肝炎ウイルス
科 | 特徴 | 感染経路 | ワクチン | |
A型 | ピコルナ科 | 生食、汚染水、東南アジア渡航歴 | 糞口 | 有 |
B型 | ヘバトナ科 | 約20%が慢性化、1〜2%が劇症化 | 血液、STI、母子 | 有 |
C型 | フラビ科 | 約70%が慢性化 | 血液 | 無 |
D型 | デルタ属 | B型と共感染、極めて稀な疾患 | 血液、STI | 有(B型) |
E型 | へぺ科 | 猪肉や鹿肉の生食、汚染水 | 糞口 | 無 |
・急性肝炎はHBVによるものが最多
・HBVは針刺し事故1回当たりの感染リスクが最も高い(HBV:30%>HCV:3%>HIV:0.3%)
A型肝炎(HAV)
1本鎖RNAウイルス、エンベロープ無。4類感染症。
疫学 | 東南アジアなどの渡航歴のある人に好発、特にHA抗体未保有の若年者に多い |
病態 | 飲料水・生牡蠣の汚染された飲食物を経口摂取、同性間の性交渉などによって、腸管上皮→門脈→肝臓の順に移行し肝細胞で増殖する。小児では不顕性感染が多く軽症だが、50歳以上では重症化の傾向。罹患するとHA抗体が産生され、終生免疫を獲得し、再発はしない。 |
症状 | 感染後2〜6週間の潜伏期を経て、 ①インフルエンザ様症状:発熱、全身倦怠感、悪心嘔吐、胃腸炎 ②肝障害:黄疸(眼球結膜の黄染、皮膚黄染)、褐色尿、皮膚掻痒、肝腫大 3~6か月で治癒し、慢性化はしないが、1%未満の人が劇症化する |
検査 | 【血液検査】 IgM型HA抗体(+)(感染直後・確定診断)、IgG型HA抗体(+)(発症1〜2週間以降) AST↑ALT↑LDH↑、Bil↑(直接>間接)、Fe↑、PT延長 【末梢血塗抹標本】 異型リンパ球(+) 【糞便検査】 HAV-RNA(現在感染中)、IgA型HA抗体(早期〜回復期) 【尿検査】 Bil↑、ウロビリノゲン↑ |
治療 | 対症療法 |
予防 | 不活化HAワクチン接種、HAV流行地での生食は控える |
B型肝炎(HBV)
2本鎖DNAウイルス。
病態 | 血液感染・水平感染(性交)・母子感染するが、約80%は不顕性感染となる。残りの約20%は慢性肝炎→肝硬変→肝がんへと移行する。1〜2%は劇症化する。母子感染ではキャリア化(HBs抗原・HBe抗体陽性)する。針刺し後にHBVになる確率は30%。 【HBVの再活性化によるde novo B型肝炎】 抗癌剤や免疫抑制薬の治療開始前にHBs抗原、HBc抗体、HBs抗体を測定し、HBc抗体陽性かつ/またはHBs抗体陽性であるHBV既感染者を同定する。既感染者では治療開始後定期的にHBV-DNA量を測定して、増加したら抗ウイルス療法を開始する。 |
症状 | 感染後1〜6ヶ月の潜伏期を経て、 ①急性肝炎症状:A型肝炎を参照 ②慢性肝炎症状:持続する倦怠感、食欲不振など |
検査 | 【血液検査】 B型肝炎マーカーは枠外参照:特にHBe抗原が陰性化し、HBe抗体の陽性化(seroconversion)した後はHBV量↓感染性↓肝病変改善となる。 AST↑ALT↑LDH↑、Bil↑(直接>間接)、Fe↑、PT延長、ペア血清でHBc抗体↑ PTが40%以下となれば肝炎劇症化が示唆される。 【尿検査】 Bil↑、ウロビリノゲン↑ |
治療 | 抗ウイルス療法:Peg-IFN、核酸アナログ(逆転写酵素阻害薬) 肝庇護療法:ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン製剤 |
予防 | 抗HBsヒト免疫グロブリン筋注(HBIG)+HBワクチン皮下注 ※HBs抗原陽性の母親から生まれた新生児は出生後直ちにHBIG筋注+B型肝炎ワクチンの2種類を投与 ※針刺し事故の場合はHBs抗原陰性・HBs抗体陰性を確認した後に遅くとも48時間以内にHBIG筋注+1週間以内にHBワクチン皮下注 |
【B型肝炎マーカー】
血中に出てくる順にsec cesです(セックスです)と覚える。
抗原 | HBs抗原 (surface) | ウイルス感染状態(確定診断に用いる) ※感染後にHBs抗原の陰性化する場合もある→HBc抗体測定! |
