消化器各論(肝・胆・膵)

消化器科

肝疾患

急性肝炎

主な原因 ウイルス性肝炎肝炎ウイルスを参照
HBV(約40%)>HCV・HAV(約10%)
発熱・異型リンパ球の上昇→A型肝炎の疑い
その他
の原因
薬剤性肝炎の疑い:薬剤・健康食品の使用
自己免疫性肝炎の疑い:総蛋白(特にIgGの増加)
④アルコール性肝炎の疑い:飲酒
急性肝炎
共通症状
①インフルエンザ様症状:発熱、全身倦怠感、消化器症状、筋肉痛など
②黄疸・掻痒・肝腫大
急性肝炎
共通検査
【血液検査】
AST↑ALT↑LDH↑、直接Bil↑、PT延長
【尿検査】
ウロビリノゲン↑、Bil↑

慢性肝炎

病態 肝炎が6ヶ月以上持続する状態で、HCV(約70%)、HBV(約20%)によるものが多い。長期経過にて肝硬変、肝細胞癌へ移行しやすい。
症状 持続する全身倦怠感、食欲不振など
検査 【血液検査】
トランスアミナーゼ↑(ALT優位)、ヒアルロン酸↑、PLT↓、ICG停滞率↑、γグロブリン↑(門脈圧亢進症による腸管血流うっ滞により腸内細菌が粘液バリアを通過して体内に移行しやすくなり、腸管由来の抗原に対して免疫グロブリンの産生が上昇する)
AFP↑PIVKA-Ⅱ↑なら肝細胞癌を疑う
【生検】
肝細胞変性壊死と門脈域中心の炎症(piecemael necrosis)、門脈域拡大(bridging fibrosis)、線維化など
治療 原因に応じた治療

昏睡型急性肝不全(=劇症肝炎)

病態 急激で広範な肝細胞壊死により、高度の肝不全症状を呈する予後不良の病態。
原因はウイルス性(約50%、主にHBV)>自己免疫性(約15%)>薬剤性(約10%)。発症10日以内に脳症が出現する急性型と11日以降に出現する亜急性型があり、亜急性型は極めて予後不良である。急性肝炎の約2%は劇症化する。
【劇症肝炎の定義】
発症8週間以内に、高度の肝機能障害により肝性昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症をきたし、PT-INR 1.5以上(PT40%以下)を示す肝炎。
2×4=8:肝性昏睡Ⅱ度以上かつPT<40%が症状発現後8週以内
症状 羽ばたき振戦、腹水、浮腫などの肝性脳症症状
②肝炎激化症状:発熱、全身倦怠感、高度黄疸、消化器症状、低血糖など
出血傾向:INR1.5以上
【合併症】
肝腎症候群:腎不全による乏尿
DIC、脳浮腫(頭蓋内圧↑)、感染症(肺炎、敗血症)、消化管出血
検査 【身体検査】
打診:肝濁音界の縮小
【血液検査】
AST↑ALT↑、T-Bil↑(間接型優位)、Alb↓ChE↓、PT延長(INR1.5以上)
治療 ①人工肝補助療法(血液浄化療法):貯留毒素の改善
②抗凝固療法・ステロイドパルス療法:肝細胞壊死抑制
③マンニトール、グリセロール:脳浮腫改善
④輸液:アミノ酸を含まないブドウ糖主体で行う
改善しない場合は肝移植を考慮する

肝性脳症

病態 高度の肝障害により肝機能不全となり、多彩な精神・神経症状をきたす病態。
急性型、慢性型、特殊型に分類される。原因物質として、アンモニアメルカプタン芳香族アミノ酸(AAA)の増加、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の減少がある。
【肝性脳症の増悪因子】
①アンモニアの増加:便秘、高蛋白食、消化管出血、感染症(蛋白異化)、腸内細菌叢の異常、Hピロリ菌
②アンモニア処理能悪化:肝不全、著しいやせ(るいそう)
③アンモニア貯留部位の減少:腹水の急激な減少、脱水、利尿薬投与、発熱
④脳のアンモニアに対する過敏性の増加:アルカローシス、低K血症、腎不全に伴う高尿素窒素血症、麻薬、鎮静・催眠薬
⑤門脈-大循環シャント
症状 羽ばたき振戦・アステレキシス(肝性昏睡Ⅱ度以上の意識障害)
②精神神経症状:傾眠傾向、錯乱
③肝性口臭(血中メルカプタン↑)
④肝炎症状:黄疸、腹水、浮腫
検査 【血液検査】
トランスアミナーゼ↑(AST優位)、T-Bil↑、胆汁酸↑、
肝合成能↓によりAlb↓ChE↓PT延長、T-Chol↓
肝異化障害によりFischer比(BCAA/AAA)↓、アンモニア↑、メルカプタン↑
【脳波検査】
徐派、三相波
治療 【急性型】
劇症肝炎の治療に準じる
【慢性型】
①貯留毒素の改善:ラクツロース投与、難低吸収性抗菌薬投与、低蛋白食
②BCAA製剤投与(急性型では禁忌)
③輸液:アミノ酸を含まないブドウ糖主体で行う
改善しない場合は肝移植を考慮する

薬剤性肝障害

薬剤(健康食品を含む)によって肝細胞障害または胆汁うっ滞が生じる病態。

  肝細胞障害型 胆汁うっ滞型
原因薬剤 アスピリン
アセトアミノフェン
イソニアジド
リファンピシン
テトラサイクリン系
四塩化炭素
メチルテストステロンなどの
蛋白同化ステロイド
経口避妊薬
プロピルチオウラシル
クロルプロマジン
アセトアミノフェン
症状 発熱、発疹 皮膚掻痒、黄疸
血液検査 AST↑ALT↑
薬剤リンパ球刺激試験
ALP↑γGTP↑
薬剤リンパ球刺激試験
治療 原因薬剤中止で速やかに肝機能改善
ステロイド、グリチルリチン製剤
原因薬剤中止でも肝機能障害遅延
ステロイド、ウルソデオキシコール酸

