膠原病(血管炎症候群)

リウマチ・膠原病

血管炎症候群(総論)

血管炎症候群は血管壁を炎症の場とする疾患の総称。全身性の炎症症状が生じ、進行によって支配臓器に血管内腔狭窄による虚血や血管壁破綻による出血をきたし、様々な症状が起こる。

特に、血管炎では末梢神経障害として多発単神経炎がみられる(特に下腿)。1つの神経支配領域に沿ってみられる単神経炎が神経の栄養血管障害のため、時と場合を変えて現れる。

【一次性血管炎症候群の分類】

大血管の血管炎
(肉眼レベル)
巨細胞性血管炎(GCA)(旧側頭動脈炎)
高安動脈炎(TAK)(旧大動脈炎症候群・脈なし病)
中小血管の血管炎
(肉眼レベル)
結節性多発動脈炎(PAN)
川崎病
細血管の血管炎
(顕微鏡レベル)
顕微鏡的多発血管炎(MPA)
多発血管炎性肉芽種症(GPA)(旧Wegener肉芽種症
好酸球性多発血管炎性肉芽種症(EGPA)(旧Churg-Strauss症候群
IgA血管炎(IgAV)(旧Schonlein-Henoch紫斑病)
クリオグロブリン血症性血管炎(CV:CG血症性血管炎)
抗糸球体基底膜抗体病(抗GBM病)(Goodpasture症候群)

【障害臓器一覧】

    高安病 巨細胞性血管炎 PN 免疫複合体性 小型血管炎
浅部 大動脈 ◎橈骨動脈の拍動の消失
  消化管 △炎症性腸疾患 ◎急性腹症
  視力障害
  漿膜
  骨・ 軟骨
  関節 リウマチ性多発筋痛症 ◎関節痛
  皮膚・粘膜 △結節性紅斑、側頭部の索状硬結 ◎紫斑
深部 神経
  上気道
  下気道 (肺) ◎肺胞出血
 
  ◎腎炎
 
  唾液腺
  血球
  レイノー現象
  肺高血圧症
その他 悪性腫瘍

巨細胞性血管炎 GCA(旧 側頭動脈炎)

疫学 50歳以上の女性に多い(2:1)、稀な疾患
病態 浅側頭動脈・眼動脈の血管壁に巨細胞を伴う肉芽腫性炎症を生じる外頸動脈病変。
HLA-DR1*04との関連。
症状 <頭頸部の血管炎症状>
こめかみ(側頭部)に片側性拍動性頭痛、発赤、索状硬結、圧痛
②咬筋跛行(顎跛行):噛んでると顎が疲れる
③重症化すると眼動脈の炎症:視力障害、複視、失明(急性)
【合併症】
約30%にリウマチ性多発筋痛症を合併
検査 浅側頭Aの生検
血管壁に巨細胞を伴う肉芽腫形成(確定診断)
【血液検査】
赤沈↑CRP↑(RF陰性、CK・AST正常、筋電図も正常)
【眼底所見】
網膜の綿花様白斑
治療 ①ステロイド内服
②IL-6阻害薬(トシリズマブ)
③視力障害を伴う場合:ステロイドパルス療法

高安動脈炎(脈なし病、旧 大動脈炎症候群)

疫学 40歳未満の女性に好発(9:1)、若い女性の高血圧!
病態 大動脈とその主要分岐部に炎症が起こり狭窄や拡張を起こす病態。HLA-B52との関連。
症状 ①慢性炎症:発熱、倦怠感、体重減少
②総頸A狭窄症状:めまい、頭痛、失神、視力障害(眼底出血)
③鎖骨下A狭窄症状:上肢血圧の左右差、上下肢血圧差拡大(上<下)
④腎A狭窄症状:腎血管性高血圧(患側腎は虚血のため萎縮)
⑤大動脈病変:大動脈瘤(狭窄および狭窄後拡張)、A弁輪拡大によるAR(心不全)
【合併症】
皮膚症状:結節性紅斑、壊疽性膿皮症など
検査 【身体検査】
聴診:総頸動脈など狭窄部位の血管雑音心雑音(特にAR)
【画像検査】
エコー・造影CT:大動脈弓から起始する血管の狭窄確認、動脈壁肥厚
PET-CT:動脈壁にFDG集積(早期発見可能になり予後が著しく改善傾向)
※大血管のため動脈生検は行わない
治療 ①ステロイド内服
②IL-6阻害薬(トシリズマブ)

