循環器総論(狭心症・心筋梗塞)

循環器

虚血性心疾患 IHD:Ischemic heart disease

IHDは冠動脈の閉塞によって心筋虚血となり、心機能低下や心筋壊死をきたす病態の総称。
心筋虚血冠動脈の酸素供給量心筋の酸素需要量のバランスが崩れて生じる。

酸素供給量の不足 ①器質的狭窄病変:主に動脈硬化によってプラークが形成され血管内腔狭窄
②冠動脈攣縮:NO産生低下によって血管収縮
いずれも75%以上狭窄で労作時、90%以上狭窄で安静時酸素供給不足となる
酸素需要量の過剰 心筋の仕事量増加(心拍数↑、心収縮力↑、後負荷↑)
リスク因子 ①加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)
冠動脈疾患の家族歴
③喫煙習慣
④高血圧(140/90以上)
⑤肥満(BMI 25以上かつ腹囲が男性85cm/女性90cm以上)
⑥耐糖能異常(境界型および糖尿病型)
⑦脂質異常(LDL以上・TG150以上・HDL40未満)
⑧メタボリックシンドローム
⑨ストレス(精神的,肉体的)

狭心症 AP:Angina Pectoris

労作性AP ≒ 器質性AP 安静時AP ≒ 冠攣縮性AP ≒ 異型AP
病態 安定プラークにより狭窄が75%を超えると労作時に酸素供給不足となり心筋虚血症状を呈する。 冠攣縮により狭窄が90%を超えると安静時でも酸素供給不足となり心筋虚血症状を呈する。冠攣縮性APの大部分はST上昇を認める(=異型AP)。
症状 ①労作時に前胸部絞扼感・呼吸困難、漠然とした胸部不快感が数分間持続(20分以内)
②左肩、左腕、頸部への放散痛
③交感神経亢進症状:冷汗、不安感
①主に夜間・早朝に労作性AP①同様の狭心痛。労作性A②や③も同様。
④動悸、めまい、失神:刺激伝導系の虚血により不整脈が生じる
検査 【心電図】
発作時・運動負荷心電図でST低下※
【画像検査】
心エコー:発作時は壁運動異常
冠動脈造影:狭窄部位確認して確定診断
アデノシン負荷心筋シンチSPECT:虚血部位の201Tl集積↓
【心電図】
Holter心電図で発作時にST上昇※
ST上昇とT波が融合した単相曲線型となる。
【画像検査】
冠動脈造影:ACh注入 or 過換気負荷で誘発して狭窄部位確認
※心筋逸脱酵素上昇を伴うことは少ない
治療 【発作時】
硝酸薬の舌下投与
【非発作時】
β遮断薬:心筋酸素需要↓
抗血小板薬:血栓予防
脂質異常症患者:スタチン系
【非薬物療法】
PCI(経皮的冠動脈インターベンション)
CABG(冠動脈バイパス術)
【発作時】
硝酸薬の舌下投与
【非発作時】
就寝前に長時間型硝酸薬、Ca拮抗薬投与
β遮断薬単独投与禁忌:α作用を相対的に増幅させ、攣縮誘発のため)
【非薬物療法】
PCIは行われない!

※ST低下・ST上昇の原理

軽度虚血
(ST低下)
心内膜側心筋が虚血となる(冠動脈は心筋表面から内部に入るため心内膜側から順に虚血になる)。虚血になると、ATPポンプが作動せず心筋細胞の静止膜電位は浅くなる。その結果、電位の高い虚血部位から電位の低い周囲の健常部位に向かって電流が流れるため(傷害電流)、心内膜側→心外膜へ電流が流れ、電流は観測電極へ近づいて基線が上昇する。収縮期は虚血部位の静止膜電位が浅く活動電位も低くなるため、R波は減高し、電流は観測電極から遠ざかるため相対的にST低下となる。
※心筋梗塞と同様に、ST低下の誘導から責任冠動脈を診断することは難しい。なぜならLAD、LCX、RCAいずれの狭窄であってもV4〜V6を中心にしばしばⅡ・Ⅲ・aVFもST低下を示すため。
高度虚血
(ST上昇)
心筋全層が虚血となる。電位の高い虚血部位から周囲の電位の低い周囲の健常部位に向かって電流が流れるため(傷害電流)、電流は観測電極から遠ざかり基線が低下する。収縮期は虚血部位の静止膜電位が浅く活動電位も低くなるため、電流は観測電極へ近づくため相対的にST上昇となる。
ST上昇と低下を同時に認める場合は、上昇所見を優位にとる!!

