麻酔薬

麻酔科

痛みの分類 痛み→交感神経亢進→筋収縮→血流低下→組織酸素欠乏→発痛物質産生!

侵害受容性疼痛 【内臓痛】臓器の伸縮により生じる痛みで、範囲が曖昧 【体性痛】皮膚、関節、筋などが炎症や外傷により生じる痛みで、範囲は限局的
神経障害性疼痛 電撃痛や灼ける様な痛みで、範囲が神経分布に沿って出る 鎮痛薬+抗うつ薬・抗痙攣薬・抗不整脈薬・NMDA拮抗薬・ステロイド
心因性疼痛  

WHO除痛ラダー 詳細は麻薬性鎮痛薬を参照。 <4原則> ①経口的に、②時刻を決めて規則正しく、③患者ごとの個別的な量で、④そのうえで細かい配慮

軽度の痛み NSAIDs、アセトアミノフェン
中等度の痛み コデイン、トラマドール、ブプレノルフィン、ペンタゾシン、レバロルファン
強度の痛み モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン、ヒドロモルフォン、タペタドール

局所麻酔薬

  作用発現 排泄 アレルギー反応
アミド型 早い:pKaが低く非イオン型の割合が多くなるため エステル型より遅い:肝臓(CYP)で分解されるため エステル型と比べ
エステル型 遅い:pKaが高くイオン型の割合が多いため 早い:大部分は血中エステラーゼによって分解される 血中の偽ChEによって分解され、分解産物によるアレルギー反応を起こしやすい

アミド型中時間作用型(1.5~2時間)

一般名 先発名 特徴
リドカイン キシロカイン注 ペンレステープ 表面麻酔・浸潤麻酔・硬膜外麻酔によく使用される 作用発現まで1分、作用時間は1.5時間+筋弛緩作用
リドカイン +プロピトカイン エムラクリーム/パッチ 皮膚に対する透過性が優れる。 【使用方法】 予定部位に60分間貼付(ODT)
メピバカイン カルボカイン注 浸潤麻酔・伝達麻酔・硬膜外麻酔のみに使用できる 作用発現まで1分、作用時間は1.7時間+筋弛緩作用

アミド型長時間作用型(2~3時間)

一般名 先発名 特徴
ブピバカイン マーカイン注 表面麻酔以外は使用可能 作用発現まで1分、作用時間は3時間
レボブピバカイン ポプスカイン注 浸潤麻酔・伝達麻酔・硬膜外麻酔のみに使用できる 作用発現まで1分、作用時間は3時間 【利点】ブピバカインより心毒性・CNSへの副作用低い
ロピバカイン アナペイン注 浸潤麻酔・伝達麻酔・硬膜外麻酔のみに使用できる 作用発現まで1分、作用時間は2.5時間 【利点】ブピバカインより心毒性低い、分離麻酔しやすい
ジブカイン ネオビタカイン注 作用発現まで10分、作用時間は2.5時間 毒性が強いためほぼ使われなくなった
オキセサゼイン ストロカイン錠 胃粘膜局所麻酔薬 【注】長期連続投与は避ける

エステル型

一般名 先発名 特徴
プロカイン ロカイン注 浸潤麻酔・脊麻のみに使用できる 作用発現まで1分、作用時間は1時間 【欠点】メトヘモグロビン血症
テトラカイン テトカイン注 脊麻のみに使用できる 作用発現まで1分、作用時間2.5時間
パラブチルアミノ安息香酸 テーカイン末  
アミノ安息香酸  
ピペリジノアセチルアミノ安息香酸 スルカイン錠  
コカイン 表面麻酔のみに使用できる 作用発現まで1分、作用時間は1分 現在はあまり使われない

吸入麻酔薬

作用機序 機序はよくわかっていない! 吸入→肺→血中に溶解→中枢神経系の広範囲のニューロンに作用→全身麻酔作用と考えられており、他の薬剤に比べて特異性が高くない。臓器血流を変化させる作用がある。例えば、肝・腎・腸管の血流を減少させ、筋・皮膚・脳への血流は増加させる。 揮発性麻酔薬は呼吸抑制作用、気管支拡張作用、血管拡張作用を有する。 作用発現まで約20分かかる!
使用法 1.3MACを投与し、バイタルを見て鎮静が得られない場合は追加投与する。
副作用 【体温低下】交感神経が抑制され、血管拡張が起こるため熱が逃げやすくなる。 【肺内シャント増加】吸入麻酔薬は虚脱した肺胞における低酸素性肺血管収縮(HPCV)を抑制し、肺胞上の血流を減らさないため。 【悪性高熱】下記参照