結節性多発動脈炎 PAN

疫学 40〜60歳に好発。非常に稀な疾患。
病態 全身の筋型動脈の壊死性血管炎により、血管に結節ができ、血管が閉塞・破綻して多臓器不全に及ぶ多彩な症状をきたす疾患。早期治療で寛解に至ることもあるが、治療が遅れると致死的となる。
症状 ①抗菌薬に反応しない長期間の不明熱
②皮膚症状:網状皮斑、紫斑、潰瘍(皮膚の末梢循環不全)など
③血管閉塞症状:高血圧、筋肉痛、多関節痛、急性腎障害(各種円柱陰性)、多発性単神経炎など多彩
検査 【組織生検】
筋型動脈の壊死性動脈炎の存在(確定診断)
【血液検査】
WBC↑(好中球↑、好酸球↑)、血小板↑、慢性炎症でγグロブリン↑アルブミン↓赤沈↑CRP↑フィブリノゲン↑
【画像検査】
腹部A造影:動脈の狭窄・閉塞・多発性動脈瘤
治療 ステロイド+免疫抑制剤併用、抗凝固療法+抗血小板療法

川崎病

疫学 乳幼児に好発
病態 原因不明の全身性血管炎で、皮膚・粘膜・リンパ節などが侵される。
通常3−8週間で軽快するが、経過中に冠動脈瘤、AR、MR、冠動脈血栓による心筋梗塞や心不全などを合併し、予後不良となる場合もある。
発熱の有無が治療効果判定に使用される。
症状 経過中に5症状以上呈する場合に川崎病と診断
痛い→急性期:有痛性の非化膿性頸部リンパ節腫脹(顎下リンパ節が多い)
2つの目両側眼球結膜の充血(ほぼ必発)
3日後:発熱3日後の発疹(BCG接種痕の発赤を含む
四肢:急性期:四肢末端の紅斑・硬性浮腫、手掌足底・指趾先端の紅斑
 回復期:指先からの膜様落屑
5日:5日以上の発熱(抗菌薬が無効)
1+5:口唇の紅潮・イチゴ舌口腔咽頭粘膜の発赤(ほぼ必発)
検査 【血液検査】
WBC↑CRP↑赤沈↑、PTL↑、AST↑ALT↑(初期)、PLT↑(回復期)
【画像検査】
断層心エコー冠動脈瘤の有無、瘤内の血栓形成による心筋梗塞を確認!!
治療 抗炎症・抗血栓:アスピリン投与(炎症陰性化後も2〜3ヶ月継続)
冠動脈障害予防:急性期にγグロブリン大量投与(IVIG)
中等度以上の冠動脈瘤がある場合:抗凝固薬を併用

【溶連菌との鑑別】

共通点 発熱、発疹、咽頭の発赤、イチゴ舌
川崎病のみ 両側眼球結膜の充血
非化膿性頸部リンパ節腫脹
③四肢末端の変化(急性期の手足の硬性浮腫、掌蹠、指趾先端の紅斑)

ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎

全てにおいて発熱、倦怠感、体重減少、肺・腎・皮膚・神経合併症は起こりうる!

    MPA EGPA GPA
浅部 大動脈
  消化管 ○虚血性腸炎 ○好酸球性胃腸炎、虚血性腸炎
  ◎眼窩内腫瘤、強膜炎
  漿膜 ○心膜炎
  骨・ 軟骨
  関節 ○関節炎
  皮膚・粘膜 紫斑 ◎皮下結節、紫斑、潰瘍 ◎皮下結節、紫斑、潰瘍
深部 神経 多発単神経炎 多発単神経炎 ○多発単神経炎
  上気道 ◎鼻ポリープを伴う好酸球性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎 鼻中隔穿孔→鞍鼻、副鼻腔炎→膿性鼻汁、中耳炎、声門下狭窄
  下気道 (肺) 肺胞出血、間質性肺炎 気管支喘息
好酸球性肺炎
空洞結節性病変
  心不全、不整脈 △弁病変
  半月体形成性糸球体腎炎 半月体形成性糸球体腎炎
  ○筋肉痛
  唾液腺
  血球
  レイノー現象
  肺高血圧症
その他 悪性腫瘍

MPA・EGPA・GPA(抗好中球細胞質抗体)