急性冠症候群(ACS)

ACSの分類

ACSとは、冠動脈のプラークの急激な破綻と、それに伴う血栓形成に起因して急性の狭窄や閉塞を生じる病態であり、不安定APと急性心筋梗塞の総称である。

心電図 トロポニン 典型的症状
不安定狭心症 ST低下陰性T波 陰性 徐々に増悪する胸痛、安静時にも症状あり
NSTEMI ST低下陰性T波 陽性 (上記続き)STEMIと比べ持続時間短い
STEMI ST上昇 陽性 安静時にも持続する胸痛、持続時間長い

心筋梗塞の分類

Type1 アテローム性動脈硬化に併発した血栓症によるもの
Type2 Type1とは異なる心筋への酸素需要と供給のミスマッチによるもの
Type3 心筋虚血を示唆する症状を伴う心臓死
Type4 PCI手技関連によるもの、ステント血栓症によるもの
Type5 CABG手技関連によるもの

不安定狭心症と安定狭心症の違い

不安定狭心症(UAP) 安定狭心症(器質性AP)
不安定APのプラークは薄い線維性被膜で覆われており(不安定プラーク)、しばしば破綻して血栓を形成し、冠動脈が完全に閉塞すると急性心筋梗塞に至る 安定APのプラークは頑丈な線維性被膜で覆われており(安定プラーク)、基本的に破綻するリスクは高くないが、大きく成長して血管を狭窄させる=器質性AP。

ACSの診察

①心電図 【トリアージ心電図(以下に該当する場合はルーチンで施行)】
・30歳以上:胸痛
・50歳以上:息切れ、上肢の疼痛、失神、全身脱力、意識障害
・80歳以上:腹痛、嘔気嘔吐
②問診 ①胸痛:胸骨裏周囲の胸部圧迫感や胸部不快感
②放散痛:肩、首、歯などへ放散(上肢の疼痛)
③随伴症状:息切れ、失神、全身脱力、意識障害
④副交感神経亢進症状:嘔気嘔吐、腹痛、下痢
⑤交感神経亢進症状:冷や汗
③既往症・内服薬 糖尿病、狭心症、PCIやCABGの既往、抗血栓薬内服
④身体所見 【Killip分類】
Class1:肺野にラ音なく、Ⅲ音もなし
Class2:全肺野の50%未満の範囲でラ音 or Ⅲ音(心不全)
Class3:全肺野の50%以上の範囲でラ音(重症心不全)
Class4:血圧90未満、尿量減少、チアノーゼ(心原性ショック)
⑤ST上昇・胸部症状+新規左脚ブロック STEMIと診断し、循環器内科にコンサルトする(血行再建の準備の合間に採血、心エコー、胸部X線を行う)
⑥ST低下・陰性T波 NSTE-ACS(不安定狭心症・NSTEMI)疑いとして、採血(高感度心筋トロポニン)、心エコー、胸部X線を行い、リスク評価を行う。
⑦合併症 うっ血性心不全、不整脈を合併している場合はそれぞれの管理を行う

ACSの心電図

【ST変化の定義】必ず前回の心電図と比較すること!

ST上昇 解剖学的に連続した誘導2つ以上でSTの偏位
V2、V3以外の誘導ではJ点の上昇が1mm以上
V2、V3誘導では40歳以上の男性2mm以上、全て女性1.5mm以上
※超急性期はST上昇を認めず、T波の先鋭・増高となる(hyperacute T波)
ST上昇の鑑別:早期再分極、心室瘤、心外膜炎がある。判別困難な場合はSTEMIの準じて早期に循環器内科にコンサルトする
ST低下 解剖学的に連続した誘導2つ以上でSTの偏位
V2、V3以外の誘導ではJ点の下降が0.5mm以下
V2、V3誘導では1mm以下
T波の1mm以上の陰転化
Wellens症候群胸痛の間欠期の心電図所見において、V1〜V4で陰性T波または二相性T波を見た場合、LAD近位部の高度狭窄による不安定狭心症であるWellens症候群の可能性がある。

【ST上昇の部位】※鏡:鏡面形成(resiprocal change)

