便秘の概要
便秘になると何が問題か
①脳血管疾患 | いきむためか高度便秘では循環器系死亡リスク1.5倍、脳血管疾患は2倍に↑ |
②QOL低下 | |
③労働生産性低下 |
胆汁や食物繊維は自然の下剤
胆汁酸 | 胆汁酸の95%は小腸末端で再吸収されるが、不溶性食物繊維に付着した残り5%は大腸に送られ自然の下剤効果を発揮する |
水溶性食物繊維 | ゲル状となり便に潤いを与える(胆汁も同様) |
不溶性食物繊維 | 血糖値の上昇を抑え、水分で膨張し便量を増やして胆汁酸を運搬する |
ブリストル便性状スケール(BSFS1〜7)
BSFS | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
性状 | コロコロ | 硬い | やや硬 | 普通便 | やや軟 | 泥状便 | 水様便 |
通過時間 | 約100hr | → | → | → | → | → | 約10hr |
便秘の診察
便秘症を疑った時の問診と所見
問診 | 便の性状、週排便回数、排便時の強いいきみ、残便感、排便困難 |
腹痛、腹部違和感、膨満感、食事内容 | |
身体所見 | 直腸診:通常直腸に便はないため、便があれば糞便塞栓を疑う |
検査所見 | red flag・大腸器質的疾患の既往歴・家族歴がある場合は大腸内視鏡検査を検討 |
①便秘症の診断
便秘症の診断基準:以下、6項目のうち2項目以上を満たす | |
慢性便秘症の診断:6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は便秘症の基準を満たす場合 | |
① | 排便の1/4以上の頻度で、強くいきむ必要がある |
② | 排便の1/4以上の頻度で、兎糞状便 or BSFS1〜2である |
③ | 排便の1/4以上の頻度で、残便感を感じる |
④ | 排便の1/4以上の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある |
⑤ | 排便の1/4以上の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便、会陰部圧迫など) |
⑥ | 自発的な排便回数が、週に3回未満である |
②便秘のred flagを確認
red flagが陽性の場合、悪性腫瘍、腸閉塞、腸管穿孔など重症・緊急疾患の精査を行う
① | 便の狭小化 |
② | 血便 |
③ | 腹部膨満、強い腹痛、腹部圧痛、腹膜刺激徴候 |
④ | 嘔気嘔吐 |
⑤ | 体重減少(6ヶ月で10%以上) |
⑥ | 発熱、血圧低下などのバイタルサイン変化 |
⑦ | 急性便秘で症状が増悪傾向(特に高齢者) |
③便秘の原因薬剤を確認
red flagが陰性で、急性に生じた便秘は薬剤性が多い
薬品名 | 機序 | |
制吐薬 | グラニセトロンなど | 5-HT3受容体遮断による蠕動運動抑制 |
抗コリン薬 | アトロピンなど | 蠕動運動抑制+腸液分泌抑制 |
抗うつ薬 | 三環系>四環系 | 抗コリン作用あり |
ドパミン作動薬 | レボドパなど | 抗コリン作用あり |
オピオイド | トラマドールなど | μ2受容体刺激による蠕動運動抑制 |
Ca拮抗薬 | ニフェジピンなど | Ca細胞内流入の抑制による腸平滑筋収縮抑制 |
利尿薬 | ループ、MRA | 電解質異常に伴う腸管運動能低下 |
制酸薬 | Al含有薬 | 蠕動運動抑制 |
鉄剤 | フマル酸第一鉄 | 収斂作用で蠕動運動低下 |
NSAIDs | イブプロフェン | 蠕動運動抑制 |
④非薬剤性便秘の原因を検索
器質的 | 大腸癌、直腸癌、術後の腸管狭窄・イレウス、裂肛、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱 |
内分泌系 | 糖尿病、甲状腺機能低下症、高Ca血症、低K/Mg血症、慢性腎不全 |
神経系 | 脊髄損傷、脳梗塞、パーキンソン病、多発性硬化症、慢性偽性腸閉塞 |
筋疾患 | 筋ジストロフィー |
膠原病 | 皮膚筋炎、強皮症 |
変性疾患 | アミロイドーシス |
生活 | 食物繊維不足、運動不足、長期臥床など |
