胸部CT
Axial:横断面、Coronal:冠状面、Saggital:矢状面
高分解能CT(HRCT)を用いると、二次小葉まで観察できる。二次小葉の一辺は1cm程度で、細気管支と肺動脈が入ってくる。
胸部CTの読影順序
胸部CTのメリットは肺尖部〜肺底部+縦隔まで死角なく撮影できる、デメリットは被曝量が胸部X線の約100倍ある。
肺野条件 | ①肺野前1/3→外側1/3→後1/3に分けて左右で観察 ②主気管支→右上葉気管支→右中葉気管支→(葉間胸膜)→下葉気管支 ③主気管支→左上葉舌区の気管支→(葉間胸膜)→下葉気管支 |
縦隔条件 | ①胸膜と胸水を左右 ②甲状腺(気管の両側) ③乳腺 ④心臓→肺動脈(特に造影では塞栓を確認) ⑤左右の腋窩リンパ節→鎖骨上窩リンパ節(鎖骨の内側)→胸骨傍リンパ節(胸骨背側のリンパ節)→縦隔リンパ節→肺門リンパ節 |
【腹部CTない場合】 ⑥大動脈 ⑦(椎骨の中の)脊柱管 ⑧背部の筋軟部組織 |
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骨条件 | ①横断面:鎖骨・肋骨骨折、椎体の偏位を確認 ②冠状面:鎖骨・肋骨骨折、椎体の圧迫骨折を確認 ③矢状面:椎体の圧迫骨折、脊柱管狭窄を確認 |
腹腔より上部の読影の注意点(甲状腺、心臓、食道)
胸膜 | 肺尖部の胸膜肥厚 | 加齢性変化(apical cap) |
甲状腺 | 腫瘍の有無 | 甲状腺はヨードを含むため高吸収となるのが正常、腫瘍がある場合は低吸収を呈する(左葉 or 右葉) |
心臓 | ①心肥大の有無 | CTRを計算 |
②石灰化 | 冠動脈3枝、A弁・M弁※、大動脈の石灰化 | |
※弁置換術後は弁がトゲトゲ+胸骨に術後変化あり | ||
③肺A拡張の有無 | 肺A幹径>上行大動脈径の場合は肺高血圧の可能性 | |
食道 | 食道裂孔ヘルニア | 冠状面で横隔膜から胃が頭部に出ていることを確認 |
食道の右側のAir | 右傍気管嚢胞で正常変異 | |
肋骨 | ①Xpで肺尖部の腫瘤影 | 第一肋軟骨の骨化・石灰化:加齢性変化で通常左右差あり |
②Xpで肺野の腫瘤影 | 肋骨骨折後の骨硬化:肋骨の陳旧性骨折 | |
血管 | Xpで右肺尖部の腫瘤影 | 腕頭動脈のbuckling:正常偏位で、気管の偏位はない |
病変が肺区域のどの部分にあるか
原則:気管支の先を辿り区域を特定する(そうすれば肺切除していてもわかる)
右肺 | 分岐 | 左肺 | |
上葉 | S1←B1(頭側) | ||
S3←B3(腹側) S2←B2(背側) |
左右の主気管支の下 | B3→S3(腹側) B1&2→S1+2(背側) |
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中葉舌区 | S5←B5(内側) S4←B4(外側) |
葉間胸膜より上 | B4→S4(上側) B5→S5(下側) |
下葉 | S6←B6(背側) | 葉間胸膜より下 | B6→S6(背側) |
S7←B7(腹側) S8←B8(外側) S9←B9(外側) S10←B10(背側) |
B6より下 | B8→S8(外側) B9→S9(外側) B10→S10(背側) |
CTで見える正常所見
原則 | 0.5mm以上の構造物が見える、つまり肺では血管と気管支が見える |
血管 | 血管は割と末梢まで見えるが、肺の端は見えない(CTで見える白い枝はほぼ血管) |
気管支 | 中枢付近の気管支は見える(末梢は見えないが、気管支は肺Aと伴走している) |
連続性陰影(すりガラス影:GGO、コンソリデーション)
連続性陰影=肺胞陰影(平易に言えばベタッとした陰影が見える)
【すりガラス影 GGO(or GGA)】
定義 | 背景の血管影(肺紋理)または気管支影が認識できる程度の淡い濃度上昇 |
原因 | 線維化のある間質性肺炎:牽引性気管支拡張、蜂巣肺などがある |
線維化のなり間質性肺炎:上記所見がない | |