心電図ST変化 支配領域 閉塞血管 結節支配
Ⅱ/Ⅲ/aVF
(鏡:Ⅰ/aVL
右房・右室+
左室下壁+心室中隔の後1/3
RCA
右冠動脈
洞結節(45%)+
房室結節(95%)
V1〜V4
(鏡:Ⅱ/Ⅲ/aVF)
左室前壁心室中隔の前2/3
(V1は右室を表すこともある)
LAD
左前下行枝
I/aVL/V5/V6
(鏡:Ⅱ/Ⅲ/aVF)
左房+
左室側壁
LCX
左回旋枝
洞結節(55%)
ST変化なし or
V1〜V3のST低下
左室後壁 LCX
左回旋枝
aVRのみST上昇
他誘導ST低下
左室
(左主冠動脈主幹部の病変)
LMT
左冠動脈

【上記ST変化から心エコーで梗塞部位を確認】

https://www.eonet.ne.jp/~aoikaze/sikkan/sikkanMI.html

左脚ブロックがある場合(Sgarbossa基準)

極性が一致した(解剖学的に連続した誘導)1mm以上のST上昇 5点
極性が一致したV1〜V3誘導の1mm以上のST低下 3点
極性が不一致の5mm以上のST上昇 2点
3点以上なら感度20%・特異度98%でSTEMI

ACSの初期治療

M モルヒネ ・ニトロ投与後も改善しない強い胸痛に対して投与考慮
※ただし、呼吸数低下や嘔吐など生じるためルーチンでは投与しない
例)モルヒネ静注2〜5mg投与
O 酸素 ・SpO2が90%未満の場合のみに使用
N ニトロ ・胸痛の改善、および高血圧と心不全の加療に使用
禁忌:右室梗塞、重症AS、24時間以内のPDE阻害薬内服
例)ニトロ舌下錠0.3mg〜0.6mg 1錠 or スプレー舌下噴霧
A アスピリン ・バイアスピリン200mgを噛み砕いて内服
α PCI施行予定 例)ヘパリンNa5000単位/5mLをIV
例)ヘパリンNa5000単位/5mL+生食45mLで作成し、初期投与量として60〜70単位/kgをIV。その後12単位/kg/hrで持続投与し、PCI終了時に終了(APTT50〜75秒を目安に適宜投与量を増減)

STEMI

STEMIと診断したら

①PCI施行 PCI施行可能施設ならdoor to balloonを90分以内を目指す
来院後120分以内にPCIできる施設がある場合、速やかに転送する
※①LMT狭窄、②3枝高度狭窄の場合はCABG適応。内胸A、橈骨A、右胃大網A、大伏在Vをグラフトとして用いる。
合併症 再灌流性不整脈 or 心破裂:再灌流によって壊死した心筋へCa流入が起こり、心室期外収縮や心破裂(乳頭筋断裂、自由壁破裂、心室中隔欠損)が起こる。
②PCIできない場合 来院してから30分以内に血栓溶解療法を考慮する
適応 発症12時間以内の、連続する2つ以上の誘導でのST上昇や新規の左脚ブロックを認める75歳未満の症例(NSTEMIは血栓溶解療法の適応なし
絶対禁忌 出血性脳梗塞の既往、1年以内の脳梗塞・脳出血、既知の頭蓋内新生物、活動性出血、大動脈解離及びその疑い
相対禁忌 コントロール不良の高血圧(180/110以上)、脳血管障害の既往、出血素因、頭部外傷、心肺停止後、最近の大手術後、圧迫困難な血管穿刺、最近の内出血、妊娠、活動性消化管出血、慢性重症高血圧の既往

STEMIについて

病態 冠動脈の閉塞により、その血流域の心筋が壊死した状態。
閉塞の原因は、冠動脈のアテローム崩壊に伴う冠動脈内血栓形成、冠攣縮が主
合併症 ①急性期
●虚血に伴う不整脈:心室期外収縮→VF・VT、洞性徐脈・房室ブロック(下壁梗塞に合併)、脚ブロック(広範囲前壁梗塞に合併)
②2週未満
●下壁梗塞→後乳頭筋断裂→MR(MVP)→急性左心不全→肺うっ血
●心破裂(自由壁破裂)→心タンポナーデ→心原性ショック
●前壁中隔梗塞→心室中隔穿孔→急性左心不全→肺うっ血
③2週以降
●血栓塞栓症:心室瘤内で生じた乱流により血栓が生じる
左心室瘤:心筋リモデリングで形成(陳旧性心筋梗塞の所見、異常Q波伴うST上昇)
Dressler症候群:壊死心筋の炎症が心膜に波及し、発熱、胸痛を伴い発症する心膜炎
●肩手症候群
●梗塞後狭心症
採血 ①H-FABP(心臓型脂肪酸結合蛋白):1-2hr↑、24hrで正常化
②血清ミオグロビン:1-2hr↑、2日で正常化
③WBC:2-3hr↑、7日で正常化
トロポニン2-4hr↑し12〜18hrでピーク、4日後再度ピーク、2-3週間で正常化
※トロポニンは心不全、腎不全、敗血症、透析、横紋筋融解症でも偽陽性となる
※発症3時間以内は偽陰性となりうるため1〜3時間後に再検査
⑤CK-MB:4-6hr↑し12hrでピーク、3-7日で正常化
⑥心筋ミオシン軽鎖:4-6hr↑、1-2週間で正常化
⑦AST:6-12hr↑、3-7日で正常化