脂肪肝

疫学 有病率:約30%(男)、約15%(女)
病態 肝細胞中に中性脂肪(TG)が過剰に沈着した状態。
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)=単純性脂肪肝とアルコール性脂肪肝に分類され、NAFLDの中で組織学的に壊死・炎症・線維化などを認めるものを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という。
VLDL↑を示すⅡb、Ⅳ、Ⅴ型脂質異常症では脂肪肝をきたすことが多い。また、脂肪肝では脂肪細胞より分泌されるアディポサイトカイン(レジスチンなど)によってインスリン感受性が低下し、糖尿病の発症・増悪が問題となる。
<脂肪肝の原因>
①アルコール、②肥満、③糖質の過剰摂取・糖尿病、④脂質異常症、⑤甲状腺機能亢進症・Cushing症候群・ペラグラ、⑥ステロイド・テトラサイクリン系、⑦妊娠、⑧栄養不良、⑨Reye症候群
症状 多くは無症状
検査 【血液検査】
トランスアミナーゼ軽度↑(アルコール性脂肪肝ではAST優位、NAFLDではALT優位)、ChE↑、T-Chol↑、TG↑、肝炎ウイルスマーカー陰性、自己抗体陰性
【画像検査】
エコー:bright liver肝腎・肝脾コントラスト増大など(確定診断)
CT:肝臓への脂肪蓄積により低吸収域となる
【生検】
肝小葉の1/3以上の肝細胞に著明な脂肪滴の蓄積性変化(NASHと単純性脂肪肝の鑑別)
治療 食生活の改善、減量、運動、断酒など病因の除去

NASH:Non-alcoholic steatohepatitis

病態 NAFLDの一つで、病態の形成にインスリン抵抗性が関与している。
肥満や生活習慣の是正がなされない場合、進行性の経過となり、一部の症例では肝硬変や肝細胞癌に進行する
症状 無症状
検査 【血液検査】
AST↑ALT↑、進行するとPLT↓、線維化マーカーのヒアルロン酸↑Ⅳ型コラーゲン↑
【生検】
小葉内・門脈域の炎症細胞浸潤、分葉核の好中球浸潤を伴う肝細胞壊死、肝細胞風船様膨化・線維化・脂肪沈着、アルコール硝子体(マロリー・デンク体)
治療 生活指導(食生活の改善、減量、運動)

アルコール性肝障害 ALD:Alcoholic liver disease

疫学 常習飲酒家(1日平均純エタノール60g以上を5年以上)の中年男性に多い
病態 大量または常習的なアルコール摂取による肝障害。初期にはアルコール性脂肪肝を呈し、進行とともに肝細胞壊死と炎症を伴うアルコール性肝炎からアルコール性肝硬変に至る。
症状 ①アルコール性脂肪肝:倦怠感、食欲不振
②アルコール性肝炎:腹痛、発熱、黄疸、下痢、嘔吐、意識障害、肝腫大など
長期化すると、くも状血管腫、手掌紅斑がみられやすい
検査 【血液検査】
トランスアミナーゼ↑(AST優位)、γGTP↑↑、IgA↑、WBC↑、PT延長
【生検】
アルコール硝子体(Mallry body)、肝細胞周囲の線維化(pericellular fibrosis)、中心静脈周囲の線維化(perivenular fibrosis)、脂肪沈着、肝細胞の風船様変化(ballooning)、好中球浸潤を伴う肝細胞壊死
治療 禁酒(精神科と連携)、栄養療法(ビタミンB1補給)
肝庇護薬(グリチルリチン製剤、UDCA)

自己免疫性肝炎 AIH:Autoimmune hepatitis

疫学 中年女性に好発
病態 自己免疫性機序が関与する慢性活動性肝炎で、持続性の肝細胞壊死により早期に肝硬変に至る。日本ではHLA-DR4陽性が多い。
【合併症】
他の自己免疫疾患(RA、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群など)
症状 無症状、または、
自己免疫疾患症状:SLE様の顔面紅斑、関節痛、発熱
慢性肝炎様症状:出血傾向、黄疸
検査 【血液検査】
抗核抗体(+)抗平滑筋抗体(+)、トランスアミナーゼ↑、慢性炎症のためγグロブリン↑IgG↑赤沈↑CRP↑
【生検】
虫食い壊死(piecemeal necrosis)、びまん性のリンパ球浸潤ロゼット様配列・水腫状変化
治療 ステロイド長期投与、軽症例や維持療法にUDCA

【抗体の違い】実家の爺さん豪華な生活、誕生日の見込みは、高価なピアノ

己免疫性炎(AIH) 原発性胆汁性胆管炎(PBC) 原発性硬化性胆管炎(PSC)
IgG抗核抗体、抗平滑筋抗体 IgM、抗ミトコンドリア抗体 P-ANCA(陽性率高くない)
HLA-DR4陽性(A→4に似 HLA-DR8陽性(B→8に似 HLAとの関連は不明
AST↑ALT↑ γ-GTP↑ALP↑ γ-GTP↑ALP↑
中年女性に多い
AIH:愛ちゃんは女
中年女性に多い
PBC:ババア
成人男性に多い
PSC:青年
肝細胞障害 肝内の胆汁うっ滞 肝内外の胆汁うっ滞
ステロイドで治療 ステロイドは禁忌 合併:潰瘍性大腸炎胆管癌

原発性胆汁性胆管炎 PBC:Primary Biliary Cholangitis

疫学 中高年女性に好発(約90%)、比較的まれな疾患
病態 別名、原発性胆汁性肝硬変。
自己免疫性機序が関与して肝内の小さな胆管(特に小葉間胆管)が障害され、慢性の肝内胆汁うっ滞閉塞性黄疸をきたす疾患。炎症が持続する場合には肝硬変に移行する
【合併症】
①胆汁うっ滞が原因:骨粗鬆症、脂質異常症(皮膚黄色腫)、骨軟化症
②肝障害が原因:門脈圧亢進(食道胃静脈瘤、脾腫、腹壁静脈怒張)
③自己免疫疾患:RA、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群など
症状 無症状、または、
掻痒、黄疸、皮膚黄色腫が見られる場合もある
検査 【血液検査】
抗ミトコンドリア抗体(+)IgM↑ALP↑γGTP↑、CHol↑(HDL↑)
【画像検査】
エコー:悪性腫瘍を除外
【生検】
小葉間胆管減少、Glisson鞘線維化、慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)
治療 UDCAが第一選択、掻痒に対してはコレスチラミン、進行例では肝移植
ステロイド禁忌(長期投与により合併症の骨粗鬆症の増悪を招くため)

