DNAと染色体
【用語】
ゲノム | 個体が有する全遺伝情報の1セットのこと。よって、2倍体はゲノムを2セット持つ。 |
遺伝子 | 遺伝情報を担っている塩基配列のこと。狭義にはタンパク質をコードする塩基配列のこと。ヒトの遺伝子数は約2万。 |
シストロン | 遺伝子の機能の最小単位のこと。つまり、1つのポリペプチドをコードする塩基配列を指す。例えば、ヘモグロビンはαβのサブユニットからできているため、2シストロン1タンパク質という関係が成り立つ。 |
セントラルドグマ | 遺伝情報がDNA→RNA→タンパク質と一方通行で流れること。 |
複製
【用語】
レプリコン | 複製開始点から一続きで合成されるDNA部分のこと。 |
DNAポリメラーゼ | 2本鎖DNAの部分のみを5’→3’方向に伸長する酵素。 原核生物はDNAポリメラーゼⅢ、真核生物はDNAポリメラーゼα・δ・εがDNA複製の主力となる。αはプライマーゼ機能、δはラギング鎖伸長、εはリーディング鎖伸長を主に行う。δとεは校正機能(ミスマッチ修復)を持つ。 DNA伸長反応はdNTPからピロリン酸が外れ、加水分解を起こす際の自由エネルギーによって駆動力を得ている。 |
DNAヘリカーゼ | DNAのらせん構造をほぐす酵素。 |
DNAトポイソメラーゼ (DNAジャイレース) |
DNAヘリカーゼがDNAをほぐして生じたたわみを切る酵素。切った後は再びつなぎ直す。細菌の場合はDNAジャイレースと呼ばれる。 |
DNAリガーゼ | DNA断片をつなぎ合わせる酵素。 |
真核生物の転写
【用語】
RNAポリメラーゼ | RNAを合成する酵素。具体的には、DNAを1本鎖に分離し、アンチセンス鎖を鋳型にして、センス鎖と相同なRNAを5’→3’方向へ合成する。真核生物のRNAポリメラーゼはⅠ〜Ⅲまであり、ⅠはrRNA、ⅡはmRNAとsnRNA、ⅢはtRNAを合成する。RNAポリメラーゼⅡに校正機能はない。 |
プロモーター | RNAポリメラーゼが結合するDNAアンチセンス鎖の塩基配列。 |
コンセンサス配列 | 同じ機能を持つ複数の分子に共通して存在する塩基配列。 |
転写因子 | RNAポリメラーゼがDNAに結合するのに必要なタンパク質の総称。どの遺伝子の転写に必須なものを基本転写因子、特定の遺伝子の転写を調節するものを転写調節因子という。 |
RNAプロセッシング | 転写されたRNAの5’末端に7-メチルグアニル酸(Cap構造)が付加される。3’末端のターミネーター領域が切り出され、その断端にA(ポリAテール)が付加される。その後、イントロンが切り出されエキソンのみ残る(スプライシング)。以上の3つの過程の総称。 |
選択的スプライシング | 特定のエキソンをとばしてスプライシングを行うこと。複数のスプライシングパターンによって1つの遺伝子から複数のタンパク質をつくることが可能となる。 |
エキソン | プロセッシングを経て最終的にmRNAに残る部分。 |
エクソーム | 全エクソンのこと。ゲノムの1〜2%なので、エクソーム解析により低コストで効率的に疾患関連遺伝子を解析できる。 |
アイソフォーム | 機能は同じだが、構造は異なるタンパク質の総称。 |
真核生物の翻訳
【用語】
オープンリーディングフレーム(ORF) | 遺伝子の塩基配列を3塩基ずつ区切った時の3通りの読み枠のうち、実際にタンパク質をコードする可能性のある読み枠のこと。真核生物のORFに対応する塩基配列は1通りしかないが、原核生物のORFは複数あることが多い(=ポリシストロニック)。 |
シャインダルガノ配列(RBS) | 原核生物のリボソームが最初に結合する部位。真核生物の結合部位は不明。 |
遺伝暗号のゆらぎ | コドンの3’側の塩基とアンチコドンの5’側の塩基は厳密に塩基対を形成しないことがわかっている。これをゆらぎといい、1種のtRNAは複数のコドンを認識できる。つまり、61種類のtRNA全てを合成せずとも20数種のtRNAで問題なく翻訳できると考えられている。 |
真核生物の遺伝子制御機構
【遺伝子発現の制御】
転写前 | 転写調節因子がDNA上の調節配列に結合して転写を調節する。 |
翻訳後 | ①スプライシング活性を調節しmRNAの産生速度を調節する。②mRNAの核外輸送に関するタンパク質活性を調節して翻訳の速度を調節する。③RNA編集などがある。 |
【用語】
トランスクリプトーム | ある細胞で転写されているmRNA全体の集合 |
プロテオーム | ある細胞で発現しているタンパク質の全体 |
構成的 | 常に発現しているという意味 |
ハウスキーピング遺伝子 | ほとんど全ての細胞で発現し、細胞の生存に必須の遺伝子 |
オペレーター | 原核生物において、リプレッサーが結合するDNAの塩基配列 |
オペロン | 原核生物において、1つのプロモーターに支配された機能的に関連のある遺伝子群を指す。よって、オペロンから転写されてできたmRNAはポリシストロニックである。 |
エンハンサー | プロモーターの領域外にあり、転写促進に働くDNAの塩基配列 |