⑤便秘のタイプを確認
①便秘型過敏性腸症候群 | 週1以上の腹痛・腹部不快感+便回数減少型や排便困難型の症状 |
②便回数減少型 | 週3回未満、硬便(BSFS1〜2)、腹痛・腹部不快感なし |
③排便困難型 | 排便困難、残便感 |
⑥生活改善
①排便スタイル変更 | 「考える人姿勢」「洋式トイレ足台付き」で直腸と肛門が直線へ |
②運動療法 | 毎日30分以上の運動で便秘予防改善に効果があるかも |
③FODMAP制限 | 大腸で過発酵を起こす食物(FODMAP)制限は便秘型IBSの人に有効 |
⑦下剤の選択
原因が見つからない、または原因はあるが介入が困難である場合は下剤を必要最小限処方する。
便秘型過敏性腸症候群の場合 | |
生活指導 | FODMAP制限:消化しづらく膨満感の原因となる食物繊維の過剰摂取を避ける |
例)りんご、大麦、カリフラワー、ニンニク、豆類 | |
第1選択 | ①リナクロチド(リンゼス®):65歳未満の女性、腹痛優位の便秘に |
例)リナクロチド錠0.5mg 1回1錠 1日1回食後 | |
②ルビプロストン(アミティーザ®):高齢者(特に男性)に | |
例)ルビプロストンCP24μg 1回1CP 1日2回 朝夕食後 | |
③ポリカルボフィルCa(ポリフル®顆粒):下痢も便秘もある場合に | |
例)ポリカルボフィルCa1.5〜3.0g 分3 毎食後 | |
第2選択 | ①ただし、酸化Mgなどの浸透圧性下剤は効果がない |
注意1:大腸刺激性下剤の常用は避ける | |
注意2:PEG(モビコール®)は膨満感を増悪させる可能性がある | |
第3選択 | 抗不安薬、抗うつ薬:腹痛・腹部不快感の改善に |
漢方薬 | 大黄を含まない→桂枝加芍薬湯、大建中湯 |
便回数減少型の場合 | |
生活指導 | 食物繊維摂取不足(18g/日未満)なら摂取推奨 |
第1選択 | ①酸化Mg:若年、妊娠、費用が気になる人に(上限2g/日、eGFR60以上) |
例)マグミット錠330mg 1回1錠 1日3回 毎食後 | |
②ポリカルボフィルCa(ポリフル®顆粒):食物繊維摂取不足の人へ | |
第2選択 | ①ルビプロストン(アミティーザ®):高齢者(特に男性)、心機能・腎機能障害、高Mg血症に |
②リナクロチド(リンゼス®):65歳未満の女性に | |
③ラクツロース(ラグノスNFゼリー®):肝疾患患者に、マイルドな効き目 | |
④ポリエチレングリコール(モビコール®):腎機能低下に、小児にも使用可 | |
排便困難型の場合 | |
生活指導 | 「考える人姿勢」「洋式トイレ足台付き」で直腸と肛門が直線へ |
第1選択 | BSFS1〜2で硬便の場合は便回数減少型を参照 |
第2選択 | エロビキシバット(グーフィス®):BSFS4になっても排便困難な場合 |
第3選択 | 便秘専門外来へ紹介 |
レスキューの場合 | |
刺激性下剤 | ラキソベロンが無難か |
下剤の特徴
浸透圧性下剤
【塩類下剤】
一般名 | 先発名 | 特徴 |
酸化Mg | マグミット錠 | 【機序】胃酸で活性化されMgCl2となり、腸内でMg(HCO3)2となり浸透圧によって腸へ水分を誘導し、便を柔らかくする。コップ1杯の水と共に服用すると効果的で習慣性が少なく長期使用が可能。 【注意】 ①腎機能低下・高齢者・長期使用では定期的にMg測定 ②活性化VD製剤と併用で高Ca血症を生じやすい ③胃薬(PPIなど)と併用で胃での活性化が低下し効果減弱する 【ADME】8〜10時間後に作用発現 |
硫酸Mg | ー | あまり使われない |
マクロゴール400 | モビコール配合内用剤 | 【機序】PEGの浸透圧により腸管内水分量増加 【注意】 ①効果は用量依存的 ②味が良くない 【ADME】8〜10時間後に作用発現 |
【糖類下剤】
一般名 | 先発名 | 特徴 |
D-ソルビトール | ー | 消化管X線造影時に使用 |
ラクツロース | モニラック原末/シロップ ラグノスNFゼリー |
【機序】未変化体のまま大腸に達し、浸透圧によって便を柔らかくする。また、腸内細菌のアンモニア発生を抑制し、高アンモニア血症を予防する。 【ADME】1〜3日後に作用発現 |
