喀痰の概要
喀痰の原因
| ①気道の炎症 | 感染症、アレルギー、腫瘍 |
| ②血管・リンパ管からの漏出 | 心不全、肺塞栓症 |
| ③後鼻漏による鼻汁 | 上気道咳症候群 |
【後鼻漏の様々な表現】
「飲み込みたくなる痰」「喉にひっかる感じの痰」「咳払いのような咳が出る」「咽頭のイガイガ」
痰の性状
| 漿液性痰 | 気管支喘息(無色透明)、肺水腫(ピンク色+バブル状)、肺胞上皮癌(大量) |
| 粘液痰 | 急性気道感染症の初期、慢性気道感染症の安定期 |
| 膿性痰 | 細菌性気道感染症 |
| 血痰・喀血 | 肺癌、気管支拡張症、肺梗塞、肺結核、肺アスペルギルス症、Goodpasture症候群 |
喀痰検査
細菌総論のグラム染色を参照
咳嗽の概要
咳嗽の機序
気道内に貯留した分泌物や異物によって、喉頭〜気管支や食道上部の上皮細胞間に存在する末梢咳受容体が刺激され、迷走神経を介して延髄の咳中枢が興奮する。その結果、咳中枢から舌咽・迷走・脊髄神経を介して声帯や横隔膜の運動が起こり咳が起こる。
心因性咳嗽や咳払いは大脳から延髄の咳中枢に刺激が入り、随意的に咳嗽を生じる。
咳嗽の性状
| 定義 | 原因 | |
| 乾性咳嗽 | 痰を伴わないか少量の痰のみを伴う咳 | 気道以外の異常 |
| 湿性咳嗽 | 痰を伴い喀出するために生じる咳 | 気道粘液過剰分泌(気道の炎症性病変) |
咳嗽の原因
| ①感染症によるもの | 上気道炎、肺炎、結核 |
| ②感染症後の気道過敏によるもの | 感冒後咳嗽 |
| ③アレルギーによるもの | 喘息 |
| ④胃食道逆流症(GERD)によるもの | |
| ⑤腫瘍によるもの | 肺癌 |
| ⑥間質性肺疾患など肺末梢の伸展受容器に関わるもの |
咳嗽の診察
問診での確認事項
| 咳嗽の出る時間帯 | 横になるとき、夜間のみ、睡眠への支障、食事後、温度の変化 |
| 随伴症状 | red flag+喀痰、鼻汁、鼻閉、呑酸 |
| 既往歴 | 喘息、副鼻腔炎、アトピー疾患、アレルギー歴 |
| 内服薬 | ACE阻害薬(中止後1〜4週間で軽快、最大3ヶ月持続する場合もある) |
| 生活歴 | 喫煙(smoker’s cough、肺癌、COPDを考慮) |
①咳嗽の持続期間を確認
| 急性咳嗽 | 遷延性咳嗽 | 慢性咳嗽 |
| 3週間未満 | 3〜8週間 | 8週以上(2ヶ月以上) |
②咳嗽のred flagを確認
| 発熱・体重減少 | 肺炎、肺癌、結核、COPDの可能性 |
| 血痰 | 肺癌、結核、気管支拡張症、肺塞栓症の可能性 |
| 呼吸困難 | アナフィラキシー、肺塞栓症、心不全、COPD増悪、喘息増悪の可能性 |
| 労作時呼吸困難 | 間質性肺炎、心不全、肺高血圧症、癌性リンパ管症、COPDの可能性 |
| 胸痛 | 肺塞栓症、気胸、心筋梗塞の可能性 |
| 浮腫・体重増加 | 心不全の可能性 |
| 嗄声・声の変化 | 急性喉頭蓋炎、異物、アナフィラキシー、腫瘍反回神経浸潤 |
③急性咳嗽
症候学の感冒の咳症状メイン型を参照
④遷延性・慢性咳嗽は先行する咽頭痛・鼻汁を確認
| 先行する咽頭痛・鼻汁あり | ①感冒後咳嗽(上気道の気道過敏性):先行する咽頭痛があり、経過中に膿性度の変化する痰を伴う湿性咳嗽や後鼻漏を伴う場合がある |
| ②上気道咳症候群:後鼻漏に伴って出現する湿性咳嗽で、仰臥位・立位時に悪化する(鼻汁は軽度で後鼻漏を認識できない場合あり) | |
| 先行する咽頭痛・鼻汁なし | ③気管支炎後咳症候群(下気道の気道過敏性):先行する発熱があり、解熱後も乾性咳嗽のみ持続する場合で、3〜4週間続く |
| ④咳喘息(CVA):喘鳴を伴わない咳嗽で、季節の変わり目・悪天候・夜間〜早朝・感冒後で悪化を繰り返す | |
| その他 | ⑤GERD:食後・仰臥位・上半身前屈・体重増加で悪化する乾性咳嗽で、呑酸・胸焼け・ゲップなど食道症状に乏しい場合もある |
| ⑥アトピー咳嗽:アトピー素因を持つ人に生じる咽頭違和感を伴う乾性咳嗽で、ストレス・温度変化・受動喫煙・夜間〜早朝で悪化する | |
| ⑦副鼻腔気管支症候群(SBS):慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎を合併したもの | |
| ⑧COPD・慢性気管支炎:喫煙者に生じる湿性咳嗽 | |
| ⑨肺結核:微熱、寝汗、体重減少、血痰、結核曝露歴あり |
検査
| 胸部X線 | 3週間以上続く咳嗽には原則撮像 |
| 胸部CT | 胸部X線で異常を認める場合:肺癌、結核、肺炎、副鼻腔炎、過敏性肺臓炎 |
| 副鼻腔CT | 副鼻腔炎を疑う場合 |
| 血液検査 | 好酸球増多(喀痰でも同様):咳喘息・喘息の場合 |
| 呼吸機能検査 | ピークフロー低下、呼気NO亢進:咳喘息・喘息の場合 |
治療
| ①感冒後咳嗽 | 抗ヒスタミン薬、吸入ステロイド |
| 例)麦門冬湯9g 分3 | |
| ②上気道咳症候群 | 抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイド |
| 例)ビラスチン(ビラノア®)20mg 1日1回 空腹時 | |
| 例)ディレグラ配合錠 1回2錠 1日2回 朝夕食前 | |
| 例)モメタゾン(ナゾネックス®)点鼻50μg 各鼻腔に2噴霧1日1回 | |
| ③気管支炎後咳症候群 | |
| ④咳喘息 | 気管支拡張薬、吸入ステロイド |
| 例) | |
| 例)サルブタモール(サルタノール®)咳嗽時1回2吸入/1日4回まで | |
| ⑤GERD | 就寝時頭位挙上、PPI、消化管運動機能改善薬、上部内視鏡検討 |
| 例)ランソプラゾール15〜30mg 1日1回 | |
| ⑥アトピー咳嗽 | 抗ヒスタミン薬、吸入ステロイド |
| ⑦副鼻腔気管支症候群 | マクロライド系抗菌薬 |
| ⑧COPD・慢性気管支炎 | 禁煙、吸入抗コリン薬 |


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