栄養療法・栄養製剤

生化学

リフィーディング症候群

Refeeding症候群の概要

概要 低栄養の患者に、急激に栄養状態を補正することで発症する一連の代謝合併症の総称。
病態 長期にわたり著しい低栄養が続いた体へ急激に栄養が流入すると血中グルコース増加によるインスリン分泌により、体液と電解質の急激な細胞内シフトを生じ、低P血症、低K血症、低Mg血症,ビタミンB1欠乏症、高血糖などが引き起こされ、脱水、昏睡、心不全、不整脈、肺水腫、けいれんなどの致死的な症候を呈することもある。特に、栄養開始後72時間が好発時期のため注意してモニタリングする。
所見 バイタル:徐脈、低血圧、低体温、呼吸数低下(重症低栄養状態→ICU入院)
視診:こめかみのくぼみ、上腕三頭筋萎縮、手背骨間筋萎縮

①Refeeding high riskをスクリーニング:NICE基準

NICE基準以外に、IrSPEN基準などもある。静脈>経腸>経口の順でリスクが高いことも注意。

1つ以上該当でhigh risk 2つ以上該当でhigh risk
・BMI16未満
・3〜6ヶ月で15%以上の体重減少
・絶食期間が10日以上
・栄養開始前にMg/K/Pが低値
・BMI18.5未満
・3〜6ヶ月で10%以上の体重減少
・絶食期間が5日以上
・アルコール多飲、インスリン、化学療法、利尿薬

②ハイリスク患者への予防マネジメント

ハイリスク患者の血清K・Ca・P・Mg濃度を確認
  ※ただし、血清濃度が基準値内であっても、細胞内の電解質は枯渇している場合もある
栄養投与前に200〜300mgのビタミンB1と微量元素を毎日点滴
10kcal/kg/日で栄養投与を開始、4〜7日かけ漸増
K・P・Ca・Mgの投与と適正濃度の維持
  適正濃度(K:2-4mEq/kg/日、P:0.9-1.8mEq/kg/日、Mg:0.4mEq/kg/日)
最初の2週間はK・P・Ca・Mgのモニタリング

③リフィーディング症候群の症状

次の症状が出現したら発症している可能性があるため電解質補正や臓器ごとの対応を行う。

心臓 心機能低下、不整脈、心不全
水分過剰による肺水腫、低P血症による呼吸不全、肺胞低換気
神経系 電解質異常による筋力低下、けいれん、感覚異常、B1不足によるWernicke脳症
骨格筋 電解質不均衡による筋力低下、筋肉痛、筋痙攣
消化器 肝機能障害、消化管粘膜の萎縮や膵機能低下による嘔吐下痢

栄養メニューを決めるステップ

Step1 カロリーを決める
Step2 水分量を決める
Step3 タンパク質の量(NPC/N含む)を決める
Step4 脂質の量を決める
Step5 電解質、微量元素、ビタミンを決める
Step6 糖分の量を決める

栄養士さんが行なっていること

①栄養スクリーニング SGA、MUST、NRS-2002、MNA、COUNTなどのツールを利用して低栄養患者をスクリーニング(低栄養はADL低下や治療遅延を招く)
②低栄養診断 スクリーニングに該当した人はGLIM基準に基づいて低栄養診断重症度評価をする
③栄養サポートチーム NSTが上記低栄養患者の中から介入が必要な患者をピックアップし、主治医に栄養療法を提案する
④栄養指導 特別食(治療食)の場合、入院につき2回の栄養指導が可能

①カロリーを決める

必要エネルギー量(kcal/日) 基礎代謝量(BEE)× 活動係数 × ストレス係数
※基礎代謝量の算出 →Harris Benedictの式から計算
活動係数 寝たりきで意識障害(1.0)
寝たりきで覚醒あり(1.1)
ベッド上安静(1.2)
ベッド外安静(1.3〜1.4)
一般職業従事者(1.5〜1.7)
ストレス係数 飢餓状態・慢性低栄養状態(0.6〜0.9)
術後(軽 1.1、中 1.3〜1.4、高 1.5〜1.8)
がん、COPD(1.2〜1.3)
腹膜炎、敗血症、熱傷(1.2〜1.3)
重症感染症、多発外傷(1.2〜1.3)
②簡易法(kcal/日) 25kcal × 活動係数 × ストレス係数 × 体重kg
25 日本人の平均基礎エネルギー消費量(kcal/kg)
体重 BMI18以下なら理想体重、それ以上は現体重を用いて計算
③さらに簡易法(kcal/日) 現体重に対して25〜30kcal/kg/日を目安に計算
食事開始手順 数日かけて必要エネルギー量の6〜7割を目指し、7〜10日までに必要エネルギー量へ持っていく。Refeeding high riskなら5〜10kcal/kg/日で開始する方が安全。
●最初から必要エネルギー量を投与しない理由
急性期は解糖系が回らず、蛋白異化も亢進しているため投与しても高血糖やRefeedingなどのデメリットが多いため。

