脳神経総論(けいれん、てんかん)

脳神経

けいれん

けいれんとは、発作性かつ不随意に起こる持続性あるいは断続性の筋収縮が生じる現象。

けいれんをきたす疾患は、MITを参照(失神、PNESは除く)。

強直性けいれん 筋肉の収縮が持続し、緊張してこわばった状態。四肢は強く伸展したまま、あるいは屈曲したままとなる
間代性けいれん 筋肉が収縮と弛緩を反復する。四肢は伸展と屈曲を繰り返す
強直間代性けいれん 強直期(10〜20秒)→その後間代期を繰り返す

けいれんによる眼球偏位

部分発作の初期は、病巣側の反対に偏位をきたす。

熱性けいれん Febrile seizure

疫学 有病率:7~8%、家族歴があることが多い
病態 主に生後6ヵ月〜5歳までの乳幼児期に起こる、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性、非けいれん性を含む)で90%が単純型、10%が複雑型に分類される。
髄膜炎などの中枢神経感染症、代謝異常、てんかんの既往など明らかな発作の原因があるものは除外される。熱性けいれんは数%がてんかんに移行する。
【再発予測4因子】
以下の4つがなければ再発率は約15%、以下1つでもあれば約30%。
①両親、兄弟姉妹の熱性けいれん家族歴
②1歳未満の発症
③短時間の発熱-発作間隔(概ね1時間以内)
④発作時体温が39℃以下
【熱性けいれんの重積状態】
発作が5分以上継続する状態=薬物療法開始を検討
症状 【複雑型熱性けいれん】
①部分発作:焦点性運動発作や半身けいれんや眼球偏位など左右差のある発作
15分以上持続する発作
③一発熱機会内の、通常は24時間以内に複数回反復する発作
【単純型熱性けいれん】
上記①〜③どれにも該当しない
検査 複雑型は中枢性感染症の評価:頭部単純CT→脳脊髄液検査
鑑別 髄膜炎・脳炎を必ず否定し、否定できない場合はルンバールを行う
髄膜炎:頸部硬直を確認、脳炎:小児GCSをつけ意識障害を確認
治療 単純性は経過観察、複雑性はてんかんなどの原因精査を行う。
救急外来でジアゼパム坐薬を入れたら少し休ませ、その後親から見ていつも通りなら帰宅可能。
※熱性けいれんの既往のある小児に対して、発熱中は鎮静性抗ヒスタミン薬・テオフィリン等のキサンチン製剤の使用は熱性けいれんの持続時間を長くする可能性があり、投与を控える方が良い。
【熱性けいれんの重積状態】
側臥位にし、ミダゾラムの口腔内投与して粘膜から吸収させる。
予防 ①37.5℃以上の時に1回0.4〜0.5mg/kg(最大10mg)のジアゼパム坐薬
→30分後にアセトアミノフェンを投与
②8時間後にまだ熱がある場合は再度①を行う
※ジアゼパム坐薬による予防を図ったにもかかわらず、15分以上の発作を認める場合や繰り返し発作が見られる場合は抗てんかん薬の継続内服を考慮する。

【ジアゼパム適応基準】

https://www.childneuro.jp/about/6442/

憤怒けいれん(泣き入りひきつけ)

疫学 乳幼児の約5%
病態 主に生後6ヵ月〜5歳までの乳幼児期に激しく泣いた後、呼吸が停止し、チアノーゼ、意識消失、ごく短時間のけいれんをきたす病態。過呼吸や迷走神経反射による脳循環不全と考えられている。
症状 発熱と関連しない
治療 治療不要

けいれんの初期対応

けいれんは緊急事態のため、電話指示出したら、すぐ患者接触する!

①ABC確保

①電話指示 けいれん発作中は頭と体を横向きにする(頭の下に柔らかいものを敷く)
救急カート準備、モニター装着、バックバルブマスク準備
ジアゼパム(ホリゾン®)10mg 0.5A(=1mL、5mg)の準備
②患者接触 ABC確保:頭部後屈顎先挙上、SpO2低下で酸素マスク開始
モニターでVfでないことを必ず確認
けいれん部位、けいれんの種類を確認(眼球偏位は必ず確認
失神、PNESの場合はジアゼパム投与不要。自信がない場合は動画撮影

