発熱

症候学

発熱の概要

発熱の定義

微熱 37.1〜38℃
軽度発熱 38.1〜38.5℃
中等度発熱 38.6〜39℃
高熱 39.1℃以上 ※42℃以上は積極的に降温する(蛋白変性が生じるため)
不明熱 定義:十分な精査でも原因が特定できない発熱。38.4度以上の発熱が3週間続き、1週間におよぶ入院検査で原因が判明しない発熱。
①慢性感染症(約40%):結核、膿瘍、細菌性心内膜炎、骨髄炎
②腫瘍(約20%)
③膠原病(約20%弱)

発熱の機序

体温は明け方に最も低く、夕方に最も高いという日内変動がある。

①受動的発熱 熱中症のような放熱障害、甲状腺機能亢進症のような過剰な熱産生で見られる。これらはセットポイントに変化はない。
②能動的発熱 熱産生が増加する感染症、膠原病、悪性腫瘍などで見られる。
【上昇期】
発熱物質(外毒素、内毒素、ウイルス、真菌、壊死物質、PGE2)が視床下部に作用すると、セットポイントが上昇する。その結果、骨格筋を震わせて熱エネルギーを生じさせ(戦慄)、激しい寒気(悪寒)が生じる。
【解熱期】
解熱する時、皮膚血管を拡張させて放熱し、発汗する。

比較的徐脈(相対的徐脈)

定義 熱が高いわりには脈拍の上昇を伴わないこと。
38℃でHR 110以下、39℃で120以下、40℃で130以下の場合を指す
※通常、体温1℃上昇すると脈拍数が10〜20上昇する。
原因 ウイルス感染症、細胞内寄生微生物、薬剤熱、悪性腫瘍、中枢神経病変
暗記 比較的、オレのサル、ブルーチーズが好きウム病、ジオネラ、サルモネラ、ブルセラ、チフス、膜炎菌、マイコプラズマ、Q熱、リケッチア、ウイルス性出血熱

熱型の分類

抗菌薬や解熱薬が汎用されるため診断的価値は低下している。

詳細 疾患
稽留熱 38℃以上が持続し、日内変動は1℃以内 大葉性肺炎、腸チフス、粟粒結核
弛張熱 38℃以上が持続し、日内変動は1℃以上 多くの感染症、敗血症、悪性腫瘍
間欠熱 最低体温が37℃以下に下がり、日内変動は1℃以上 膿瘍形成、マラリア、回帰熱
波状熱 有熱期と無熱期を不規則に繰り返す Hodgkinリンパ腫、腎結石
周期熱 有熱期と無熱期を規則的に繰り返す マラリア、Felty症候群
不明熱 38℃以上が数回+3日間の検査でも診断不可能 膠原病など多種多様

https://www.kango-roo.com/learning/2812/

発熱の鑑別疾患

感染症 部位 非感染症
髄膜炎、脳炎、脳膿瘍 中枢神経系 脳外科術後、頭部外傷後
中耳炎、副鼻腔炎、咽頭喉頭炎、扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、歯髄炎、咽後膿瘍 頭頸部 亜急性甲状腺炎、甲状腺クリーゼ
上気道炎、肺炎、気管支炎、肺結核 胸部 肺血栓塞栓症、間質性肺炎、ARDS、無気肺
胆嚢炎、胆管炎、肝炎、肝膿瘍、膵嚢胞感染、感染性腸炎、憩室炎、虫垂炎、下部消化管穿孔、腹膜炎、腎盂腎炎、前立腺炎、精巣上体炎、骨盤内炎症疾患 腹部 無石性胆嚢炎、自己免疫性肝炎、急性膵炎、炎症性腸疾患
蜂窩織炎、褥瘡感染、膿痂疹 皮膚 結節性紅斑
壊死性筋膜炎化膿性脊椎炎化膿性関節炎、腸腰筋膿瘍 筋骨格 痛風、偽痛風、リウマチ性多発筋痛症
敗血症、カテーテル関連感染症、感染性心内膜炎、心筋炎、心外膜炎 心血管 心筋梗塞後、心筋炎、心膜炎、DVT、大動脈解離

【非感染性・全身性】

薬剤関連 薬剤熱、infusion reaction、悪性症候群、輸血
悪性腫瘍 癌、リンパ腫、白血病
膠原病 SLEなど

発熱の診察(救急外来)