【STEMIの経時的変化】トースト食った?(T→ST→Q→T)

梗塞直後 0〜12時間 1〜12時間 2〜5日 数週間以降
T波増高 ST上昇 ST上昇+異常Q波 異常Q波+冠性T波 異常Q波

NSTE-ACS

NSTE-ACS疑いの場合

高リスクの場合、STEMIと同様の対応を行う

高リスク 即時侵襲的治療(2時間以内)
・薬物治療抵抗性の胸痛持続または再発
・心不全合併
・血行動態不安定
・致死的不整脈または心停止
・機械的合併症(心室中隔穿孔、乳頭筋断裂、心破裂など)
・一過性のST上昇、反復性の動的ST-T変化
高リスク 早期侵襲的治療戦略(24時間以内)
  ・心筋梗塞に合致する心筋トロポニン上昇および下降
・新たな心電図変化(動的ST-T変化)
・GRACEリスクスコア141以上
中リスク 後期侵襲的治療(72時間以内)
  ・糖尿病
・eGFR60未満
・低心機能(LVEF40%未満):高度虚血を示唆
・早期の梗塞後狭心症
・PCIやCABGの既往
・GRACEリスクスコア109〜140
低リスク 初期保存的治療戦略
  ・上記の危険因子を有さず、保存的治療が妥当と考えられる場合
・GRACEリスクスコア108以下

0/1h・0/2hアルゴリズム

胸痛症状だがACSかどうか不確定な場合

ACSらしくない症状 ・胸部症状の範囲が狭く指差しできる
・深呼吸で増悪する
・症状の持続時間が数秒程度
・飲水により症状が改善する
・体位で変化する
・圧痛がある
フォロー 心電図およびトロポニンを1〜3時間ごとに測定
Disposition 症状再発なく、トロポニン計2回陰性かつHEARTスコアで低リスクの場合はACSの可能性が低いため帰宅を検討
HEARTスコア
(合計3点以下は低リスクに分類される)
History:ACSを強く疑う2点、中等度疑う1点
ECG(心電図):有意なST低下2点、非特異的変化1点
Age(年齢):65歳以上2点、45〜64歳1点
Risk factor:動脈硬化危険因子が3つ以上2点、1〜2つ1点
Troponin:トロポニン正常上限の2倍以上は2点、1〜2倍で2点

PCI後・保存療法のマネジメント

薬物療法

①抗血小板薬 DAPT療法:PCI症例では6〜12ヶ月行う
例)バイアスピリン100mg+クロピドグレル75mg
PPI併用:消化管出血の既往、出血リスクの高い場合に推奨
例)ランソプラゾール15mg
②β遮断薬 心筋酸素需要量↓、抗不整脈作用、心破裂予防作用
例)ビソプロロール0.625〜2.5mg 分1
例)カルベジロール2.5mg〜5mg 分1
③ACEI/ARB 心筋リモデリング抑制作用(腎機能低下や高K血症には慎重投与 or 投与×)
例)バルサルタン20〜40mg 分1
例)ペリンドプリル2〜8mg 分1
④スタチン アテローム性動脈硬化を予防(LDL70以下を目指す)
例)アトルバスタチン10mg 分1で開始、20mgで維持
例)ロスバスタチン5mg 分1で開始、10mgで維持
中止薬 NSAIDsは冠動脈イベントを増加させるため使用している場合は中止

入院管理

採血フォロー CK、トロポニン4〜6時間毎にフォローし、ピークアウトを確認。数値が再増加する場合は心血管イベントの再発を疑い循環器内科にコンサルト
電解質管理 Kは4mEq/L以上、Mgは2mEq/L以上となるよう補正
症状フォロー 急性心不全やショックを認めた場合、ステント内血栓、自由壁破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂を疑い、心エコーと心電図を行い、循環器内科にコンサルト
心臓リハ 心血管死亡率の改善、心筋梗塞の再発抑制効果

コメント

タイトルとURLをコピーしました