解剖生理
腎臓の機能
①水、電解質、pHの調節 |
②代謝産物の排泄 |
③ホルモンの産生・調節(レニン、EPO、ビタミンD3活性化) |
腎臓の構造
①大きさ・重さ・場所 |
長径約12cm、重量約120g、場所はTh12付近に存在。 右腎は肝臓があるため左腎より低い位置にある。 |
②腎A |
腎AはSMAの直下で分岐する。腎Aは右が長い。 詳細:腎A→輸入細A→糸球体→輸出細A→尿細管周囲の毛細血管→腎V |
③腎V |
腎Vは腹大AとSMAに挟まれる(挟まれてうっ血すると血尿が生じる:ナットクラッカー現象)。腎Vは左が長い。 |
④腎・副腎を覆う膜 |
外から順に、Gerota筋膜→脂肪被膜→線維被膜(腎のみ) |
⑤VAU |
腹側から順に、腎V→腎A→U(尿管) |
糸球体の構造と機能
【糸球体の構造】
糸球体係蹄壁 |
血管内皮細胞(有窓型)、基底膜(陰性電荷)、糸球体上皮細胞の足突起(タコ足細胞)の3つから構成される。 |
メサンギウム領域 |
メサンギウム細胞とメサンギウム基質から構成される。毛細血管同士を繋ぎ合わせ、血流を調節する。 |
【糸球体の機能】
①濾過機能 |
血圧によって水、電解質、糖、アミノ酸など低分子なものを濾過する。 【2つのバリア】 ・サイズバリア:血管内皮細胞と上皮細胞の足突起は大きな物質(RBCや蛋白質)の濾過を防ぐ ・チャージバリア:陰性電荷を持つ基底膜は主にAlbの濾過を防ぐ。 |
②原尿生成 |
血圧によって糸球体で濾過された原尿(150L/日)がつくられ、最終的に原尿の1%が腎盂に放出される(1.5L/日)。糸球体機能は、生後4〜5ヶ月で成人レベルに達する。 血圧↓:ショックのような低血圧で乏尿になる 血圧↑:高血圧で糸球体障害が生じる(糸球体は高血圧に弱い) |
尿細管の構造と機能
【尿細管の構造】
近位尿細管 |
ー |
ヘンレループ |
ー |
遠位尿細管 |
傍糸球体装置・RAA系 |
集合管 |
ー |
【尿細管の機能】
①再吸収 (主に皮質) |
近位尿細管では、各種トランスポーターによってNa・水の約70%、Glu・アミノ酸の約100%を再吸収する。 ヘンレ上行脚ではNa・Cl・KチャネルによってNa・Cl・Kを再吸収し、下行脚では上行脚で再吸収したNaなどで得た浸透圧を利用して水を再吸収する。 遠位尿細管ではNa・ClチャネルによってNa、Cl、水を再吸収する。 集合管の皮質ではNa・K交換系によってNa&水(K分泌)を、髄質ではアクアポリンによって水のみを再吸収する。 |
②尿希釈能 (主に髄質) |
主に集合管の髄質で再吸収した水の量によって尿希釈能が決まる。血漿浸透圧と同じなら等張尿(=尿比重 1.010)、高ければ高張尿(尿比重 1.011以上)、低ければ低張尿(尿比重 1.010未満)となる。 尿細管機能(尿希釈能)は乳児期の2歳頃に成人レベルに達する。尿希釈能が弱いとおねしょをする。 |
③RAA系 |
傍糸球体装置(JGA)は、緻密斑・輸入細A・輸出細Aに接した三角地帯を指す。RAA系の詳細は生理学を参照。 |
尿管の構造と走行
尿管は後腹膜腔に存在し、約30cmある。
尿管狭窄部 |
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ゴロ |
①腎盂尿管移行部 |
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②総腸骨動脈交叉部 |
総腸骨動脈の前を通る(腹側からUAVの順) |
早朝前の |
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子宮動脈の後ろを通る |
シコシコ |
③膀胱壁進入部 |
膀胱子宮靭帯の中を通る |
防止中 |
尿道
①前立腺部尿道 |
膀胱→前立腺内を通る部分。途中で前立腺内から射精管が開口する。 |
②膜様部尿道 |
尿道括約筋のある部分。 |
③球部尿道 |
会陰の部分。 |
④振子部尿道 |
所謂、ちんちん(陰茎)の部分。 |
膀胱・前立腺の大きさ(エコー測定)
膀胱の容量は350〜600mLで、尿が約200mL溜まると尿意をもよおす。
前立腺の体積は20mL未満で、それ以上は前立腺肥大を疑う。30mL以上は排尿障害をきたす可能性が高い。算出方法は膀胱と同じ。
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畜尿・排尿時に働く筋肉と神経
