①身体診察(バイタルサイン、全身所見)

症候学

通しの身体診察

イントロ 患者フルネームと生年月日を確認
バイタル Sickそうなら橈骨A触診や末梢循環不全(冷たく湿った手)を確認
頭部
頭部 ①変形や明らかな外傷がないか確認:転倒
●発熱:側頭動脈の圧痛を伴う場合は側頭動脈炎を鑑別に
●頭痛:帯状疱疹の皮疹を確認
①眼瞼結膜の蒼白:貧血
②眼球結膜の黄染:黄疸
③眼球結膜の充血:頭痛を伴う場合は緑内障発作、発熱を伴う場合はベーチェット病の毛様充血や前房蓄膿、SLE/MRA/PANなどの自己免疫疾患の強膜炎を鑑別に
●眼瞼結膜の点状出血:発熱を伴う場合は感染性心内膜炎を鑑別に
副鼻腔 ①前頭洞の圧痛:左右差を確認
②上顎洞の圧痛:左右差を確認
①鼻出血
②鼻汁:色調も確認、頭蓋底骨折ではサラサラした鼻汁の有無を確認
口腔 ①口腔粘膜の潰瘍:発熱を伴う場合はベーチェット病、免疫不全ならCMVを鑑別に
②白苔:AIDS、DM患者では口腔内カンジダを鑑別に
●double tongue:強い咽頭痛を伴うは口底蜂窩織炎を鑑別に
●水疱性皮疹:RamsayHunt症候群を鑑別に
●耳介後部の発赤:乳突洞炎を鑑別に
●耳介後部の皮下出血(Battleサイン):頭蓋底骨折の可能性
●外耳の発赤:再発性軟骨炎を鑑別に
●髄液耳漏:透明なサラサラした耳漏
頸部
リンパ節 ①前頸三角リンパ節腫脹:溶連菌性咽頭炎の可能性
②後頸三角リンパ節腫脹:伝染性単核球症など全身疾患の可能性
③左鎖骨上リンパ節腫脹:Virchow転移の可能性
甲状腺 ①甲状腺腫大:発熱・圧痛を伴う場合は亜急性甲状腺炎、体重減少があれば甲状腺機能亢進症、全身倦怠感があれば甲状腺機能低下症を鑑別に
項部硬直 ①下顎が胸につかない:発熱を伴う場合は髄膜炎を鑑別に
胸部
呼吸 ①呼吸補助筋の使用
気管 ①気管の短縮:通常3〜4横指だが、短縮があればCOPDの可能性
呼吸音 口を開けて呼吸をしてもらうと副雑音が聴取しやすくなる
心音 特に急性心不全ではASを示唆する収縮期雑音の有無を確認(利尿の方針に影響)
腹部・背部
視診 手術痕、膨満、鼠径部の膨隆など
聴診 蠕動音
打診 膨満の場合、鼓音か否か
叩打痛 CVA、脊柱の叩打痛

バイタルサイン

バイタルサインの異常は絶対値よりも普段との変化が重要である。

バイタルの基準値

①血圧(BP) 基準値:100〜130/60〜85mmHg
  ・肘を心臓と同じ高さにし、マンシェットを肘下2cmまでで巻く
  ・sBP70以下くらいになると機械では測定できない
  ・末梢に行くほど血管内径が細くなり血管抵抗が上昇するため血圧は高くなるため、下肢で測定すると上肢より血圧が10%高い
  ・毛細血管再充満時間 (CRT:capillary-refilling time):2秒未満なら循環に関しては問題ない。爪床を5秒間圧迫し解除後、爪床の赤みが回復するまでの時間。
②脈拍(HR) 基準値:60~99/分(bpm):100回以上は頻脈、60回未満は徐脈
  ・左右差と整/不整も確認
  ・スポーツ選手だとHR50以下も多い
  体温0.5〜1℃上昇→脈拍10回/分増加(例外的に増加しない=相対的徐脈)
  ・120回以上は拡張期短縮により心不全となる
③呼吸数(RR) 基準値:14~20/分:25回以上は頻呼吸、12回未満は徐呼吸
  ・心電図モニターの電極の動きからカウントしてくれる
③SpO2
基準値:96%以上:90%未満で呼吸不全(90〜95%は低め)
【SpO2が測定不可の場合】
①末梢循環不全(脱水・低体温など)→マッサージ、加温が必要
②マニキュア、爪の汚れ → 爪の汚れを取って測定
③CO中毒、メトヘモグロビン血症など異常Hb→動脈血ガス測定
  マンシェットの巻いていない方の腕で測定する
  ・原理は、経皮的に2種類の吸光度を測定してSaO2を算出
  ・SpO2 97%=PaO2 90Torr、SpO2 90%=PaO2 60Torr
  Hb値が低下している場合は運搬酸素量も低下するため、SpO2が95%以上でも低酸素状態となる。その結果、せん妄など生じる可能性がある。
④体温(BT) 基準値:36~37℃(通常、腋窩体温)、小児は成人より概ね0.5℃高い
  ・麻痺側は循環が悪く低いため、健側で測定する
  直腸温>口腔温・鼓膜温(-0.5度)>腋窩温(-1.0度)の順に体温が高い
⑤意識状態 GCSで評価
・瞳孔径:2.5~4mmで左右対称。2mm以下は縮瞳、6mm以上は散瞳

