消化器各論(小腸・大腸・肛門)

消化器科
  1. 急性虫垂炎(アッペ) Acute appendicitis
  2. 炎症性腸疾患
    1. Crohn病:CD、潰瘍性大腸炎:UC
    2. 短腸症候群
  3. 腸結核
  4. 薬剤性腸炎
    1. 偽膜性腸炎 Pseudomembranous enteritis
    2. 急性出血性腸炎 Antibiotic-associated hemorrhagic colitis
    3. MRSA腸炎 MRSA enteritis
  5. 大腸ポリープ(消化管ポリポーシス)
    1. 家族性腺腫性ポリポーシス FAP:Familial adenomatous polyposis 
    2. ポイツ・ジェガース症候群 Peutz-Jeghers syndrome
  6. 消化管神経内分泌腫瘍(消化管カルチノイド)
  7. 大腸癌 Colon cancer
    1. 結腸癌
    2. 肛門癌
    3. Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌:HNPCC)
  8. 小児腹部腫瘍
  9. 吸収不良症候群 MAS:Malabsorption syndrome
  10. 蛋白漏出性胃腸症
  11. 小児消化管疾患
    1. 【小】先天性十二指腸閉鎖症
    2. 【小】Hirschsprung病(先天性巨大結腸症)
    3. 【小】新生児壊死性腸炎
    4. 【小】鎖肛
  12. 乳糖不耐症
  13. 過敏性腸症候群 IBS:Irritable bowel syndrome
  14. 虚血性腸疾患
    1. 虚血性大腸炎 ischemic colitis
    2. 急性腸間膜動脈閉塞症 Acute mesenteric artery occlusion
    3. 非閉塞性腸管虚血症 NOMI:Nonocclusive mesenteric ischemia
  15. 腸閉塞・イレウス
    1. 腸閉塞
    2. 上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)
    3. 【小】腸重積症(インバギ)
    4. 【小】腸回転異常症・中腸軸捻転
    5. 結腸軸捻転症
    6. 麻痺性イレウス
  16. 下部消化管穿孔(大腸穿孔) Large bowel perforation
  17. 肛門疾患
    1. 痔核 Hemorrhoids
    2. 裂肛(切れ痔) Anal fissure
    3. 肛門周囲膿瘍・痔瘻 Perianal abscess, anal fistula
    4. 直腸脱 Rectal prolapse

急性虫垂炎(アッペ) Acute appendicitis

疫学 幅広い年齢に発症するが、特に10〜20歳代に好発。急性腹症の中で最多。
病態 糞石、食物残渣、リンパ組織腫大、腫瘍などで虫垂内腔が閉塞し、二次的に細菌感染が加わることで発症する虫垂の急性炎症疾患。 ※乳幼児、妊婦、高齢者では症状が典型的でないことがあるため、診断の遅れから穿孔に至る場合も少なくないため注意。
【小児急性虫垂炎の特徴】
①乳児にはまれ、②幼児期以降に多い、③高熱を出すことがある、④穿孔例が多い
症状 【①臓側腹膜の炎症】
漠然とした心窩部痛・臍周囲痛(内臓痛)、悪心嘔吐、食欲不振から始まる。虫垂炎からの求心性知覚神経が胃の後方にある腹腔神経叢(太陽神経叢)を通過するため。
↓ 疼痛部位の移動
【②壁側腹膜に波及】
右下腹部に限局する鋭い持続性疼痛(体性痛):症状が進行すると腹膜刺激症状を呈して 反跳痛(Blumberg徴候)、筋性防御が生じる。 炎症に伴い消化管の運動が低下し、腸雑音が低下して便秘となる。
【合併症】 盲腸周囲膿瘍、横隔膜下膿瘍、Douglas窩膿瘍
検査 【虫垂炎に特異的所見】
①Rosenstein徴候:McBurney点の圧迫時、左側臥位になると重力で虫垂で伸展し圧痛が増強する
②Rovsing徴候:仰臥位で下行結腸を下から上に圧迫すると、ガスが回盲部に移動して右下腹部痛が増強する
【腹膜刺激症状所見(腹腔内炎症が虫垂壁を超え壁側腹膜に及んだ所見)】
Blumberg徴候:腹壁をゆっくりと深く圧迫し突如手を離すと疼痛が増強する現象(反跳痛)。腹腔内炎症が壁側腹膜に及んだことを示す重要な所見。
②筋性防御:腹壁が著しく緊張し、硬く触れる現象。心理的な理由でしばしば偽陽性となるが、高度な腹膜炎では板状硬(不随意的な筋収縮)となり、陽性尤度比が高い徴候となる。
③Markle徴候(踵落とし試験):つま先立ちをした後、踵を床に勢いをつけて落とすと痛みが出現する現象。
【腹診で見られる圧痛点(初期でも認める)】
Lanz点(虫垂先端部):左右上前腸骨棘を結ぶ右側1/3の圧痛点
McBurney点(虫垂根部):右上前腸骨棘と臍を結ぶ線の側1/3の圧痛点
【血液検査】
WBC↑(桿状核10%以上で核の左方移動を伴い急性感染症状態)
腹部CT:虫垂の腫大、嵌頓した糞石、周囲の滲出液を確認
治療 軽症の場合は保存的治療:抗菌薬+絶食
保存的治療で改善ない場合は外科的治療:虫垂切除術
穿孔性腹膜炎の併発があればドレナージ
妊婦の場合:開腹手術(穿孔が起こりやすく腹膜炎に進展しやすいため)

