代謝疾患(脂質異常症、メタボ)

内分泌代謝科

代謝に関わるホルモン

トリグリセリド(TG)

吸収
or
生成
<外因性>
①TGは主に膵リパーゼによってモノグリセイドと脂肪酸に分解され、胆汁に取り込まれ(ミセル化=乳化)、小腸で吸収される。
②小腸上皮でTGに再合成され、滑面小胞体でアポ蛋白と結合してカイロミクロン(CM)となり、リンパ管に送られる。
③リンパ管から胸管に集められ静脈に流入する。
<内因性>
①肝臓で合成されたTGはアポ蛋白と結合してVLDLとなり、血中に放出される。
※ステロイドホルモン、GHは肝臓でのVLDL合成を高め、甲状腺ホルモンは抑制する。
分布 ①CMやVLDLは血管内皮細胞に存在するリポ蛋白リパーゼ(LPL)によってTGが分解され、脂肪酸が脂肪組織や筋肉に取り込まれる。
インスリンはLPL活性を高め血清TGを低下させる。そのため、インスリン抵抗性やインスリン欠乏ではLPLが低下してVLDL〜LDLが低下し、TGが上昇する。
②脂肪組織に取り込まれた脂肪酸は再びTGに再合成され、筋細胞に取り込まれた脂肪酸はエネルギー源として利用される。
代謝 VLDLはLPLによって分解され、VLDL→IDL→LDLとなる。
排泄 TGはβ酸化によってエネルギー源となり、分解される。

コレステロール(Chol)

※女性ホルモンはLDLやTGを低下させるので、閉経後に増加をきたしやすい。

<Friedewaldの式(空腹時)>
LDL-C(mg/dL)=総コレステロール(mg/dL)-HDL-C(mg/dL)-TG(mg/dL)/5

吸収
or
生成
<外因性>
①コレステロール(脂溶性ビタミンを含む)は、胆汁に取り込まれ(ミセル化=乳化)、小腸で吸収される。
②小腸上皮でカイロミクロン(CM)の一部として、リンパ管に送られる。
③リンパ管から胸管に集められ静脈に流入する。
<内因性>
①肝臓で合成されたコレステロールはアポ蛋白と結合してLDLとなり、血中に放出される。
※甲状腺ホルモンはLDL受容体の発現を増加させ、血中コレステロールを低下させる。
分布 組織のLDL受容体によってLDLが取り込まれ、細胞に取り込まれる。
代謝 ①組織で不要になったコレステロールはレシチン・コレステロールアシルトランスフェラーぜ(LCAT)によってエステル化されHDLに取り込まれる。
②HDLに取り込まれたコレステロールエステルは肝臓に取り込まれる。または、コレステロールエステル転移蛋白(CETP)の働きによってHDLからLDLに移される。
排泄 不要なコレステロールはβ酸化によって一次胆汁酸(コール酸)と変換され胆汁に取り込まれ十二指腸に排泄される。
排泄された胆汁酸は腸内細菌により二次胆汁酸(デオキシコール酸)と変換され、一部は回腸末端で吸収され再利用される(腸管循環)。

アディポサイトカイン

脂肪細胞はエネルギーを中性脂肪として貯蔵するばかりでなく、様々な分泌蛋白質(アディポサイトカインという)を分泌して、全身の代謝や動脈硬化を調節する。

悪玉アディポカイン 善玉アディポカイン
①TNFα:インスリン抵抗性↑
②PAI-1:血栓形成↑
③アンジオテンシノーゲン:血圧↑
④HBEGF:血管平滑筋の増殖
⑤レジスチン:インスリン抵抗性↑
アディポネクチン:抗動脈硬化、抗炎症、インスリン感受性↑
②レプチン:食欲抑制、脂肪分解↑

脂質異常症(高脂血症)

病態 高LDL-C血症、低HDL-C血症、高TG血症のいずれかを満たす病態。脂質異常症は動脈硬化の原因となる。また、高度のTG血症は急性膵炎の原因となる。
家族性ないし特発性に発症する原発性(60%)と基礎疾患に続発する二次性(40%)に分類される。
家族性
。LDL180以上、眼瞼黄色腫(眼瞼内側の黄色い皮腫)、アキレス腱の肥厚などが特徴である。
<二次性高LDL-C血症>
Cushing症候群、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、糖尿病、薬剤性などがある。
<二次性TG血症>
飲酒、肥満、糖尿病、Cushing症候群、尿毒症、SLE、薬剤性などがある。
症状 自覚症状なし
検査 【血液検査】
LDL140以上(120〜139は境界型)、HDL40未満、TG150以上
治療 【原発性】
食事・運動療法を行い、無効なら薬物療法。
高LDL-C血症(Ⅱa、Ⅱb型)にはスタチン系、高TG血症(Ⅳ型、Ⅴ型)にはフィブラート系やEPA・DHAを投与。
難治性や家族性の場合は抗PCSK9抗体を投与。
【二次性】
基礎疾患に対する治療