どれも発熱、全身倦怠感、体重減少は共通してみられる。

  顕微鏡的多発血管炎
MPA)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
旧 Churg-Strauss症候群
多発血管炎性肉芽腫症GPA)
旧 Wegener肉芽種症
疫学 60〜70代、近年増加傾向 60〜70代 男:30〜60、女:50〜60
病態 小血管のフィブリノイド壊死による血管炎で、特に肺胞毛細血管と糸球体毛細血管が狭小化する 血管壁に好酸球浸潤を伴う肉芽腫形成の結果生じるフィブリノイド壊死による血管炎
+先行する気管支喘息
好中球に対する自己抗体産生で血管炎が生じ、小血管のフィブリノイド壊死により肉芽腫形成される
症状 EGPA・GPA以外症状
①肺胞出血
②多発性単神経炎
③腎:半月体形成性腎炎
①先行症状あり:喘息、好酸球性副鼻腔炎など
②手足の痺れ:多発性単神経炎による
腎病変はなし
<EN→L→Kの順に出現>
(E)眼窩偽腫瘍中耳炎など
(N)鞍鼻副鼻腔炎など
(L)肺:空洞結節性病変
(K)腎:半月体形成性腎炎
生検 血管周囲の炎症性細胞浸潤、肉芽腫性病変なし 好酸球浸潤を伴う肉芽腫(確定診断) 鼻粘膜・肺生検で巨細胞を伴う壊死性血管炎と肉芽腫
検査 P-ANCAMPO-ANCA
尿蛋白・尿潜血(+)
P-ANCAMPO-ANCA
末梢好酸球↑IgE↑
C-ANCAPR3-ANCA)※
尿蛋白・尿潜血(+)

WegenerちゃんぷるーC-ANCA、PR3-ANCA

【治療】

基本 ステロイド内服
併用 寛解導入療法:シクロホスファミドを併用→出血性膀胱炎尿路上皮癌に注意!
寛解維持療法:アザチオプリンを併用
MPA、GPA:リツキシマブ(B細胞を阻害して抗体産生↓)
EGPA:抗IL-5抗体(メポリズマブ)
あんた私立5つ目!:ANCA、シクロ、リツキ、5抗体・メポリ

免疫複合体性小型血管炎

  IgA血管炎 CG血症性血管炎 抗GBM病
疫学 3〜7歳に好発    
病態 上気道感染の数週間後、血管壁にIgA免疫複合体が沈着・炎症 RAやSLEなど原疾患によって生じた免疫複合体やCGの凝集によって生じる血管炎 抗糸球体基底膜抗体が肺胞壁と糸球体に沈着(Ⅱ+Ⅲ型アレルギー)
症状 腹痛・関節痛・紫斑→腎炎 関節炎、紫斑、レイノー現象、末梢神経障害、腎炎 肺胞出血、糸球体腎炎
検査 組織生検 組織生検 抗GBM抗体(約90%)
治療 小児:予後良好のため経過観察
成人:ステロイド内服
寒冷刺激回避+原疾患治療
腎炎にはステロイド、CG除去には血漿交換
 

【小】IgA血管炎(シェーンライン・ヘノッホ紫斑病、アレルギー性紫斑病)

疫学 ほとんどが10歳以下
病態 IgA関与のⅢ型アレルギーによる全身性血管炎により、毛細血管の透過性が亢進し、全身組織の浮腫・出血をきたす疾患。
症状 溶連菌などの上気道感染1〜3週間後に、以下の3主徴を発症
①皮膚症状(100%):足背〜下腿伸側に左右対称の隆起性紫斑・血管性浮腫
②消化器症状(60%):腹痛(疝痛性が多い)、嘔吐、下痢・血便、腸重積
③関節症状(80%):関節痛・腫脹
④その他:3主徴を発症して1〜3週間後にIgA腎症類似の紫斑病性腎炎により血尿・蛋白尿、ときにネフローゼ症候群をきたすことがある(50%)
検査 【血液検査】
WBC↑(特に好酸球↑)、IgA↑、PLT・凝固系は正常だが第13因子↓の場合がある
【抗原検査】
咽頭培養検査でA群溶連菌(+)となることが多い
治療 対症療法(関節痛:NSAIDs)、重症例には第8因子製剤を投与
腎障害がなければ予後は良好で、数週で自然治癒することが多い。

抗糸球体基底膜抗体病(抗GBM病)(Goodpasture症候群)

疫学 約1/100万人(非常に稀な疾患)、20歳代に好発
病態 抗基底膜抗体(IgG型の抗GBM抗体)がⅡ型アレルギーの機序で肺胞と糸球体に結合して傷害する疾患。急速進行性糸球体となることがある。
症状 ①肺胞傷害症状(肺胞出血が必発):喀血・血痰、咳嗽
②腎糸球体傷害症状(急速進行性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)):血尿
検査 【血液検査】抗基底膜抗体陽性
治療 ステロイド内服、血漿交換

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