脈の触れる場所

触知部位 詳細
①浅側頭動脈 耳の前
②総頸動脈 触知不良:推定sBPは60mmHg以下
③腋窩動脈 脇の下 上腕骨に沿って触る
④上腕動脈 肘の内側
⑤橈骨動脈 手首掌側の親指側 触知不良:推定sBPは80mmHg以下
⑥尺骨動脈 手首掌側の小指側
⑦大腿動脈 太ももの付け根 触知不良:推定sBPは70mmHg以下
⑧膝窩動脈 膝の裏
⑨後脛骨動脈 内果の後方
⑩足背動脈 背側の中央付近

小児の脈拍

異常値 正常値 異常値
新生児 80以下 140前後 200以上
乳児 80以下 120前後 180以上
1〜8歳 60以下 100前後 160以上
8歳以上 60以下 80前後 160以上

脈拍の異常

左右差 脈拍の左右差がある場合は血圧で左右差を確認する。
大動脈解離、末梢動脈疾患、大動脈縮窄症、高安動脈炎、胸郭出口症候群など
大脈・速脈 収縮期血圧と拡張期血圧の差(脈圧)が増加する状態を大脈という。
左室の一回拍出量が増大するARPDAで出現する。
小脈・遅脈 脈圧が減少する状態を小脈、脈の経時的変化の遅いもの遅脈という。ゆっくり脈が大きくなりゆっくり小さくなるASで出現する。
交互脈 大脈と小脈が交互に出現する状態で、左心機能の著しい低下を意味する。
重度の心不全で出現する(心筋が休みながら脈打ってるため)。
奇脈 呼気時収縮期血圧ー吸気時収縮期血圧が10以上低下する場合(吸気時に収縮期血圧が大きく低下して小脈になる=吸気時に触知している動脈の拍動が減弱)。吸気時に静脈還流が増えるが、その際右心系の容積が増加し左室を圧迫するため、左室からの心拍出量が減少する。
心タンポナーデ、収縮性心膜炎、緊張性気胸などの拡張障害で出現する。

小児の呼吸数

平均呼吸数
新生児 40〜60回
乳児 35回
1〜5歳 25〜30回
6〜11歳 20回

頭頸部(HEENT)の診察

頭部・顔面

確認ポイント
顔貌の視診 ●顔面の浮腫
①満月様顔貌:Cushing症候群
②眼瞼周囲の浮腫:甲状腺機能低下症(non-pitting edema、皮膚黄色調変化)
・表情の異常
①仮面様顔貌:パーキンソン病(脂性肌)、精神疾患
頭髪の視診 ・脱毛の有無
①円形脱毛症
・毛髪量の減少
→甲状腺機能低下症、抗癌剤服用、悪性貧血
頭皮の視診 ・皮疹、瘢痕、腫瘤の有無
頭蓋の触診 ・変形、腫瘤、圧痛の有無