栄養の異常

【栄養の指標】

静的指標
(長期的な栄養状態)
身体測定値:腹囲,BMI,上腕三頭筋皮下脂肪厚,上腕筋囲,握力
血液検査:Alb値,総Chol値,ChE,末梢血リンパ球数,ビタミン,微量元素
動的指標
(短期的な栄養状態)
高代謝回転蛋白:トランスサイレチン,レチノール結合蛋白,トランスフェリン
蛋白代謝動態指標:尿中3-メチルヒスチジン
アミノ酸代謝動態指標:アミノグラム

メタボリックシンドローム

病態 動脈硬化疾患の危険性を高める状態。
内臓脂肪由来の悪玉アディポカイン(TNF-α)↑、善玉アディポカイン(アディポネクチン)↓によりインスリン抵抗性や耐糖能異常をきたす。
症状 なし
検査 【診断基準】(① かつ ②〜④のうち2つ以上を満たす)
①腹囲 男性85cm以上、女性90cm以上
②空腹時血糖 110以上
③血圧 収縮期130以上 and/or 拡張期85以上
④脂質 TG150以上 and/or HDL40以下
※総C・LDL-Cは、メタボリックシンドロームにおいてはあまり上昇しないため基準に含まれない(ただし、心血管疾患の最大の危険因子である)。
治療 食事・運動療法によって内臓脂肪を減らす
アルコール摂取はエタノール換算で25g/日(日本酒換算で1合程度、ビール換算で500mL 1本程度)まで

肥満

病態 BMI25以上を肥満と定義する。原発性(90%以上)と二次性に分類される。
原発性肥満は皮下脂肪型と内臓脂肪型に大別され、皮下脂肪型に比して内臓脂肪型は動脈硬化や2型糖尿病を発症しやすい。
肥満のうち、健康障害を合併する状態を肥満症という。
二次性 Cushing症候群、甲状腺機能低下症、インスリノーマ、Laurence-Moon-Biedl症候群、Prader-Willi症候群、Tuner症候群、フレーリヒ症候群、ステロイド内服、向精神薬内服
合併症 耐糖能異常・2型DM、脂質異常症、高尿酸血症、変形性膝関節症、睡眠時無呼吸症候群など
治療 食事・運動療法、行動療法、胃内腔縮小術、胃バイパス術など

Refeeding症候群(リフィーディング症候群)

病態 長期の絶食や重度の栄養障害のある患者に、急激に栄養状態を補正することで発症する一連の代謝合併症の総称。長期にわたり著しい低栄養が続いた体へ急激に栄養が流入することで、体液と電解質の急激な細胞内シフトを生じ、低P血症、低K血症、低Mg血症,ビタミンB1欠乏症、高血糖などが引き起こされ、脱水、昏睡、心不全、不整脈、肺水腫、けいれんなどの致死的な症候を呈することもある。
特に、栄養開始後72時間が好発時期のため注意してモニタリングする。
※全ての入院患者で栄養投与開始前に本疾患のリスク評価を行い、リスク症例では予防的措置、慎重な栄養投与設計とモニタリングを行う必要がある。
リスク因子 神経性食欲不振症、担癌患者、低栄養の高齢者、コントロール不良の糖尿病、7日以上の低栄養、吸収不良症候群(炎症性腸疾患、慢性膵炎、短腸症候群、嚢胞性線維症)、胃バイパス術後、術後患者、アルコール依存症、制酸薬・利尿薬長期利用者
リスク分類 ①超高リスク群(1つ以上該当)
・BMI14未満
・過去3〜6ヶ月内の意図しない20%以上の体重減少
・15日以上栄養摂取が全く or ほとんどできていない
②高リスク群(高リスク群の1つ or 低リスク群の2つ該当)
・BMI16未満
・過去3〜6ヶ月内の意図しない15%以上の体重減少
・10日以上栄養摂取が全く or ほとんどできていない
・食事開始前のP、K、Mg低値
③低リスク群(1つ該当)
・BMI18.5未満
・過去3〜6ヶ月内の意図しない10%以上の体重減少
・5日以上栄養摂取が全く or ほとんどできていない
アルコール乱用または直近の化学療法・インスリン・制酸薬・利尿薬使用
検査 【身体所見】
バイタル:徐脈、低血圧、低体温、呼吸数低下(重症低栄養状態→ICU入院)
視診:こめかみのくぼみ、上腕三頭筋萎縮、手背骨間筋萎縮
【血液検査】
電解質異常(K、Mg、P)、低血糖、腎機能、AST↑ALT↑
治療 栄養投与は原則として低速・少量から開始し、1週間程度で目標の速度・投与量に到達するように設定する。ビタミンB1やリンを含む電解質の投与や血糖値、心電図のモニタリングを行いながら、経口・経腸で少量から再栄養を行う必要がある。

