皮膚科診断学
問診 | 発症時期・経過 | |
きっかけ・契機 | ||
既往歴 | ||
皮疹部位 | ||
自覚症状 | ||
使用薬剤 | ||
視診 | ①部位・数 | 単発か多発か |
②発疹名 | 融合や掻破によって変化を受けてない皮疹(=個疹)を確認 | |
③大きさ | 〜mm大と記載する ・3mm大の(発疹) ・2mm〜20mm大までの(発疹) |
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④色(8色) | 紅色、紫色、褐色、青色、黒色、白色、常色(肌色)の8つ ・紅色丘疹 |
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⑤形 | 円形、楕円形、多角形、不整形、地図状、線状、蛇行状など | |
⑥隆起 | 扁平隆起、ドーム状、半球場、堤防状、臍窩状、乳頭状など | |
触診 | 硬さ | 軟、硬、もろい、緊張性、弾性、波動性、可動性など |
皮膚の構造
表皮は約0.2mm、真皮は約2mmの厚さがあり、約6週間でターンオーバーする(角層2週間+顆粒層〜基底層4週間)。ケラチノサイト(=角化細胞)が基底細胞→有棘細胞→顆粒細胞→角質と分化していく過程を角化という。
構成細胞と機能 | ||
表皮 | 角層 | 【角質】 ケラチノサイトが扁平化し、核や小器官もなくなる。角質内のケラトヒアリン顆粒は脱顆粒し、その中のフィラグリンが変性して天然保湿因子となる(保湿作用+バリア機能作用)。また、角層の細胞間は主にセラミドという脂質で覆われている。 |
顆粒層 | 【顆粒細胞】 細胞内にはケラトヒアリン顆粒と層板顆粒を有する。 |
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有棘層 | 【有棘細胞】 デスモゾームが発達しており、ケラチノサイト間を強固に結合する(デスモゾームと核はトノフィラメントによってつながっている)。特に、有棘細胞ではトノフィラメントが集合してできたトノフィブリル(張原線維)が細胞骨格として機能している。 【Langerhans細胞(樹状細胞)】 Birbeck顆粒を有するCD1a+CD45陽性の抗原提示細胞(=MHCクラスⅡを持つ)。紫外線照射やステロイド外用でランゲルハンス細胞の数が減少する。 |
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基底層 | 【基底細胞】 19日に1度分裂し、片方が有棘細胞となる。ヘミデスモゾームはケラチノサイトと基底膜を強固に結合する。 【メラノサイト(色素細胞)】 紫外線→MSH分泌増加→メラノサイト内のチロシナーゼ活性化→血中チロシンからメラニンを産生→メラノソームに貯蔵。メラノサイトは基底層と毛母に存在し、ケラチノサイト間に樹状突起を伸ばし、ケラチノサイト内にメラニンを分泌する。メラノサイトは顔面などの露光部や陰部などに高密度に存在する。性ホルモンや妊娠でメラニン産生量増加する。 【Merkel細胞】 触圧覚に関与(手掌、口腔粘膜などに多く存在) |
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真皮 | 乳頭層 乳頭下層 網状層 |
【線維芽細胞】 膠原線維(張力に抵抗して強度保持)や弾性線維(伸縮力)などの真皮間質成分を産生する。膠原線維と弾性線維間にはヒアルロン酸に結合したプロテオグリカンが存在し、水分を保持している。 【肥満細胞(マスト細胞)】 ヒスタミンを分泌し、皮膚に紅斑や膨疹が症じ、I型アレルギーが引き起こされる。 【自由神経終末】 乳頭層に存在し、温痛覚・痒覚などに関与 【Meissner小体】 乳頭層に存在し、触圧覚や振動覚に関与 【Ruffini小体】 網状層に存在し、圧変化と振動を感知 【血管】 体温調節に関与 |
皮下 組織 |
ー | 【脂肪細胞】 クッションの役割 【Pacini小体】 |
メラニンは生成過程でシステインと結合するとフェオメラニン(黄色)となり、肌や髪の色が明るくなる。システインと結合しないユウメラニンは褐色である。
皮膚の付属器
皮膚腺 | 皮脂腺 | 皮脂は表面を酸性に保ち、有害物質の侵入を防いでおり、また、潤いももたらしている。 皮脂は毛包内に開口する(皮脂細胞の全分泌)、男性ホルモンにより増加し、女性ホルモンにより減少する。分泌される成分は主にTGで、他にコレステロールエステル、スクアレンなどである。脂腺分泌が亢進している状態を脂漏、低下している状態を皮脂欠乏という。 |
汗腺 | アポクリン汗腺 | 特定の部位(腋窩、外陰部、乳輪、肛門周囲部、外耳道)に限局して存在し、毛包内に開口する(断頭分泌=離出分泌)。分泌される汗が悪臭を放つのは、汗に含まれる有機物が細菌によって分解されるためである。アポクリン汗腺はアドレナリン作動性で情動刺激により分泌促進され、また、性ホルモンによっても分泌促進される。 |
エクリン汗腺 | 長い単管状腺で皮膚表面に直接開口し(透出分泌=開口分泌)、全身に広く分布する(特に、手掌、足底、前額)。エクリン汗腺はコリン作動性で交感神経によって支配され、体温調節や皮膚加湿を行う。 |
【毛周期】
通常、1日50本前後抜ける。
男性ホルモンは前頭・頭頂の脱毛を促進し、髭や陰毛の成長を促進する。
成長期(約85%) | 6〜8年 | 毛を抜くと毛根にゼラチン様のものがある毛。加齢によって成長期は長くなるため、眉毛や耳毛は長くなる。 |
退行期(約5%) | 2週間 | 毛を抜くと毛根に残骸がある毛。 |
休止期(約10%) | 3〜4ヶ月 | 抵抗なく抜ける細い毛で、毛根が棍棒状になっている。 |
皮膚の症候
皮膚科用語
発疹 皮疹 |
皮膚および粘膜に生じた病変の総称を発疹という。 皮膚の発疹を皮疹、粘膜の発疹を粘膜疹という。 |
斑 | 皮膚面から隆起していない限局性病変→だから色調に着目! 紅斑、紫斑、白斑、色素斑(黒〜青色)がある。 【紅斑】 真皮上層の毛細血管が拡張した病変(硝子圧法により退色)。 丘疹、水疱、膿疱などの発疹の周囲に生じた紅斑を紅暈(こううん)という。広範囲に生じたものを汎発性紅斑という。 【紫斑】 真皮〜皮下組織が出血した状態(硝子圧法により退色しない)。 直径5mm以下の小さなものを点状出血、直径5mm以上のものを斑状出血、非常に大きなものを血腫という。赤血球がマクロファージに貪食されると紫斑は徐々に消退する。点状出血の原因は血小板や血管であるのに対し、斑状出血や血腫の原因は凝固異常である。 頻度:老人性紫斑(最多)>アナフィラクノイド紫斑>ステロイド紫斑。 【白斑、色素斑】 メラニン産生の欠乏した状態を白斑。メラニンの存在するレベルによって皮膚の色に差が生じて黒〜青に見える状態を色素斑という。 |
湿疹 | 表皮の炎症により角化細胞間の浮腫病変。組織学的には急性期に海綿状態がみられる。点状状態、多様性(湿疹三角)、掻痒の3つの特徴を持つ。 |
丘疹 結節 腫瘤 |
【丘疹】 表皮に形成された直径1cm以下の隆起性病変。充実性丘疹、漿液性丘疹(頂点に小水疱を伴う)、臍窩を有する丘疹(頂点に凹面)がある。 【結節】 表皮に形成された直径1〜3cmの隆起性病変 【腫瘤】 表皮に形成された直径3cm以上の隆起性病変 |
水疱 | 表皮や真皮に内容が透見できる水様内容物が貯留した直径0.5cm以上の隆起性病変で、内容物が血液である場合は血疱(けっぽう)という。 表皮内水疱:弛緩性水疱(水疱膜が弛んでいる)、小水疱(直径0.5cm以下)、中央に臍窩を有する水疱(ウイルス性疾患に伴う水疱) 表皮下水疱:緊満性水疱(水疱膜が厚く緊張している) |
膿疱 | 表皮や真皮に膿性の内容物が貯留した隆起性病変。 感染性膿疱:主に細菌感染によって生じ、膿の大半は好中球。 非感染性膿疱:掌蹠膿疱症などの原因で白血球が集簇する無菌性膿疱 |
湿潤 | 炎症や表皮が欠損することにより皮膚表面に浸出液など液性成分が存在する病変 |