眼鏡をはずしてもらい診察する。

確認ポイント
眼瞼周囲の視診 ●眼瞼浮腫
①ネフローゼ症候群や腎不全など全身性浮腫
※うっ血性心不全では重力に従い下腿浮腫になることが多い
②甲状腺機能低下症(non-pitting edema、眼瞼周囲の浮腫)
●眼瞼の皮疹
①ヘリオトロープ疹:皮膚筋炎
②眼瞼黄色腫:高コレステロール血症に伴う場合あり
●眼瞼下垂
片側性:動眼神経麻痺、Horner症候群
両側性:重症筋無力症など
眼球結膜の視診 下眼瞼を下に牽引した状態で「上を見てください」
●充血
①結膜充血(眼瞼結膜も充血):結膜炎
②毛様充血(茶目の周囲の充血):急性閉塞隅角緑内障(激痛、視力低下)
●黄疸(血中Bilが10mg/dL以上で83%、15mg/dL以上で96%が黄染)
胆汁うっ滞、血液疾患、薬剤性など黄疸の鑑別を行う
●青色強膜
骨形成不全、鉄欠乏性貧血などで見られる
眼瞼結膜の視診 ●貧血
下眼瞼結膜外側縁の毛細血管の蒼白化がある場合(conjunctival rim pallor)、Hb9.0g/dL未満の貧血を示唆する
●点状出血
感染性心内膜炎:微細な菌塊が毛細血管を閉塞させて小出血をきたす
眼球突出の視診 ●眼球突出を側面/後上方から確認
両側性:バセドウ病(von Graefe徴候とDalrymple徴候を確認)
片側性:眼窩腫瘍・炎症、頭蓋底骨折、内頸動脈海綿静脈洞瘻(拍動あり)
瞳孔の視診 ●対光反射、眼球運動を確認(神経診察を参照)
●角膜輪の異常
Wilson病、脂質異常症、加齢変化(虹彩外側が少し黄色がかる)

確認ポイント
外耳の視診 ●両側の耳たぶに下斜め45度の溝(Frank徴候)
心血管系疾患のリスク因子(動脈硬化)との関連が示唆されている
●耳介の発赤
丹毒(耳介は皮下組織が存在しないため耳介の発赤は蜂窩織炎の除外に有用:Milian’s ear sign)、帯状疱疹、接触性皮膚炎、再発性多発軟骨炎
外耳道・鼓膜の視診 ●外耳道の発赤
外耳道炎
●鼓膜の発赤・膨隆
急性化膿性中耳炎
●鼓膜の内側の気泡
急性滲出性中耳炎
外耳の触診 ●耳介牽引による疼痛
外耳道炎、乳様突起炎(中耳炎の場合は疼痛は牽引で増悪しない)

確認ポイント
鼻の視診 ・変形の有無
鞍鼻:Wegener肉芽種
副鼻腔の打診 ●前頭洞・上顎洞の圧痛/叩打痛
急性副鼻腔炎:上顎洞炎の場合は5〜10%で歯根部炎を合併しており上顎歯の圧痛を確認する
鼻閉塞の確認 ・鼻翼を片方ずつ押さえて確認
両側性:慢性副鼻腔炎、上咽頭癌
片側性:鼻中隔彎曲症、急性副鼻腔炎、鼻腔異物など

口唇・口腔・舌・咽頭

口唇・口角の視診 ・口角びらんの有無
→VB2欠乏、亜鉛欠乏、胃炎、感染症
・小水泡の有無
→HSV-1
●口唇の色素沈着
Addison病、ポイツイェガース症候群、McCune-Albright症候群、Laugier-Hunziker-Baran症候群、薬剤性
●口唇のcherry-red様の斑状紫斑(動静脈奇形)
Rendu-Osler-Weber症候群
・チアノーゼの有無
歯の観察 欠損、齲歯、歯垢・歯石、歯列異常の有無
歯肉の観察 暗発色の腫脹、易出血性、色素沈着、歯肉増殖の有無
頬粘膜の観察 ●紅斑を背景とした白い砂状の斑状構造(Koplik斑)
麻疹(感染10〜14日後、皮疹出現の約2日前に出現)
舌の視診 ●白苔
口腔カンジダ
●黒毛舌
Aspergillus nigerによる局所感染(抗菌薬中止で改善)
口腔底の視診 腫瘤、舌小帯短縮、顎下腺管開口部の閉塞の有無
口蓋垂の視診 ●口蓋垂の偏位
扁桃周囲膿瘍
咽頭後壁・軟口蓋の視診 発赤、腫瘤、出血、後鼻漏の有無
口蓋扁桃の視診 ●口蓋扁桃の腫大(腫大の程度:Mckenzie分類)
急性扁桃炎

