血液ガス・酸塩基平衡障害

生理学

血液ガス

血ガスは、①呼吸困難、②アシドーシスを疑う場合に実施する。(mmHg=Torr)

基準値 臨床的意義
pH 7.4±0.05
PaO2(血中酸素分圧) 80〜100 Torr 60Torr(SpO2 90%)未満で呼吸不全
SaO2(動脈血酸素飽和度) 95 %以上 O2-Hbが占める割合、SpO2=SaO2
PaCO2(血中二酸化炭素分圧) 40±5 Torr 46Torr以上で高CO2血症→肺以外の呼吸中枢、呼吸筋などに異常がある!
PaCO2↑の場合、必ずPaO2↓となる。
HCO3-(血中重炭酸イオン濃度) 24±2 mEq/L 22以下で代謝性アシドーシス
26以上で代謝性アルカローシス
AG(アニオンギャップ) 12±2 mEq/L ●AG=Na-(Cl+HCO3)
※但し、低Alb血症では補正AGで判断!
AGとは血ガスでは測定できない陰イオンの集合体(乳酸・ケトン体・Albなど)
・AG14以上:pH正常でも必ず代謝性アシドーシスが存在する
・AG正常代謝性アシドーシス:高Cl血症

補正AG 12±2 mEq/L ●補正AG=AG+2.5×(4-血中Alb)
低Alb血症の場合に用いるAGの式
補正HCO3 24±2 mEq/L ●補正HCO3=HCO3+AGー12
AG増加型代謝性アシドーシスが原因で減少した分のHCO3を補充したもの→補正してもHCO3が以下の異常値の場合
・22以下:AG正常型代謝性アシドーシスを合併
・26以上:代謝性アルカローシスを合併
BE(Base Excess:塩基過剰) ±2 mEq/L 余った塩基をpH7.4にするのに必要な酸の量 -2未満で代謝性アシドーシス
+2以上で代謝性アルカローシス
A-aDO2
(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)
年齢×0.3(FiO2 0.21の場合)
(通常、10〜20Torr以下)
●AaDO2=(150-0.8/PaCO2)-PaO2
20以上→肺胞から肺血管への酸素拡散ができず、何か肺の異常がある!
原因は以下のAaDO2を参照
FiO2(吸入中酸素濃度) 0.21(Room air) 特に人工呼吸器を使っている場合に必要
P/F値(PaO2/FiO2) 約500(100/0.21) 適正な酸素化ができているかを評価する
P/F=PaO2/吸入酸素濃度
300以下でALI(急性肺障害)
200以下でARDSの可能性

PaO2とSpO2の関係(酸素解離曲線)

横軸:酸素分圧(PaO2)、縦軸:Hb酸素飽和度(SaO2)←低いと酸素を多く放出する!

Hbは4量体であり、酸素分圧の高い肺胞では1つのサブユニットに酸素分子が結合するとアロステリック効果によってHb立体構造が変化し、他のサブユニットにも酸素分子が結合しやすくなる。

左シフト 右シフト
意義 酸素が解離しにくい状態 酸素が解離しやすい状態
事象 HbF(胎児Hb)、CO中毒 pH低下、CO2上昇、温度上昇、※2,3-DPG増加

※解糖系中間産物の2,3-DPGが増加するとATP産生が低下するため右シフトする。

SpO2(Hb酸素飽和度) 97% 90% 75% 50%
PaO2(酸素分圧) 90Torr 60Torr 40Torr 25Torr

①呼吸の評価

静脈血ガスPaCO2、PaO2の正確な評価ができない

①SpO2が90%以下 呼吸不全=低酸素血症がある。
②PaCO2が46以上 肺以外の呼吸中枢、呼吸筋などに異常がある(Ⅱ型呼吸不全)。ただし、AaDO2が開大している場合は肺も異常がある。
③PaCO2が45以下
(AaDO2が開大)
肺胞から肺血管への酸素拡散ができず、何か肺の異常がある(Ⅰ型呼吸不全)。労作時呼吸困難、過換気によるアルカローシスが特徴。

