血糖異常

内分泌代謝科

総論

インクレチン

分泌 小腸に食物の通過が刺激となり、小腸上皮の内分泌細胞から血中に分泌される。
インクレチンはGIPとGLP-1があり、どちらも膵β細胞に作用し、血糖値に依存してインスリン分泌を促す。
代謝 血管内皮細胞や血中の白血球などに発現するDPP-4という蛋白分解酵素で分解される。半減期は数分とごく短い。
GIP 小腸上部K細胞から分泌される。体重増加作用あり。
GLP-1 小腸下部L細胞から分泌される。体重減少作用あり。

SGLT

発現部位 機能
SGLT1 小腸、腎尿細管
SGLT2 腎尿細管
GLUT1 種々の臓器
GLUT2 肝臓、膵臓
GLUT3
GLUT 筋肉、脂肪細胞
GLUT5 小腸

糖尿病 DM:Diabetes Mellitus

インスリン作用の絶対的または相対的不足により様々な代謝異常をきたす疾患。

分類 ●1型DM
①自己免疫性:急性発症1型DM、緩徐進行1型DM
②特発性:劇症1型DM
●2型DM(95%以上)
①インスリン分泌低下を主体とするもの(日本人に多い)
②インスリン抵抗性を主体とするものに、インスリンの相対的不足を伴う(肥満者)
●妊娠糖尿病
●高血糖緊急症
①劇症1型DM、②DKA、③HHS
血糖変動 暁現象:GH分泌により血糖値↑してインスリンが不足する(→夜間インスリン補充)
ソモジー効果:低血糖を回避しようとグルカゴン分泌され高血糖となる
診断 糖尿病型
・空腹時血糖126以上、随時血糖 or 経口Glu負荷試験(OGTT)200以上
・HbA1c6.5%以上
【初回検査】
・血糖値とHbA1cが共に糖尿病型(初HbA1cのみ→再HbA1cのみを除く)
・血糖値が糖尿病型かつ糖尿病典型症状
【再検査】
・血糖値 or HbA1cが糖尿病型
※糖尿病と判明しているのにOGTTを行うのは禁忌!
検査① ●インスリン分泌能の指標
①インスリン分泌指数(インスリン追加分泌のうち初期分泌能の指標)
DM患者では75gOGTTが0.4未満となる
②血中/尿中Cペプチド(プロインスリン→インスリン+Cペプチド)
空腹時血中0.6ng/mL未満 or 尿中20μg/日以下の場合、インスリン依存状態
③HOMA-β:30未満は分泌低下
④グルカゴン負荷試験:内因性インスリン分泌能をみる
検査② ●インスリン抵抗性の指標
①血中インスリン(IRI):早朝空腹時15μU/mL以上の場合、インスリン抵抗性あり
②HOMA-IR:2.5以上はインスリン抵抗性あり
検査③ ●血糖コントロールの指標
①HbA1c:過去1〜2ヶ月の平均血糖値(貧血では赤血球寿命が延長しHbA1c↑)
②GA:過去2週間の平均血糖値(妊娠時や透析患者に有用)
③1,5-AG:過去数日の平均血糖値(食後高血糖や短期間の治療効果判定に使用)
合併症①【細血管障害】 しめじ:神経→眼→腎
<①末梢神経障害>
→高血糖持続が約5年で出現
高血糖の持続により神経が変性したり、神経を栄養すると毛細血管が障害されて緩徐に生じる末梢神経障害。多発ニューロパチー型が圧倒的に多い。
多発ニューロパチー型:糖代謝障害(特にポリオール経路)
感覚神経障害:左右対称の手袋靴下型の知覚異常、アキレス腱反射消失
自律神経障害:起立性低血圧下痢・便秘、勃起不全など
②多発単ニューロパチー型:微小循環障害→急激に発症する!
単一神経障害(主に運動神経):動眼神経麻痺、正中・尺骨神経麻痺など
※多発単ニューロパチー型の予後は良好で数ヶ月以内に自然寛解する
<②網膜症>→高血糖持続が約10年で出現
単純網膜症:硬性白斑、網膜出血、毛細血管瘤など
増殖前網膜症:軟性白斑など
増殖網膜症:新生血管増殖、硝子体出血、網膜剥離など
詳細は眼科の糖尿病網膜症を参照。
<③腎症>→高血糖持続が約15〜20年で出現
糸球体硬化症:蛋白尿、尿中Alb、浮腫、高血圧、腎不全
詳細は腎臓内科を参照。
合併症②【大血管障害】 <動脈硬化>
心血管障害:心筋梗塞などの虚血性心疾患が多い
脳血管障害:脳梗塞が多い
閉塞性動脈硬化症:末梢動脈疾患(PAD)
合併症③【その他】 Charcot関節、浮腫性硬化症、悪性腫瘍(肝臓癌、大腸癌、膵癌)、認知症、歯周病、白内障、緑内障、骨粗鬆症、易感染性
【糖尿病に伴うデルマドローム】
糖尿病性壊疽、Dupuytren拘縮、糖尿病性リポイド類壊死症、前脛骨部色素斑など