脂質異常症の診察

脂質異常症の分類

Ⅱ〜Ⅳ:内因性、V:混合性、I:外因性。Ⅱaが最多。血清外観はVLDL・レムナント上昇で白濁し、CM上昇でクリーム層形成。

  正常 Ⅱa Ⅱb V I
血清外観 透明 透明 透明〜白濁 白濁 白濁 クリーム層+白濁 クリーム層+透明
リポ蛋白異常増加 LDL LDL
VLDL
IDL
レムナント
VLDL CM
VLDL
CM
Chol    
TG   ↑↑ ↑↑ ↑↑ ↑↑↑ ↑↑↑
原因 LDL受容体障害 VLDL分泌亢進 アポ蛋白E異常 VLDL/TG異化異常 不明 先天的LPL欠損
遺伝形式 常・優 常・優 常・劣 常・優 常・優? 常・劣
発症時期 30歳前後 30歳前後 成人後 成人後 成人後 生下時
スタチン スタチン フィブ フィブ

①脂質異常症の診断

空腹時(10時間以上の絶食)に採血し、採血項目は保険上の都合によりTC/TG/HDLの3つ(LDLはFriedewald式から算出)を提出する。基準値のいずれかに該当すると脂質異常症の診断となる。

Friedewald式(フリードワルド式)=TCーHDLーTG/5

  基準値 診断名 詳細
LDL-C 140mg/dL以上 高LDL-C血症 Friedewald式 or 直接法で計算
  120〜130mg/dL 境界域高LDL-C血症  
HDL-C 40mg/dL未満 低HDL-C血症 単独では該当しても薬物介入×
TG 150mg/dL以上 高TG血症 随時採血なら175mg/dL以上
non-HDL-C 170mg/dL以上 高non-HDL-C血症 non-HDL-C=TCーHDL-C
  150〜169mg/dL 境界域高non-HDL-C血症  

②続発性(二次性)脂質異常症を確認

脂質異常症の30〜40%が続発性であり、続発性は原疾患の治療が優先される。薬剤性には非選択性β遮断薬、ステロイド、ピルなどが挙げられるが薬剤を中止すると改善する。

  原因疾患 コレステロール トリグリセリド
血糖 糖尿病
肝臓 原発性胆汁性胆管炎(PBC)  
  閉塞性黄疸  
腎臓 ネフローゼ症候群
  CKD  
甲状腺 甲状腺機能低下症  
その他 肥満  
  Cushing症候群
  褐色細胞腫
  薬剤性 薬剤の種類に依存 薬剤の種類に依存
  アルコール多飲  
  喫煙  

③家族性脂質異常症を確認

遺伝 ヘテロ遺伝子異常がある確率は1/200-300人。Ⅱa型(LDL受容体欠損)→常・優
診断 以下、2項目以上当てはまる場合に家族性高コレステロール血症と診断
  ①高LDL-C血症(未治療時のLDL-Cが180mg/dL以上)
  ②腱黄色腫(手背/肘/膝などの腱黄色腫やアキレス腱肥厚) or 皮膚結節性黄色腫
  ③家族性高コレステロール血症 or 早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)
診断後 家族性脂質異常症は多くのタイプがあり、診断したら、リポ蛋白分画やアポリポ蛋白測定などの検査が必要となる
治療 LDL-C70未満を目指して治療

④アプリを用いて動脈硬化疾患リスクを評価

ただし、40歳未満と80歳以上は動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版のリスク評価のフローチャートに含まれていないため、個別の設定を立てる必要がある。

心血管疾患を確認  
冠動脈疾患 or アテローム血栓性脳梗塞の既往あり 二次予防(再発予防のため厳格な要管理)
上記なし 一次予防(リスクに応じて治療方針決定)
動脈硬化のリスク因子を確認  
DM、CKD、末梢動脈疾患 左記のいずれかに該当すれば高リスクに分類
上記なし その他危険因子があるか久山町スコアを評価
追加検査で動脈硬化疾患の予測因子を確認 ←アプリではないけど・・・
①頸動脈エコー  
②ABI(足関節上腕血圧比) 末梢動脈の狭窄や閉塞の程度を評価
③PWV(脈波伝播速度) 血管の弾力性を反映する動脈硬化の指標
④CAVI(心臓足首血管指数) 血管の弾力性を反映する動脈硬化の指標