唾液腺

耳下腺の触診 ・圧痛の有無
→流行性耳下腺炎
・腫瘤の有無
境界明瞭:多形腺腫
硬、境界不明瞭:悪性腫瘍
顎下腺の触診 ・圧痛の有無
硬、境界明瞭:唾石症、腫瘍

頭頸部リンパ節

頭部のリンパ節 顎下部のリンパ節 頸部のリンパ節
頭皮・顔面上部からのリンパが流入する 顔面下部・扁桃からのリンパが流入する 頭頸部全体と、全身からのリンパが流入する
頭部のリンパ節 後頭部 風疹、頭皮・後頸部の炎症
耳介後部 風疹、頭皮の炎症、外耳炎
耳介前部 風疹、頭皮の炎症、外耳炎、流行性角結膜炎
顎下部のリンパ節 顎下部 口腔内・歯肉の炎症、舌癌
※顎下腺と間違わないように注意する
オトガイ下部 口腔内・歯肉の炎症、舌癌
下顎角直下
(扁桃リンパ節)
口腔内・歯肉の炎症、舌癌、
溶連菌性咽頭炎、扁桃炎
頸部のリンパ節 胸鎖乳突筋の表面 悪性リンパ腫、頭皮・側頸部の炎症・悪性腫瘍
胸鎖乳突筋の裏 悪性リンパ腫、頭頸部・甲状腺の悪性腫瘍、溶連菌性咽頭炎、う歯
後頸三角 頭頸部・甲状腺の悪性腫瘍、悪性リンパ腫、菊池病、結核性リンパ節炎、ウイルス感染症(EBV、CMV、HIV、風疹など)
鎖骨上窩(右) 右胸部の悪性腫瘍
鎖骨上窩(左) 左胸部・腹部・骨盤部の悪性腫瘍、Virchow転移

【カルテ記載方法】

部位 大きさ 硬さ 形状 表面性状 圧痛 可動性
右後頸部に 1.5cm 大のリンパ節を 1個触知する 弾性軟 楕円形 表面平滑で 圧痛あり 可動性あり

【全身性リンパ節腫脹の鑑別(CHICAGO)】

Cancer
(悪性腫瘍)
白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、転移
Hypersensitivity syndrome
(過敏性症候群)
血清病、薬剤、シリコンへの反応、ワクチン
Infection
(感染症)
ウイルス(EBV、CMV、HSV、VZV、HIV、HTLV)、細菌(結核、リケッチア)、真菌、寄生虫
Connective tissue disorders
(膠原病)
全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群
Atypical lymphoproliferative disorders
(非定型リンパ増殖性疾患)
Castleman病、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
Granulomatous
(肉芽腫症)
ヒストプラズマ、抗酸菌、クリプトコッカス、ベリリウム肺、珪肺、猫ひっかき病
Others
(その他)
炎症性偽腫瘍、菊池病、Rosai-Dorfman病

甲状腺

甲状腺の位置 甲状軟骨(喉仏)の下にある輪状軟骨の直下に位置し、後屈させて観察する
甲状腺の触診 ●甲状腺の腫大
甲状腺機能亢進症

頸動脈

頸動脈の位置 甲状腺の外側には内側からそれぞれ総頸動脈、内頸静脈が位置しており、甲状軟骨(喉仏)の上縁の高さの位置に総頸動脈分岐部が位置している。
頸動脈の視診 ●頸動脈拍動
AR(脈圧開大により観察できる:Dennison徴候)
頸動脈の聴診 ●総頸動脈分岐部の収縮期Bruit(ブイ:血流雑音)←片方づつ聴診
頸動脈狭窄、心雑音の放散、高心拍出状態(甲状腺機能亢進症、貧血など)
頸動脈の触診 ●頸動脈の圧痛(示指の指腹を用いて片方づつ触診)
高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、頸動脈解離、TIPIC症候群など