1型糖尿病

疫学 25歳以下に好発
病態 ①自己免疫性(自己抗体陽性)
数週間〜数ヶ月で症状が進行する急性発症1型DM、数ヶ月〜数十年で緩徐に進行する緩徐進行1型DMがある。自己抗体には抗GAD抗体、膵島細胞抗体(ICA)、抗インスリン抗体(IAA、IA-2抗体)などがある。
②特発性(自己抗体陰性)
1〜2日で急激に発症する劇症1型DM。約70%は前駆症状として上気道炎症状(発熱、咽頭痛)、消化器症状(上腹部痛、悪心嘔吐)があり、その数日〜数週後に発症する。
症状 ①高血糖症状:口渇・多飲・多尿・全身倦怠感、体重減少など
②ケトアシドーシス症状:①の1週間前後以内に、悪心嘔吐、意識障害など
検査 【血液検査】
血糖値↑、HbA1c↑(劇症1型DMは除く)、血中Cペプチド↓、劇症1型DMの場合はアミラーゼ↑
【尿検査】
糖+、ケトン体+、尿中Cペプチド↓
治療 【運動・食事療法】2型DMと同じ
【薬物治療】インスリン皮下注、劇症の場合は速効型インスリン少量持続静脈投与

2型糖尿病

疫学 40歳以上に好発、家族歴と関連
リスク↓:食物繊維摂取(血糖値の急激な上昇抑制・満腹感で食欲抑制)
病態 ①インスリン分泌低下を主体とするもの(日本人に多い)
②インスリン抵抗性を主体とするものに、インスリンの相対的不足を伴う(肥満者)
症状 軽〜中等度の高血糖:無症状
高度の高血糖:全身倦怠感、多飲・多尿、口渇、体重減少、意識障害
検査 【身体検査】
視診:腋窩・頸部・鼠蹊部に黒色表皮腫(高インスリン血症)
治療 【運動療法】
定期的な20~60分程度の有酸素運動によりインスリン抵抗性を改善
ただし、増殖網膜症による新鮮な眼底出血、進行した腎症ケトアシドーシス、空腹時血糖250以上の場合などは運動療法禁忌!
【薬物治療】
①インスリン分泌促進:SU薬、フェニルアラニン誘導体、DPP-4阻害薬、GLP-1作動薬
②糖吸収排泄調節:αグルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬
③インスリン抵抗性改善:ビグアナイド薬、チアゾリジン誘導体
④インスリン皮下注:経口薬で効果不十分な場合・妊娠中・腎機能障害
※インスリンによる急速な血糖降下療法は網膜症を悪化させるため、少量から開始し、数週間以上かけて緩徐に血糖を改善させる必要がある
※インスリンは未使用のものは冷蔵で、使用中のものは常温で保存する(使用中のものを冷蔵庫に出し入れすると結露で故障する可能性がある)

ステロイド糖尿病

病態 肝臓や筋肉のインスリン抵抗性によって、糖取りこみ低下による食後血糖の上昇(特に昼食・夕食後)が生じる。これによりインスリン分泌は代償性に亢進し、肝の糖新生を抑制するため、空腹時血糖は当初は上昇しない。
ステロイド投与が長期にわたるとインスリン分泌亢進を介した代償機転の破綻およびステロイド自体によるインスリン分泌抑制効果により肝臓の糖放出が増加し、空腹時血糖も上昇するようになる。
検査 【血液検査】
昼夕食後2時間血糖の高値が特徴
治療

シックデイ

概念 糖尿病患者が感染症にかかり、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振によって食事ができないときのこと
対応 自己血糖測定は4〜6時間おきに行い、血糖350mg/dL以上が4回以上続く場合や、悪心・嘔吐などがあり食事が摂れない場合には病院の医師に連絡する

妊娠中の糖代謝異常

詳細は産科を参照。

糖尿病合併妊娠 糖尿病が妊娠前から存在している
妊娠糖尿病(GDM) 妊娠中に初めて発見または発症したDMに至っていない状態
妊娠時に診断された糖尿病 妊娠中に糖尿病の診断基準を満たすもの

糖尿病性昏睡 Diabetic coma

病態 DMの代謝異常が高度の場合、意識障害から昏睡に至り、ときに死亡する。
原因 糖尿病ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、乳酸アシドーシス、低血糖性昏睡