肝硬変 LC:Liver cirrhosis

病態 肝臓全体が線維性隔壁に囲まれた再生結節がびまん性に形成された不可逆的状態。臨床的には肝機能がある程度保たれている代償期と肝機能障害が進行した非代償期に分類される。
死因:原発性肝癌(約70%)>肝不全>消化管出血(食道胃静脈瘤破裂など)
<原因>
肝炎ウイルス(約80%、主にHCV)>アルコール性(約20%)>PBC、NASHなど
症状 【合成能↓】
①低Alb血症:浮腫、漏出性腹水(淡黄色透明)、胸水、RAA系↑
②T-Chol↓
③凝固因子↓:PLT↓(肝でのトロンボポエチン産生↓と脾機能↑による)、出血傾向、PT延長
【異化作用↓】
①T-Bil↑:黄疸、掻痒、色素沈着
②エストロゲン代謝障害:くも状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房
③アンモニア↑:肝性脳症(精神症状、羽ばたき振戦=アステレキシス)、Fischer比↓
【門脈圧亢進症状】→肝の線維化により門脈圧が亢進
①食道胃静脈瘤、②腹壁静脈怒張、③脾腫(汎血球減少)、④漏出性腹水など
【その他の症状】
①全身倦怠感、②食欲不振、③腹部膨満感(腹水)、④ばち指
【合併症】
腹水に細菌が侵入して発症する特発性細菌性腹膜炎(SBP):発熱、腹痛、腹膜刺激症状、腹部膨満感、腹水中の好中球の増加。大部分は非代償性肝硬変を背景とする。
検査 【血液検査】
トランスアミナーゼ↑(AST優位)、LDH↑
Alb↓、ChE↓、Chol↓、補体価↓、PT・APTT延長
アンモニア↑、Fischer比↓、Bil(直接・間接)↑
ヒアルロン酸↑、Ⅳ型コラーゲン↑
γグロブリン↑(肝障害を伴う血清蛋白成分の変化のため)
肝硬変進展により骨髄での血球産生量低下し汎血球減少
AFP、PIVKA-Ⅱの上昇は肝癌を疑う。
【ICG試験(基準値10%以下)】
肝臓の解毒能力を調べる検査。ICGは胆汁中に排泄されるため,肝血流量の低下および肝細胞数が減少すると停滞率が上昇するため、肝硬変の重症度や手術適応の判定に有用。肝硬変では通常ICG停滞率が25%以上であり、非代償期では50%以上である。ただし、ICG(インドシアニングリーン)は血中Bilの影響を受けるため注意!
【画像検査】
エコー・CT:肝表面の凹凸不整、肝辺縁の鈍化、腹水、脾腫
内視鏡:食道静脈瘤の早期発見
【SBP】
腹腔穿刺:細菌の有無、好中球増加、細胞診(癌性を否定)を調べる
治療 【代償期】
安静、低蛋白食、肝庇護薬、原疾患治療
【非代償期】
①腹水・浮腫:塩分制限、利尿薬(スピロノラクトン)、Alb製剤(2.5g/dL以下の場合)、腹腔穿刺
②肝性脳症:低蛋白食、BCAA製剤、腸内細菌を整える(ラクツロース+微温湯の浣腸、難吸収性抗菌薬)
③SBP:セフォタキシムなどの第三世代セフェム系抗菌薬
④食道胃静脈瘤:EIS、EVLなど
⑤脾腫:脾摘、脾動脈塞栓術

【Child-Pugh分類(肝硬変重症度分類)】

肝機能障害度の場合は、脳症の代わりにICG(インドシアニングリーン)試験を用いて評価する。

A B C→肝切除の適応なし!
5〜6点 7〜8点 10〜15点
  1点 2点 3点
腹水 なし 軽度 中~高度
血清Alb値(g/dL) >3.5 2.8~3.5 <2.8
血清Bil値(mg/dL) <2.0 2.0~3.0 >3.0
PT(%) >70 40~70 <40
肝性脳症 なし Ⅰ・Ⅱ度 Ⅲ・Ⅳ度

Child-Pughの項目 (ビア腹のPT:ビリルビン、アルブミン、腹水、脳症、PT

Child-Pughの2点のスコア(みやさこにーさん軽々しく死なないで:2.8〜3.5、2〜3、軽度、40〜70

肝細胞癌 HCC:Hepatocellular carcinoma

病態 HCV(約60%)やHBV(約15%)などの慢性肝炎を背景に発症。
肝細胞癌は門脈に浸潤しやすいため、門脈を介し肝内に転移することが多い。また、血行性に肺に転移することも多く、リンパ節転移は少ない。門脈浸潤では門脈腫瘍塞栓、肝静脈・下大静脈浸潤では Budd-Chiari症候群を生じることがある。
症状 ほぼ無症状
進行すると腹水、黄疸が(+)
検査 【血液検査】
AFP↑PIVKA-Ⅱ↑、トランスアミナーゼ↑、AST/ALT比↑、肝内胆管閉塞により胆汁排泄が障害されALP↑γGTP↑
【画像検査】
エコー:鮮明かつ平滑な境界を有する結節、肝腫瘤周囲に低エコー域(halo)を伴う結節、腫瘤内部がモザイク像を呈する結節など。造影エコーでは動脈相で濃染、門脈相でwash outされ、Kupffer相で欠損像を認める。
造影CT/MRI:動脈相で濃染門脈相〜平衡相で相対的低吸収/低信号を示す腫瘤性病変
選択的腹腔A造影:動脈相で血管過多、静脈相で血管分布状態が低下
治療 肝障害度・腫瘍数・腫瘍径などを参考に治療方針を決定
【根治療法】
外科的切除:3cm以上の単発性病変、黄疸・腹水・肝性脳症(ー)、ICG15分停滞率30%以下
ラジオ波焼灼療法(RFA):腫瘍3個以下かつ3cm以下
肝移植:Child-Pugh分類C、65歳以下
【根治外療法】
経カテーテル的肝動脈化学塞栓療法(TACE):根治療法が適応にならず、腫瘍が多数ある場合に実施。高度黄疸、難治性腹水、門脈本幹閉塞は禁忌。TACEで肝機能の悪化をきたすことがあるためChild Cの場合は不可。
④経カテーテル的肝動脈塞栓療法(TAE):肝癌の腹腔内出血、肝癌破裂
⑤肝動脈内動注化学療法(TAI):抗癌剤を直接肝動脈に注入

肝内胆管癌

病態 胆管細胞上皮から発生する悪性腫瘍。早期よりリンパ行性に肝内に転移しやすく、進行例で発見されることが多いため、予後不良である。
症状
検査 【血液検査】
CA19-9CEA
【画像検査】
dynamic CTでは動脈相はリング状濃染を伴う低吸収域、徐々に遷延性濃染する。
治療 肝臓切除を含む胆管切除+胆管-空腸吻合による再建