呼吸不全(=低酸素血症)

定義 呼吸不全 ⇨ 組織障害を来たす!
PaO2(動脈血O2分圧) 60Torr以下
SpO2(経皮的O2飽和度) 90%以下

【呼吸不全の分類】

原因 詳細
Ⅱ型呼吸不全
PaCO245Torr以上
=高CO2血症伴う!
肺胞低換気(気道閉塞、無呼吸、呼吸数低下、ALSなどの神経筋疾患)
閉塞性肺疾患(COPD、喘息、DBP)
①②によってCO2も吐けない状態(高CO2血症)
AaDO2は正常
Ⅰ型呼吸不全
PaCO245Torr以下
=CO2蓄積なし!
③O2拡散障害(肺炎、肺水腫、間質性肺炎)
換気血流不均衡(肺塞栓症)
⑤右→左シャント、肺動静脈瘻
Ⅰ型の症状は運動時の低酸素血症が特徴!
また、低O2により過換気となり呼吸性アルカローシスを呈する。
③はO2を取り込めない、④⑤は取り込んだO2が流れない状態=AaDO2は開大する!
ガス拡散能の高いCO2は蓄積しないが、O2は拡散しないためDLCOは低下する!(例外:COPDも低下)

AaDO2(FiO2分圧とPaO2の差)

吸入した肺胞O2分圧(FiO2分圧)と動脈血O2分圧の差が大きい場合、動脈血O2分圧が上昇しないⅠ型呼吸不全で開大する(Ⅱ型でもCOPDの急性増悪、喘息重積状態、高度の睡眠時無呼吸症候群では換気血流不均衡が生じるため開大する)。基準値は15Torr以下。

AaDO2が開大する原因 代表疾患
①肺拡散能の障害 間質性肺炎、加齢
②換気血流比不均衡の拡大 肺気腫、肺水腫、重篤な肺炎、無気肺、肺塞栓
③右心系→左心系への非生理的シャント ARDS、肺動静脈奇形、ASD、VSD、PFO

③の場合はO2投与してもなかなかSpO2上がってこないのが特徴。

AaDO2 = PAO2-PaO2 = FiO2分圧-PaO2

150-PaCO2/0.8-PaO2(760-47)×FiO2-PaCO2/0.8-PaO2

②酸塩基平衡の評価

緩衝系

血液pHは、7.40±0.05の範囲に調節され(酸塩基平衡)、pH変化があっても以下の緩衝系でpHを維持しようとする働きがある。酵素には至適pHがある。

①炭酸重炭酸塩緩衝系 H2O+CO2⇔H2CO3⇔H+HCO3
②リン酸塩緩衝系 H2PO4⇔H+HPO4
③蛋白緩衝系 HProt⇔H+Prot
④Hb緩衝系 HHb⇔H+Hb

アシデミア、アシドーシス、アルカレミア、アルカローシス

アシデミア 酸血症のこと。血液pH7.35未満
アルカレミア アルカリ血症のこと。血液pH7.46以上
アシドーシス プロトンを増加させる病態や生理的反応
pH低下+PaCO2↑=呼吸性アシドーシス
pH低下+HCO3↓=代謝性アシドーシス
アルカローシス プロトンを低下させる病態や生理的反応
pH上昇+PaCO2↓=呼吸性アルカローシス
pH上昇+HCO3↑=代謝性アルカローシス