頸静脈

右内頸静脈 胸鎖乳突筋の下を平行して走行
観察体位 仰臥位→顎を少し上げる→首を軽度左に向ける→胸鎖乳突筋の鎖骨付着部が1心拍に2回拍動(ペンライトをあて、真横から見ると見えやすい)
評価 静脈圧が正常(4〜8mmHg)の場合、仰臥位で頸部下半分に拍動を認める程度で、半座位や座位では拍動を視認できなくなる。しかし、半座位や座位で拍動を視認できる場合は静脈圧上昇が推測される。
原因 静脈圧上昇の原因は右心不全体液量過剰、閉塞性や心原性ショックなど
その他① ●Kussmaul徴候:吸気時に頸静脈の拍動の高さが上昇する所見
原因:右心不全、右心梗塞、肺塞栓症、収縮性心内膜炎などで右心室への流入障害があると右房圧が上昇するため生じる
その他② ●腹部頸静脈逆流試験:息を止めない状態で腹部を10秒圧迫して他動的に右房への静脈環流を増加させる診察方法(結果はKussmaul徴候と同じ)
右外頸静脈 胸鎖乳突筋の外側を×を描くように横切るように走行
評価 軽微な静脈圧上昇は使用できないが、中等度以上の静脈圧上昇の推定には有用で、半座位や座位で怒張が見られる場合は静脈圧上昇が推測できる

胸部の診察

胸部の視診(呼吸のリズム異常)

Kussmaul呼吸 ゆっくりとした深く規則的な呼吸
代謝性アシドーシスの呼吸性代償として起こる。
糖尿病ケトアシドーシス
Kussmaul:トアシ)
尿毒症
Cheyne-Stokes呼吸
(交代性無呼吸)
無呼吸→過呼吸→減呼吸の繰り返し。
延髄の化学受容器がPaCO2変動に対して過度に敏感なることが原因。
重症心不全高齢者脳出血・脳腫瘍による呼吸中枢の圧迫や血行障害
Biot呼吸 不規則に早く深い呼吸→突然無呼吸。の繰り返し。呼吸リズムは不規則。 脳出血、脳腫瘍による呼吸中枢の圧迫や血行障害(予後不良サイン)
口すぼめ呼吸 呼気時に口を窄める努力所見を見たらCOPDを疑い胸鎖乳突筋の肥大やビア樽状胸郭なども確認 COPD

胸部の聴診

【正常呼吸音】

意義 聴診部位
気管呼吸音
(高音が多い)
吸気:呼気=1:1で聴取
特に呼気でより強く聴取される
胸:頸部
背:なし
気管支呼吸音
(中音)
吸気:呼気=1:1〜2で聴取
気管支分岐部周囲で聴取される
胸:胸骨角の両サイド
背:肩甲骨の間
肺胞呼吸音
(低音)
肺胞の音ではなく、機動由来の音
通常吸気時のみ聴取
胸:胸骨角以下
背:肩甲骨の間以下

【副雑音(正常呼吸音以外の音)】

病態 疾患
連続性ラ音
(呼+吸)
rhonchi
(低音)
比較的中枢の気道の炎症によって生じた水分ため狭窄し、呼吸時にいびき様のグーグー低い音が聞こえる 肺癌、気管支炎、気道異物、気管支喘息、慢性気管支炎
wheezes
(高音の笛音)
比較的末梢の気道閉塞によって呼気時にヒューヒュー高い音が聞こえる(重症は吸気時にも聴取) 気管支喘息、COPD+喘息、心不全
stridor
(比較的高音)
上気道閉塞によって主に吸気時に喘鳴が頸部で最も強く聴取される→気管挿管! アナフィラキシーや抜管後の上気道浮腫など上気道の病変
断続性ラ音
(吸のみ)
coarse crackles
(水泡音)
主に吸気時に分泌物の液体膜が破裂するブツブツ低い音として聴取 肺炎、肺水腫、肺胞出血、慢性気管支炎
fine crackles
(捻髪音)
主に吸気時に間質の病変によりパリパリ高い音が聞こえる 間質性肺炎、非定型肺炎
その他
(呼+吸)
friction rub
(胸膜摩擦音)
断続的なズズズという握雪音を聴取し、深呼吸すると痛みが増強 胸膜炎、膿胸、胸膜悪性腫瘍

※cracklesは健常人でも聴取することがあるが、深呼吸を数回した後でも聴取する場合は病的

心臓の診察

聴診しやすい5領域
①第2肋間胸骨縁(2RSB) 大動脈弁領域:A弁の閉鎖音がよく聞こえる(前傾座位で↑)
②第2肋間胸骨縁(2LSB) 肺動脈弁領域:P弁の閉鎖音がよく聞こえる
③第3肋間胸骨左縁(3LSB) エルブ領域:ARの拡張期の灌水様雑音がよく聞こえる
④第4肋間胸骨左縁(4LSB) 三尖弁領域:T弁の閉鎖音がよく聞こえる
⑤心尖部領域(5LMCL) 僧帽弁領域:M弁の閉鎖音がよく聞こえる(左側臥位で↑)

心尖部領域=鎖骨中線と第5肋間の交点

心臓の聴診(心音・心雑音)

【正常心音・異常心音】

Ⅰ音 房室弁が閉じる音で、収縮期の始めに聴こえる(Ⅰ音〜Ⅱ音=収縮期)
Ⅰ音
亢進
2RSBでⅡ音よりI音の方が大きく聴こえる場合(Ⅱ音減弱の可能性もあり)
①MS:房室弁の石灰化による狭窄で亢進
②心拍出力増加:運動時・発熱時・甲状腺機能亢進症・貧血など
Ⅰ音
減弱
5LMCLでI音よりⅡ音の方が大きく聴こえる場合(Ⅱ音亢進の可能性もあり)
①MR:房室弁の閉鎖不全で減弱
②心拍出力低下:心筋症・心筋炎・心筋梗塞・心膜液貯留・甲状腺機能低下症など
③第1度房室ブロック:PQ延長のため
Ⅱ音 半月弁が閉じる音で、Ⅱ音は高音。(Ⅱ音〜次のⅠ音=拡張期
Ⅱ音
分裂
【生理的分裂】仰臥位の深呼吸時に聴取しやすい
2LSB〜3LSBで、吸気時に胸腔が拡大して静脈還流量が増加するため右室の駆出量も増加し、Ⅱa音よりⅡp音が遅れるため(a→pの順に閉鎖)聴取される。
【病的分裂】
2LSB〜3LSBで、座位の呼気時でも聴取され、特に吸気時で分裂が著名。
右脚ブロック:右室の収縮が遅れてP弁閉鎖が遅延するためⅡpが遅れる
②PS:P弁閉鎖に時間がかかることでⅡpが遅れる
VSD:左室の血液が減少して左室収縮時間が早くなりⅡaが早まる
MR:左房に血液が逃げてⅡaが早まる
⑤WPW症候群:左室の収縮が右室の収縮より早くなりⅡaが早まる
【固定性分裂
2LSB〜3LSBで、座位の呼気時でも聴取され、呼吸に関係なく一定間隔で分裂
ASD:卵円孔からの血液が増加し、右室の仕事量が増加し、呼気時のⅡpも遅れる
【奇異性分裂】
2LSB〜3LSBで、呼気時に却って広く分裂。
左脚ブロック、AS:左室の収縮が遅れるためⅡaが遅れる
Ⅱ音
亢進
5LMCLでI音よりⅡ音の方が大きく聴こえる場合(I音減弱の可能性もあり)
肺高血圧:肺動脈側の力が増加し、弁が閉じにくく逆流が増加した時
Ⅱ音
減弱
2RSBでⅡ音よりI音の方が大きく聴こえる場合(I音亢進の可能性もあり)
①AS、低血圧:Ⅱa減弱
②PS:Ⅱp減弱
Ⅲ音 心尖拍動の直上に、チューブ部分を持ってベル型聴診器をそっと乗せて聴診する。
①うっ血性心不全
②MR、左右シャントを伴う先天性心疾患、高心拍出性状態など
あら(AR)、まあ(MR)、ブスだわ(VSD)、あそんでる(ASD)パンダ(PDA)さん(Ⅲ音)。
【原理】
流入期(拡張早期)に心室へ急速流入する血液が心室壁にぶつかる低調な衝撃音(左側臥位にして胸壁に近い心尖部で聴取しやすい)。ただし、30歳以下では過半数で認め、必ずしも病的とは限らない。40歳以上の場合は病的なことが多い。
Ⅳ音 Ⅲ音と聴診方法は同じ。Ⅳ音はAFがある場合は聴取されない。Ⅰ・Ⅱ音+Ⅲ音 and/or Ⅳ音による3部調律=馬が駆けているような奔馬調律(gallop rhythm)を聴取することがある。
①肥大型心筋症、高血圧、AS:左室が肥大して拡張不全→圧負荷増加
②陳旧性心筋梗塞、拡張型心筋症:左室の線維化により拡張不全→圧負荷増加
【原理】
左室壁が線維化・肥大化して拡張能が低下した状態となり、心房収縮期(拡張末期)に心室へ急速流入で左室心筋が伸展・振動する低調な音。全て病的。流入期に心室に十分な血液が充満されないことが原因で、心筋拡張不全を意味する。
その他 ①僧帽弁開放音(Mitral Opening Snap):MSの際に、Ⅱ音の直後に石灰化した僧帽弁が開く高調音。
②心膜ノック音:収縮性心膜炎の際に、Ⅱ音の直後に肥厚した心膜が拡張し始めた心筋をブロックする高調音。
③収縮中期(後期)クリック:僧帽弁逸脱症の際に、僧帽弁が左室から左房にはみ出した時に生じる音。