転移性肝癌

疫学 原発性肝癌より多い
病態 肝臓以外の臓器に生じた悪性腫瘍が肝臓に転移したもの。
腫瘍は結節型で多発性のことが多い(腫瘤形成型>びまん性浸潤型)
原発:消化器癌(大腸癌胃癌など)>肺癌>乳癌>卵巣癌
症状 原発巣による症状、腹部膨満感、黄疸、腹水など
検査 【血液検査】
原発巣を反映した腫瘍マーカー↑
【画像検査】
エコー:低エコー部の中心に高エコー部がある(bull’s eye sign
CT:低吸収の腫瘤辺縁にリング状の造影効果あり
治療 大腸癌:切除可能な場合は外科的切除
胃癌、乳癌:化学療法

肝血管腫(Kasabach-Merritt症候群含む)

疫学 中年女性に好発
病態 非上皮性の良性腫瘍で、肝良性腫瘍の約80%を占める。
海綿状血管腫と血管内皮腫に大別され、大部分は海綿状血管腫。
Kasabach-Merritt症候群
乳幼児期に発症し、頚部や四肢に巨大血管腫を生じ、DICを合併することがある。
症状 無症状
検査 【画像検査】
エコー:境界明瞭な高エコー像
CT:境界明瞭な低吸収域、dynamic CTでは造影早期より腫瘍辺縁から中心へと濃染し、静脈相後期まで長期に濃染が持続する。
血管造影:動脈相で点状の綿花状濃染像(cotton wool appearance)、静脈相でも数分間の造影剤貯留像(pooling)
治療 経過観察

肝嚢胞 Hepatic cyst

病態 肝に嚢胞を形成する疾患で、大部分が先天性である。
先天性:多発性が多く、嚢胞腎を高頻度に合併する。
後天性:寄生虫性ではエキノコックス症が多く、居住歴の聴取が重要となる。
症状 無症状
検査 【画像検査】
エコー:辺縁平滑な無エコー像、後方エコーの増強
治療 経過観察
腹痛・圧迫症状があれば嚢胞摘出、開窓術、エタノール・ミノサイクリン注入療法など

肝膿瘍 Liver abscess

病態 肝内に何らかの原因で感染をきたし、膿瘍を形成する疾患。
病原体により細菌性肝膿瘍とアメーバ性肝膿瘍に分類される。
【細菌性肝膿瘍】
起因菌はグラム陰性桿菌(大腸菌が最多)、膿内容は黄色で腐敗臭あり
【アメーバ性肝膿瘍】
起因菌は赤痢アメーバ、単発性で右葉に多い、膿内容はチョコレート状
症状 悪寒戦慄を伴う発熱、右季肋部痛、全身倦怠感
検査 【身体検査】
触診:肝腫大
打診:肝叩打痛
【血液検査】
WBC↑CRP↑ALP↑
【画像検査】
エコー:辺縁不整・内部不均一な低エコー域、穿刺により確定診断+細菌培養
造影CT:辺縁がリング状に濃染する(細菌性:多房性、アメーバ:単房性)
治療 エコーガイド下の経皮的肝穿刺ドレナージ→膿の性状、膿の培養により病原体を同定
細菌性なら抗菌薬、アメーバ性ならメトロニダゾールを投与する

門脈圧亢進症

病態 門脈系の血流障害により門脈圧が200mmH2O以上を示す病態。その結果、
①左胃Vを逆流して食道胃静脈瘤
②脾Vを逆流して脾腫上直腸V怒張(内痔核)
③肝円索→臍傍Vを逆流して腹壁V怒張を呈する。
肝後性、後類洞性、類洞性、前類洞性、肝前性に分類される。
症状 ①食道胃静脈瘤破裂:吐血、黒色便
②脾腫:脾機能亢進により汎血球減少→易感染性、出血傾向、貧血
③上直腸V怒張:内痔核→血便
④腹壁V怒張:上行性(Budd-Chiari症候群)、放射状のメドゥーサの頭(肝硬変)
検査 【血液検査】
Alb↓、血小板↓
治療 原疾患の治療

【分類】

  閉塞部位 閉塞性肝V圧(類洞圧) 腹水 主な原因疾患
肝後性 下大Vより上位
or 肝外肝V
++ 右心不全
Budd-Chiari症候群
後類洞性 肝内肝V ++ 肝硬変
類洞性 類洞 ++ 肝硬変
前類洞性 肝内門脈 正常 IPH、日本住血吸虫症
肝前性 門脈本幹 or 脾V 正常〜↓ 肝外門脈閉塞症

特発性門脈圧亢進症 IPH:Idiopathic portal hypertension

疫学 中年女性に好発
病態 組織学的所見で肝硬変がなく、肝外門脈および肝静脈の閉塞を認めないが、門脈圧亢進をきたす原因不明の疾患。
症状 門脈圧亢進症を参照
検査 【画像検査】
門脈造影:肝外門脈の閉塞なし
肝静脈カテーテル:肝静脈のしだれ柳状所見あり、肝静脈の閉塞なし
腹腔鏡:肝表面は大きな隆起と陥没を示し、全体に波打ち状
【生検】
門脈末梢枝の潰れを伴う軽度〜中等度の線維化あり
治療 脾腫:PTL4万以下など脾機能亢進が強い場合に部分的脾動脈閉塞術、脾摘など
食道静脈瘤:EVL、ESD

Budd-Chiari症候群

病態 下大静脈手前の肝外Vの閉塞により、肝静脈圧が上昇する疾患。
肝硬変を合併することが多い。原発性と続発性に分類される。
原発性:原因不明
続発性:腫瘍などによる静脈の物理的圧迫、PNH・真性多血症・ピル服用などの血栓傾向を呈する疾患
症状 門脈圧亢進症を参照+下肢静脈瘤(難治性の下腿潰瘍)
検査 【画像検査】
肝静脈・下大静脈造影:肝外静脈または肝部下大静脈の閉塞確認(確定診断)
【生検】
小葉中心静脈のうっ血+周辺領域の肝細胞壊死
治療 続発性は原疾患の治療+下大静脈を介した血流の再開通
肝不全の場合は肝移植

体質性黄疸(Gilbert症候群)