②水分量を決める

IN-OUTバランス=(輸液量 + 経口摂取量 + 代謝水)-( 尿量 + 便 + 不感蒸泄+ その他)

※代謝水:ブドウ糖代謝で産生される水

In 目標水分量  
  食事飲水量 一般的には食事800mL/日、飲水1000〜1500mL/日
  代謝水 5mL/kg、一般的には200〜300mL/日
  輸液量 =30〜40mL/kg/日
Out 排泄水分量  
  尿量 0.5〜1mL/kg/hr、一般的には1000〜1500mL/日
  排便 一般的には100〜200mL/日
  不感蒸泄 15mL/kg/日(皮膚:肺=1:1)、約700〜900mL
37度から1度上昇毎に100〜150mL喪失する
  その他 発汗、ドレーン排液、嘔吐、出血など

③タンパク質の量(NPC/N含む)を決める

ベースライン 0.8〜1.0g/kg/日(×4でkcal)
高齢者 1.2〜1.5g/kg/日(×4でkcal):糖と脂質の利用が低下するため
感染症などストレス時 1.2〜2.0g/kg/日(×4でkcal)
AKI、CKDG3b以降など 0.6〜0.8g/kg/日(×4でkcal)
透析患者 1.0〜1.2g/kg/日(×4でkcal)

【NPC/N比】

NPC/N比とは 蛋白質をうまく使うための蛋白質以外のバランス比
NPC/N比の計算 =(目標エネルギー量kcalー蛋白質kcal)/(蛋白質g÷6.25)
NPC/N比の評価 普段:150〜200、侵襲時:100くらいを目安にする

④脂質の量を決める

脂質の量 =必要エネルギー量kcal×0.3(総エネルギー投与量の約30%)
なぜ脂質が必要か ・脂肪を投与しないTPNを行うと約2〜3週間で必須脂肪酸が欠乏
・脂肪を投与せず多量の糖を負荷すると脂肪肝の原因となる
・必須脂肪酸欠乏症防止のため最低50g/週が必要
必須脂肪酸 ω-3系:α-リノレン酸(ALA)、EPA、DHA
ω-6系:リノール酸(LA)
イントラリポス20% (100mL) 内容量:脂質20g/100mL(180kcal)
投与速度:0.1g/kg/hr(これ以上の速度では悪心嘔吐などの副作用↑)
イントラリポスの注意 ・TGを定期的に確認(3日目、7日目、以降1週間毎)
・血栓症、脂質異常症、感染症の人には使いにくい

⑤電解質、微量元素、ビタミンを決める

Na 2mEq/kg  
K 1mEq/kg  
Cl 80〜100mEq  
Ca 4.6〜9.2mEq  
P 12〜20mEq  

⑥糖分の量を決める

糖分の量kcal =(目標エネルギー量kcal)ー(蛋白質kcal+脂質kcal)
糖質の量g =糖分の量kcal/4
注意点 ・投与速度上限(=Glu処理速度上限):5mg/kg/分(29kcal/kg/日)
・末梢静脈から投与は10%ブドウ糖液まで可(血漿浸透圧の2倍まで)
・1日に100g(5%ブドウ糖液2000mL)の糖が供給されれば、筋蛋白質の崩壊が約半分に抑えられる

⑦栄養経路の選択

改訂水飲みテスト(MWST)で4〜5点なら経口栄養、1〜3点ならST介入し経腸栄養を選択する

【投与方法】

経口栄養 基本(PPN or 経鼻経管栄養を行いながら)  
経腸栄養 ①経鼻アクセス 短期間の場合
  ②胃瘻・空腸瘻などの消化管瘻アクセス 4週間以上の長期になる場合
  経腸栄養の禁忌
(=腸が機能していないとき)
該当する場合は経静脈栄養を選択
①腸閉塞・イレウス
②腸管虚血・広汎性腹膜炎
③難治性下痢など
経静脈栄養 ●末梢静脈栄養(PPN)
末梢静脈カテーテルは96時間(3日間)以上留置してはいけないことに留意!
2週間未満の場合
  ●中心静脈栄養(TPN)
内頸V大腿V鎖骨下Vから穿刺
感染徴候がない中心静脈カテーテルであれば感染予防のため入れ替えは不要!
※感染防止のために大腿静脈からの挿入は避けるべき
●末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)
→エコーガイド下で上腕尺側皮Vから穿刺
※肘正中皮Vは静脈炎起こしやすいため血栓のリスク↑
2週間以上の場合