サイレンサー | プロモーターの領域外にあり、転写抑制に働くDNAの塩基配列 |
アクチベーター | 転写を活性化する転写調節因子 |
リプレッサー | 転写を抑制する転写調節因子 |
応答配列(ER) | 特定の刺激に対して遺伝子発現が変化する場合、その応答を直接引き起こしているエンハンサーのこと。 |
レギュロン | 染色体上の異なる位置に存在しているが、同一の調節シグナルの支配下にある遺伝子群のこと。 |
RNA編集 | DNAから転写されたmRNAの塩基が化学修飾されて他の塩基に変換されること。この結果、コードされているタンパク質と異なるタンパク質ができる。 |
突然変異
DNAの変異は複製以外にも、細胞内諸反応によるラジカル発生、外界からの放射線や紫外線、化学物質によっても生じる。
【用語】
DNAの変異 | DNAの塩基配列が変化すること。 |
DNAの損傷 | DNA本来の立体構造が変化すること。 |
染色体変異 | 染色体不安定性により染色体の数が多くなったり(例:トリソミー)、転座や重複によって染色体の構造が異常になったりする(例:フィラデルフィア染色体)。 |
点突然変異 | 1つの塩基が他の塩基に置換されて①〜④の変異が起こること。 |
①ナンセンス変異 | 点突然変異により、アミノ酸のコドンが終始コドンに変化すること。 |
②ミスセンス変異 | 点突然変異により、アミノ酸のコドンが他のアミノ酸をコードに変化すること。 |
③同義変異 | 点突然変異により、コドンは変わるが、コードするアミノ酸に変化がないこと。同義変異や表現型に影響が乏しい場合、サイレント変異という。 |
④スプライシング変異 | イントロンに起きた点突然変異によってスプライシングが正しく行われない、もしくはエキソンに起きた点突然変異によってスプライシングサイトが形成されること。その結果、異常なスプライシングにより異常なタンパク質ができる。 |
フレームシフト変異 | 塩基が挿入、もしくは欠失する変異が起こること。多くの場合、ORFがずれてしまい、コードするタンパク質の機能は喪失する。 |
DNA複製の正確さを担保する機構
DNAポリメラーゼには校正機能があるが、それをすり抜けた変異は以下のDNA修復機構で直される。
塩基のみ修復 | ミスマッチ修復 | DNA複製で生じたミスマッチ塩基対を修復すること。 |
光修復 | 可視光で活性化されるDNAフォトリアーゼはチミンダイマーを直接修復する(細菌のみ)。 | |
ヌクレオチドのみ修復 | 塩基除去修復 | 変性した塩基を含むヌクレオチドを除去して修復すること。 |
ヌクレオチド除去修復 | 複数のヌクレオチドを除去して修復すること。チミンダイマーなどが生じた際に発動する。色素性乾皮症はこの修復のどこかに異常がある。 | |
2本鎖に異常 | 組換え修復 | 2本鎖どちらも異常がある場合、相同組換えを利用して修復すること。S期中期〜G2期でしか起こらない。 |
非相同末端結合修復 | 2本鎖どちらも異常がある場合、非相同組換えを利用してDNA断端同士を接合して修復すること。数塩基の除去などを伴うことが多い。全ての期で起こる。 | |
緊急事態 | SOS修復 | DNA損傷が非常に高度で2本鎖どちらも異常がある場合、SOSレギュロンを発現させ、適当な塩基を入れて修復すること。 |
DNAの組換えとは?
2個の2本鎖DNAの間で、切断と再結合が起こり、DNA分子が相互に入れ替わる。その結果、遺伝情報が相互に交換されたり添加されたりすることを組換えという。
組換えで働く酵素の総称をリコンビナーゼといい、DNAをゲノムから切り出し、再結合する。
相同組換え | 塩基配列が相同なDNA分子間で起こる組換えである。もともとは組換え修復として利用されていたが、真核生物の生殖細胞では遺伝的多様性の増大にも貢献した。 |
非相同組換え | 代表的な部位特異的組換えは、特定の塩基配列を認識して起こる組換えである。染色体の転座・欠失・挿入、トランスポゾン、免疫グロブリン遺伝子の遺伝子再構成などがその例である。 |
トランスポゾンとは?
トランスポゾンとは、ゲノムDNA上を移動する塩基配列のことであり、②③自己複製を伴うものと①そうでないものがある。ヒトゲノムはレトロトランスポゾン(LINE、SINEなど)が圧倒的に多く、ゲノムの半分弱を占めている。
特徴的構造 | 移動に必要な酵素 | |
①DNAトランスポゾン | 両端に逆方向反復配列 | トランスポゼース |
②ウイルス様レトロトランスポゾン | 両端にLTR | 逆転写酵素+インテグラーゼ |
③ポリAレトロトランスポゾン | 末端にポリA配列 | 逆転写酵素+エンドヌクレアーゼ |
生物学実験
PCR | 増幅を行なった回数をCT値(Cycle Threshold)といい、最初にあるDNAやRNA量が多いとCT値が小さい値で検出可能となり、少ないとCT値が大きくなる。一般的に、CT値が40未満の場合を陽性とする。 |
フローサイトメトリ |
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