疫学 有病率5%、20〜30歳代に発症、男性に多い
病態 体質性黄疸は、肝における先天的Bil代謝障害によって生じる黄疸であり、多くは家族性に発症する。体質性黄疸のほとんどはGilbert症候群である。
Gilbert症候群は肝細胞内における間接Bilの摂取障害やグルクロン酸抱合障害によって生じる疾患である。
症状 軽度の動揺性黄疸
検査 【血液検査】
間接Bil↑、肝機能正常
【低カロリー食試験】
48時間低カロリー試験で血清ビリルビン値が2倍程度上昇
治療 経過観察
掻痒、黄疸が気になる場合はフェノバルビタール投与(投与によってBil低下)

【小】新生児肝炎

病態 肝内胆汁うっ滞をきたすが、原因が同定されないもの。
症状 遷延黄疸、灰白色便
検査 エコー:胆嚢・胆管確認
治療 経過観察

胆疾患

胆嚢胆石症

疫学 成人の約10%
リスク因子(5F):fatty、forty、fertile・female(多産婦)、fair(白人)
病態 胆道系に形成された胆石で、発生部位により胆嚢結石(約80%)、肝内胆管結石、総胆管結石に分類される。
【結石成分による分類】
①コレステロール結石(約70%):胆嚢結石で多くみられる
※多くはビリルビンとの混合・混成によって形成される(約60%)
②ビリルビン結石=黒色石(約30%):肝内胆管結石、総胆管結石に多い。肝硬変溶血性貧血・胃全摘後に生じやすい。
症状 半数以上は無症状(無症候性の約2/3はそのまま無症候で経過するため経過観察でOK)
胆石発作時は、
①食後(特に脂肪食)の上腹部痛:3時間程度持続(6時間以上は胆嚢炎を疑う)
右肩・右背部への放散痛
胆石発作は発熱や炎症反応がない(胆嚢炎はある)
【胆石発作再発リスク】
・1年以内に再発するリスクは約50%
・1年で胆嚢炎に移行するリスクは1〜3%
【合併症】
胆囊腸管瘻:胆囊と消化管をつなぐ瘻孔を介して胆石が消化管内に移動し、腸閉塞をきたすことがある(胆石腸閉塞)
検査 【画像検査】
腹部エコー:表面が高エコー、その後方に低エコーの音響陰影。または、音響陰影を伴わない高エコーの胆泥が確認される。
腹部X線:描出されないことが多い(特にコレステロール結石)
ERCP・MRCP・PTC(総胆管結石の場合):胆道の拡張+胆道内の陰影欠損
治療 【薬物療法】
発作時:NSAIDs、抗コリン薬(モルヒネ単独投与はOddi括約筋の収縮を促すため禁忌)
非発作時:ウルソデオキシコール酸(X線透過性のChol胆石・1cm以下・胆嚢機能OK・ほぼ無症状が条件→胆石消失率30%)
<胆嚢結石>
予防的腹腔鏡下胆嚢摘出術(第一選択)症状がある場合は手術!(閉塞性化膿性胆管炎、Mirizzi症候群、胆道消化管瘻、肝硬変、癌の合併では禁忌
②体外衝撃波結石破砕術(ESWL):炎症のないChol胆石・2cm以下・3個以内・胆嚢機能OKが条件→胆石消失率50%(再発率40%と高いためESWLはあまり行わない)
<総胆管結石>
内視鏡的胆道ドレナージ:内視鏡的乳頭括約筋切除術(EST:出血の合併症)、完全除去ができない場合や急性胆管炎がある場合には内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)、胆管ステント留置、内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPD:膵炎の合併症)を行う
②経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)
<肝内胆管結石>
経皮的胆道鏡下切石術(PTCSL)(第一選択)
②肝切除:肝萎縮がある場合
③拡大胆管切開切石術:胆管狭窄のひどい場合

急性胆嚢炎

病態 <胆石症(約90%)>
胆石が胆嚢管を閉塞させ、胆汁がうっ滞し、そこに二次的に細菌感染して生じる急性炎症。
<無石性胆嚢炎(約10%)>
胆汁うっ滞(絶食、高カロリー輸液)や胆嚢虚血(頸捻転、血栓など)により、胆汁がうっ滞し、そこに二次的に細菌感染して生じる急性炎症。胆嚢壊死や穿孔、気腫を高率に合併し、死亡率も高い。
【原因菌】
嫌気性菌、GNR(大腸菌などの腸内細菌科)
【急性胆管炎の重症度分類】
軽症、中等症、重症の3段階
【Mirizzi症候群】
胆石の胆囊頸部嵌頓(石がミリミリっとはまる)および炎症の波及によって総肝管ないし総胆管の狭窄をきたしたもの(肝内胆管は拡張するが、胆囊は虚脱する)。
症状 ①発熱
②右季肋部痛(特に食後):初期は上腹部痛→進展すると右季肋部痛(持続性が多い)
③悪心嘔吐
進行すると、胆囊捻転症、気腫性胆囊炎、壊死性胆囊炎、胆囊穿孔、胆嚢周囲膿瘍、腹膜炎などきたす
検査 【身体検査】
触診:右季肋部を用手圧迫した状態で深吸気時に痛みのため呼吸が途中で止まる(Murphy徴候、エコーで胆嚢を見ながら圧迫するとより正確にできる)
【画像検査】
腹部エコー:胆嚢壁の肥厚(4mm以上)胆嚢周囲の液体貯留、胆嚢腫大
造影ダイナミックCT:動脈相で胆嚢周囲肝実質の濃染
MRCP:
【血液検査】
WBC↑CRP↑(通常、肝胆道系酵素は上昇しない。しかし、Mirizzi症候群併発、敗血症、胆嚢炎の穿孔ではBil↑)
初期
治療
①まずは、重症度分類、消化器外科にコンサルト
絶食、輸液
血液培養提出→抗菌薬静注
例:①ABPC/SBT 3g/6hr、②ESBLの可能性ある軽症患者 CMZ 2g/8hr、③ESBLの可能性ある重症患者 MEPM
根治
治療
胆嚢摘出術ができるかリスク評価を行う:TG18を見ながらCCIを評価
<手術ができる場合>
腹腔鏡下胆嚢摘出術(第一選択):軽症・中等症でCCI5以下なら72時間以内に実施、それ以外なら待機的摘出術。禁忌は胆石症を参照。
<手術ができない場合>
経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD:Percutaneous Transhepatic Gallbladder Drainage):全身状態不良な重症例に行う。PTGBDは胆囊と肝臓が唯一癒着している胆囊床を穿刺することで穿刺に伴う胆汁漏出を防ぐことができる。※胆嚢炎にESWLは禁忌!

