腹痛(腹膜刺激症状含む)

症候学

腹痛の分類

腹痛の種類

通常、最初に内臓痛が起こり、進行すると体性痛や関連痛が出てくる。

発生機序 痛みの性状
内臓痛 ・管腔臓器の過伸展、異常収縮、虚血
(特に管腔臓器の強い攣縮による間欠性内臓痛=疝痛
・実質臓器の急激な腫大による被膜の伸展
局在が不明瞭
・管腔臓器は周期的鈍痛
・実質臓器は持続性鈍痛
・悪心嘔吐、冷汗など自律神経症状を伴う場合あり
体性痛 腸間膜、壁側腹膜、横隔膜への炎症波及
(例:消化管穿孔や虫垂炎進行期による腹膜炎)
局在が明瞭
持続的激痛
・振動で痛みが増悪
関連痛 ・内臓からの痛みが同じ脊髄分節の皮膚領域に放散
(例:ACSに伴う心窩部痛・肩や頸部の痛み)
・皮膚の一定の領域に限局
触診による痛みの増強(ー)

腹痛の鑑別

急性腹症:1週間以内に発生した腹痛

緊急に処置を要する疾患

問診、身体診察 検査
異所性妊娠破裂♀ 突然 出血による血圧低下 妊娠反応、腹部エコー、禁CT
卵巣茎捻転♀ 突然 数時間以上かけて発症、反復性の激痛
精巣捻転♂ 突然 数時間以上かけて発症
急性冠症候群 突然 胸骨下の絞扼痛、肩や頸部への放散痛、冷汗、冠動脈疾患の既往 心電図、心エコー、血液(トロポニン、CK)
腹部大動脈瘤破裂 突然 出血による血圧低下 腹部エコー、腹部(造影)CT
大動脈解離 突然 移動する裂けるような痛み、出血による血圧低下 胸腹部造影CT
肺血栓塞栓症 突然
急性腸管膜動脈閉塞症 突然 数十分〜数時間かけて発症する持続性の体性痛 腹部造影CT
肝細胞癌破裂 突然 肝細胞癌の既往
汎発性腹膜炎
上部消化管穿孔 突然 数十分〜数時間かけて発症する持続性の体性痛、板状硬
下部消化管穿孔 急性 数時間以上かけて発症する持続性の体性痛、下腹部全体に反跳痛
複雑性腸閉塞 突然 腹部手術歴、蠕動運動減弱、数時間以上かけて発症する持続性の体性痛
急性膵炎 突然 数十分〜数時間かけて発症する持続性の体性痛 血液(AMY)
DKA

その他の突然発症・急性発症の疾患

問診、身体診察 検査
異所性妊娠♀ 妊娠反応、腹部エコー、禁CT
切迫流産・切迫早産♀
子宮内膜症♀
卵巣出血♀ 性交後の突然の腹痛・嘔吐
骨盤内炎症性疾患♀ STIの既往、吸気時の右上腹部痛、性交時痛
胃アニサキス症 魚の生食後数時間で心窩部の持続痛、嘔吐、蕁麻疹
急性虫垂炎 急性 発熱、心窩部・臍周囲→右下腹部に移動する痛み
虚血性大腸炎 排便後の腹痛、下血、左下腹部圧痛が多い
腎梗塞 突然
腎盂腎炎
胆石症 突然
急性胆嚢炎・胆管炎 持続性の右上腹部痛、Murphy徴候
急性肝炎
尿管結石 突然
単純性腸閉塞 突然 腹部手術歴、蠕動運動亢進 腹部エコー
急性胃腸炎
憩室炎 急性 局所の持続痛、便秘
鼠径ヘルニア
帯状疱疹 チクチクする痛み

慢性発症の疾患

問診、身体診察 検査
大腸癌
胃十二指腸潰瘍 NSAIDs内服
機能性便秘症
IBS 排便で改善する腹痛
機能性ディスペプシア 繰り返す上腹部痛
炎症性腸疾患 繰り返す腹痛・下血
NOMI
前皮神経絞扼症候群(ACNES) 指1本分の限局する圧痛点が1箇所以上+感覚障害 局所麻酔で改善

腹痛診療の流れ

Onset

「痛くなった時、何をしていましたか?(突然発症の確認)」

①突然発症 数秒〜数分で腹痛がピーク 血流途絶を伴う重篤な疾患の可能性
②急性発症 数十分以上の緩徐な経過で腹痛が悪化 虫垂炎などの炎症性疾患の可能性
③慢性発症 発症時期が不明、数週間以上の腹痛持続 腫瘍、IBSなどの機能性疾患の可能性

