下痢・食中毒・便秘

症候学

下痢

下痢の概要

下痢とはBSFS5〜7が24時間で3回以上出ること。

急性下痢(多くは感染症) 慢性下痢
4週間未満 4週間以上

【感染性下痢症】 軽症はウイルス性、重症は細菌性が多い傾向がある。

  大腸型 小腸型 穿孔型
機序 炎症性 非炎症性 穿孔による
部位 大腸 上部小腸 下部小腸
便 多核球、ラクトフェリン大量 WBCなし、ラクトフェリン少量 単核球
微生物 EIEC、EHEC、サルモネラ、赤痢菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、赤痢アメーバ ロタウイルス、ノロウイルス、ETEC、ウェルシュ菌、セレウス菌、黄色ブドウ球菌 チフス菌、エルシニア・エンテロコリチカ、カンピロバクター

下痢の診察

下痢のred flag

急性下痢 慢性下痢
脱水症 50歳以上での発症
24時間で6回以上の下痢 血便、黒色便
強い腹痛 夜間の下痢・腹痛
高齢者 進行性の腹痛
免疫不全や心疾患などの重大な併存症 原因不明の体重減少
バイタルサイン異常 炎症性腸疾患や大腸腫瘍の家族歴
  電解質異常、鉄欠乏性貧血、炎症反応高値、便潜血陽性、便中カルプロテクチン陽性などの検査異常

【S】

期間・頻度 体液量も評価
随伴症状 発熱、血便、腹痛は必ず確認
薬剤歴 特に抗生剤、薬剤性下痢
アレルギー歴 アナフィラキシー
食事歴 食中毒
手術歴 瘻孔形成、盲端症候群など
動物接触歴 ミドリガメ、爬虫類などによるサルモネラ感染症など
海外渡航歴 旅行者下痢症
糖尿病の有無 糖尿病性ケトアシドーシス
IBD家族歴 炎症性腸疾患の家族歴
放射線治療歴 放射線性腸炎

食中毒概要

食品衛生法により、食中毒は確定診断に至らなくとも「疑い」の時点で直ちに最寄りの保健所(保健所長)に届け出る必要がある。 患者は直前に食べたものを主に回想して答えるため、「5日前まで遡って,食べたものを教えてください」と根気強く聞き返す必要がある。 【食中毒の潜伏期】 ぶどう売る、美貌のサルも、カエル大(の大きさってことかな)

当日 ブドウ球菌、ウェルシュ菌
翌日 ビブリオ、ボツリヌス、サルモネラ
2日後 カンピロ、エルシニア、大腸菌

細菌性食中毒

【毒素型食中毒】

特徴として、①毒素が腸管上皮細胞を刺激し、発症まで数時間と早い②発熱・血便なし③抗菌薬が無効が挙げられる。また、菌の検出は困難。

原因菌 潜伏期間 原因食品 毒素 症状 加熱による予防 治療
ボツリヌス菌 12〜36時間 真空包装商品、辛子蓮根、蜂蜜 ボツリヌス毒素(神経毒) 胃腸症状→眼症状、嚥下障害、四肢麻痺 有効 抗毒素血清
黄色ブドウ球菌 約3時間 弁当、おにぎり エンテロトキシン(耐熱性) 激しい嘔吐+下痢腹痛 無効 輸液
セレウス菌(嘔吐型) 1〜6時間 焼き飯、ピラフ 嘔吐毒(芽胞+) 激しい嘔吐 無効 輸液

【感染型(生体内毒素型)】

特徴として、①増殖して腸管内で毒素を産生し腸管上皮細胞を刺激する②原則、発熱なし。

原因菌 潜伏期間 原因食品 毒素 症状
セレウス菌(下痢型) 6〜16時間 肉類加工食品、プリン エンテロトキシン 腹痛+下痢。 夏〜秋に多い。
ウェルシュ菌 6〜18時間 カレー、シチュー エンテロトキシン 腹痛+水様便
腸炎ビブリオ 約12時間 生魚介類 耐熱性溶毒素など 上腹部痛+水様便+発熱。 夏に多い
コレラ菌 1〜3日 海産物、生水 コレラ毒素 重症では米のとぎ汁様便
毒素原性大腸菌(ETEC) 12〜72時間 生水 エンテロトキシン 水様便+腹痛+嘔吐 (旅行者下痢症の主な原因)
腸管出血性大腸菌(EHEC) 3〜5日 ハンバーガー、ユッケ、生乳 ベロ毒素 激しい水様便→血便+激しい腹痛。 時にHUSを併発し、死亡する。O157は致死率が高い。

【感染型(感染侵入型)】

特徴として、①増殖する必要があるため発症までの時間が長い②増殖した菌が腸管上皮細胞を直接障害し、それに対して好中球が戦うため発熱する③治療は輸液+必要に応じ抗菌薬。

原因菌 潜伏期間 原因食品 機序 症状
腸管病原性大腸菌(EPEC) 12〜72時間 不詳 上皮細胞に付着 水様便+腹痛+発熱
腸管組織侵入性大腸菌(EIEC) 12〜48時間 不詳 上皮細胞に侵入 水様便→血便+しぶり腹+発熱(赤痢様症状)
サルモネラ属菌 6時間〜3日 鶏卵、生肉 上皮細胞に侵入 水様便(時に血便)+腹痛+発熱+嘔吐
細菌性赤痢 1〜3日 果物、生水 上皮細胞に侵入 水様便→血便+しぶり腹+発熱
カンピロバクター 2〜7日 鶏の生肉 上皮細胞に侵入 まず発熱→水様便(時に血便)+腹痛
腸チフス・パラチフス 10〜14日 果物、生水 上皮細胞に侵入 バラ疹・肝脾腫→水様便(時に血便)