炎症性腸疾患

Crohn病:CD、潰瘍性大腸炎:UC

  CD:Crohn disease UC:Ulcerative colitis
疫学 10〜30歳代に好発 10〜30歳代に好発
病態 肛門〜口までの全消化管に生じる原因不明の慢性肉芽腫性炎症性疾患 直腸から連続性びまん性に炎症が広がる原因不明の慢性炎症性疾患、癌化する
好発部位 全消化管(特に回盲部に好発) 全大腸(直腸は必発
病変の分布 非連続性(区域性)・消化管壁全層 連続性(直腸→口側)・大腸粘膜下層内
喫煙 リスク↑ リスク↓
症状 ①下痢 (血便は少ない)
②腹痛(特に右下腹部)
③発熱 
肛門病変痔瘻、肛門周囲膿瘍
腸管の瘻孔・狭窄・穿孔 (=全層)
⑥アフタ性口内炎 
①反復性の下痢粘血便(重症度判定)
②腹痛 、しぶり腹
③発熱(重症度判定)
中毒性巨大結腸症(横行結腸中央部の直径が6cm以上に拡張したもの)
長期経過で大腸癌(特に慢性持続型、全大腸型、若年発症型に好発)
⑦ステロイド抵抗性の場合、C.ディフィシルの偽膜性腸炎やCMV腸炎の可能性
合併症 【腸管外合併症】
①VB12吸収障害 :回盲部病変
②胆汁酸吸収障害 :回盲部病変
③蛋白吸収障害により低蛋白血症
関節炎(強直性脊椎炎、仙腸関節炎)
SCAGF:スカトロガールフレンド(skip lesion、cobblestone、All全層、瘻孔)
【腸管外合併症】
①肝・胆・膵臓系:原発性硬化性胆管炎
②筋・骨格・関節系:多発性関節炎など
③皮膚:結節性紅斑 壊疽性膿皮症
④眼:ぶどう膜炎など
⑤泌尿器:尿路結石症
⑥血管・心肺系:DVT、血栓性静脈炎
血液検査 WBC↑CRP↑赤沈↑、貧血所見・低蛋白血症(慢性下痢による低栄養) WBC↑CRP↑赤沈↑、貧血所見・低蛋白血症(慢性下痢による低栄養)
内視鏡
消化管造影
全消化管にわたる非連続性、区域性(skip lesion)+縦走潰瘍
敷石像:粘膜浮腫による隆起(cobblestone appearance)
腸管狭窄:再燃と寛解の反復
びまん性連続性に、発赤、びらん・潰瘍、血管透見像の消失
ハウストラが炎症で消失(鉛管像)
偽ポリポーシス(潰瘍が多く、残った正常粘膜がポリープにみえる)
生検 全層性の炎症
非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
陰窩膿瘍
・杯細胞の減少
治療 【栄養療法】
経腸栄養:成分栄養剤
経口不可:完全静脈栄養
【薬物療法】
①5-ASA製剤(第一選択)
改善がない場合は、ステロイド、免疫調節薬(アザチオプリン、6-MP)、生物学的製剤(抗TNF-α抗体のインフリキシマブ)、顆粒球吸着療法
【手術】
大腸出血・狭窄・穿孔を来したもの
【栄養療法】
CV栄養+絶飲食(腸管を休ませる)
【薬物療法】
①5-ASA製剤(第一選択)
改善がない場合は、ステロイド、免疫抑制薬(タクロリムス)、JAK阻害剤、血球(顆粒球・白血球)除去療法、生物学的製剤(抗TNF-α抗体)
【手術】
大腸出血・狭窄・穿孔を来したもの、改善しない中毒性巨大結腸症、癌化例などは大腸全摘+回腸肛門吻合術
予後 再燃と寛解 再燃と寛解、長期経過で癌化

短腸症候群

病態 Crohn病などに対して行われる小腸の広範囲切除(50~60%以上)により消化吸収不良を引き起こす病態。成人例では残存小腸(十二指腸を除く)≦150cmと定義される。長期絶食による消化管粘膜の萎縮、胃液分泌亢進、蠕動運動亢進、bacterial overgrowthなどが発症に関与する。
症状 頻回の下痢、脱水、電解質異常、ビタミンB12低下など
検査  
治療 経口栄養のみでは不十分であり、適応があれば経腸栄養、それでも不十分であれば中心静脈栄養を行う(長期間実施する必要あり)。在宅での経腸栄養・中心静脈栄養療法が保険適用となっており、QOL向上につながっている。

腸結核

グラム染色できない菌の結核菌を参照

薬剤性腸炎

【分類】

原因薬剤 起因する腸炎
抗菌薬
(最多)
①偽膜性腸炎
②出血性腸炎
③MRSA腸炎
NSAIDs
抗癌剤 偽膜性腸炎など

偽膜性腸炎 Pseudomembranous enteritis

グラム陽性桿菌のクロストリジウム・ディフィシル菌を参照

急性出血性腸炎 Antibiotic-associated hemorrhagic colitis

疫学 比較的健康な若年者に好発
病態 合成ペニシリン系投与(約80%)後にクレブシエラ・オキシトーカ大腸菌などが増殖し、何らかの理由によって腸管粘膜を傷害する疾患。
出血性腸炎における出血は、単一血管からの出血ではなく炎症部からのびまん性のにじみ出すような出血(塞栓術は無効)。
症状 抗菌薬内服1〜7日後、
突然の腹痛・水様性 or 血性下痢
検査 【画像検査】
内視鏡:横行結腸より口側の粘膜に発赤・びらん・出血を確認。
治療 原因薬剤を中止すると速やかに改善する。

MRSA腸炎 MRSA enteritis

グラム陽性球菌の黄色ブドウ球菌を参照

大腸ポリープ(消化管ポリポーシス)

