頭痛の総論
まず、二次性頭痛を除外した上で診断する(突然発症は二次性頭痛、月〜年単位で繰り返す既往ありは一次性頭痛が多い)。
頭痛の診察
①ABCD
AB | |
C | 血圧高値+徐脈(Cushing現象):頭蓋内圧亢進を疑う |
D | 意識障害 |
②問診・身体所見・初回検査
O | 転倒・外傷後:脳血管障害、頭部外傷 |
P | 運動で悪化:頭蓋内疾患(特に髄膜炎、脳炎)、片頭痛 光・音・匂いで悪化:片頭痛 入浴・飲酒で悪化:片頭痛、群発頭痛 |
Q | 拍動性:片頭痛、巨細胞性動脈炎、高血圧性脳症 チクチク:帯状疱疹 |
R | |
S | 麻痺:脳出血、脳腫瘍 発熱:髄膜炎、巨細胞性動脈炎、急性副鼻腔炎 |
T | 増悪傾向:二次性頭痛 毎年同じ時期:群発頭痛 |
所見 | 項部硬直・jolt accentuation、神経診察 |
検査 | 血液検査:血糖値 |
③SNOOPEE(二次性頭痛を疑うred flag sign)
SNOOPEEに該当する場合は二次性頭痛の可能性が高くなり、精査のため頭部CTを行う。
S | Systemic | 全身症状:発熱、倦怠感、体重減少など |
全身性疾患:担癌患者、HIV、免疫抑制者、重症糖尿病 | ||
↑全身性疾患の新規頭痛は原則腰椎穿刺が必要 | ||
N | Neurologic symptoms | 意識レベルの低下を含めた神経脱落症状 |
O | Onset | 突然発症の雷鳴頭痛 |
O | Older | 40歳以上で初発の頭痛 |
P | Patten change | 以前と異なる頭痛(部位、性質、持続時間、人生最悪の頭痛) |
E | Exertion | 運動中の発症 |
E | Exacerbation | 増悪傾向 |
③SNOOPEEに1つも該当しない場合(1次性頭痛)
片頭痛 | 緊張性頭痛 | 群発頭痛 | |
疫学 | 20〜40歳台、女>男 | 様々 | 20〜40歳台、男>女 |
発症O | 緩徐〜急性 | 緩徐 | 突発〜急性 |
動作P | 日常動作で増悪する | 日常動作で増悪なし | 痛くて暴れ回る |
症状Q | 拍動性 | 非拍動性 | 激痛 |
部位R | 片側性>両側性 | 両側性 | 片側性・眼の奥 |
随伴S | 嘔気嘔吐、羞明、音恐怖 | なし | 自律神経症状 |
持続T | 3時間〜3日間(72時間) | 様々 | 15分〜180分持続 |
片頭痛 Migraine
疫学 | 年間有病率約8%、女性に多い(4:1)、家族性約40% リスク因子:若年(加齢で軽快)、家族歴 |
病態 | ストレスなどでセロトニンが増加し血管が収縮。その後、セロトニンが枯渇すると血管が拡張し拍動性頭痛が生じる。 【誘発・増悪因子】急に血管拡張して悪化 体調関連:ストレス、疲れ、睡眠不足、睡眠過多、月経、ストレス解放(週末) 食事関連:アルコール(特にワイン)、チーズ、チョコレート 環境関連:気温や気圧の変化、入浴、天候の変化 |
症状 | ①約30%に前兆:多くは閃輝暗点(キラキラと歯車状に輝く視野欠損)など ②拍動性頭痛(半数は拍動性なし) ③片側性が多い:両側性の場合(約40%)もある ④日常動作で頭痛増悪:暗所での安静を好む その他:悪心・嘔吐、光・音・臭に過敏(そっとしておいてあげる) |
補助 | 【POUNDスコア】以下、4項目以上当てはまると片頭痛らしい Pulsating:拍動性 hOur:持続時間が約3時間〜3日 Unilateral:片側性、繰り返す場合は左右変わることが多い Nausea:嘔気嘔吐 Disabling:日常生活への支障 |
治療 | 薬物内服後2時間後に頭痛の消失もしくは明らかな軽減があれば効果ありと判断 |
①アセトアミノフェン or NSAIDs:軽症〜中等症の場合に使用 例)アセトアミノフェン500mg 頓服 |
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②トリプタン(セロトニン受容体刺激薬):中等症〜重度・NSAIDs無効に使用 禁忌(血管収縮作用があるため):脳血管障害、虚血性心疾患、コントロール不良の高血圧、MAO阻害薬・プロプラノロール使用者 原則、頭痛を自覚し始めたら服用(前兆のみでは効果がないことも多い) 例)スマトリプタン点鼻1回20mg 2時間以上空けて1日2回まで 例)スマトリプタン50mg頓服 2時間以上空けて1日2回まで |
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③嘔気:メトクロプラミド10mg静注、ドンペリドン10mg頓服 | |
予防 | 近年、CGRP製剤が予防薬として注目されているが、薬価高いので患者と要相談 |
①β遮断薬 例)プラプロノロール10mg 1回1〜6錠 1日1回 |
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②抗てんかん薬 例)バルプロ酸200mg 1回2〜3錠 1日2〜3回 |