幸福な体、かっこいい:交感N、副交感N、体性N、下腹神経、骨盤神経、陰部神経
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筋肉 |
筋の状態 |
神経 |
シナプス後受容体 |
蓄尿時 |
排尿筋 |
弛緩 |
下腹神経(交感神経) |
β2&β3 |
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内尿道筋括約筋 |
収縮 |
下腹神経(交感神経) |
α1A |
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外尿道筋括約筋 |
収縮 |
陰部神経(体性神経) |
Nm |
排尿時 |
排尿筋 |
収縮 |
骨盤神経(副交感神経) |
主にM3(一部M2) |
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内尿道筋括約筋 |
弛緩 |
骨盤神経(副交感神経) |
なし(NO→cGMP直接刺激) |
精子形成
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作用するホルモン |
生成されるもの |
精巣内Leydig細胞(間質細胞) |
LH |
テストステロン |
精巣内Sertoli細胞(精管内) |
FSH、テストステロン |
精子(Seisi→Sertoli) |
勃起・射精
【精液の通り道】 精巣→精索(精管+精巣動静脈+リンパ管)→鼠径管内→精嚢→前立腺→尿道 【性的興奮が起こる仕組み】
中枢性刺激 (心理的勃起) |
視覚・聴覚・嗅覚・触覚などにより前頭葉が活性化し、視床下部から自律神経を介して勃起Nが興奮する。また、視床下部からGnRHが分泌され精巣で男性ホルモンの合成が促進される。 |
局所性刺激 (反射性勃起) |
陰茎摩擦・膀胱刺激(朝立ちを含む)・前立腺刺激によって、陰茎の感覚N→仙髄の陰部Nを介して勃起Nが興奮する。 |
【勃起・射精】
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神経 |
機序 |
勃起 |
副交感N (勃起N) |
中枢性・局所性刺激によって勃起Nが興奮し、陰茎Aから分岐するラセンAが開き陰茎海綿体洞に血液が充満して硬くなる(尿道海綿体ではない)。 |
射精 |
交感N |
副交感Nの働きによるPC筋の律動的収縮で性液が運ばれ、胸腰髄→交感N(下腹N)が興奮すると射精する。 |
検査
尿路造影検査
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詳細 |
描出部位 |
静脈性尿路造影(IVU) 別名:排泄性尿路造影 |
静脈内に造影剤を投与し、腎臓から尿路に排泄されたところ撮影する。 【欠点】尿管は生理的な蠕動運動により造影されない部分がある。 |
腎盂〜膀胱 (スクリーニングする一次検査として使用する) |
逆行性尿路造影(RP) |
膀胱鏡を使いながら腎盂までカテーテルを挿入し、造影剤を直接注入して撮影する。 【利点】腎機能低下や造影剤アレルギーがあっても使用できる。 【欠点】尿路感染症がある場合は逆行性感染を助長するため禁忌 |
腎盂〜尿管 (閉塞部位を診断) |
逆行性膀胱造影 |
膀胱までカテーテルを挿入し、造影剤を注入して撮影する。(膀胱腫瘍の診断) |
膀胱 |
逆行性尿道造影 |
外尿道口から尿道に造影剤を直接注入して撮影する。(尿路〜前立腺病変の診断) |
膀胱頚部〜尿道 |
排尿時膀胱尿道造影(VCUG) |
IVUや逆行性膀胱造影の手技で膀胱内に造影剤を貯留させ、その後排尿させながら撮影する。 |
膀胱〜尿道 (VURの診断) |
腎機能検査
簡易検査 |
血液検査(BUN、Cre)、尿検査(潜血、蛋白尿、尿沈渣) |
精密検査 |
GFR、FENa、尿中β2ミクログロブリン、NAGなど |
その他 |
画像検査、核医学検査(レノグラム)、腎生検 |
レノグラム
レノグラムは放射性物質を投与し、左右の腎血流量(分腎機能)・尿路通過障害を評価する。
腎生検
適応 |
禁忌 |
原因不明の腎機能低下 蛋白尿+血尿症例 高度蛋白尿症例 |
腎萎縮、腎嚢胞 感染症 出血傾向 |
検尿?