病態 大腸粘膜から内腔に突出する隆起性病変の総称を大腸ポリープといい、ポリープが100個以上存在する状態はポリポーシスという。無茎性ポリープがほとんど。食生活の欧米化に伴い増加傾向。
①腫瘍性(癌化リスク高い
腺腫性ポリープ(80%で最多):家族性腺腫性ポリポーシスGardner症候群(常・優)Turcot症候群(常・劣)
【腺腫性ポリープの組織学的分類】
癌化リスク 絨毛腺腫(稀)>腺管絨毛腺腫(約20%)>腺管腺腫(約80%)
ポリープ径が大きいほど癌化リスクが増加する(径2cm以上が目安)
②非腫瘍性(癌化リスク低い)
過誤腫性ポリープPeutz-Jeghers症候群、若年性ポリポーシス
・過形成性ポリープ: Cronkhite-Canada症候群
・炎症性ポリープ: 潰瘍性大腸炎でみられる偽ポリポーシス
症状 無症状のことが多く、便潜血陽性を指摘されて検査することが多い。
ポリープが破裂すると下血がみられる。
検査 内視鏡:S状結腸(20%)~直腸(50%)に好発
生検:確定診断
治療 原則、内視鏡的に切除

家族性腺腫性ポリポーシス FAP:Familial adenomatous polyposis 

疫学 20歳頃までにポリポーシスに至る
病態 がん抑制遺伝子であるAPC遺伝子の機能失活により引き起こされる常染色体優性遺伝(70%)で、大腸全域に多数の腺腫性ポリープが発生する疾患。若年性にポリープが多発し、放置すれば60歳までに100%癌化する。
消化管以外に骨腫瘍、軟部腫瘍を生じるもの:Gardner症候群
消化管以外に中枢神経系腫瘍を合併するもの:Turcot症候群TyuすうのT
症状 10歳代前半までは無症状のことが多い。
20〜30歳になると血便、下血、下痢、腹痛を呈する。
検査 【画像検査】
内視鏡・消化管造影:大腸に無数のポリープ
【生検】
ポリープは腺腫
治療 癌化予防30歳までに予防的大腸全摘+再建

ポイツ・ジェガース症候群 Peutz-Jeghers syndrome

病態 皮膚・粘膜にメラニンの色素沈着を伴う過誤腫性ポリポーシスを認める常染色体優性遺伝の疾患で(籠にポイッ)、FAPに次いで2番目に多い消化管ポリポーシスだが、稀な疾患。
症状 口唇口腔内・手足の色素沈着
②食道を除く全消化管(特に小腸)に多発するポリープ
※ポリープ自体は癌化するリスクは低いが、性腺、消化器などの癌化率は高い!
③血便
【合併症】
腸重積を合併しやすい
検査 内視鏡:小腸などに多発するポリープ
治療 内視鏡的にポリペクトミー、腸重積の場合は外科的手術

消化管神経内分泌腫瘍(消化管カルチノイド)

病態 神経内分泌細胞由来の粘膜下腫瘍で、組織学的に低異形度を示し、セロトニンなどの生理活性物質を分泌する(=カルチノイド)。消化管(約70%:直腸>十二指腸)、肺・気管支に発生する。
症状 基本、無症状
肝転移した場合はカルチノイド症候群:神経内分泌腫瘍(NET)から分泌されたセロトニンなどが肝機能低下により代謝されず、3徴①喘息様症状・②水様性下痢・腹痛・③皮膚紅潮(セロトニンが全身の平滑筋を収縮)+④右心不全(P弁やT弁が線維化してTR・PS。セロトニンは肺でトラップされるため左心系の弁は問題ない)を呈する。
検査 【血液検査】セロトニン↑
【尿検査】尿中5-HIAA↑(セロトニン代謝物)
【画像検査】
内視鏡:辺縁平滑な隆起性病変、奥歯のような粘膜下腫瘍様形態、黄色調に透見される(中心陥凹を伴うこともある)
【生検】
索状配列、ロゼット様配列(バラの花が咲いた様)、好銀性染色(+)
治療 腫瘍に対してEMRまたは外科的切除、切除不能例は化学療法
カルチノイド症候群に対してはソマトスタチンアナログ投与

