抗菌薬・抗生剤・抗生物質(細胞壁合成阻害)

薬理学

βラクタム系薬

構造 ●ペニシリン系=βラクタム環+5員環
●セフェム系=βラクタム環+6員環
●カルバペネム系=βラクタム環+5員環(二重結合含む)
●モノバクタム系=βラクタム環+スルホ基
βラクタマーゼ:βラクタム環の環状アミド結合を加水分解して抗菌作用を失わせる細菌産生の酵素である。ペニシリナーゼやセファロスポリナーゼなど様々なβラクタマーゼを産生する菌をESBL産生菌という。
作用機序 ペニシリン結合タンパク質(PBP)という酵素によってペプチドグリカン前駆体であるムレインモノマーが重合・架橋してペプチドグチカンが形成される。 βラクタム系はPBPに結合して酵素活性を阻害し、ペプチドグリカンの合成を阻害する。その結果、細胞壁を合成できなくなった細菌は溶菌する(細菌が活発に分裂・増殖していない場合は効きにくい)。
ADME 主に腎排泄型
副作用 アレルギー症状(特にペニシリン系):βラクタム系はタンパク質と結合してハプテンとなりアレルギー症状を起こすため、使用後に発熱、発疹、蕁麻疹、唇の腫れ、呼吸困難、アナフィラキシー(意識消失)を生じたことがあるか確認すること。ペニシリン系でアレルギーがある場合、セフェム系やカルバペネム系でも交差アレルギーがあると言われている。
急性間質性腎炎:アレルギー性に生じる。 尿中好酸球の早期検出が重要。
ペニシリン系 古典的ペニシリン:グラム陽性球菌
アミノペニシリン:グラム陽性球菌+腸内細菌
・ペニシリン系は一番耐性化しにくいため第一選択!
・多くは半減期が1時間(4〜6時間ごとに投与が必要)
【副作用】
薬疹:伝染性単核症患者に投与するとEBウイルスによって活性化されたリンパ球より抗体産生が亢進し、アレルギーによる薬疹が高率に現れるため禁忌となる。

セフェム系 セフェム系 1st:グラム陽性球菌
セフェム系 2nd:グラム陽性球菌+腸内細菌
セフェム系 3rd:グラム陰性桿菌(緑膿菌カバー)※BA低い
セフェム系 4th:グラム陽性菌+陰性菌(セフタジジムのみ緑膿菌カバー)
・多くは半減期が1時間、セフトリアキソンは6時間
・セフェム系は腸球菌をカバーできない
・髄液移行性があるのは3rd&4thのみ
カルバペネム系 グラム陽性菌+陰性菌+嫌気性菌
・多くは半減期が1時間
・カルバペネム系も基本的に腸球菌をカバーできない
モノバクタム系 グラム陰性桿菌

天然ペニシリン系

ペニシリンはアオカビから産生される物質として発見された(イギリスのAlexander Fleming)。

特徴 ・ベンジルペニシリンは最も狭域スペクトル
範囲 ①グラム陽性球菌に有効:肺炎球菌、ペプトレスコッカス
※ただし、MSSAには無効(βラクタマーゼに不安定のため)
②グラム陽性桿菌に有効:ウェルシュ菌、破傷風菌
③その他の有効:梅毒、レプトスピラにも有効
一般名 先発名 特徴
ベンジルペニシリンK (PCG) 注射用ペニシリンG注 髄液移行性が良い。正常細菌叢に影響を与えにくい。 
ベンジルペニシリンKベンザチン(DBECPCG) バイシリンG顆粒
ステイルズ水性懸濁筋注
梅毒の第一選択薬

広範囲ペニシリン系

特徴 ・グラム陽性菌+グラム陰性腸内細菌に有効
・βラクタマーゼに不安定(スルタミシリンを除く)
・緑膿菌活性なし(ピペラシリンを除く)
一般名 先発名 特徴
アンピシリン(ABPC) ビクシリンCP/DS/注 腸球菌、B群溶連菌、リステリアの第一選択薬。
ブドウ球菌・緑膿菌に無効。
バカンピシリン
(BAPC)
ペングッド錠 ABPCのプロドラッグで経口吸収性を改善。
アモキシシリン
(AMPC)
サワシリン細粒/錠/CP
パセトシン錠/CP
【後】ワイドシリン
歯科治療時のαレンサ球菌による心内膜炎予防に使用。H・ピロリ菌の除菌にも用いる。
スルタミシリン
(SBTPC)
ユナシン細粒/錠 ABPCとスルバクタムをエステル結合させたプロドラッグ
【利点】βラクタマーゼ産生菌にも有効
ピペラシリン (PIPC) ペントシリン注 ペニシリン系で唯一緑膿菌に効くが、単剤では使用用途が少ない。
アンピシリン+ クロキサシリン1:1配合 ビクシリンS配合錠/注 クロキサシリンはペニシリナーゼ抵抗性。適応が少なくあまり使われない。

βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系

βラクタマーゼを産生するMSSA、グラム陰性菌、嫌気性菌をカバー!