肺実質病変だが肺胞がまだ100%液体で満たされていない:うっ血性心不全、肺胞出血、肺胞蛋白症、細菌性肺炎の初期 |
【コンソリデーション】
定義 | 背景の血管構造が認識できないような軟部濃度と同等の吸収値をもつ陰影 |
気管支透亮像(air bronchogram):コンソリデーション内部に開存した気管支で、肺胞内は液体で満たされているが、気管支内は空気があるためこのように見える | |
原因① | 肺胞性肺炎:肺胞腔内に多量の滲出液や好中球浸潤が見られKohn孔を介して周囲へ広がる(気管支肺炎は気管支の炎症) |
原因② | 器質化肺炎:肺胞腔内の滲出物が器質化され、肺胞腔内や肺胞管内にポリープ状の線維化巣が存在するもの(画像から原因推定は困難) |
原因3 | 炎症後変化:容積が縮んでいる像があれば炎症による変化と考える |
断続性病変(粒状影、結節影、腫瘤影)
断続性病変=飛び飛びの陰影
粒状影 | 径5mm以下 | 【粒状影が存在する場所で3つに分類】 ①小葉中心性粒状影:細気管支に関連する陰影 ②小葉中心性+辺縁性粒状影:リンパ管・間質に関連する陰影 ③ランダム分布の粒状影:毛細血管に関連する陰影 |
結節影 | 径5mm〜3cm | 1cm以下のもの=小結節影 肺クリプトコッカス症:同一肺葉内の多発小結節影 |
腫瘤影 | 3cm以上 | 【悪性を示唆する所見】 ①スピキュラ ②ノッチ ③胸膜陥凹像・胸膜陥入像 |
小葉中心性病変
二次小葉へ入る細気管支に炎症や粘液貯留が生じることで可視化され、1個の二次小葉内に複数の分岐や粒状影が見えるようになる。ただし、粒状影は肺の外縁部(胸膜)やメジャーフィッシャー線から2mm程度離れたところに描出され、接する部分には生じない。
また、細気管支周囲の肺胞にも炎症が及ぶと、複数の粒状影が1つになり小葉中心性結節影に見えることもある。
パターン① | 非区域性、すりガラス濃度の多発小結節影 |
原因:急性の過敏性肺炎/肺胞出血/溶接工肺/呼吸細気管支炎を伴う間質性肺炎 | |
パターン② | 区域性、比較的濃度の高い多発小結節影 |
原因:細気管支炎/マイコプラズマ肺炎/HTLV1関連肺病変/膠原病肺/肺胞出血 | |
マイコプラズマ肺炎は、気管支〜細気管支の肥厚+αで小葉中心性粒状影 | |
パターン③ | 区域性、濃度の高い多発小結節影(tree-in-bud appearance) |
原因:細気管支炎/結核/非結核性抗酸菌症/びまん性汎細気管支炎など | |
結核は、慢性経過+空洞を伴う結節影+その周囲や他の場所に小葉中心性粒状影(散布巣)、好発部位はS1/S2/S6(気管支拡張はないのも特徴) | |
非結核性抗酸菌症(MAC症)は、2つに分類でき、どちらも胸膜肥厚像+そこから中枢に進展する気管支拡張像が特徴的 ①結節・気管支拡張型:中葉舌区中心に気管支拡張+小葉中心性粒状影 ②線維空洞型:結核に似た空洞を伴う結節影+小葉中心性粒状影 |
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非結核性抗酸菌症(M.kansasii症)も、結核に似た空洞を伴う結節影+小葉中心性粒状影(空洞壁は結核と比べて薄いと言われている) | |
びまん性汎細気管支炎(DPB)は、細気管支の肥厚+小葉中心性粒状影 |
小葉中心部+辺縁部病変
小葉間隔壁の肺Vやリンパ管は0.5mm以下なので正常では見えない
気管支血管束:細気管支と肺Aを合わせたもので、それらを取り巻くようにリンパ管が存在
パターン① | 小葉中心性+小葉間隔壁(広義間質)に沿った多発結節影 |
原因:サルコイドーシス | |
サルコイドーシスは、両側肺門リンパ節腫脹(BHL)+気管支〜細気管支・小葉間隔壁・胸膜に沿った粒状影(=微細な肉芽腫) | |
パターン② | 小葉間隔壁(広義間質)のびまん性肥厚が広範囲に存在 |
原因:癌性リンパ管腫/肺水腫/悪性リンパ腫/急性好酸球性肺炎など | |