【Selectivity index】
Selectivity index |
=IgGのクリアランス(分子量15万)/トランスフェリンのクリアランス(8万) |
0.2未満 |
高選択性(低分子蛋白のみを透過させる) |
0.2以上 |
低選択性 |
尿道カテーテル
男性 |
尿道カテーテルは陰茎を頭側に向けて下腹部に固定する |
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※陰茎腹側は尿道海綿体が皮膚面に近く、足側に固定した場合カテーテルによる圧迫で尿道皮膚瘻(医原性尿道下裂)が生じるリスクが高いため |
交換 |
一般的に1ヵ月程度で交換 |
血液浄化療法
腎代替療法には大きく分けて血液透析、腹膜透析、腎移植がある。一般的な目安としてeGFR 30未満になったら患者と相談して開始して行く。
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透析導入患者の主要疾患 |
透析患者の死因 |
1位 |
糖尿病性腎症(ダントツNo1) |
心不全(動脈硬化になりやすい) |
2位 |
腎硬化症(増加傾向) |
感染症(近年増加中) |
3位 |
慢性糸球体腎炎(減少傾向) |
悪性腫瘍 |
腹膜透析(PD:Peritoneal Dialysis)
疫学 |
透析患者全体の約3%が実施 |
原理 |
腹腔内にグルコースを多く含む透析液を一定時間入れると、浸透圧差により腹膜を介して中分子量の老廃物や水分が腹腔内に移動し、それを体外に取り出す。 1日3回・1回30分透析するCAPD(連続携行式腹膜透析)と就寝中に透析するAPD(自動腹膜透析)がある。 |
特徴 |
【利点】患者自身で施行可能なため、社会復帰しやすい(通院は月1回)。また、血液透析より食事・飲水制限が緩い。 【欠点】透析効率が血液透析より低く、腹膜劣化により8年が限度。 |
合併症 |
感染症、イレウス(腹膜劣化して腸管運動↓)、低蛋白血症(腹腔内に蛋白が漏れる)、脂質異常症(低蛋白血症を補うため肝で蛋白・脂質の同化亢進)、高血糖(透析液にグルコースが含まれる)、後天性嚢胞腎(透析患者に好発し、腎細胞癌の発生母地となる)、透析アミロイドーシス(透析ではアミロイドを除去できない) |
血液透析(HD:Hemodialysis)
原理 |
まず、長期間の注射に耐えられる静脈を作るため、利き手の反対の腕に動静脈シャントを形成する(静脈が強化されるまで1週間必要)。次に、血液ポンプによって脱血した血をダイアライザー(人工腎臓)へ送り、そこで拡散により①尿毒素・K・酸を除去+②Caなどをミネラルを補充する。さらに③陰圧による限外濾過で水分を取り除き、返血として体内に戻す。 週3回・1回4時間透析する頻回透析、就寝中に透析するオーバーナイト透析、自宅に装置を配備して透析する在宅血液透析がある。 一般的な頻回透析はGFR10くらいの能力しかないため、寿命を延ばすためには頻度や時間を増やす必要がある。理想は毎日夜間に透析することで、厳しい食事・飲水制限が緩和でき寿命の延ばすことも可能となる。 |
特徴 |
【利点】透析効率が高く、半永久的に継続可能。 【欠点】週数回の通院が必要。食事・飲水制限が厳しい。 |
合併症 |
①不均衡症候群:急激な低分子除去により血漿浸透圧が低下し、血液から脳脊髄液に水分が移動して脳浮腫が起こることによって頭痛、吐き気などが生じる ②低血圧 ③後天性嚢胞腎:透析患者に好発し、腎細胞癌の発生母地となる ④透析アミロイドーシス |
その他の血液浄化療法
血液濾過 (HF) |
孔の大きい半透膜を使って限外濾過を行うため中分子量物質と水分が除去できる。血圧低下を起こしにくいが、小分子量物質の除去はHDより劣る。 |
血液透析濾過 (HDF) |
HDとHFのハイブリット。小&中分子量物質の除去ができるが、コストがかかる。24時間行うHDFをCHDFという。 |
体外式限外濾過 (ECUM) |
限外濾過によって水分のみを除去する。 |
特殊な血液浄化療法
血漿交換 |
病因物質の抗体やサイトカインを除去+血液製剤を補充する。 |
吸着式血液浄化療法 |
病因物質のエンドトキシンなどを選択的に吸着し除去する。 |
腎移植
概要 |
透析よりも生存率が高くなるが、提供者不足で待機時間が長い。生体腎移植(親族から提供)と献腎移植(脳死ドナーから提供)がある。提供された腎臓は腸骨窩に移植する。 |
適用条件 |
【ドナー側】悪性腫瘍、HIVなどの感染症がない良好な腎機能の腎であること。 |
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【レシピエント側】移植後に大量の免疫抑制剤を使用するため、悪性腫瘍、活動性肝炎、感染症がないこと。 |
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【その他】リンパ球直接交差試験が陰性であること(=レシピエントに元々ある抗体がドナーのTリンパ球を攻撃しないこと) |
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超急性拒絶反応 |
急性拒絶反応 |
慢性拒絶反応 |
発症時期 |
24時間以内 |
1週間〜3ヶ月 |
3ヶ月以降 |
機序 |
レシピエントに元々あった抗体が移植腎を攻撃 |
移植後に感作されたレシピエントのT細胞が移植腎を攻撃して炎症を起こす |
移植後に感作されたレシピエントの形質細胞が抗体を産生し移植腎を攻撃 |
臨床所見 |
急激な無尿 補体・血小板減少 |
尿量減少 移植腎腫大、腎血流低下 |
慢性進行性の腎機能低下 |
治療 |
移植腎摘出 |
ステロイドパルス(有効な場合が多い) |
免疫抑制薬→無効なら再移植・透析 |