【心雑音:Cardiac murmur】

心周期のどこかで生じる比較的長い音のこと(心音は弁の開放・閉鎖に伴って生じる短い音)。血管という管を層流が通過しているが、血流が速くなったり、粘性が低下したりすると層流が崩れて乱流になると心雑音が生じる。

特徴 鑑別
収縮期雑音 Ⅰ音の直後に聴取
収縮早期雑音 漸減型雑音▶︎、Ⅰ音は不明瞭、Ⅱ音は明瞭 急性MR、VSD
収縮中期雑音 漸増漸減型雑音◆、Ⅰ音・Ⅱ音ともに明瞭、右頸部放散 AS
収縮後期雑音 収縮後期クリックに続き聴取する漸増型雑音◀︎ 僧帽弁逸脱
全収縮期雑音 平坦型雑音■、Ⅰ音・Ⅱ音ともに不明瞭 MR、TR、VSD
拡張期雑音 Ⅱ音〜Ⅰ音の間
拡張早期雑音 漸減型雑音▶︎、高調音 AR、PR
拡張中期雑音 Ⅱ音の後ワンテンポ空いてランブルという低調音 MS、TS
前収縮期雑音 拡張後期の心房収縮により生じる漸増型雑音◀︎ MS、TS

腹部診察

視診→聴診→打診→触診の順(両膝を立てて腹筋群の緊張がとれた状態で診察する、ただし、腹筋が弛緩している多くの高齢者ではこの操作は不要という人もいる)

※COPD、心不全、多量の腹水が貯留している患者は仰臥位で呼吸困難を生じる可能性あり

【腹部9区分】縦は鎖骨中線(乳首)、横は肋骨弓下縁上前腸骨棘で区分する!

右季肋部 心窩部 左季肋部
右側腹部 臍部 左側腹部
右腸骨部 下腹部 左腸骨部

腹部の視診

腹部の視診 創傷瘢痕の有無:何による創傷なのか確認
ヘルニアの有無:鼠径・大腿ヘルニア(立位で鼠径靭帯付近の膨隆)
③メデューサの頭:あれば門脈圧亢進症の可能性
④臍突症:あれば大量の腹水貯留の可能性
red flag sing:急性膵炎の1%で見られ、陽性の場合は死亡率約40%
●Cullen徴候:臍周囲の出血斑
●Grey-Turner徴候:側腹部周囲の出血斑
腹痛患者の視診 痛みでうずくまっている:腹膜炎まで至っていない、内臓由来の痛み
微動だにしない:腹膜炎を発症している可能性
腹部膨隆の視診 ①腹水:打診で仰臥位で鼓音から濁音になる境界がある
②鼓腸:打診で鼓音
③便:便秘の有無を確認
④脂肪:皮下脂肪型と内臓脂肪型の膨隆がある
⑤胎児:若年女性の場合

