アルコール関連疾患

救急医学

アルコールの概要

アルコールに伴う4つの精神症状

①アルコールの摂取により急性に発症 急性アルコール中毒
①の随伴疾患 意識障害、外傷、電解質異常、ケトアシドーシス
②大量飲酒の習慣に伴って発症 アルコール依存症
②の随伴疾患 肝硬変に伴う食道静脈瘤破裂、膵炎
③大量飲酒を中断した際に発症 アルコール離脱症状、振戦せん妄
④大量飲酒を長期に継続した結果として発症 Wernicke脳症・Korsakoff症候群

アルコールの摂取量計算

純アルコール量(g) =飲酒量(mL)×[アルコール度数(%)×0.01 ]×0.8(比重)
男性 純アルコール量で40g/日以上が健康リスクのある飲酒
女性 純アルコール量で20g/日以上が健康リスクのある飲酒

アルコールのADME

【吸収】

アルコールは消化を受けることなく胃で約20%、小腸上部で約80%の割合で吸収される。吸収は速く、飲酒から1時間で80%以上が吸収される。

【エタノールの代謝】

90%以上が肝臓で代謝され、代謝スピードは104〜120mg/kg/hr(輸液をしてもスピードは変わらない)。

エタノールの作用機序

①GABA神経終末に作用してGABA遊離を促進する。また、シナプス後膜のGABAA受容体やグリシン受容体に結合しCl透過性を亢進する。
②グルタミン酸神経に作用しグルタミン酸遊離を抑制する。また、シナプス後膜のNMDA受容体に結合し、受容体の機能を抑制ためグルタミン酸による入力を抑制する。
①+②の結果、エタノールは前頭葉・海馬・小脳を麻痺させ、脱抑制・記憶障害・平衡障害を起こす。

【作用機序の結果、出現する薬理作用】

薬理作用 詳細と対応方法
局所作用 蛋白凝固作用や脱水作用によって皮膚や粘膜を収斂し、発汗防止作用や殺菌作用を示す。
中枢神経抑制作用 大脳皮質→小脳→脊髄→延髄の順に抑制(下行性抑制)。
アルコールによる興奮は大脳皮質の脱抑制によるもので(麻酔第1期と2期に相当)、意識喪失が始まると急に延髄麻痺に移行し、急性アルコール中毒で死に至る。
呼吸作用 少量で呼吸促進、多量で呼吸抑制される。気道閉塞を予防するために回復体位を取らせ、意識がなければ気道確保する。
循環系作用 頻脈になる。末梢血管拡張により赤ら顔となり、外気温が低下すると熱が奪われ体温が低下する。→保温
消化器系作用 少量のアルコールは胃酸分泌を亢進し、食欲を増進する。また、多量では嘔吐。
内分泌作用 アドレナリンの遊離を促進し、一時的に高血糖・高脂血症となる。
バソプレシンの分泌を抑制し利尿作用を示すため脱水状態になる。そのため、しっかり水分補給させる。
高揚感 中脳辺縁ドパミン系を活性化し、高揚感を引き起こす。

急性アルコール中毒

病態 アルコール摂取により酩酊が起こる。
【分類】
①単純酩酊(普通の酔っ払い)
②複雑酩酊(酒乱)
③病的酩酊(器質性脳疾患がある人)
単純酩酊 血中アルコール濃度の上昇に伴って段階的に進行する酩酊
発揚期(多弁・ほろ酔い状態):血中濃度150mg/dL未満
酩酊期(千鳥足、判断力低下、興奮・麻痺):血中濃度150mg/dL以上
泥酔期(意識障害、構音障害、低体温):血中濃度250mg/dL以上
昏睡期(呼吸抑制、血圧低下、死亡):血中濃度400mg/dL以上
複雑酩酊 飲酒量が多いが、広範な記憶欠損はない酩酊
大酒家では血中濃度400mg/dL以上でも特に症状を認めない場合もある
病的酩酊 飲酒量に関係なく出現し、器質的脳疾患などが背景にあり、急激に意識障害や見当識障害があり、健忘を伴う酩酊

急性アルコール中毒の診察

【ABCD】

AB 吐物による窒息、アルコールによる呼吸抑制
C 血圧低下・頻脈(消化管出血の可能性→直腸診)
D 意識障害(低血糖の有無を確認)
E 低体温、発熱(感染症)

【S】

飲酒量 当日の飲酒量と普段の飲酒量を確認(いつも飲んでるのか?今日だけなのか?)
※実際は嘘の場合もあるため友人や家族からも聴取すべし
随伴症状 意識障害:アルコール性ケトアシドーシス、肝性脳症、Wernicke脳症、痙攣後、電解質異常、頭部外傷、脳卒中
吐血:マロリーワイス症候群、特発性食道破裂、食道静脈瘤破裂
外傷:頭部外傷、頸部外傷など
腹痛:膵炎、特発性食道破裂、消化性潰瘍穿孔、アルコール性ケトアシドーシスなど
胸痛:ACS
頭痛:SAH、頭蓋内出血
発熱:細菌性髄膜炎、肺炎、肺結核、特発性細菌性腹膜炎、特発性敗血症
既往症

【O】

視診 黄疸・腹水・下腿浮腫・手掌紅斑・くも状血管腫(肝疾患)
におい 口からアルコール臭
外傷検索 頭髪をかき分け打撲痕を探す
血液検査 トロポニン↑(胸痛あり)、CK↑(長時間圧迫横紋筋融解)
多飲:血漿浸透圧、γGTP↑、MCV↑、
慢性:ビタミンB1↓、ケトン体↑、アンモニア、低K/Mg血症、PLT10万以下は肝硬変の可能性(Albも低値)
推定BAC ●推定アルコール血中濃度
アルコール血中濃度=浸透圧ギャップ×4.6
※浸透圧ギャップ=血漿浸透圧実測値ー推定値(2Na×BUN/2.8×Glu/18)
→血中濃度200mg/dL以下の意識障害はアルコール以外の可能性あり
頭部・頸椎CT 転倒による頭蓋内出血やSAH、骨折などを否定(意識障害では必ず撮像