酸塩基平衡を見る4Step

【アシデミアの場合】

①pHの判断 pH7.35未満
②呼吸性? まず、PaCO2で説明できるか確認、PaCO2 45以上:呼吸性アシドーシス
②代謝性? PaCO2が正常の場合、HCO3を確認、HCO3 22以下:代謝性アシドーシス
①代謝性の場合はAGを計算
・AG14以上:AG増加型代謝性アシドーシスあり
②AG増加(AG14以上)の場合は補正HCO3を計算
・補正HCO3が22以下:AG正常型代謝性アシドーシスを合併
・補正HCO3が26以上:代謝性アルカローシスを合併
③代償は適切か? まず代謝性から考える(呼吸性はすぐに代償されるが代謝性は2〜3日かかって代償されるため)
<代謝性アシドーシス>
HCO3が1mEq/L低下するごとに、PaCO2が1.2Torr(±2程度)低下して呼吸性代償が起こる。
<急性呼吸性アシドーシス>
PaCO2が10Torr上昇するごとに、HCO3が1mEq/L(±2程度)上昇して代謝性代償が起こる。
<慢性呼吸性アシドーシス>
PaCO2が10Torr上昇するごとに、HCO3がmEq/L(±2程度)上昇して代謝性代償が起こる。
④代償が不適切の場合 他の酸塩基平衡が混在してる可能性あり、AGを算出する。AG増加していれば、代謝性アシドーシスがあり、補正HCO3を算出して他の酸塩基平衡を推定する(②代謝性?を参照)。

【アルカレミアの場合】

①pHの判断 pH7.46以上
②呼吸性? まず、PaCO2で説明できるか確認、PaCO2 40以下:呼吸性アルカローシス
②代謝性? PaCO2が正常の場合、HCO3を確認、HCO3が26以上なら代謝性アルカローシス
③代償は適切か? <代謝性アルカローシス>
HCO3が1mEq/L上昇するごとに、PaCO2が0.7Torr(±2程度)上昇して呼吸性代償が起こる。
<急性呼吸性アルカローシス>
PaCO2が10Torr低下するごとに、HCO3が2mEq/L(±2程度)低下して代謝性代償が起こる。
<慢性呼吸性アルカローシス>
PaCO2が10Torr低下するごとに、HCO3が4mEq/L(±2程度)低下して代謝性代償が起こる。
④代償が不適切の場合 他の酸塩基平衡が混在してる可能性あり、PaCO2の予測値と比較する
→予測値と実測値の差が±2以内は単純性、±2以上であれば混合性と判断
<代謝性アルカローシス>
PaCO2=HCO3+15
<急性呼吸性アルカローシス>
PaCO2が1mmHg低下する毎にHCO3が0.2mM減少
<慢性呼吸性アルカローシス>
PaCO2が1mmHg低下する毎にHCO3が0.4mM減少

代謝性・呼吸性障害の原因

AG増加型
代謝性アシドーシス
乳酸アシドーシス
ケトアシドーシス:DKA、アルコール、飢餓
腎不全:急性、慢性
中毒アスピリン、メタノール、エチレングリコールなど
※乳酸アシドーシス ショック、心肺停止蘇生後、組織循環不全、高度な低酸素血症、薬剤性(メトホルミンなど)、VB1欠乏、悪性腫瘍、肝不全など
AG正常型
代謝性アシドーシス
【低K血症を合併】
下痢
尿細管性アシドーシス(Ⅰ型、Ⅱ型)
・薬剤性(アセタゾラミド、アムホテリシンB)
・尿路変更術後
・膵液瘻、腫瘻、胆汁瘻
【高K血症を合併】
・尿細管性アシドーシス(Ⅳ型)
・Clイオンを多く含む輸液(生食)の大量投与
・副腎不全
・腎不全の初期
・薬剤性(スピロノラクトン、ST合剤、ARB、NSAIDsなど)
・さまざまな腎疾患
代謝性アルカローシス 嘔吐、胃管からの胃液喪失
利尿薬
有効循環血漿量の低下(=腎臓への循環血漿量の低下)
・原発性Ald症などの鉱質コルチコイドの過剰
・低K血症
・低Mg血症
・高Ca血症
・アルカリの投与(NaHCO3投与、大量輸血など)
呼吸性アシドーシス 意識障害
・低換気によるCO2蓄積(COPD、気道閉塞、神経疾患、呼吸筋疲労、過鎮静)
・高度な肥満
呼吸性アルカローシス ・過換気によるCO2不足(パニック、疼痛、発熱、低酸素血症の初期、肝不全、心不全、甲状腺機能亢進症、妊娠)

 

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