  一般名 先発名 特徴
注射 アンピシリン+
スルバクタム2:1配合
ユナシンS静注
【後】スルバリシン
緑膿菌に無効。
  タゾバクタム+
ピペラシリン1:8配合
ゾシン静注
【後】タゾピペ
緑膿菌、嫌気性菌もカバー!ABPC誘導体で胆汁への移行性高い。 
【欠点】下痢の副作用、MRSA・腸球菌に無効。
  タゾバクタム+
セフトロザン1:2配合
ザバクサ配合点滴静注  
  セフォペラゾン+
スルバクタム1:1配合
スルペラゾン静注  
経口 アモキシシリン+
クラブラン酸2:1配合
オーグメンチン配合錠 アモキシシリン配合量が少ないため、アモキシシリンを追加することがある。
  アモキシシリン+
クラブラン酸14:1配合
クラバモックスDS 小児科で使用

第一世代セフェム系

特徴  
範囲 ①グラム陽性球菌に有効:MSSA、溶連菌
②その他の有効:腸内細菌にも有効
クレブシエラ、セラチア、バクテロイデス、緑膿菌などには無効。
  一般名 先発名 特徴
注射 セファロチン 【後】コアキシン  
  セファゾリン
(CEZ)
セファメジンα注 MSSAの第一選択
【欠点】髄液移行性ない(髄膜炎×)
経口 セファレキシン
(CEX)
ケフレックスCP/DS
L-ケフレックス顆粒
ラリキシン錠/DS
 
  セフロキサジン
(CXD)
オラスポアDS  
  セファクロル
(CCL)
ケフラールCP/細粒
L-ケフラール顆粒
 

第二世代セフェム系

緑膿菌には無効。

  一般名 先発名 特徴
注射 セフォチアム
(CTM)
パンスポリン注 ハロスポア注  
  セフメタゾール
(CMZ)
セフメタゾン注 嫌気性菌とESBL産生菌もカバーする
【副作用】
①ジスルフィラム様作用:投与時〜投与1週間前後は飲酒により頭痛、動悸、悪心嘔吐、低血圧
②出血時間延長:VK代謝を阻害してPT合成を低下させるため
  セフミノクス メイセリン静注 【副作用】
①ジスルフィラム様作用:投与時〜投与1週間前後は飲酒により頭痛、動悸、悪心嘔吐、低血圧
②出血時間延長:VK代謝を阻害してPT合成を低下させるため
  フロモキセフ フルマリン静注 バクテロイデスもカバー
経口 セフロキシム
(CXM-AX)
オラセフ錠  

第三世代セフェム系

黄色ブドウ球菌に対する抗菌力が弱い。バイオアベイラビリティが低い

副作用 ピボシキルキ基を有するセフェム系はカルニチンの排泄を促進し、低カルニチン血症となる。カルニチンが不足すると空腹時にβ酸化による糖新生ができず低血糖を起こす可能性がある(特に小児や長期投与患者)。
  一般名 先発名 特徴
注射 セフォタキシム
(CTX)
クラフォラン注
セフォタックス注
 
  セフメノキシム
(CMX)
ベストコール注 【副作用】
①ジスルフィラム様作用:投与時〜投与1週間前後は飲酒により頭痛、動悸、悪心嘔吐、低血圧
②出血時間延長:VK代謝を阻害してPT合成を低下させるため
  セフトリアキソン
(CTRX)
ロセフィン注 市中肺炎の第一選択薬。緑膿菌のカバーなし
【副作用】
胆泥を生じやすいためALP↑γGTP↑の患者には注意
【ADME】
肝代謝型(腎機能による用量調節不要)、半減期が6時間1日1〜2回投与でOK
  セフタジジム
(CAZ)
モダシン静注 緑膿菌やSPACEをカバー!
  ラタモキセフ
(LMOX)
シオマリン静注 【副作用】
①ジスルフィラム様作用:投与時〜投与1週間前後は飲酒により頭痛、動悸、悪心嘔吐、低血圧
②出血時間延長:VK代謝を阻害してPT合成を低下させるため
経口 セフジニル
(CFDN)
セフゾン細粒/CP/錠  
  セフジトレン
(CDTR-PI)
メイアクトMS細粒/錠 【副】低カルニチン血症
  セフィキシム
(CFIX)
セフスパン細粒/CP 緑膿菌のカバーなし
  セフテラム
(CFTM-PI)
トロミン細粒/錠 【副】低カルニチン血症
  セフポドキシム
(CPDX-PR)
バナンDS/錠  
  セフカペン
(CFPN-PI)
フロモックス細粒/錠 【副】低カルニチン血症
外用 セフチゾキシム
(CZX)
エポセリン坐剤  