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③抗うつ薬 例)アミトリプチリン10mg 1回1〜6錠 1日1〜3回 |
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④Ca拮抗薬 例)ロメリジン5mg 1回2〜4錠 1日2回 |
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⑤ACE阻害薬 例)カンデサルタン4mg 1日2〜3錠 1日1回 |
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⑥GCRP製剤:反復性および慢性片頭痛に対する予防薬 例)ガルカネズマブ皮下注120mg(初回のみ240mg) 月1回 |
緊張型頭痛 TTH
疫学 | 有病率約20%(頭痛で最多)、男女比1:1 リスク因子:VDT作業、同一姿勢の作業、各種ストレス |
病態 | 姿勢異常(VDT作業)・外部環境・ストレスなどが誘引となり後頭部〜肩甲骨にかけての持続的な緊張によって生じる両側性の頭痛。基本的に悪心・嘔吐は伴わない。 |
症状 | ①両側性の圧迫感・締めつけ感・頭重感(生活に大きな支障はない程度)。 ②数十分〜数日痛みが続くが、特に夕方に増悪する。天候依存性のものもある。 その他:肩こり(肩甲骨周囲のストレッチが有効)、眼精疲労 |
検査 | |
治療 | NSAIDs、運動・ストレッチ・入浴・マッサージで緊張をとる |
予防 | ①筋弛緩薬 例)エペリゾン(ミオナール®)1回50mg 1日3回 例)チザニジン(テルネリン®)1回1〜3mg 1日3回 ②抗不安薬 |
群発頭痛
疫学 | 若年男性に好発、有病率0.1% リスク因子:飲酒、血管拡張薬などで悪化する |
病態 | 原因不明。周期性があり、毎年同じ季節、同じ月、同じ時間帯に発症する。 発作が起こる群発期(数週〜数ヶ月)と発作が起こらない寛解期(数ヶ月〜数年)が存在 |
症状 | ①片側の眼窩部〜側頭部に激しい頭痛、深夜に起こりやすい(両側性はない) ②1回15分〜3時間持続し、1日2〜8回生じる(片頭痛より持続時間が短いのが特徴) ③頭痛と同側の流涙、結膜充血、鼻漏や鼻閉、眼瞼浮腫、発汗などの自律神経症状 ④痛みでじっとしていられず動き回る(片頭痛はじっとしている) |
治療 | ①100%酸素(7L/分以上)を15分以上吸入 ②スマトリプタン注 1回3mg皮下注 1時間以上あけて1日2回まで |
予防 | Ca拮抗薬(ベラパミル)、ステロイド |
④SNOOOPEEに1つ以上該当する場合(緊急対応が必要な二次性頭痛)
髄膜炎、脳炎、脳膿瘍 | 発熱、嘔気嘔吐、意識障害、髄膜刺激徴候 |
脳腫瘍、髄膜播種、水頭症、脳ヘルニア | 起床時の頭痛、増悪傾向の頭痛、悪性腫瘍の既往、けいれん、嘔気嘔吐、神経異常所見 |
急性緑内障発作・眼内炎 | 自律神経症状を伴う眼痛、視野障害、毛様充血、散瞳 |
巨細胞性動脈炎 | 発熱、視力障害、顎跛行、側頭動脈の硬結怒張、PMRの既往 |
顔面帯状疱疹(V1) | 神経痛、皮疹、発熱、眼球運動障害 |
眼窩蜂窩織炎 | 同上 |
高血圧緊急症 | めまい、嘔気嘔吐、腎機能障害 |
低血糖 |
脳血管疾患を除外
S | 頭痛の性状:人生最悪の頭痛、突然の強い頭痛、普段とは違う頭痛、雷鳴様頭痛 ※雷鳴様頭痛(突然発症で1分以内に強い痛みのピークに達する)→SAH・脳出血疑い 既往歴:初めての頭痛、頭部外傷後、高血圧 神経学的所見:意識障害、けいれん、失語、構音障害、麻痺、感覚障害・痺れ |
O | Cushing現象(+) 脳血管疾患を疑う場合は早期に頭部CT→原因がわからない場合は頭部MRIを検討 |
【頭痛を起こす脳血管疾患】
くも膜下出血 | 雷鳴様頭痛、増悪傾向、警告頭痛、嘔気嘔吐 |
脳内出血 | 雷鳴様頭痛、増悪傾向、眼球偏位 |
硬膜下/外血腫 | |
椎骨動脈解離 | 雷鳴様頭痛、後頸部〜後頭部に突然の激痛 |
下垂体卒中 | 雷鳴様頭痛 |
脳静脈洞血栓症 | 雷鳴様頭痛 |
RCVS | 雷鳴様頭痛 |
PRES | 雷鳴様頭痛 |
脳梗塞 | 脳梗塞は基本的に頭痛はないが、動脈解離の場合は頭痛が生じる |
RCVS:可逆性脳血管攣縮症候群、PRES:可逆性後白質脳症症候群
緊急対応が必要でなさそうな二次性頭痛の鑑別
問診、身体診察 | ||
耳 | 中耳炎 | |
鼻 | 副鼻腔炎 | |
神経 | 後頭神経痛 | |
三叉神経痛 | ||
骨 | 骨折・外傷 | |
顎関節炎 | ||
皮膚 | 丹毒・蜂窩織炎 | |
口 | う歯、歯根膿瘍 | |
他 | 薬物使用過多頭痛 | NSAIDs・AA・トリプタンを2〜3日に1回以上、3ヶ月以上使用 |
中毒性 | アルコール、カフェインなど | |
CO2貯留 | 睡眠時無呼吸症候群、CO中毒:火事、ストーブのついた室内 |
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