痂皮 | 所謂かさぶた。びらんや潰瘍に伴って生じた液体が乾燥して表皮に固まった状態。痂皮ができることを結痂(けつが)といい、血液の場合は特に血痂(けっか)という。 |
苔癬化 | 慢性的な皮膚変化により皮膚が硬く肥厚した病変(Vidal苔癬やアトピー性皮膚炎でといった慢性化した湿疹に多い)。皮溝および皮丘の形成が顕著になる場合がある。 |
膨疹 | 真皮に形成された限局性浮腫。一過性のため消失後には瘢痕を残さない。 |
疱疹 | 小水疱・小膿疱が集簇した状態(ヘルペスや帯状疱疹でよく見られる) |
微小膿瘍 | 表皮に形成された小さな膿瘍 |
膿瘍 | 真皮や皮下に膿(好中球+壊死組織→脂肪変性)が貯留した状態 |
嚢腫 | 真皮に壁を持つ空洞性の腫瘤状病変(粉瘤でよく見られる) |
苔癬 | 同一の小丘疹が集簇・散在しており、他の皮疹に変化しない状態 |
鱗屑 | 肥厚した角層が表皮に蓄積した状態(多数の角質が同時に剥がれ落ちるのは病的)。ふけは頭の鱗屑。鱗屑が剥がれ落ちることを落屑という。鱗屑は小さい順に粃糠様(ひこう)<小葉状<大葉状とよぶ。 |
びらん アフタ 潰瘍 |
【びらん、アフタ】 表皮が剥離し基底層まで欠損した状態で、表皮が再生することにより瘢痕は残さず治癒する。粘膜の炎症に伴う浅いびらんをアフタという。 【潰瘍】 真皮〜皮下組織まで欠損した状態で、肉芽組織を生じて再生し最終的には瘢痕を残して治癒する。性感染症によって生じた潰瘍を下疳(げかん)という。 |
瘢痕 ケロイド |
潰瘍や創傷によって欠損した組織を結合組織が埋め、その上に薄い表皮が形成されてできるもの。瘢痕の特徴は皮野形成がない、皮膚付属器がない、平滑で光沢のある外観などがある。肥厚性の瘢痕をケロイドという。 |
皮膚萎縮 | 皮膚組織が変性した結果、皮膚が薄くなった状態。表面は平滑、陥凹、皺状になる。汗腺機能が低下するため皮膚表面が乾燥します。 |
亀裂 | 角層〜真皮まで到達する細く深い線状の切れ目。疼痛を伴う。 |
胼胝 | 所謂たこ。表皮角層が限局性に増殖肥厚したもの。圧痛はない。 |
鶏眼 | 所謂うおのめ。表皮角層から真皮に向かって円錐状に尖る様に増殖したもの。圧痛あり。 |
面皰 | 毛包を栓塞している皮脂を面皰(めんぽう)という。 |
痤瘡 | 毛包と一致性を示す丘疹、膿疱、面皰が混在している状態で、脂漏部位に好発する。尋常性痤瘡はにきびのこと。 |
母斑 | 色調や形の異常を主体とする限局性皮膚病変で、緩徐に発育する。母斑が皮膚だけでなく他臓器にも生じるものを母斑症という。 |
紅皮症 | 紅斑とは別モノ!全身にびまん性の紅潮を呈する状態で、しばしば鱗屑を伴う。 |
尋常性と名の付く皮膚疾患
尋常性とは、普通にみられ、ありふれているという意味である。
尋常性天疱瘡 | 抗デスモグレイン抗体産生 |
尋常性乾癬 | ターンオーバーの短縮 |
尋常性疣贅(ゆうぜい) | HPV |
尋常性白斑 | 抗メラノサイト抗体産生 |
尋常性魚鱗癬(=さめ肌) | 角層の遺伝子異常 |
尋常性ざ瘡(=にきび) | アクネ菌など |
尋常性狼瘡(ろうそう) | 皮膚結核でみられる |
皮膚の検査
様々な皮膚検査
臨床的意義 | 疾患 | |
Nikolsky現象 | 無疹部に物理的刺激を加えると表皮剥離もしくは水疱が生じる=表皮内病変の存在を示す (ススッとこすると点々の水疱ができる) |
SSSS、尋常性天疱瘡、TEN型薬疹、表皮水疱症 |
ケブネル現象 | 無疹部に物理的刺激を加えると病変部と同様の変化が誘導される(毛深い寛平) | 扁平苔癬、尋常性乾癬、自家感作性皮膚炎 |
Auspitz現象 | 乾癬の鱗屑の擦過により点状出血を生じる(アウ血!乾癬) | 尋常性乾癬のみ! |
Darier徴候 | 肥満細胞症では色素斑部の皮膚を擦過すると同部に掻痒性の膨疹が生じる現象 | 色素性蕁麻疹(肥満細胞症)のみ!(誰の帽子?デブの) |
硝子圧法 | 透明なガラス板で皮疹を圧迫して色調の変化をみる。紅斑は褪色し、紫斑は褪色しない。 | |