最小肺胞濃度(MAC)

MAC=皮膚切開時に50%の人が体を動かさないときの肺胞内の吸入麻酔薬濃度(ED50)。つまり、MAC=吸入麻酔薬の強さ(力価)であり、MACが小さいほど麻酔作用は導入・拡散が早い。また、MACは患者の状態によっても左右され、特にオピオイド併用時は低下する。 年齢が増加すると吸入麻酔がかかりやすく、年齢が若いとかかりにくい傾向がある。

血液ガス分配係数

37度、1気圧で血液1mLに溶ける麻酔ガス量(mL)、つまり、吸入麻酔薬の血液への溶けやすさを表している。血液ガス分配係数が小さいほど、ガスが血液に溶けにくく、すぐに脳にガスが移行するため麻酔導入時間や覚醒が早い。 MAC-awake:50%のヒトが覚醒する濃度(だいたいMAC×1/3)MAC-awakeの1.75倍で99.6%の人が覚醒しないということになる。2×MAC-awake=0.66MACのため、0.7MACくらいで麻酔を管理する。

  MAC MAC-awake 術中管理 血液ガス分配係数
亜酸化窒素 105% 71% 0.47mL
セボフルラン 1.7% 0.63% 1.2% 0.65mL
イソフルラン 1.2% 0.43% 0.8% 1.4mL
デスフルラン 6% 2% 4.2% 0.45mL

吸入麻酔の導入と維持 導入時の麻酔薬分圧は肺胞>血中>中枢神経系であるが、維持期では肺胞=血中=中枢神経系で平衡状態となり麻酔導入が完了したこととなる。 心拍出量が少ないと導入時間が早くなる(新幹線よりどんこ電車の方が物を渡しやすい原理)。また、肥満・妊婦・COPD患者は機能的残気量が減少するので導入時間は早くなる(ただし、肥満は脂肪組織に麻酔薬が残るため覚醒は遅い)。

ガス麻酔薬

常温・常圧で気体のため、ボンベより直接吸入

一般名 先発名 特徴
亜酸化窒素 笑気ガス 無味無臭。軽度の鎮痛作用。揮発性麻酔薬と併用すると二次ガス効果が期待できる。 酸素と併用して使用するため酸素濃度モニタリングが必須、笑気投与終了後しばらく酸素のみの投与が必要。 【利点】血液ガス分配係数が小さく導入・覚醒が早い。 【欠点】閉鎖腔内圧上昇のため肺気腫、腸閉塞、自然気胸、眼球内ガス、頭蓋内空気などは禁忌。長期連用により骨髄抑制が起こる。温室効果ガスのため使用を制限する傾向にある。

揮発性麻酔薬

常温で液体のため専用の気化器を使用したのち吸入。

一般名 先発名 特徴
セボフルラン セボフレン吸入麻酔 交感神経を抑制して血管拡張作用→血圧↓ 【利点】強い気管支拡張作用あり(喘息重積発作にも有効) 気道刺激性が弱く、麻酔導入の吸入麻酔薬として最も使用されている
イソフルラン フォーレン吸入麻酔 【利点】脳血流増加を抑制するため脳外科手術で有用 【欠点】麻酔覚醒が遅いため現在ほとんど使われない
デスフルラン スープレン吸入麻酔 交感神経を抑制して血管拡張作用→血圧↓ 【利点】導入・覚醒が最も速い! 【欠点】気道刺激性が強く、VIMAには使用できない。特殊な気化器が必須のため使用できる施設が限られる