⑧製剤を決める

【経静脈栄養の場合】

  投与熱量 適応と目的
水・電解質の補給 400〜500kcal ・栄養状態は良好で、水/電解質投与が目的
・蛋白質異化を抑える目的で最低限の熱量補給
PPN 600〜1200kcal ・栄養状態は良好だが、必要熱量が不足する場合
・1週間〜10日程度の栄養維持
TPN 1200〜2500kcal ・栄養状態やや不良、1週間以上経口摂取ない場合
・非経口的な完全栄養補給

【よく使う経静脈栄養の例】

商品名 特徴
ビーフリード ビタミンB1のみ
パレプラス 水溶性ビタミン9種
エルネオパ 脂質以外がトータルで入っている
ハイカリックRF 電解質と糖質のみ、KとPは入っていないため腎機能低下の人向き
フルカリック3号 少ない水分で高カロリーのため水分を入れたくない人向き

⑨食事を決める

【食事の種類】

常食 普通の人と同じ食事形態
全粥 米を煮てできる、おもゆを除いた下の粥のみのもの
5分粥 おもゆ5割+粥5割
3分粥 おもゆ7割+粥3割
特別食 特定の疾患に対する治療食で、常菜/軟菜/嚥下から選択できる
※ただし、特別食の嚥下食はムース食とミキサー食は選択できない
嚥下食 一口大食 > きざみ食 > ムース食 > ミキサー食 > ゼリー食

食事が必要量摂れない場合

①高エネルギー化 バター、マヨネーズ、粉飴など量を増やさずカロリーを増やす
②経腸栄養剤を追加 通常の食事に摂取しやすい経腸栄養剤を追加する

経腸栄養の種類

医薬品経腸栄養剤は処方で、食品濃厚流動食は食事オーダーから行う。

経腸栄養剤 医薬品経腸栄養剤 半消化態栄養剤:自分で消化が必要なもので通常の食事に最も近い=加水分解されていない蛋白質
    例)エンシュア®、エネーボ®、ラコール®、イラノス®、アミノレバン®
    消化態栄養剤(CDD):すでに消化されているもの=アミノ酸・ジペプチド・トリペプチド
    例)ツインライン®NF
    成分栄養剤(ED):成分のみ抽出したもの=アミノ酸のみ
    例)エレンタール®、へパンED®など
  食品濃厚流動食 半消化態栄養食:半消化態栄養剤の食事版
    例)メイバランス®、アイソカル®、クリミール®など
    消化態栄養食
    例)ペプメタン®など

経腸栄養剤

一般名 先発名 特徴
成分栄養 エレンタール デキストリンとアミノ酸で構成。低残渣。脂肪はほとんど含まない。
成分栄養 エレンタールP 小児用
消化態 ツインラインNF  
半消化態 エンシュア・リキッド カロリー比は炭水化物54.5%、脂肪31.5%、蛋白質14%。
半消化態 エンシュア・H  
半消化態 エネーボ 乳性蛋白使用。エンシュアと比べて蛋白質配合比率が高くBCAAが強化。
半消化態 ラコールNF 日本人の食事摂取パターンを参考に作られた。
半消化態 イノラス 経口摂取を主なターゲットとして開発された。
半消化態・半固形 ラコールNF半固形 半固形化することで食塊に近い形状にし胃が有する貯留能や排泄能の発揮を期待
腎不全用経口アミノ酸製剤 アミュー  
肝不全用経腸栄養剤・成分栄養 ヘパンHD BCAA含有
肝不全用経腸栄養剤・半消化態 アミノレバンEN  

単一栄養輸液製剤

糖製剤

一般名 先発名 特徴
ブドウ糖 大塚糖液 熱量の供給、蛋白異化の抑制、抗ケトン作用
キシリトール クリニット キリット インスリン非依存性、代謝が遅く尿中排泄が多い
マルトース マルトス インスリン非依存性、代謝が遅く尿中排泄が多い
果糖 フルクトン インスリン非依存性、肝で怪盗系に入る、グリコーゲン生成能が大きい、尿中排泄が多い