糖尿病ケトアシドーシス DKA:Diabetic KetoAcidosis

疫学 1型DMやインスリン依存状態(2型DMも含む)の患者
病態 高度のインスリン欠乏時、脂質分解が亢進して高血糖と著しいケトン体の蓄積が起こり、脱水と意識障害をきたす病態。
【ソフトドリンクケトアシドーシス(2型糖尿病)】
若年の2型DM患者で肥満によるインスリン抵抗性に加えて、ソフトドリンクの多飲によるインスリン分泌低下からケトアシドーシスを発症するケースも増加している。
症状 ①高血糖による症状
意識障害、昏睡、多飲・多尿、脱水、口渇、血圧低下、頻脈
②ケトン体蓄積による症状
消化器症状(悪心嘔吐、腹痛)、代償性の過換気(Kussmaul呼吸)、呼気アセトン臭
検査 【血液検査】
WBC↑(ケトン体蓄積による)、K↑(インスリン作用不足によって細胞内Kが細胞外に移動して高カリウム血症となる)
【尿検査】
尿ケトン体↑
【動脈血ガス分析】
AG↑の代謝性アシドーシス:ケトン体蓄積による
治療 ①脱水に対して0.9%生理食塩水の大量投与
②高血糖に対して速攻型インスリン静注(脳浮腫に注意)→少量持続点滴
③インスリン投与による低K血症予防のためKClを輸液に追加(急速投与禁忌)
④インスリン投与によりアシドーシスは改善するため重炭酸Naは原則投与しない

高血糖高浸透圧症候群 HHS:Hyperglycemic Hyperosmolar Syndrome

疫学 口渇感の低下した中高年に好発
軽度の2型DM患者に多い(インスリン非依存状態の患者)
病態 高齢者では口渇感が少なく、高血糖および浸透圧利尿による脱水から高浸透圧に陥っても飲水が不十分であるため、高浸透圧が進行し意識レベルの低下を生ずる病態。
ケトアシドーシスは欠如または軽微である
症状 ①高血糖による症状
高度脱水による皮膚・口腔粘膜乾燥、血圧低下、頻脈
痙攣、精神障害:脳細胞内脱水による精神神経症状
検査 【血液検査】
血糖300以上の高血糖、血漿浸透圧320mOsm/L以上
脱水によるBUN↑Cr↑Ht↑
治療 ①脱水に対して0.9%生理食塩水の大量投与
②高血糖に対して速攻型インスリン静注(脳浮腫に注意)→少量持続点滴

乳酸アシドーシス

乳酸アシドーシス 糖尿病ケトアシドーシス
原因 乳酸の蓄積 ケトン体の蓄積
リスク因子 ビグアナイド薬、腎機能障害、飲酒など 高血糖
鑑別 呼気のアセトン臭

低血糖症 Hypoglycemia

病態 血糖値70未満により生じる病態。インスリン過剰分泌の場合とインスリン分泌に依存しない場合に分類される。
低血糖後にはインスリン拮抗ホルモンが増加し、リバウンド現象(反跳現象)により、血糖値がさらに上昇する現象(ソモジー効果)が起こる。
①インスリン過剰分泌
インスリノーマ医原性(SU薬、インスリン過剰投与)、反応性低血糖(甲状腺機能亢進症、ダンピング症候群)、インスリン自己免疫症候群(ーSH基を持つ薬剤)など
②インスリン分泌に依存しない場合
インスリン拮抗ホルモン↓(下垂体前葉機能低下症副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症)、糖新生↓(糖原病アルコール、肝障害)、糖の消費↑(悪性腫瘍)、インスリン作用を有するホルモン↑(IGF産生腫瘍)
※インスリン拮抗ホルモン:コルチゾール、GH、カテコラミン、グルカゴン
症状 ①交感神経刺激症状(血糖値:70mg/dL以下)
頻脈、発汗、振戦、顔面蒼白、血圧上昇
②中枢神経症状(血糖値:50mg/dL以下)
頭痛、目のかすみ、生あくび、集中力低下、さらに悪化すると異常行動、痙攣、意識障害
検査 【血液検査】
血糖値70未満、インスリン↓、インスリン拮抗ホルモン↓、抗インスリン抗体
治療 意識がある場合:ブドウ糖を含むジュースを飲ませ、再び15〜30分後を目安に血糖を測定して70mg/dL以上になっていることを確認する
意識がない場合:ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗り付ける(無理に飲ませると誤嚥や窒息の原因になる)。50%Gluを20〜40mL静注、グルカゴン1mg筋注

【小】ケトン性低血糖症・アセトン血性嘔吐症

ケトン性低血糖症 アセトン血性嘔吐症(周期性嘔吐)
病態 血糖維持機構の未熟性による低血糖 原因不明の周期的な嘔吐
好発年齢 1〜5歳 2〜10歳
出産時状況 未熟児、低出生体重児に多い 特になし
非発作時血糖 正常 正常
発作の誘因 摂食不良(特に夕食抜き) 精神的ストレス、感染
発作時ケトーシス
発作時低血糖
発作時けいれん
予防 高炭水化物の摂取 ストレスを避ける
その他 10歳頃までに自然に治る 思春期になると自然に治る

糖原病Ⅰ型(von Gierke病)

病態 G6PD欠損により肝臓にグリコーゲンが蓄積する疾患。多くは染色体性遺伝。
症状 ①空腹時低血糖発作:G6Pからグルコースに変換できないため
鼻出血:出血傾向のため
③腹部膨満感:肝腫大のため
検査 【血液検査】
空腹時低血糖+高乳酸血症、高尿酸血症、TG↑
治療 低血糖予防

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました