抗不整脈薬

薬理学

抗不整脈薬の概要

抗不整脈薬は①自覚症状(動悸・胸部不快感、疲労感・息苦しさ・めまい、失神)の軽減 と②致死的不整脈(突然死)の予防のため投与される。自覚症状がなく、致死的不整脈を起こす可能性が少ない場合は服用する必要はない。

【抗不整脈薬の分類】

Vaugan Williams分類 薬理作用によって4群(I~Ⅳ群)に分ける大まかな分類
Sicilian Gambit分類 イオンチャネル、ポンプ、受容体に対する作用を表示した詳細な分類

【不整脈発症の三大メカニズム】

①リエントリー 約7割 リエントリー回路はNaチャネル依存性伝導である。
②異常自動能 約2割 詳細は不整脈を参照。
③撃発活動 約1割 同上

【抗不整脈薬の目的別分類】

心拍数調節 β遮断薬、Ca拮抗薬、ジギタリス製剤
洞調律維持 Naチャネル遮断薬、Kチャネル遮断薬
Ia群 Naチャネル遮断薬 活動電位持続時間延長 上室性・心室性不整脈
Ib群 Naチャネル遮断薬 活動電位持続時間短縮 心室性不整脈
Ic群 Naチャネル遮断薬 活動電位持続時間不変 上室性・心室性不整脈
Ⅱ群 β遮断薬 洞性頻脈
Ⅲ群 Kチャネル遮断薬 活動電位持続時間延長 他の抗不整脈薬が無効の場合
Ⅳ群 Ca拮抗薬 活動電位持続時間不変 発作性上室性頻拍

抗不整脈薬の結論

Ia群薬 ①発作性AFを停止させる(WPW症候群に合併した場合も含む)
Ib群薬 ①心室頻拍の停止と予防(最近使わない傾向)
Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ群薬
ジギタリス
<房室伝導を抑制する>
①頻脈性AFの徐拍化
②発作性上室頻拍の停止

Naチャネル遮断薬

Naチャネル遮断薬の内服は、他の抗不整脈薬が無効の場合に使用する(プロカインアミド、メキシレチンを除く)。

作用機序 ①伝導速度遅延
Naチャネル遮断により、心筋細胞内へのNa流入を抑制して0相傾きを穏やかにする。その結果、伝導速度が遅延し、心筋が応答しにくくなり抗不整脈作用を示す。薬はNaチャネルが静止状態になると受容体から解離するが、この解離する速度によってF・M・Sに分類できる
②心収縮力抑制
Naチャネル遮断により、細胞内Na濃度低下を代償しようと3Na-Ca交換系が活性化し、細胞内Ca濃度が低下する。その結果、心筋収縮力は低下する(陰性変力作用)。
Ia群の
特徴
上室・心室性の頻脈性不整脈に有効:活性化チャネル遮断薬+解離速度やや遅い(MorS)ため。
②活動電位持続時間延長:軽度のKチャネル遮断作用も併せ持つため、外向き電流を減らして活動電位持続時間が延長し、不応期を延長させる。その結果、活動電位が起こりにくくなり不整脈を抑制する。不応期延長と解離速度やや遅いためQT時間延長に注意する必要がある。
Ib群の
特徴
心室性の頻脈性不整脈に有効:不活性化チャネル遮断+解離速度速い(ForM)ため。
②活動電位持続時間短縮:軽度のCaチャネル遮断作用を併せ持つため、内向き電流を減らして活動電位持続時間が短縮し、不応期を短縮させる。その結果、相対不応期が短くなり催不整脈を予防する。不応期短縮と解離速度速いため安全性が高い
Ic群の
特徴
上室・心室性の頻脈性不整脈に有効:活性化チャネル遮断薬であり、また解離速度も遅い(MorS)ため。
②活動電位持続時間不変:Naチャネル遮断作用のみため、活動電位持続時間は変化しない。
副作用 【I群全て】
高度洞房ブロック・高度房室ブロックには禁忌(伝導速度遅延作用のため)
うっ血性心不全にはメキシレチンを除いて禁忌(心収縮力抑制作用のため)
【Ia群】
解離速度が遅い+活動電位持続時間が延長するため、薬剤性QT延長症候群などの重篤な不整脈に注意。バルデナフィル、トレミフェンなど併用禁忌。Kチャネル遮断作用による低血糖に注意。
【Ic群】
解離速度が遅いので薬剤性QT延長症候群などに注意。また、虚血性心疾患への投与は禁忌。

【Naチャネル遮断薬の性質による分類】

状態依存性 A:活性化チャネル遮断 Naチャネルが活性化すると素早くチャネルを阻害し、0相傾きを穏やかにする。そのため、心房・心室の両方の不整脈に有効
  I:不活性化チャネル遮断 主に2〜3相のNaチャネルにゆっくりと結合し、次回の脱分極をさせにくくする。そのため、不活性化(2〜3相)時間の短い心房筋には結合できず、心室筋のみを選択的に阻害するため、心室の不整脈に有効
解離速度 F:Fast Naチャネルからの解離が速いため、Naチャネル遮断作用が弱く0相の傾きもあまり変えない。その結果、頻脈性不整脈のみに有効。つまり、陰性変力作用は弱いが、安全性は高い
  M:Intermediate FとSの中間の作用。
  S:Slow Naチャネルからの解離が遅いため、Naチャネル遮断作用が強く(=QRS波の幅を延長)0相の傾きを穏やかにする。その結果、頻脈性不整脈・徐脈性不整脈どちらにも有効
強力なNaチャネル遮断作用により、作用は強いが、心抑制(陰性変力作用)や催不整脈作用も強くなる→薬剤性QT延長症候群とそれに起因するTdPを起こしやすい

Naチャネル遮断薬 Ia群(Kチャネル遮断作用も持つ)

一般名 作用 先発名 特徴
キニジン A・M 【短所】骨髄抑制の副作用あり。
【ADME】肝代謝型(CYP3A4)
プロカインアミド A・M アミサリン錠/注 【短所】薬剤性ループスの副作用。筋力低下を亢進させる可能性があるため重症筋無力症に禁忌。
ジソピラミド A・S リスモダンCP/R徐放錠/P注 夜間に優位な交感神経亢進型に使用
【短所】抗コリン作用あり、低血糖
シベンゾリン A・S シベノール錠/注 夜間に優位な交感神経亢進型に使用
【短所】抗コリン作用あり
【ADME】腎排泄型(透析患者禁忌)
ピルメノール A・S ピメノールCP 夜間に優位な交感神経亢進型に使用、心室性のみ適応あり
【短所】抗コリン作用あり

Naチャネル遮断薬 Ib群(不活性化チャネル遮断薬)

一般名 作用 先発名 特徴
リドカイン I・F キシロカイン注 抗不整脈薬より局所麻酔薬として使用することが多い
メキシレチン I・F メキシチールCP/注 心機能が低下している心室性頻脈に使用。糖尿病性神経障害に伴う自覚症状の改善にも用いる。
【ADME】肝代謝型
アプリンジン I・M アスペノンCP/注 上室性にも有効で、臨床効果はIa群に近い
【ADME】肝代謝型

Naチャネル遮断薬 Ic群

一般名 作用 先発名 特徴
プロパフェノン A・M プロノン錠 日中に優位な交感神経亢進型に使用(軽度β遮断作用を持つため)
【ADME】肝代謝型
フレカイニド A・S タンボコール錠/注  
ピルジカイニド A・S サンリズムCP/注 【ADME】腎排泄型

β受容体遮断薬 Ⅱ群

作用機序 カテコラミン→β1受容体→Gs活性化→cAMP上昇→PKA活性化→L型Caチャネル開口+Kチャネル開口(IKs)。その結果、心筋細胞内にCaが流入して心筋が収縮し、特殊心筋では心拍数が増加する。また、IKs>ICaLのため外向き電流が大きくなり活動電位持続時間が短縮し、QT時間が短縮する。
①心筋収縮抑制
β遮断薬によって細胞内へのCa流入が抑制されるため、心筋収縮を抑制する(陰性変力作用)。
②心拍数抑制
細胞内へのCa流入が抑制されるため、洞結節や房室結節の脱分極を抑制し、心拍数と房室伝導を抑制する(陰性変時作用)。また、ISA-の場合は心拍出量を減少させるため頻脈に適している。
③活動電位持続時間延長
活動電位持続時間を延長し、不応期を長くする。そのため、上室・心室性の頻脈性不整脈に有効。特に交感神経の緊張が誘因となるタイプの不整脈に有効。
副作用 急性心不全、気管支喘息、冠攣縮性狭心症への投与は禁忌。
一般名 先発名 特徴
プロプラノロール インデラル 非選択性β遮断
カルベジロール アーチスト 非選択性αβ遮断
メトプロロール セロケン β1遮断(ISA-)
アテノロール テノーミン β1遮断(ISA-)
ビソプロロール メインテート錠
ビソノテープ
β1遮断(ISA-)
【利点】ビソノテープは嚥下困難患者にも使用できる
ランジオロール オノアクト点滴静注
コアベータ静注
コアベータ静注は冠動脈CT検査時の1回静注用
エスモロール ブレビブロック注 手術時の上室性不整脈に対する緊急処置に使用

Kチャネル遮断薬 Ⅲ群

作用機序 ①活動電位持続時間延長
第3相の遅発整流Kチャネル(IKr・IKs)を阻害し、活動電位持続時間を延長させ不応期を延長させる。その結果、リエントリー性頻拍を停止させることができる。
②心収縮力抑制作用
洞結節や房室結節において再分極時の静止膜電位を深くし、心拍数と房室伝導を抑制する(陰性変時作用)。
IKrを阻害する薬は徐脈時には強くなるが、頻脈時に薬効が弱く(逆頻度依存性効果)、頻脈が終わり洞調律に戻った時にリバウンドでIKrの割合が増加してQT延長症候群を来す恐れが出てくる。このため、Kチャネル遮断薬としては望ましくはない効果と言える(IKsを阻害する薬は頻脈時に効果が強く理想的)。
副作用  
一般名 先発名 特徴
アミオダロン アンカロン錠/注 Naチャネル+β受容体+Caチャネルも遮断し、洞調律を維持させる作用を有するが、副作用のため他の薬が無効な致死性不整脈に限り使用。長期投与ではIKs阻害が中心となるため逆頻度依存性効果は少ない=QT延長は少ないのが特徴。
【欠点】致死的な間質性肺炎、ヨウ素含有による薬剤性甲状腺炎の副作用に注意!
ソタロール ソタコール錠 IKrとβ受容体を遮断。他の薬が無効な致死性不整脈に使用。
【副作用】IKr阻害が中心となるためQT延長に注意
ニフェカラント シンビット静注 IKr+IKs+Itoを遮断。他の薬が無効な致死性不整脈に使用。
【副作用】IKr阻害が中心となるためQT延長に注意

Caチャネル遮断薬 Ⅳ群

作用機序 ①心筋収縮抑制
L型Caチャネルを遮断し、心筋細胞へのCa流入を抑制し、心筋収縮を抑制する(陰性変力作用)。さらに、血管平滑筋にもL型Caチャネルが豊富に存在するため血管収縮を抑制する。
②心拍数抑制
L型Caチャネルを遮断し、洞結節や房室結節の脱分極を抑制し、心拍数と房室伝導を抑制する(陰性変時作用)。そのため上室性の頻脈性不整脈に有効。
発作性上室頻拍では、ベラパミル静注すると、AVRTでは房室伝導路、AVNRTではα路を抑制し、リエントリーを阻止して頻拍を改善する。
副作用  

【Caチャネル遮断薬の分類】

フェニルアルキルアミン系 主に心臓に作用 上室性頻脈性不整脈に使用
ベンゾチアゼピン系 中間の作用 頻脈のある高血圧に使用
ジヒドロピリジン系 主に血管に作用 高血圧に使用(降圧薬を参照)
一般名 先発名 特徴
ベラパミル ワソラン錠/注 フェニルアルキルアミン系
【欠点】血中プロラクチン↑、女性化乳房が出る時がある
【ADME】CYP3A4基質+P糖蛋白阻害
ジルチアゼム ヘルベッサー ベンゾチアゼピン系
ベプリジル ベプリコール錠 マルチチャネルブロッカーでNaチャネルとKチャネル遮断作用もある。他の薬が無効な致死性不整脈、または持続性AFに使用。

その他の抗不整脈薬

一般名 先発名 特徴
アトロピン 徐脈性不整脈に有効
ATP アデホスLコーワ注 ATP急速静注すると血中でATP→アデノシンに代謝され、房室結節のアデノシン受容体を刺激し過分極を起こす。その結果、房室伝導を抑制し、上室性の頻脈性不整脈に有効。
【ADME】半減期約10秒(安全性高い)
ジギタリス 迷走神経を刺激し、上室性の頻脈性不整脈に有効。
【欠点】TDMが必要

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