癌性リンパ管腫は、肺門や縦隔リンパ節腫脹+気管支血管束・小葉間隔壁・胸膜肥厚(=リンパ管に癌が目詰まり浮腫)+胸膜播種や肺内転移があれば胸水 | |
心原性肺水腫は、心拡大や肺血管拡張などの心不全所見を伴う | |
非心原性肺水腫(心不全所見なし)は、薬剤性肺炎/急性好酸球性肺炎/DADを疑う | |
急性好酸球性肺炎は、二次小葉内のすりガラス影+胸膜まで達する小葉間隔壁肥厚(=好酸球が間質に浸潤して浮腫) |
二次小葉内ランダム分布の粒状影
ランダムに存在する構造=肺胞壁に存在する毛細血管=血行散布性病変=下肺野優位
原因 | 詳細 |
①多発肺転移 | 1つ1つの病変の大きさが不揃いで境界明瞭な結節、担癌患者や症状の乏しい患者に多い |
②粟粒結核 | 大きさが1〜3mmと小さな多発粒状影、発熱のある患者に多い(肺結核と異なり血行性に散布される) |
荷重部高吸収域
肺実質が自分の重さでわずかに潰れ、荷重部位が淡い高吸収をきたした陰影を荷重部高吸収域という。仰臥位で背側に観察され、腹臥位にすると消失する。間質性肺炎との鑑別のため、聴診してクリアであれば荷重部高吸収域とわかる。
網状影・蜂巣肺
※じん肺:粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病
網状影とは | 気管支・肺動静脈・小葉間隔壁などの既存の構造と関連づけることのできない線状陰影の集合 |
原因:間質性肺炎、慢性過敏性肺炎、じん肺※、膠原病肺、陳旧性結核、喫煙関連疾患、薬剤性肺炎など | |
蜂巣肺とは | 胸膜下にやや厚い隔壁を有する直径3〜10mm大の嚢胞状の気腔がいくつかの層をなして集簇している所見(蜂巣肺の周囲に、壁肥厚を伴わないコークスクリュー様の牽引性気管支拡張を伴う) |
原因:慢性間質性肺炎(肺線維症) | |
間質性肺炎を見たら、肺癌がないか確認する |
気管支拡張・粘液栓・策状影
気管支拡張の所見 | ①tram line(長軸):末梢に平行に走る2本の線 ②signet ring sign(短軸):気管支径>伴走する肺A径 ③気管支壁肥厚、気管支内液体貯留、粘液栓をしばしば伴う |
炎症性気管支拡張 | 気管支壁は肥厚し、しばしば液体貯留を認める(急性期は膨隆性だが、慢性期になると間質が収縮して気管支間隔は狭くなっている) |
牽引性気管支拡張 | 気管支辺縁は不整でコークスクリュー様(壁肥厚や液体貯留はない) |
粘液栓とは | 気管支内の一部または全体に分泌物が充満している状態 |
策状影とは | 厚さ1〜3mmまで長さ5cmまでの不整形陰影で、隣接する肺実質や気管支血管束の歪みを伴うもの(線維化などの陳旧性炎症性変化や板状無気肺でしばしば見られる) |
結節影・腫瘤影
結節影・腫瘤影の特徴は陰影の辺縁が外向きに凸になっていること(逆に辺縁が内向きに凸 or 直線になっている場合は炎症性変化や器質化肺炎などを考慮してコンソリデーションとする)
悪性所見 | |
スピキュラ | 結節辺縁から出ているトゲトゲ、扁平上皮癌や腺癌などの原発巣で見られる |
胸膜陥入像 | 腺癌内部の線維化で陰影の辺縁が内向きに凸になり近くの胸膜を引っ張り込む像 |
ノッチ | 結節辺縁にある切れ込み、扁平上皮癌、小細胞癌、転移性肺癌で見られる |
胸膜陥凹像 | 腺癌内部の線維化で結節に向かう葉間胸膜の緩やかな陥凹像 |
良性所見 | |
石灰化 | 縦隔条件で高吸収(ただし、結節の端にある石灰化は除く) |
halo sign | 中心の濃い陰影周囲に見えるすりガラス影 |
空洞形成
①扁平上皮癌 | 気管支上皮由来の癌のため気管支と交通し壊死物質が流出できる |
②肺結核症 | |
③MAC症 | |
④肺膿瘍 | |
⑤肺真菌症 | |
⑥多発血管炎性肉芽腫症 |
腹部CT
腹部CTの読影順序
WW400に変更すると空気と脂肪の違いが十分認識できる
