内分泌(甲状腺疾患)

内分泌代謝科

甲状腺の解剖生理

解剖

甲状腺は嚥下運動によって上方へ移動する(唾を飲み込んでもらう)。

生理

  甲状腺ホルモンの作用
中枢神経 思考回転を早める
心臓 β1の発現を促進し、心拍数↑心拍出量↑
代謝亢進 熱産生↑、酸素消費量↑ 蛋白質分解・脂質分解↑ 血清コレステロール↓(LDL受容体の発現促進) 消化管からの糖質吸収促進
身体発育 GHの発現促進→成長促進 骨成熟の促進

甲状腺中毒症

甲状腺中毒症の分類

  全般性 限局性
甲状腺機能亢進症 Basedow病
(自己免疫性)
Plummer病
(腫瘍性+限局性)
甲状腺破壊性
(=漏出性)
無痛性甲状腺炎(自己免疫性)
薬剤性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎
(ウイルス性+限局性)

①甲状腺中毒症の症状

中枢神経 イライラ、振戦、不眠、アキレス腱反射↑
心臓 動悸、頻脈、AF、高血圧
代謝亢進 暑がり・体温上昇、発汗過多・皮膚湿潤、食欲亢進、下痢、体重減少
生殖器 月経異常(月経周期の全期間において血中LHが上昇しLHサージが起こらない)

②甲状腺中毒症の検査・診断

TRAb:TSH受容体抗体、TSAb:TSH刺激性受容体抗体

①スクリーニング TSH・FT4を測定し、FT4↑TSH↓なら②へ
②TRAb測定 TRAb陽性→Basedow病が確定
  TRAb陰性の際は、TSAbを測定することが多い
③甲状腺エコー 結節の有無、血流増加の有無
④シンチグラフィー びまん性摂取率上昇→Basedow病
  結節性摂取率上昇(hot nodule)→Plummer病
  摂取率低下+CRP↑圧痛あり→亜急性甲状腺炎
  摂取率低下→無痛性甲状腺炎

甲状腺クリーゼ

病態 甲状腺機能亢進症を基礎疾患に持つ患者が、感染などを契機に甲状腺機能の急激かつ 極度に亢進することにより生命の危機に直面した状態。(放置すれば死)
症状 中枢神経症状(せん妄、傾眠、不穏、昏睡)、発汗過多 高熱(38度以上)、頻脈:130回/分以上、心不全、消化器症状(下痢、嘔吐)
治療 ①全身管理(気道確保+輸液+冷却)
②大量無機ヨード(即効性があり一過性にT4↓)ステロイド(末梢でT4→T3変換抑制)+大量の抗甲状腺薬(遅効性)+β遮断薬(高度な洞性頻脈を抑制)

Basedow病(Graves病)

疫学 20〜30歳代女性に好発(4:1)、400~500人に1人
病態 自己免疫応答により産生された抗TSH受容体抗体(TRAb)がTSH受容体を刺激し続ける疾患。産後に増悪しやすい。また、本症の母親から生まれた新生児は一過性の甲状腺機能亢進症を起こすことがある(TRAbが胎盤を通過するため)。 不完全治療、手術、感染、ストレスなどによって甲状腺クリーゼが誘発される。
症状 Merseburg三徴(全て症状が揃うことは多くない)
①びまん性甲状腺腫:TRAbが甲状腺を刺激し続けるため
②眼球突出:眼窩部球後組織にもTSH受容体があるため球後組織が外眼筋と癒着して複視が生じる。
③頻脈:心房細動もしばしば生じる
④甲状腺中毒症状:振戦など
その他:高回転型の骨粗鬆症、瞼裂開大、低K性周期性四肢麻痺
検査 【血液検査】
FT3↑、FT4↑、TSH(早期から反応)、T-Chol骨型ALP値↑、血糖↑(食後一過性が多い)、TRAb陽性(ほぼ全例陽性)、抗甲状腺抗体、抗TPO抗体
【画像検査】
エコー:カラードプラで血流↑
123ヨードシンチ:I取り込み増加
【心電図】
甲状腺ホルモン投与開始前に虚血性疾患や心房細動の有無を評価が必須
治療 【薬物療法】
抗甲状腺薬:緩徐に増量しながら数ヵ月~半年で正常化を目指し、機能が正常化しても1〜2年は維持投与し、TRAb陰転化を待つ。投与初期に無顆粒球症を生じうるため、発熱に注意して血算をフォローする。プロピルチオウラシルはANCA関連血管炎にも注意する。
例)チアマゾール(メルカゾール®)
例)プロピルチオウラシル(プロパジール®):妊娠予定、妊娠中、授乳中の場合
②効果が不十分な場合:無機ヨード(ヨウ化K)を内服
③β遮断薬:動悸・振戦など甲状腺中毒症状
例)プロプラノロール(インデラル®)10mg 1回1錠 1日3回
【薬物療法が無効の場合】
手術:甲状腺の亜全摘し、残存した甲状腺でホルモンを維持 (術後合併症:反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症、出血、咽頭浮腫など)
放射性療法:131ヨード内服(5歳以下、妊婦、授乳婦、挙児希望者には禁忌)

低K性周期性四肢麻痺

疫学 甲状腺機能亢進症の若年男性に好発(30:1)、東洋人の男性に多い
病態 主に甲状腺機能亢進に伴いNa-Kポンプがフル回転し、Kが大量に細胞内に移動して低K血症となる。その結果、静止膜電位が上昇し、神経からの興奮がきても脱分極が起こらず弛緩性麻痺生じる。
遺伝性:L型Caチャネル遺伝子の変異
二次性:甲状腺機能亢進症、原発性Ald症、偽性Ald症、Batter症候群、尿細管性アシドーシス、利尿薬(ループ/サイアザイド系)
症状 ①甲状腺中毒期に伴う反復する脱力発作:低K血症時に下肢近位筋から始まる四肢脱力が数時間〜数日間持続。発作は運動して数時間後の休息時や過食・飲酒後の明け方に起こりやすい(インスリン・糖・Kが一緒に細胞内に入るため)
検査 【血液検査】発作時の低K血症CK↑(正常の場合もある)
治療 発作時:カリウム含有の補液、または塩化K内服
予防:アセタゾラミド(機序不明)、トリアムテレン(K保持性利尿薬)

Plummer病

病態 甲状腺ホルモン産生の結節性腺腫(稀な疾患)
症状 甲状腺中毒症症状
検査 【画像検査】
123ヨードシンチ:I取り込み↑、結節に一致した123ヨードの集積(hot nodule)
治療 腫瘍摘出術(甲状腺の亜全摘)

無痛性甲状腺炎

病態 慢性甲状腺炎(橋本病)の経過中に抗Tg抗体や抗TPO抗体が濾胞破壊が生じ、一過性の甲状腺中毒症を示す疾患。
症状 炎症(ー)、びまん性甲状腺腫+
検査 【血液検査】
抗サイログロブリン抗体(+)、抗ペルオキシダーゼ抗体(+)、 TRAb(ー)、FT3↑FT4↑、TSH↓
【画像検査】
エコー:カラードプラで血流↓
123ヨードシンチ:I取り込み↓
治療 経過観察、動悸・振戦にはβ遮断薬。
抗甲状腺薬は禁忌:炎症が消退後の一過性の甲状腺機能低下をさらに悪化させるため

亜急性甲状腺炎

疫学 30〜50代の女性に好発。
病態 感冒様の先行感染(おそらくウイルス感染)の後に、濾胞破壊により甲状腺ホルモンの血中への逸脱を生じる非化膿性の有痛性甲状腺炎。無治療でも2〜4ヶ月で自然治癒する。 約20%が回復期に炎症が再燃する。約10%が甲状腺機能低下症に移行する。
症状 ①感冒様症状の1〜2週間後、前頸部に激痛(下顎部や耳介後部にも放散)、発熱 炎症の波及に伴い、疼痛部位が反対側の甲状腺へ移動する(クリーピング現象)
圧痛を伴う結節性甲状腺腫+硬
③甲状腺中毒症症状:動悸、頻脈
検査 【血液検査】
CRP↑赤沈↑、FT4↑TSH↓、Tg↑
【画像検査】
前頸部エコー:甲状腺内部に不均一な低エコー領域あり、甲状腺内での炎症の波及に伴い低エコー領域が反対側の甲状腺へ移動する(クリーピング現象)
123ヨードシンチ:I取り込み↓
治療 ①発熱・疼痛に対してNSAIDs、効果不十分ならステロイド内服
②動悸・頻脈:β遮断薬
抗甲状腺薬は禁忌:炎症が消退後の一過性の甲状腺機能低下をさらに悪化させるため

妊娠時一過性甲状腺機能亢進症

病態 妊娠第1期(10週前後)は胎盤からhCGが分泌され、hCGがTSH受容体を刺激して甲状腺機能亢進症を引き起こす。
症状 甲状腺中毒症状
検査 【身体検査】 触診:甲状腺腫大(ー)
【血液検査】 hCG↑↑、抗TSH抗体(ー)
治療 経過観察

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症の症状

代謝低下 精神活動↓(思考停止、記名力低下、無気力)、脱毛 寒がる・低体温、発汗不足・皮膚乾燥、便秘、食欲低下、易疲労感 アキレス腱反射弛緩相の遅延(Lambert徴候)
心臓 徐脈、低血圧、心肥大、心嚢液貯留
ムコ多糖沈着 皮膚粘液水腫(non-pitting edema)、眼瞼浮腫、無関心様表情、巨大舌、嗄声(声帯に蓄積)、筋力低下(筋に蓄積、CK↑)、T-Chol↑、体重増加

甲状腺機能低下症の分類

まずはスクリーングで中枢性(TSH↓)か原発性(TSH↑)の評価を行う

  TRH TSH T4 原因
視床下部性 胚芽種、頭蓋咽頭腫
下垂体性 Sheehan症候群、非機能性の下垂体腺腫
原発性 慢性甲状腺炎(橋本病)、ヨード過剰摂取、甲状腺術後
甲状腺機能低下症の大半は橋本病。先天性甲状腺機能低下症はクレチン症という。

原発性甲状腺機能低下症の鑑別

臨床症状 一過性ではないか1〜3ヶ月で再検査
Tg抗体・TPO抗体 陽性なら橋本病、慢性甲状腺炎
薬剤性 以下の薬剤摂取していないか

薬剤性甲状腺機能低下

①リチウム ヨードと同様に甲状腺ホルモンの放出を抑制あるいは合成を阻害する
②ステロイド T4→T3への変換を阻害する(亜急性甲状腺炎では治療として使う)
③β遮断薬 同上
④アミオダロン 大量のヨードを含んでいるため甲状腺機能を低下させる

粘液水腫性昏睡

病態 長期にわたり未治療あるいは十分な治療を受けていない甲状腺機能低下症の患者に、感染症・寒冷曝露など何らかの誘因が加わり、甲状腺ホルモン欠乏に対する生体の代償機構が破綻した状態である。原因は橋本病が多い。
症状 低体温・呼吸不全・循環不全・意識障害などをはじめとした多臓器の機能不全
治療 T4補充

慢性甲状腺炎 Chronic thyroiditis(≒橋本病)

疫学 30〜40歳の女性に好発。 潜在性のものを含めると成人女性の約10%(10人に1人)が橋本病と推定されている。
病態 自己免疫応答により産生された抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)・抗TPO抗体などが甲状腺を破壊し、甲状腺機能を低下させる疾患。 橋本病とAddison病の合併はSchmidt症候群と呼ばれる。 【合併症】 高プロラクチン血症、自己免疫疾患(シェーグレン症候群、原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎、RA、SLE)、悪性リンパ腫、原発性副腎不全、悪性貧血
症状 代償期は無症状、非代償期には甲状腺ホルモン欠乏症状を呈する びまん性甲状腺腫+ゴム様硬(慢性炎症で線維化)
検査 【心電図】 虚血性疾患や心房細動の有無を評価
【血液検査】
コレステロール↑CK↑、カロテン↑、赤沈↑(γグロブリンが産生されるため)、LDH↑、AST↑、抗Tg抗体・抗TPO抗体陽性、 TSH↑→FT4↓→FT3↓の順に観察される 【画像検査】
エコー:内部エコー低下、ドプラで血流↓ 123ヨードシンチ:I取り込み↓
治療 甲状腺機能正常時には経過観察、機能低下時にはT4投与
※甲状腺ホルモンは心臓に負荷をかけるため、補充療法は少量より開始し徐々に増量する。また、投与開始前に心電図で虚血性疾患や心房細動の有無を評価することが重要!!
※治療経過中に甲状腺悪性リンパ腫の合併に注意する!

低T3症候群

病態 低栄養の状態や疾患により、血中TSHやT4は正常だが、T3だけが低くなる状態。 体内のエネルギーをなるべく消費しないようにする生体反応で、甲状腺自体には問題ない。
症状  
検査 血液検査
治療 原因疾患の治療

先天性甲状腺機能低下症(クレチン病)

疫学 新生児マススクリーニングで最多
病態 視床下部ー下垂体ー甲状腺のいずれかが障害され、甲状腺ホルモン合成能が先天的に低下し、身長の成長や知的な発達の障害をきたす疾患。Down症候群に合併することもある。
症状 新生児期:便秘、巨舌、遷延性黄疸など 乳児期:知能低下、低身長、骨年齢遅延など
検査 ①スクリーニング:TSH↑
②精密検査:TSH↑T3・T4↓、X線で大腿骨遠位端骨核が存在しない
治療 T4投与

甲状腺腫瘍

甲状腺腫瘍は約10%が悪性腫瘍で、残り90%は良性腫瘍、腺種様甲状腺腫、嚢胞である。

甲状腺悪性腫瘍

全ての組織型で女性に多い。腫瘤は硬く可動性が悪く、増大傾向→エコー&穿刺吸引細胞診(濾胞癌を除く)! 悪性度:未分化癌>髄様癌>悪性リンパ腫>瀘胞癌>乳頭癌

  乳頭癌 濾胞癌 未分化癌 悪性リンパ腫 髄様癌
頻度 約90% 約6% 約1% 約2% 約1%
病態 濾胞上皮由来 リンパ行性に転移 濾胞上皮由来 主に血行性転移し肺・骨・肝へ 濾胞上皮由来 炎症反応(+) 非Hodgkin、B細胞型が多い 橋本病に合併 傍濾胞細胞由来 家族性、MEN2が多い
症状 緩徐に腫大
結節性甲状腺腫
緩徐に腫大 急速に腫大
疼痛・発赤
比較的急速に腫大 比較的緩徐に腫大
画像 検査 点状高エコー像砂粒状石灰化     甲状腺内に著明な低エコー域 間質にアミロイド沈着
血液 検査 再発すると血清Tg↑ 再発すると血清Tg↑ CRP↑ (炎症あり) 抗Tg抗体↑
抗TPO抗体↑
カルシトニン↑
CEA↑
治療 手術→131I内服 手術 ケモラジ ケモラジ 手術
10年後生存率 90%以上 良好 約80% 比較的良好 約0% 不良 約50〜70% やや不良 約60% やや不良

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