【浸潤性下剤】
一般名 | 先発名 | 特徴 |
ジオクチルソジウム | ー | 【機序】界面活性作用により |
膨張性下剤
一般名 | 先発名 | 特徴 |
カルメロースNa | バルコーゼ顆粒 | 【機序】腸管内で水分を吸収して膨張し、内容物を増大させて大腸に物理的刺激を与えて排便を促す。 【ADME】12〜24時間後に作用発現 |
ポリカルボフィルNa | ポリフル顆粒 | 高分子重合体、機序は同上 |
小腸刺激性下剤
一般名 | 先発名 | 特徴 |
ヒマシ油 | ー | 【機序】小腸でリシノール酸とグリセリンに分解され、それらが小腸を刺激し蠕動運動を活発にする。 【注意】食中毒・消化管検査・手術による腸管内容物の除去に使用 【ADME】2〜6時間後に作用発現 |
大腸刺激性下剤
※アントラキノン系(センナ、アロエなど)を1年以上長期連用すると、大腸が全周性に黒色の色素沈着する(大腸メラノーシス、大腸黒皮症)。ただ、病的意義はない。
一般名 | 先発名 | 特徴 |
センナ | アジャストA錠 アローゼン顆粒 |
【機序】腸内細菌によってレインアンスロンが生成し、大腸の粘膜を直接刺激して蠕動運動を促進 【注意】長期連用により耐性が生じる 【ADME】8〜10時間後に作用発現 |
センノシド | プルゼニド錠 | 同上 |
ダイオウ | ー | 同上 |
大黄など | セチロ配合錠 | 大黄+センナ+黄連+酸化Mg+硫酸Mg |
ピコスルファートNa | ラキソベロン内用液 | 【機序】腸内細菌のアリルスルファターゼによって生成するジフェノール体が大腸運動を促進。 【利点】大腸刺激性下剤の中では作用が比較的穏やかで、副作用や習慣性も少ない。 【ADME】7〜12時間後に作用発現 |
アロエ | ー |
上皮機能変容薬
一般名 | 先発名 | 特徴 |
ルビプロストン | アミティーザCP | 【機序】小腸のClチャネルを活性化し、腸液分泌促進させ便を柔軟化させる。 【注意】 ①約30%に嘔気嘔吐が生じる ②PG誘導体のため若年女性には回避(妊婦に禁忌) 【ADME】24時間後に作用発現する。 |
リナクロチド | リンゼス錠 | 【機序】腸管上皮のGCを介してClチャネルを活性化し、腸液分泌促進させ便を柔軟化させる。また、放出されたcGMPが侵害受容器を阻害し、腹痛を改善させる。 【注意】食事摂取と同時に内服すると下痢を生じやすい、下痢を避けるため食前に服用。 【ADME】24時間後に作用発現 |
胆汁酸トランスポーター阻害薬
一般名 | 先発名 | 特徴 |
エロビキシバット | グーフィス錠 | 【機序】回腸末端で胆汁酸の再吸収を阻害し、大腸内での水分分泌を促進する。 【注意】腹痛を生じる場合あり 【ADME】5〜6時間後に作用発現。下痢を避けるため食前に服用。 |
オピオイド誘発性便秘治療薬
一般名 | 先発名 | 特徴 |
ナルデメジン | スインプロイク錠 | 【機序】末梢性μ受容体拮抗により便秘を改善する。 【ADME】5〜24時間後に作用発現 |
浣腸剤
一般名 | 先発名 | 特徴 |
グリセリン | ー | 【機序】腸管壁の水分を吸収することにより局所を刺激し、軟便化する。 |
NaHCO3+ NaH2PO4 | 新レシカルボン坐剤 | 【機序】基材が体温で融解し、直腸内で炭酸ガスを発生して物理的刺激で腸運動を促進し、排便を促す。 【ADME】15〜30分後に作用発現 |
ビサコジル | テレミンソフト坐剤 | 【機序】直腸粘膜を直接刺激し、排便反射を起こす。 【ADME】5〜60分後に作用発現 |
おなら
吸い込んだ空気と、腸内細菌が不溶性食物繊維を分解した際に発生したガスが混ざり、腸管から吸収されなかった1Lが分割して肛門から放出されるものがおならの正体。 乳酸菌が放出する水素やメタンなどのガスは無臭であり、おならが臭い人は乳酸菌やその餌であるオリゴ糖を摂取すると改善するかも?
宿便
宿便とは腸壁にこびり付いている老廃物。通常は見られないが、高度な便秘や大腸憩室内の便は宿便の原因となるかも?
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