軟部組織条件 | ①肝→胆→胆管→脾→膵→右副腎・腎→左副腎・腎→尿管→膀胱→前立腺→精嚢( or 子宮→卵巣→膣) |
②腹部大動脈〜左右総腸骨Aの解離や瘤の有無→下大V周囲・腹部大動脈周囲・左右総腸A骨周囲リンパ節→骨盤内リンパ節 | |
WW400に変更 | ①下部食道→胃→十二指腸 |
②直腸→S状結腸→下行結腸→横行結腸→上行結腸→虫垂 | |
③腸管膜の脂肪織濃度上昇の有無→腹水・出血の有無 | |
④腸腰筋などの軟部組織病変の有無 | |
⑤腹壁や鼠径部のヘルニアの有無 | |
肺野条件 | ①free airの有無(空気は黒のまま、脂肪は黒くなくなる) |
骨条件 | ①胸部CTと同じく骨折や偏位の有無 |
肝
確認事項 | 腫瘤 |
●肝内胆管拡張(閉塞機転を探す):内壁と内壁の距離が2mm以上で拡張 ※門脈と胆管は伴走しているが、CT値が前者の方が高いため区別できる 原因:肝内胆管結石、総胆管結石、胆道系悪性腫瘍、胆管炎、胆摘後 |
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●peri-portal collar:門脈の両側が低吸収(肝内胆管拡張の場合は片側) 原因:肝炎、胆管炎、うっ血肝など様々なのでこれだけでは原因はわからない |
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●胆道気腫(pneumobilia)/門脈内ガス 胆道気腫は胆道内に空気があり、肝門脈部寄りに空気が見られる 門脈内に空気があり、肝臓腹側辺縁寄りに空気が見られる 胆道気腫の原因:内視鏡的乳頭切開後、胆管空腸吻合術後など 門脈内ガスの原因:原因不明の場合や腸管壊死に伴って出現する場合あり |
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●肝実質の濃度低下:肝血管が見えない、高度になると低吸収(黒)になる 原因:主に脂肪肝(肝実質のCT値が40HU以下) |
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●肝腫大:頭尾方向に15.5cmを超える場合など 原因:急性肝炎、悪性腫瘍のびまん性肝浸潤、脂肪肝、アミロイドーシスなど |
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●尾状葉と外側区域の腫大/肝縁の鈍化(矢状断)/肝表面の凹凸 原因:慢性肝障害、肝硬変 |
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●肝臓の腫瘤性病変 ①肝嚢胞:単純でも造影でも内部は0〜10HU程度 ②肝血管腫:単純では下大Vと同じ淡い低吸収、造影では動脈早期相で辺縁に点状/地図状/綿花様濃染→平衡相で下大静脈と同程度の高吸収、増殖速度は早くない ③肝細胞癌:単純では淡い低吸収、造影では動脈早期相でモザイク状の濃染→平衡相で逆に周囲肝より低吸収=wash out(ただし、高分化の場合は濃染されない) ④肝転移:単純では淡い低吸収、造影では平衡相でリング状の淡い造影増強効果 ⑤肝内胆管癌:肝転移と似ている ⑥肝膿瘍:発熱などの感染症状+単純では淡い低吸収、造影では平衡相で中心が造影されない膿瘍腔+膿瘍壁が濃染、その周囲に浮腫状の低吸収を認める |
胆嚢・胆管
確認事項 | 壁の厚さ、胆石・胆泥 |
●胆嚢腫大(閉塞機転を探す):胆嚢全体に緊満感がある 原因:胆嚢頸部の胆石嵌頓、遠位胆管の結石や腫瘍 |
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●胆嚢内の結節性低吸収や高吸収 原因:コレステロール結石は脂肪を含み低吸収が多くCTで写らないこともある(エコーやMRIを併用して確認)、ビリルビンCa結石は高吸収が多い |