大腸癌 Colon cancer

結腸癌

疫学 50〜70歳代に好発
リスク因子:喫煙飲酒、高脂肪・高蛋白・低繊維食(悪玉の腸内細菌が発がん物質を産生しやすくなると考えられている)、遺伝(KRAS変異など)、肥満、運動不足など
病態 大腸粘膜に発生する悪性腫瘍で、FAP潰瘍性大腸炎などを得て発生する場合と、正常粘膜から直接発生する場合がある。組織型は腺癌で、ほとんどが中~高分化型であるため手術で切除しやすい特徴がある。直腸、S状結腸に好発する。
大腸癌の病期は,壁深達度,リンパ節転移,肝転移,腹膜転移,肝以外の遠隔転移(肺転移など)によって規定される。
<壁深達度分類 :リンパ節転移の有無は問わない >
早期癌:粘膜下層まで
進行癌:固有筋層に達したもの
<肉眼型分類:内視鏡で見た時の形>
早期癌:0型(表在型)は隆起型(最多)と表面型に分類される
進行癌:1型(腫瘤型)、2型( 周提を持つ潰瘍限局型、最多)、3型(周提が崩壊した潰瘍浸潤型)、4型(びまん浸潤型)、5型(分類不能)
<転移>
・血行性転移:(門脈経由)>(総腸骨V→下大V経由)の順に多い
・リンパ節転移:腸間膜リンパ節、鼠径・腸骨リンパ節が多い
症状 早期:無症状、検診で便潜血(+)で見つかることが多い。
進行:血便便柱狭小、排便習慣の変化、下痢と便秘を繰り返す、腹痛、腸閉塞症状(排ガス消失)
検査 【身体検査】
触診:腹部腫瘤(下行結腸~直腸は便が固形であるため、癌があると早期に触知できる)
直腸指診:便潜血陽性の場合に行い、直腸癌の約2/3で腫瘤触知する
【早期発見のスクリーニング検査】便検査:免疫学的便潜血陽性(2回実施)
【画像検査】
内視鏡:易出血性の隆起性病変(+)
注腸造影:Apple core sign、不整な陰影欠損を確認
エコー、造影CT、MRI:転移の検索、肝転移の場合は造影CTで多発性の低吸収域あり
【血液検査】
腫瘍マーカー:CEA、CA19-9は術後再発や転移を評価
治療 <切除可能>
粘膜下層まで且つリンパ節転移なし:内視鏡的ポリペクトミー、EMR、ESD
転移なし:外科的に腸管切除+リンパ節郭清
転移あり:外科的に腸管切除+リンパ節郭清+転移巣切除(大腸がんは高分化型のため肝転移、肺転移などは切除可能)
<切除不能>
化学療法
【結腸癌の手術法】
結腸切除術
【直腸癌の手術法】→吻合線の位置で決まる!
Rs癌(直腸S状部:S1の岬角~S2下縁)→高位前方切除術
Ra癌(上部直腸:S3上縁~S4下縁の腹膜反転部)→低位前方切除術
Rb癌(下部直腸:S4下縁~直腸筋上縁)→腹会陰式直腸切除術人工肛門(Miles手術)

肛門癌

病態 肛門管およびその周囲組織に発生する悪性腫瘍(腺癌>扁平上皮癌)
鼠径リンパ節に転移を起こしやすく、予後不良である。
症状 肛門部の持続性疼痛、出血
痔瘻を合併することがある
検査
治療 直腸切除術(Miles手術)+鼠径リンパ節郭清

Lynch症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌:HNPCC)

疫学 50歳以下の若年者に発症、全大腸癌の0.2~4%
病態 DNAミスマッチ修復遺伝子の異常によって、若年性にポリポーシスを伴わない常染色体優性遺伝のの大腸癌。大腸以外にも多臓器癌を発症するが、同年代の散発性大腸癌より予後良好。右側結腸に高頻度に発生。
症状 大腸癌に準ずる。
検査 大腸癌に準ずる。
治療 大腸癌に準ずる。

小児腹部腫瘍

  神経芽腫 肝芽腫 腎芽腫(Wilms腫瘍)
予後 1歳未満発症は良好
MYCN遺伝子増幅は不良
良好 良好(腫瘍に被膜があるため)
好発 5歳以下 3歳以下 5歳以下
マーカー 尿中VMA↑血清NSE↑ 血清AFP↑ 特になし
転移 骨、眼窩、骨髄、肝 肺、肝
その他 石灰化・出血しやすい
高血圧はきたしにくい
肝機能障害は少ない
LDH↑
血尿きたしやすい
WT1/2変異が多い

吸収不良症候群 MAS:Malabsorption syndrome

病態 腸管からの栄養素の吸収不良によって惹起される疾患の総称。
<原因疾患>
アミロイドーシス、盲管症候群、Crohn病、全身性強皮症、悪性リンパ腫、カルチノイド症候群、SLE、肝硬変、胃・小腸切除後など
【盲管症候群(blind loop症候群)】
腸管内容物が盲管に異常停滞し、腸内細菌叢がそこで増殖して引き起こされる吸収不良症候群の一つ。BillrothⅡ再建法で生じたものを輸入脚症候群という。
症状 ①貧血:ビタミンB12・鉄吸収障害
②浮腫:低アルブミン血症
③下痢:吸収障害による浸透圧性下痢、腹部膨満感、脂肪便(低Chol血症)
④Ca吸収障害:テタニー、骨痛(骨軟化症)
④皮下出血:ビタミンK吸収障害による
検査
治療

蛋白漏出性胃腸症

病態 消化管粘膜から管腔に蛋白質(主にアルブミン)が漏出し、低蛋白血症を伴う病態。吸収不良症候群とオーバーラップが多い。
<原因>
①粘膜の蛋白透過性亢進
メニエール病、腸管内細菌増殖、SLE、アミロイドーシス、Budd-Chiari症候群、Cronkhite-Canada症候群
②潰瘍や炎症局面の存在
非特異的小腸潰瘍、癌、種々の腸炎(偽膜性腸炎、Crohn病、潰瘍性大腸炎など)
③消化管のうっ血、リンパ流のうっ滞
収縮性心膜炎、うっ血性心不全、肝硬変、腸リンパ管拡張症、悪性リンパ腫など
症状 ①浮腫(主症状)
②腹水・胸水
③テタニー
検査 【α1アンチトリプシン消化管クリアランス試験】
糞便中の蛋白排出量↑によりα1アンチトリプシン消化管クリアランス↑
治療

小児消化管疾患

【小】先天性十二指腸閉鎖症

病態 胎生早期の発生異常により十二指腸が閉塞・狭窄する病態。
胎生期では羊水過多の原因となる。低出生体重児の頻度が高い。
Down症候群、輪状膵、心奇形、鎖肛を合併する場合もある。
症状 生後1〜2日後、
反復する胆汁性嘔吐:Vater乳頭以下の閉塞
②胎便排泄遅延:24時間以上胎便排泄がない
検査 【画像検査】
X線:double bubble sign(multiple bubble signは先天性小腸閉鎖症)
治療 嘔吐予防・腸穿孔予防:経鼻胃管を挿入し胃・十二指腸の減圧をはかる
根治手術:十二指腸・十二指腸吻合術(ダイヤモンド手術)