HBe抗原 (elevation) | ウイルス増殖中のため感染力強い! | |
血中に出ないため測定不可 | ||
抗体 | HBc抗体 | IgMは急性期(確定診断に用いる) IgGは慢性期〜既往感染(既感染者) |
HBe抗体 | 感染力が弱くなった回復期 HBe抗原(-)、HBe抗体(+)になった状態=セロコンバージョン |
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HBs抗体 | 治癒・既往感染、もしくはワクチン接種済(中和抗体) |
Gianotti病(ジアノッティ病)
疫学 | 6ヶ月〜12歳児に好発(B肝患者の家族から水平感染) |
病態 | B型ウイルスの初感染による、四肢末端から上行する紅色丘疹。 |
症状 | ①四肢末端に対称性に融合しない紅色小丘疹 ②小丘疹が殿部・顔面へと上行性に広がる(体幹部には広がらない!) ③表在リンパ節腫脹 ④肝腫大(黄疸は生じにくい) |
検査 | HBVを参照 |
治療 | 対症療法、必要に応じてB型肝炎の治療 |
C型肝炎(HCV)
1本鎖RNAウイルス。
疫学 | 高齢者で陽性率が高い |
病態 | 主に血液を介して感染し、肝細胞とリンパ球で増殖する。1%未満の人が劇症化する。約70%で慢性肝炎となり、線維化によって慢性肝炎の4割が肝硬変→肝細胞癌に進展する。 遺伝子型によって1a,1b,2a,2bなどに分類され、1b(約70%)>2a>2bの順に多い。 肝硬変例では肝発癌は年率5〜8%でみられ、肝硬変まで進展している例ではC型肝炎ウイルスが排除されても肝発癌率は約3分の1程度にしか下がらない。 |
症状 | 感染後1〜5ヶ月の潜伏期を経て、 ①急性肝炎症状:症状はA型・B型と比べて弱い! ②慢性肝炎症状:持続する倦怠感、食欲不振など 【合併症】 クリオグロブリン血症:クリオグロブリンが糸球体に沈着し、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)様が生じることがある。 |
検査 | 【血液検査】 HCV抗体陽性(確定診断、ちなみにHCV抗体は中和活性をもたない) HCV-RNA陽性(陽性の妊婦の場合、結果が陰性であれば母子感染のリスクはない) AST↑ALT↑LDH↑、Bil↑(直接>間接)、Fe↑、PT延長 【尿検査】 Bil↑、ウロビリノゲン↑ 【肝硬変のフォロー】 エコー、腫瘍マーカー |
治療 | 直接作用型抗ウイルス薬(DAAs) ※IFNフリーのDAAsによりHCV感染者の95%以上がウイルス駆除可能となった!ただし、肝硬変まで進展している例ではウイルスが排除されても肝発癌率は約3分の1程度にしか下がらないため、腹部超音波検査や腫瘍マーカー等でのフォローが必要。 肝庇護療法:ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン製剤 ※母体がHCV-RNA検出された場合:ウイルス量高値であれば予定帝王切開を検討(ただし、母子感染したとしても多くは陰性化する) |
D型肝炎(HDV)
HDVはHBV(HBs抗原)の存在下で共感染し、B型肝炎の重症化や劇症化を引き起こす。
E型肝炎(HEV)
1本鎖RNAウイルス、エンベロープ無。4類感染症。
病態 | 猪肉(猪のE)や鹿肉の生食、汚染された飲食物を経口摂取し、腸管上皮→門脈→肝臓の順に移行し肝細胞で増殖する。妊娠後期に感染すると重症化・劇症化する(約20%)。 |
症状 | A型肝炎と類似。感染後1~2か月の潜伏期を経て、 ①インフルエンザ様症状:全身倦怠感、発熱、悪心嘔吐、胃腸炎 ②肝障害:黄疸、皮膚掻痒、肝腫大 1か月程度で治癒し、慢性化はしないが、A型肝炎より10倍劇症化する率が高い |
検査 | 【血液検査】 HEV抗体陽性(確定診断) AST↑ALT↑LDH↑、Bil↑(直接>間接)、Fe↑、PT延長 【尿検査】 Bil↑、ウロビリノゲン↑ |
治療 | 対症療法 |
予防 | ジビエの生食を避ける |
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