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●胆嚢内へ突出するような結節性病変で造影増強効果を伴う 原因:胆嚢ポリープ(1cm以下は経過観察、1cm以上や広基性は精査が必要) |
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●胆嚢壁肥厚:3mm以上(壁が見えたら肥厚として良い) 原因:胆嚢癌や胆嚢腺筋腫症による壁肥厚、胆嚢炎による壁肥厚、浮腫性壁肥厚 |
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●総胆管拡張:内壁から内壁までの距離が11mm以上(閉塞機転を探す) 原因:閉塞性黄疸(胆管癌、膵癌の胆管浸潤、IgG4関連疾患)、総胆管結石、閉塞機転のない胆管拡張(胆摘後、CTに写らない総胆管結石など→MRIやERCPを検討) |
脾臓
確認事項 | 大きさ、嚢胞 |
●脾腫:頭尾側方向で10cm以上の場合 |
膵
確認事項 | 腹側から胃→網嚢→膵→脾Vと位置、膵は加齢により萎縮し辺縁は分葉構造を呈する |
●主膵管拡張(3mm以上)+途中で途絶した膵管 原因:膵癌(膵癌を疑ったらダイナミックCTを行い、早期相から平衡相にかけて徐々に増強効果が強くなる、早期相で膵実質と膵癌の造影コントラストあり) |
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●膵腫大+周囲脂肪織濃度上昇+膵臓の造影不良域の有無 原因:急性膵炎→以下の2つに大別され、造影の場合は膵炎CT gradeを評価する ①間質性浮腫性膵炎(軽症型):造影不良域はなく、発症4週間以内は膵周囲に液体貯留を認める場合に診断され、ほとんどが治癒する。しかし、稀に4週間以降続く場合は膵仮性嚢胞となる。 ②壊死性膵炎(重症型):急性膵炎発症後48時間のCTで膵実質の一部または全体に造影不良域がある場合に診断される。壊死性膵炎はしばしば膵臓周囲に壊死物質が貯留し、4週間以内は急性壊死性貯留と診断されるが、4週間以降は辺縁の被膜様構造のみ造影効果を示す被包化壊死と診断される。 【膵炎CT grade:①と②から評価】 ①膵自体の変化:膵壊死の有無(=造影不良域の有無) ②膵炎の炎症波及の程度:前腎筋膜(Gerota筋膜腹側の肥厚)、横行結腸間膜根部(膵臓腹側の腹腔内脂肪織濃度上昇)、腎下極以遠レベルまで脂肪織濃度上昇がある |
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●びまん性石灰化・膵管内結石・主膵管の不規則なびまん性拡張 原因:慢性膵炎(膵管破綻による膵仮性嚢胞も比較的頻度多く見られる) ※膵臓の一部の微小石灰化は動脈硬化性変化なので注意 |
副腎
確認事項 | 後腹膜の最も頭側に位置する逆Y字型の構造 |
●副腎の腫瘍性病変 ①腺腫:内部のCT値が-10HU程度で、塊状の脂肪なし ②骨髄脂肪腫:内部のCT値が-10HU程度で、塊状の脂肪あり ③その他の腫瘍:MRIでin-phase→opposed-phaseで信号低下ありなら腺腫、なしなら腺腫以外の腫瘍 ※褐色細胞腫を疑う場合:ヨード造影剤が相対禁忌→ダイナミックMRI精査 |
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●副腎の腫大 原因:副腎過形成(両側の副腎が形態を保ちつつ腫大する場合に疑う) |
腎
確認事項 | 長径約12cm程度、腎と周囲の脂肪組織はGerota筋膜で覆われている |
●腎の石灰化濃度 原因:腎実質の石灰化、腎結石(腎盂腎杯)、腎動脈壁石灰化 |
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●腎腫瘤性病変 ①腎嚢胞:常に内部は10HU程度、嚢胞性出血の場合は30〜50HUとなる ②腎細胞癌:悪性腫瘍で最多、単純では腎実質よりもやや低吸収で、造影では典型的には動脈早期相で濃染→平衡相でwash outであるが、組織型により多彩な所見を呈することがあり注意 ③腎血管筋脂肪腫:良性腫瘍で最多、内部に粗大な脂肪濃度を含む |