皮膚描記法 | 先端の鈍なもので皮膚を擦過すると、蕁麻疹では赤色調の膨疹を生じ、アトピー性皮膚炎では白色調となる。 | 赤色皮膚描記症:蕁麻疹 白色皮膚描記症:アトピー性皮膚炎 |
針反応 | ベーチェット病で皮膚に針を刺すと24〜48時間で、紅斑、丘疹、無菌性膿疱を生じる。 | ベーチェット病 |
Tzanck試験 | 水疱内の細胞をギムザ染色し、天疱瘡では棘融解細胞、単純疱疹や帯状疱疹ではウイルス性巨細胞を検出する検査 | 天疱瘡(尋常性&落葉性) 単純疱疹、水痘・帯状疱疹 |
ダーモスコピー | 10倍程度の拡大鏡で皮膚表面を詳細に観察。悪性黒色腫と良性の色素性病変との鑑別に使用。 | |
皮膚温測定法 | サーモグラフィを用いて末梢循環障害などを調べる。 | 閉塞性動脈硬化症(ASO),DM,Burger病,Raynaud病 |
光線テスト | UVAまたはUVBを短時間照射し、24時間後に紅斑を生じさせる最小光線量(MED)を確認 | 光線過敏症ではMED低下 |
Wood灯検査 | Wood灯は365nmの長波長紫外線で、この光を病変部に照射すると特徴的な色調の蛍光を発する | 黄橙色:癜風 サンゴ赤色:紅色陰癬 紅色:ポルフィリン症 黄緑色:頭部白癬 |
KOH法 | スライドガラス上で検体に水酸化カリウムを加え、角質を融解させて鏡検する。 | 白癬菌、カンジダ、癜風菌などの真菌症、疥癬虫などの虫 |
アレルギー検査
I型 | 血液検査 | RIST | 血清総IgE値 |
RAST | 特異的IgE値 | ||
ヒスタミン遊離試験 | |||
皮膚検査 | プリックテスト (プリッと刺す) |
抗原液を皮膚に1滴垂らし、その部位を針で穿刺し、15分後、紅斑や膨疹の程度により判別する。 | |
スクラッチテスト | プリックテスト陰性の場合に用いられる。抗原液を皮膚に垂らし、その部位を針で引っ掻き、15分後、紅斑や膨疹の程度により判別する。 | ||
皮内テスト | 抗原液を真皮内に注射し、15分後、紅斑や膨疹の程度により判別する。例:ペニシリンテスト | ||
誘発試験 | ー | 食物負荷などによって直接的な抗原刺激を与える。 | |
Ⅱ型 | 血液検査 | Coombsテスト | 【直接】自己の赤血球に対する抗体がある場合、凝集する。AIHAが代表例。 【間接】自己の血清中成分に対する抗体がある場合、凝集する。血液型の判定に使用。 |
Ⅲ型 | 皮膚検査 | Arthus反応 | 抗原を皮内に注射し、3〜8時間後に皮膚を観察する。 |
Ⅳ型 | 血液検査 | 薬剤リンパ球刺激試験(DLST) | 患者血液からTリンパ球と抗原提示細胞を取り出し、抗原(薬剤FF)とともに培養し、増殖を測定する。 |
皮膚検査 | パッチテスト (貼付試験) |
抗原を直接皮膚に貼付し、48時間後の皮膚変化をみる検査法。被疑物質の希釈系列を作り、濃度に関係なく陽性の場合をアレルギー性、一定濃度以上のみの場合を一次性とする。接触性皮膚炎・薬疹の原因検索に使われる。 | |
ツベルクリン反応 | 抗原液を真皮内に注射し、24〜48時間後に皮膚変化をみる検査法。 |
特殊な治療法
詳細 | 適応疾患 | |
PUVA療法 | 光感作物質であるP(ソラレン)を内服 or 外用後にUVA(長波紫外線)を照射する。眼の保護が必要。 | 乾癬、類乾癬、アトピー性皮膚炎、尋常性白斑、掌蹠膿疱症、菌状息肉症、円形脱毛症 |
ナローバンドUVB療法 | 311nmに鋭いピークを持つUVBによる光線療法 | 乾癬など |
レーザー療法 | ルビーレーザー:メラニンに選択的に吸収される。 ダイレーザー:Hbに選択的に吸収される。 |
太田母斑などの色素性病変 血管腫 |
凍結療法 | 液体窒素などを用いて低温で細胞を凍結させる | ウイルス性疣贅など |
温熱療法 | カイロ、湯などにより病変部を加温する(高温で発育できない) | スポロトリコーシス 非結核性抗酸菌症 |
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