静脈麻酔薬

長時間投与によってバルビツール酸系やベンゾジアゼピン系は蓄積して覚醒しづらくなる。他方、ケタミンやプロポフォールは蓄積しにくい。

プロポフォール

作用機序 GABAA 受容体の作用増強+NMDA受容体を抑制することによって中枢神経系を抑制する。そのため、呼吸中枢の抑制を起こす。また、血管拡張や心拍数低下による血圧低下のため心臓機能が良好な症例に限る。
禁忌 卵・大豆アレルギー患者。小児への大量投与。
プロポフォール 注入症候群 大量のプロポフォールの長期間使用することによってミトコンドリアの障害が起こり遊離脂肪酸代謝不全が起こる。その結果、代謝性アシドーシス、横紋筋融解症、高K血症、急性心不全といった致死的な症状を引き起こす。
一般名 先発名 特徴
プロポフォール ディプリバン注 【利点】超短時間作用型で脂溶性が高くBBBを通過して作用発現が速い+半減期が短いため持続時間が短く蓄積しないため導入だけでなく維持にも使用できる。 【欠点】血管痛を起こす(投与前に鎮痛薬投与)。 【ADME】グルクロン酸抱合されたのち尿中排泄

バルビツール酸系(バルビツレート)

バルビツール酸系の作用機序と副作用はこちらを参照。

一般名 先発名 特徴
チアミラール イソゾール注 チトゾール注 超短時間作用型のため麻酔導入に使用可能。 チオペンタールとほぼ同じ作用。
チオペンタール ラボナール注 【利点】超短時間作用型で投与約1分で脳に分布するため作用発現が早く麻酔導入に使用 。心収縮力低下や血管拡張作用により血圧低下を起こすため頭蓋内圧亢進患者に最適。 【欠点】副交感神経刺激のため喘息誘発、喉頭痙攣などを起こす。呼吸中枢を抑制し、舌根沈下を起こす。半減期は12時間と長く、持続投与では体内蓄積して覚醒遅延を起こす。副作用の面からあまり用いられなくなってきた。

ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系の作用機序と副作用はこちらを参照。 心収縮力低下や血管拡張作用が軽度であるため心機能が低下した患者の麻酔に向いている

一般名 先発名 特徴
レミマゾラム アネレム静注 超短時間作用型(半減期は45分)
ミダゾラム ドルミカム注 短時間作用型(約5分で効果発現し、半減期は数時間) 【利点】血管痛がない。 【欠点】呼吸抑制作用がある。
ジアゼパム セルシン注 長時間作用型(半減期は1日〜1日半)。脂溶性。 【利点】MACを低下させるため吸入麻酔薬の量を減らせる。強い抗痙攣作用もある。 【欠点】血管痛を起こすことがある。

フェンサイクリジン系

作用機序 NMDA受容体を阻害し、新皮質と視床のみを抑制する。逆に辺縁系と網様体賦活系を亢進させる(解離性麻酔薬)。交感神経系を刺激するため、頻脈・血圧上昇、気管支拡張が起こる。皮膚や粘膜由来の痛み(体性痛)に有効。
副作用 解離性麻酔薬のため成人では幻覚・悪夢を見ることが多い→覚醒時の不快感。 血圧を上昇させるため頭蓋内圧亢進(脳血管拡張作用のため)、眼圧上昇てんかんの既往(辺縁系・網様体賦活系を亢進させるため)のあるものには禁忌
一般名 先発薬品名 特徴
ケタミン ケタラール注 主に麻酔導入に用いる。 【利点】呼吸抑制を起こしにくい。気管支喘息に使える 【欠点】唾液・気道分泌が亢進する(抗コリン薬の前投薬必要)。

ブチロフェノン系

一般名 先発名 特徴
ドロペリドール ドロレプタン注 鎮静作用はハロペリドールの15倍、クロルプロマジンの200倍

麻薬性鎮痛薬 その他の麻薬性鎮痛薬はこちらを参照。

一般名 先発名 特徴
ペチジン ぺチロルファン 鎮痛・麻酔補助に使用
ドロペリドール +フェンタニル配合 タラモナール 全身麻酔に使用
レミフェンタニル アルチバ静注 超短時間作用型。力価はフェンタニルと同じ。 【利点】作用発現は早く、かつ、組織・血漿中の非特異的エステラーゼによって速やかに代謝されるため蓄積せず作用時間が短い。そのため全身麻酔中に投与量を侵襲に合わせて適宜調節できる肝腎障害患者も使用可能。 【欠点】グリシンを含有するため静脈内投与のみ(くも膜下腔・硬膜外投与は禁忌!モルヒネやフェンタニルを使用)。徐脈・低血圧が起こりやすいため心機能低下症例では注意。