ABCD+患者背景

ABC 血圧は普段の血圧と比較
D GCS14点以下は敗血症を疑う
患者背景 ①高齢者、DM患者解熱薬・ステロイド内服では熱が高くなりにくいため注意
化学療法中の場合、発熱性好中球減少症の可能性を考慮する
脾摘後の場合、重症感染症の可能性を考慮する
④腹膜透析患者の筋性防御は、CAPD腹膜炎の可能性を考慮する

①全身状態の評価

①菌血症の確認 布団を被っても歯がガチガチする震え(悪寒戦慄)の有無
②敗血症の確認 感染症を疑う場合、qSOFA2点以上で臓器障害が予想され敗血症と判断
③ショックの確認 組織環流障害を疑う所見があるか、以下から確認
①〜③に該当すれば培養提出し、早期に治療開始

【組織環流障害を評価】

凝固 肝臓 心血管 中枢神経 腎臓 皮膚 全身
呼吸数 血小板 T-Bil MAP GCS Cre 下肢に 乳酸
22以上 15万未満 1.2以上 70未満 14以下 1.2以上 網状皮斑 18以上

②感染巣の同定(致死的感染症の除外)

6つの臓器 致死的感染症 症状・所見
中枢神経 細菌性髄膜炎 頭痛、頸部痛、嘔気嘔吐、頸部硬直・Jolt test
肺炎 咳嗽、胸部CT
心・血管 感染性心内膜炎 Janeway病変・Osler結節・爪下線状出血
尿路 結石性腎盂腎炎 尿混濁、CVA叩打痛、膿尿
消化器 急性閉塞性化膿性胆管炎 Murphy徴候
下部消化管穿孔 板状硬
皮膚・骨・関節 化膿性関節炎 関節腫脹
壊死性筋膜炎 激痛を伴い硬結を有する紅斑
化膿性脊椎炎 脊椎叩打痛

③起因菌の同定

腰椎穿刺:頭部CTで脳圧亢進所見なし・血小板低下やPT/APTT延長がないことを確認した後実施

致死的感染症 グラム染色 提出培養 緊急処置
細菌性髄膜炎 髄液、血液 腰椎穿刺
肺炎 喀痰、(血液)
感染性心内膜炎 血液
結石性腎盂腎炎 尿、血液 尿管ステント
急性閉塞性化膿性胆管炎 血液 ERCP
下部消化管穿孔 血液
化膿性関節炎 関節液 関節洗浄
壊死性筋膜炎 血液 筋膜切開
化膿性脊椎炎 黄色ブドウ球菌 血液

発熱の診察(緊急ではない)

問診:top-to-bottom approach(発熱のfocusを検索)

全身状態 倦怠感、食欲、寒気(上着を羽織りたくなる)、悪寒(毛布を被りたくなる)
CNS 頭痛、頸部痛、意識変容、嘔気嘔吐
頭頸部 眼痛、眼脂、視力障害
耳痛、聴力低下
鼻汁・鼻閉、先行する感冒からの増悪
咽頭痛、嚥下時痛、歯痛
頸部痛、頸部腫瘤の自覚
胸部 胸痛、動悸
咳嗽、喀痰、呼吸困難、吸気時の胸痛増悪
腹部 腹痛、食欲不振、嘔気嘔吐、下痢、血便、頻尿、排尿時痛、残尿感、排尿障害、尿混濁、精巣痛、尿道膿性分泌物、帯下の変化
背部・臀部 背部痛、臀部痛
皮膚 皮膚の発赤・疼痛
骨格筋 関節痛、筋肉痛、脱力
その他 デバイス挿入部の疼痛

その他の問診

発熱期間 急性、亜急性、慢性
sick contact 家族や友人で似た症状がいるか?
動物接触歴 ペットを飼っている?
結核曝露歴 これまで結核と診断されたり、家族や周囲の人が結核と言われたことがあるか?
海外渡航歴 ここ3ヶ月以内に海外に行ったか?
性交渉歴 最終性交など性感染症の5Pを確認
薬剤歴 過去の抗菌薬はいつ?何を?何に対して使用した?
ワクチン接種 最近ワクチン接種したか?