急性胆管炎(急性閉塞性化膿性胆管炎を含む)

病態 総胆管閉塞で胆汁うっ滞し、二次的に細菌感染して生じる急性炎症。胆道内圧上昇に伴い細菌やエンドトキシンが血中に移行し、敗血症に至ったものを急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)といい、胆管炎では腹痛は目立たず敗血症を主体となる場合が多い。
【総胆管閉塞の原因】
①総胆管結石
②悪性腫瘍:乳頭部腫瘍、胆管癌、膵頭部癌
③その他:膵炎、十二指腸憩室、ステント閉塞など
【原因菌】
嫌気性菌、GNR(大腸菌などの腸内細菌科)
【急性胆管炎の重症度分類】
軽症、中等症、重症の3段階
症状 <Charcot三徴:3つ揃うことは珍しい>
発熱、②黄疸、③右季肋部痛(胆管結石由来なら心窩部痛が多い)
<Reynolds五徴>
④意識障害、⑤敗血症性ショック ←AOSCで見られる!
※高齢者では顕著な症状が出ないまま重症化することがあるため注意
検査 【画像検査】
①腹部エコー:総胆管〜肝内胆管の拡張
②単純+造影ダイナミックCT:総胆管拡張(7mm以上)、肝内胆管拡張、閉塞起点
※閉塞起点が不明→CT陰性結石 or 胆石自然排石後 or Lemmel症候群
MRCP:胆管結石を検出しやすい
【血液検査】
WBC↑CRP↑、ALP↑γGTP↑AST↑ALT↑T-Bil↑D-Bil↑
初期
治療
①まずは、重症度分類、消化器内科にコンサルト
絶食、輸液
血液培養提出→抗菌薬静注(急性胆嚢炎と同じ、投与期間はERCP施行後など感染コントロールがついた後、4〜7日投与)
④胆管ドレナージ:重症は緊急、中等症は24時間以内に施行
<胆管ドレナージの種類>
・内視鏡的胆嚢ドレナージ(EBD):消化器内科医がいる場合
・経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD/PTCT):消化器内科医がいない場合
<胆管ドレナージ前に確認事項>
・最終飲食時間:full stomachかどうか
・胃、十二指腸、胆嚢、膵臓の術後再建後ではないか
・抗血栓薬の種類、最終内服時間
・胆石性膵炎になっていないか:急性膵炎の診断と同じ
・腹臥位になれるか
根治
治療
<総胆管結石がある場合>
内視鏡的乳頭括約筋切除術(EST):出口を切開するためドレナージ必要なし
⑤内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD:Endoscopic Papillary Balloon Dilatation)

原発性硬化性胆管炎 PSC:Primary sclerosing cholangitis

疫学 成人男性に好発
病態 肝内外の胆管の線維性狭窄をきたす疾患。胆汁うっ滞により肝硬変に至る。
【合併症】
胆管癌、若年者では炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎
症状 無症状、または、
①右季肋部痛、②黄疸、③皮膚掻痒
検査 【血液検査】
MPO-ANCA(+)、ALP↑γGTP↑、T-Bil↑
【画像検査】
ERCP:線維性閉塞性胆管炎(肝内外胆管に多発性の狭窄・壁不整)、小葉間胆管周囲の線維化(onion skin lesion)
治療 対症療法:ウルソデオキシコール酸
黄疸:胆道ドレナージ
肝不全の場合は肝移植

先天性胆道拡張症

疫学 若年女性に多い
病態 ほぼ全例に膵・胆管合流異常症を合併し、合流異常に伴って膵液と胆汁がお互いに逆流するため、胆汁中に含まれるエンテロキナーゼにより膵酵素が活性化し、胆管炎、胆石形成、膵炎など様々な症状を引き起こす。
【合併症】
胆嚢癌・胆管癌:膵液が胆管に逆流し、胆道上皮の障害と再生を繰り返すため
症状 <3徴>
(幼少時からの繰り返す)腹痛:胆管炎、膵炎
②黄疸:胆石形成
③腹部腫瘤
検査 【画像検査】
MRCP:総胆管と膵管の合流異常と総胆管の拡張を確認
治療 胆道がん予防のため手術(肝外胆管切除+胆囊摘出+空腸で胆道再建)

胆囊腺筋腫症

病態 胆囊腺筋腫症は炎症などで胆囊粘膜が壁内に入り込んだ構造(Rokitansky-Aschoff洞)が増殖して、胆囊壁の肥厚・上皮の過形成を呈した病態。
症状 無症状(時に上腹部不快感)
検査 【画像検査】
エコー:高エコー(胆囊壁の肥厚)、コメットサイン(洞内で多重反射する)
治療 経過観察
症状を認める場合や癌が疑われる場合は胆囊摘出術を行うことがある

胆嚢癌

疫学 高齢女性に好発
リスク因子:膵胆管合流異常(特に胆道非拡張型)、胆嚢粘膜ディスプラジア
病態 胆嚢および胆嚢管に生じる腫瘍で、腺癌が多い。
胆嚢は漿膜を欠くため、発見時には進行癌であることが多い。
症状 ①進行性黄疸
②皮膚掻痒、右季肋部痛、体重減少など
【合併症】
胆石症(特にコレステロール結石)→胆石を見たら胆囊癌を疑う
検査 【画像検査】
①エコー:胆嚢内に辺縁不整な隆起性病変1cm以上)、胆嚢壁肥厚、音響陰影(ー)
②CT・MRI
③内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
【血液検査】
CEA<<CA19-9(閉塞性黄疸)
治療 まず、閉塞性黄疸に対する減黄処置:胆道ドレナージ
【手術】
粘膜までの早期癌:胆嚢摘出(腹腔鏡手術は推奨されず開腹手術が多い)
【手術不能】(大動脈周囲のリンパ節転移がある場合は根治手術不能と判断)
ケモラジ:GC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)が標準治療