【小】Hirschsprung病(先天性巨大結腸症)

疫学 男児に多い
病態 主に直腸~S状結腸までのAuerbach神経叢・Meissner神経叢の先天的欠損により病変部の狭小化・口側腸管の拡張による腸管口径差(caliber change)をきたす疾患。
症状 出生後より、
①機能的イレウス症状:腹部膨満胆汁性嘔吐、胎便排泄遅延
→放置すれば腸管壊死・穿孔を生じ、敗血症に移行する
検査 【画像検査】
①X線:腸管拡張像・腸管ガス像
注腸造影肛門から病変部まで連続する狭小化(microcolon)・口側の巨大結腸
直腸肛門内圧検査:直腸をバルーン拡張で伸展刺激しても直腸肛門反射(ー)
【直腸粘膜生検】
壁内神経節細胞の欠損、外来神経線維の増生
治療 3ヶ月以降に正常腸管を肛門に吻合

【小】新生児壊死性腸炎

疫学 低出生体重児・人工栄養児に多い
病態 未熟な腸管に循環不全などの負荷が加わり、粘膜の防御機構が破綻して発症する。腸管壊死により敗血症性ショックやDICをきたし、予後不良である。
要因は腸管虚血・感染・人工乳・薬物などがある。
症状 生後2〜3週後に、
①突然の腹部膨満、嘔吐、無呼吸発作
進行と共に胆汁性嘔吐、下血、ショックなど
検査 【画像検査】
X線:腸管壁内気腫像、門脈内気腫像
治療 病期Ⅰ〜Ⅱ:授乳中止、輸液、抗菌薬投与など
病期Ⅲ:腸管穿孔・腹膜炎に至った場合は開腹手術

【小】鎖肛

疫学 消化管の先天奇形で最多、男児に多い、Down症に合併しやすい
病態 胎生4〜12週の発生異常により肛門・直腸の内腔に閉鎖をきたす疾患。
直腸の盲端の位置に瘻孔を作る(出生後12時間以降に立位X線で閉鎖部位確認)
①高位型:直腸膀胱瘻(膀胱に直腸盲端の瘻孔が開口し、尿に弁が混ざる
②中間位型:直腸尿道球部瘻(尿道に直腸盲端の瘻孔が開口、尿に弁が混ざる
③低位型:皮膚瘻
症状 出生後より、
胎便排泄なし、腹部膨満、嘔吐など
検査 視診により診断
治療 低位型:会陰式肛門形成術(有瘻にはブジーによる肛門拡張術)
中間位型・高位型:まず人工肛門造設し、3ヶ月以降に直腸肛門形成術を実施

乳糖不耐症

疫学 加齢とともに増加
病態 ラクターゼの酵素活性低下もしくは欠損により腸管内浸透圧が上昇する病態。
症状 浸透圧性下痢(酸臭あり)、腹痛、腹部膨満感
検査
治療 無乳糖食。軽症であれば、乳糖分解酵素薬(β-ガラクトシダーゼ)を内服。

過敏性腸症候群 IBS:Irritable bowel syndrome

疫学 思春期・中年女性・30歳代男性に多い
病態 便通異常と腹痛を繰り返し、排便で腹痛が軽快する機能性疾患。原因は心理的要因である。
機能性ディスペプシアや胃食道逆流症など他の消化器疾患との合併が多い。
症状 ①繰り返す腹痛が最近3ヵ月以内に平均して1週間のうち少なくとも1日ある(必須)
②排便することにより症状が軽快
③発症時に排便回数の変化がある
④発症時に便形状(外観)の変化がある:水様性下痢、兎糞様便の便秘など
⑤その他:腹鳴、腸管ガス過多、腹部不快感
※発熱、粘血便、体重減少など警告症状はない!
検査 内視鏡や血液検査で問題なし。X線で腸管ガス貯留を認めることある。
治療 患者の不安を取り除いた上で、暴飲暴食の是正などの生活指導
薬物療法:ポリカルボフィルカルシウム、消化管運動調節薬
その他の治療:プロバイオティクス、食物繊維の摂取

虚血性腸疾患

腸間膜血管の血流障害による疾患の総称。

虚血性大腸炎
急性腸間膜動脈閉塞症
急性腸間膜静脈血栓症
非閉塞性腸管虚血(NOMI)
腹部アンギーナ(慢性腸間膜虚血)

虚血性大腸炎 ischemic colitis

疫学 高齢者に好発(若年者も増加中)
リスク因子:動脈硬化、便秘
病態 大腸の細小血管の閉塞により粘膜の一過性の虚血が生じ、浮腫、びらん・潰瘍、出血をきたす疾患。また、抗菌薬未使用、便培養陰性であることは必須。
虚血の原因:①動脈硬化(糖尿病、高血圧、AFなど)、②腸管の内圧上昇便秘の既往)
【重症度による分類】
軽症の一過性型(大部分):粘膜下層までの可逆的な障害
狭窄型:腸管の狭窄をきたす
壊疽型:腸管壁の全層性壊死
症状 ①突然の腹痛:左側結腸が多い(下腸間膜Aは末梢での吻合枝が少ないため)
②水様性下痢→徐々に血性下痢(新鮮血が多い)
検査 【血液検査】
WBC↑赤沈↑CRP↑
【画像検査】
腹部エコー:ベンツマークの腸管壁の肥厚・浮腫
腹部CT:腸管壁の肥厚・浮腫
内視鏡:結腸ヒモに沿った縦走潰瘍、粘膜の浮腫・発赤、びらん、粘膜下出血
注腸造影:母指圧痕像(外側から親指で押したように腸管内腔が狭く映る)、縦走潰瘍
治療 一過性型:絶食・補液によって1〜2週間腸管を休ませる
狭窄型:炎症が数週から数ヵ月間と長引き、狭窄すれば手術
壊死型:緊急で広範囲の腸管切除、穿孔を伴うこともある