【P】

ビタミンB1 VB1は2〜3週間で枯渇する
●アルコール多飲歴の可能性がある場合はVB1 100mg投与
例)ビタメジン1V+生食100mLを点滴
●Wernicke脳症の可能性がある場合
例)ビタメジン5V+生食100mLを30分かけて点滴
外液 アルコールによる利尿作用によって引き起こされた脱水があれば外液を補液、ビタミンB1投与にブドウ糖入りの輸液

アルコール性ケトアシドーシス(AKA)

病態 絶食や飢餓状態ではブドウ糖が不足すると脂肪を分解してケトン体をエネルギー源とする(ケトーシス)。酸性物質のケトン体が増加するとケトアシドーシスに進行し、意識障害や突然死を引き起こす。
症状 ケトーシス:嘔気嘔吐、腹痛などの消化器症状、頻呼吸、頻脈、血圧低下
ケトアシドーシス:意識障害
検査 血ガス:代謝性アシドーシス、乳酸値↑
治療 ビタミンB1投与後に5%ブドウ糖入り輸液
(ブドウ糖投与によりケトン体産生減少し、ケトン体が肝臓で重炭酸に変わりアシドーシスが改善される、安易なメイロン®投与は不可)
※フォロー血ガスで代謝性アシドーシスや乳酸値の改善を確認する

アルコール依存症

病態 飲酒を自分の意志で制御できなくなり、仕事、人間関係、健康などを犠牲にしても飲酒する状態。周囲から見限られるため次第に自信を失うが、アルコールにより前頭葉機能が低下して断酒の意思決定ができず、また、脱抑制により周囲に粗暴行為をとることもある。
ビタミンB1欠乏を合併しやすく、ウェルニッケ・コルサコフ症候群が生じる。
症状 ①精神依存:アルコールに対する強い渇望+薬物探索行動
②耐性・身体依存:耐性に伴い酒量が増加し、身体依存を生じ、飲酒停止によって不快な離脱症状に悩まされるため酒を手放せなくなる
③その他:嫉妬妄想(自尊心低下のため?)
検査 CAGE質問スクリーニング】2項目以上該当で、アルコール依存症の可能性あり
Cut down:減酒の必要性を自覚している
Annoyed by criticism:飲酒の批判による苛立ちをしたことがある
Guilty feeling:飲酒に対する罪悪感がある
Eye opener:落ち着かせるために朝酒・迎酒をする
治療 まずは断酒!
【精神療法】社会的に孤立した患者を断酒会やAA(匿名の断酒会)といった自助グループを利用して治療+家族にも酒を与えないよう家族療法を行う。
【薬物治療】抗酒薬(ジスルフィラム、シアナマイド)、アカンプロサート

アルコール離脱症候群

病態 断酒により興奮系の離脱症状が12〜18時間で出現し、ピークは24〜48時間後、症状は5~7日継続することが多い。
重症度評価 CIWA-Ar:客観的なアルコール離脱症候群の重症度評価
0〜9点:軽度、10〜15点:中等度、16点以上:重度
早期離脱症状
(断酒48hr以内)
手足振戦
②不眠
③自律神経症状:頭痛、嘔気、血圧上昇、発汗過多、頻脈
④アルコール幻覚:小動物・小人幻視、幻触、幻聴
左右差のない全身の強直間代性けいれん(痙攣重積は稀)
後期離脱症状
(断酒48hr以降
振戦せん妄:せん妄、見当識障害、興奮、頻脈、高血圧、発熱、発汗
治療 【PAWSS(離脱のリスク評価)】
PAWSS3点以下(低リスク):CIWA-Arでモニタリング or ベンゾ頓用
PAWSS4点以上(中〜高リスク):予防や治療を検討
①離脱症状の予防にはロラゼパム(肝障害でも使用可)などのベンゾジアゼピン系を漸減投与(せん妄時には無効)

Wernicke脳症・Korsakoff症候群(健忘症候群)

疫学 リスク因子:低栄養者(化学療法中、神経性食思不振症、偏食、妊娠悪阻、長期飲酒)
病態 多くは長期飲酒や偏食によるビタミンB1欠乏によって生じる。
Wernicke脳症が進行するとKorsakoff症候群へ移行する。
症状 <ウェルニッケの3徴>
意識障害:脳幹網様体と視床内側核に病変があるので見当識障害(軽度の意識障害)から昏睡に至る様々な程度の意識障害を呈する
眼球運動障害:外転神経核、動眼神経核に病変があり、眼振をきたす
失調性歩行(小脳失調):小脳前葉に病変があるため
【Caine基準(2つ以上満たすとウェルニッケ脳症の可能性)】
①栄養失調、②眼球運動障害、③小脳失調、④意識障害 or 軽度記銘力障害
症状 <コルサコフの4徴>
①記銘力低下:乳頭体を含む記憶回路(Papetzの回路)が障害されるため
②健忘:同上
③見当識障害:ウェルニッケの①
作話
検査 【身体検査】
反射:腱反射低下
【画像検査】
MRI:急性期にはT2・FLAIER像で両側視床内側の高信号・中脳水道周辺の高信号、慢性期には第三脳室の拡大・乳頭体の萎縮などがみられる
治療 ウェルニッケ脳症:ビタミンB1静注→ブドウ糖静注
コルサコフ症候群は不可逆的で難治性

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