胆管癌

疫学 高齢男性に好発
リスク因子:膵胆管合流異常(先天性胆道拡張症)、原発性硬化性胆管炎(PSC)
病態 肝外胆管由来の腫瘍で、腺癌が多い。発見時には進行癌であることが多い。
発症部位により肝内胆管癌、肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌に分別される。肝転移、リンパ節転移が多い。
症状 ①無痛性進行性黄疸
②皮膚掻痒、右季肋部痛、体重減少など
検査 【身体検査】
Courvoisier徴候:三管合流部より乳頭側にできた悪性胆管病変(胆管癌、膵頭部癌、乳頭部癌)では胆囊の無痛性腫大を触知する(cool:痛くない
【画像検査】
エコー:肝内・肝外胆管の拡張、拡張した胆管より下流の腫瘤
ERCP:不正な胆管狭窄
【血液検査】
CEA<<CA19-9(閉塞性黄疸)
治療 まず、閉塞性黄疸に対する減黄処置:胆道ドレナージ
【手術】
肝門部・上部胆管癌:胆管切除+肝切除+リンパ節郭清+胆嚢摘出(空腸で再建)
中部・下部胆管癌:膵頭十二指腸切除+リンパ節郭清
【手術不能】(大動脈周囲のリンパ節転移がある場合は根治手術不能と判断)
ケモラジ:GC療法(ゲムシタビン+シスプラチン)が標準治療

乳頭部癌

疫学 高齢男性に多い
病態 Vater乳頭・十二指腸壁の三管共通部に発生した癌で、多くは分化型腺癌。
比較的早期に閉塞性黄疸が出現するため早期に診断され、胆膵癌の中で最も予後良好。
症状 黄疸、濃褐色尿
検査 【身体検査】
Courvoisier徴候:三管合流部より乳頭側にできた悪性胆管病変(胆管癌、膵頭部癌、乳頭部癌)では胆囊の無痛性腫大を触知する
【画像検査】
上部内視鏡検査:Vater乳頭に辺縁不整な腫瘤→生検
ERCP・MRCP:総胆管末端部の陰影欠損、胆管・膵管の拡張
【血液検査】
CEA<<CA19-9(閉塞性黄疸)
治療 まず、胆道ドレナージ(EBD、PTBD)
膵頭十二指腸切除術+リンパ節郭清+再建

 

【小】胆道閉鎖症

疫学 女児にやや多い、1/1万人
病態 肝外胆管の全て or 一部に閉塞をきたす疾患で、主に肝門部閉塞が多い(約90%)。
無治療では胆汁うっ滞性肝障害により胆汁性肝硬変・肝不全に移行し、肝移植が必要となる。
症状 ①遷延性黄疸
灰白色・淡黄色便
肝脾腫
④ビタミンK不足症状:頭蓋内出血(約4%)、吐下血
検査 【血液検査】
AST↑ALT↑ALP↑γGTP↑直接Bil↑
【画像検査】
腹部エコー:空腹時の胆嚢内腔の欠如、肝門部triangle sign
【十二指腸液検査】
胆汁を含まない腸液(+)
治療 生後60日以内に肝門部・空腸吻合術(葛西手術)
術後は上行性胆管炎の予防
頭蓋内出血時には新鮮凍結血漿投与(ビタミンK依存性凝固因子補充)

膵臓疾患

膵管拡張 膵癌、慢性膵炎、膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMN)
膵管狭窄 自己免疫性膵炎

急性膵炎

疫学 中年男性に多い
病態 膵臓内で活性化された膵酵素が膵臓を自己消化する急性炎症。約20%が慢性膵炎に移行。
膵酵素による炎症のため血管透過性が亢進し、循環血液量が減少する。
<原因>
アルコール性(約35%、男性で最多)
胆石(約30%、女性で最多)
特発性(約20%、女性に多い)
その他:脂質異常症、副甲状腺機能亢進症、薬剤性、感染性、特発性
症状 ①急激な上腹部痛:胸膝位で軽減する心窩部〜背部の持続痛
②発熱、血圧低下、頻脈など
【重症急性膵炎の症状】
①膵の出血性壊死:皮膚内出血斑(Cullen徴候:臍周囲、Grey-Turner徴候:左側腹部周囲→膵炎で華麗にターン)、テタニー(遊離した脂肪にCaが吸着して低Ca血症になる)
②周囲への炎症波及:DIC、腹膜炎による麻痺性イレウス
③血管透過性亢進:ショック、呼吸障害(ARDS)、急性腎不全→代謝性アシドーシス
④全身性炎症反応症候群(SIRS):体温38℃以上または36℃未満、脈拍90/分以上、呼吸数20/分以上またはPaCO2 32mmHg未満、WBC12000以上または4000未満
⑤多臓器機能不全症候群(MODS)
【合併症】
①急性膵周囲液体貯留(発症4週以内):壊死がない場合
②仮性膵囊胞(発症4週以降):壊死がない場合
③急性壊死性貯留(発症4週以内):壊死が存在する場合
④被包化膵壊死(WON)(発症4週以降):壊死が存在する場合、壊死がが線維性に被包化され、画像上は皮膜を有した多房性囊胞の形態となる
検査 【身体検査】
触診:圧痛、筋性防御、腸雑音低下
【血液検査】
アミラーゼ↑リパーゼ↑エラスターゼ↑、C-TOPCa↓Chol↓TP↓O2↓PLT↓
※壊死した脂肪組織にCaが結合するためCa低下する
【画像検査】
①X線:colon cut-off sign(下行結腸にガスがない)、sentinel loop sign(膵周囲の左上腹部空腸ガス)
②造影CT:膵腫大、輪郭の不明瞭化
重症度判定 予後因子が3点以上、または造影CT Grade 2以上の場合を重症とする(48hr内に判定)
予後因子
①Base Excess(BE)↓またはショック、②PaO2↓または呼吸不全、③BUN↑Cre↑または乏尿、④LDH↑、⑤PLT↓、⑥Ca↓、⑦CRP↑、⑧SIRS項目3以上、⑨70歳以上
CPAにBLSCa↓CRP↑、PaO2↓Plt↓、Age 70歳、BE↓BUN↑、LDH、SIRS
<造影CT>
①炎症の膵外進展度、造影不良域スコア
治療 原則、保存療法。重症例では集中治療と全身管理。
①絶食、安静、輸液、酸素投与
②非麻薬性鎮痛薬:ブプレノルフィンなど
③蛋白分解酵素阻害薬の点滴
④抗菌薬投与
重症膵炎:血液浄化療法(CHDF)

