神経診察のルール
必ず患者の右側に立ち(右利きの場合)、以下の順に行うこと!
①病巣診断 | 大脳→脳幹→脊髄→末梢N→筋のどこが障害されているのか同定する ①脱力・麻痺:大脳→脳幹→脊髄→末梢N→神経筋接合部→筋 ②しびれ:大脳→脳幹→脊髄→末梢感覚神経 ③その他:膀胱直腸障害 ※慢性経過の場合はどの部分から障害されたか確認する |
ヒント | ・下肢近位筋力↓:階段の上り、風呂で浴槽をまたぐ動作が大変 ・上肢近位筋力↓:頭を洗う動作、重いものを持ち上げる動作が大変 ・上肢遠位筋力↓:ボタンを締めずらい、ペットボトルの蓋を開けられない ・小脳失調:コップに水を注ぐときにこぼれる、字を書くのが汚い |
②機序診断 | ①突然発症(何時何分何秒):血管障害、圧迫性病変、てんかん発作・心因性 ②急性〜亜急性発症(数日〜週単位):炎症、中毒、腫瘍、圧迫、代謝 ③慢性発症(月〜年単位):変性疾患、遺伝性 ④進行 or 停止:具体的な増悪エピソード(自立歩行から杖歩行になったなど) |
③臨床診断 | ①+②から臨床診断を行う |
④検査 | 血液検査、CT、MRI |
神経診察の詳細
認知機能の診察(大脳レベル)
わかること | |
見当識 | 時間・場所・人を認識できない場合は前頭葉障害が疑われる。 |
常識 | 「今の総理大臣は?」など常識が回答できない場合は前頭葉障害が疑われる。 |
計算 | 計算ができない場合は頭頂葉障害が疑われる。 |
近時記憶 | 「朝何食べた?」を回答できない場合は側頭葉障害が疑われる。 |
遠隔記憶 | 「卒業学校は?」を回答できない場合は大脳連合野の障害が疑われる。 |
脳神経系の診察
Ⅱ | 視野 | 周辺視野「片目を手で覆って視線を動かさず、動いた指を指差して」 中心視野「片目を手で覆って、この文字読んで」 ●視野欠損:視N→視交差→視索→後頭葉の病変 |
眼瞼下垂 | ●上眼瞼挙筋障害 ①挙筋自体の異常:先天性、眼筋ミオパチー、ミトコンドリア脳筋症 ②挙筋腱の伸展:加齢性、コンタクトレンズ ③動眼神経麻痺:動脈瘤(内頸動脈-後交通動脈分岐部、脳底動脈-上小脳動脈分岐部)、Weber症候群、糖尿病 ④神経筋接合部異常:重症筋無力症、ボツリヌス中毒 ●ミュラー筋障害 ⑤交感神経麻痺:Horner症候群 |
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Ⅲ/Ⅳ/Ⅵ | 眼位 眼球運動 |
「私の鼻を見てください」 「顔を動かさず、目だけでペンを追って」 ●片眼の眼位異常 ①片眼の内転:6病変→外直筋× ②片眼位の異常:3/4病変→支配外眼筋×(斜視の可能性もある) ●両眼の眼位異常 ③病側への共同偏視:被殻出血によりPPRFに伝わる神経線維が障害され、交差前の障害のため病側への共同偏視となる。 ④健側への共同偏視:小脳出血によりPPRF(橋)が圧迫され、交差後の障害のため健側への共同偏視となる。 ⑤鼻先凝視:視床出血により中脳のriMLFを圧迫し、上方視が障害され内下方の鼻先凝視となる。 ⑥正中位固定:橋出血により両側の神経線維が障害され正中位となる。 |
複視 | 「ペンは何本に見える」 ①動眼神経麻痺:糖尿病、IC-PC動脈瘤、脳底動脈瘤(後大脳動脈と上小脳動脈間)、脳腫瘍など ②外転神経麻痺:頭蓋内圧亢進時 ③神経・筋接合部の障害:重症筋無力症 ④脳幹梗塞:Weber症候群、MLF症候群、one-and-a-half症候群 |
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眼振 | ●眼振あり:中枢、小脳、前庭性の病変 | |