Provocative/Palliative

食後に悪化 胆石症、急性膵炎、腸閉塞、胃潰瘍
食後に改善 十二指腸潰瘍
立位で悪化 鼠径ヘルニア・大腿ヘルニア(腹圧↑のため)
前屈で軽減 急性膵炎(後腹膜のスペース↑)
背屈で悪化 急性膵炎(後腹膜のスペース↓)
体ひねると悪化 筋骨格系疾患
咳嗽で悪化 腹膜炎(振動のため)
労作で悪化 ACS
嘔吐で改善 腸閉塞などの消化管疾患
排便で悪化 腸閉塞、S状結腸捻転症
排便で改善 IBS
深吸気で悪化 肺・胸膜・心膜疾患、肝周囲炎

Quality/Quantity

Quality どのような痛みか?痛みに波はあるか?
Quantity 人生最悪の痛みを10とすると今回の痛みはいつくか?(NRS)

Region/Radiation

「どこが痛い?」「別の場所も痛い?」

【腹部全体】
汎発性腹膜炎(緊)
SMA閉鎖症(緊)
腹部大動脈瘤破裂(緊)
糖尿病性ケトアシドーシス(緊)
複雑性腸閉塞(緊)
過敏性腸症候群
急性胃腸炎
【その他】
IgA血管炎
【右季肋部】
急性閉塞性化膿性胆管炎(緊)
胆嚢炎・胆管炎、胆石症
肝炎
十二指腸潰瘍
【心窩部】
急性膵炎(緊)
ACS(緊)
急性虫垂炎の初期
消化性潰瘍
胆嚢炎・胆管炎、胆石症
アニサキス
【左季肋部】
急性大動脈解離(緊)
急性膵炎(緊)
虚血性大腸炎
胃潰瘍
腎梗塞
脾梗塞
【右側腹部】
尿管結石
腎梗塞
大腸憩室炎
急性虫垂炎
【臍部】
急性膵炎(緊)
腸閉塞
急性虫垂炎の初期
【左側腹部】
尿管結石
腎梗塞
大腸憩室炎
【右下腹部】
急性虫垂炎(緊)
Crohn病
大腸憩室炎
尿管結石
ヘルニア
【下腹部】
精巣・卵巣捻転(緊)
妊娠・異所性妊娠
切迫流産・切迫早産
卵巣出血
骨盤内炎症性疾患
【左下腹部】
潰瘍性大腸炎
虚血性大腸炎
大腸憩室炎
尿管結石
ヘルニア

Sequence/Symptoms

発熱 骨盤内炎症性疾患、虫垂炎、急性膵炎
冷汗 ACS、腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離
麻痺、下肢しびれ 大動脈解離
胸焼け、悪心、食思不振 消化管潰瘍
排便・排ガスの停止 腸閉塞
便通異常 憩室炎、大腸癌
悪心嘔吐 胆石症、急性膵炎、尿管結石
①嘔吐→腹痛の順:急性胃腸炎
②腹痛→嘔吐の順:虫垂炎、小腸閉塞
③腹痛と嘔吐が同時:消化管穿孔、十二指腸閉塞
④嘔吐で腹痛改善:腸閉塞
血尿 尿管結石

Time

「以前にも同じような痛みを経験したことはありますか?」

腹膜刺激症状(腹膜炎症状)

通常、反跳痛→筋性防御→板状硬の順に進んでいく。

叩打痛 指2〜3本を使って患部を軽く叩いた特に感じる痛み
反跳痛 内臓の炎症が腹膜に波及したとき、腹壁を強く圧迫して急に手を離した時に見られる鋭く刺すような痛み(Blumberg徴候)
筋性防御 腹腔内の炎症による刺激が壁側腹膜に波及すると、肋間神経、腰神経を介して反射的に腹壁筋の緊張が亢進し硬く触れる現象。広範囲に筋性防御があるもの(汎発性腹膜炎)を、腹部全体の板状硬化という。

腹膜刺激症状がある場合、その部位が限局か限局してないか

限局性腹膜炎 虫垂炎の波及、憩室炎の波及、全周性の腸炎など
汎発性腹膜炎 上部消化管穿孔、下部消化管穿孔、急性膵炎、特発性細菌性腹膜炎など

【筋性防御】

①消化管疾患 消化管穿孔:潰瘍,癌,虫垂炎,憩室,腸閉塞
消化管非穿孔:イレウス,腸閉塞,腸重積,軸捻転
②肝胆膵疾患 急性膵炎,胆囊炎(胆囊穿孔),肝膿瘍破裂
③骨盤腹膜炎 付属器炎,卵巣囊腫破裂
④外傷性 消化管損傷,膵損傷,肝胆道損傷
⑤医原性・手術後合併症 内視鏡による穿孔、手術時の腹腔内感染,縫合不全,ドレーン感染

コメント

タイトルとURLをコピーしました