慢性膵炎

病態 長期にわたって膵臓に小さな炎症を繰り返すことで非可逆的な慢性変化を生じ、臨床的に膵臓の外分泌・内分泌機能の低下を伴う疾患。稀に膵癌を合併することがある(2%)。
<原因>
成人男性:アルコール性(約70%)特発性(約20%)、小児:嚢胞性線維症が多い
症状 【代償期】
①反復する上腹部〜背部痛(膵機能はある程度保たれる)
【非代償期(発症後約10年〜、疼痛は軽減 or 消失)】
①消化吸収不良(脂肪便・下痢)→体重減少:膵外分泌機能低下
②糖尿病症状:膵内分泌機能低下
検査 【血液検査】
グルカゴン↓インスリン↓、アミラーゼ↓リパーゼ↓
【膵臓外分泌機能検査(PFDテスト)】
BT-PABA試験:膵キモトリプシンの活性低下(=尿中PABA排泄率↓)
※経口投与されたBT-PABAは、膵キモトリプシンにより加水分解を受けPABAとなり腸管から吸収され、肝で抱合を受けた後,尿中に排泄される。そのため、腎疾患、消化管疾患、肝疾患の存在によってPABAの値は変動する。
【膵臓内分泌機能検査】
OGTT:糖尿病の合併を確認
【画像検査】
X線:膵に一致した石灰化
CT:多発性の膵臓内石灰化(膵石)
ERCP:主膵管の不整な拡張(膵石がある部分は閉塞または狭窄像)
治療 断酒、禁煙、低脂肪食(非代償期は高カロリー食)
【代償期】
NSAIDs、抗コリン薬、蛋白分解酵素阻害薬、消化酵素薬、PPI
【非代償期】
消化酵素薬、PPI、ビタミン剤、インスリン(膵性糖尿病)

自己免疫性膵炎

疫学 中年以降の男性に多い
病態 慢性に進行する膵炎で、IgG4関連疾患の膵病変と考えられている。
膵腫大や膵管狭細像といった膵病変のみならず、硬化性胆管炎やリンパ節腫大、唾液腺腫大、後腹膜線維症といった多彩な膵外病変を呈する。
症状 特異的な症状なし
検査 【血液検査】
γ-グロブリン↑、IgG↑、IgG4↑、自己抗体(抗核抗体、RF)のいずれか認める
【画像検査】
ERCP:主膵管の狭細像
エコー:ソーセージ様の膵腫大を認める
治療 ステロイド

膵癌 pancreatic carcinoma

疫学 70歳以上の高齢男性に多い
リスク因子:家族歴、喫煙、大量飲酒、糖尿病、肥満、慢性膵炎、膵嚢胞、IPMN
病態 主に膵管上皮細胞から発生する胆管癌が大部分を占め、組織型は管状腺癌が多い(最も予後が悪い)。膵臓周囲は組織が乏しいため容易に浸潤する。膵尾部に近いほど予後不良である。リンパ節転移>肝転移>腹膜播種>肺転移の順に多い。
発生部位より部癌(約80%で最多)、膵体部癌・膵尾部癌(約20%)に分類される。
症状 【初期症状】
①多くは進行するまで無症状
②なんとなく胃の具合が悪いなどの腹部不定愁訴
③体重減少
【進行期症状】
①持続性の腹痛、腰背部痛:特に膵尾部癌では固有被膜がないため、後腹膜脂肪織に浸潤しやすく、神経浸潤により疼痛が著しい(胸膝位で軽減する)。
②閉塞性黄疸(白色便、掻痒、尿濃染、発熱):特に膵頭部癌では初発症状で見られ、総胆管閉塞により生じる。
③脂肪性下痢:膵外分泌機能低下による
④二次性糖尿病(口渇、多飲、多尿):膵内分泌機能低下による
検査 【身体検査】
Courvoisier徴候(無痛性の胆嚢腫大):膵頭部癌に多い
①血液検査
膵液うっ滞・随伴性膵炎:AMY↑
膵頭部癌:直接Bil↑ALP↑γGTP↑
腫瘍マーカー:CA19-9↑CEA↑(治療効果判定やフォローUPにも有効)
②エコー
多くは不整な低エコーな腫瘤、尾部の主膵管拡張を確認
造影CT(膵癌を疑ったら行う)
腫瘤部に低吸収域、膵管拡張像を確認し、手術適応の判定を行う
④MRI・MRCP
⑤超音波内視鏡(EUS):針穿刺吸引による細胞診・組織診(EUSFNA)
治療 【切除可能】
膵頭十二指腸切除+術後化学療法、膵体尾部・脾合併切除+術後化学療法
【切除不能】
ケモラジ、遠隔転移なら化学療法
【閉塞性黄疸】
胆道ドレナージ・ステント留置
【疼痛】
オピオイド:トラマドール、硬膜外ブロック

膵内分泌腫瘍

詳細は内分泌科を参照。

嚢胞性膵疾患(膵嚢胞)

病態 膵実質内に生じた嚢状構造物。壁が上皮で覆われている真性嚢胞、上皮がなく線維性結合組織からなる仮性嚢胞に分類される。膵嚢胞の約80%が仮性嚢胞である。
仮性嚢胞:急性膵炎後、慢性膵炎、外傷性
真性嚢胞:腫瘍性嚢胞(MCN、SCN、IPMN)、非腫瘍性嚢胞
症状 仮性嚢胞:腹痛、発熱、感染、出血など
真性嚢胞:無症状
検査 仮性嚢胞:血清アミラーゼ↑
超音波内視鏡(EUS):質の高い膵画像が得られる(画像診断)
②ERCP:膵液細胞診が可能(病理診断)
治療 仮性嚢胞:6週間は経過観察(自然消退の可能性あるため)
真性嚢胞:悪性化するものは膵切除術

【鑑別】

  膵管内乳頭粘液性腫瘍
(IPMN)
粘液性嚢胞腫瘍
MCN)マンダリンオレンジ!
漿液性嚢胞腫瘍
(SCN)漿=S=巣
形状 主膵管型:いくら状病変
分枝型:ぶどうの房状
壁の厚い線維性被膜
大きなオレンジ状
蜂の巣状(壁の薄い小囊胞の集簇)
特徴 粘液貯留による膵管拡張Vater乳頭口の開大が特徴の腫瘍 巨大球形の単房性または多房性腫瘍 壁の薄い小囊胞から成る多房性腫瘍
年齢 高齢男性 中年女性 高齢女性
部位 膵頭部 膵体尾部 差なし
治療 壁在結節・主膵管拡張があれば膵頭十二指腸切除 膵体尾部切除術
(病理:卵巣様間質
経過観察

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