輻輳反射 | 「指先を見つめていて(寄り目になる?)」 ●寄り目にならない:中脳→動眼Nの病変 ※輻輳反射:視N→中脳(動眼N核)→動眼N→内直筋収縮により内転 |
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瞳孔不同 | ●瞳孔不同(患側縮瞳)あり、一側の眼瞼下垂、対光反射正常 Horner症候群(C8~T2の交感神経障害) ●瞳孔不同(患側散瞳)あり、一側の眼瞼下垂、対光反射消失(糖尿病性では生じない)、複視 動眼神経麻痺 ●瞳孔不同(患側散瞳)あり、対光反射消失 Adie症候群(瞳孔緊張症) |
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対光反射 | 「遠くの方を見ていて、目に光が入るよ」 ●縮瞳しない:視N→中脳→動眼Nの病変 直接対光反射(ー)間接対光反射(+):視N障害 直接対光反射(ー)間接対光反射(ー):動眼N障害 ※対光反射:視N→中脳(EW核)→動眼N→瞳孔括約筋収縮により縮瞳 |
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V | 顔面感覚 | 「額・頬・顎で左右差はある?(ティッシュ:触覚、アルコール綿ケースの角:温痛覚)」なければintact ①3領域すべてに感覚障害 中枢性:対側の感覚野→橋に病変がある ②3領域いずれかに感覚障害 末梢性:橋→三叉N一枝に病変 ※V1は角膜反射の求心路も司る(遠心路は顔面N支配) ※V3は咀嚼運動や舌前2/3の感覚も司る |
Ⅶ | 額の皺寄せ まつげ徴候 口角下垂 |
「上見て眉を挙げて額にシワを作って」 「目をギュッと閉じて」(閉眼運動:まつげ徴候) 「歯を見せながらイーってして」 ※構音障害によりパ行(口唇音)が言いにくい ①片方の口角のみ上がらない 中枢性:運動野→橋に病変がある ②片方のしわ寄せできない、まつ毛の睫毛の隠れ方に左右差あり(重度は兎眼)、片方の口角が上がらない 末梢性(Bell麻痺など):橋→顔面Nに病変がある |
Ⅷ | 耳鳴り、難聴 | 耳付近で指パッチンをして「聞こえますか?」 ●耳鳴り、難聴あり→難聴の鑑別へ 【Rinne試験】 振動させた音叉を乳様突起にあて、骨伝導で音が聴こえなくなったらすぐに外耳孔付近に移す。聴こえた場合はRinne陽性で正常 or 感音難聴、聴こえない場合はRinne陰性で伝音難聴。 【Weber試験】 振動させた音叉を前頭部にあて、どちら側の音が大きいか確認。正中なら正常、健側なら感音難聴、患側なら伝音難聴。 |
めまい | ●めまいあり→めまいの鑑別へ | |
Ⅸ/Ⅹ | 口蓋垂偏位 カーテン徴候 構音障害 嚥下障害 |
「口を開けてアーって言って」 ※構音障害によりガ行(喉音)が言いにくい ●軟口蓋が挙上せず健側へ口蓋垂の偏位あり ●後咽頭壁にヒダが健側へ偏位あり(カーテン徴候) 延髄→舌咽N・迷走Nのどこかが片側性に障害され、障害側の軟口蓋は挙上せず、健側に偏位 ※舌咽N障害の場合は舌後1/3の感覚も確認する 例)右側に偏位があれば、延髄→左舌咽N・左迷走Nのどこかに障害あり (支配筋は両側支配のため中枢の運動野→延髄までの病変はないと考えて良い) |
XⅡ | 舌偏位 舌萎縮 線維束性収縮 |
「舌を前に突き出して、左右に動かして」 ※線維束性収縮は舌を出す前に確認する ※構音障害によりラ行(舌音)が言いにくい ①舌偏位あり、舌萎縮・線維束性収縮がない 中枢性:運動野→延髄が片側性に障害され、障害部位と反対方向に偏位する 例)左側に偏位があれば、右脳の運動野→延髄のどこかに障害あり ②舌偏位あり、舌萎縮・線維束性収縮がある 末梢性:延髄→舌下Nが片側性に障害され、障害部位と同方向に偏位する 例)左側に偏位があれば、延髄→左舌下Nのどこかに障害あり ③舌が出ない 運動野→延髄→舌下Nまでが両側性に障害され生じる |