第四世代セフェム系

  一般名 先発名 特徴
注射 セフピロム  
  セフォゾプラン
(CZOP)
ファーストシン静注  
  セフェピム
(CFPM)
マキシピーム静注 緑膿菌・SPACEもカバー

カルバペネム系・ペネム系

範囲 非常に広い抗菌スペクトルを持ち、抗菌力も強力。
MRSA、腸球菌、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラには無効。
副作用 バルプロ酸の代謝を亢進させて血中濃度を低下させる。その結果、痙攣を誘発する可能性があるため併用禁忌。
  一般名 先発名 特徴
注射 イミペネム+
シラスタチン1:1配合
チエナム注 ESBL産生グラム陰性菌の第一選択薬。
※シラスタチンは腎臓でイミペネムが不活性化されるのを防ぐ薬で配合必須。
  レレバクタム+
イミペネム+
シラスタチン
1:2:2配合
レカルブリオ配合点滴  
  メロペネム
(MEPM)
メロペン点滴 ESBL産生グラム陰性菌の第一選択薬。
痙攣の副作用リスクが少ない
  ドリペネム
(DRPM)
フィニバックス点滴   
  ビアペメム
(BIPM)
オメガシン点滴 エビデンスが少なく使用機会が乏しい
  パニペネム+
ベタミプロン1:1配合
カルベニン点滴 エビデンスが少なく使用機会が乏しい
※ベタミプロンは腎毒性軽減作用薬
経口 テビペネム
(TBPM-PI)
オラペネム細粒 【副】低カルニチン血症
  ファロペネム
(FRPM)
ファロム錠/DS 痤瘡の悪化・再発時に使用されることがある。

モノバクタム系薬

一般名 先発名 特徴
アズトレオナム
(AZT)
アザクタム注 グラム陰性桿菌の特効薬、緑膿菌もカバー
グラム陽性菌、嫌気性菌のカバーなし

グリコペプチド系薬

作用機序 ペプチドグリカン前駆体(D-Ala-D-Ala)に結合し、ペプチドグリカンの合成を阻害する。
適応 MRSA、②偽膜性腸炎、③骨髄移植時の消化管内殺菌 これら3つのみ!
グラム陰性菌の外膜は通過できないため、グラム陽性菌のみ有効
副作用 急性腎不全:腎排泄型のため用量依存性に尿細管障害が生じる。
第8脳神経障害:不可逆的な感音難聴となるため定期的な聴力検査を実施!
レッドネック症候群:急速な点滴により血中濃度が上昇しヒスタミンが遊離されて紅斑性充血、そう羊羹、血圧低下などが起こるため、ワンショット静注・短時間の点滴静注の禁止
ADME 血中濃度測定が必要
一般名 先発名 特徴
バンコマイシン
(VCM)
消化管から吸収されないためMRSAなどには注射で、偽膜性腸炎には経口投与する。
【ADME】腎排泄型
テイコプラニン
(TEIC)
タゴシッド注 初回大量投与(loadingが必要)

リポペプチド系薬

一般名 先発名 特徴
ダプトマイシン (DAP) キュビシン静注 肺サーファクタントと結合する性質があるため、肺炎に対して有効性を期待できない 【副】横紋筋融解症

ホスホマイシン系薬

作用機序 N-アセチルムラミン酸合成阻害によりペプチドグリカンの合成を阻害する。
副作用 高Na血症(ホスホマイシンがNaを多く含むため):心不全や腎障害患者には投与注意
一般名 先発名 特徴
ホスホマイシン (FOM) ホスミシン錠/DS
ホスミシンS静注
【利点】抗菌スペクトルが広い。副作用が少ない。
【欠点】抗菌力が弱い(静菌的)。耐性菌が生じやすい。

細胞膜障害を起こす薬(ポリペプチド系薬)

作用機序 細胞膜のリン脂質と結合し、膜透過性を亢進させ、細胞を破壊する。
注意 腎障害

一般名 先発名 特徴
コリスチン:CL オルドレブ コリマイシン メタコリマイシン  
ポリミキシンB:PL-B   グラム陰性菌の外膜を破壊する
バシトラシン・フラジオマイシン配合 バラマイシン  

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