腹部の聴診

腸蠕動音の聴診 ①蠕動音を常に聴取(亢進):IBS、腸炎、単純性腸閉塞(金属音)など
②30秒以内に蠕動音を数回聴取(正常)
③蠕動音が減弱・消失:汎発性腹膜炎、麻痺性イレウス、複雑性腸閉塞
腹部血管音の聴診 ●腹部大動脈の血管雑音(剣状突起と臍の間):大動脈炎症候群
●両側腎動脈の血管雑音(剣状突起と臍の中点で分岐):腎血管性高血圧症

腹部の打診

診察によって痛みが出たら検者に伝えるよう事前に伝えておく

腹部全体の打診 9領域を患者の表情を見ながら打診しtapping painを確認
肝臓の叩打診 ●肝叩打痛
①肝腫大による肝被膜の伸展:腫瘍、感染症、肝炎など
②肝周囲炎:フィッツヒューカーティス症候群など
脾臓の叩打診 ●Traube三角の濁音:左第6肋骨を上縁、左前腋窩線を側縁、肋骨下縁を下縁とするTraube三角を打診し、濁音があれば脾腫を疑う
CVAの叩打診 ●CVA叩打痛(腎叩打痛)
腎盂腎炎、腎周囲膿瘍、尿路結石に伴う水腎症など

腹部の触診

腹部の浅い触診 浅い触診では、圧痛・筋性防御・筋強直の有無を確認
筋性防御:患者が圧痛部位の腹筋を随意的に収縮させること
●筋強直:腹膜炎による腹筋の不随意な収縮で、減弱・消失しない
腹部の深い触診
深い触診では、深い部分の圧痛や腫瘤の有無を確認
①圧迫した状態を維持すると軽減→胃腸管の緊満
②圧迫時よりも手前に引いた時に強い痛み→胃腸管の炎症
③常に強い痛み→腹膜炎
腹膜刺激症状 ①咳嗽試験
②筋性防御:腹壁を押し下げ痛みが出現すると腹筋が緊張する
③反跳痛(Blumberg徴候):圧迫した後、手を離す瞬間に鋭い痛み→内臓の炎症が腹壁に波及している
④踵落とし衝撃試験
肝臓の触診 ●深吸気時に肝臓を触知:肝腫大
脾臓の触診 ●深吸気時に脾臓を触知:高度の脾腫
臍の触診 ●臍にある硬い皮下結節を触知(SMJ結節):悪性腫瘍の臍転移の可能性
陰嚢の触診 ●陰嚢全体の痛み
精巣捻転(陰嚢挙上により疼痛が緩和するPrehn徴候、挙睾筋反射の消失)
●陰嚢上部の痛み
精巣付属器捻転、精巣上体炎
●陰嚢の皮下捻発音
Fournier壊疽(会陰部の壊死性筋膜炎)
恥骨上部の触診 ●恥骨上部の圧痛:膀胱炎、尿閉、膀胱内出血・タンポナーデ
●恥骨上部の膨隆:下腹部痛と不快感を伴う尿閉
鼠径リンパ節 ●鼠径リンパ節の腫大
性感染症、直腸癌、婦人科系骨盤内腫瘍、陰茎癌、外陰癌、下肢の皮膚感染症

直腸の診察

直腸診の前には必ず口頭同意を取り左側臥位+下肢屈曲にして行う

①肛門の視診 裂肛、外痔核、肛門周囲膿瘍、痔瘻の有無を確認
②直腸の触診 指を回しながら肛門の全周に狭窄、弛緩、硬結、圧痛を確認
●肛門括約筋の緊張なし:神経障害の可能性
●6時方向に裂傷+イボ、肛門括約筋の緊張亢進:裂肛
●3、7、11時方向に疼痛の少ない軟腫瘤:内痔核
●腫瘤がある場合
①可動性あり・軟らかく肉感あり:ポリープ
②可動性なし・硬く表面不整、潰瘍化で中央に窪み:悪性腫瘍
③前立腺の触診 正常な前立腺は12時方向に平滑で圧痛はなく中央に溝がある
①弾性硬・表面平滑:前立腺肥大
②石様硬・表面不整:前立腺癌
③前立腺圧痛:前立腺炎
④便の確認 ①鮮血便:左側結腸〜肛門の出血
②赤色〜暗赤色便:上部消化管〜全結腸の出血
③タール便:上部消化管の出血

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