錐体路系&錐体外路(上肢)・小脳の診察
わかること | |
①不随意運動 | 「手を前に出してキープ」 ●不随意運動が生じる:錐体外路障害など ●安静時振戦:大脳基底核に障害があると静止時に振戦が生じる |
②バレー徴候 | 座位「指を閉じて手のひらを上にして。目をつぶってキープ」 ●回内しながら落下:中枢性の筋力低下 |
③筋トーヌス | 「力を抜いて、私が腕を動かすよ(肘関節・手関節・回内回外)」 ●歯車現象や鉛管現象あり(固縮):錐体外路障害 ●折りたたみナイフ現象あり(痙縮):錐体路障害 |
④鼻指鼻試験 | ●企図振戦(目標に近づいた時急に震えが増大):小脳協調運動障害 |
⑤回内・回外試験 | 「このようにキラキラ星を作るようにしてみて」 ●運動が遅い・回転軸が一定しない:小脳協調運動障害(反復拮抗運動×) |
⑥上肢MMT | 三角筋「手を横に広げてキープ」:C5→腋窩N 上腕二頭筋「力こぶ作って」:C5/6→筋皮N 上腕三頭筋「手をまっすぐ伸ばしてキープ」:C7→橈骨N 手根伸筋群「グーを上にしてキープ」:C6→橈骨N 手根屈筋群「グーを下にしてキープ」:C7→正中N・尺骨N |
起立・歩行の観察(位置覚・関節覚)
わかること | |
①歩行 | 「普通に歩いて」「つま先と踵をくっつけて歩いて」 錐体路障害:はさみ歩行、ぶん回し歩行 錐体外路障害:小刻み歩行 小脳障害・前庭N障害:酩酊様歩行 腓骨N麻痺:鶏歩 |
②Romberg試験 | 「足を揃えて、目を閉じて」 ●脊髄後索障害:転倒(暗闇で倒れる) |
錐体路系&錐体外路(下肢)・小脳の診察
わかること | |
①下肢バレー徴候 ①ミンガツィーニ徴候 |
「うつ伏せで両膝を45°曲げてキープ」:中枢性の筋力低下 「仰向けで両膝を90°曲げてキープ」:同上 |
②膝踵膝試験 | 「踵を反対の足の膝にトントン蹴って、踵を脛の上で滑らせて」 ●足の揺れ、不器用な感じ:小脳協調運動障害 |
③筋トーヌス | 「力を抜いて、私が足を動かすから」 ●歯車現象や鉛管現象あり(固縮):小脳協調運動障害 |
④下肢MMT | 腸腰筋「ももを挙げてキープ」:L1-2→大腿N 大腿四頭筋「脚を伸ばしてキープ」:L3-4→大腿N 大腿屈筋群「脚を曲げて(踵を下に引く)」:S1→坐骨N 前脛骨筋「つま先を挙げてキープ」:L5→深腓骨N 下腿三頭筋「つま先を下に伸ばして」:S1-2→脛骨N |
反射の診察(神経障害部位の診断)
左右差を見ることが大切(反射の程度は個人差が大きく、健常者でも反射の亢進・低下はある)
確認する神経 | 正常反射の反応(病的反射は病的反応) | |
上腕二頭筋反射 | C5→筋皮N | 上腕二頭筋収縮により前腕が屈曲する |
上腕三頭筋反射 | C7→橈骨N | 上腕三頭筋収縮により前腕が伸展する |
橈骨反射 | C6→橈骨N | 腕橈骨筋収縮により肘関節が屈曲し、前腕が回外する |
膝蓋腱反射 | L3-4→大腿N | 大腿四頭筋収縮により下腿が伸展する |
アキレス腱反射 | S1-2→脛骨N | 下腿三頭筋収縮により足が屈曲する |
バビンスキー反射 | 錐体路 | 母趾は背屈し、その他の指は全て扇状に開く |
チャドック反射 | 錐体路 | 同上 |
ホフマン反射 | C8以上の錐体路障害 | 手関節を軽度背屈位とし、患者の中指の爪の部分を掌側へと弾いたときに母指が内転すれば病的反射陽性。健常者にも認められることがあるので、片側に確認された時には診断に有用。 |
トレムナー反射 | C8以上の錐体路 | 同上 |
