〜8mEq/L PQ間隔延長、P波の平坦化、ST低下
K:8〜9mEq/L QRS幅増大
K:9〜mEq/L サインカーブ様パターン、心室頻拍、心室細動
不整脈:血清Kが上昇すると細胞外にKが流出しにくくなり静止膜電位が浅くなる。そのためNaチャネルが不活性化され、Ca流入によって脱分極がゆっくり起こり、ワイドQRSとなる。Na流入が少ないため心筋の収縮力が低下し、心房筋が麻痺するとP波が消失する。また、Na流入が少ないため再分極が勢いよく起こりT波が増高し、早く再分極が起こるため活動電位持続時間が短縮する。APDが短縮するため心室性頻拍などの重篤な不整脈が起こりやすくなる。
症状 細胞外K濃度が上昇し、心筋伝導異常
治療 【VF・VT予防】
グルコン酸Ca :心筋興奮の安定化作用により不整脈を防ぐ(血清K濃度自体は低下させない)
<Kを細胞内に一時的に取りこませる治療>
①GI療法
②炭酸水素Na
③β2刺激薬吸入
<Kを体外に排泄する治療>
①生理食塩水投与
②フロセミド投与
③K吸着
④透析
⑤呼吸数増加(呼吸性アルカローシス→H低下→K低下)
⑥Ca投与(代謝性アシドーシスの場合)

低Ca血症

原因 ①副甲状腺機能低下症
②ビタミンD欠乏および活性化VDの作用低下 (慢性腎不全など)
③低Mg血症(血中K↓、血中Ca↓が起こる)
④急性膵炎
⑤薬剤性(ループ利尿薬、クエン酸中毒)
⑥Hungry bone症候群(副甲状腺機能亢進症の術後合併症)
⑦Alb低値による偽性低Ca血症
上記の原因により、細胞外Ca濃度低下により静止膜電位が上昇し、被刺激性が亢進する。
中枢神経 けいれん、意識消失発作
末梢神経 腱反射亢進、四肢や口唇のしびれ、不随意運、手指のこわばり
筋肉 筋けいれん、テタニー、Chvostek徴候、Trousseau徴候
【局所的テタニー】
Trousseau徴候:マンシェットで加圧すると指がくっつき合って手掌が窪んだ状態(助産師手位)を示す。
Chvostek徴候:顔面神経幹(外耳孔前方)をハンマーで軽く叩くと顔面神経支配域(鼻翼、眼瞼、口角など)が反射性に痙攣する。
消化器 下痢
QT延長:血清Caが低下すると細胞内にCaがゆっくり流入しプラトー相が延長し、QT延長が起こる。
検査 【画像検査】
CT:両側基底核の石灰化
治療 緊急時はグルコン酸Ca静注、それ以外はCa製剤やビタミンD製剤を内服

高Ca血症

原因 ①原発性副甲状腺機能亢進症
②ビタミンD過剰症(サルコイドーシス、結核、ビタミンD過剰摂取)
③悪性腫瘍(PTHrPを分泌する肺扁平上皮癌・ATL・腎癌、骨破壊を生じる多発性骨髄腫・乳癌転移)
④薬剤性(サイヤザイド系利尿薬)
⑤遺伝性(家族性低Ca尿性高Ca血症)
中枢神経 意識障害・せん妄:Ca濃度が16mg/dL以上の高Ca血症クリーゼ
末梢神経 腱反射低下:細胞外Ca濃度増加により静止膜電位が低下するため
筋肉 脱力感・筋力低下・易疲労感:細胞外Ca濃度増加により静止膜電位が低下するため
消化器 口渇・多飲:多尿のため
悪心・嘔吐食欲不振消化性潰瘍、急性膵炎:Caはガストリン分泌を促進する
多尿・脱水尿濃縮障害による
②急性腎不全:Ca濃度が16mg/dL以上の高Ca血症クリーゼ
③尿路結石:尿中Ca↑
QT短縮:血清Caが上昇すると細胞内にCaが急速に流入しプラトー相が短縮し、QT短縮が起こる。
鑑別 ①原発性副甲状腺機能亢進症:PTH↑、血中P↓
②サルコイドーシス:PTH↓、血中P↑、ACE↑
②ビタミンD過剰摂取:PTH↓、血中P↑
③悪性腫瘍:PTH↓、PTHrP↑ or 画像検査で骨破壊像
治療 ①生理食塩水で輸液:多尿による脱水改善
②Ca補正:ビスホスホネート製剤(遅効性)、カルシトニン(即効性)
③ループ利尿薬:尿中Ca排出促進

高Mg血症

原因 ①腎機能障害による腎排泄低下
②大量のMg摂取
症状 【血清Mg 5mg/dL以上】
嘔吐、筋脱力、傾眠、深部腱反射消失、低血圧、徐脈
【血清Mg 15mg/dL以上】
意識混濁、呼吸抑制、ナルコーシス、心停止
検査 【心電図】PR間隔延長
治療 グルコン酸Ca
利尿薬

低Mg血症

原因 低カリウム血症と低カルシウム血症
①腎臓からのMg排泄を促進
尿細管障害性物質:シスプラチン、アムホテリシンB、アミノグリコシド、シクロスポリンA
②アルコール多飲:下痢や吸収不良による
症状 心血管系:心電図変化(QT延長)、不整脈(心室性期外収縮,心室細動)
神経筋肉系:テタニー、筋力低下、深部腱反射亢進、
中枢神経:抑うつ、不安
検査
治療 Mg補充

高P血症

原因 細胞外液へのP負荷、腎からのP排泄の減少
症状 二次的な低Ca血症によるテタニー、知覚異常、けいれん、心電図上のQT延長
検査
治療

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