ウイルス性食中毒

原因ウイルス 潜伏期間 原因食品 症状 治療
ノロウイルス 1〜2日 二枚貝の生食 水様便+嘔吐。冬に多い 輸液
E型肝炎ウイルス 6週間 ジビエ肉の生食 発熱+嘔吐+腹痛 休養

寄生虫食中毒

サバに寄生するアニサキス、ヒラメに寄生するクドア・セプテンプンクタータ、馬肉に寄生するサルコシスティス・フェアリーなどがある。

自然毒による食中毒

【動物性自然毒】

  • ふぐ毒(テトロドトキシンTTX):フグの卵巣や肝臓に多く存在し、食後30分〜3時間で症状が表れる。加熱は無効。対症療法のみ、呼吸困難には人工呼吸。
  • 麻痺性貝毒・下痢性貝毒:ムラサキガイやホタテガイの中腸腺を摂取し、麻痺性貝毒の場合は食後30分、下痢性貝毒の場合は食後30分〜4時間で症状が出る。

【植物性自然毒】

  • 毒キノコ:ツキヨタケが過半数。
  • ジャガイモの芽:ソラニンが原因。ChE阻害作用を持ち、副交感神経作用と中枢神経作用
  • 真菌による食品媒介:カビ毒素(マイコトキシン)によって起こる。

化学物質による食中毒

【アレルギー性食中毒(ヒスタミン中毒)】

ヒスチジン含有の多いサンマ、アジ、イワシなどの魚介類加工物にモルガン菌などが繁殖し、ヒスチジンが脱炭酸されてヒスタミンとなり、それを摂取して中毒を起こす。食後2時間後に症状を起こし、抗ヒスタミン薬投与が有効である。

【有機化学物質混入による食中毒】

水俣病水銀中毒、森永ヒ素ミルク中毒、カドミウムによるイタイイタイ病、PCBによるカネミ油症、中国餃子にメタミドホス混入など

便秘

便秘の概要

急性便秘 慢性便秘
4週間未満 4週間以上

【ブリストル便性状スケール:BSFS】

BSFS
性状 コロコロ 硬い やや硬 普通便 やや軟 泥状便 水様便
通過時間 約100hr 約10hr

【便秘症の診断基準】 以下、6項目のうち2項目以上を満たす

排便の1/4以上の頻度で、強くいきむ必要がある
排便の1/4以上の頻度で、兎糞状便 or BSFS1〜2である
排便の1/4以上の頻度で、残便感を感じる
排便の1/4以上の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある
排便の1/4以上の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便、会陰部圧迫など)
自発的な排便回数が、週に3回未満である

便秘の診察(便秘の原因検索)

便秘のred flag】 red flagが陽性の場合、悪性腫瘍や腸閉塞、腸管穿孔など重症・緊急疾患の精査を行う。 red flagが陰性で急性に生じた便秘は薬剤性が多い。

便の狭小化
血便
腹部膨満、強い腹痛、腹部圧痛、腹膜刺激徴候
嘔気嘔吐
体重減少(6ヶ月で10%以上)
発熱、血圧低下などのバイタルサイン変化
急性便秘で症状が進行性(特に高齢者)

【非薬剤性便秘の原因】

器質的 大腸癌、直腸癌、術後の腸管狭窄・イレウス、裂肛、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱
内分泌系 糖尿病、甲状腺機能低下症、汎下垂体機能低下症、高Ca血症、慢性腎不全
神経系 脊髄損傷、パーキンソン病、多発性硬化症、慢性偽性腸閉塞
筋疾患 筋ジストロフィー
膠原病 皮膚筋炎、強皮症
変性疾患 アミロイドーシス
生活 食物繊維不足、運動不足など

【薬剤性便秘の原因】

  薬品名 機序
制吐薬 グラニセトロンなど 5-HT3受容体遮断による蠕動運動抑制
抗コリン薬 アトロピンなど 蠕動運動抑制+腸液分泌抑制
抗うつ薬 三環系>四環系 抗コリン作用あり
ドパミン作動薬   抗コリン作用あり
オピオイド トラマドールなど μ2受容体刺激による蠕動運動抑制
Ca拮抗薬 ニフェジピンなど Ca細胞内流入の抑制による腸平滑筋収縮抑制
利尿薬   電解質異常に伴う腸管運動能低下
制酸薬 Al含有薬 蠕動運動抑制
鉄剤   収斂作用で蠕動運動低下
NSAIDs イブプロフェン 蠕動運動抑制

下剤の選択

原因が見つからない、または原因はあるが介入が困難である場合は下剤を必要最小限処方する。

第1選択 酸化Mg(腎機能低下、高齢者、高Mg血症では投与避ける)
  ビーマス配合錠®、小児はモビコール®
第2選択 腹痛優位の便秘の場合はリンゼス®を優先
  アミティーザ®(若年女性は投与避ける)
  グーフィス®、モビコール®、ラグノスNFゼリー®
第3選択 リンゼス®を食後服用
レスキュー 刺激性下剤のセンノシド頓用
食物繊維不足 18g/日未満の場合、ポリカルボフィルCaやカルメロースNa

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