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●腎実質の造影不良域 ①急性腎盂腎炎:腎腫大、周囲脂肪織濃度上昇、左右差のあるGerota筋膜肥厚、早期相のみで楔状造影不良域(平衡相でも造影不良が残存している場合はAFBN疑い) ②腎梗塞:早期相で造影不良域+約50%にその部分の腎被膜のみ造影増強効果が保たれているcortical rim sign→腎梗塞がある場合は他の部位に塞栓症がないか確認 ③腎膿瘍:腎腫大、周囲脂肪織濃度上昇、膿瘍腔が単純で低吸収・造影で造影効果なし |
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●腎実質萎縮と辺縁の変形 原因:慢性腎盂腎炎、陳旧性腎梗塞 |
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●腎盂拡張 原因:傍腎盂嚢胞(腎盂周囲の存在する嚢胞で、造影CTで低吸収)、腎外腎盂(腎盂のみ拡張し、腎杯が拡張しない、病的意義は乏しい) |
尿管
確認事項 | 尿管は排泄相で見えやすくなる |
●尿管の途絶所見 原因:尿管結石(尿管内の石灰化)、尿管癌(閉塞機転で尿管内に増強効果を有する軟部濃度を認める) |
膀胱
確認事項 | 恥骨結合の後方に位置 |
●膀胱壁から内腔に突出する壁肥厚 原因:膀胱癌(通常、造影増強効果を伴う) |
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●膀胱壁のびまん性肥厚 →放射線治療、BCC膀胱内注入療法後、慢性膀胱炎など |
前立腺
確認事項 | 膀胱頸部の下方で尿道を取り囲む様に位置 |
●前立腺腫大:左右径5cm以上で疑う(前後径3cm/上下径4cm=30mL以上) 原因:前立腺腫大(下部尿路症状が加わると前立腺肥大と診断) |
子宮、卵巣、腟
確認事項 | 子宮筋層は比較的強い造影増強効果を示す |
●子宮の腫瘤性病変 原因:子宮筋腫(最多、境界明瞭、石灰化を伴う場合もある) |
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●卵巣の嚢胞性腫瘤 原因:機能性嚢胞(閉経前で5cm以下の場合はまず考慮)、大きい嚢胞性腫瘤では漿液性嚢胞腺腫、粘液性嚢胞腺腫、内膜症性嚢胞など→卵巣嚢腫に造影増強効果を有する充実成分を認める場合は悪性腫瘍の可能性があるためMRI検討 |
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●卵巣出血 原因:女性の急性腹症で妊娠反応陰性で血性腹水貯留が見られたら卵巣出血を疑う。性交後に右卵巣から出血することが多い |
血腫、胸部大動脈(TA)、腹部大動脈(AA)
大動脈解離と大動脈瘤はしばしば同時に存在し、その場合は解離性大動脈瘤となる。
https://www.kango-roo.com/learning/7231/
血腫 | 単純では、無構造でやや高吸収(40〜70HU)を示し、造影では持続的な出血がない限り内部に造影増強効果は見られない。発生時間からの時間によっては不均一な高吸収や低吸収が混在する |
仮性動脈瘤 | 血管壁が一部断裂して血腫が形成され、血液が血腫内に漏出している場合、この突出部分を仮性動脈瘤という |
大動脈解離 | ●大動脈解離:2つに分類 ①偽腔閉鎖型は真腔と偽腔の交通がなく、単純では閉鎖した偽腔が三日月状の淡い高吸収域となり、造影では偽腔への造影剤流入が見られない。偽腔の一部に造影剤が突出した像(ulcer like projection:ULP)があれば、侵襲的治療を考慮する必要がある。診断例:偽腔閉鎖型大動脈解離Stanford B型 ②偽腔開存型は真腔と偽腔の交通があり、単純では指摘困難なことが多い。造影で真腔と偽腔はティア(隔壁裂孔)で交通し、上流のティアをentry、下流のティアをre-entryと呼び、大動脈内部に上下に連なるフラップ(隔壁)が見られる。真腔と偽腔の見分け方として、通常は真腔が狭く偽腔が広い。 |