⑤リスク区分別の脂質管理目標値を設定

治療目標 冠動脈疾患や脳血管疾患の発症予防と死亡を減らすこと
  まずLDL-Cの管理目標値を達成→次にnon-HDL-Cの達成を目指す
  LDL-Cが達成してもnon-HDL-Cが高い場合は高TG血症を伴う場合が多い
一次予防 まず3〜6ヶ月の生活習慣の改善→LDL-C180以上が続く場合は薬物療法を検討
  一次予防は薬物療法は必須ではない
  一次予防の管理目標値は到達努力目標である
二次予防 治療開始前のLDL-Cに関係なく最大耐容量のストロングスタチンを開始
  再発予防のため厳格なLDL-C値の管理を行う

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より

⑥薬物療法

心血管疾患のリスクを低下させ、予後を改善させるのはスタチンのみ。長期投与の安全性や有害作用にスタチン間で大きな差はない。

85歳以上のスタチンによる心血管疾患の一次予防効果のエビデンスは十分でないため、患者の状態を踏まえてスタチン使用を判断する。

強さ 一般名 商品名 代謝経路 その他
ストロング アトルバスタチン リピトール CYP3A4  
  ピタバスタチン リバロ 主に胆汁  
  ロスバスタチン クレストール CYP3A4  
スタンダード プラバスタチン メバロチン 胆汁・尿中 夕方に内服
  シンバスタチン リポバス CYP3A4 夕方に内服
  フルバスタチン ローコール CYP2C9 夕方に内服

スタチンの副作用

  スタチン関連ミオパチー 自己免疫性壊死性筋炎
頻度 スタチン使用の13% 稀(2〜3人/10万人)
使用期間 数日〜数週 数年(平均1.5年)
筋力低下 様々 ほぼ全例
筋肉痛 しばしば(横紋筋融解症) 時々
嚥下困難 なし 時々
CK 様々 数千以上
抗HMGCR抗体 なし 感度特異度高い(抗体検出で診断)
スタチン中止 回復あり 回復なし

【スタチンで筋肉痛などの副作用が出た場合】

採血項目:CK、TSH、T4

①甲状腺機能低下症を除外した上で、A〜Dに分類。CK上昇あれば、運動などのその他CK上昇の原因がないか確認する。

②スタチンを減量する場合、同じスタチンか同じ強度グループで代謝経路の異なるスタチンで服用量を減らす

③スタチンを再開する場合、低い強度のグループのスタチンに変更する。他にも隔日投与など頻度を抑える方法もある。

  筋痛・筋力低下症状(ー) 筋痛・筋力低下症状(+)
CK基準値上限の
4倍未満
A:スタチン継続 B:患者と相談し、内服の減量や継続、2〜4週後に再検査
CK基準値上限の
4倍〜10倍
B:患者と相談し、内服の減量や継続、2〜4週後に再検査 C:内服中止し症状や検査値をモニタリング、4〜6週休薬後再検査して再開
CK基準値上限の
10倍以上
C:内服中止し症状や検査値をモニタリング、4〜6週休薬後再検査して再開 D:スタチン中止し専門医へ相談

フォロー

受診頻度 生活習慣の改善のみ 3ヶ月に1回程度の受診し採血
  薬物療法の評価 最初の3ヶ月は毎月1回、その後は3ヶ月に1回受診し採血
効果不十分 一次予防 スタチン単剤で効果不十分なら増量 or 他剤の追加併用
  二次予防 管理目標未到達なら他剤の追加併用
鑑別 二次性・家族性 フォローの段階でも二次性・家族性がないか確認する

専門医に紹介するタイミング

①家族性高コレステロール血症 家族歴からホモ接合体をもつ可能性がある場合
②家族性Ⅲ型高脂血症  
③家族性複合型高脂血症  
④原発性高カイロミクロン症  
⑤家族性低HDL-C血症  
⑥薬物療法抵抗性  
⑦副作用により薬物利用が難しい場合  
⑧若年や小児、挙児希望女性  

高TG血症

概要 心血管疾患リスクと関連はあるが、治療介入についてエビデンスは不明
病態 TG1000mg/dL以上なら急性膵炎のリスクとして治療対象となる
原因 【二次性高TG血症】
アルコール、薬剤、コントロール不良の糖尿病、甲状腺機能低下症、末期腎不全、ネフローゼ症候群、HIV感染症
治療 TG500mg/dL以上ならフィブラート系かイコサペント酸エチル

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