循環器各論(血圧異常)

循環器

高血圧の診察

①高血圧の診断

定義 診察室血圧が140/90以上、家庭血圧が135/85以上で高血圧(高血圧治療ガイドライン)
目的 高血圧は動脈硬化を進行させ、細い血管の多い臓器である①心疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全)、②脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)、③腎硬化症、④眼疾患(高血圧性網膜症、眼底出血)を引き起こすため、降圧して合併症を予防する。
注意 血圧は種々の原因で変動するため、高血圧緊急症・切迫症に該当しなければ少なくとも1〜2週間程度家庭血圧の記録を付けてもらい、その値を持って診断・治療方針を決定するのが望ましい。

②高血圧緊急症(旧 悪性高血圧)を除外

定義 高血圧とともに新たな or 進行した臓器障害がある場合(妊婦を除く)
血圧 sBP180 or dBP120以上であることが多い
鑑別 高血圧性脳症緩徐進行性頭痛、嘔気、視覚障害、けいれん、意識障害など
脳血管障害、③ACS、④大動脈解離、⑤心不全、⑥腎不全、⑦子癇(妊婦)
検査 ①血液検査:CK・トロポニンⅠ→心筋梗塞を除外、BNP→心不全を除外
②尿検査:尿蛋白・血尿→腎不全を除外
③心電図:STEMIを除外
④頭部CT・MRI:脳血管障害を除外
⑤胸腹部CT:大動脈解離を除外
治療 【高血圧緊急症】ICUに入院して静注降圧薬による速やかな降圧が必要
急性脳梗塞、大動脈解離を除いて平均血圧を最初の1時間は10〜20%、続く23時間で5〜15%低下させることを目標にする(急速な降圧は臓器の虚血性障害を引き起こす)。目標の血圧に達して8〜24時間経過したら、経口薬の内服を開始し、静注薬を漸減・中止する。
例)ニカルジピン25mg 2mL+生食225mL 15〜30mL/hrで開始
  高血圧切迫症】数日以内に内服で降圧
臓器症状を伴わない高血圧切迫症の場合、院内で内服させ、静かな環境で数時間安静にして再検後に帰宅
  一過性高血圧
不安や頭痛など痛みなど理由があり、一過性に血圧が上昇するため原因を取り除くと血圧が下がる。原因が痛みなら鎮痛薬、不安ならエチゾラム0.5mg頓服させる。

③本態性高血圧

原因 遺伝的要因+環境要因で30歳代から加齢に伴い血圧が上昇する。
・遺伝的要因:家族歴を確認
・環境要因: ①食塩過剰摂取、②肥満、③アルコール多飲、④喫煙、⑤運動不足
問診 喫煙、脳心血管病既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、尿蛋白のあるCKD
初診
検査
①血液検査:TC、TG、HDL、Glu、HbA1c、尿酸
②尿検査:尿定性(尿蛋白の有無)、尿Na・尿Cre(1日推定食塩摂取量算出)
③心電図
④胸部X線
評価① ●診察室血圧に基づいた脳心血管病のリスク層別化とフォロー時期
評価② ●臓器障害の評価と追加検査
心電図異常、左室機能不全徴候あり→心エコー
頸動脈雑音、TIA・脳心血管疾患の既往あり→頸動脈エコー
・下肢閉塞性動脈疾患の症状 or SCORE systemで中リスク以上あり→ABI/PWV
・腎障害やAlb尿あり→腎ドプラエコー
Ⅱ〜Ⅲ度高血圧 or 糖尿病合併→眼底検査
院外
検査
【家庭血圧測定】
1日2回、起床後1時間以内就寝前(入浴直後は避ける)に測定。30分以上カフェイン摂取や喫煙を禁止した状態で2回測定し、その血圧の平均を求める(診察室血圧より家庭血圧を優先して判断)。原則、上腕式の血圧計を用いる。
【ABPM(携帯型24時間連続血圧記録)】
白衣高血圧や仮面高血圧が否定できない場合、二次性高血圧が疑われる場合、夜間高血圧や低血圧を疑う場合、発作性の高血圧が疑われる場合にABPMの実施を検討する。
治療
選択
高血圧かつ高リスクの場合は直ちに薬物治療を開始する
非薬物
療法
食事:DASH食
減塩:1日6g未満 (減塩味噌など)
減量:カロリー制限してBMI25未満+運動(毎日30分以上の有酸素運動)
節酒:純アルコール20g/日以下 (女性は10g/日以下)
禁煙:減煙ではなく禁煙
薬物
療法
●併存疾患により1stとなる降圧薬がある
※降圧薬は用量を増やしても効果が頭打ちになり、副作用は用量依存的に増加するため、単剤で目標達成できない場合は多剤併用が基本となる。
Ca拮抗薬:高度の心不全や徐脈には慎重投与
ARB・ACEI:妊婦に禁忌、高K血症や腎動脈狭窄症には慎重投与
サイアザイド系利尿薬:痛風、低Na・低K血症には慎重投与
④補助的にβ遮断薬、α1遮断薬、ARNI、MRAを使う場合もある
フォロー ●JSH2019を参照した降圧目標
降圧目標達成したら3ヶ月毎に受診、採血は半年〜1年に1回フォロー
※sBP120未満の過降圧は有害事象(失神、腎機能障害)を起こすこともあり、DMやCKDあっても120未満を目標にすべきではない

④二次性高血圧の可能性を評価

定義 治療可能な原因を背景とした高血圧(高血圧の約10%を占める)
らしさ ルーチンに検査するのではなく、以下の場合に二次性を考慮する
・家族歴や肥満歴のない30歳以下での高血圧発症
高齢での急性発症:前年まで正常だったが今年から出現など
高血圧緊急症:重症の高血圧
・治療抵抗性:利尿薬を含む異なる3剤を使用してもコントロール不良
・肥満、日中傾眠、いびき・無呼吸:SAS、Cushing症候群、甲状腺機能低下症
・全身の動脈硬化が強い:腎血管性高血圧
・利尿薬開始後の低K血症進行:原発性Ald症
・ACEI・ARB開始後のCr上昇:腎血管性高血圧
・急激な血圧変動やほてり:褐色細胞腫
鑑別 ①腎性高血圧:腎実質性高血圧(二次性で最多)、腎血管性高血圧
②内分泌性高血圧:原発性Ald症、Cushing症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能異常
③血管性高血圧:動脈硬化性大動脈狭窄症、線維筋性異形成、大動脈炎症候群
④その他:中枢神経系による高血圧、薬剤性高血圧、睡眠時無呼吸症候群 

【二次性高血圧の鑑別】赤字の割合が多い

  疾患 詳細 スクリーニング
全世代 薬剤性 NSAIDs、ステロイド、甘草、ピル お薬手帳
小児 腎実質性疾患 浮腫、検尿異常 尿検査、腎エコー
  大動脈縮窄症 上肢高血圧・下肢低血圧 心エコー、ABI
成人 甲状腺機能異常 頻脈、発汗、浮腫、こむら返り TSH・T4、甲エコー
  副甲状腺機能低下症 高Ca血症、低P血症 採血
  線維筋性異形成 腹部血管雑音、若年女性に多い 造影CT、腹エコー
  原発性Ald症 低K血症(約40%)、稀に脱力 ARR
  睡眠時無呼吸症候群 いびき・無呼吸、日中傾眠、肥満 ポリソムノグラフィ、ESS
  Cushing症候群 中心性肥満、満月様顔貌、糖尿病 少量DEX抑制試験
  褐色細胞腫 発作性頭痛、動悸、発汗、血圧変動 尿中メタネフリン
高齢者 動脈硬化性腎動脈狭窄症 ACEI・ARB開始後のCr上昇 造影CT、腹エコー
  腎実質性疾患・腎不全 Cr上昇、尿蛋白・尿潜血、尿円柱 腹エコー

起立性調節障害 OD:Orthostatic Dysregulation

疫学 思春期に好発
病態 起立直後の交感神経が作動せず、静脈還流量が維持できないため血圧が低下し、脳や全身への血液循環が不足する疾患。貧血、心疾患、てんかんなどの器質的疾患は除外する。
症状 立ちくらみ、失神、朝起きられない、午前中は調子が悪い、立っていると気分が悪い、乗り物酔いしやすい
検査 【起立負荷試験】10分間臥位→10分立位保持し、収縮期圧21以上低下、心拍数21回/分以上増加で陽性
治療 【自律神経鍛錬療法】時間をかけて起立する、運動で体を鍛える、塩分・水分を摂取するなどの生活改善を行う。成人すると症状は軽快することが多い。 【薬物療法】自律神経鍛錬療法で改善しない場合、ミドドリン、アメジニウム、ジヒドロエルゴタミンなどを投与する。

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