筋弛緩薬 末梢性筋弛緩薬はこちらを参照。 術中出血における輸液・成分輸血療法の適応 出血量に応じて投与製剤を変える。血液製剤の詳細はこちらを、輸液製剤はこちらを参照。

  出血量(g) 投与量
細胞外液剤 300〜800 出血量の3〜4倍
代用血漿剤 800〜1600 出血量と同量
濃厚赤血球・全血Alb 1500以上 血漿Alb3g/dL・Hb7g/dLを維持できる量
血小板濃厚液・新鮮凍結血漿 4000以上 適宜

鎮静薬

中枢性α2作動薬

【作用機序】橋の青斑核にある中枢性α2受容体を刺激して鎮静作用(自然な睡眠に近い)を示す。

一般名 先発名 特徴
デクスメデトミジン プレセデックス注 呼名に反応する。 【利点】鎮痛作用を併せ持ち呼吸抑制は少ない。

ベラドンナアルカロイド

一般名 先発名 特徴
スコポラミン ハイスコ皮下注 鎮静作用
麻酔科で用いる略語
心臓系 ABP Ambulatory Blood Pressure 動脈血圧
  ART Arterial line Aライン、動脈ライン
  CI Cardiac Index 心係数
  CCI continuous cardiac index 肺動脈カテーテルを用いた持続的心係数
  CO Cardiac Output 心拍出量
  CCO Continuous Cardiac Output 肺動脈カテーテルを用いた持続的心拍出量
  CVP Central Venous Pressure 中心静脈圧
  NIBP Non-invasive Blood Pressure カフを巻いて測定する非観血血圧
  PAP Pulmonary Artery Pressure 肺動脈圧
  PPV Pulse Pressure Variation 脈圧の変化率
  PR Pulse rate 脈拍数
  RVEF Right Ventricular Ejection Fraction 右室駆出分画(率)
  ScvO2 Central venous Oxygen Saturation 中心静脈血酸素飽和度(酸素消費量推定) 基準値:70%
  S-G Swan-Ganz(catheter) 肺動脈カテーテル
  SVRI Systemic Vascular Resistance Index 全末梢血管抵抗係数
  SVI Stroke Volume Index 一回拍出量係数(一回拍出量÷体表面積)
  SVV Stroke Volume Variation 一回拍出量変化(呼吸性変動を数値化) 大きいと呼吸による拍出量の変化が大きい
呼吸系 CMV Controlled Mechanical Ventilation 持続的強制換気
  CSV Continuous Spontaneous Ventilation 持続自発換気
  ETCO2 End Tidal CO2 呼吸CO2濃度
  NPPV Non-invasive Positive Pressure Ventilation 非侵襲的陽圧換気
  MV Minutes volume 分時換気量
  PC Pressure Control 従圧式調節換気(気道内圧保たれる)
  PEEP PositiveEnd-expiratory pressure 呼気終末陽圧
  PIP Peak Inspiratory Pressure 吸気時最高気道内圧
  PS(V) Pressure Support (Ventilation) 圧補助(換気)
  SIMV Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation 同期的間欠的強制的換気
  TV Tidal Volume 一回換気量
  VC Volume Control 従量式調節換気(TVが一定に保たれる)
その他 BIS Bispectral Index 麻酔深度・鎮静度を表す指標 40〜60が適切な麻酔深度
  ECLA Extracorporeal Lung Assist 体外式呼吸補助。V-V ECMOのこと
  Epi Epidural(Catheter) 硬膜外カテーテル
  PCPS Percutaneous Cardiopulmonary Support device V-A ECMO(静脈脱血ー動脈送血 膜型人工肺)のこと
  RASS Richmond agitation-sedation scale 人工呼吸管理下で鎮静深度評価を行うために使用する鎮静スケール
  TOF Train Of Four 四連反応比刺激(筋弛緩の程度の指標)
麻酔科の歴史 世界初の全身麻酔薬は、和歌山県出身の華岡青洲が開発した通仙散(1804年に乳癌手術に使用)。

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