●モーションアーチファクト 心拍により大動脈壁がブレて二重に描出され、大動脈解離のように見える。動脈相、平衡相などを比較してみる。 |
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壁在血栓 | ●大動脈の壁在血栓と潰瘍形成 大動脈は動脈硬化により分厚い壁在血栓を生じ、しばしば血栓内に潰瘍様の凹みに見えるアテローム潰瘍を伴う(shaggy aortaと呼ばれる) ※大動脈解離との鑑別(血管石灰化を利用) 単純では、大動脈解離は血管石灰化の外に偽腔の低吸収域が見えるが、壁在血栓は血管石灰化の内に血栓の低吸収域が見える |
大動脈瘤 | ●大動脈瘤:外膜から外膜までの最大短径を計測 胸部大動脈瘤をTAA、腹部大動脈瘤をAAA、胸腹部大動脈瘤をTAAAという |
①紡錘状瘤は、全周性に大動脈径が正常の1.5倍以上に拡張した状態で、胸部大動脈では4.5cm以上、腹部大動脈では3cm以上で瘤と判断する(一般的にTTAでは最大短径が6cm以上、AAAでは最大短径が5cm以上で侵襲的治療を考慮する) | |
②嚢状瘤は、一部がコブ状に突出した状態で、胸部大動脈では4.5cm以上、腹部大動脈では3cm以上で瘤と判断する | |
rupture | ●大動脈瘤破裂(rupture):多くは病院到着前に死亡する 単純では大動脈周囲に血腫と思われる淡い高吸収域、造影では動脈相で造影剤が大動脈から突出している |
切迫破裂 | ●大動脈瘤切迫破裂:今にも破裂しそうな状態で通常痛みを伴う 単純で壁在血栓内に三日月状の高吸収域(crescent sign)がある状態=動脈壁内に新たな血腫が出現している状態で切迫破裂と診断する |
●外傷性大動脈損傷 大動脈峡部に好発し、単純では大動脈弓部周囲に血腫と思われる淡い高吸収域、造影では大動脈峡部から造影剤が漏出している |
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SMAの途絶 | ●SMA血栓塞栓症 造影でSMA内部の増強効果が近位部で突然消失 |
リンパ節 | 脈管の周辺にある結節状の構造物 ●リンパ節腫大:短径10mm以上で有意な腫大と判断 下大V周囲・胸腹部大動脈周囲→左右総腸A骨周囲→骨盤内→鼠径部(鼠径靭帯の下方) |
下部食道→胃→十二指腸
下部食道 | ●食道壁肥厚 原因:進行食道癌(層構造が不明瞭で造影増強効果のある壁肥厚) |
胃 | ●胃壁肥厚 ①大きな胃癌:胃粘膜の層構造が不明瞭+造影増強効果のある壁肥厚 ②胃潰瘍:粘膜がやや厚く描出され造影増強効果あり+粘膜下層が肥厚して水濃度に近い低吸収を示す浮腫性壁肥厚があり、陥凹を伴う ③急性胃粘膜病変/急性胃アニサキス症/好酸球性胃炎:広範囲な胃の浮腫性壁肥厚 |
●胃壁の欠損像 穿通・穿孔(周囲に遊離ガス) |
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十二指腸 | 十二指腸下行部内側の憩室 十二指腸傍乳頭憩室(Vater乳頭周囲の憩室) |
●十二指腸球部前壁の壁欠損像 穿通・穿孔(周囲に遊離ガス) |
直腸→S状結腸→下行結腸→横行結腸→上行結腸→虫垂
直腸 | ●直腸の壁欠損 穿通・穿孔(腸管外に便塊) |
S状結腸 | ●結腸壁の限局的な突出 結腸憩室、憩室炎(憩室周囲の脂肪織濃度上昇) |
結腸 | ●大腸拡張:結腸にはハウストラがあり、便中の泡沫状ガスが見られる 原因:閉塞機転があれば腸閉塞、なければ麻痺性イレウス |