【けいれん:てんかん、失神、PNESの鑑別をする】

PNES(心因性非てんかん性発作):突発的にてんかん発作に類似するさまざまな精神及び身体症状を生じるが、身体的生理学的発症機序をもたないもの。

てんかん 失神 PNES
誘因 睡眠不足、飲酒、音楽、音、ゲーム、ストレス 起立動作、排便排尿、感情的ストレス、Valsava手技 精神的ストレス
発作開始 前兆があること多い
睡眠中にも生じる
前兆±(発作前に発汗) 前兆なし
睡眠中は生じない
運動症状 両側同期性、左右差のある痙攣から始まる 脱力、体位の喪失、意識消失後に左右差の痙攣 腰・首を横に振る動き、身体跳ね上げ、非同期性
発声 強直間代性発作開始時、間代相時 なし 叫ぶ、金切り声
表情 開眼・開口 閉眼 閉眼・閉口
咬傷 舌咬傷 なし 唇咬傷
尿失禁 あり なし なし
発作後 頭痛・筋痛あり 頭痛・筋痛なし 頭痛・筋痛なし
意識障害 発作後5分以上意識障害、その後も朦朧状態 意識回復後は完全に意識清明、疲労や倦怠感なし 評価困難
Hand drop test(+)
持続時間 1〜2分 数秒 2分以上
血液検査 乳酸↑、NH3↑ 乳酸→、NH3→ 乳酸→、NH3→

②けいれんを止める

①薬剤投与 ジアゼパム5mgを静注(生食20mLを前後フラッシュ)
ルートがない場合、同量を筋注(注腸の場合は肛門から緩徐に投与)
5分経過してもけいれん継続している場合はジアゼパム10mg 1A追加投与
※ジアゼパムの極量は20mgなのでそれ以上は投与しない
②採血 動脈血ガス、血液検査(電解質、血糖肝機能、腎機能、CKNH3
③経過観察 けいれん頓挫後、約15分はバイタルをモニターする
※ジアゼパムによる呼吸抑制・血圧低下の可能性があるため

③けいれんの治療Step

②でけいれんが止まらない場合は次のステップに進む。

第3段階は気管挿管が必要な場合もあるため、詳しい先生に相談しながら行う。

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan_2018.html

④けいれんの再発予防

①予防薬検討 初回の原因がないけいれん発作(非誘発性発作)は抗てんかん薬開始しない
けいれん重積発作(5分以上継続)、2回目以上の発作、初回でも65歳以上、神経学的異常、脳波異常、てんかんの家族歴、頭部画像で病変がある場合は抗てんかん薬の投与開始を検討
②薬剤投与 単剤投与が原則、治療期間は最低2年
感染症などの全身疾患が生じた際も継続する(抗てんかん薬の中止は離脱によるけいれん重積を生じるため禁忌
レベチラセタム(イーケプラ®)の適応:部分強直間代性、ミオクロニー
レベチラセタム500mg/5mL+生食 or 5%ブドウ糖100mL/回 1日2回
投与速度:レベチラセタム2〜5mg/kg/min(15分かけて点滴静注と指示)
レベチラセタムMAX:3000mg/日

⑤けいれんの原因検索(MIT)

初発けいれん、原因不明、神経学的異常がある場合は入院適応。

M Metabolic 尿毒症、低血糖、高血糖、肝不全、電解質異常(低K/Ca/Mg/Na)、低酸素血症、Addison病、ポルフィリン症
I Infection 髄膜炎、脳炎(腰椎穿刺)
Infarction 脳梗塞、脳出血、TIA(画像検査)
T Taiyaku 怠薬
Toxic 薬物中毒、薬物離脱、アルコール離脱、細菌性毒素(破傷風、ボツリヌス)
Trauma 頭部外傷
Tumor 脳腫瘍(画像検査)

てんかん

てんかん発作 Seizure

部分発作
(焦点発作)
先天的・後天的にも起こる。
大脳の限られた神経細胞集団(焦点)が過剰に放電して始まる。
全般発作 チャネル異常などの原因で先天的に起こるため小児に起こる
両側大脳半球の神経細胞が同時に過剰に放電する。
症候性部分発作 中枢神経に既知の器質性障害を持つものに起こる。
高齢者では脳血管障害変性疾患認知症の順に多い
SPECT:発作時に焦点で血流量が増加する
【原因】
①神経皮膚症候群(結節性硬化症、Sturge-Weber症候群、神経線維腫症、色素失調症)
②脳奇形(滑脳症、脳回肥厚症など)
③先天性代謝異常症(ミトコンドリア病など)
④脳占拠性病変(脳腫瘍、脳動静脈奇形、慢性硬膜下血腫など)

【てんかんの発作型

自動症とは読んで字のごとく、勝手に動いてしまうことで、一点を凝視して動作が停止して口をもぐもぐさせる、舌なめずりをする、手足を動かしたり、徘徊したりする動作がみられること。