急性腸間膜動脈閉塞症 Acute mesenteric artery occlusion

病態 主にSMAの急性閉塞が起こり広範な腸管の壊死を引き起こす疾患。障害部位は空腸>回腸>上行結腸の順に多い。虚血の原因は、主に動脈硬化や心原性血栓(心房細動など)など
症状 初期:突然の持続性腹痛(血管系が原因の腹痛は腹部軟らかい)、悪心嘔吐、下血
進行:腹膜刺激症状(Blumberg徴候)を呈する腹膜炎、麻痺性イレウス症状、ショック
検査 【血液検査】
WBC↑、CK↑・LDH↑、アシドーシス(ショックによる乳酸蓄積)
【画像検査】
X線:niveauを伴う麻痺性イレウス像
造影CT、血管造影:SMAの造影欠損、進行すると腸管内ガスによる腸管拡張+含気によるniveau、腸管壁の造影不良+壁内気腫(壊死所見)
※腸管穿孔の危険性があるため注腸造影は禁忌!
治療 緊急開腹手術:壊死腸管の切除
カテーテル治療:早期診断で虚血腸管が壊死に陥っていない場合(発症後10時間以内)

非閉塞性腸管虚血症 NOMI:Nonocclusive mesenteric ischemia

病態 腸間膜血管主幹部に器質的な閉塞がないにもかかわらず、血管攣縮によって分節性・非連続性に腸管虚血をきたす疾患。致死率が高く予後不良。
原因は心不全、ショック、脱水、薬剤による循環不全で生じる血管攣縮と考えられている。
症状
検査 造影CT、血管造影:SMAの分岐部狭窄や不整像(string-of-sausage sign)、腸管壁内血管の造影不良など
治療 循環不全状態の改善、経カテーテル的血管拡張薬投与(血管攣縮を解除する)

腸閉塞・イレウス

【腸管閉塞の原因】

腸閉塞
(約90%)
腸管内腔が物理的に閉塞されて起こる
①単純性腸閉塞:腸管に血行不全のないもの
②複雑性腸閉塞:腸管に血行不全があり腸管壊死に至ったもの
イレウス
(約10%)
腸管の蠕動運動が低下し、腸管内容が停滞する
①麻痺性イレウス:腸管が運動麻痺したもの
②痙攣性イレウス:腸管が痙攣性に収縮したもの(稀)
禁忌 下剤:腸管内浸透圧や水分量を大きく変動して症状悪化させるため
②バリウム内服:腸管内圧を高めて症状悪化させるため
③上部消化管内視鏡:腸管内圧を高めて症状悪化させるため

腸閉塞

病態 腸内容物の肛門側への輸送が障害された状態。腸管内圧の上昇による粘膜浮腫、血流障害、血管透過性亢進や、粘膜バリア機能障害により全身性の炎症をきたし、ショック、DIC、MODSなどへ移行しうる。2〜3日以内に繊維の多い食事を摂ると誘発されやすい。
腹部手術歴のない場合、絞扼性腸閉塞の可能性が高い。
【原因】
単純性:術後癒着(約60%)、腫瘍(主に大腸癌)、異物、SMA症候群など
複雑性:ヘルニア嵌頓(約10%)軸捻転症(特にS状結腸)、腸重積症など、
【危険度】
青信号:腸管拡張、caliber change、small bowel feces sign、whirl sign
黄信号:腹水貯留、beak sign、closed loop
赤信号:腸管浮腫、腸管壁肥厚、造影不良、腸管壁ガス、後腹膜ガス
症状 ①腹痛:間欠的腹痛は10〜数十分間隔が一般的
悪心嘔吐:肛門側から排出できないため口から出る(誤嚥性肺炎をきたしうる)
排便、排ガスの停止:発症12〜24時間後から出現
腹部膨満感:打診で閉塞部より口側腸管の鼓音
⑤脱水症状(頻脈、口腔粘膜・腋窩の乾燥、起立性低血圧):嘔吐による水分喪失+腸管閉塞部位以下の水分吸収不全
検査 【身体検査】
視診:手術痕の有無、鼠径などヘニルアの有無
聴診:腸雑音亢進による金属音(高い音)
振水音:心窩部に聴診器をあてて腹部を揺り動かした際に音が発生する
触診:拡張腸管に一致した圧痛、腹膜刺激症状、絞扼部が局所的な鼓腸を示し、これを主流として触れる(Wahl徴候)
【画像検査】
腹部エコー:to and fro(内容物の往復、腸管径不変)、keyboard sign
腹部X線(立位、無理なら左側臥位)niveau形成、拡張した腸管のガス像(小腸閉塞はKerckring襞出現、大腸閉塞はハウストラを伴う腸管ガス像が見られる)→絞扼性ではガス像を認めない場合がある
腹部造影CT:腸管拡張(小腸3-5cm以上、右結腸8cm以上、左結腸5cm以上が目安)、拡張腸管が虚脱する境(caliber change)、腸間膜が渦巻いている(whirl sign)、small bowel feces sign(狭窄部位付近で見られる小腸内糞便)
大腸内視鏡:大腸癌による狭窄部位を観察+生検
【血液検査】
WBC↑、体液喪失によるHt↑BUN↑電解質異常、ショックや腸管虚血で乳酸↑(早期や捻転では上昇しない)
治療 【保存的治療】
絶飲食:腹圧増加抑制
②胃管の挿入:腸管内の減圧(1〜2日で改善なければイレウス管挿入→造影)
③大量の輸液:電解質補正、脱水症状緩和(入院後は尿量測定する
④抗菌薬(重症):粘膜の脆弱化による菌血症(bacterial translocation)の予防
⑤腹痛に鎮痛薬:アセリオ点滴、ペンタゾシン15mg+生食50mLを30分で点滴
【手術】
保存的治療で改善しない、再燃を繰り返す、複雑性の場合
大腸癌による閉塞では消化管ステント、人工肛門造設も検討
高圧浣腸を使用して腸管運動を亢進させることは禁忌