●大腸壁肥厚:蠕動運動でも腸管壁が肥厚して見える場合があるので注意 ①大腸炎※:造影増強効果を有する粘膜+粘膜下層が肥厚して水濃度に近い低吸収を示す浮腫性壁肥厚+周囲の脂肪織濃度上昇 ②大腸腫瘍:層構造が不明瞭+造影増強効果のある壁肥厚 |
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【※大腸炎の鑑別】 3層構造を保った結腸壁肥厚(矢頭状:arrowhead sign) ●回盲部優位の場合:エルシニア、腸炎ビブリオ、クローン病、腸結核、腸管ベーチェット病など ●右半結腸優位の場合:サルモネラ、カンピロバクター、O157、薬剤性腸炎、好中球減少性腸炎など ●左半結腸優位の場合:虚血性腸炎、偽膜性腸炎、潰瘍性大腸炎など ●直腸優位の場合:偽膜性腸炎、アメーバ腸炎、潰瘍性大腸炎など ●結腸〜直腸のびまん性浮腫:偽膜性腸炎、CMV腸炎、潰瘍性大腸炎など |
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虫垂 | ●虫垂腫大と内部液体貯留+壁肥厚+周囲の脂肪織濃度上昇 原因:虫垂炎(虫垂内部にガスは含まれないことも特徴) |
小腸 | ●小腸拡張:小腸の拡張があると、全周性にケルクリング襞が見え、また液体貯留と空気像も見られる 原因:閉塞機転があれば腸閉塞、なければ麻痺性イレウス |
●小腸壁肥厚 ①小腸炎※:浮腫性壁肥厚+小腸の一部または全体が軽度拡張+内部液体貯留 ②小腸腫瘍(悪性リンパ腫):層構造が不明瞭+造影増強効果のある壁肥厚 |
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【※小腸炎の鑑別】 3層構造を保った小腸壁肥厚(同心円状:target sign) ●アレルギー:腸管アニサキス症(サバ/イカ/アジ)、好酸球性腸炎など ●うっ血:絞扼性腸閉塞、腸間膜静脈血栓症 ●再灌流障害(NOMIなどの虚血から血流が戻った場合) ●炎症:虫垂炎などの穿孔による炎症波及、憩室炎、血管炎(SLE、IgA血管炎)、エルシニア腸炎、クローン病 ★浮腫性壁肥厚がなく、小腸の軽度拡張や小腸中心に内部液体貯留がある場合は感染性腸炎を疑う(多くは小腸型で、ウイルス性→ノロ、ロタ、アデノ) |
腸間膜
正常 | 腸間膜は脂肪を含むため通常は低吸収(黒) |
異常 | 脂肪織濃度上昇:腸間膜が高吸収(白)になっている場合は炎症あり ・炎症 ・腫瘍(炎症反応乏しい場合):原発巣やリンパ節腫大を探す ・腸管の血流障害、動脈解離、動脈瘤破裂(炎症反応乏しい場合) |
腸管壁肥厚:5mm以上で疑う ●炎症性壁肥厚:感染性腸炎、虚血性腸炎、憩室炎、血管炎など ●腫瘍性壁肥厚:結腸癌、リンパ腫、腸管への癌転移など ●その他:血管閉塞性腸管虚血、門脈圧亢進症、腸管浮腫など |
【腸間膜の内部を走行する脈管】
肝胃間膜 | 左胃動静脈 |
肝十二指腸間膜 | 門脈、固有肝動脈、総胆管、右胃動静脈 |
胃結腸間膜(大網の上部) | 左胃大網動静脈、右胃大網動静脈 |
胃脾間膜 | 短胃動静脈 |
横行結腸間膜 | 中結腸動静脈 |
大網 | 大網動静脈 |
腹水
腹水 | ①腹水貯留部位 右横隔膜下腔、ダグラス窩、脾臓側方でよく見られる ②CT値を確認 ・0〜30HU:単純腹水、乳び腹水、漏出胆汁 ・20〜40HU:血清腹水、炎症性腹水(蛋白濃度↑細胞成分↑) ・30〜50HU:凝固していない血液 ・50〜70HU:凝血 |
腹腔内出血 | ●腹腔内出血:若年女性の場合は子宮外妊娠破裂、卵巣出血など ・急性期の血腫や血栓(40〜70HU):筋肉などの軟部組織よりやや高い ・血性腹水(20〜40HU):膀胱などの水分よりも高い ・活動性出血(300HU) ※肝臓(脂肪肝は脾臓)を白く、腎臓を黒く描出→WW/WLを変更 ただし、Hb7以下や発症から時間が経っている血腫は高吸収になりにくい! |
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