口尖らし反射 | 橋以上の錐体路 | 上口唇の真上の正中部を軽く叩くと口を尖らす |
感覚系の診察
神経根障害ではデルマトームに一致した感覚障害がみられる。
わかること | |
触覚 | 「ティッシュで触って左右差、腕と脚の差はあるか?」 病巣:一次Nから後角→同レベルで交差して脊髄前索を上行して視床へ→対側の感覚野 病巣:脊髄後索を上行→延髄で交差して視床へ(内側毛帯)→対側の感覚野 触覚は2つの経路があるため |
温痛覚 | 「アルコール綿ケースの角で突いて左右差、腕と脚の差はあるか?」 病巣:一次Nから後角→同レベルで交差して脊髄側索を上行して視床へ→対側の感覚野 |
振動覚 | 「(内果に当て)振動が止まったら教えて」 病巣:脊髄後索を上行→延髄で交差して視床へ(内側毛帯)→対側の感覚野 脊髄後索や糖尿病などの末梢神経障害で振動覚障害を生じる。 |
位置覚 | 「足元を見ずに、足の親指が上向きか下向きか教えて」 病巣:脊髄後索を上行→延髄で交差して視床へ(内側毛帯)→対側の感覚野 脊髄後索や糖尿病などの末梢神経障害で振動覚障害を生じる。 |
自律神経系の診察(問診)
問診 | |
起立性低血圧 | 「立ちくらみはないか?」 |
発汗障害 | 「汗のかき方に変化はないか?」 |
排尿障害 | 「おしっこが出にくいか?」:S2-4からの副交感神経障害 |
蓄尿障害 | 「おしっこの回数は?失禁は?」:交感神経障害 |
排便障害 | 「下痢・便秘はあるか?」 |
性機能障害 | 「勃起不全はあるか?」 |
感覚障害(しびれ)
しびれの概要
【病態】
突然発症なら血管障害で緊急疾患、数日〜1週間の発症なら炎症代謝、慢性なら変性疾患。
【6分類】
局在:脳→脊髄→末梢N→神経菌接合部→筋→骨のどこに問題があるか?
①大脳 | 対側半身や感覚野の領域のしびれ |
②脳幹 | 障害側顔面と対側頸部以下のしびれ |
③脊髄 | 障害レベル以下の両側のしびれ |
④神経根 | デルマトームに一致したしびれ |
⑤神経絞扼 | 単神経障害によるしびれ |
⑥末梢神経 | 手袋靴下型 |
Raynaud現象
基礎疾患がない場合をRaynaud病、基礎疾患がある場合をRaynaud症候群という。
①膠原病 | 強皮症、SLEなど(※リウマチ熱や関節リウマチは来しにくい) |
②外傷性 | 振動工具使用者など |
③閉塞性動脈疾患 | 閉塞性動脈硬化症、Buerger病など |
④その他 | クリオグロブリン血症、寒冷凝集素症、胸郭出口症候群、甲状腺機能低下症、β遮断薬内服など |
しびれの診察
ABC | 血圧左右差 |
S | 突然発症か否か |
①半身のしびれ:低血糖を除外した後、大脳病変か脳幹病変(脳卒中)を考慮 ②片側の口のしびれ:視床のラクナ梗塞など ③片側の口+同側の上肢のしびれ:橋>視床>大脳皮質の梗塞(手口症候群) ④片側顔面+対側半身のしびれ:延髄梗塞を考慮 ⑤AFの既往がある患者の突然の痛みを伴うしびれ:急性動脈閉塞症 ⑥手や上肢のしびれ:頸椎の神経根病変(頸椎症性神経根症、頸椎症性脊髄症)か神経絞扼障害(手根管症候群)を考慮 ・頸椎症性神経根症:初発は頸部痛が先行しその後上肢痛やしびれが生じる ・頸椎症性脊髄症:初期症状は両手指のしびれと歩行障害が多い ⑦足のみのしびれ:脊髄の神経根病変 ⑧四肢優位のしびれ(手袋靴下型):糖尿病、尿毒症、VB12欠乏などによる多発神経炎。初期は下肢だけが多い |
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O | 神経診察 |
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