アミノ酸輸液製剤

一般名 先発名 特徴
10%アミノ酸製剤 モリアミンS Naに対してClを多く含有
  モリプロンF 低Na,低Cl
  アミニック、アミパレン、アミゼットB BCAAが多く配合
12%アミノ酸製剤 プロテアミン12 モリアミンSと併用禁忌
ソルビトール5% 加10%アミノ酸製剤 ハイ・プレアミンS モリアミンSと併用禁忌
小児用アミノ酸製剤 プレアミンP BCAA比率が高い(39%)、タウリン配合
腎不全用アミノ酸輸液製剤 ネオアミュー Arg ,His,Tyrなどを加えているため高アンモニア血症をきたさない
腎不全用アミノ酸輸液製剤 キドミン  
肝不全用アミノ酸輸液製剤 アミノレバン BCAA配合率が高い(35.5%)
肝不全用アミノ酸輸液製剤 モリヘパミン BACC,Argの配合比率が高い。Fischer比54.13

経口アミノ酸製剤

先発名 特徴
ESポリタミン配合顆粒 必須アミノ酸含有
アミュー配合顆粒 腎不全用アミノ酸製剤
アミノレバンEN配合散 半消化態栄養剤
リーバクト配合顆粒/配合経口ゼリー BCAA製剤

脂肪乳剤

一般名 先発名 特徴
ダイズ油 イントラリポス輸液 n-6系のリノール酸が50%以上、n-3系の脂肪酸含量が少ない

微量元素製剤

一般名 先発名 特徴
高カロリー輸液用微量元素製剤 エレメンミック  
高カロリー輸液用微量元素製剤 ミネラリン  
亜セレン酸Na アセレンド  

複合栄養輸液製剤

末梢静脈栄養(PPN)用輸液製剤

一般名 先発名 特徴
ブドウ糖7.5% 加アミノ酸製剤 プラスアミノ 浸透圧比が高いので長期的には静脈炎の発症は避けられない。非蛋白カロリーN比も低いので長期投与は避ける。
  アミカリック  
  アミノフリード 血管痛が少ない
VB 1加末梢静脈 栄養用輸液製剤 パレセーフ  
  ビーフリード  
水溶性ビタミン 加末梢静脈 栄養用輸液製剤 パレプラス  
脂肪加末梢静脈 栄養用輸液製剤 エネフリード  

中心静脈栄養(TPN)用輸液製剤

①アミノ酸を含まない高カロリー基本液(糖+電解質) ②アミノ酸製剤 ③脂肪乳剤 ④ビタミン製剤 ⑤微量元素製剤 ①〜⑤の組み合わせ
一般名 先発名 特徴
中心静脈栄養用基本液 ハイカリック液 Na,Clを含有しないので、Na,Clを含むアミノ酸液と混合
中心静脈栄養用基本液 ハイカリックNC Na,Clを含有
小児用中心静脈栄養用基本液 リハビックスK 0.6~0.8kcal/mL。非蛋白カロリーN比は高めに設定。NaClに対してK ,Mg,Pを多めに含む。
腎不全用中心静脈栄養用基本液 ハイカリックRF Na,Clを含有、P,Kを含まない。糖濃度が50%と高く水分制限下に高カロリーを供給可能
中心静脈栄養用キット製剤 ピーエヌツイン メイラード反応を防ぐために使用時に隔壁を開通させて使用するキット製品
中心静脈栄養用キット製剤 フルカリック VB 1添加を忘れることで起こる重篤な合併症を未然に防止できる
中心静脈栄養用キット製剤 ネオパレン  
中心静脈栄養用キット製剤 エルネオパNF 鉄とビタミンKを減量
  ワンパル  
  ミキシッド 脂肪配合

生活習慣病に対する食事運動療法

運動療法

FITTを具体的に指導し、VPを増やしていく

F(Frequency) 頻度 週2回から毎日
I(Intensity) 強度 METsは安静時を1としてある運動が何倍か示す客観的指標
T(Type) 運動の種類 有酸素運動(歩き、水中歩き)、筋トレ、ラジオ体操
T(Time) 運動時間 30分以上
V(Volume) 運動量 =1回運動時間×1週間に行う頻度×運動強度
P(Progression) 運動の漸増 運動量を徐々に増やす

食事療法

減量 1日の総エネルギー摂取量を適正化し、BMI20〜25を目指す
減塩 高血圧なら6g/日未満
DASH食 高血圧を予防・改善するため、野菜・果物・低脂肪乳製品を多く摂る
K摂取増強 Kは尿中にNa排泄させるため高血圧では野菜・果物摂取推奨(CKDは注意)
節酒 アルコールは1gあたり7kcalあり脂肪に次ぐ高カロリー食品

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