【単純性と複雑性の違い】

  単純性(閉塞性) 複雑性(絞扼性)
病態 腸間膜の血行障害なし 腸間膜の血行障害あり
発症形式 緩慢 急激
症状 間欠的腹痛(蠕動運動に合わせて痛む) 持続的腹痛
腹部所見 腹部膨満、腸雑音亢進 腸雑音低下、腹膜刺激症状、Wahl徴候
治療 主に保存的治療(絶食補液、胃管挿入) 緊急手術

上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)

疫学 やせた女性に好発
病態 SMAの分岐角度が急峻となることにより、十二指腸水平脚がSMAと大動脈または脊椎に挟まれて圧迫され、通過障害をきたす疾患。
※左腎動脈が閉塞する疾患はナットクラッカー症候群なので混同しないように!
症状 ①食後に一過性の悪心・胆汁性嘔吐、腹痛
仰臥位で悪化、伏臥位・左側臥位で症状軽減(大動脈とSMAの角度が大きくなるため)
検査 【画像検査】
腹部CT:十二指腸水平脚がSMAと大動脈に挟まれ、狭窄部より口側が著明に拡張
上部消化管造影:水平脚が正中で中断し、その口側が著明に拡張した十二指腸像
治療 基本的には経過観察・対症療法(輸液など)

【小】腸重積症(インバギ)

疫学 ほとんどが2歳未満で発症、男児に多い(2:1)
病態 腸管の肛門側に、口側の腸管が腸管蠕動により陥入して生じる腸閉塞の一型。その結果、腸管及び腸間膜血管が嵌入部で絞扼され、絞扼性腸閉塞をきたす。
小児の90%以上は特発性で、回腸末端が盲腸から上行結腸に入りこむことが多い。
成人の約70%は大腸癌などの隆起性病変が原因となることが多い。
症状 乳幼児期(半年〜6歳未満)に、
間欠性腹痛:疝痛性腹痛発作による間欠性の啼泣
発作性胆汁性嘔吐:初期には反射性嘔吐で進行すると胆汁性となる
イチゴゼリー様粘血便:発症から時間が経つと徐々に血便が確認できる
※急性ウイルス性腸炎が先行していることが多い(嘔吐・下痢を見たら腸重積を疑う!)
検査 ①血便が確認できてなければ、まずグリセリン浣腸を行い血便を確認
②触診で右上腹部の横行結腸部にソーセージ様の有痛性可動性腫瘤右下腹部は空虚となる(Dance徴候)。右下腹部の腸雑音が消失する。
③エコー・CTで横断面target sign、縦断面がpseudokidney sign(長軸方向の断層像で外筒と内筒がサンドイッチのようにみられる所見)
④バリウム注腸造影で病変部にカニの爪様の陰影欠損(確定診断)
治療 【発作24時間以内】
非観血的整復術:高圧浣腸による注腸造影と空気による整復法
【発作24時間以上】
腸管壊死が疑われる・全身状態不良(ショック症状、腹膜炎)・発症から1日以上経過している場合:高圧浣腸や注腸造影は禁忌!
緊急開腹術:Hutchinson手技(開腹し、肛門側腸管から口側腸管を押し出す)

【小】腸回転異常症・中腸軸捻転

疫学 約80%が生後1ヶ月以内に発症
病態 胎生期に中腸がSMAを軸に反時計回りに270度回転して正常な腸ができるが、回転に異常がある場合を腸回転異常症という。特に、Ladd靭帯が十二指腸を閉塞し、SMAを軸とする中腸の回転異常により絞扼性腸閉塞を来しやすいものを中腸軸捻転という。
症状 ①突然の胆汁性嘔吐
②絞扼性腸閉塞症状:血便、腹痛
高度の中腸軸捻転では、腸管広範囲壊死→大量腸切除→短腸症候群に至ることがある
検査 【画像検査】
エコー:SMAにSMVが螺旋状に取り巻くwhirlpool sign
注腸造影:盲腸を右上腹部に認める
※上部消化管内視鏡は禁忌:送気により腹部膨満が増悪するため
治療 緊急開腹手術:捻転解除+壊死腸管切除+Ladd靭帯切離(Ladd手術)

結腸軸捻転症

疫学 高齢者、長期臥床者、慢性便秘、開腹歴のある者に好発
病態 腸間膜を軸として腸係蹄がねじれて回転した結果、腸閉塞をきたす病態。腸間膜が長く稼働性に富み、口・肛門側に固定されているS状結腸に好発する。
症状 複雑性腸閉塞を参照
検査 腹部X線:拡張したS状結腸でcoffee bean sign
注腸造影:S状結腸肛門側での鳥のくちばし状狭小化像(bird beak sign)
治療 非観血的療法:大腸内視鏡による整復(第一選択)、早期再発予防のために経肛門的にイレウス管挿入する場合もある
観血的療法:腹膜刺激症状・腸管壊死・穿孔を認める場合は外科的に用手的整復、腸管壊死部位は切除