身体所見(発熱のfocusを検索)

CNS 項部硬直、JA、神経学的所見の異常(筋力低下、知覚低下)
頭頸部 目:結膜充血、結膜黄染
耳:外耳発赤・耳介牽引痛、鼓膜発赤腫脹・滲出液
鼻周囲:副鼻腔の圧痛・叩打痛
口腔咽頭:咽頭発赤、扁桃発赤腫脹、開口障害、歯肉腫脹
頸部:頸部リンパ節腫脹、唾液腺や甲状腺の腫大圧痛
胸部 聴診:心雑音、ラ音
腹部 視診:黄疸
聴診:腸管蠕動運動亢進/低下
打診:肝叩打痛
触診:腹部圧痛、反跳痛、Murphy徴候、肝脾腫、腎把握痛、恥骨上部の圧痛、精巣の圧痛
背部 視診:褥瘡、肛門
打診:CVA叩打痛、脊椎叩打痛
触診:直腸診で前立腺腫大や圧痛を確認
皮膚 視診:皮疹、Janeway病変・Osler結節・爪下線状出血
触診:圧痛、熱感
骨格筋 関節の腫脹・圧痛・発赤・熱感、可動域制限、筋肉の圧痛、筋力低下
その他 デバイス挿入部の発赤・圧痛、排液の混濁

検査所見

①血液検査 T-Bil、PT、APTT、CRP、CK(採血では胆管炎のみ熱源同定に有用)
②尿検査
③培養検査 疑われる感染巣から培養検体を採取
④胸部X線
⑤CT

入院患者の発熱

入院患者は発熱直後に診療するため臨床像が完成しておらず臓器症状に乏しいのが特徴、非感染性の原因が多いが、感染性の場合は医療関連感染が多い。

医療関連感染

CAUTI カテーテル関連尿路感染症
CRBSI カテーテル関連血流感染症
VAP 人工呼吸器関連肺炎 胸部X線
HAP 院内肺炎 胸部X線
SSI 手術部位感染
CDI CD腸炎 便検査

7D+α

Drug 薬剤熱 1週間以内の新規薬剤、皮疹
Device デバイス関連感染 血液培養、デバイス先端の培養
DVT 深部静脈血栓症 長期臥床、片側の下腿浮腫、下肢痛・把握痛、エコー
CDトキシン CD腸炎 抗菌薬使用中、下痢、腹痛、便検査
Decubitus 褥瘡感染 褥瘡周囲の発赤腫脹
CPPD 偽痛風 関節痛・関節炎、高齢、変形性関節症、X線
Debris 胆泥:胆嚢炎・胆管炎 Murphy徴候、セフトリ使用、胆道系酵素上昇
α 尿路感染症 尿検査・尿培養
α 肺炎 胸部X線

薬剤熱

疫学 入院患者の発熱の原因として比較的多い
概要 全ての薬剤が原因となるが、抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、ST合剤が多い)、メチルドパ、プロカインアミド、キニジン、アロプリノール、アザチオプリンなどが多い
分類 薬剤に対する過敏反応(最多)
症状 薬剤開始後7〜10日間程度で発熱が一般的(数時間〜数ヶ月で発熱と幅が広い)
②皮疹
③比較三原則:比較的元気、比較的徐脈、比較的低CRP
検査 血液検査:一部の薬剤では軽度の好酸球上昇・肝酵素上昇
診断 薬剤中止後48〜72時間以内に解熱することが一般的+他の発熱原因がない

腫瘍熱

概要 不明熱の原因としてあげられ、熱の割に重症感がなく、比較的全身状態が良好で、比較的徐脈を呈することが多い。
全ての腫瘍が一律に熱を出すわけではなく、血液腫瘍、腎細胞癌、肝細胞癌、心房粘液腫、膠芽腫、膵癌、卵巣癌、G-CSF産生腫瘍などが多い。
症状 ①37.8℃以上の発熱が1日1回以上
②発熱の期間が2週間以上
感染症が除外できる
④アレルギーが否定できる
⑤7日以上のエンピリックな抗菌薬治療に反応しない
⑥ナプロキセンにより解熱する
診断 除外診断のため、感染症・膠原病・薬剤熱など他の原因がないことを確認する
治療 ナプロキセン(ナイキサン®)250mg 1日2回 12時間ごとに投与

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