意識障害 痙攣・運動症状
(運動野の放電)
発作時の
脳波
好発
部分
発作
単純部分発作 意識障害なし ±:発作が発生した部位に応じて身体の一部が20〜60秒ほど痙攣
(痙攣部位が拡大して全身の痙攣になる=Jackson発作)
病巣部に棘派 全世代
複雑部分発作 +:2分前後ぼーっと凝視する→発作時記憶欠如 ほぼ自動症を伴う 病巣部に棘派 全世代
二次性全般化発作(部分発作が全般発作に進展) +:意識消失 +:単純or複雑部分発作が先行し、数分後に強直間代発作 部分→全般 全世代
全般
発作
欠神発作
(過呼吸により誘発)
+:突然の意識消失&凝視→10秒後に回復 ー:ただし、動作は中止する 3Hz棘徐波複合 小児期
ミオクロニー発作
(光刺激により誘発)
意識障害なし +:突然の瞬間的な筋収縮 ピカチュウ!→ビクッ!! 多棘徐波複合 新生児〜
思春期
強直発作 +:意識消失 +:全身の筋が持続収縮し、伸展状態が約30秒持続 漸増律動性速波 小児期〜
成人期
強直間代発作 +:意識消失 +:強直発作→間代発作に変わり手足の屈曲伸展を繰り返す 間代で棘徐波複合に変化 全世代

てんかん Epilepsy

大脳皮質ニューロンの異常な興奮により発作を反復して起こす慢性中枢神経疾患。有病率約1%。

発作後精神病:幻覚妄想状態が生じることがある(数時間から数日の経過で消退する)

【てんかんの概要】

局在関連てんかん 全般てんかん
特発性 ・小児後頭葉てんかん
・中心、側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん(ローランドてんかん
・読書てんかん
小児欠神てんかん
・若年欠神てんかん
若年性ミオクロニーてんかん
・覚醒時大発作てんかん
症候性 側頭葉てんかん
・前頭葉てんかん
・頭頂葉てんかん
・後頭葉てんかん
West症候群(点頭てんかん)
Lennox-Gastaut症候群
・ミオクロニー欠神てんかん
・進行性ミオクローヌスてんかん

【代表的な部分てんかん】

ローランドてんかん 側頭葉てんかん
疫学 2〜12歳、男児に多い(小児で最多) 全世代(高齢者のてんかんでは最多)
病態 中心・側頭部の単純部分発作。遺伝的素因があるためてんかんの家族歴がある。中学生以降で発作が消失する良性てんかん。 側頭葉に焦点がある複雑部分発作。高齢者は少量の抗てんかん薬がよく効くことも特徴である。
症状 ①片側顔面の部分発作から二次性全般発作へと移行(入眠時や睡眠中に多い
②発作中の発語停止、流涎
①自動症
②意識障害(発作中のこと覚えていない)
③幻臭(嗅覚異常)
脳波 中心・側頭部に高振幅棘波 片側の前頭側頭部に棘波
治療 日常生活に支障がなければ経過観察 カルバマゼピン、焦点部分切除術

【代表的な特発性全般てんかん】

小児欠神てんかん 若年ミオクロニーてんかん
疫学 4〜10歳、女児に多い 12〜18歳に多い
病態 欠神発作を主徴とするてんかん。過呼吸で誘発される。 ミオクロニー発作を主徴とするてんかん。光過敏性、覚醒後数時間以内に多い。
症状 ①突然5〜15秒の行動途絶
②意識減損を1日に何回も繰り返す
※けいれん(ー)
①両上肢の突発的な筋収縮
↑物を持っていたら落としてしまう
脳波 3Hz棘徐波複合(棘波=スパイク状の波形と徐波=ドーム状の波形の組み合わせが次々と同期して出現) 多棘徐波複合
治療 バルプロ酸、エトスクシミド バルプロ酸

乳幼児の症候性全般てんかん】

West症候群(点頭てんかん) Lennox-Gastaut症候群
疫学 1歳未満の乳児に好発 1歳以降(幼児期)に好発
病態 一部はLennox -Gastaut症候群に移行する。結節性硬化症を伴うことが多い。 器質性脳障害、またはWest症候群から移行する(約1/3)難治性てんかん。
症状 ①頭の前屈、上下肢を振り上げる動作
動作は数秒の間隔をおいて反復する(シリーズ形成)
精神運動発達遅滞:笑うことが少なく表情が乏しくなり、次第に坐位が不安定になってくる
①強直発作や脱力発作など多彩な発作
②てんかん重積発作
精神運動発達遅滞
脳波 Hypsarrhythmia 発作間欠時のびまん性遅棘徐波複合(diffuse slow spike & wave complex)
治療 ACTH筋注、ビタミンB6、バルプロ酸 バルプロ酸、脳梁離断術

てんかん重積状態

病態 ニューロンの過剰興奮によるけいれんなどのてんかん発作が5分以上持続する、または、短い発作でも反復し、その間の意識回復がないまま5分以上続く状態。
(意識消失発作のみでけいれんは認めない非けいれん性てんかん重積状態もある)
てんかんだけでなく、種々の急性疾患(脳炎、アルコール・薬物中毒)や脳血管障害、頭部外傷によっても起こることに注意する。
症状 てんかん発作が5分以上持続
検査 脳波?
治療 ①ジアゼパム、ミダゾラムの静注でけいれんを止める
②次にホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの点滴や静注

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