麻痺性イレウス

病態 腸管の神経や筋が機能的な障害を受け、腸管運動が麻痺して起こるイレウス。
【原因】
腹部手術汎発性腹膜炎腸管虚血薬剤(抗うつ剤、抗コリン薬、オピオイド)、糖尿病など
症状 嘔吐、排ガス・排便停止、持続性の軽度腹痛、腹部膨満
検査 【身体検査】
聴診:腸雑音低下
【画像検査】
腹部X線:すべての腸管の拡張(sentinel loop sign:炎症病変周囲の限局性イレウス)
治療 ①単純性腸閉塞の治療に準じる(腸間膜の血流障害があれば血栓溶解除去 or 手術)
②腸管蠕動運動促進薬:パントテン酸、PG、大建中湯など

下部消化管穿孔(大腸穿孔) Large bowel perforation

病態 憩室穿孔、大腸癌、内視鏡操作などの医原性によって消化管が穿孔し、糞便が腹腔内に侵入することで重篤な腹膜炎となるため、敗血症性ショックを引き起こす緊急疾患である。
症状 突然の腹痛(激痛)
検査 胸腹部X線・CT(立位):Free air、穿孔部位を確認
※注腸造影は腸管内圧を上昇させて腸管内容物の腹腔内漏出を助長する可能性のため禁忌
治療 ①腹腔洗浄・ドレナージ:大腸は細菌数が多いため
②緊急手術:穿孔部位切除閉鎖術+人工肛門造設(Hartmann手術:肛門側の腸管は盲端となる )。腹膜炎が起こっている際に腸管を吻合ようとしても吻合できない。症状が落ち着いたら、吻合も検討する。

肛門疾患

痔核 Hemorrhoids

病態 上・下直腸静脈叢に発生した静脈瘤で、肛門疾患で最も多い。
●リスク因子:長時間の座位(直腸の血管が圧迫される)、下痢・便秘(腸管内圧が上昇して静脈がうっ滞する)、アルコール(動脈は拡張して大量に血液が流入するため静脈がうっ滞する)、刺激物(カプサイシンなど)、妊婦、門脈圧亢進(上直腸静脈瘤がうっ滞し内痔核を生じる)
【分類】
内痔核は動脈のある3・7・11時方向に好発する(みんなイレブンと覚える
検査 直腸診:左側臥位、Sims位、砕石位で行う
大腸内視鏡:血便が見られた場合は大腸器質的病変を除外する

  内痔核(上直腸静脈叢の静脈瘤) 外痔核(下直腸静脈叢の静脈瘤)
部位 歯状線より口側に発生 歯状線より肛門側に発生
症状 出血、痔核脱出(脱肛)、
疼痛はほぼなしない自覚
→進行して嵌頓痔核になると激痛
出血は少ない
疼痛(歯状線より肛門側は知覚神経がある)
治療 保存的治療(ステロイド・キシロカイン)
ALTA療法(硬化剤を内痔核に注入)
嵌頓痔核は流入血管を結紮し、痔核を切除
保存的治療(ステロイド・キシロカイン)
血栓を伴う場合は血栓除去術を行う

裂肛(切れ痔) Anal fissure

病態 便秘などが原因で硬い便が通過する際に肛門管上皮に裂創を生じる疾患。
慢性化すると線維化し肛門狭窄を伴い、裂創の潰瘍化→口側に肛門ポリープ・肛門側に見張りイボが形成され、6時方向(背側)に好発する。
症状 排便時に肛門上皮が裂けるため出血・痛み両方が生じ、排便後も痛みが持続する。
検査 視診
治療 生活指導と保存的治療

肛門周囲膿瘍・痔瘻 Perianal abscess, anal fistula

疫学 乳児期に好発:直腸肛門局所免疫の未熟性のため。男児に多い(約90%)
病態 下痢によって細かい便が肛門陰窩から細菌感染し、周囲に膿瘍を形成する(肛門周囲膿瘍)。約40%に続発して肛門管や肛門周囲皮膚に瘻管という膿のトンネルが発生する(痔瘻)。若年者の難治性の肛門周囲膿瘍・痔瘻はCrohn病を疑う。
●原因菌:大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌(嫌気性菌との混合感染も多い)
症状 肛門痛、高熱、肛門周囲のしこり・発赤
長期間経過した痔瘻からは肛門管癌を発生することがある。この癌は非常に硬いため腫瘤を触知し、鼠径部にリンパ節転移しやすい。
検査 視診?
治療 膿瘍:抗菌薬投与+切開排膿ドレナージ
痔瘻:瘻孔切除(成人の痔瘻は自然治癒することはまれ)
小児の肛門周囲膿瘍は自然治癒しやすく保存的療法が多い(入浴させ清潔を保つ)

直腸脱 Rectal prolapse

病態 直腸脱:直腸粘膜全層が肛門外へ大きく脱出した状態(通常5cm以上脱出)。分娩、外傷、老化、手術などによる直腸周囲支持組織(骨盤底筋、肛門括約筋、骨盤筋膜など)の弱体化が一因と考えられている。
完全直腸脱:直腸壁全層の脱出で、粘膜が内腔を中心に同心円状の輪状の溝を示す
不完全直腸脱:直腸下部の粘膜層のみが脱出するもので、粘膜が放射状に走る溝を示す
※肛門脱(脱肛)は内痔核(=上直腸静脈瘤)が静脈拡張して脱出したもの。
症状 直腸下部の粘膜+肛門管上皮が脱出する(特に排便時)。
初期に肛門痛はきたしにくい
検査 視診
治療 外科的手術

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